超音波診断装置
【課題】超音波のフォーカス位置を、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値が得られる適切な位置に、ユーザの操作なしに設定すること。
【解決手段】超音波診断装置は、超音波プローブと、超音波プローブを介して被検体との間で超音波を送受信する送受信部と、送受信部により得られた複数のエコー信号を記憶するエコー信号記憶部と、記憶された複数のエコー信号を遅延加算して複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数の受信信号を発生する受信遅延加算処理部と、発生された受信信号から複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数のドプラ信号を発生するドプラ信号発生部と、発生された複数のドプラ信号から特定の血流特性を有するドプラ信号を選択し、選択したドプラ信号に対応する受信フォーカス位置を決定するフォーカス位置決定部とを具備する。
【解決手段】超音波診断装置は、超音波プローブと、超音波プローブを介して被検体との間で超音波を送受信する送受信部と、送受信部により得られた複数のエコー信号を記憶するエコー信号記憶部と、記憶された複数のエコー信号を遅延加算して複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数の受信信号を発生する受信遅延加算処理部と、発生された受信信号から複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数のドプラ信号を発生するドプラ信号発生部と、発生された複数のドプラ信号から特定の血流特性を有するドプラ信号を選択し、選択したドプラ信号に対応する受信フォーカス位置を決定するフォーカス位置決定部とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォーカス位置調整機能を有する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超音波診断装置を用いて心臓の弁疾患患者の重症度を判断する際、血液の逆流が噴出している弁口付近に、ユーザが超音波のフォーカス位置を設定する。設定した受信フォーカス位置における超音波のドプラ信号に基づいて、逆流している血流の最高流速値および逆流している血液量の最大値から、弁疾患患者の重症度を判断する。
【0003】
しかしながら、フォーカス位置を血液の逆流が噴出している弁口付近に設定したとしても、得られるドプラ信号は、血液の逆流が一定方向に噴出していないこと、装置の感度や信号対雑音比、ユーザのスキャンテクニックに依存するため、必ずしも逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値を示していないことがある。これらのことから、従来の弁口付近におけるフォーカス位置で測定されたドプラ信号では、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値を正確に測定できていない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、超音波のフォーカス位置を、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値が得られる適切な位置に、ユーザの操作なしに設定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0006】
本発明の第1局面による超音波診断装置は、超音波プローブと、超音波プローブを介して被検体との間で超音波を送受信する送受信部と、送受信部により得られた複数のエコー信号を記憶するエコー信号記憶部と、記憶された複数のエコー信号を遅延加算して複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数の受信信号を発生する受信遅延加算処理部と、発生された受信信号から複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数のドプラ信号を発生するドプラ信号発生部と、発生された複数のドプラ信号から特定の血流特性を有するドプラ信号を選択し、選択したドプラ信号に対応する受信フォーカス位置を決定するフォーカス位置決定部とを具備する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、超音波のフォーカス位置を、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値が得られる適切な位置に、ユーザの操作なしに設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る超音波診断装置10の構成を示す図である。
【図2】図2は、本実施形態に係り、フォーカス位置調整機能において、処理手順の一例を示す流れ図である。
【図3】図3は、Bモードおよびカラードプラモードから生成された画像において、連続波ドプラモードを行う音線マーカー上に、受信フォーカス位置を示すフォーカスマークを設定しない例を示す図である。
【図4】図4は、FFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像と、このトレース像に対するsMAPとを示す図である。
【図5】図5は、図4と異なる受信フォーカス位置において、FFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像と、このトレース像に対するsMAPとを示す図である。
【図6】図6は、受信フォーカス位置と、各々の受信フォーカス位置における血流速の最高値との関係の一例を示す図である。
【図7】図7は、Bモードおよびカラードプラモードから生成された画像上に図6における血流速の最高値に対応する受信フォーカス位置Rを表すフォーカスマークと、この受信フォーカス位置RにおけるFFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像とを示す図の一例である。
【図8】図8は、音線マーカーを0°とした走査方向の角度と超音波ビームの振幅の平均値とを示す図である。
【図9】図9は、受信フォーカス位置と、各々の受信フォーカス位置におけるドプラ波形のトレース像に囲まれた面積(血流量)との関係の一例を示す図である。
【図10】図10は、心電図(ECG)信号と同期して、異なる受信フォーカス位置において、1心拍期間の複数のドプラ信号からFFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像の一例を示す図である。
【図11】図11は、従来の受信フォーカス位置を弁口付近に設定し、FFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像の一例を示す図である。
