説明

超音波距離画像生成装置

【課題】従来は、1.異なるセンサ位置で対象物からの反射波を受信、又はセンサ数を増し対象物からの反射波だけを同期加算して信号強度を強め、相対的に虚像を小さくする。2.伝搬距離や指向性に応じて、重みを切り替える。1は測定点数の増加、又は装置規模が大きくなり、2は未知の物体には有効でない可能性がある。
【解決手段】夫々異なる位置で受信した対象物からの複数の反射波から対象物までの距離と受信強度を夫々の反射波毎に複数の距離・強度算出手段で算出し、複数の反射波の受信強度比を用いて別途定められた基準値との類似度を判定し類似性の低い、距離・強度算出手段で算出された距離に応じた点の受信強度にセンサ強度制御手段で修正を加え、開口合成手段で距離と修正受信強度から開口合成した距離画像からさらに虚像を削減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波を用い開口合成により距離画像を生成する距離画像生成装置に関し、特に距離画像を生成する際に生じる虚像を削減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
開口合成による距離画像には、虚像が多く存在する。図1に一番左のセンサ1から超音波を送信して、4つのセンサ(sensors)1〜4により対象物(target)からの反射波を受信した場合の開口合成による距離画像のイメージを示す。それぞれのセンサ1〜4に対象物(target)から反射して返る音を点線で表している。送信センサと受信センサが同じもの(1)はセンサからの距離が一定の点が対象物(target)の候補として残るため、円状の虚像が発生する。これに対して送信センサ1と受信センサが異なるもの(2〜4)は、送信センサ1と対象物(target)、対象物(target)と受信センサ(2〜4)との距離の和が一定の点が対象物(target)の候補として残る。これはすなわち楕円状の虚像となる。
【0003】
従来の虚像を削減する方法としては、
(1)異なるセンサ位置で対象物からの反射波を受信することやセンサの数を増やすことで対象物からの反射波だけを同期加算し、信号強度を強め、相対的に虚像を小さくする(信号処理では一般的な同期加算によるノイズの削減)。また、
(2)伝搬距離や指向性に応じて、重みを切り替える手法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04-193270号公報
【特許文献2】特開平08-289891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来法の(1)は測定点数を増やす、もしくは装置規模を大きくすることにつながり、従来法の(2)は、重みの設定法に関する記述があいまいであり、物理的根拠に乏しい出現頻度やダイナミックレンジを基準としている。そのため、対象としている物体には有効であるかもしれないが、未知の物体には有効でない可能性がある。
この発明は開口合成後の距離画像からの虚像の削減を目的とする。虚像を削減する際、受信感度の比率という物理的な指標と虚像との関係を利用して、これらの虚像を削減するので、対象物が変化しても有効である。またこの発明は測定点数、装置規模を変えずに、虚像を削減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る超音波距離画像生成装置は、
それぞれ異なる位置で受信した対象物の複数の反射波から対象物までの距離と受信強度をそれぞれの反射波ごとに算出する複数の距離・強度算出手段と、複数の反射波の受信強度比を用いて別途定められた基準値との類似度を判定し類似性の低い、上記距離・強度算出手段で算出された距離に応じた点の受信強度に修正を加えるセンサ強度制御手段と、距離と修正された受信強度から距離画像を開口合成し、開口合成された距離画像から虚像を削減する開口合成手段を備える。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る超音波距離画像生成装置によれば、
複数の距離・強度算出手段により異なる位置で受信したそれぞれの対象物の反射波から算出した対象物までの距離と受信強度を基に開口合成により距離画像を生成し、受信強度の比率という物理的な指標と虚像との関係を利用して、その生成した距離画像から虚像とされる像を削減するので、対象物が変化しても有効である。またこの発明は測定点数、装置規模を変えずに、虚像を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一つのセンサから超音波を送信し、4つのセンサで目標からの反射波を受信した場合の開口合成による距離画像を示すイメージ図である。
【図2】この発明の実施の形態1の構成を示すブロック図である。
【図3】通常の開口合成で得られた距離画像上の点ごとの各センサの強度特性図である。
【図4】送信センサの指向角に応じた重み関数の説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態3の構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態4の構成を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態7の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1の構成を図2に示す。実施の形態1は、異なる位置に設置された複数のセンサそれぞれで受信した対象物より反射波1から受信センサと対象物までの距離および受信反射波の強度を受信センサの受信反射波ごとに算出する複数の距離・強度算出手段3と、各センサの受信反射波強度を制御するセンサ強度制御手段4と、それら各センサの受信反射波の強度データから虚像の削減された距離画像を開口合成する開口合成手段5からなる。最終的に得られるのは、距離画像2である。
【0010】
距離・強度算出手段3は反射波が返ってきた時間から受信センサと対象物までの距離をそれぞれの受信センサで受信した反射波1から求め、その時の距離と反射波強度をセンサ強度制御手段4に出力する。なお超音波を発信するセンサはこの実施の形態では図示最左端のセンサ1の1つになっているが、互いに無相関な信号を用いれば、複数同時に発信しても原理的には全く同じである。センサ強度制御手段4がないと通常の開口合成による距離画像の生成であり、算出された距離に応じた点に、得られたセンサ強度を代入したものを画素値として距離画像を生成する。算出された距離に応じたある点に対応する時間のM個のセンサ強度がX (i = 1, 2, …, M)の時、画素値Yは式(1)のようになる。
【0011】
【数1】

