説明

超音波診断装置

【課題】超音波診断装置において、乳房の検査レポートを電子的に作成できるようにし、その際においてユーザーの負担を軽減できるようにする。
【解決手段】検査レポートはシェーマ像100を含み、マーカー102をユーザーにより移動させて腫瘍マーカーの表示位置を定めることができる。マーカー102の位置は超音波診断装置においてリアルタイムで認識されており、マーカ102についての位置情報104が表示される。位置情報104はマーカーの属する領域を表す情報106と乳頭から見たマーカーの方位を表す情報108とを含むものである。位置情報は検査レポートにおける所見欄にも自動的に反映される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、検査レポートの作成機能を有する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乳房についての疾患(例えば悪性腫瘍)を診断する乳房超音波検査は、乳房X線検査で見られるような被ばくという問題を生じさせないものである。乳房超音波検査では、乳房に対してプローブを当接し、その状態において超音波の送受波を行うことにより、乳房の超音波画像が形成、表示される。超音波画像は、二次元断層画像、三次元画像等である。超音波画像上で腫瘍の有無が診断され、もし腫瘍が発見されたならば、超音波画像上において更に腫瘍の形態等が診断され、加えて、超音波診断装置に搭載されている計測機能が実行されて、腫瘍のサイズ(三軸サイズ)、体積、乳頭からの距離、等が計測される。
【0003】
乳房超音波検査の後には、その検査を行った検査医師または検査技師により検査レポートが作成される。検査レポートは治療医や診断医に対して病変の存在や広がりその他を伝達するための資料となるものであるから、あるいは、疾患の経時的変化を診断する上での資料となるものであるから、その内容は客観的で精緻なものであることが望まれる。その一方、検査レポートを作成する際の負担を軽減することも求められている。
【0004】
典型的には、従来、検査レポート用紙上に超音波診断結果を手書き記入することに検査レポートが作成されていた。検査レポートには、通常、両方の乳房を模擬した模式図(シェーマ図)が描かれており、超音波画像上で腫瘍が発見されたならば、その模式図上に手書きにより腫瘍の位置がマーキングされていた。また、その検査レポートには上記の計測結果や所見が手書き記入されていた。
【0005】
特許文献1には乳房超音波診断の結果が反映されるレポート画像(電子的な検査レポート)を形成する機能をもった超音波診断装置が開示されている。レポート画像には乳房を表す模式図に相当するグラフィックが表示されており、そこにおける所望の位置に超音波画像を貼付(合成)することが可能である。特許文献2には、乳房を表すシェーマ図上にマーカーを表示することが記載されている。シェーマ図上には複数の区分が設定されているが、腫瘍が存在する区分はユーザーにより判断、入力されている。それらの従来技術では、シェーマ図が表す乳房座標系における腫瘍マーカーの位置情報を自動的に演算してそれを検査レポートに反映させることは行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−154833号公報
【特許文献2】特開2007−87271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乳房超音波診断において、検査レポートには、腫瘍が存在する領域(エリア)及び乳頭から見た方位を記入するのが一般的であり、乳房超音波診断ガイドラインもそれを規定している。従来においては、超音波画像上で腫瘍が存在する領域及び方位を視覚的に確認し、それを検査レポートに手書き記入し、また、シェーマ図に対しては腫瘍を表すマーカーが手書き記入されていた。
【0008】
上記の特許文献2には画面上において検査レポートを作成する技術が開示されているが、電子的なシェーマ像にマーカーをプロットしても、そのマーカーの位置を演算することまではなされていない。つまり、シェーマ像はマーカー記入欄としてだけ機能しており、シェーマ像を背景として位置情報を計測、演算することまではなされていない。シェーマ像へのマーカーのプロットはそれ自体位置情報の入力あるいは指定に相当するものであるが、それとは別に位置情報の数値入力がなされており、ここに重複した手間を指摘できる。また、シェーマ像にマーカーをプロットする場合に、正確にそれを行わせるには、シェーマ像におけるマーカー位置の目視確認だけでは誤認等のおそれもあるので、更にその位置に関する情報を別途表示させることが望まれる。
【0009】
