説明

超音波送受信ユニット

【課題】 超音波送受信装置における設置角度を常に一定に保持し、被測定流体の流量を安定して測定する。
【解決手段】 超音波送受信ユニット(10)は、被測定流体に対して垂直方向に立てられる基準棒(20)と、 その基準棒(20)の下端側に位置して前記基準棒(20)の軸方向に直角に設けた支軸(30)と、 その支軸(30)に対して回動可能に軸支される測定器固定体(40)と、 その測定器固定体(40)に固定される超音波送受信装置(50)と、 その超音波送受信装置(50)および前記測定器固定体(40)が被測定流体による揺動を減少するように覆うカバー部材(60)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開渠などの水路の被測定断面における流体の流量を計測する時に使用される超音波送受信ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電所の取水流量の管理は、当該発電所の設備の適切な運用に重要である。水力発電は水の流量によって発電機出力が変化するとともに下流への影響もあるため、その流量を適切に制御する必要がある。例えば、小型の水力発電では河川から分岐された水路にて取水し、その水路を流れる取水流量を管理している。なお、河川から分岐された水路は、「開水路」または「開渠」と称している。
【0003】
開渠にて流量計測する場合は、開渠の所定断面の流速分布を取得し、その流速分布データに対して開渠の断面積を乗算することによる。上記の流速計測には、一般的にプロペラ流速計などが用いられている。
【0004】
また、超音波を利用した流量計測方法を採用する場合もある。その場合の流量計測は、超音波流速分布計(ADCP)の機能を用いる。
超音波を利用して水路の流量を測定する方法の例としては、特許文献1の超音波式流量計測方法が開示されている。この特許文献1では、水路内を、中央部と、その中央部より壁面または底面よりの周辺部と、壁面または底面に近い外縁部とに分ける。その上で、水路の周辺部の流速分布を超音波で測定する。 すなわち、超音波を用いてドップラー法または相互相関法を利用して水の流速を計測する。 水路の中央部の流速分布は、前記測定した周辺部の流速分布を用いて補間することによって水路全体の流量を求める、という技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−190775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、超音波のドップラー流速分布法を利用して開渠の流量計測を実施する場合は、超音波を送受信する超音波センサを精度良く設置することが重要となる。特許文献1に開示されている技術では、流量測定装置はでは複数の超音波センサが棹状のセンサ治具に取り付けられている。その棹状のセンサ治具を上方から垂直方向に水中へ降ろし、水中へ没した超音波センサによって超音波を送受信して流速を計測し流量を測定する。
【0007】
上記の特許文献1における棹状のセンサ治具と同様の構成にて開渠の流量測定を実施する場合、図7に示すように例えば支柱や単管などの棹状のセンサ治具80が開渠70へ橋渡した仮設足場などの基準棒固定架台72へ角度計81などを用いて取り付けられる。ところが、棹状のセンサ治具80が流体の流れの影響を受けて曲がることや、棹状のセンサ治具80における設置角度の誤差などによって、水中における超音波センサ50から発振される超音波51の入射角度が設計と異なってしまう。その結果、流速計測の誤差が生じてしまう。
その解決方法としては、棹状のセンサ治具80に取り付けた超音波センサ50に対して三次元角度計を取り付けることができる。しかし、その三次元角度計を用いることは、設置費用が高価になることや、超音波センサ50に接続するケーブルなどの配線が難しいなどの理由で、簡便な方法が望まれる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、被測定流体の流量を計測する時に使用される超音波送受信装置における設置角度を常に一定に保持し、被測定流体の流量を安定して測定することを可能とする超音波送受信ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(第一の発明)
本願における第一の発明は、超音波送受信装置の設置角度を常に一定に保持するための超音波送受信ユニット(10)に係る。
