説明

超音波診断装置

【課題】 ドループ現象を引き起こすことなく、静的な消費電力を低減する送波回路を備えた超音波診断装置を提供する。
【解決手段】 診断用途に対応する送波信号を第1の増幅器10で増幅し、この第1の増幅器の出力を第2の増幅器11で増幅して超音波探触子の振動子を駆動する。前記第2の増幅器11は、出力電圧の中心レベルに対して正の極性と負の極性の直流電源±HVで動作するPチャンネルMOSFET12とNチャンネルMOSFET13の2組のMOSFETで構成される相補型ソース接地増幅器であって、
この増幅器と前記直流電源±HVとの間に、アイドリング電流抑制用抵抗(15、18)と前記2組のMOSFETのソースSを高周波的に接地するコンデンサ(14、17)との並列接続体と逆並列にツェナーダイオード16、19を接続して電圧リミッタ回路を構成する。この電圧リミッタ回路で前記コンデンサ14、17の電圧を所定値以下に制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に医療用に用いられる超音波診断装置に係り、特に超音波振動子を駆動するための送波回路のドループ現象を防止すると共に消費電力を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の超音波診断装置は、超音波探触子から被検体に超音波を照射し、該超音波探触子を介して受信したエコー信号に基づいて前記被検体の断層像等を再構成し、この再構成した断層像等を表示装置に表示して診断に供するものである。
【0003】
このような超音波診断装置において、前記探触子の駆動には高電圧パルスが用いられており、その高電圧パルスを発生する回路である送波回路には、任意の送波信号を増幅できるように、PチャンネルとNチャンネルの高耐圧の電界効果トランジスタ(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor;MOSFET)を組み合わせた相補型ソース接地増幅器が特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−122449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、超音波診断装置においては携帯型の普及に加え、高画質化のためチャンネル数の増加が進んでおり、低消費電力化が重要な課題となっている。
このため、特許文献1の図3に示すように、MOSFETのゲートバイアス電圧V1をON/OFFするスイッチング回路を用いて、第1段の増幅回路の入力が無い状態、いわゆるアイドリング状態ではゲートバイアス電圧V1をOFFにすることやアイドリング電流を抑えるために抵抗17及び18を高抵抗とすることなどの方法がとられている。
【0006】
しかし、ゲートバイアス電圧V1をON/OFFする手段は、抵抗21とデカップリングコンデンサ19及び20の時定数により高速に動作させることが難しい。
したがって、パルス波の繰り返し周波数を高くすることには限界がある。
【0007】
また、特許文献1の送波回路は、交流信号入力時に前記MOSFETのソース端子を高周波的に接地して高ゲインにするための工夫がなされていない。
このためには、直流のアイドリング電流を抑えるための抵抗17及び18と並列に高周波接地用コンデンサを接続することが考えられる。
【0008】
しかし、前記高周波接地用コンデンサを設け、アイドリング電流を小さくするために抵抗17及び18を高抵抗にすると、抵抗17、18と前記高周波接地用コンデンサの時定数が大きくなり、高繰り返し周波数にて動作させた場合もしくは連続波で動作させた場合において、出力振幅が減衰するというドループ現象が顕著に生じる。
【0009】
この結果、前記MOSFETのソース電位が過度に上昇するために、該MOSFETはONになりにくい状態となって所望の出力が得られないものとなる。
【0010】
これを解消するためには、前記抵抗17及び18の抵抗値を小さくしなければならないので、アイドリング電流が大きくなり、この結果、消費電力が増大するものとなる。
【0011】
