説明

超音波診断装置及びその制御方法

【課題】 超音波走査面からの穿刺針のズレが生じた場合に報知を行う。
【解決手段】 超音波走査面内における穿刺針の先端部を認識する認識手段と、所定フレーム間における前記認識手段により認識された穿刺針の先端部の移動量を算出する算出手段と、前記所定フレーム間における前記穿刺針の移動量を検出する検出手段と、前記算出手段及び前記検出手段による移動量の差が所定値を超える場合に報知を行う報知手段とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穿刺針を用いた穿刺術において使用される超音波診断装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者等の検査対象となる被検体の体内における組織や血流を観察する医用画像装置の一つとして超音波診断装置が知られている。近年はこの超音波診断装置に穿刺針を組み合わせ、超音波診断装置を例えばラジオ波焼灼療法や生検のための穿刺術にも利用するようになってきている。穿刺術においては、その対象となる被検体内の目標物(がん組織その他腫瘍等の患部)に向けて穿刺針を挿入・進行(以下、単に、挿入と称する)して施術する様子が超音波診断装置により得られた画像で観察されることになる。
【0003】
穿刺針の挿入にあたっては例えば穿刺ガイドを超音波画像上に表示し、この穿刺ガイドが示す方向に沿って穿刺針を挿入することで目標物に到達させる方法が考えられている。しかしながら、被検体内の生体の複雑な構造等により常に目標物に対して穿刺針を到達させることができるとは限らない。挿入を進めるに従い穿刺針が穿刺ガイドが示す方向から反れてしまうことがある。このように反れてしまう場合でも超音波断層面内であれば目標物との関係で一定の範囲内で許容し、この許容範囲において穿刺をガイドする例も考えられている(例えば、特許文献1参照)。また、穿刺針が上記許容範囲を超えるような場合であっても超音波断層面内の湾曲であれば表示画像から認識可能である。
【0004】
一方、この湾曲が超音波断層面から外れた方向に生じた場合はその状態が超音波画像上に現れない。従って、穿刺針の挿入は正しく行われているものと信じたまま挿入を続けてしまう恐れもあり、このことは他の臓器への影響等を考慮すると非常に危険な行為であり、術者にとって穿刺針の挿入が正しく行われているか否かを知ることは重要である。
【特許文献1】特開平5−176922号公報 (例えば、作用、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、超音波走査面からの穿刺針のズレが生じた場合に報知を行う超音波診断装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の本発明の超音波診断装置は、超音波走査面内における穿刺針の先端部を認識する認識手段と、所定フレーム間における前記認識手段により認識された穿刺針の先端部の移動量を算出する算出手段と、前記所定フレーム間における前記穿刺針の移動量を検出する検出手段と、前記算出手段及び前記検出手段による移動量の差が所定値を超える場合に報知を行う報知手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するために請求項12記載の本発明の超音波診断装置の制御方法は、超音波走査面内における穿刺針の先端部を認識し、所定フレーム間における前記認識された穿刺針の先端部の移動量を算出し、前記所定フレーム間における前記穿刺針の移動量を検出し、前記算出された移動量及び前記検出された移動量の差が所定値を超える場合に報知を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、穿刺術において穿刺針が超音波走査面からずれた場合にその旨を報知するため、目標物以外の体内組織への影響を従来に比べて減少させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施例について以下、図面を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明の実施例に係る超音波診断装置の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、超音波診断装置は超音波プローブ1と、送受信回路2と、Bモード処理回路3と、ドップラーモード処理回路4と、位置検出回路5と、先端部移動量検出回路6と、穿刺針移動量検出回路7と、ズレ検出回路8と、画像表示処理回路9と、表示モニタ10とを含む。また、超音波プローブ1には穿刺アダプタ11が着脱可能に又は一体的に設けられている。穿刺アダプタ11は穿刺針を可動的に保持する。なお、図示されていないが、超音波診断装置内の所定の回路について制御を行う制御回路が設けられている。