すなわち、被測定流体に対して垂直方向に立てられる基準棒(20)と、 その基準棒(20)の下端側に位置して前記基準棒(20)の軸方向に対して直角に設けた支軸(30)と、 その支軸(30)に対して回動可能に軸支される測定器固定体(40)と、 その測定器固定体(40)に固定される超音波送受信装置(50)と、 その超音波送受信装置(50)および前記測定器固定体(40)が被測定流体による揺動を減少するように覆うカバー部材(60)と、を備える。
【0010】
(用語説明)
「被測定流体」とは、例えば開渠などの水路を流れる流体の流量を測定する前記流体をいう。
【0011】
(作用)
基準棒(20)は、被測定流体が流れる水路の上方に設けた例えば基準棒固定架台へ固定することによって垂直方向に立てられる。その基準棒(20)の下端側は被測定流体へ没する。基準棒(20)の下端側に位置して支軸にて回動自在に設けた測定器固定体(40)は、被測定流体へ没すると、浮力を受けることによって水平状態を保持することとなる。すなわち、基準棒(20)に対して被測定流体によるたわみが設置角度の変化を生じさせても、測定器固定体(40)へ固定した超音波送受信装置(50)における垂直方向に対する設置角度は、常に一定に保持されることになる。その結果、超音波送受信装置(50)による超音波の送受信が安定する。
それに加えて、カバー部材(60)によって、超音波送受信装置(50)および前記測定器固定体(40)に対する被測定流体による揺動が減少することから、前記超音波の送受信が安定する。
したがって、被測定流体の流量を安定して測定することが可能となる
【0012】
(第一の発明のバリエーション1)
第一の発明においては、前記の支軸(30)は、三次元ジョイント(たとえば、ユニバーサルジョイント)を採用してもよい。
【0013】
(作用)
測定器固定体(40)は前記三次元ジョイントによって三次元方向に回動可能に軸支されるので、三次元方向の揺動力に対しても水中にて常に水平状態が保持される。
【0014】
(第一の発明のバリエーション2)
第一の発明は、前記基準棒(20)における測定器固定体(40)と反対側には、水準器(11)を設置する水準器設置面(21)を備えることとしてもよい。
【0015】
(作用)
水準器設置面(21)へ水準器(11)を設置することによって、基準棒(20)は垂直方向に対する設置角度をほぼ確実に垂直に立てることができる。 それによって、基準棒(20)が垂直方向に対して傾いている場合に比べて、測定器固定体(40)が常に水平状態を保持する点で容易になる。
【0016】
(第一の発明のバリエーション3)
第一の発明においては、 前記カバー部材(60)は、被測定流体による揺動力を吸収可能な連結部材(61)によって保持される構成を採用してもよい。
【0017】
(作用)
カバー部材(60)が被測定流体によって揺動するとしても、連結部材(61)がその揺動力を吸収するので、カバー部材(60)の内部の被測定流体の動きが小さくなる。 それによって、基準棒(20)に対する揺動動力が減少する。
【発明の効果】
【0018】
前記した第一の発明によれば、被測定流体の流量を計測する時に使用される超音波送受信装置における設置角度を常に一定に保持し、被測定流体の流量を安定して測定することを可能とする超音波送受信ユニットを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の超音波送受信ユニットを用いて開渠を流れる被測定流体を測定するときの概略的な斜視図である。
【図2】図1において被測定流体を測定するときの開渠の断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態の超音波送受信ユニットを用いて開渠を流れる被測定流体を測定するときの概略的な斜視図である。
【図4】図3において被測定流体を測定するときの開渠の断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態の超音波送受信ユニットを用いて開渠を流れる被測定流体を測定するときの概略的な斜視図である。
【図6】図5において被測定流体を測定するときの開渠の断面図である。