そこで、本発明は、ドループ現象を引き起こすことなく、静的な消費電力を低減する送波回路を備えた超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、以下の手段によって達成される。すなわち、操作手段で設定した診断用途に対応する送波信号を増幅して超音波探触子の振動子を駆動するためのパルス波又は連続波を発生する送波回路を備えた超音波診断装置であって、前記送波回路は、前記送波信号を増幅する第1の増幅器と、この第1の増幅器の出力を増幅するための出力信号の中心レベルに対して正の極性と負の極性の直流電源で動作する第2の増幅器とを有し、前記第2の増幅器は、PチャンネルとNチャンネルの2組のMOSFETで構成された相補型ソース接地増幅器と、前記2組のMOSFETの各ソースと前記正の極性及び負の極性の直流電源間に接続された抵抗とコンデンサとの並列接続体と、この並列接続体のコンデンサの電圧が所定値以上に上昇した場合にのみ前記抵抗が低抵抗となる抵抗可変手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
前記抵抗可変手段は、前記並列接続体のコンデンサの電圧を所定値以下に制限する電圧リミッタ手段であって、具体的には以下のとおりである。
【0014】
(1)前記コンデンサと並列に逆バイアスとなる極性に定電圧ダイオードであるツェナーダイオードを接続し、前記コンデンサの電圧を前記ツェナーダイオードのツェナー電圧以下に制限する。
【0015】
(2)前記コンデンサの電圧を所定値以下に放電させるための前記コンデンサと並列に接続された放電手段を備え、この放電手段は、前記コンデンサの電圧が所定値になったときに該コンデンサを短絡するスイッチである。このスイッチは、回路が簡単になることからトランジスタが望ましい。
【0016】
さらに、出力の直流電圧レベルが0Vから大きくずれないようにするために、前記第2の増幅器の出力端と接地間に、直流信号に対しては低インピーダンスとなり、交流信号に対しては高インピーダンスとなるインピーダンスを接続する。
【0017】
さらに、出力電圧の高調波成分を低減するために、前記第2の増幅器の出力電圧を前記第1の増幅器に交流負帰還する交流負帰還手段を設けた。
【発明の効果】
【0018】
PチャンネルとNチャンネルの2組のMOSFETで構成された相補型ソース接地増幅器に、前記MOSFETのソース電位の上昇を防止すると共にアイドリング電流の低減を図るための抵抗可変手段を設けることによって、超音波探触子の振動子に印加される送波電圧を時間が経過しても減衰させることなく一定にすることができる。これによって、アイドリング電流の低減とドループ現象の防止の両立が可能となり、高画質化のためチャンネル数を増加しても低消費電力化が可能な超音波診断装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明の超音波診断装置の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
なお、本発明の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符合を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明に係る超音波診断装置の全体構成図である。この超音波診断装置1は、診断用途に対応した操作信号を設定するコントロールパネル2と、前記操作信号に応じて装置全体を制御する制御部3と、この制御部3から出力される送波信号を増幅する送波回路4と、この送波回路4の出力電圧が印加されて超音波を発生して被検体に照射し、該被検体からのエコー信号を検出する探触子5と、この探触子5で検出してエコー信号を受信する受波回路6と、この受波回路6で受信したエコー信号を処理して超音波画像を構成する超音波画像構成部7と、この画像構成部7で構成した超音波画像や診断結果等を表示する表示部8と、を備えて構成される。
【0022】
このように構成された超音波診断装置の本発明の特徴に係る送波回路の実施形態について詳しく説明する。
【0023】
《第1の実施形態》
図2は、本発明の超音波診断装置に用いる送波回路4の第1の実施形態である。この送波回路4は、図2に示すように、制御部3からの送波信号(a)を増幅する演算増幅器で構成された第1の増幅器10と、正の極性の直流電源+HVと負の極性の直流電源−HVで動作するPチャンネルとNチャンネルのMOSFETとを組み合わせた第2の増幅器である相補型ソース接地増幅器11と、を備えて構成される。
【0024】
前記第2の増幅器11は、前記PチャンネルのPMOSFET12と前記NチャンネルのNMOSFET13のドレインD同士を直列に接続し、前記正の極性の直流電源+HVとPMOSFET12のソースSとの間に、コンデンサ14と抵抗15の並列接続体を接続し、この並列接続体と逆並列に定電圧ダイオードであるツェナーダイオード16を接続する。同様に、前記負の極性の直流電源−HVとNMOSFET13のソースSとの間にコンデンサ17と抵抗18の並列接続体を接続し、この並列接続体と逆並列にツェナーダイオード19を接続する。