本発明の目的は、乳房超音波診断において、超音波画像を表示する超音波診断装置上で速やかに検査レポートを作成できるようにすることにある。特に、診断から計測そしてレポート作成までの一連の作業を能率的に行えるようにすることにある。
【0010】
本発明の他の目的は、検査レポートを作成するユーザーの負担を軽減することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、シェーマ像が実空間に対応する座標系を有することを前提として、その座標系上におけるマーカープロット結果を読み取って活用できるようにすることにある。あるいは、マーカープロットの作業を誤認なく正確に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る超音波診断装置は、超音波画像が表示される表示画面上に、前記超音波画像と一緒に又は前記超音波画像とは別に、乳房を模式的に表すシェーマ像が表示されるようにするシェーマ像表示制御手段と、前記シェーマ像上においてユーザーにより登録された座標に腫瘍を表す腫瘍マーカーが表示されるようにする腫瘍マーカー表示制御手段と、前記シェーマ像上において定義される乳房診断座標系に従って前記腫瘍マーカーについての位置情報を演算する位置情報演算手段と、前記腫瘍マーカーが付加されたシェーマ像を含む検査レポートに前記位置情報が電子的に記入されるようにする位置情報記入手段と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、表示画面上にシェーマ像が表示され、そのシェーマ像上においてユーザーにより腫瘍が存在する座標が登録(指示あるいは入力)されると、当該座標に腫瘍マーカーが表示される。シェーマ像上には乳房診断座標系が定義され、つまり、乳頭位置を基準として、複数の領域が定義され、且つ、方位方向が定義される。本発明では、超音波診断装置が、腫瘍マーカーについて位置情報を演算し、しかもそれを検査レポートに反映されるので、電子的にあるいは紙媒体として発行される検査レポートの内容を正確かつ確実なものにでき、ひいては腫瘍診断の正確性、信頼性を高めることが可能となる。
【0014】
望ましくは、前記乳房診断座標系は、前記シェーマ像を区画する複数の領域及び前記シェーマ像における乳頭位置からの方位によって定義される座標系であり、前記腫瘍マーカについての位置情報は、前記腫瘍マーカーが属する領域及び前記腫瘍マーカーが存在する方位を表す情報である。定義される複数の領域は、例えば、乳頭位置の回りにおいて並ぶそれぞれ90度の広がり角度をもった扇状のA〜D領域と、乳頭位置回りの円形領域Eと、を含むものである。望ましくは、右乳房においてはそれを正面から見て時計回り方向に順番にA〜D領域が定義され、左乳房においてはそれを正面から見て反時計回り方向に順番にA〜D領域が定義される。一方、方位方向は、望ましくは、立位状態にある被検者を想定した場合における乳頭位置から垂直上方を0時(0度)の方位として仮定し、そこから時計回りの角度として特定される方位である(例えば直下方向が6時方向又は180度方向となる)。
【0015】
望ましくは、前記表示画面上には、前記ユーザーにより座標を登録させるために座標指定マーカーが表示され、前記位置情報演算手段は、前記座標指定マーカーの移動操作中において当該座標指定用マーカーについての位置情報を演算し、前記座標指定用マーカーの移動操作中において当該座標指定用マーカーについての位置情報を表示する位置情報表示制御手段が設けられる。この構成によれば、登録する座標を指示する過程においてもマーカーの位置情報が表示されるので、当該位置情報を参照して的確に座標指定を行える。つまり、誤った位置決めを効果的に排除できる。
【0016】
望ましくは、前記シェーマ像は右乳房像及び左乳房像を含み、前記右乳房像には右乳房診断座標系が定義され、且つ、前記左乳房像には左乳房診断座標系が定義され、前記位置情報演算手段は、ユーザーが認識している乳房像が右乳房像であれば前記右乳房診断座標系に従って位置情報を演算し、ユーザーが認識している乳房像が左乳房像であれば前記左乳房診断座標系に従って前記位置情報を演算する。このように右乳房と左乳房とでは、方位については同一関係が成立し(両者とも時計回り)、一方、領域分けについては対称関係が成立しているので(右乳房が時計回り順でラベル付け、左乳房が反時計回り順でラベル付け)、検査者において錯誤、混乱が生じ易いが、上記構成によれば、正しく領域及び方位が特定されるので、検査者の負担を大幅に軽減できる。
【0017】
望ましくは、前記シェーマ像表示制御手段は、互いに異なる複数のシェーマ像を格納した記憶部と、前記複数のシェーマ像の中から、表示画面上に登場させるシェーマ像をユーザーに選択させる手段と、を含む。望ましくは、前記腫瘍マーカー表示制御手段は、互いに異なる複数の腫瘍マーカーを格納した記憶部と、前記複数の腫瘍マーカーの中から、表示画面上に登場させる腫瘍マーカーをユーザーに選択させる手段と、を含む。
