説明

超音波診断装置

【課題】Mモード画像表示用のMラインに応じてビーム走査範囲を適応的に設定する場合において、Bモード画像の幅が過剰に縮小されないようにする。
【解決手段】Bモード画像上においてMライン104が設定され、それをカバーする部分範囲Wがビーム走査範囲とされる。Mライン104はMモード画像102を形成する為のものである。部分範囲Wが下限値より下回った場合、その下限値を以てビーム走査範囲とされる。これによりビーム走査範囲が極端に狭くなってしまうことが防止される。部分範囲の両側にマージンを付加し、これによりビーム走査範囲を設定することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、Bモード画像とMモード画像とを同時に表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置において、B/Mモードは、Bモード画像と同時にMモード画像を表示するものである。Bモードは二次元断層画像としてのBモード画像を表示するモードであり、Mモードは、一般に、任意のビーム方位上のデータ列を縦軸上に表わし、時間軸を横軸としたMモード画像を表示するモードである。これに関し、従来から任意Mモード(あるいはFree Angular M-Mode)なるモードが知られている。かかるモードでは、Bモード画像上においてユーザーにより任意に設定されたライン上のデータ列が抽出され、その時間変化がMモード画像として表示される。これについては特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された超音波診断措置においては、ラインの両端が特定され、その範囲内においてだけ超音波ビームが実際に走査されている。これによれば、Bモード画像を形成するための走査範囲を小さくしてそのフレームレートを向上でき、つまり不要な方位へのビーム走査を省略できるので、Mモード画像の時間分解能を高められる。特許文献1には、2つのラインに対応する2つのMモード画像を形成すること等についても記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−204201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Bモード画像上において、Mモード画像形成用のラインは任意の位置に任意の角度で設定される。場合によっては任意の経路(形状)で設定される。よって、ライン全体をカバーする部分範囲の大きさも状況に応じて変動する。ラインがいずれかのビーム方位に近い角度で設定されると、それをカバーする部分範囲は非常に狭くなり、ラインがビーム方位に完全に一致すると、部分範囲はビーム一本分に相当することになる。そのような場合、表示されるBモード画像の横幅つまりビーム走査方向の幅が過剰に小さくなって、画像観察上の不便を生じさせる。つまり、Bモード画像としての構造的な認識を行えない程度までその画像幅が狭くなると、ラインが設定されている背景組織の理解が損なわれてしまう。また、ラインの位置等を変更しようとする場合に背景情報が不足してしまうので、どのように変更したらよいのかを事前に把握困難となる。
【0006】
本発明の目的は、ラインの設定幅に応じてビーム走査範囲を定めるにあたり、過剰にビーム走査範囲が狭められてその理解が妨げられる問題を防止することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、ライン変更時におけるユーザーの便宜を図り、その操作性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超音波診断装置は、超音波ビームを形成する送受波手段と、前記超音波ビームの走査により形成されるBモード画像上においてMモード画像表示用ラインのユーザー入力を受け付ける入力手段と、ビーム走査方向における前記Mモード画像表示用ラインをカバーする部分範囲に基づいて、前記超音波ビームの走査がなされるビーム走査範囲を適応的に設定するビーム走査制御手段と、を含み、前記ビーム走査制御手段は、前記Mモード画像表示用ラインの再設定により前記部分範囲が大きくなった場合にそれに連動させて前記ビーム走査範囲を拡大する拡大機能と、前記Mモード画像表示用ラインの再設定により前記部分範囲が小さくなった場合にそれに連動させて前記ビーム走査範囲を縮小する縮小機能と、前記ビーム走査範囲の過剰縮小を防止するために、前記ビーム走査範囲が下限値を超えて縮小することを制限する過剰縮小制限機能と、を有する。
【0009】