【0011】
超音波プローブ1は一般的に使用されているものであり、いずれのスキャン方式も適用可能である。この超音波プローブ1には例えば複数の超音波振動子が一次元配列されており、制御回路、送受信回路2、等の制御に基づき超音波パルスを送出する。この超音波パルスの送出により、例えば被検体内の所定断面について超音波スキャン(走査)が行われる。超音波スキャンは上記制御に基づく超音波パルスの送出に応じて所定のフレームレートFrで行われ、医師等の術者(以下、操作者と称す)には実質的にリアルタイムに感じられる態様で各フレームが表示モニタ10に表示される。
【0012】
上記のようにして超音波振動子から送出された超音波パルスは被検体内で反射してエコー信号として超音波振動子で収集される。被検体内に穿刺針が挿入されている状態では当該穿刺針からのエコー信号も収集されることになる。収集されたエコー信号は送受信回路にて受信される。
【0013】
送受信回路2は制御回路の制御に基づき、各超音波振動子に所定の遅延を与えたタイミングで送信パルスを供給する。これにより、超音波振動子は超音波を発生してその配列に応じた領域(所定断面)(以下、走査面と称す)を走査することになる。また、送受信回路2では受信されたエコー信号に所定の遅延等が与えられる。その後、例えばBモード処理回路3にてBモード画像処理が行われ、前記走査面についての超音波画像データが作成される。作成された超音波画像データについて画像表示処理回路9で画像表示フォーマットへの変換が行われると、このBモード画像処理による超音波画像が表示モニタ10で表示される。
【0014】
なお、画像表示においては超音波スキャンにより得られる1枚の画像を1フレームとして前述の所定フレームレートFrで得られた各フレームが操作者には実質的にリアルタイムで感じられる態様で表示される。特に後述する穿刺針の挿入との関係に鑑みると、操作上も実質的にリアルタイムで表示されることが好ましいが、本発明の実施例として必ずしもこのような表示態様に限定されるものではない。
【0015】
Bモード処理回路3はエコー信号の振幅に応じてグレースケールの輝度情報に変換する回路である。ドップラーモード処理回路4はエコー信号のドップラー遷移量から被検体内の超音波反射体(例えば、臓器、血流、穿刺針)の速度情報に変換する回路である。位置検出回路5はBモード処理回路3及びドップラーモード処理回路4の少なくとも一方の回路から出力される情報に基づいて画像データ上における穿刺針及びその先端部の位置を検出する。
【0016】
また、先端部移動量検出回路6は位置検出回路5により検出された画像データ上の穿刺針の先端部が所定のフレーム間でどれだけ移動したかの移動量を検出(算出)する。穿刺針移動量検出回路7は位置検出回路5で検出された穿刺針の位置情報とドップラーモード処理回路4で得られた速度情報に基づいて穿刺針の速度情報を特定・算出し、穿刺針の前記所定フレーム間での移動量を検出(算出)する。
【0017】
ズレ検出回路は、先端部移動量検出回路6及び穿刺針移動量検出回路7において前記所定フレーム間での各移動量が算出されると、これらの移動量を比較し、その差が予め設定された閾値より大きいか否かを検出する。閾値より大きい場合は画像表示処理回路9を介して表示モニタ10にて警告表示が行われる。
【0018】
次に、上記の穿刺針の先端部の位置検出、穿刺針先端部の移動量の検出、穿刺針の移動量の検出、これらに基づく穿刺針の走査面からのズレ検出、及びこのズレに係る警告について、以下により詳細に説明する。
【0019】
<穿刺針>
まず、穿刺針について説明する。穿刺針は一般的にステンレスなどの金属で作られており、被検体の生体内からのエコー信号よりも強いエコー信号を生じるようになっている。ただし、このエコー信号は反射を得るために照射される超音波と穿刺針との位置関係によりその強度は変化する。また、超音波画像データ上で被検体の生体組織と穿刺針をより区別し易くするため、例えば穿刺針について超音波の反射を向上(強調)するような加工処理が施されるようにしてもよい。具体例としては、穿刺針の表面に切り欠きを施したり、ざらざらな表面処理を加えるなどの特殊処理を施すことで、穿刺針の検出精度を向上させることが可能となる。