【図7】従来の超音波送受信装置を用いて開渠を流れる被測定流体を測定するときの開渠の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る超音波送受信ユニット10は、図1および図2に示すように、基準棒20と支軸30と測定器固定体40と超音波送受信装置50とカバー部材60とを備えている。なお、本実施形態では開渠を流れる被測定流体である水の流量を測定する際に用いられることを例とする。
【0021】
前記基準棒20は、その上部を開渠70へ橋渡しした仮設足場などの基準棒固定架台72へ垂直方向に立てて取り付ける。前記基準棒20の下端側は水中へ没する。
【0022】
前記支軸30は、水中へ没する前記基準棒20の下端側へ設けられるとともに、前記基準棒20の軸方向に対して直角な方向に設けられる。
【0023】
前記測定器固定体40は、超音波測定器である超音波送受信装置50を取り付け固定する部材であり、前記支軸30に対して回動可能に軸支される。それにより、水中へ没した測定器固定体40はそれ自体の浮力によって必然的に常に水平状態を保持する。したがって、たとえ上記の基準棒20に対してたわみなどの設置角度変化が生じても、測定器固定体40へ固定した超音波送受信装置50における垂直方向に対する設置角度は常に一定に保持されることになる。その結果、超音波送受信装置50による超音波51の送受信が安定するので、開渠70の被測定断面における水の流量を安定して測定できる。
【0024】
前記超音波送受信装置50は、超音波発振部と超音波受信部とを含んで構成される。 前記超音波発振部は、圧電素子で構成され、圧電素子から例えば開渠70の底面に向かって超音波パルス波51を発振する。また、前記超音波受信部は、前記超音波発振部から発振した超音波パルス波51が開渠70の被測定断面の壁面71に当たって反射した反射波を受信する。
【0025】
カバー部材60は、水の流れによる揺動を減少するために前記超音波送受信装置50および前記測定器固定体40の周囲を覆うものである。カバー部材60は、例えば図1に示すように水の流れによる抵抗を減少させる船形形状のボックス60aとすることができる。また、カバー部材60の内部は開渠70を流れる水にて満たすこととする。しかも、カバー部材60の材質はプラスチック製とすることが望ましい。その理由は、プラスチック系の材質は超音波51の透過性が良いことと、水と音響インピーダンスが比較的近いからである。
【0026】
カバー部材60は、水の流れによる揺動力を吸収可能な連結部材61によって前記基準棒20あるいは基準棒固定架台72へ保持されることが望ましい。 例えば図1に示すように船形形状のボックス60aであるカバー部材60の上部が、その四か所でワイヤ62からなる連結部材61によって吊り上げられ、前記ワイヤ62を基準棒20のほぼ中間位置へ固定具63にて固定することができる。
あるいは、図3に示すように船形形状のボックス60aであるカバー部材60の上部が、その四か所でワイヤ62からなる連結部材61によって吊り上げられ、前記ワイヤ62を基準棒固定架台72へ固定することができる。
【0027】
カバー部材60が船形形状であることによって、水の流れによる揺動を減少させることができる。また、たとえカバー部材60が水の流れによって揺動するとしても、その揺動が上記のワイヤ62によって吸収されるのでカバー部材60の内部の水の動きが小さくなる。それによって、前記基準棒20に対する揺動力がさらに減少するので、基準棒20自体に対する水の流れによる影響が小さくなる。
【0028】
なお、カバー部材60は、上記の船形形状のボックス60aに限定されず、他の形状でも良い。例えば、図5に示すように球形形状のボックス60bあるいは碗形形状のボックスとすることができる。なお、カバー部材60が球形形状のボックス60bであっても、開渠70を流れる水が球形形状のボックス60bの内部へ入り込むための流水入口が、前記球形形状のボックス60bの中間部あるいは上部に設けられている。碗形形状のボックスは上部が開口しているので、水が前記開口から碗形形状のボックスの内部へ流れ込むことになる。
球形形状のボックス60bが上記の船形形状のボックス60aの場合と異なる点は、水の流れの抵抗をどの程度受けるかであり、その作用は船形形状のボックス60aの場合とほぼ同様である。
【0029】
上記の連結部材61によって水の流れによる揺動力を吸収可能とする方法は、上記のワイヤ62に限定されず、他の方法であってよい。 例えば、図6に示すように、カバー部材60が球形形状のボックス60bの場合、球形形状の上部が例えば弾性部材64を介して前記基準棒20へ固定することができる。その場合、カバー部材60の揺動は前記弾性部材64によって吸収される。