なお、前記逆並列とは、前記ツェナーダイオード16のカソードが直流電源+HVに、アノードがPMOSFET12のソースSに接続され、前記ツェナーダイオード19のカソードがPMOSFET12のソースSに、アノードが直流電源−HVに接続されることを意味する。
【0025】
そして、前記第1の増幅器10の出力端子に直流電圧分をカットするためのデカップリングコンデンサ20及び21の一端を接続し、これらのデカップリングコンデンサの他端を前記PMOSFET12とNMOSFET13のそれぞれのゲートGに接続する。
【0026】
前記PMOSFET12とNMOSFET13のバイアス電圧Vb1及びVb2は、前記PMOSFET12とNMOSFET13のそれぞれのゲートGにバイアス電圧を与えるためのもので、抵抗22及び23を介してゲートGに印加される。
【0027】
前記抵抗15と18は、前記第1の増幅器への入力が無い状態、いわゆるアイドリング状態時に、前記バイアス電圧Vb1及びVb2による前記PMOSFET12とNMOSFET13に流れる電流であるアイドリング電流を抑制するためのものである。この直流のアイドリング電流は、前記のように前記第1の増幅器への入力が無い状態においても、常時流れるために静的な消費電流となるので、低消費電力化の観点から前記抵抗15と18は高抵抗にする必要がある。
【0028】
前記コンデンサ14と17は、前記PMOSFET12とNMOSFET13のゲートGへの交流信号入力時に該PMOSFET12とNMOSFET13のソースSを高周波的に接地して第2の増幅器11を高ゲイン増幅器とするために設けたものである。
【0029】
また、一般に前記PMOSFET12とNMOSFET13の最小の導通電圧である閾値電圧は異なり、これによって両MOSFETの前記アイドリング電流に差が生じるので、この差電流を抵抗24に流し、出力の直流電圧レベルが0Vから大きくずれないようにしている。
【0030】
前記ツェナーダイオード16、19は、出力端子から出力される出力電圧(抵抗24の両端電圧)が時間の経過に伴って減衰するドループ現象を防止するためのものである。ここで、前記ツェナーダイオード16、19を設けないで、高繰り返し周波数で動作させた場合に見られるドループ現象について図2及び図3を用いて説明する。
【0031】
図2のNMOSFET13側において、該NMOSFET13のソースS―ドレインD間に、前記第1の増幅器10の出力電流に重畳して前記アイドリング電流が流れるのは、前記第1の増幅器10の出力電圧(b)が正の半周期中である。
【0032】
この半周期の期間に、前記NMOSFET13のソースSを高周波的に接地するためのコンデンサ17には、前記NMOSFET13のソースS―ドレインD間に流れる電流が流れるので電荷が蓄積される。これによって、コンデンサ17の両端電圧が上昇し、ソースSの電位が上昇する。
このようにしてコンデンサ17に蓄積された電荷は、第1の増幅器10への入力信号が負の半周期中若しくは第1の増幅器への入力が無入力の状態時にNMOSFET13のソースSに接続された抵抗18を介して放電される。
【0033】
このように、NMOSFET13のソースSに接続された抵抗18は、上記アイドリング電流を抑制する働きを有する共にコンデンサ17に蓄積された電荷を放電する働きも有する。
【0034】
しかしながら、消費電力を低減するために前記抵抗18を高抵抗にすると、前記放電の時定数が長くなるために、繰り返し周波数が高い場合や連続波を送波する場合においては、コンデンサ17に蓄積された電荷は十分に抜けきらない。
【0035】
そのため、コンデンサ17の両端電圧は、前記NMOSFET13のソースS―ドレインD間に前記のような電流が流れる度に上昇し続ける。この結果、ソースSの電位が過度に上昇するために、NMOSFET13は導通しにくい状態となって、図3に示すように、出力電圧の振幅が時間の経過に伴って減衰するというドループ現象が生じる。同様のドループ現象は、PMOSFET12側においても生じる。
【0036】
このような出力電圧が減衰するドループ現象は、PMOSFET12及びNMOSFET13のソースを高周波的に接地するためのコンデンサ14、17の電圧を所定値以下になるようにすることにより防止することができる。
【0037】
すなわち、上記アイドリング電流を低減するための抵抗15、18は、前記コンデンサ14、17の電圧がある一定の電圧以上に上昇した場合にのみ低抵抗にすれば良い(抵抗可変手段)。前記ツェナーダイオード16、19は、前記コンデンサ14、17の電圧を所定値以下にして(電圧リミッタ手段)、ドループ現象を防止するために設けたもので、以下のように動作してドループ現象は防止される。