【図12】図12は、従来の超音波診断装置100の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は本実施形態に係る超音波診断装置10のブロック構成図を示している。同図に示すように、本超音波診断装置10は、超音波プローブ11、装置本体12、装置本体12に接続されユーザからの各種指示・命令・情報を装置本体12に取り込むための入力装置13、表示部14とから構成される。入力装置13は、図示しないが、関心領域(ROI)などの設定操作を行うためのトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボードを有する。また、装置本体12は、送受信部20、Bモードデータ生成部21、ドプラ信号発生部22、カラードプラデータ生成部23、連続波ドプラ(以下SCWと称する)データ生成部24、システムコントローラ25、エコー信号記憶部26、受信遅延加算処理部27、ドプラ信号解析部28、データ記憶部29、フォーカス位置決定部30、スキャンコンバーター31を有している。加えて装置本体12には、被検体の心電波形を収集する心電計40が別途設けられている。
【0011】
超音波プローブ11は、圧電セラミックス等の音響/電気可逆的変換素子としての圧電振動子を有する。複数の圧電振動子は並列され、超音波プローブ11の先端に装備される。なお、一つの振動子が一チャンネルを構成するものとして説明する。
【0012】
送受信部20は、レートパルス発生器201と、送信遅延回路202と、駆動回路203と、プリアンプ204とから構成される。レートパルス発生器201は、Bモード法、カラードプラ法及びパルスドプラ法において、図示していない基準信号発生部から供給される基準信号(クロック)に基づいて、送信超音波の繰り返し周期を決定し、レートパルスを発生する。
【0013】
送信遅延回路202は、レートパルス発生器から供給されるレートパルスあるいは連続波に、超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与える。駆動回路203は、レートパルスに同期して、超音波プローブ11に内蔵された圧電振動子を駆動するためのパルス状の駆動信号を発生する。連続波ドプラモードのとき、駆動回路203は、連続的に駆動信号を発生する。
【0014】
被検体からのエコーは、圧電振動子によって複数の電気信号(エコー信号)に変換される。プリアンプ204は、複数のエコー信号を個々に増幅し、ディジタル信号に変換する。
【0015】
エコー信号記憶部26は、送受信部20から出力される受信遅延加算前のエコー信号を記憶する。ディジタルビームフォーマとも呼ばれる受信遅延加算処理部27は、エコー信号記憶部26に記憶された圧電振動子ごとのエコー信号に対して、細いビーム幅を得るため所定の深さからの受信超音波を集束するための遅延時間と、所定方向からの受信超音波に対して強い受信指向性を設定するための遅延時間とを与える。複数の振動子に対する遅延時間のセットを受信遅延パターンという。システムコントローラ25は、フォーカス深度の異なる複数の受信遅延パターンを図示していない内部メモリに記憶している。受信遅延加算処理部27は、システムコントローラ25からの受信遅延パターンに従って複数のエコー信号を加算する。この加算により受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。この送信指向性と受信指向性とにより超音波送受信の総合的な指向性が決定される(この指向性により、いわゆる「超音波走査線」が決まる。)。
【0016】
Bモードデータ生成部21は、包絡線検波器210、対数変換器211、アナログディジタル変換器(以下A/D変換器)212を備えている。Bモードデータ生成部21への入力信号、即ち、受信遅延加算処理部27から出力された受信信号に対して、包絡線検波器210は、包絡線検波を行う。対数変換器211は、検波信号の振幅を対数変換して弱い信号を相対的に強調する。A/D変換器212は、この対数変換器211の出力信号をディジタル信号に変換し、Bモードデータを生成する。
【0017】
ドプラ信号発生部22は、ミキサー220と低域通過フィルタ(以下LPF)221を備えている。ミキサー220は、受信遅延加算処理部27からの出力信号に、送信周波数と同じ周波数f0をもつ基準信号を掛け合わせる。この掛け合わせによりドプラ偏移周波数fdの成分の信号と(2f0+fd)の周波数成分を有する信号とが得られる。LPF221は、ミキサー220からの2種の周波数成分を有する信号のうち、高い周波数成分(2f0+fd)の信号を取り除く。ドプラ信号発生部22は、高い周波数成分(2f0+fd)の信号を取り除くことにより、ドプラ偏移周波数fdの成分を有するドプラ信号を生成する。なお、ドプラ信号発生部22として、直交検波方式を採用することも可能である。
【0018】
カラードプラデータ生成部23は、2チャンネルから構成されるA/D変換器230、速度/分散/Power演算部231を備えている。A/D変換器230は、ドプラ信号発生部22のLPF221から出力されたドプラ信号、または、直交交検波されたアナログ信号をディジタル信号に変換する。速度/分散/Power演算部231は、図示しないが、MTIフィルタ、自己相関演算器からなる。MTIフィルタは、A/D変換器230から出力されるドプラ信号に対して、臓器の呼吸性移動や拍動性移動などに起因するドプラ成分(クラッタ成分)を除去する。自己相関演算器は、MTIフィルタによって血流情報のみが抽出されたドプラ信号に対して自己相関値を算出し、更に、この自己相関値に基づいて血流の平均速度値や、分散値等を算出する。カラードプラデータ生成部23は、複数のドプラ信号に基づく血流の平均速度値や分散値等からカラードプラデータを生成する。
【0019】
SCWデータ生成部24は、高域通過フィルタ(以下HPF)240と、アナログディジタル変換器(以下A/D変換器)241と、高速フーリエ変換(以下FFT)演算部242を備えている。高域通過フィルタ(以下HPF)240は、ドプラ信号発生部22で発生されたドプラ信号に対して、臓器の呼吸性移動や拍動性移動などに起因するドプラ成分(クラッタ成分)を除去する。A/D変換器241は、HPF240から出力されたドプラ信号をディジタル信号に変換する。FFT演算部242は、A/D変換器241によってディジタル信号に変換されたドプラ信号に対して、高速フーリエ変換で周波数分析を行う。SCWデータ生成部24は、複数のドプラ信号に基づく周波数分析から、SCWデータを生成する。SCWデータは、例えば、図4左側のように表示部14で表示される。縦軸が速度を表している。横軸はSCWデータが得られた時間である。Velocityと記載された横軸が速度ゼロを表している。
【0020】
ドプラ信号解析部28は、FFT演算部242の周波数分析に基づくドプラ波形のトレース像に対して一つのsMAPを生成する。すなわちsMAPは、受信フォーカス位置ごとに生成される。sMAPとは、上記トレース像に対して、ある任意の期間(解析期間)を周波数ごとに時間軸方向に探索し、ドプラ信号(速度成分)が特定の閾値以上で存在する周波数帯すなわち速度帯に「1」を割り当て、信号が存在しない周波数帯すなわち速度帯に「0」を割り当てる図である。つまり、sMAPは、血流成分の有無を示す図である。例えば、図4の左側に示すドプラ波形のトレース像に対するsMAPは、図4の右側のようになる。この場合、トレース像の信号存在領域は、AからBまでの区間である。生成したsMAPから、血流速(ここでは逆流)の最高値(以下最高流速値)を求める。例えば、図4の右側のsMAPにおいては、Bに対応する点が血流速の最高値(逆流なので速度はマイナス成分となる)である。なお、速度成分の絶対値、例えば、図4左側のドプラ波形のトレース像に対して、速度の絶対値からsMAPを生成し、最高流速値を求めてもよい。なお、血流速の逆流成分、例えば、図4左側のVelocityと記載された横軸以下の速度帯からsMAPを生成し、最高流速値を求めてもよい。sMAPを生成するとき、ドプラ波形のトレース像をそのまま用いるのか、トレース像の絶対値を用いるのか、トレース像の逆流成分のみ用いるのかはユーザ指示により選択的である。