上記構成によれば、Mモード画像表示用ラインが設定されると、それに適合するビーム走査範囲が設定されるので、必要な部分に対してだけビーム走査を行ってフレームレート(あるいはボリュームレート)を上げることができる。このようなビーム走査範囲の適応的な設定(拡大、縮小)はビーム走査制御手段によってなされる。このビーム走査範囲制御手段は更に過剰縮小制限機能を具備する。すなわち、ビーム走査範囲が小さくなり過ぎると、それに対応するBモード画像の幅も狭くなり過ぎて、画像観察上あるいはライン設定上支障が生じるので、過剰にBモード画像が狭くならないようにするものである。下限値は固定値あるいはプリセット値であってもよいし、装置の動作条件(診断深さ等)に応じて可変設定されてもよい。例えば、診断距離が深い場合にはフレームレートを優先して下限値を引き下げ、診断距離が浅い場合にはフレームレートよりも画像サイズを優先して下限値を高めるのが望ましい。
【0010】
望ましくは、超音波診断装置が、更に、前記ビーム走査制御手段によって設定された前記ビーム走査範囲内での超音波ビームの走査により得られるフレームデータに基づいて、前記ビーム走査方向のサイズが変動するサイズ変動型Bモード画像を形成する手段と、前記フレームデータから、前記サイズ変動型Bモード画像上において設定されたMモード画像表示用ラインに対応するラインデータを抽出し、これによりMモード画像を形成する手段と、前記サイズ変動型Bモード画像と前記Mモード画像とを画面上に表示する手段と、を含む。これはいわゆるB/Mモードに相当するものであるが、上記のようにサイズ変動型Bモード画像の表示に当たって、そのサイズが過剰に小さくなってしまうことを防止する仕組みが働いているので、Mモード画像を生じさせている部位をBモード画像上において空間的に認識できなくなってしまうことを防止できる。あるいは、Mモード画像の分解能の最大値を超えて、フレームレートが過剰に上昇してしまう事態(過剰スペック状態)を回避できる。
【0011】
望ましくは、前記Mモード画像表示用ラインの初期設定時においては、初期ビーム走査範囲に対応する初期サイズをもった初期Bモード画像が画面上に表示され、前記Mモード画像表示用ラインの初期設定以降においては、前記ビーム走査範囲に対応する前記サイズ変動型Bモード画像が画面上に表示される。Mモード画像表示用ラインの初期設定時には、対象組織の全体把握や空間的認識を向上するため、あるいは、ライン誤設定を防止するため、フレームレートよりもサイズを優先し、ビーム走査方向に大きなサイズをもったBモード画像が初期表示されるように構成するのが望ましい。その初期サイズはプリセットしておいてもよいし、送受信条件から適応的に設定される値としてもよい。
【0012】
望ましくは、前記初期ビーム走査範囲に対する前記ビーム走査範囲の位置に応じて、前記初期Bモード画像の初期表示エリア内での前記サイズ変動型Bモード画像の表示位置が定められ、前記初期ビーム走査範囲と前記ビーム走査範囲の位置関係が画面上に再現される。この構成によれば、Mモード画像表示用ラインの位置を変化させると、それに伴い、初期表示エリア内においてBモード画像の位置までもが変化することになる。例えば、ビーム走査方向の正方向へビーム走査範囲が移動したならば、初期表示エリア内においてBモード画像が同じ方向へ移動することになる。逆方向の場合も同じである。
【0013】
望ましくは、前記下限値は当該超音波診断装置の動作条件に基づいて可変設定される。動作条件は、望ましくは、診断深さであり、その他にはフレームレート、診断部位等があげられる。下限値をユーザーにおいて自由に可変設定できるようにしてもよい。
【0014】
望ましくは、前記ビーム走査範囲は前記部分範囲にマージンを付加した範囲として設定される。ビーム走査方向におけるラインカバー範囲(部分範囲)をそのままビーム走査範囲とした場合、ラインカバー範囲しか画像化されないことになるので、ビーム走査方向にラインを移動させたい場合や拡大しようとする場合に背景情報が不足してしまうが、マージンを付加すれば、幾分かの背景情報を得られるので、ライン再設定操作の便宜を図れる。つまり、その操作を迅速かつ容易に行える。望ましくは、前記マージンは当該超音波診断装置の動作条件に基づいて可変設定される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、ラインの設定幅に応じてビーム走査範囲を定めるにあたり、過剰にビーム走査範囲が狭められてその理解が妨げられる問題を防止できる。あるいは、ライン変更時におけるユーザーの便宜を図ることができ、その操作性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されている。図1はその全体構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は、生体に対して超音波の送受波を行って、それによって得られた受信情報に基づいて超音波画像を形成する医療用の装置である。
【0018】
プローブ10は、1Dアレイ振動子を有している。1Dアレイ振動子は複数の振動素子からなるものであり、それによって超音波が送受波される。1Dアレイ振動子において超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子的に走査される。電子走査方式としては、電子リニア走査、電子セクタ走査等が知られている。1Dアレイ振動子に替えて、三次元エコーデータを取り込むための2Dアレイ振動子を設けることも可能である。プローブ10は生体表面上に当接して用いられ、あるいは、体腔内(例えば食道内)に挿入して用いられるものである。