【0038】
図2において、ツェナーダイオード16及び19のツェナー電圧は、第1の増幅器10への入力信号が無い状態において、PMOSFET12、NMOSFET13の各ソースSに接続されたコンデンサ14及び17の両端に印加される電圧、すなわちバイアス電圧Vb1及びVb2からPMOSFET12及びNMOSFET13の閾値電圧を差し引いた電圧より僅かに高い値に設定する。
【0039】
このように、ツェナーダイオード16、19のツェナー電圧を設定することによって、第1の増幅器10への入力信号が無入力の状態においては前記ツェナーダイオード16、19は高抵抗の状態となる。
【0040】
次に、前記のようにツェナー電圧を設定することによって、ドループ現象を防止することができることについて説明する。
【0041】
前記のように、図2のNMOSFET13側において、該NMOSFET13のソースS―ドレインD間に、前記第1の増幅器10の出力電流に重畳して前記アイドリング電流が流れるのは、前記第1の増幅器10の出力電圧(b)が正の半周期中である。この半周期の期間に、前記コンデンサ17には電荷が蓄積される。
【0042】
このようにして蓄積された電荷は、ソースSに接続された抵抗18が高抵抗である場合においては、ほとんど放電されることなく蓄積し続けるが、コンデンサ17の両端電圧がツェナー電圧以上となった場合には、ツェナーダイオード19の動作抵抗が低抵抗となるために、これを介してコンデンサ17内に蓄積された電荷が放電される。したがって、コンデンサ17の両端電圧はツェナー電圧以上に上昇することは無い。そして、コンデンサ17内に蓄積された電荷が放電されてコンデンサ17の両端電圧がツェナー電圧以下となった後には、再びツェナーダイオード19は高抵抗の状態となって、アイドリング電流は抑制される。
【0043】
上記NMOSFET13側と同様に、PMOSFET12側のツェナーダイオード16が動作して、コンデンサ14の両端電圧はツェナー電圧以上に上昇することは無く、該コンデンサ14の両端電圧がツェナー電圧以下となった後には、再びツェナーダイオード19は高抵抗の状態となってアイドリング電流は抑制される。
【0044】
このように、第1の実施形態による送波回路によれば、適切なツェナー電圧のツェナーダイオード16及び19を選択することでPMOSFET12及びNMOSFET13のソースSの電位の上昇を防ぐことができ、これによってドループ現象を引き起こすことなく、アイドリング電流を抑制する抵抗15及び18を高抵抗化して静的な消費電流であるアイドリング電流を低減することが可能となる。
【0045】
次に、上記図2の送波回路4を用いた本発明の超音波診断装置の動作について説明する。
【0046】
(1)図1のコントロールパネル2で設定した操作信号により、制御部3から図2の(a)に示す正弦波の入力信号が第1の増幅器10に入力されると、該第1の増幅器10は前記入力信号が増幅された(b)の交流電圧を出力する。
【0047】
(2)前記(b)の交流電圧がPMOSFET12とNMOSFET13のゲートGに印加されると、これらのPMOSFET12とNMOSFET13は導通、非導通動作する。
【0048】
(3)すなわち、前記(b)の交流電圧の正の半周期の期間は、PMOSFET12は非導通となり、NMOSFET13は導通して電流が流れる。このPMOSFET12の非導通の期間に、前記PMOSFET12のソースSを高周波的に接地するためのコンデンサ14の電圧が所定値以下になるようにツェナーダイオード16が動作して該コンデンサ14の電圧を放電する。
【0049】
(4)前記(b)の交流電圧の負の半周期の期間は、PMOSFET12は導通して電流が流れ、NMOSFET13は非導通となって電流は流れない。このNMOSFET13の非導通の期間に、前記NMOSFET13のソースSを高周波的に接地するためのコンデンサ17の電圧が所定値以下になるようにツェナーダイオード19が動作して該コンデンサ17の電圧を放電する。
【0050】
(5)前記第2の増幅器11は、前記(3)と(4)のように動作してPMOSFET12とNMOSFET13のドレイン電流はそれぞれ(c)、(d)のようになり、これらの電流により出力される電圧は、(e)に示すように入力電圧に比例した電圧となる。
【0051】
(6)前記送波回路4の出力電圧は、探触子5の振動子(図示省略)に印加されて該探触子5から超音波を発生して被検体に照射し、該被検体からのエコー信号を検出し、この検出信号を受波回路6で受信する。
【0052】