【0018】
望ましくは、前記検査レポートには所見欄が含まれ、前記所見欄は、複数の腫瘍識別子に対応付けられる複数の腫瘍情報表示部を有し、前記各腫瘍情報表示部には、前記位置情報、及び、ユーザー入力されるコメントが表示される。個々の腫瘍(つまり病変部)ごとに、計測結果、位置情報、形状等に関するコメントを整然と管理できるので、検査レポートの内容を優良化できる。
【0019】
本発明は、乳房に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて乳房の超音波画像を形成する画像形成手段と、前記乳房の超音波画像上において腫瘍の計測を行う計測手段と、前記腫瘍の計測結果が記入された検査レポートを作成する検査レポート作成手段と、を含む超音波診断装置において、前記検査レポート作成手段は、表示画面上に乳房を模式的に表すシェーマ像が表示されるようにするシェーマ像表示制御手段と、前記シェーマ像上においてユーザーにより登録された座標に腫瘍を表す腫瘍マーカーが表示されるようにする腫瘍マーカー表示制御手段と、前記シェーマ像上において定義される乳房診断座標系に従って前記腫瘍マーカーについての位置情報を演算する位置情報演算手段と、前記腫瘍マーカーが付加されたシェーマ像を含む検査レポートに前記位置情報が電子的に記入されるようにする位置情報記入手段と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、乳房超音波診断において、超音波画像を表示する超音波診断装置上で速やかに検査レポートを作成できる。特に、診断から計測そしてレポート作成までの一連の作業を能率的に行える。あるいは、シェーマ像が実空間に対応する座標系を有することから、その座標系におけるマーカープロット結果を読み取って活用でき、又は、マーカープロットの作業を正確に行える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】検査レポートの編集画面を示す図である。
【図3】シェーマ像上において定義される複数の領域及び方位を説明するための図である。
【図4】1つの腫瘍マーカーが表されたシェーマ像を示す図である。
【図5】複数の腫瘍マーカーが表されたシェーマ像を示す図である。
【図6】他の形態を持ったシェーマ像を示す図である。
【図7】図6に示したシェーマ像におけるマーク分離状態の一例を示す図である。
【図8】図6に示したシェーマ像におけるマーク分離状態の他の例を示す図である。
【図9】所見欄を説明するための図である。
【図10】検査レポート情報の構成例を説明するための図である。
【図11】図1に示した装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。本実施形態に係る超音波診断装置は特に乳房の超音波検査を行う機能を有しており、具体的には、後に説明する検査レポートの編集機能を有している。
【0024】
プローブ10は、体表に当接して用いられる送受波器であり、本実施形態においては乳房に対してプローブ10の送受波面が当接される。プローブ10内には1Dアレイ振動子が設けられている。1Dアレイ振動子は複数の振動素子からなるものであり、それによって超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子的に走査される。電子走査方式としては、電子セクタ走査、電子リニア走査、等が知られている。プローブ10に2Dアレイ振動子を設け、3次元エコーデータが取り込まれるようにしてもよい。
【0025】
送受信部12は送信ビームフォーマ及び受信ビームフォーマとして機能するものである。送信時において、送受信部12から複数の送信信号がプローブ10内の1Dアレイ振動子に供給され、これによって送信ビームが形成される。受信時においては、生体内からの反射波が1Dアレイ振動子にて受波され、これによって1Dアレイ振動子から複数の受信信号が送受信部12へ出力される。複数の受信信号に対しては整相加算処理が適用され、整相加算後の受信信号すなわちビームデータが信号処理部14に出力される。信号処理部14は検波回路、対数圧縮回路等の公知の回路を具備しており、信号処理後のビームデータが画像形成部16へ出力される。
【0026】
画像形成部16は本実施形態においてデジタルスキャンコンバータ(DSC)によって構成されており、入力される複数のビームデータに対して座標変換処理、補間処理等を適用し、これによって白黒断層画像であるBモード画像を形成する。もちろん、3次元画像等の他の超音波画像が形成されてもよい。画像形成部16から出力される画像データは表示処理部18を介して表示部20に送られ、表示部20には乳房の断層画像が表示される。対象となる乳房に対して複数の位置において超音波診断が実行され、それにより得られた複数の画像が後に説明する記憶部30に格納される。