【0019】
送信部12は送信ビームフォーマとして機能する。すなわち送信部12はアレイ振動子に対して複数の送信信号を所定の遅延関係をもって出力する。これによりアレイ振動子において送信ビームが形成される。生体内からの反射波はアレイ振動子において受波されて、これによってアレイ振動子から複数の受信信号が並列的に受信部14へ出力される。受信部14は受信ビームフォーマーであり、複数の受信信号に対して整相加算処理を実行することにより受信ビームに相当するビームデータを出力する。受信部14は本実施形態において各受信チャンネルごとに設けられたA/D変換機を有している。
【0020】
記憶部16は、本実施形態においてシネメモリとして構成される。記憶部16はリングバッファの構造を有しており、すなわち現在から過去一定期間までに渡ってフレーム列を格納するものである。一つのフレームは一つの走査面に対応し、ここで一つのフレームは複数のビームデータにより構成されるものである。現在のフレームが受信部14から直接的にデジタルスキャンコンバータ(DSC)18に出力されるようにしてもよい。ちなみに、記憶部16には上記のように複数のフレーム列が格納される為、フリーズ操作後に、記憶部16からフレーム列を読み出して超音波画像のループ再生等を行える。
【0021】
DSC18は、フレームデータに基づいて二次元断層画像としてのBモード画像を形成するモジュールである。DSC18は、周知のように座標変換機能、補間処理機能等を有している。DSC18は図示されていないフレームメモリを有しており、そのフレームメモリ上に座標変換後の表示フレームデータすなわちBモード画像データが格納される。そこから読み出されたデータが表示処理部20に出力される。
【0022】
Bモード画像上に設定されたMラインに対応するMモード画像を形成する場合には、本実施形態において、DSC18内のフレームメモリに格納されたBモード画像データからMラインに対応するラインデータが抽出され、そのラインデータが表示処理部20へ送られる。表示処理部20においては各フレームごとのラインデータを時間軸上に揃えることによりMモード画像を構成している。この技術自体は公知である。
【0023】
表示処理部20はカラーコーティング機能、画像合成機能等の各種の表示処理機能を有している。本実施形態においては特にMモード画像の形成機能を有している。ただし、当該機能がDSC18上の機能として実現されてもよい。表示処理部20は、B/Mモードにおいて、Bモード画像とMモード画像とを合成してなる合成画像の画像データを表示器28に出力する。その際、各画像に対して必要に応じてグラフィック画像が合成される。そのグラフィック画像はグラフィック処理部26から供給されている。グラフィック画像には、後述するMラインを表すグラフィック、その他のグラフィックが含まれる。
【0024】
制御部22は、図1に示される各構成の動作制御を行うものであり、本実施形態において制御部22はCPUと動作プログラムとによって構成される。制御部22は特にビーム走査制御機能を有しており、B/Mモードを実行する際において、Mラインの設定状況に応じてビーム走査範囲をリアルタイムで適応的に設定する機能を有している。また制御部22はグラフィック処理部26に対して、グラフィック画像の内容を指示する機能を有している。制御部22には操作パネル24が接続されている。操作パネル24はトラックボールやキーボード等を含むものである。それらの入力デバイスを利用してMラインの入力設定を行える。
【0025】
次に図2以降の各図を参照し、図1に示した超音波診断装置の動作を詳述する。図2には、B/Mモードあるいは任意Mモードを選択した場合に表示される画像が示されている。ここでは画面上にはBモード画像100が表示されている。このBモード画像100は初期Bモード画像であり、ビーム走査方向(θ方向)の大きさは規定のサイズとなっている。深さ方向(すなわちr方向)のサイズはユーザーにより設定可能である。このような初期Bモード画像上においてユーザーによりMライン104が初期設定される。本実施形態においては、初期表示されるMラインの位置を変更したり回転させたりすることにより任意の位置に任意の姿勢でMラインを設定することが可能である。もちろん、その長さを自在に可変できるように構成してもよい。
【0026】