(7)この受波回路6で受信したエコー信号は、超音波画像構成部7で処理されて超音波画像を構成し、この構成した超音波画像及び該画像に関連する情報等を表示部8に表示して診断に供する。
【0053】
(8)そして、前記コンデンサ14、17の電圧が前記ツェナー電圧以下になって、第1の増幅器10への入力が無いアイドリング状態では、前記抵抗15、18は高抵抗になってアイドリング電流は小さくなる。
【0054】
上記第1の実施形態による送波回路において、適切なツェナー電圧のツェナーダイオード16及び19を選択することでPMOSFET12及びNMOSFET13のソースSの電位の上昇を防ぐことができ、これによってドループ現象を引き起こすことなく、アイドリング電流を抑制する抵抗15及び18を高抵抗化して静的な消費電流であるアイドリング電流を低減することが可能となる。
【0055】
このように、上記第1の実施形態の送波回路を用いた超音波診断装置は、超音波探触子の振動子に印加される送波電圧を時間が経過しても減衰させることなく一定にすることができるので、アイドリング電流の低減とドループ現象の防止の両立が可能となる。これによって、高画質化のためチャンネル数を増加しても低消費電力化が可能となる。
【0056】
《第2の実施形態》
図4は、本発明の超音波診断装置に用いる送波回路4の第2の実施形態である。この送波回路4は、図2に示した第2の実施形態のPMOSFET12及びNMOSFET13のソースSを高周波的に接地するためのコンデンサ14、17の電圧を所定値以下に制限する電圧リミッタ回路が異なるのみで、他は同じであるので、ここではリミッタ回路の構成とこれを用いた送波回路の動作について説明する。
【0057】
図4において、正の極性の直流電源+HVとPMOSFET12のソースSとの間に、直列に接続された抵抗31、32とコンデンサ14との並列接続体を接続し、この並列接続体と並列に、図示のように、スイッチング素子であるPNPトランジスタ33を接続する。前記抵抗31は、前記トランジスタ33のエミッタEとベースB間に接続され、もう一方の抵抗32は、前記トランジスタ33のベースBとコレクタC間に接続される。同様に、負の極性の直流電源−HVとNMOSFET13のソースSとの間に、直列に接続された抵抗34、35とコンデンサ17との並列接続体を接続し、この並列接続体と並列に、図示のように、スイッチング素子であるNPNトランジスタ36を接続する。前記抵抗34は、前記トランジスタ36のコレクタCとベースB間に接続され、もう一方の抵抗35は、前記トランジスタ36のベースBとエミッタE間に接続される。
【0058】
このように構成された電圧リミッタ回路において、直列に接続された抵抗31と抵抗32は、図2の第1の実施形態の抵抗15に相当し、直列に接続された抵抗34と抵抗35は、図2の第1の実施形態の抵抗18に相当する。
【0059】
前記抵抗31と32の比、及び抵抗34と35の比は、第1の増幅器10への入力信号が無い状態において、前記トランジスタ33及び36を非導通、すなわちベースBとエミッタE間の電圧が閾値電圧Vbe以下になる値に設定する。
【0060】
次に、前記のように、抵抗31,32、34、35の抵抗値を設定することによって、ドループ現象を防止する動作について説明する。
【0061】
図2のNMOSFET13側において、該NMOSFET13のソースSとドレインD間に前記第1の増幅器10の出力電流に重畳して前記アイドリング電流が流れるのは、前記第1の増幅器10の出力電圧(b)が正の半周期中である。この半周期の期間に、前記コンデンサ17には電荷が蓄積される。
【0062】
このようにして蓄積された電荷は、ソースSに接続された抵抗34、35が高抵抗のままである状態においては、ほとんど放電されることなく蓄積し続けるが、抵抗35に印加される電圧が前記トランジスタ36の閾値電圧Vbeを超えると、該トランジスタ36が導通して低抵抗となるために、前記トランジスタ36を介してコンデンサ17に蓄積された電荷は放電される(放電手段)。
【0063】
したがって、コンデンサ17の両端電圧は、トランジスタ36の閾値電圧Vbe及び抵抗34と35の比により決まるある一定値以上に上昇することは無い。そして、コンデンサ17に蓄積された電荷が放電されて、コンデンサ17の両端電圧がトランジスタ36の閾値電圧Vbe及び抵抗34と35の比により決まるある一定値以下になった後には、再びトランジスタ36は高抵抗の状態となりアイドリング電流は抑制される。
【0064】