【0027】
演算制御部22は、CPU及び動作プログラムによって構成されるものであり、図1においては、演算制御部22が有する計測機能が計測部24として表されており、またレポート作成機能がレポート作成部26として表されている。計測部24は、超音波画像上において距離計測等を行うためのモジュールである。レポート作成部26は、乳房の超音波診断結果が記入される電子的な検査レポートを作成するモジュールである。これについては後に詳述する。
【0028】
操作パネル28はキーボードやトラックボールなどを含むものである。操作パネル28を利用して、ユーザーは後に説明するマーカーの位置決め等を行うことが可能である。記憶部30は画像データや検査レポートを記憶するユニットである。通信部32は外部のコンピュータや超音波診断装置との間でデータの授受を行うためのモジュールである。表示処理部18は超音波画像とグラフィック画像との合成機能等を有している。
【0029】
図2には、検査レポートの作成を行う際に表示される編集画面が例示されている。すなわち、超音波検査後に計測が実行され、その後において検査レポートが作成される。その段階において図2に示されるような画面が表示される。符号100はグラフィックイメージとしてのシェーマ像を示している。その具体的な構成については後に図3を用いて説明する。符号102はマーカーを表しており、具体的にはそのマーカー102は座標指定用マーカーである。ユーザーはそのマーカー102の位置を自在に移動させることができ、超音波画像の観察に基づいて腫瘍が存在している位置にマーカー102が位置決めされ、その時点において所定の入力操作を行うことにより、当該位置が腫瘍が存在している座標であると登録され、その座標上に後に説明する腫瘍マーカが表示される。なお、シェーマ像は具体的には右乳房シェーマ像100Rと左乳房シェーマ像100Lとからなるものである。それぞれのシェーマ像には右乳房及び左乳房を表すR及びLの記号が付加されている。
【0030】
シェーマ像100の下側は複数のボタンを有するツールエリアであり、そこには腫瘍マーカーの形態を選択する欄112が含まれる。そこには互いに異なる形態を持った8個の腫瘍形状が示されており、各形状の上部にはいずれかの形状を選択するためのボタン112aが表されている。その下段には腫瘍ID(識別番号)を指定するための欄110が設けられており、当該欄110は右乳房用の6つのボタン110Rと左乳房用の6つのボタン110Lとを有している。符号114はシェーマ像のタイプを選択するための欄を示しており、そこには2つのボタンが用意され、いずれかのタイプのシェーマ像を選択的に利用することが可能である。シェーマ像100の上部には位置情報104が表示される。この位置情報104はマーカ102が属する領域106及びマーカが存在する方位108を含むものである。されにその右側には現在注目している腫瘍すなわち選択されている腫瘍ID(例えば、Rt.T1)に対応付けられた計測結果が表示されている(符号116参照)。ここでその計測結果はX、Y及びZの各方向における腫瘍のサイズを表すものである。
【0031】
図3にはシェーマ像100が抜き出されて示されている。上述したようにそのシェーマ像100は右乳房シェーマ像100Rと左乳房シェーマ像100Lとに大別される。ここで、右乳房シェーマ像100Rに着目すると、当該右乳房シェーマ像100Rには5つの領域A〜Eが定義されている。中心となる基準点102は乳頭位置に相当し、それを基準としてその周りに領域A−Dが扇状の領域として定義されている。領域A−Dの開き角度は90度である。その並び順は時計回りである。
【0032】
ライン122は、立位の状態にある被検者を想定した場合における、乳頭から垂直方向を表しており、それが方位0度すなわち0時方向とされる。そして、そこから時計回り方向に角度θすなわち方位が定義される。本実施形態では、超音波診断装置において、シェーマ像上におけるマーカー102の位置がリアルタイムで監視されており、すなわちマーカー102が領域A〜Eのどこに属しているのかが随時判定されており、且つマーカ102が存在する方位すなわち角度θがリアルタイムで監視されている。ここで符号102は基準点120からマーカー102が存在する方向を表すベクトルである。ちなみに領域Eは乳頭付近の円形領域である。符号118で示される領域を独立した領域としてもよいし、当該領域が領域Dの一部とみなすようにしてもよい。また、領域A−Dの定義にあたっては、図示される円形の範囲内をもって各領域であると定義してもよいし、円形の範囲を超えて外側も含めて各領域を定義するようにしてもよい。
