説明

超音波骨評価装置

【課題】超音波骨評価装置において、音響整合媒体中の超音波の音速を正確に測定する。
【解決手段】超音波ビーム方向に所定距離をおいて設けられた前方反射面47a及び後方反射面47bそれぞれに、超音波振動子34から前記音響整合媒体を介して超音波を送波し、前方反射面47a及び後方反射面47bからの反射波を前記音響整合媒体を介して超音波振動子34で受波することによって、超音波振動子34と各反射面との間の超音波の伝搬時間を算出する。超音波振動子34と各反射面との間の超音波の伝搬時間の時間差と前方反射面47aから後方反射面47bまでの所定距離とに基づいて、前記音響整合媒体中の超音波の音速を演算し、当該音速を利用して、生体を通過する音速や減衰指標等の骨の評価値を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波骨評価装置に関し、特に、超音波を利用して骨の評価を行う超音波骨評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、骨粗鬆症等の骨の疾患を診断するために超音波骨評価装置が活用されている。超音波骨評価装置は、踵骨などの骨に超音波を放射し、骨を通過した超音波を受波して得られた受信信号に基づいて、骨中を伝播する超音波の音速や減衰等を測定することにより、骨の状態を評価する装置である。従来の一般的な超音波骨評価装置は、互いに向き合って配置された一対の超音波振動子を有する。これらの超音波振動子の間に評価対象となる骨を含む部位(例えば踵)を配置した状態において、一方の超音波振動子から超音波が送信され、骨を含む生体を通過した超音波が他方の超音波振動子で受信され、これにより得られる受信信号に基づき骨の性状の評価を行う。
【0003】
ちなみに、単一の超音波振動子を利用して反射法により骨の評価を行うことも可能である。超音波骨評価方式としては、超音波振動子と生体との間に水や油等の音響整合媒体を収容した媒体袋を設ける方式、生体が入れられる音響伝搬媒体槽の中に超音波振動子を配置する方式、等が知られている。従来の超音波骨評価装置においては、音響伝搬媒体による影響の除外、音響伝搬媒体の厚さの計測、等のために音響伝搬媒体中を伝搬する超音波の音速が実測されている。
【0004】
下記特許文献1には、生体を通過する音速を測定する超音波骨評価装置が記載されている。この超音波骨評価装置では、まず、超音波振動子と生体接触面を有する接触子とを備えた一対の振動子ユニットにより、生体を挟まない状態で、超音波振動子から超音波を送信し生体接触面からの反射波を超音波振動子で受信するまでの時間を計測し、その時間と予め定められた超音波振動子と生体接触面までの距離とに基づいて、振動子ユニット内の音響整合媒体中の音速が測定される。そして、この音響整合媒体中の音速と、一対の振動子ユニットにより生体を挟持し、その状態で超音波振動子による超音波の送受波を行うことにより得られる受信信号と、に基づいて、生体を通過する音速が算出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−186621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既に説明したように、骨評価値を演算するためには、通常、音響整合媒体中の超音波の音速が必要となる。その音速は、環境変化(例えば温度変化)や経時変化(例えば成分変化)等に起因して変動し得るものである。よって、生体の骨評価に際しては音響整合媒体中の超音波の音速が実測されるのが望ましい。
【0007】
しかし、超音波骨評価装置の製造段階における各部品の加工誤差や組み立て誤差等によって、一対の超音波振動子間の距離や、超音波振動子と反射面との間の距離にはバラツキが生じ得る。それを原因として音響整合媒体中の超音波の音速の推定精度が低下すると、最終的に求める骨評価値の信頼性が低下してしまう。
【0008】
本発明は、音響整合媒体中の超音波の音速を正確に測定できる超音波骨評価装置を提供することを目的とする。あるいは、本発明は、超音波振動子の位置決め誤差等があっても音響制動媒体中の超音波の音速を正確に測定でき、ひいては信頼性の高い骨評価値を演算できる超音波骨評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超音波骨評価装置は、骨を含む生体に対して音響整合媒体を介して超音波の送受波を行う少なくとも1つの超音波振動子を有する送受波部と、超音波ビーム方向に所定距離をおいて設けられた前方反射面及び後方反射面を有する超音波反射体と、前記超音波振動子から前記音響整合媒体を介して前記前方反射面及び前記後方反射面へ超音波を送波すると共に前記前方反射面及び前記後方反射面からの反射波を前記音響整合媒体を介して前記超音波振動子で受波することにより得られる第1反射波信号及び第2反射波信号に基づいて、前記超音波振動子と前記前方反射面との間の超音波の第1伝搬時間、及び、前記超音波振動子と前記後方反射面との間の超音波の第2伝搬時間を計測する時間計測部と、前記第1伝搬時間と前記第2伝搬時間の時間差及び前記所定距離に基づいて前記音響整合媒体中の超音波の音速を演算する音速演算器を含み、当該音速を利用して前記骨の評価値を演算する骨評価部と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、超音波振動子を各反射面に対して反射法によって超音波を送受波することによって、超音波振動子と各反射面との間の超音波の時間が計測される。