上記NMOSFET13側と同様に、PMOSFET12側のトランジスタ33が動作して、コンデンサ14の両端電圧はトランジスタ33の閾値電圧Vbe及び抵抗31と32の比により決まる一定値以上に上昇することは無く、該コンデンサ14の両端電圧がトランジスタ33の閾値電圧Vbe及び抵抗31と32の比により決まるある一定値以下になった後には、再びトランジスタ33は高抵抗の状態となってアイドリング電流は抑制される。
【0065】
このように、第2の実施形態による送波回路によれば、放電手段としてのトランジスタを動作させることで、PMOSFET12及びNMOSFET13のソースSの電位の上昇を防ぐことができ、これによってドループ現象を引き起こすことなく、抵抗31、32及び34、35を高抵抗化して静的な消費電流であるアイドリング電流を低減することが可能となる。
【0066】
上記第2の実施形態の送波回路を用いた超音波診断装置は、超音波探触子の振動子に印加される送波電圧を時間が経過しても減衰させることなく一定にすることができるので、アイドリング電流の低減とドループ現象の防止の両立が可能となる。これによって、高画質化のためチャンネル数を増加しても低消費電力化が可能となる第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
《第3の実施形態》
上記第1の実施形態及び第2の実施形態は、第1の増幅器と第2の増幅器を単に多段に接続した回路の例であるが、本発明は、前記第2の増幅器の出力電圧を前記第1の増幅器に負帰還する回路にも適用することができる。
【0068】
図5は、前記第1の実施形態における第2の増幅器の出力電圧を第1の増幅器に交流負帰還を施した第3の実施形態の送波回路である。この送波回路4は、交流負帰還を施した第1の増幅器10'以外は前記第1の実施形態と同じ構成の回路である。
【0069】
図5において、第1の増幅器10'は、演算増幅器40と、この演算増幅器40の−入力端子と接地間に接続された抵抗41と、前記演算増幅器40の出力端子と該演算増幅器40の−入力端子間に接続された抵抗42とにより構成され、前記抵抗41と42で前記演算増幅器40にローカル負帰還をかけて広帯域化する。
【0070】
さらに、前記演算増幅器40の+入力端子に抵抗43を接続し、第2の増幅器11の出力端子と前記演算増幅器40の+入力端子との間に直列に接続された抵抗44とコンデンサ45とを接続して、前記抵抗44とコンデンサ45で前記第2の増幅器11の出力電圧を前記演算増幅器40に交流負帰還する。
【0071】
なお、+LV、−LVは演算増幅器40の直流電源である。
【0072】
このように構成することによって、ドループ現象は、前記第1の実施形態と同様に電圧リミッタ回路が動作して防止され、歪を発生しやすい第2の増幅器であるソース接地増幅回路を歪が発生しないように第1の広帯域・高ゲイン増幅器10'で補償することができる。これによって、ドループ現象を生じることなく低消費電力化が可能で、かつ出力電圧に含まれる高調波成分を低減できる送波回路とすることができる。
【0073】
《第4の実施形態》
図6は、前記第2の実施形態における第2の増幅器の出力電圧を第1の増幅器に交流負帰還を施した第4の実施形態の送波回路である。
【0074】
この送波回路4は、交流負帰還を施した第1の増幅器10'以外は前記第2の実施形態と同じ構成の回路である。
【0075】
図6において、第1の増幅器10'は、前記第3の実施形態における第1の増幅器と同じ回路構成のローカル負帰還をかけて広帯域化した増幅器で、この増幅器に第2の増幅器11'の出力電圧を交流負帰還することによって、全体として低歪増幅器となる。
【0076】
このように構成することによって、ドループ現象は前記第2の実施形態と同様に電圧リミッタ回路が動作して防止され、前記第3の実施形態と同様に、歪を発生しやすい第2の増幅器であるソース接地増幅回路を歪が発生しないように第1の広帯域・高ゲイン増幅器10'で補償することができる。これによって、ドループ現象を生じることなく低消費電力化が可能で、かつ出力電圧に含まれる高調波成分を低減できる送波回路とすることができる。
【0077】
以上、本発明について種々の実施形態について述べたが、本発明はこれらの実施形態に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で以下のように種々変更可能である。
【0078】
(1)ドループ現象を防止するリミッタ回路は、上記実施形態に限定するものではなく、PMOSFET12及びNMOSFET13のソースSを高周波的に接地するためのコンデンサ14、17の電圧を所定値以下に制限するものであれば、どのようなリミッタ回路でも構わない。
【0079】