【0033】
左乳房シェーマ像100Lにおいては、方位の定義は右乳房の場合と全く同一であり、すなわち乳頭を基準として時計回り方向に方位が定義される。一方、領域のラベル付けについては垂直方向から反時計回り方向に順番にラベル付けがなされており、すなわち左乳房の場合とはその名称付けの方向が反対となっている。本実施形態においては、図2に示したように、マーカーを画面上で移動させている最中においてもその注目状態にあるマーカーの位置が観測されており、それに従って位置情報104(図2参照)がリアルタイム表示される。もちろん、腫瘍が存在する座標が登録された時点においても位置情報104が表示され、更に当該情報は別途所見欄(後述)にも反映される。マーカーの位置決めにあたってあるいは位置決め後において位置情報を参照できるならば、マーカーの位置決めを的確に行うことができ、すなわち誤ったマーカー設定を効果的に除外できるという利点が得られる。ちなみに方位の表現は本実施形態において時間表現が採用されているが、それが角度によって表現されてもよい。すなわち、本実施形態においては0時〜12時までが360度に対応している。方位の判定刻みは本実施形態において30分となっているが、それが15分刻みであってもよく、または10分刻みであってもよい。あるいは更に細かい刻みをもって方位を表現するようにしてもよい。
【0034】
なお、位置情報として、所属領域及び存在方位の他、中心点すなわち基準点からの距離を表示するようにしてもよい。また必要に応じて腫瘍が存在している深さ情報等を表示するようにしてもよい。
【0035】
図4には、1つの腫瘍マーカーが表されたシェーマ像の例が示されている。本実施形態では、ユーザーにより腫瘍マーカーの形状を選択することができ、すなわち超音波画像上で観察された腫瘍の形態に対応する最適なマーカー形態を選んでそれを検査レポートに反映させることが可能である。図1においてはほぼ円形のマーカーが選択されており、そのマーカーに付随して腫瘍IDであるT1が表示されている。また腫瘍T1が存在する領域及び方位がシェーマ像の上部に表現されている。
【0036】
図5には複数の腫瘍マーカーが付されたシェーマ像が示されている。右乳房については腫瘍マーカーT1,T2,T3が表示されており、左乳房については腫瘍マーカーT1が表示されている。このように本実施形態においては複数の腫瘍マーカーを表示させることが可能であり、しかも左側及び右側のそれぞれの乳房について所望の位置に任意数の腫瘍マーカを表示させることが可能である。
【0037】
図6には、他のタイプのシェーマ像が表されている。このシェーマ像124は、大別して右乳房シェーマ像126及び左乳房シェーマ像128からなり、ここで右乳房シェーマ像126は正面から見た像126Aと側面から見た像126Bとにより構成されている。同様に、左乳房シェーマ像128も正面から見た像128Aと側面から見た像128Bにより構成されている。
【0038】
図7には、図6に示した左乳房シェーマ像128が拡大図として示されている。像128Aは乳房に正対して見た場合の正面図に相当しており、すなわちXY平面を表している。ここでY軸は垂直軸に相当しX軸は垂直軸に直交する軸である。一方、その隣には像128Bが表されており、それはYZ平面を表すものである。Zは深さ方向すなわち奥行き方向の軸に相当し、Y軸及びX軸に直交するものである。像128A及び像128Bは互いにY軸を共通としている。
【0039】
本実施形態においては、正面図に相当する像128Aにおいて腫瘍の位置が登録され、そこに腫瘍マーカー130が表示されると、それと同時に、側面から見た像128B上に自動的に位置決め用マーカー134が派生的に表示される。その表示にあたっては、腫瘍マーカー130が表示されているY軸方向の高さと同じ高さにマーカー134が表示される。すなわち、表面から見た場合におけるY方向の位置と側面から見た場合におけるY方向の位置とは一致するはずであるので、ユーザーにおける位置指定の負担軽減の観点から、同じ高さにマーカー134が表示される。したがって、ユーザーはマーカー134をZ方向すなわち紙面左右方向に動かすだけで腫瘍が存在している深さを指定することが可能であり、当該位置に腫瘍マーカーを表示させることが可能である。
【0040】
図8に示す例においては、像128Bにおいて先行して腫瘍マーカー136が表示されると、上記同様に、像128Aにおいてマーカー136のY軸方向の高さと同じ高さにマーカー140が表示される。その場合においては、X方向の中央にマーカー140が表示される。これにより、最小限の移動によりマーカー140の位置決めが行えるという利点が得られる。もちろん、分離して派生するマーカー140のY方向の位置を別途ユーザーが独自に定めることも可能である。
【0041】