【0021】
ある任意の期間は、後述する心電計40と同期させて、例えば、1心拍期間とすることも可能である。例えば図10は、異なる受信フォーカス位置において、1心拍期間の複数のドプラ信号からFFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像を示す図である。図10において、1心拍期間における四角形ABCD内部のドプラ波形のトレース像に対してひとつのsMAPを生成し、四角形A’B’C’D’内部のドプラ波形のトレース像に対して別のsMAPを生成する。それぞれのsMAPからそれぞれの最高流速値を求める。なお、ドプラ信号解析部28は、ドプラ波形のトレース像で囲まれた逆流範囲の面積を求めることも可能である。この面積は、受信フォーカス付近を流れる血液量に対応する。
【0022】
データ記憶部29は、ドプラ信号解析部28で得られた最高流速値と、この最高流速値に対応する受信フォーカス位置とを記憶する。なお、データ記憶部29は、上記トレース像で囲まれた面積と、この面積に対応する受信フォーカス位置とを記憶することも可能である。
【0023】
フォーカス位置決定部30は、データ記憶部29に記憶された複数の最高流速値とそれぞれの最高流速値に対応する受信フォーカス位置とに基づいて、最高流速値の中で最も高い値を有するドプラ信号と対応する受信フォーカス位置を決定する。なお、フォーカス位置決定部30は、データ記憶部29に記憶された複数の上記トレース像で囲まれた面積と上記トレース像で囲まれた面積それぞれに対応する受信フォーカス位置とに基づいて、この面積の中で最も大きい値を有するドプラ信号と対応する受信フォーカス位置を決定することも可能である。最高流速に基づいて受信フォーカス位置を特定するか、血流量に基づいて受信フォーカス位置を特定するかは、ユーザ指示により選択的である。
【0024】
システムコントローラ25は、ユーザにより入力装置13から入力されたモード選択、ROI設定、パターンリストの選択、送信開始・終了に基づき、内部メモリに記憶された送受信条件と装置制御プログラムを読み出し、これらに従って、上記超音波診断装置10を制御する。また、表示部で表示された画像上に、ユーザにより入力装置13から入力された連続波ドプラ法を行う音線マーカーを設定する。
【0025】
スキャンコンバーター31は、Bモードデータ生成部21、カラードプラデータ生成部23およびSCWデータ生成部24からそれぞれ走査方向単位で生成されたBモードデータ、カラードプラデータおよびSCWデータを、テレビなどに代表される一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換し、表示画像としての超音波診断画像を生成する。
【0026】
表示部14は、スキャンコンバーター31からのビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や血液情報を画像として表示する。表示部14は、システムコントローラ25で設定された音線マーカーやフォーカスマークをBモードデータから構成された画像やカラードプラデータから構成された画像上に表示する。
【0027】
心電計(ECG:Electro CardioGram)40は、被検体の心臓の電気現象による時間的変化を記録したグラフ、すなわち心電図(ECG波形)を計測する。心電計40で検出された心電波形信号は、内部メモリに記憶されると共に、必要であれば表示部14に送られ、心電波形として表示される。
【0028】
(動作)
次に、本超音波診断装置10において、図2に示すフローチャートを参照しながら、フォーカス位置調整機能の動作について説明する。はじめに、システムコントローラ25の制御のもとでBモードを用いて、被検体の心臓を含む領域がスキャンされる(ステップS1)。スキャンされた画像は、表示部14に表示される。表示された画像上に、入力装置13を介したユーザの連続波ドプラの条件決定指示に従って、システムコントローラ25の制御により連続波ドプラ法を行うための音線マーカーが重ねられる(ステップS2)。図3は、表示部13で表示されたカラードプラモード上に音線マーカーを設定した図である。従来の場合には、図11に示すように音線マーカー上に受信フォーカスマークがユーザにより設定される。本実施形態では、ユーザが受信フォーカスマークを操作することなく受信フォーカス位置を自動的に最適化することが可能であるため、図3の音線マーカー上には受信フォーカスマークの表示が不要である。なお、従来の超音波診断装置100と同様に、音線マーカー上に受信フォーカスマークの表示させることも可能である。
【0029】
次に、上記音線上において、あらかじめ設定された受信フォーカス位置で連続波ドプラ法を行うために、少なくとも1心拍周期にわたって、送受信部20が超音波の連続波の送受信を行う(ステップS3)。このときのスキャン中のフォーカス位置は、例えば、音線上に沿った視野深度の中間深度の位置である。なお、送受信を行うフォーカス位置は、カラーROI(関心領域)における音線に沿った長さの半分の位置であってもよい。なお、送受信を行うフォーカス位置は、あらかじめユーザが任意の深度に設定可能である。なお、送受信を行うフォーカス位置は、音線マーカー上に受信フォーカスマークを表示させ、この受信フォーカスマークの位置としてもよい。上記送受信を行うフォーカス位置それぞれは、入力装置13を介してユーザにより選択できる。超音波の送受信で得られた受信遅延処理前のエコー信号は、エコー信号記憶部26に記憶される。
【0030】
システムコントローラ25により、内部メモリに記憶されている複数の受信遅延パターンのデータが、受信遅延加算処理部27へ順次供給される。受信遅延加算処理部27では、各受信遅延パターンに従って受信遅延加算処理が、1心拍期間の全てのエコー信号に対して行われる。これにより、同一の受信遅延パターン(同一の受信フォーカス位置)に対応する心拍時相の異なる複数の受信信号が発生される。発生された複数の受信信号各々は、FFT処理にかけられる(ステップS4)。これにより心拍時相の異なる複数のドプラ信号が発生される。この心拍時相の異なる複数のドプラ信号からドプラ波形が発生される。発生されたドプラ波形に対してsMAPが生成され、最高流速値が求められる(ステップS5)。求められた最高流速値とこの最高流速値に対応した受信フォーカス位置(受信遅延パターン)とを、データ記憶部29に記憶する。なお、ステップS5においては、受信フォーカス付近を流れる血液量に対応するドプラ波形のトレース像で囲まれた逆流範囲の面積を求めてもよい。このとき、データ記憶部29には、逆流範囲の面積とこの面積に対応した受信フォーカス位置(受信遅延パターン)とが記憶される。
【0031】
全ての受信遅延パターンについて、受信遅延加算処理からドプラ波形の発生までの処理が個々の受信遅延パターンについて繰り返される(ステップS6)。以上の手順により受信フォーカス深度(受信フォーカス位置)の異なる複数のドプラ波形が発生される。
【0032】
以下、上記繰り返しについて具体的に説明する。
【0033】