ここで、Mライン104の一方の端点がAで表されており、他方の端点がBで表されている。ビーム走査方向におけるMライン104が存在する部分範囲がWで表されている。このWは同時にビーム走査範囲を表すものである。すなわち初期Bモード画像100の形成にあたっては、図示されるように拡大されたビーム走査範囲(規定ビーム走査範囲)においてビーム走査が実行され、拡大された初期Bモード画像が形成されるが、そのような初期設定以降においては部分範囲Wがビーム走査範囲として設定され、その範囲内においてビーム走査が繰り返し実行される。ここでは、部分範囲Wつまりビーム走査範囲の一方の端がθ1で表されており、他方の端がθ2で表されている。そのような狭い角度をもった部分範囲内でのみビーム走査を行うことにより単位時間あたりのフレーム数すなわちフレームレートを向上でき、これによってMモード画像における時間分解能を向上することが可能である。
【0027】
ちなみに、図2においてはBモード画像100の右側にこれから形成されるMモード画像102が模式的に示されている。Mモード画像の縦軸r`は上記のMライン104に対応しており、すなわち当該Mライン104上のエコーデータ列をマッピングする方向がr`方向である。Mモード画像の横軸tは時間軸であり、各フレーム毎に一本のラインが描画されて、それが時間軸上に沿って繰り返されることによりMモード画像が形成される。
【0028】
なお、本実施形態においては一本のMライン104が設定されていたが、任意の個数のMラインが設定されるようにしてもよい。その場合でも一つのMラインに対応して一つのMモード画像が表示されることになる。
【0029】
図2に示したように、初期Bモード画像100上においてユーザーによりMライン104が設定されると、図3に示されるように、ビーム走査範囲が縮小設定されて縮小されたBモード画像106が表示され、同時に、Mライン104に対応したMモード画像102が表示される。実際には、Mモード画像102は時間軸に沿って成長する画像として表示される。図示の例で、ビーム走査範囲はMライン104に相当する関心領域つまり部分範囲Wに相当し、その範囲における一方の端はθ1であり、他方の端はθ2である。つまり、既に説明した通りMライン104が設定されると、その両端の位置が計算され、それらの位置に対応するビームアドレスが走査開始アドレス及び走査終了アドレスとして設定される。
【0030】
図3において、符号200は初期Bモード画像に対応する初期表示エリアを表している。このエリアは、本実施形態では不変であり、すなわちMラインの動的な設定によっても初期表示エリア200は維持され、当該初期表示エリア200内において部分画像としてのBモード画像106が表示される。つまり、Mライン104をビーム走査方向の一方側に動かせば画面上においても当該方向にBモード画像が運動し、Mライン104の角度を変更したり或いはそれを拡大したりして部分範囲Wが拡大したような場合にはそれに応じてBモード画像のサイズをも拡大する。すなわち、初期ビーム走査範囲に対する現在のビーム走査範囲の位置に応じて、初期Bモード画像の初期表示エリア内での現在のBモード画像の表示位置が定められ、これによって、初期ビーム走査範囲と現在のビーム走査範囲の位置関係が画面上に再現される。
【0031】
図4及び図5には、Mラインの再設定が行われた場合の様子が示されている。図4の(A)において、Bモード画像108はMライン112に対応する画像であり、その両端点はA1,B1である。ユーザー操作によりそのMライン112が平行移動されて新しくMライン112aが設定されると、図4の(B)に示すような状態となる。すなわち、Mライン112aの両端点A2,B2の間をカバーするサイズをもったBモード画像110が表示される。すなわち、ユーザーから見てあたかもBモード画像が拡大し且つ振り子運動をしたような印象を受ける。
【0032】
これと同様に、図5の(A)において、Mライン114を回転させて図示されるMライン114aとした場合、図5の(B)に示すように、Mライン114aの両端点A2,B2をカバーする範囲に対応するBモード画像111が表示される。よって、ユーザーは画面上において組織観察エリアが拡大されたような印象を受ける。
【0033】
以上のように、図1に示した制御部はビーム走査制御機能と共に画像表示制御機能を有しており、Mラインの再設定により部分範囲が大きくなった場合にそれに連動させてビーム走査範囲を拡大する機能と、Mラインの再設定により部分範囲が小さくなった場合にそれに連動させてビーム走査範囲を縮小する機能と、を有している。更に、制御部は後述する過剰縮小制限機能も有しているが、これについては後に図7及び図8を用いて詳述する。
【0034】
図6を用いてマージンの設定について説明する。図6において、Mライン116に対応する部分範囲W1はビーム走査方向におけるθ1からθ2までの範囲である。そのような部分範囲W1に対応するBモード画像を表示した場合、その周辺の画像情報が得られない為に、Mライン116を移動させる場合において情報不足となってしまうことが危惧される。すなわち、背景がもう少し広がって表示されていればMラインの設定や変更を円滑に行わせることが可能である。そこで、図6に示す構成例では、部分範囲W1の両側にマージン領域Δθが付加されており、そのようなマージン領域の付加をもって新しく走査範囲W2が定義されている。このようなビーム走査範囲の設定によれば、Bモード画像118が現在のMライン116を含みつつもその両端点を超えてある程度広がった領域を有する為、Mラインの移動時において予測可能性を高められるという利点がある。ビーム走査範囲W2の両端は図6においてθ3,θ4で示されている。本実施形態において、Mライン116を移動させると、その更新レートに従ってビーム走査範囲がリアルタイムで更新されるので、部分範囲が拡大する場合にはビーム走査範囲も部分範囲にマージンを加えながら徐々に拡大する。そのような拡大途中において拡大された背景情報をユーザーに提供できるという利点がある。