(2)第2の増幅器にソース接地のMOSFETを用いたが、これにに限定するものではなく、トランジスタや他の半導体を用いた相補型増幅器でも良い。
【0080】
(3)さらに、上記実施形態の直流電源+HV、−HVは、正負の電圧が同じである必要はなく、第2の増幅器の出力電圧の中心レベルに対して正の極性と負の極性を有する直流電源でも良い。
【0081】
(4)上記実施形態の送波回路を用いることによって、ドループ現象を防止することができるので、同一の回路構成にて連続波の送波も可能となる。したがって、本発明は、パルス波、連続波の両方の送波回路に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の全体構成図。
【図2】本発明に係る超音波診断装置に用いる第1の実施形態の送波回路図。
【図3】ドループ現象を説明するための図。
【図4】本発明に係る超音波診断装置に用いる第2の実施形態の送波回路図。
【図5】本発明に係る超音波診断装置に用いる第3の実施形態の送波回路図。
【図6】本発明に係る超音波診断装置に用いる第4の実施形態の送波回路図。
【符号の説明】
【0083】
1 超音波診断装置、2 コントロールパネル、3 制御部、4 送波回路、5 超音波探触子、6 受波回路、7 超音波画像構成部、8 表示部、10、10' 第1の増幅器、11、11' 第2の増幅器、12 PチャンネルMOSFET、13 NチャンネルMOSFET、14、17 高周波接地用コンデンサ、15、18 アイドリング電流抑制用抵抗、16、19 ツェナーダイオード、20、21 デカップリングコンデンサ、31、32、34、35 アイドリング電流抑制用抵抗、33 PNPトランジスタ、36 NPNトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作手段で設定した診断用途に対応する送波信号を増幅して超音波探触子の振動子を駆動するためのパルス波又は連続波を発生する送波回路を備えた超音波診断装置であって、前記送波回路は、前記送波信号を増幅する第1の増幅器と、この第1の増幅器の出力を増幅するための出力信号の中心レベルに対して正の極性と負の極性の直流電源で動作する第2の増幅器とを有し、前記第2の増幅器は、PチャンネルとNチャンネルの2組のMOSFETで構成された相補型ソース接地増幅器と、前記2組のMOSFETの各ソースと前記正の極性及び負の極性の直流電源間に接続された抵抗とコンデンサとの並列接続体と、この並列接続体のコンデンサの電圧が所定値以上に上昇した場合にのみ前記抵抗が低抵抗となる抵抗可変手段と、を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記抵抗可変手段は、前記並列接続体のコンデンサの電圧を所定値以下に制限する電圧リミッタ手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記電圧リミッタ手段は、前記コンデンサと並列に逆バイアスとなる極性に定電圧ダイオードを接続したことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記電圧リミッタ手段は、前記コンデンサの電圧を所定値以下に放電させるための前記コンデンサと並列に接続された放電手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記放電手段は、前記コンデンサの電圧が所定値になったとき該コンデンサを短絡するように動作するスイッチであることを特徴とする請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記スイッチは、トランジスタであることを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
さらに、前記第2の増幅器の出力端と接地間に、直流信号に対しては低インピーダンスとなり、交流信号に対しては高インピーダンスとなるインピーダンスを接続したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
さらに、前記第2の増幅器の出力電圧を前記第1の増幅器に交流負帰還する交流負帰還手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−297128(P2009−297128A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152638(P2008−152638)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】