受信フォーカス位置(受信遅延パターン)の変更は、例えば、2cmごと、1cmごと、0.5cmごとなど、任意の幅で行うことができる。このとき、これらの幅に対応した受信遅延パターンを受信遅延加算処理部27へ供給し、ステップS4の処理を行うことにより、所望の受信フォーカス位置におけるドプラ波形を発生させることができる。変更する幅が狭ければ、上記ステップS4および上記ステップS5の処理回数が増加するため時間はかかるが、より正確な最高流速値を求めることができる。図2のステップS6における受信フォーカス位置の変更の完了とは、例えば、視野深度が14cmの場合、受信フォーカス位置の変更幅が1cmの等間隔であり、0cmから14cmまで受信遅延を変更していくとすると、受信フォーカス位置(受信遅延パターン)を14回変更することである。このとき15組の受信フォーカス位置と最高流速値との関係が得られる。なお、受信フォーカス付近を流れる血液量に対応するドプラ波形のトレース像で囲まれた逆流範囲の面積とこのときの受信フォーカス位置とを、上記例に適用すると、15組の受信フォーカス位置と逆流範囲の面積との関係が得られる。
【0034】
受信フォーカス位置を変更することによって、例えば、図5に示すドプラ波形のトレース像とsMAPとが得られる場合がある。図5の最高流速値B’は、図4の最高流速値Bよりも最高流速値の値が大きい。また、図5のドプラ波形の包絡線は、図4のドプラ波形の包絡線よりもトレースしやすい波形となっている。このように、データ記憶部29に記憶された複数の最高流速値とそれぞれの最高流速値に対応する受信フォーカス位置との関係を示した図の一例が、図6である。図6に基づいて複数の受信フォーカス位置に対応する複数の最高流速値の中で最も高い値が、フォーカス位置決定部30により特定される(ステップS7)。なお、最高流速値の最も高い値を求めるとき、図6を作成しなくともことも求めることができる。
【0035】
また、受信フォーカス位置を変更することによって、複数の逆流範囲の面積とそれぞれの面積に対応する受信フォーカス位置との関係を示した図の一例が、図9である。なお、ステップS7として、図9に基づいて面積の最も大きい値(逆流する血流量の最大値)を求めることも可能である。
【0036】
図6もしくは図9から、ステップS7で求められた最高流速値もしくは面積の最大値に対応する受信フォーカス位置Rが決定される(ステップS8)。図7は、最高流速値の最も高い値における受信フォーカス位置でのドプラ波形と、カラードプラモード上に重ねられた音線マーカーと位置Rでのフォーカスマークを示した図である。図7に示すように、噴出している弁口付近の逆流位置(図11におけるフォーカスマーク)ではなく、弁口から離れた位置に受信フォーカス位置を移動させることにより、ドプラ波形のトレース像がはっきりと現れることがある。この状況は、逆流が一定方向に噴出しているのではなく、1心拍期間内で逆流の方向が変化している(揺らいでいる)場合に顕著である。図8は、音線マーカーを0°とした走査方向の角度と超音波ビームの振幅の平均値とを示す図である。図8における実線は、弁口付近の逆流上に受信フォーカスを決定した図11における超音波のビームプロファイルの一例である。図8における破線は、弁口から離れた位置(フォーカス深度が深い位置)に受信フォーカスを決定した図7における超音波のビームプロファイルである。破線は実線に比べて、フォーカス深度が深いため、0°付近のメインビームのビーム幅が太くなっている。このようにビーム幅が太くなることは、血流速度に揺らぎのある逆流の場合には有効である。
【0037】
図2のフローチャートに戻って、受信フォーカス位置(受信遅延パターン)が受信フォーカス位置決定部30によって決定される(ステップS8)と、決定された受信フォーカス位置に対応する受信遅延を、再度受信遅延処理前のエコー信号に対して行い、得られたSCWデータのFFT解析を行う(ステップS9)。なお、あらかじめ内部メモリにSCWデータのFFT解析(ステップS4)の結果を記憶させておき、受信フォーカス位置決定部30によって決定された受信フォーカス位置と対応するSCWデータのFFT解析(ステップS4)の結果を読み出してもよい。なお、まずステップS1で行ったスキャンをプレスキャンとして、受信フォーカス位置決定部30が受信フォーカス位置を決定する。次に決定された受信フォーカス位置と同じ位置に、送信フォーカス位置を合わせてメインスキャンを実行し、得られたSCWデータのFFT解析を行ってもよい。決定された受信フォーカス位置において、エコー信号から受信遅延を再度行うのか、あらかじめ記憶させたFFT解析の結果を読み出すのか、送信フォーカス位置を合わせ再スキャンするのかは、ユーザ指示により選択的である。
【0038】
以上に述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0039】
本超音波診断装置によれば、ユーザが超音波のフォーカス位置を調整することなく、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値が得られる適切な位置に、超音波のフォーカス位置を設定することができる。これにより、弁疾患患者の重症度を判断するための逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値を正確に測定できるようになる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…超音波診断装置、11…超音波プローブ、12…装置本体、13…入力装置、14…表示部、20…送受信部、21…Bモードデータ生成部、22…ドプラ信号発生部、23…カラードプラデータ生成部、24…SCWデータ生成部、25…システムコントローラ、26…エコー信号記憶部、27…受信遅延加算処理部、28…ドプラ信号解析部、29…データ記憶部、30…フォーカス位置決定部、31…スキャンコンバーター、40…心電計、100…従来の超音波診断装置、201…レートパルス発生器、202…送信遅延回路、203…駆動回路、204…プリアンプ、205…受信遅延回路、206…加算器、210…包絡線検波器、211…対数変換器、212…アナログディジタル(A/D)変換器、220…ミキサー、221…低域通過フィルタ(LPF)、230…アナログディジタル(A/D)変換器、231…速度/分散/パワー演算部、240…高域通過フィルタ(HPF)、241…アナログディジタル(A/D)変換器、242…高速フーリエ変換(FFT)演算部、
【技術分野】
【0001】
本発明はフォーカス位置調整機能を有する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超音波診断装置を用いて心臓の弁疾患患者の重症度を判断する際、血液の逆流が噴出している弁口付近に、ユーザが超音波のフォーカス位置を設定する。設定した受信フォーカス位置における超音波のドプラ信号に基づいて、逆流している血流の最高流速値および逆流している血液量の最大値から、弁疾患患者の重症度を判断する。
【0003】
しかしながら、フォーカス位置を血液の逆流が噴出している弁口付近に設定したとしても、得られるドプラ信号は、血液の逆流が一定方向に噴出していないこと、装置の感度や信号対雑音比、ユーザのスキャンテクニックに依存するため、必ずしも逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値を示していないことがある。これらのことから、従来の弁口付近におけるフォーカス位置で測定されたドプラ信号では、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値を正確に測定できていない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、超音波のフォーカス位置を、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値が得られる適切な位置に、ユーザの操作なしに設定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0006】