【0030】
上記の構成によって、上記の基準棒20が垂直方向に対して傾いて立てられたり、あるいはその設置角度の誤差が生じたり、基準棒20自体が開渠70の水の流れの影響を受けて曲がりやたわみが生じたりしても、測定器固定体40が常に水平状態を保持する。その結果、超音波送受信装置50の設置角度は常に一定に保持されるので、角度補正等の修正が不要となる。超音波送受信装置50による超音波51の送受信が安定するので、被測定流体の流量を安定して測定することが可能となる。
また、カバー部材60の内部が開渠70を流れる水にて満たされることによって、超音波51がカバー部材60を通過する時の屈折角の影響が無くなる。
以上のことから、本実施形態の超音波送受信ユニット10は、従来のように角度計などを用いる必要が無くなる。さらに、超音波送受信装置50の設置誤差を考慮する必要も無くなる。
【0031】
前記の支軸30は、三次元ジョイントを採用しても良い。三次元ジョイントとしては、例えばユニバーサルジョイントがある。その結果、測定器固定体40は前記三次元ジョイントによって三次元方向に回動可能に軸支されるので、三次元方向の揺動力に対しても水中にて常に水平状態が保持される。
【0032】
前記基準棒20には、水準器11を設置する水準器設置面21が前記測定器固定体40とは反対側へ備えられることが望ましい。例えば図1に示すように、前記水準器設置面21を備えた水準器取り付け用プレート22が基準棒20の上端付近へ固定されている。なお、前記水準器設置面21は基準棒20の軸方向に対して直角な面である。
上記の水準器設置面21へ水準器11を設置することによって、基準棒20は垂直方向に対する設置角度をほぼ確実に垂直に立てて、前述した仮設足場などの基準棒固定架台72へ固定することができる。 その結果、基準棒20が垂直方向に対して傾いている場合に比べて、測定器固定体40が常に水平状態を保持する点で容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、超音波流量計の製造業、河川などの水量を測量するための測量サービス業、河川の浚渫工事や開渠の修繕の必要性を判断するためのデータ測定やデータ収集を行う情報サービス業などにおいて、利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0034】
10 超音波送受信ユニット 11 水準器
20 基準棒 21 水準器設置面
22 水準器取り付け用プレート
30 支軸
40 測定器固定体
50 超音波送受信装置(超音波センサ) 51 超音波
60 カバー部材 60a 船形形状のボックス
60b 球形形状のボックス 61 連結部材
62 ワイヤ 63 固定具
64 弾性部材
70 開渠 71 壁面
72 基準棒固定架台
80 センサ治具 81 角度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波送受信装置の設置角度を常に一定に保持するための超音波送受信ユニットであって、
被測定流体に対して垂直方向に立てられる基準棒と、
その基準棒の下端側に位置して前記基準棒の軸方向に対して直角に設けた支軸と、
その支軸に対して回動可能に軸支される測定器固定体と、
その測定器固定体に固定される超音波送受信装置と、
その超音波送受信装置および前記測定器固定体が被測定流体による揺動を減少するように覆うカバー部材と、
を備えた超音波送受信ユニット。
【請求項2】
前記の支軸は、三次元ジョイントである請求項1に記載の超音波送受信ユニット。
【請求項3】
前記の基準棒における測定器固定体と反対側には、水準器を設置する水準器設置面を備えた請求項1または請求項2のいずれかに記載の超音波送受信ユニット。
【請求項4】
前記カバー部材は、被測定流体による揺動力を吸収可能な連結部材によって保持される構成である請求項から請求項3のいずれかに記載の超音波送受信ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−202981(P2012−202981A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71207(P2011−71207)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】