以上のようなプロセスによりシェーマ像に対する腫瘍マーカーの電子的な記入が完了すると、続いて所定の操作を行うことにより、図9に示す画面を表示させることが可能である。シェーマ像100の下側には所見欄142が表示されている。所見欄142は大別して右乳房用所見欄142Rと左乳房用所見欄142Lとにより構成されている。それぞれの所見欄142R及び142Lは腫瘍ID144aに対応付けられた腫瘍情報記入欄を有しており、当該腫瘍情報記入欄は具体的には領域記入欄144b、方位記入欄144c及びコメント記入欄144dにより構成される。
【0042】
ここで領域及び方位は上述したように自動的に演算されており、また自動的に記入される。コメントはユーザーによって任意の内容をもってテキストデータとして書き込まれるものであり、例えば腫瘍に関する形状等に関わる所見が記入される。本実施形態においては、このように各腫瘍毎に腫瘍IDに対応付けつつ位置情報及びコメントを管理することができ、検査レポート作成にあたっての混乱を防止でき、しかもその作成を短時間で行えるという利点がある。また後に説明するように腫瘍IDに対応付けて検査結果も管理されている。
【0043】
図10には、検査レポート情報200の構成例が示されている。検査レポート情報200は基本情報202、シェーマ情報204、腫瘍情報206、コメント情報208、計測データ210等を含むものである。基本情報202は日付や患者等を特定する情報である。シェーマ情報204はシェーマ像として選択したタイプを特定する情報である。腫瘍情報206は具体的には腫瘍別に管理された複数の個別情報からなるものであり、その個別情報は図10において符号206a,206b,206cによって表されている。具体的には個別情報206aはマーカー情報及びシェーマ座標系上での位置情報を含んでおり、ここでマーカー情報はマーカー表示座標やマーカー種別等を表す情報であり、位置情報は上述したようにマーカーが所属する領域及びそれが存在する方位を表す情報である。コメント情報は腫瘍別に管理されており、検査者においてテキストデータとして記入される情報である。計測データ210は腫瘍別に管理されており、例えばその計測データはX方向、Y方向及びZ方向のサイズや乳頭からの距離のデータである。検査レポート情報200の中に計測データを取り込むのではなく、検査レポート情報200に関連付けして計測データを管理するようにしてもよい。検査レポート情報200には超音波画像群212が関連付けられており、すなわち検査レポート情報200からそれに対応付けられた超音波画像セットを特定することが可能である。
【0044】
次に、図11を用いて本実施形態に係る超音波診断装置の動作、特に検査レポート編集に関わる動作を説明する。まず、S10においては、超音波診断が実行され、これによって複数の超音波画像が記憶部上に格納される。S12では、超音波画像を用いて計測が実行される。S14以降が検査レポート作成工程に相当している。具体的には、S14においてはシェーマ種別(シェーマ像のタイプ)がユーザーにより選択される。S16においては腫瘍IDがユーザーにより指定され、S18においては当該腫瘍IDで特定される腫瘍について腫瘍マーカーを登場させる座標が指定される。それに先立ってあるいはその後に腫瘍マーカーの形状すなわち種別が選択される。S20においては、他の腫瘍についてもマーカー表示を行うか否かが判断され、右乳房及び左乳房のそれぞれについて必要な個数のマーカーが設定される。その上でS22においてはそれぞれの腫瘍についてコメントがユーザーにより記入される。その場合においては上述して所見欄が利用される。
【0045】
以上のように、本実施形態の超音波診断装置によれば、検査レポートの作成に際して腫瘍マーカーについての位置情報が自動的に演算され、しかもそれが画面上に表示されるので、腫瘍マーカーの位置決め等にあたって誤認を防止でき、またその作業を速やかに行えるという利点がある。また上記実施形態においては、正面から見たシェーマ像と側面から見たシェーマ像とを併せて表示する場合において、一方のシェーマ像において指定された座標のうちで垂直方向の座標を利用して他のシェーマ像において初期表示するマーカーの垂直方向の位置を自動的に定めることができるので、ユーザーの負担を軽減でき、また誤った設定を未然に防止できるという利点がある。上記実施形態においては、腫瘍マーカーについての形状についてユーザー選択を行うようにしたが、更に色やサイズ等をユーザーにより可変設定できるように構成してもよい。また腫瘍マーカーを指示することによりポップアップ方式でコメントが表示されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 プローブ、16 画像形成部、18 表示処理部、22 演算制御部、24 計測部、26 レポート作成部、100 シェーマ像、102 マーカー、104 位置情報。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波画像が表示される表示画面上に、前記超音波画像と一緒に又は前記超音波画像とは別に、乳房を模式的に表すシェーマ像が表示されるようにするシェーマ像表示制御手段と、