【0035】
上記のマージン領域のサイズΔθは固定値であってもよいが、装置の動作条件に応じて可変設定されるようにしてもよい。例えばフレームレートや診断深さ等に基づいてその大きさを設定してもよく、それ以外の参照情報としては診断部位、科目、診断者等が挙げられる。
【0036】
次に、過剰縮小制限機能について説明する。図7の(A)にはMライン120が示されており、そのMラインに対応する部分領域がW3で示されている。ユーザーによりMラインが再設定されてMライン120aとなった場合、(B)に示すような幅の極めて狭いBモード画像が表示されてしまうという問題が予想される。ここで、その幅はW4で示されている。このようなかなり幅の狭いBモード画像を表示しても組織との関係においてMラインがどこに設定されているのかを把握困難であり、またMモード画像の時間方向の分解脳の上限値を超えてBモードの幅を過剰に狭くしてしまっている可能性もある。
【0037】
そこで、図7の(C)に示すように、一定の下限値を超えて部分範囲が狭くなってしまう場合には、その下限値にビーム走査範囲を固定することにより、必要以上の縮小を防止するのが望ましい。すなわち、ここでは下限値としてWaが設定されており、それがビーム走査範囲W5に対応している。ビーム走査範囲は図7の(C)においてθ5からθ6の範囲として定義されている。これは、図6において説明したマージン設定に結果として近いものであるが、Bモード画像のビーム走査方向の幅が極端に小さくなった場合に例外的に適応される処理という意味において、図7に示した処理は図6に示したマージン設定とは異なるものである。但し、以下に説明するように、両方の機能が同時に発揮されるようにしてもよい。
【0038】
なお、下限値は、例えば診断深さすなわち診断距離に応じて可変設定されるのが望ましい。あるいは、フレームレートに基づいて可変設定されるようにしてもよい。更に他の情報に基づいて可変設定されるようにしてもよい。
【0039】
次に、図8を用いて、図1に示した装置動作例を説明する。図8に示される各工程は図1に示した制御部の制御によって実現されるものである。まず、S101においては規定の走査範囲をもって超音波ビームが走査され、これによって初期Bモード画像が表示される。その初期Bモード画像上においてMラインが設定される(図2参照)。ここで、初期Bモード画像の初期走査範囲については固定値であってもよいし変動値であってもよい。S102では、設定されたMラインのビーム走査方向における両端が特定される。すなわち部分範囲が特定される。S103では部分範囲の両側にマージンを設定するか否かが判断される。これについては予めユーザーによって選択しておくのが望ましい。マージンの設定が必要な場合、S104において部分領域の両側にマージンが付加されて、これによってビーム走査範囲(候補)の両端が特定される。一方、マージンの設定が不要な場合には、部分範囲がビーム走査範囲(候補)とされる。
【0040】
S105では以上のように仮設定されたビーム走査範囲が下限値を下回っているか否かが判断される。ここで、下回っていると判断された場合、S106において下限値をもってビーム走査範囲とする設定変更がなされる(図7(A)参照)。一方、S105において下限値よりビーム走査方向が大きいと判断された場合にはS107がそのまま実行される。
【0041】
S107では、以上のように設定されたビーム走査範囲に基づいて走査条件が実際に設定される。すなわち、ビーム走査の開始点及び終了点が定められ、それが送信部及び受信部に対して与えられる。S108では、この処理を続行するか否かが判断され、続行される場合にはS101以降の各処理が繰り返し実行される。
【0042】
ちなみに、S104において用いられるマージンについて、Aで示すように別途計算されるようにしてもよい。またS106で用いられる下限値についてもBで示すように別途計算されてもよい。すなわちマージンや下限値を装置の動作条件に応じて適応的に設定すれば、より適切な表示内容を構成できるという利点がある。
【0043】