【0020】
<穿刺針の先端部の位置検出>
初めにBモード処理回路3の出力情報のみによって穿刺針及びその先端部の位置検出を行う場合について述べる。
【0021】
上記のように穿刺針は一般的に体内組織よりもエコー信号によるBモード画像データ上の輝度が高くなる傾向にあり、また、穿刺針に対して加工処理を行う等して相対的な輝度をより高くすることにより、このような高輝度(例えば所定輝度以上)で穿刺針の細く長い特徴的形状からBモード画像データ上であっても穿刺針の位置を推定することが可能である。特に、穿刺針の挿入を案内するガイド表示(ガイドライン)がなされ、穿刺針は原則的に当該ガイドライン上に現れることを前提とすれば、当該ガイドラインに沿う輝度情報に基づいて穿刺針を認識することが可能である。
【0022】
実際には画像データ上の情報を基にガイドラインが表示される位置情報との比較に基づいて穿刺針が認識され得る。穿刺針の先端部は認識された穿刺針部分の中で最も深い点、すなわち、穿刺針と認められる部分のうち被検体の体表から最も遠い位置にある点を先端部と特定することができる。この特定された位置の座標情報が検出位置情報として位置検出回路5内或いは他に設けられた記憶部等に記憶される。
【0023】
次にドップラーモード処理回路4の出力情報のみによって穿刺針及びその先端部の位置検出を行う場合について述べる。
【0024】
ドップラーモード画像データは前記したフレームレートFrよりも十分速いレートで複数回の超音波パルス送出を行うことにより1枚のフレームが作成される。このような画像データ作成の特徴から、1フレームの画像データには走査面内の対象物の速度情報、パワー情報、進行方向情報も含まれる。つまり、その速度等の大きさから、走査面内の対象物が動いているのか否かということが分かる。従って、穿刺針の細く長い特徴的形状を現し、かつ同一の速度で一定方向に移動している様子がドップラーモード画像データ上から認められれば、これを穿刺針と認識することが可能である。
【0025】
実際には画像データ上の情報を基に穿刺針が認識され得、その先端部は認識された穿刺針部分の中で最も深い点、すなわち、穿刺針と認められる部分のうち被検体の体表から最も遠い位置にある点を先端部と特定することができる。この特定された位置の座標情報が検出位置情報として位置検出回路5内或いは他に設けられた記憶部等に記憶される。
【0026】
上記したように、穿刺針の先端部の認識・特定はBモード処理回路3の出力情報及びドップラーモード処理回路4の出力情報のいずれか一方に基づいて可能であるが、より精度よく認識・特定するためにはこれら双方の情報に基づいて行うことが好ましい。
【0027】
なお、穿刺針の先端部の位置検出は上記方法に限られるものではなく、他の方法によるものであってもよい。
【0028】
<穿刺針先端部の移動量の検出>
先端部移動量検出回路6は位置検出回路5で得られた穿刺針の先端部の座標情報を基に先端部の移動量を検出する。具体的には、例えばn番目のフレームにおける座標情報を(x,y)としたとき、この1つ前のフレーム(n−1番目のフレーム)における座標情報は(xn−1,yn−1)と表されるから、これら隣り合うフレーム間における座標位置の違いから、得られる穿刺針先端部の移動量TnはTn=√((x−xn−1+(y−yn−1)として得られる。この場合、隣り合うフレーム間での移動量であるから、1フレーム間隔当たりの移動量に相当することになる。
【0029】
一方、後述する穿刺針の移動量の算出の関係等から、1フレーム間隔ではなく、複数フレーム間隔における穿刺針先端部の移動量を求めるようにしてもよい。例えば3フレーム間隔当たりの移動量であればTn=√((x−xn−3+(y−yn−3)として算出したり、1フレーム間隔毎の移動量の和をもって3フレーム間隔あたりの移動量としてもよい。
【0030】
<穿刺針の移動量の検出>
前述したように、穿刺針の移動量の検出は穿刺針移動量検出回路7で行われる。穿刺針は通常、伸縮したり形状変化したりするものではないため、穿刺針自体の移動量は穿刺針のどの部分をもって判断してもよい。すなわち、穿刺針の先端部に限られず、任意に特定した部分を穿刺針の移動の測定基準点として捉え、この部分がどれだけ移動するかに基づいて穿刺針の移動量は算出されることになる。
【0031】