本発明の第1局面による超音波診断装置は、超音波プローブと、超音波プローブを介して被検体との間で超音波を送受信する送受信部と、送受信部により得られた複数のエコー信号を記憶するエコー信号記憶部と、記憶された複数のエコー信号を遅延加算して複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数の受信信号を発生する受信遅延加算処理部と、発生された受信信号から複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数のドプラ信号を発生するドプラ信号発生部と、発生された複数のドプラ信号から特定の血流特性を有するドプラ信号を選択し、選択したドプラ信号に対応する受信フォーカス位置を決定するフォーカス位置決定部とを具備する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、超音波のフォーカス位置を、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値が得られる適切な位置に、ユーザの操作なしに設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る超音波診断装置10の構成を示す図である。
【図2】図2は、本実施形態に係り、フォーカス位置調整機能において、処理手順の一例を示す流れ図である。
【図3】図3は、Bモードおよびカラードプラモードから生成された画像において、連続波ドプラモードを行う音線マーカー上に、受信フォーカス位置を示すフォーカスマークを設定しない例を示す図である。
【図4】図4は、FFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像と、このトレース像に対するsMAPとを示す図である。
【図5】図5は、図4と異なる受信フォーカス位置において、FFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像と、このトレース像に対するsMAPとを示す図である。
【図6】図6は、受信フォーカス位置と、各々の受信フォーカス位置における血流速の最高値との関係の一例を示す図である。
【図7】図7は、Bモードおよびカラードプラモードから生成された画像上に図6における血流速の最高値に対応する受信フォーカス位置Rを表すフォーカスマークと、この受信フォーカス位置RにおけるFFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像とを示す図の一例である。
【図8】図8は、音線マーカーを0°とした走査方向の角度と超音波ビームの振幅の平均値とを示す図である。
【図9】図9は、受信フォーカス位置と、各々の受信フォーカス位置におけるドプラ波形のトレース像に囲まれた面積(血流量)との関係の一例を示す図である。
【図10】図10は、心電図(ECG)信号と同期して、異なる受信フォーカス位置において、1心拍期間の複数のドプラ信号からFFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像の一例を示す図である。
【図11】図11は、従来の受信フォーカス位置を弁口付近に設定し、FFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像の一例を示す図である。
【図12】図12は、従来の超音波診断装置100の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は本実施形態に係る超音波診断装置10のブロック構成図を示している。同図に示すように、本超音波診断装置10は、超音波プローブ11、装置本体12、装置本体12に接続されユーザからの各種指示・命令・情報を装置本体12に取り込むための入力装置13、表示部14とから構成される。入力装置13は、図示しないが、関心領域(ROI)などの設定操作を行うためのトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボードを有する。また、装置本体12は、送受信部20、Bモードデータ生成部21、ドプラ信号発生部22、カラードプラデータ生成部23、連続波ドプラ(以下SCWと称する)データ生成部24、システムコントローラ25、エコー信号記憶部26、受信遅延加算処理部27、ドプラ信号解析部28、データ記憶部29、フォーカス位置決定部30、スキャンコンバーター31を有している。加えて装置本体12には、被検体の心電波形を収集する心電計40が別途設けられている。
【0011】
超音波プローブ11は、圧電セラミックス等の音響/電気可逆的変換素子としての圧電振動子を有する。複数の圧電振動子は並列され、超音波プローブ11の先端に装備される。なお、一つの振動子が一チャンネルを構成するものとして説明する。
【0012】
送受信部20は、レートパルス発生器201と、送信遅延回路202と、駆動回路203と、プリアンプ204とから構成される。レートパルス発生器201は、Bモード法、カラードプラ法及びパルスドプラ法において、図示していない基準信号発生部から供給される基準信号(クロック)に基づいて、送信超音波の繰り返し周期を決定し、レートパルスを発生する。
【0013】
送信遅延回路202は、レートパルス発生器から供給されるレートパルスあるいは連続波に、超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与える。駆動回路203は、レートパルスに同期して、超音波プローブ11に内蔵された圧電振動子を駆動するためのパルス状の駆動信号を発生する。連続波ドプラモードのとき、駆動回路203は、連続的に駆動信号を発生する。
【0014】
被検体からのエコーは、圧電振動子によって複数の電気信号(エコー信号)に変換される。プリアンプ204は、複数のエコー信号を個々に増幅し、ディジタル信号に変換する。
【0015】
エコー信号記憶部26は、送受信部20から出力される受信遅延加算前のエコー信号を記憶する。ディジタルビームフォーマとも呼ばれる受信遅延加算処理部27は、エコー信号記憶部26に記憶された圧電振動子ごとのエコー信号に対して、細いビーム幅を得るため所定の深さからの受信超音波を集束するための遅延時間と、所定方向からの受信超音波に対して強い受信指向性を設定するための遅延時間とを与える。複数の振動子に対する遅延時間のセットを受信遅延パターンという。システムコントローラ25は、フォーカス深度の異なる複数の受信遅延パターンを図示していない内部メモリに記憶している。受信遅延加算処理部27は、システムコントローラ25からの受信遅延パターンに従って複数のエコー信号を加算する。この加算により受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。この送信指向性と受信指向性とにより超音波送受信の総合的な指向性が決定される(この指向性により、いわゆる「超音波走査線」が決まる。)。
