説明

超音波送波器および超音波装置

【課題】複数の送波素子を円弧または部分球面状に配列した超音波送波器により、広帯域信号を広範囲に送信する場合に、方位に依存して周波数特性が変化してしまい、均一な周波数特性を実現できない。
【解決手段】送波指向性のリプルを低減し、各方位において均一な周波数特性を実現するため、複数の送波素子を、水平面内の円弧状または部分球面状に配列して構成する超音波送波器において、ある列の配列素子数で形成される指向性のリプルの山谷が、他の列の素子配列数で形成される指向性のリプルの山谷によって減少するように、一列の素子配列数を列毎に変化させて配列することにより、リプルの少ない送波指向性を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送信を行う超音波送波器および超音波装置に関し、特に複数の送波素子を円弧または部分球面状に配列して構成する超音波送波器および超音波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を海中に送信し、目標からの反響音を受信して、水中の目標物を検出する超音波装置において、目標が海底付近に存在する場合は、目標からの反響音が海底からの残響に埋もれて検出が困難となる。このように、目標の検出を阻害する主たる要因が残響である場合、広帯域信号を送受信することにより、受信信号に対する相関処理により得られる信号処理利得により信号対残響比を向上させて、目標の検出を容易にすることができる。
【0003】
広帯域信号の送信は、特許文献1に示される方式を用いた送波素子により実現することができる。従来、広帯域信号を送信する超音波装置の超音波送波器は、送波素子を平面状に配置していた。しかし、小型で広い視野角を得るため、送波素子を水平面内で円弧状に配列することを検討したところ、指向性にリプルが発生し、リプルの山および谷に該当する方位は周波数に依存して変化することを見出した。この現象は、比較的狭帯域の信号を用いる超音波装置では問題にならないが、広帯域信号を用いる場合は、方位毎に送信信号の周波数特性が異なり、方位によっては前述の相関処理による信号処理利得が十分得られないことも分かった。これを、図1および図2を参照して説明する。
【0004】
図1は、水平方向に送波素子数をN個円弧状に配列し、これを2M段に重ねた送波器の送波水平指向性を説明する図である。図1において、横軸は方位(°)、縦軸は送波レベル(dB)である。パラメータは周波数であり、荒い破線は周波数(f0−18)kHz、細かい破線は周波数f0kHz、実線は周波数(f0+18)kHzにおける送波水平指向性である。各周波数の送波水平指向性には、リプルがあり、リプルの状態は周波数に依存して変化することがわかる。
【0005】
図2は特定方位での周波数特性を説明する図である。図2において、横軸は周波数(kHz)、縦軸は送波レベル(dB)である。パラメータは方位であり、図1の方位φと方位θにおける周波数特性を示す。周波数毎にリプルの状況が異なるため、周波数特性は方位毎に大きく異なる。
【0006】
この改善策としては、円弧配列の曲率半径を大きくし、配列する素子数を増加させることにより、リプルを低減し平坦な指向性及び均一な周波数特性を実現する方法が考えられる。しかし、当初の目的である小型化に反する。また、送波器の大型化に伴いコストも増大する。
【0007】
【特許文献1】特開平8-340597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数の送波素子を円弧または部分球面状に配列した送波器により、広帯域信号を広範囲に送信する場合に、方位によって周波数特性が変化してしまい、均一な周波数特性を実現できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、送波指向性のリプルを低減し、各方位において均一な周波数特性を実現するため、複数の送波素子を、円弧または部分球面状に配列して構成する超音波送波器において、ある列の配列素子数で形成される指向性のリプルの山谷が、他の列の素子配列数で形成される指向性のリプルの山谷によって互いに打ち消されるように、一列の素子配列数を列毎に変えて配列することにより、リプルの少ない送波指向性を有する超音波送波器および超音波装置を得る。
【発明の効果】
【0010】
本発明に拠れば、複数の送波素子を、円弧または部分球面状に配列して構成する超音波送波器および超音波装置において、リプルの少ない指向性を比較的小型の超音波送波器および超音波装置で実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の実施の形態について、実施例を用い図3ないし図7を参照して説明する。ここで、図3は送波器の正面図である。図4は特定周波数における送波器の送波水平指向性を説明する図である。図5は周波数をパラメータとした送波器の送波水平指向性を説明する図である。図6は特定方位での周波数特性を説明する図である。図7は超音波装置のブロック図である。
【0012】
図3において、超音波送波器10は、奇数段の水平方向の送波素子1を(N−4)個、偶数段の水平方向の送波素子1をN個として円弧状に中心あわせで配置し、2M段重ねて配列することにより構成されている。超音波装置の超音波送波器の規模は、超音波装置の規模で決まり、本実施例では、送波素子数N×2Mである。奇数段の送波素子数は、偶数段の送波素子数に比べ、4個少ないが、この値はシミュレーションで求めたものである。すなわち、N×Mの送波器のリプルのある送波水平指向性を求め、これとは逆のリプルの送波水平指向性となる(N−n)×Mの送波器を求めた結果、n=4であった訳である。
【0013】
なお、図3は正面図なので、水平面内で円弧状に配列した左右端の送波素子の形状が縦長になる。しかし、図示の簡便のため、それは表現していない。また、図3は、上下に伸びた円柱の一部であるが、球の一部であっても良い。球の一部のとき、水平方向の素子数を段毎に変えるだけでなく、垂直方向の素子数(段数)を水平方向の並び毎に変えてもよい。これは、本明細書を理解した当業者にとって、容易推考である。さらに、本明細書において、列とは縦列と横列とを含む、並びである。