もっとも、本発明は穿刺針の先端部が体内組織その他の理由から真っ直ぐ挿入されずに走査面から外れる方向に挿入されてしまった場合にこれを検出・警告することを目的とすることから、穿刺針の先端部を測定基準点とすることは体内挿入当初はともかく(この場合は途中で測定基準点を変更すればよい)として基本的には好ましくない。なお、測定基準点については穿刺針の所定部分の形状を特徴付けることや当該所定部分の輝度を他の部分と異ならせるようにする等、穿刺針自体に処理を施すようにしてもよいし、画像データ上で所定部分の追従が可能であれば画像データ上で対応するようにしてもよい。
【0032】
以上のようにして測定基準点としての所定部分が特定されると、この部分における速度情報をドップラーモード処理回路4で得られるドップラーモード画像情報に基づいて得る。
【0033】
前述したように、ドップラーモード画像データは複数回の超音波パルス送出を行うことにより1枚のフレームが作成される。つまり、各フレームにおいて、この超音波パルス送出間隔において各部がどれだけ変位したかということを検出することで当該各部分の速度情報が得られる。この速度情報のうち穿刺針の前記所定部分についての速度をVnとする。
【0034】
穿刺針が隣り合うフレーム間という微小時間においてはほぼ等速で挿入移動する(急激な速度変化はない)と仮定すると、1フレーム時間当たりの前記所定部分の移動量、すなわち穿刺針の移動量PnはPn=Vn×(1/Fr)=Vn/Frで表すことができる。従って、穿刺針の移動量Pnは上記式に基づいて算出(検出)することができるが、実際の算出においては当該フレームにおける速度情報とフレームレートから次フレームまでに移動する量を予測した値を穿刺針の移動量とすることになる。
【0035】
また、穿刺針の先端部の移動量と同様、複数フレーム間隔における穿刺針の移動量を求めるようにしてもよい。この場合、Vnは例えば連続する4フレームの各フレームにおいて得られる速度情報の平均値を用いて表すことができる。そして4フレーム間における時間、すなわち3フレーム間隔時間における移動量が算出されることになる。
【0036】
なお、速度情報Vnについては複数フレームの単純平均値でなくフレーム毎に所定の重み付けをして得られた平均値を用いるようにしてもよい。また、当該複数フレーム間の全てのフレームにおける速度情報を用いず、例えば1フレームおき等、所定のフレームのみにおける速度情報を移動量の算出に用いるようにしてもよい。
【0037】
このように複数フレーム間における穿刺針の移動量の算出は例えば穿刺針の挿入速度が急激に変化した場合などに有効である。上記したように、先のフレームまでの移動量を予測する場合、急激に穿刺針の移動が停止したり挿入加速度が変化したりすると、例えば前フレームでは一定の速度で穿刺針が移動していたことが検出されていても次のフレームでは停止しているということもあり得るため、算出した穿刺針の移動量に誤りが生じてしまう。従って、複数フレームにおける速度情報の変化から、加速度を知ることでフレーム推移におけるその後の速度情報も予測をすることが可能となる。その結果、急激な穿刺針の動きの変化にも追従することが可能となり、より精度良く穿刺針の移動量を算出することが可能となる。
【0038】
一方、複数フレーム間隔における移動量に基づいて下記のズレ検出を行う場合、フレームレートが高い場合は良いが、フレーム間隔数との関係であまりフレームレートが高くないとき、特に穿刺針の挿入移動速度が速いときは、実際には下記警告表示が行われる程度までズレが生じているにもかかわらず、その判定結果が遅れて表示されるために(従来技術に比較すれば十分効果は認められるが)本発明の優れた効果を十分に得られない可能性が生じる。従って、精度の向上と操作性とのバランスにより動作環境、使用態様も考慮して複数フレーム間隔における穿刺針の移動量の検出を行うか否かを決定し、このようなフレーム間隔は操作者により選択可能とするようにしてもよい。
【0039】
<穿刺針の走査面からのズレ検出>
ズレ検出回路8では先端部移動量検出回路6から得られる穿刺針の先端部の移動量と穿刺針移動量検出回路7から得られる穿刺針の先端部の移動量と同一時間(同一フレーム間隔)における穿刺針自体の移動量とが比較される。
【0040】
先端部移動量検出回路6における検出では穿刺針の先端部が走査面から外れてしまった場合に、穿刺針の挿入が進められていても走査面上すなわち画像データ上の穿刺針の先端部の位置はほとんど変わりがないか少なくとも実際の穿刺針の先端部の位置とは異なる位置に現れる。画像データ上の穿刺針の先端部は穿刺針の中途部分であり実際の穿刺針の先端部を表していない。従って、画像データ上の穿刺針の先端部の算出移動量Tnと穿刺針自体の算出移動量Pnとの間には差(diff)が生じることになる。