【0016】
Bモードデータ生成部21は、包絡線検波器210、対数変換器211、アナログディジタル変換器(以下A/D変換器)212を備えている。Bモードデータ生成部21への入力信号、即ち、受信遅延加算処理部27から出力された受信信号に対して、包絡線検波器210は、包絡線検波を行う。対数変換器211は、検波信号の振幅を対数変換して弱い信号を相対的に強調する。A/D変換器212は、この対数変換器211の出力信号をディジタル信号に変換し、Bモードデータを生成する。
【0017】
ドプラ信号発生部22は、ミキサー220と低域通過フィルタ(以下LPF)221を備えている。ミキサー220は、受信遅延加算処理部27からの出力信号に、送信周波数と同じ周波数f0をもつ基準信号を掛け合わせる。この掛け合わせによりドプラ偏移周波数fdの成分の信号と(2f0+fd)の周波数成分を有する信号とが得られる。LPF221は、ミキサー220からの2種の周波数成分を有する信号のうち、高い周波数成分(2f0+fd)の信号を取り除く。ドプラ信号発生部22は、高い周波数成分(2f0+fd)の信号を取り除くことにより、ドプラ偏移周波数fdの成分を有するドプラ信号を生成する。なお、ドプラ信号発生部22として、直交検波方式を採用することも可能である。
【0018】
カラードプラデータ生成部23は、2チャンネルから構成されるA/D変換器230、速度/分散/Power演算部231を備えている。A/D変換器230は、ドプラ信号発生部22のLPF221から出力されたドプラ信号、または、直交交検波されたアナログ信号をディジタル信号に変換する。速度/分散/Power演算部231は、図示しないが、MTIフィルタ、自己相関演算器からなる。MTIフィルタは、A/D変換器230から出力されるドプラ信号に対して、臓器の呼吸性移動や拍動性移動などに起因するドプラ成分(クラッタ成分)を除去する。自己相関演算器は、MTIフィルタによって血流情報のみが抽出されたドプラ信号に対して自己相関値を算出し、更に、この自己相関値に基づいて血流の平均速度値や、分散値等を算出する。カラードプラデータ生成部23は、複数のドプラ信号に基づく血流の平均速度値や分散値等からカラードプラデータを生成する。
【0019】
SCWデータ生成部24は、高域通過フィルタ(以下HPF)240と、アナログディジタル変換器(以下A/D変換器)241と、高速フーリエ変換(以下FFT)演算部242を備えている。高域通過フィルタ(以下HPF)240は、ドプラ信号発生部22で発生されたドプラ信号に対して、臓器の呼吸性移動や拍動性移動などに起因するドプラ成分(クラッタ成分)を除去する。A/D変換器241は、HPF240から出力されたドプラ信号をディジタル信号に変換する。FFT演算部242は、A/D変換器241によってディジタル信号に変換されたドプラ信号に対して、高速フーリエ変換で周波数分析を行う。SCWデータ生成部24は、複数のドプラ信号に基づく周波数分析から、SCWデータを生成する。SCWデータは、例えば、図4左側のように表示部14で表示される。縦軸が速度を表している。横軸はSCWデータが得られた時間である。Velocityと記載された横軸が速度ゼロを表している。
【0020】
ドプラ信号解析部28は、FFT演算部242の周波数分析に基づくドプラ波形のトレース像に対して一つのsMAPを生成する。すなわちsMAPは、受信フォーカス位置ごとに生成される。sMAPとは、上記トレース像に対して、ある任意の期間(解析期間)を周波数ごとに時間軸方向に探索し、ドプラ信号(速度成分)が特定の閾値以上で存在する周波数帯すなわち速度帯に「1」を割り当て、信号が存在しない周波数帯すなわち速度帯に「0」を割り当てる図である。つまり、sMAPは、血流成分の有無を示す図である。例えば、図4の左側に示すドプラ波形のトレース像に対するsMAPは、図4の右側のようになる。この場合、トレース像の信号存在領域は、AからBまでの区間である。生成したsMAPから、血流速(ここでは逆流)の最高値(以下最高流速値)を求める。例えば、図4の右側のsMAPにおいては、Bに対応する点が血流速の最高値(逆流なので速度はマイナス成分となる)である。なお、速度成分の絶対値、例えば、図4左側のドプラ波形のトレース像に対して、速度の絶対値からsMAPを生成し、最高流速値を求めてもよい。なお、血流速の逆流成分、例えば、図4左側のVelocityと記載された横軸以下の速度帯からsMAPを生成し、最高流速値を求めてもよい。sMAPを生成するとき、ドプラ波形のトレース像をそのまま用いるのか、トレース像の絶対値を用いるのか、トレース像の逆流成分のみ用いるのかはユーザ指示により選択的である。
【0021】
ある任意の期間は、後述する心電計40と同期させて、例えば、1心拍期間とすることも可能である。例えば図10は、異なる受信フォーカス位置において、1心拍期間の複数のドプラ信号からFFT演算部242により得られたドプラ波形のトレース像を示す図である。図10において、1心拍期間における四角形ABCD内部のドプラ波形のトレース像に対してひとつのsMAPを生成し、四角形A’B’C’D’内部のドプラ波形のトレース像に対して別のsMAPを生成する。それぞれのsMAPからそれぞれの最高流速値を求める。なお、ドプラ信号解析部28は、ドプラ波形のトレース像で囲まれた逆流範囲の面積を求めることも可能である。この面積は、受信フォーカス付近を流れる血液量に対応する。
【0022】
データ記憶部29は、ドプラ信号解析部28で得られた最高流速値と、この最高流速値に対応する受信フォーカス位置とを記憶する。なお、データ記憶部29は、上記トレース像で囲まれた面積と、この面積に対応する受信フォーカス位置とを記憶することも可能である。
【0023】
フォーカス位置決定部30は、データ記憶部29に記憶された複数の最高流速値とそれぞれの最高流速値に対応する受信フォーカス位置とに基づいて、最高流速値の中で最も高い値を有するドプラ信号と対応する受信フォーカス位置を決定する。なお、フォーカス位置決定部30は、データ記憶部29に記憶された複数の上記トレース像で囲まれた面積と上記トレース像で囲まれた面積それぞれに対応する受信フォーカス位置とに基づいて、この面積の中で最も大きい値を有するドプラ信号と対応する受信フォーカス位置を決定することも可能である。最高流速に基づいて受信フォーカス位置を特定するか、血流量に基づいて受信フォーカス位置を特定するかは、ユーザ指示により選択的である。
【0024】
システムコントローラ25は、ユーザにより入力装置13から入力されたモード選択、ROI設定、パターンリストの選択、送信開始・終了に基づき、内部メモリに記憶された送受信条件と装置制御プログラムを読み出し、これらに従って、上記超音波診断装置10を制御する。また、表示部で表示された画像上に、ユーザにより入力装置13から入力された連続波ドプラ法を行う音線マーカーを設定する。
【0025】
スキャンコンバーター31は、Bモードデータ生成部21、カラードプラデータ生成部23およびSCWデータ生成部24からそれぞれ走査方向単位で生成されたBモードデータ、カラードプラデータおよびSCWデータを、テレビなどに代表される一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換し、表示画像としての超音波診断画像を生成する。
【0026】