【0014】
図4において、横軸は方位(°)、縦軸は送波レベル(dB)である。細かい破線であるEVENはN個の素子による周波数f0の送波水平指向性であり、荒い破線であるODDは(N−4)個の素子による周波数f0の送波水平指向性である。EVENの指向性のリプルとODDの指向性のリプルは互いに山谷の位置が逆になっており、各素子から送波された音波が合成されることにより、EVENおよびODDの指向性を合成した指向性SUMが送波器の指向性として得られる。図4は、図3で説明したf=f0でのシミュレーション結果とも言える。
【0015】
図5において、横軸は方位(°)、縦軸は送波レベル(dB)である。パラメータは周波数であり、荒い破線は周波数(f0−18)kHz、細かい破線は周波数f0kHz、実線は周波数(f0+18)kHzにおける送波水平指向性である。図1と比較すれば、各周波数においてリプルが低減されていることが分かる。
【0016】
図6において、横軸は周波数(kHz)、縦軸は送波レベル(dB)である。パラメータは方位であり、図1の方位φと方位θにおける周波数特性を示す。図2と比較すれば、特性変化の山谷が小さくなっていることが分かる。また、この程度の周波数特性ならば、超音波受波器の待ちうけレプリカでフラットな特性とすることができる。さらに、送波素子の特性を変えて周波数特性を更にフラットにすることができる。
【0017】
上述した実施例に拠れば、超音波送波器の規模を増大させること無く、水平方向の視野角を広げ、リプルの少ない送波指向性及び均一な周波数特性を実現する超音波送波器を得ることができる。
【0018】
図7において、超音波装置100は、送信器30に接続された超音波送波器10と、受信器40に接続された超音波受波器20と、受信器40に接続された信号処理器50と、制御指示器60とから構成される。送信器30は、超音波送波器10を制御し、超音波送波器10は送信器30から入力される送信電力を電気音響変換し、超音波を送出する。超音波受波器20は、受信した音響を音響電気変換し、電気信号を受信器40に送出する。信号処理器50は、受信器40から受信した電気信号を検波積分処理、相関処理、表示処理し、制御指示器60に送出する。制御指示器60は、信号処理器50からの受信信号を表示すると共に、超音波装置100の全体制御を行う。
【0019】
超音波送波器10は、水平面内に於いて円周上に送波素子をN個配置し、2M段積み重ねた構成である。なお、超音波送波器10は、送波素子を2N×M個実装しているが、1段おきにN個配置の端部n個を駆動していない。この結果、超音波送波器の規模を増大させること無く、水平方向の視野角を広げ、リプルの少ない送波指向性および均一な周波数特性を実現する超音波装置を得ることができる。また、広帯域信号を送信する超音波装置においては、低リプルの指向特性により各方位において均一な周波数特性が実現できるため、相関処理により所望の信号処理利得を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】水平方向に送波素子数をN個円弧状配列し、これを2M段重ねた超音波送波器の送波水平指向性を説明する図である。
【図2】特定方位での周波数特性を説明する図である。
【図3】超音波送波器の正面図である。
【図4】特定周波数における超音波送波器の送波水平指向性を説明する図である。
【図5】周波数をパラメータとした超音波送波器の送波水平指向性を説明する図である。
【図6】特定方位での周波数特性を説明する図である。
【図7】超音波装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0021】
1…送波素子、10…超音波送波器、20…超音波受波器、30…送信器、40…受信器、50…信号処理器、60…制御指示器、100…超音波装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送波素子を、円弧または部分球面状に配列して構成する超音波送波器において、
第1の送波素子列の第1の送波素子数で形成される指向性のリプルの山谷が、第2の送波素子列の第2の送波素子数で形成される指向性のリプルの山谷によって低減されるように、前記第1の送波素子数と前記第2の送波素子数とを定めることを特徴とする超音波送波器。
【請求項2】
複数の送波素子を、円弧または部分球面状に配列して構成する送波器において、
列の素子配列数を列毎に変化させて配列したことを特徴とする超音波送波器。
【請求項3】
送信器と、この送信器から入力される送信電力を電気音響変換し超音波を送出する超音波送波器と、受信した音響を音響電気変換し電気信号を受信器に送出する超音波受波器と、前記受信器に接続され、前記受信器から受信した電気信号を検波積分処理、相関処理、表示処理し、制御指示部に送出する信号処理器と、信号処理器からの受信信号を表示し、全体制御を行う制御指示器とから構成された超音波装置において、
前記超音波送波器は、第1の送波素子列の第1の送波素子数で形成される指向性のリプルの山谷が、第2の送波素子列の第2の送波素子数で形成される指向性のリプルの山谷によって低減されるように、前記第1の送波素子数と前記第2の送波素子数とを定めることを特徴とする超音波装置。
【請求項4】
送信器と、この送信器から入力される送信電力を電気音響変換し超音波を送出する超音波送波器と、受信した音響を音響電気変換し電気信号を受信器に送出する超音波受波器と、前記受信器に接続され、前記受信器から受信した電気信号を検波積分処理、相関処理、表示処理し、制御指示部に送出する信号処理器と、信号処理器からの受信信号を表示し、全体制御を行う制御指示器とから構成された超音波装置において、
前記超音波送波器は、列の素子配列数を列毎に変化させて配列したことを特徴とする超音波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−42856(P2008−42856A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218523(P2006−218523)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】