【0012】
センサには送信の際に指向性があるので、これを用いて擦過角方向からの虚像を削減することができる。例えば、図4のセンサの指向角θ[deg]に応じて、重み関数wを乗じることが考えられる。例えば式(2)の形の重み関数を用いることができる。もちろん実測によってもよい。
【0013】
【数2】

【0014】
ここでセンサ強度制御手段4の説明をする。図3に通常の開口合成で得られた距離画像上の点ごとの各センサの強度を示す。対象物が存在する位置では、多くの場合、すべてのセンサに反射波が返るため、各センサからの反射波信号の構成比は均等に近くなる。これに対して、地点AやBでは、虚像の発生原因となっているセンサからの反射波信号の寄与が大きい。この特性を利用して虚像の削減を図ることができる。まず距離画像上の各点の画素Yの各センサX反射波の強度比を求め、式(3)でノルムを正規化しuを算出する。
【0015】
【数3】

【0016】
正規化された強度比のノルムuを基準値u0と比べることで、類似度の低い距離画像上の点を虚像であるとして、反射波の受信強度を減じることで虚像を削減する。
【0017】
例えば均一性を基準値u0として使うことにすると、センサの反射波受信強度が各センサで均等であった場合の強度比の単位ベクトルは式(4)のようになる。
【0018】
【数4】

【0019】
正規化された強度比のノルムuと基準値u0の類似度をなんらかの方法で判定して、類似性の低い距離画像上の点のセンサが受信した反射波強度(X1,…,XM)に修正を加えることで、センサが受信した虚像の反射波強度を低減することができる。例えば、正規化された強度比のノルムuと基準値u0との類似度σを判定するためには、正規化された強度比のノルムuと基準値u0との内積 u・u0 をとればよく、この内積に応じて重み関数w2を変化させることが考えられる。
ここで画素値Y’は式(5)のように求められる。
【0020】
【数5】

【0021】
例えばセンサが4つ(M = 4)の場合、内積(類似度)σは0.5以上、1以下となるから、これを式(6)に従い重み関数w2の形に変換することができる。
【0022】
【数6】

【0023】
内積の代わりに雑音による強度比のばらつきv1, v2,…,vMを測っておき、正規分布を仮定して式(7)のように類似度σを求める方法も考えられる。
【0024】
【数7】

【0025】
また重み関数σが所定の閾値を下回った点は重み関数σの代わりに画素値Y’= 0とすることも考えられる。
【0026】
実施の形態2.
実施の形態1では、複数のセンサそれぞれで受信した反射波から距離と受信強度を算出したが、単一センサであっても移動しながら異なる時刻 (t= 1,2,…,T ) に複数回同じ対象物に対して、受信反射波を得ても同様の効果を上げることができる。時刻tのセンサの受信反射波強度がXtの時、画素値Yは式(8)のように求められる。
【0027】
【数8】

【0028】
p(t)は移動距離を補正する関数。以後の実施の形態においても複数センサを用いずに、単一センサで移動しながら複数回反射波を得たもので代用することができる。
【0029】
実施の形態3.
対象物の形状によってはセンサの受信反射波の強度が均一にならないことも考えられる。そのような場合にも事前に対象物の形、置いてある場所がある程度分かっている場合には、事前に測っておいたセンサの受信反射波の強度比の事前知識を用いることで虚像を削減することができる。この実施の形態の構成を図6に示す。図6は実施の形態1の構成を示す図2に、センサの受信反射波の強度比の事前知識が記憶されたセンサ強度比の事前知識記憶手段6が加えられている。事前知識は、予め、所定の対象物を所定の位置においてセンサの受信反射波の強度X1’, X2’,…, XM’を測定する。これを実施の形態1における式(4)の基準値u0の代わりに
【0030】
【数9】