表示部14は、スキャンコンバーター31からのビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や血液情報を画像として表示する。表示部14は、システムコントローラ25で設定された音線マーカーやフォーカスマークをBモードデータから構成された画像やカラードプラデータから構成された画像上に表示する。
【0027】
心電計(ECG:Electro CardioGram)40は、被検体の心臓の電気現象による時間的変化を記録したグラフ、すなわち心電図(ECG波形)を計測する。心電計40で検出された心電波形信号は、内部メモリに記憶されると共に、必要であれば表示部14に送られ、心電波形として表示される。
【0028】
(動作)
次に、本超音波診断装置10において、図2に示すフローチャートを参照しながら、フォーカス位置調整機能の動作について説明する。はじめに、システムコントローラ25の制御のもとでBモードを用いて、被検体の心臓を含む領域がスキャンされる(ステップS1)。スキャンされた画像は、表示部14に表示される。表示された画像上に、入力装置13を介したユーザの連続波ドプラの条件決定指示に従って、システムコントローラ25の制御により連続波ドプラ法を行うための音線マーカーが重ねられる(ステップS2)。図3は、表示部13で表示されたカラードプラモード上に音線マーカーを設定した図である。従来の場合には、図11に示すように音線マーカー上に受信フォーカスマークがユーザにより設定される。本実施形態では、ユーザが受信フォーカスマークを操作することなく受信フォーカス位置を自動的に最適化することが可能であるため、図3の音線マーカー上には受信フォーカスマークの表示が不要である。なお、従来の超音波診断装置100と同様に、音線マーカー上に受信フォーカスマークの表示させることも可能である。
【0029】
次に、上記音線上において、あらかじめ設定された受信フォーカス位置で連続波ドプラ法を行うために、少なくとも1心拍周期にわたって、送受信部20が超音波の連続波の送受信を行う(ステップS3)。このときのスキャン中のフォーカス位置は、例えば、音線上に沿った視野深度の中間深度の位置である。なお、送受信を行うフォーカス位置は、カラーROI(関心領域)における音線に沿った長さの半分の位置であってもよい。なお、送受信を行うフォーカス位置は、あらかじめユーザが任意の深度に設定可能である。なお、送受信を行うフォーカス位置は、音線マーカー上に受信フォーカスマークを表示させ、この受信フォーカスマークの位置としてもよい。上記送受信を行うフォーカス位置それぞれは、入力装置13を介してユーザにより選択できる。超音波の送受信で得られた受信遅延処理前のエコー信号は、エコー信号記憶部26に記憶される。
【0030】
システムコントローラ25により、内部メモリに記憶されている複数の受信遅延パターンのデータが、受信遅延加算処理部27へ順次供給される。受信遅延加算処理部27では、各受信遅延パターンに従って受信遅延加算処理が、1心拍期間の全てのエコー信号に対して行われる。これにより、同一の受信遅延パターン(同一の受信フォーカス位置)に対応する心拍時相の異なる複数の受信信号が発生される。発生された複数の受信信号各々は、FFT処理にかけられる(ステップS4)。これにより心拍時相の異なる複数のドプラ信号が発生される。この心拍時相の異なる複数のドプラ信号からドプラ波形が発生される。発生されたドプラ波形に対してsMAPが生成され、最高流速値が求められる(ステップS5)。求められた最高流速値とこの最高流速値に対応した受信フォーカス位置(受信遅延パターン)とを、データ記憶部29に記憶する。なお、ステップS5においては、受信フォーカス付近を流れる血液量に対応するドプラ波形のトレース像で囲まれた逆流範囲の面積を求めてもよい。このとき、データ記憶部29には、逆流範囲の面積とこの面積に対応した受信フォーカス位置(受信遅延パターン)とが記憶される。
【0031】
全ての受信遅延パターンについて、受信遅延加算処理からドプラ波形の発生までの処理が個々の受信遅延パターンについて繰り返される(ステップS6)。以上の手順により受信フォーカス深度(受信フォーカス位置)の異なる複数のドプラ波形が発生される。
【0032】
以下、上記繰り返しについて具体的に説明する。
【0033】
受信フォーカス位置(受信遅延パターン)の変更は、例えば、2cmごと、1cmごと、0.5cmごとなど、任意の幅で行うことができる。このとき、これらの幅に対応した受信遅延パターンを受信遅延加算処理部27へ供給し、ステップS4の処理を行うことにより、所望の受信フォーカス位置におけるドプラ波形を発生させることができる。変更する幅が狭ければ、上記ステップS4および上記ステップS5の処理回数が増加するため時間はかかるが、より正確な最高流速値を求めることができる。図2のステップS6における受信フォーカス位置の変更の完了とは、例えば、視野深度が14cmの場合、受信フォーカス位置の変更幅が1cmの等間隔であり、0cmから14cmまで受信遅延を変更していくとすると、受信フォーカス位置(受信遅延パターン)を14回変更することである。このとき15組の受信フォーカス位置と最高流速値との関係が得られる。なお、受信フォーカス付近を流れる血液量に対応するドプラ波形のトレース像で囲まれた逆流範囲の面積とこのときの受信フォーカス位置とを、上記例に適用すると、15組の受信フォーカス位置と逆流範囲の面積との関係が得られる。
【0034】
受信フォーカス位置を変更することによって、例えば、図5に示すドプラ波形のトレース像とsMAPとが得られる場合がある。図5の最高流速値B’は、図4の最高流速値Bよりも最高流速値の値が大きい。また、図5のドプラ波形の包絡線は、図4のドプラ波形の包絡線よりもトレースしやすい波形となっている。このように、データ記憶部29に記憶された複数の最高流速値とそれぞれの最高流速値に対応する受信フォーカス位置との関係を示した図の一例が、図6である。図6に基づいて複数の受信フォーカス位置に対応する複数の最高流速値の中で最も高い値が、フォーカス位置決定部30により特定される(ステップS7)。なお、最高流速値の最も高い値を求めるとき、図6を作成しなくともことも求めることができる。
【0035】
また、受信フォーカス位置を変更することによって、複数の逆流範囲の面積とそれぞれの面積に対応する受信フォーカス位置との関係を示した図の一例が、図9である。なお、ステップS7として、図9に基づいて面積の最も大きい値(逆流する血流量の最大値)を求めることも可能である。
【0036】
図6もしくは図9から、ステップS7で求められた最高流速値もしくは面積の最大値に対応する受信フォーカス位置Rが決定される(ステップS8)。図7は、最高流速値の最も高い値における受信フォーカス位置でのドプラ波形と、カラードプラモード上に重ねられた音線マーカーと位置Rでのフォーカスマークを示した図である。図7に示すように、噴出している弁口付近の逆流位置(図11におけるフォーカスマーク)ではなく、弁口から離れた位置に受信フォーカス位置を移動させることにより、ドプラ波形のトレース像がはっきりと現れることがある。この状況は、逆流が一定方向に噴出しているのではなく、1心拍期間内で逆流の方向が変化している(揺らいでいる)場合に顕著である。図8は、音線マーカーを0°とした走査方向の角度と超音波ビームの振幅の平均値とを示す図である。図8における実線は、弁口付近の逆流上に受信フォーカスを決定した図11における超音波のビームプロファイルの一例である。図8における破線は、弁口から離れた位置(フォーカス深度が深い位置)に受信フォーカスを決定した図7における超音波のビームプロファイルである。破線は実線に比べて、フォーカス深度が深いため、0°付近のメインビームのビーム幅が太くなっている。このようにビーム幅が太くなることは、血流速度に揺らぎのある逆流の場合には有効である。