そして、前方反射面から後方反射面までの距離は既知(一定)であるため、望ましくは、超音波振動子と各反射面との間の超音波の時間差で前方反射面から後方反射面までの距離の2倍を除することにより、音響整合媒体中の音速が算出される。このように、前方反射面から後方反射面までの所定距離を音響整合媒体中の音速を求める際の距離とすれば、超音波骨評価装置の製造段階における各部品の加工誤差や組み立て誤差等によって、超音波振動子と各反射面との間の距離にバラツキが生じても、音響整合媒体中の音速を正確に測定することができる。更に説明すれば、第1伝搬時間と第2伝搬時間は、それぞれ、超音波振動子と各反射面との間の距離的誤差に影響されてしまうものであるが、その誤差はいずれの伝搬時間にも同じだけ含まれるから、時間差を求めれば両者に含まれる誤差を相殺することが可能である。そのような誤差除外後の時間(時間差)によって厳密に特定されている反射面間の距離の2倍を除するならば、反射面間での音速を正確に求めることが可能となる。ひいては、それを利用して算出される骨評価値の信頼性を著しく高めることが可能となる。逆に見れば、超音波反射体等の設置に際して高精度の位置決めが不要となるから製造時の負担が軽減される。
【0011】
望ましくは、前記超音波骨評価装置において、上方に開いた谷状の生体保持空間を画定する第1傾斜板及び第2傾斜板を有する生体載置台と、前記超音波ビーム方向に直交する面に沿って前記送受波部を二次元移動させる移動機構と、を含み、前記超音波反射体の一部又は全部が前記第1傾斜板又は前記第2傾斜板の下側の隙間空間に位置し、且つ、前記前方反射面及び前記後方反射面が前記直交する面上において前記送受波部の二次元移動範囲内に位置する。
【0012】
上記構成によれば、前記送受波部の二次元移動範囲内に生じる第1傾斜板の下側や第2傾斜板の下側の隙間空間を利用して音響整合媒体中の音速測定を行えるため、送受波部の二次元移動範囲を合理的なサイズに維持でき、送受波部の二次元移動範囲の空間を効率的に利用することができる。
【0013】
望ましくは、前記超音波骨評価装置において、前記前方反射面及び前記後方反射面は、前記超音波振動子側から見て隣り合うように併設され、前記超音波反射体を利用した音速測定時において、前記超音波振動子が前記前方反射面及び前記後方反射面の両方に跨った位置で超音波の送受波を行い、前記時間計測部は、同一の超音波の送受波によって取得される前記第1反射波信号及び前記第2反射波信号を識別する。
【0014】
上記構成によれば、超音波振動子を前方反射面及び前記後方反射面の両方に跨った位置で超音波の送受波を行うため、一度の超音波の送受波によって、第1反射波信号及び第2反射波信号を得ることができる。したがって、超音波振動子を前方反射面と後方反射面のそれぞれに対向する位置で超音波の送受波を行い、第1反射波信号及び第2反射波信号を得る場合と比べて、音響整合媒体中の音速測定の時間を短縮することができる。
【0015】
望ましくは、前記超音波骨評価装置において、前記超音波反射体を利用した音速測定時において、前記超音波振動子から前記前方反射面までの第1の距離と前記超音波振動子から前記後方反射面までの第2の距離とが非整数倍の関係を満たす。
【0016】
上記構成によれば、前方反射面からの多重反射と後方反射面からの反射波との重なりを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、音響整合媒体中の超音波の音速を正確に測定できる。あるいは、本発明によれば、超音波振動子の位置決め誤差等があっても音響制動媒体中の超音波の音速を正確に測定でき、ひいては信頼性の高い骨評価値を演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】踵骨を評価対象とする超音波骨評価装置の外観を示す第1斜視図である。
【図2】踵骨を評価対象とする超音波骨評価装置の外観を示す第2斜視図である。
【図3】足置き台と振動子ユニットの第1拡大図である。
【図4】足置き台と振動子ユニットの第2拡大図である。
【図5】超音波骨評価装置の機能構成を示すブロック図である。
【図6】振動子ユニットの断面図である。
【図7】整合材袋の表側部材における生体接触側の形状を示す第1斜視図である。