【0031】
とし、今回算出された各センサの各点の受信反射波の強度比を求め、ノルムを正規化して算出されたuとの内積を実施の形態1と同様に算出し、類似度σを判定することで虚像を削減することができる。
【0032】
実施の形態4.
実施の形態3を拡張すると、対象としている物体の種類が複数ある場合にも対応することができる。これを実現する実施の形態の構成を図7に示す。対象とする種類の物体それぞれを所定の位置に置いたときの各センサの受信反射波の強度を予め測り、これから実施の形態3と同様にして物体の種類毎に強度比の基準値u0を予め作成した事前知識を物体の種類に対応して複数用意し、センサ強度比の事前知識記憶手段6に記憶させる。このセンサ強度比の事前知識記憶手段6に記憶された事前知識を参照して開口合成手段5により物体の種類に対応した複数の距離画像候補7を作成する。これから尤もらしい距離画像を選び出す。
【0033】
実施の形態5.
実施の形態3を拡張すると複数の異なる位置にある対象としている物体の場合にも対応することができる。これを実現する実施の形態の構成は実施の形態4の構成と同じ図7である。考えられる対象の物体を、想定される複数の異なる位置におき、異なる位置に設置された複数のセンサでその複数の異なる位置にある対象としている物体からの受信反射波強度を予め測り、この受信反射波強度から実施の形態3と同様にして複数の異なる位置にある対象の物体毎に強度比を予め算出し、複数の基準値u0を予め作成して、考えられる対象物体の複数位置に対応した強度比の基準値u0を事前知識として複数用意し、センサ強度比の事前知識記憶手段6に記憶させる。このセンサ強度比の事前知識記憶手段6に記憶された事前知識を参照して、実施の形態3と同様に、開口合成手段5により複数の距離画像候補7を作成する。
【0034】
実施の形態6.
実施の形態4と5を連結すると複数の異なる位置にある、複数の異なる対象物の場合にも対応することができる。これを実現する実施の形態の構成は実施の形態4の構成と同じ図7である。考えられる複数の異なる対象の物体を、想定される複数の異なる位置におき、異なる位置に設置された複数のセンサで、その複数の異なる位置にある対象としている異なる物体からの受信反射波強度を予め測り、この受信反射波強度から実施の形態3と同様にして複数の異なる位置にある対象の異なる物体毎に強度比を予め算出し、複数の基準値u0を予め作成して、考えられる異なる対象物体の複数の異なる位置に対応した強度比の基準値u0を事前知識として複数用意し、センサ強度比の事前知識記憶手段6に記憶させる。このセンサ強度比の事前知識記憶手段6に記憶された事前知識を参照して、実施の形態3と同様に、開口合成手段5により複数の距離画像候補7を作成する。
【0035】
実施の形態7.
実施の形態4,5,6の構成に、距離画像選択手段8を加え、尤もらしい距離画像2を選び出す方式も考えられる。これを実施する形態を図8に示す。距離画像選択手段8としては、例えば画素間の連続性を使うことが考えられる。画像を2値化(ある閾値を超えた画素を1、それ以下は0とする)したのちに、画像上の孤立点(対象点が1、その点を囲んでいる点が0)の数を数えて最も孤立点の数が小さい画像を選ぶことで、画素値の連続性を考慮することができる。このようにすることで虚像であると思われる非連続点の多い画像ではなく、対象物の像がまとまったところに集中した尤もらしい画像を選び出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明は超音波を用いて画像を表示する超音波診断装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
3;距離・強度算出手段、4;センサ強度制御手段、5;開口合成手段、6;センサ強度比の事前知識記憶手段、8;距離画像選択手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる位置で受信した対象物からの複数の反射波を用い対象物までの距離と反射波の受信強度をそれぞれの反射波ごとに算出する複数の距離・強度算出手段と、複数の反射波の受信強度比を用いて別途定められた基準値との類似度を判定し類似性の低い、上記距離・強度算出手段で算出された距離に応じた点の反射波の受信強度に修正を加えるセンサ強度制御手段と、距離と修正された受信強度から距離画像を開口合成し、開口合成された距離画像から虚像を削減する開口合成手段を備えることを特徴とする超音波距離画像生成装置。
【請求項2】
前記受信反射波は異なる位置に設置された複数センサで受信した反射波であることを特徴とする請求項1に記載の超音波距離画像生成装置。
【請求項3】
前記受信反射波は、単一のセンサで異なる位置に移動しながら複数回採取する反射波であることを特徴とする請求項1に記載の超音波距離画像生成装置。
【請求項4】
前記センサ強度制御手段の基準値は、事前に所定の位置に想定される対象物の測定結果から計測された反射波の受信強度比を事前知識として用いることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の超音波距離画像生成装置。
【請求項5】
前記事前知識は、複数の対象物からの反射波の受信強度を予めそれぞれ求めた複数の受信反射波から算出された複数の受信強度比であることを特徴とする請求項4に記載の超音波距離画像生成装置。
【請求項6】
前記事前知識は複数の異なる位置にある対象物からの反射波の受信強度を予めそれぞれ求めた複数の受信反射波から算出された複数の受信強度比であることを特徴とする請求項4に記載の超音波距離画像生成装置。
【請求項7】
前記事前知識は複数の異なる位置あるそれぞれ異なる種類の対象物からの反射波の受信強度をそれぞれ予め求めた複数の受信反射波から算出された複数の受信強度比であることを特徴とする請求項4に記載の超音波距離画像生成装置。
【請求項8】
前記の複数の開口合成結果から得られる距離画像候補から、所定の基準で距離画像を選択する距離画像選択手段を備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の超音波距離画像生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−88329(P2013−88329A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230302(P2011−230302)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】