【0041】
前述の算出方法から100%誤差のない移動量算出は事実上困難となる場合もあり得るため、上記移動量の差diffに若干の誤差を許容範囲と認め、この許容範囲量を閾値Tとし、diff=||Pn|−|Tn||≧Tであった場合にズレ検出回路8は穿刺針の先端部の走査面からのズレがあったと判定する。
【0042】
なお、走査面からの僅かなズレがあった場合にもズレ判定をして後述の警告表示をするのでは、実際上、挿入動作において即警告表示される可能性があり現実的ではないこともTの設定にあたって考慮し得る。
【0043】
<ズレに係る警告>
上記したように、ズレ検出回路8において移動量の差diffが閾値T以上であったと検出されると、画像表示回路9を介して表示モニタ10には警告表示が行われる。警告表示は文字、色、図形、等の視覚的なものにより操作者に穿刺針の先端部のズレが生じていることを知らせ、これ以上そのまま穿刺針の挿入を進めると被検体の生体にも危険を及ぼす恐れがあることを直接的又は間接的に警告するものである。また、表示モニタ10による視覚的な警告に代えて、ビープ音や所定の音声メッセージ、メロディ、等の聴覚的なものにより行われるようにしてもよい。さらには、警告性を有さない単なる報知(ズレ報知)として、上記のような視覚的又は聴覚的手段が採られるようにしてもよい。
【0044】
図2は穿刺針の挿入とその先端部のズレが生じる場合の一例を示す図である。上記警告表示をする場合に至るまでの穿刺針の挿入の様子が図2(a)乃至(c)に時系列に示されている。各図上段は表示画像の例を、各図下段は走査面に沿った方向から見た様子の例を示している。各図においてスキャン方向は超音波振動子の配列に従う走査方向である。また、深さ方向は被検体の体表面から体内に向かう方向、詳細には、超音波を送出する超音波振動子の配列の中心に位置する超音波振動子の超音波送出方向である。さらに、スライス方向とは、走査面を少しずつずらす場合における当該走査中の走査面に対して垂直な方向である。
【0045】
図2(a)に示すように、穿刺針21は操作者による挿入により目標物22に向けて真っ直ぐ挿入される。この挿入が正常に行われている場合、穿刺針21は走査面(実際には所定の厚みを有している)23に沿って挿入されるので、穿刺針21はその先端部24も含めて走査面23内に進入した全体が画像表示される。
【0046】
挿入がさらに進み目標物22に先端部24が近づいた段階においても穿刺針21の挿入が走査面23に沿って行われている限り、図2(a)の場合と同様、穿刺針21はその先端部24も含めて走査面23内に進入した全体が画像表示される(図2(b))。
【0047】
しかしながら、被検体内の臓器の存在その他何らかの理由により穿刺針21の先端部24が走査面23から外れてしまうと、図2(c)に示すように、走査面23から穿刺針21が外れた位置に当る部分が穿刺針21の画像上の表示先端部25として画像上表示される。すなわち、表示先端部25から実際の先端部24までの部分26は画像表示されない。このように図2(c)の状態になったとき、上記警告表示が行われる。
【0048】
図3は上記警告表示の一例を示す図である。図3(a)に示すように、表示モニタ10上の表示画面(ウインドウ)30において穿刺針21と目標物22が表示されているところ、穿刺針21の実際の先端部(24)が走査面からずれたことにより表示画面30にその先端部(24)が表示されなくなった場合は表示先端部25の先に前記diffに相当する長さだけ矢印等の警告表示マーク31が表示される。diffとは穿刺針の先端部の移動量と穿刺針の移動量のズレに相当する長さ、すなわち実際の先端部24と表示先端部25との穿刺針上の差であるので、操作者は警告表示マーク31の長さ分だけ穿刺針21が走査面からずれた方向に挿入されていることを認識することができる。
【0049】
なお、図3(b)は図2(c)下段と同じであり図3(a)の表示が行われる場合の走査面に沿った方向から見た様子を示している。穿刺針21は表示先端部23の位置から実際の先端部24までの部分26が走査面23から外れている。このように、これ以上挿入を続けても目標物22に穿刺針21が到達し得ないような場合に例えば図3(a)に示すような警告表示がなされることで、操作者が挿入を停止し、穿刺針を被検体内から引き抜き、改めて挿入し直すことが期待できる。その結果、被検体内の他の組織等を穿刺針により傷つける可能性を減少させることができるようになる。