【0037】
図2のフローチャートに戻って、受信フォーカス位置(受信遅延パターン)が受信フォーカス位置決定部30によって決定される(ステップS8)と、決定された受信フォーカス位置に対応する受信遅延を、再度受信遅延処理前のエコー信号に対して行い、得られたSCWデータのFFT解析を行う(ステップS9)。なお、あらかじめ内部メモリにSCWデータのFFT解析(ステップS4)の結果を記憶させておき、受信フォーカス位置決定部30によって決定された受信フォーカス位置と対応するSCWデータのFFT解析(ステップS4)の結果を読み出してもよい。なお、まずステップS1で行ったスキャンをプレスキャンとして、受信フォーカス位置決定部30が受信フォーカス位置を決定する。次に決定された受信フォーカス位置と同じ位置に、送信フォーカス位置を合わせてメインスキャンを実行し、得られたSCWデータのFFT解析を行ってもよい。決定された受信フォーカス位置において、エコー信号から受信遅延を再度行うのか、あらかじめ記憶させたFFT解析の結果を読み出すのか、送信フォーカス位置を合わせ再スキャンするのかは、ユーザ指示により選択的である。
【0038】
以上に述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0039】
本超音波診断装置によれば、ユーザが超音波のフォーカス位置を調整することなく、逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値が得られる適切な位置に、超音波のフォーカス位置を設定することができる。これにより、弁疾患患者の重症度を判断するための逆流している血流の最高流速値および血液量の最大値を正確に測定できるようになる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…超音波診断装置、11…超音波プローブ、12…装置本体、13…入力装置、14…表示部、20…送受信部、21…Bモードデータ生成部、22…ドプラ信号発生部、23…カラードプラデータ生成部、24…SCWデータ生成部、25…システムコントローラ、26…エコー信号記憶部、27…受信遅延加算処理部、28…ドプラ信号解析部、29…データ記憶部、30…フォーカス位置決定部、31…スキャンコンバーター、40…心電計、100…従来の超音波診断装置、201…レートパルス発生器、202…送信遅延回路、203…駆動回路、204…プリアンプ、205…受信遅延回路、206…加算器、210…包絡線検波器、211…対数変換器、212…アナログディジタル(A/D)変換器、220…ミキサー、221…低域通過フィルタ(LPF)、230…アナログディジタル(A/D)変換器、231…速度/分散/パワー演算部、240…高域通過フィルタ(HPF)、241…アナログディジタル(A/D)変換器、242…高速フーリエ変換(FFT)演算部、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブと、
前記超音波プローブを介して被検体との間で超音波を送受信する送受信部と、
前記送受信部により得られた複数のエコー信号を記憶するエコー信号記憶部と、
前記記憶された複数のエコー信号を遅延加算して複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数の受信信号を発生する受信遅延加算処理部と、
前記発生された受信信号から前記複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数のドプラ信号を発生するドプラ信号発生部と、
前記発生された複数のドプラ信号から特定の血流特性を有するドプラ信号を選択し、前記選択したドプラ信号に対応する受信フォーカス位置を決定するフォーカス位置決定部とを具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記フォーカス位置決定部は、前記複数のドプラ信号から血流速が最も高いドプラ信号を選択することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記選択されるドプラ信号は、前記血流の最高流速値の絶対値に基づいて選択されることを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記フォーカス位置決定部は、前記複数のドプラ信号から血液量の最大値を有するドプラ信号を選択することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記フォーカス位置決定部は、前記被検体の1心拍期間における前記複数のドプラ信号各々の最高流速値それぞれを比較し、該比較した最高流速値の中で最も大きい値を有するドプラ信号を選択することを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項1】
超音波プローブと、
前記超音波プローブを介して被検体との間で超音波を送受信する送受信部と、
前記送受信部により得られた複数のエコー信号を記憶するエコー信号記憶部と、
前記記憶された複数のエコー信号を遅延加算して複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数の受信信号を発生する受信遅延加算処理部と、
前記発生された受信信号から前記複数の受信フォーカス位置にそれぞれ対応する複数のドプラ信号を発生するドプラ信号発生部と、
前記発生された複数のドプラ信号から特定の血流特性を有するドプラ信号を選択し、前記選択したドプラ信号に対応する受信フォーカス位置を決定するフォーカス位置決定部とを具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記フォーカス位置決定部は、前記複数のドプラ信号から血流速が最も高いドプラ信号を選択することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記選択されるドプラ信号は、前記血流の最高流速値の絶対値に基づいて選択されることを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記フォーカス位置決定部は、前記複数のドプラ信号から血液量の最大値を有するドプラ信号を選択することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記フォーカス位置決定部は、前記被検体の1心拍期間における前記複数のドプラ信号各々の最高流速値それぞれを比較し、該比較した最高流速値の中で最も大きい値を有するドプラ信号を選択することを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−87710(P2011−87710A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242641(P2009−242641)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
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