前記シェーマ像上においてユーザーにより登録された座標に腫瘍を表す腫瘍マーカーが表示されるようにする腫瘍マーカー表示制御手段と、
前記シェーマ像上において定義される乳房診断座標系に従って前記腫瘍マーカーについての位置情報を演算する位置情報演算手段と、
前記腫瘍マーカーが付加されたシェーマ像を含む検査レポートに前記位置情報が電子的に記入されるようにする位置情報記入手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記乳房診断座標系は、前記シェーマ像を区画する複数の領域及び前記シェーマ像における乳頭位置からの方位によって定義される座標系であり、
前記腫瘍マーカについての位置情報は、前記腫瘍マーカーが属する領域及び前記腫瘍マーカーが存在する方位を表す情報である、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記表示画面上には、前記ユーザーにより座標を登録させるために座標指定マーカーが表示され、
前記位置情報演算手段は、前記座標指定マーカーの移動操作中において当該座標指定用マーカーについての位置情報を演算し、
前記座標指定用マーカーの移動操作中において当該座標指定用マーカーについての位置情報を表示する位置情報表示制御手段が設けられた、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の装置において、
前記シェーマ像は右乳房像及び左乳房像を含み、
前記右乳房像には右乳房診断座標系が定義され、且つ、前記左乳房像には左乳房診断座標系が定義され、
前記位置情報演算手段は、ユーザーが認識している乳房像が右乳房像であれば前記右乳房診断座標系に従って位置情報を演算し、ユーザーが認識している乳房像が左乳房像であれば前記左乳房診断座標系に従って前記位置情報を演算する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置において、
前記シェーマ像表示制御手段は、
互いに異なる複数のシェーマ像を格納した記憶部と、
前記複数のシェーマ像の中から、表示画面上に登場させるシェーマ像をユーザーに選択させる手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の装置において、
前記腫瘍マーカー表示制御手段は、
互いに異なる複数の腫瘍マーカーを格納した記憶部と、
前記複数の腫瘍マーカーの中から、表示画面上に登場させる腫瘍マーカーをユーザーに選択させる手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の装置において、
前記検査レポートには所見欄が含まれ、
前記所見欄は、複数の腫瘍識別子に対応付けられる複数の腫瘍情報表示部を有し、
前記各腫瘍情報表示部には、前記位置情報、及び、ユーザー入力されるコメントが表示される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
乳房に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて乳房の超音波画像を形成する画像形成手段と、
前記乳房の超音波画像上において腫瘍の計測を行う計測手段と、
前記腫瘍の計測結果が記入された検査レポートを作成する検査レポート作成手段と、
を含む超音波診断装置において、
前記検査レポート作成手段は、
表示画面上に乳房を模式的に表すシェーマ像が表示されるようにするシェーマ像表示制御手段と、
前記シェーマ像上においてユーザーにより登録された座標に腫瘍を表す腫瘍マーカーが表示されるようにする腫瘍マーカー表示制御手段と、
前記シェーマ像上において定義される乳房診断座標系に従って前記腫瘍マーカーについての位置情報を演算する位置情報演算手段と、
前記腫瘍マーカーが付加されたシェーマ像を含む検査レポートに前記位置情報が電子的に記入されるようにする位置情報記入手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−172499(P2010−172499A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18388(P2009−18388)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】