【0050】
次に本発明の超音波診断装置における警告表示に至るまでの動作の流れについて説明する。図4は本発明の超音波診断装置の動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【0051】
前述の<穿刺針先端部の移動量の検出>の項で説明したように、先端部移動量検出回路6は位置検出回路5で得られたn番目(例えば初期値としてn=1)のフレームにおける穿刺針の先端部の座標情報を例えば(x,y)として(ステップS401)先端部の移動量を算出(検出)する。隣接するフレーム間での移動量を算出する場合を例にすると、n−1番目のフレームからn番目のフレームまでの先端部移動量TnはTn=√((x−xn−1+(y−yn−1)から得られる(ステップS402)。
【0052】
一方、前述の<穿刺針の移動量の検出>の項で説明したように、n番目のフレームにおける穿刺針の挿入速度Vnがドップラーモード画像情報に基づいて得られると(ステップS403)、設定されたフレームレートFrの情報は超音波診断装置上知ることのできる値であるので(ステップS404)、穿刺針移動量検出回路7はn−1番目のフレームからn番目のフレームまでの穿刺針の移動量PnをPn=Vn/Fnから求めることができる(ステップS405)。
【0053】
前述の<穿刺針の走査面からのズレ検出>の項で説明したように、ズレ検出回路8はPnの大きさがゼロであるか否か、すなわち、穿刺針が操作者によって挿入(又は引抜)されて移動量が生じたか否かを判断し(ステップS406)、移動量が生じていた場合(Pnがゼロでない場合)はステップS402で求められたTnに示される移動量の大きさとPnに示される穿刺針の移動量の大きさの差(絶対値)diffをdiff=||Pn|−|Tn||から求める(ステップS407)。
【0054】
求められたdiffはズレについて一定の誤差を許容する閾値Tと比較される(ステップS408)。diffがT以上であれば許容し難い「ズレ有り」と判断され(ステップ409)、diffがT未満であればズレの量は検出誤差により生じた可能性もある等の理由から「ズレ無し」と判断される(ステップS410)。
【0055】
ステップS409において「ズレ有り」と判断された場合は前述した例えば図3(a)に示すような警告表示が行われる(ステップS411)。そして、nの値を一つ加算して(ステップS412)次のフレームについてステップS401からの処理を再び実行する。
【0056】
また、ステップS410において「ズレ無し」と判断された場合はステップS411での警告表示を行わずにステップS412でnの値を一つ加算して次のフレームについてステップS401からの処理を再び実行する。
【0057】
一方、ステップS406で移動量が生じていないと判断された場合(Pnがゼロである場合)は一つ前のフレーム(n−1番目のフレーム)におけるdiffn−1がTと比較される(ステップS413)。これは、穿刺針の移動量Pnがゼロということは穿刺針の先端部の移動量Tnもゼロになるということであり、その結果、diff=0−0=0でズレが全く生じていない、すなわち閾値T未満と判断される。しかし、実際にn−1番目のフレームで警告表示されているような場合に移動量ゼロと判定されるということは本来ズレが生じたままであり、diffが閾値未満であることを理由に警告表示を解除してしまうのは妥当ではない。その結果、操作者が穿刺針の挿入を再開してしまう恐れが生じる。従って、穿刺針の移動量Pnがゼロの場合は一つ前のフレームについての差を表すdiffn−1をTと比較する。
【0058】
ステップS413においてdiffn−1がT以上であれば許容し難い「ズレ有り」、すなわちズレが継続していると判断され(ステップ414)、diffn−1がT未満であれば「ズレ無し」、すなわち移動停止前からズレは生じていないと判断される(ステップS415)。
【0059】
ステップS414において「ズレ有り」と判断された場合は引き続き警告表示が行われる(ステップS411)。そして、nの値を一つ加算して(ステップS412)次のフレームについてステップS401からの処理を再び実行する。
【0060】