上記実施形態によれば、設定されたMラインに応じてビーム走査範囲を制限することにより、フレームレートを向上でき、これによってMモード画像の時間分解能を上げることができるという利点がある。またMラインをカバーする部分範囲が極端に小さくなった場合においても、一定のサイズをもったBモード画像表示を維持できるので、使い勝手が悪くなってしまうという問題も未然に防止できる。更に、マージンの付加を行うようにすれば、Mラインの位置等を変更する場合においても、十分な背景情報を得て的確な設定を行えるという利点がある。また、そのようなマージンが付加されたような場合においても上述した過剰縮小制限機能を働かせることができる。その場合において、マージンを無視して過剰縮小制限機能を働かせるようにしても良いし、下限値にマージンを加えたものを新しく下限値として更新するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明にかかる超音波診断装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】初期Bモード画像を示す図である。
【図3】縮小されたBモード画像とMラインに対応するMモード画像等とを示す図である。
【図4】Mラインを平行移動させた場合の様子を示す説明図である。
【図5】Mラインを回転させた場合の様子を示す説明図である。
【図6】マージンを説明する為の説明図である。
【図7】過剰縮小制限機能を説明する為の説明図である。
【図8】図1に示した装置の動作例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
10 プローブ、12 送信部、14 受信部、18 DSC、20 表示処理部、28 表示器、22 制御部、26 グラフィック処理部、24 操作パネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波ビームを形成する送受波手段と、
前記超音波ビームの走査により形成されるBモード画像上においてMモード画像表示用ラインのユーザー入力を受け付ける入力手段と、
ビーム走査方向における前記Mモード画像表示用ラインをカバーする部分範囲に基づいて、前記超音波ビームの走査がなされるビーム走査範囲を適応的に設定するビーム走査制御手段と、
を含み、
前記ビーム走査制御手段は、
前記Mモード画像表示用ラインの再設定により前記部分範囲が大きくなった場合にそれに連動させて前記ビーム走査範囲を拡大する拡大機能と、
前記Mモード画像表示用ラインの再設定により前記部分範囲が小さくなった場合にそれに連動させて前記ビーム走査範囲を縮小する縮小機能と、
前記ビーム走査範囲の過剰縮小を防止するために、前記ビーム走査範囲が下限値を超えて縮小することを制限する過剰縮小制限機能と、
を有する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記ビーム走査制御手段によって設定された前記ビーム走査範囲内での超音波ビームの走査により得られるフレームデータに基づいて、前記ビーム走査方向のサイズが変動するサイズ変動型Bモード画像を形成する手段と、
前記フレームデータから、前記サイズ変動型Bモード画像上において設定されたMモード画像表示用ラインに対応するラインデータを抽出し、これによりMモード画像を形成する手段と、
前記サイズ変動型Bモード画像と前記Mモード画像とを画面上に表示する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記Mモード画像表示用ラインの初期設定時においては、初期ビーム走査範囲に対応する初期サイズをもった初期Bモード画像が画面上に表示され、
前記Mモード画像表示用ラインの初期設定以降においては、前記ビーム走査範囲に対応する前記サイズ変動型Bモード画像が画面上に表示される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記初期ビーム走査範囲に対する前記ビーム走査範囲の位置に応じて、前記初期Bモード画像の初期表示エリア内での前記サイズ変動型Bモード画像の表示位置が定められ、
前記初期ビーム走査範囲と前記ビーム走査範囲の位置関係が画面上に再現される、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置において、
前記下限値は当該超音波診断装置の動作条件に基づいて可変設定される、ことを特徴とする超音波診断措置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の装置において、
前記ビーム走査範囲は前記部分範囲にマージンを付加した範囲として設定される、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記マージンは当該超音波診断装置の動作条件に基づいて可変設定される、ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−99259(P2010−99259A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273271(P2008−273271)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】