また、ステップS415において「ズレ無し」と判断された場合はステップS411での警告表示を行わずにステップS412でnの値を一つ加算して次のフレームについてステップS401からの処理を再び実行する。
【0061】
なお、ステップS413乃至S415の代わりに、例えば一旦警告表示が成された後はその情報を示すフラグを立て、フラグが立っている間は穿刺針の移動量がゼロ(Pn=0)である限り警告表示を維持するようにしてもよい。フラグは穿刺針に移動量が生じた(Pnがゼロでなくなった)ことに応じて降ろせばよい。この場合も警告表示を継続することが可能となる。
【0062】
以上説明したように、穿刺針が走査面から一定量ずれた場合に警告表示が行われるので、操作者は穿刺針が走査面から外れてしまったことを認識することができるので、誤って穿刺針の挿入を継続してしまうことを防止することが可能となる。
【0063】
ところで、上記のような警告表示が行われた場合、操作者は穿刺針を被検体内から引き抜くことになるが、引抜動作においても穿刺針及びその先端部は挿入時と逆方向において移動量を生じる。従って、図4のフローチャートに示す判定等を引抜時にも適用することで、あるところまで引き抜いた段階で穿刺針の先端部の移動量Tnと穿刺針の移動量Pnとの差diffが再びT未満になればステップS411の警告表示は解消されることになる。
【0064】
一般に、穿刺針の挿入方向のズレは被検体の呼吸や体を多少動かすことによっても生じ得るものであるため、警告表示が解消される位置(正常位置)まで穿刺針を抜き戻すことにより以後問題なく穿刺針を目標物に到達させることも可能となる。このように、警告表示の解消により操作者は穿刺針の先端部が正常位置に戻ったと認識できるので、穿刺針を被検体の体から全て抜き取り再挿入する必要はなく、穿刺術としての作業効率を向上させることが可能となる。また、被検体の負荷軽減にもつながる。
【0065】
上記実施例においては穿刺針の移動量は穿刺針移動量検出回路7により検出される場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。穿刺針の移動量は例えば物理的検出により行われるようにしてもよい。以下、図5及び図6を用いてこのような物理的検出を行う場合について説明する。
【0066】
図5は本発明の実施例に係る超音波診断装置の構成の他の一例を示すブロック図である。また、図6は穿刺術を行う際に使用される超音波プローブの外観の例を示す図である。なお、図5において図1と同一部分については同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0067】
図5に示すように、超音波診断装置は図1の穿刺針移動量検出回路7の代わりに穿刺針移動量検出センサ50を備えている。また、この超音波診断装置は図1のズレ検出回路8の代わりにズレ検出回路8’を、穿刺アダプタ11の代わりに穿刺アダプタ11’を備えている。穿刺針移動量検出センサ50は図6に示すように超音波プローブ1に接続された穿刺アダプタ11’の一端に設けられている。穿刺針移動量検出センサ50は磁気的又は光学的なセンサからなり、例えば穿刺針60側に目印を付けておくことで、この目印を光学的レーザ等により読み取る。なお、穿刺針移動量検出センサ50を設ける位置は図6に示す位置に限定されることはないが、このような物理的検出のため、穿刺針60との関係においてこのような検出を可能とする位置に設けられる必要があることは言うまでもない。
【0068】
ズレ検出回路8’は前述のPn=Vn/Fnから得られる穿刺針の移動量Pnではなく、穿刺針移動量検出センサ50から得られる穿刺針の移動量Pn’を用いることになる。つまり、穿刺針の先端部の移動量と穿刺針の移動量との差diffをdiff=||Pn’|−|Tn||として算出する。
【0069】
このように物理的検出センサを用いて穿刺針の移動量を検出する場合、センサの検出精度による影響を受ける場合もあり得るが、他方で、ドップラーモード画像データから得られる速度情報等を用いる場合に比較して急激な挿入動作や停止などにも比較的容易に対応し得る点で有効である。センサ自体は一般に入手可能なものから適宜選択して採用し得る。
【0070】
以上述べた本発明の実施の形態は本発明の理解を容易にするためにのみ記載された例に過ぎず、本発明を限定するための記載ではない。従って、以上の本発明の実施の形態において開示された各構成要素やその他要素は本発明の主旨を逸脱しない範囲においてその等価物等に設計変更や修正を可能とするものである。さらに、同構成要素やその他要素についての可能とする如何なる組み合わせも、以上述べた本発明の実施の形態において得られる効果と同様の効果が得られる限り、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施例に係る超音波診断装置の構成の一例を示すブロック図。
【図2】穿刺針の挿入とその先端部のズレが生じる場合の一例を示す図。
【図3】警告表示の一例を示す図。
【図4】本発明の超音波診断装置の動作の流れの一例を示すフローチャート。
【図5】本発明の実施例に係る超音波診断装置の構成の他の一例を示すブロック図。
【図6】穿刺術を行う際に使用される超音波プローブの外観の例を示す図。
【符号の説明】
【0072】
1・・・超音波プローブ
2・・・送受信回路
3・・・Bモード処理回路
4・・・ドップラーモード処理回路
5・・・位置検出回路
6・・・先端部移動量検出回路
7・・・穿刺針移動量検出回路
8、8’・・・ズレ検出回路
9・・・画像表示処理回路
10・・・表示モニタ
11、11’・・・穿刺アダプタ
21、60・・・穿刺針
23・・・走査面
24・・・先端部
25・・・表示先端部
50・・・穿刺針移動量検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波走査面内における穿刺針の先端部を認識する認識手段と、
所定フレーム間における前記認識手段により認識された穿刺針の先端部の移動量を算出する算出手段と、
前記所定フレーム間における前記穿刺針の移動量を検出する検出手段と、
前記算出手段及び前記検出手段による移動量の差が所定値を超える場合に報知を行う報知手段と
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記認識手段はBモード画像情報又はドップラーモード画像情報の少なくとも一方に基づいて認識することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記所定フレーム間は隣り合うフレーム間であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記所定フレーム間は複数のフレーム間であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記検出手段は少なくともドップラーモード画像情報に基づいて移動量を検出することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記検出手段は複数のフレームから得られる情報の平均値に基づいて1フレーム間隔あたりの穿刺針の移動量を得ることを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記検出手段は穿刺針の位置を検出する位置検出センサであることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記報知手段は超音波画像上の穿刺針の先端部に警告表示することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記警告表示は前記移動量の差に相当する長さのマークの表示であることを特徴とする請求項8に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記報知後に前記検出手段により検出される穿刺針の移動量が実質的に零である場合、前記報知手段は報知を継続することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記報知後に前記穿刺針が逆方向に移動することにより前記移動量の差が所定値を下回った場合、前記報知手段による報知は解除されることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
超音波走査面内における穿刺針の先端部を認識し、
所定フレーム間における前記認識された穿刺針の先端部の移動量を算出し、
前記所定フレーム間における前記穿刺針の移動量を検出し、
前記算出された移動量及び前記検出された移動量の差が所定値を超える場合に報知を行う
ことを特徴とする超音波診断装置の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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