【図8】整合材袋の表側部材における生体接触側の形状を示す第2斜視図である。
【図9】整合材袋の表側部材における生体非接触側の形状を示す第3斜視図である。
【図10】超音波振動子を移動させる移動機構を示す図である。
【図11】足置き台とこれに置かれた足との関係を示す図である。
【図12】受信データ処理部及び骨評価部の機能を示すブロック図である。
【図13】超音波骨評価装置による測定の流れの説明図である。
【図14】(a),(b)は、超音波反射体と超音波振動子との位置関係を示す図である。
【図15】図14に示す位置で超音波を送受波した時に得られる反射波形の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。以下においては、踵骨を評価対象とする超音波骨評価装置について説明するが、評価対象の骨はこれに限られない。踵骨以外の骨についても、骨の形状、特性等に合わせて、装置の構成を適宜変更して、本発明の趣旨を達成することは、当業者においては容易に想定可能である。超音波骨評価装置は、超音波骨密度測定装置とも称される。
【0020】
図1及び図2は、踵骨を評価対象とする超音波骨評価装置10の外観を示す斜視図である。超音波骨評価装置は、病院、検査センター等に設置され、被検者についての骨の健全性(骨粗鬆症の罹患有無等)を診断、予防するための装置である。超音波骨評価装置10が測定部とコンピュータとにより構成される場合、図1及び図2に示す構成が前者の測定部に相当する。本体12は、水平なフロア面上に設置される。本体12の上部には、足置き台14が配置されている。図4において詳述するが、足置き台14は、被検者がアプローチする側を正面とした場合における左右方向から見て、略L字形の載置面を有する台であり、図2の一点鎖線で示すように足Fを載せ、位置決めを行うものである。踵を足置き台14のL字形の最低部に合わせることにより、足の位置決めが行われる。足置き台14の左右には、踵部分を挟むように、一対の送受波部として、第1振動子ユニット16A及び第2振動子ユニット16Bが配置されている。第1及び第2振動子ユニット16A,16Bは、左右対称の構造を有しており、特に左右や第1第2を区別する必要がない時には、単に振動子ユニット16と記して、以下説明する。また、第1及び第2振動子ユニット16A,16Bを構成する要素についても、左右や第1第2の区別が必要な場合はその符号にA,Bを付し、また区別の必要がない場合には数字の符号のみを用いて説明する。振動子ユニット16は、踵部分と超音波振動子の間の音響整合を図るために音響整合部材を有している。音響整合部材は変形可能であり、変形して踵部分に密着し、踵表面との間の空気層を排除する。この超音波骨評価装置10において、音響整合部材は、水等の液体からなる音響整合媒体と、音響整合媒体を収容した収容部材としての整合材袋18と、を有する。足を足置き台14に置いた時に、整合材袋18が足の踵部分に当接して、超音波振動子とこの踵部分との間での音響インピーダンスの整合を図っている。
【0021】
図3及び図4は、足置き台14と振動子ユニット16の拡大図である。図3,4においては、足置き台14の正中面で破断して、一方の側、つまり被検者が足置き台14に足を置いた時に被検者にとって右側となる部分が示されている。足置き台14は、第1傾斜板20と第2傾斜板22とを有する。両者は谷底部分で連結されており、左右方向つまり超音波ビーム方向から見て、足置き台14は略L字形状を有する。より詳しくは、第1傾斜板20は、谷底部分からつま先側へかけて上がった傾斜姿勢を有する。第2傾斜板22も谷底部分から手前側へかけて上がった傾斜姿勢を有する。それらの傾斜板20,22の下側には、左右方向から見て三角形を有する、あるいは、そのような三角形を上部とした隙間空間が生じている。それらの上部は、上方に開いた谷状の空間であり、それは生体保持空間を構成している。第2傾斜板22の当接面22aに被検者の足の踵の後端面を当接させ、第1傾斜板20の底面20aに足裏を置くことにより、足の踵が保持される。この時の足の踵、特に踵骨の位置及びその周囲の位置に当接するよう整合材袋18が配置されている。整合材袋18の踵部分およびその周囲に当接する面は、概略球面の、一つの直径に直交する面と、この直径に平行で互いに直交する二つの面とで囲まれた部分の形状となっている。足置き台14に足を置くと、踵部分及びその周囲の左右両側に整合材袋18が当接し、整合材袋18が踵部分の表面に沿って変形し、空気層の介在を排除する。足置き台14の下方に存在する隙間空間には、後述する連通管44及び反射体ケース46が設けられている。反射ケース46は超音波反射体を収容する箱状部分であり、反射ケース46つまり超音波反射体の一部又は全部が第2傾斜板20の下方の隙間空間に位置している。
【0022】
次に、超音波骨評価装置10の内部構成について説明する。
【0023】
図5は、超音波骨評価装置10の機能構成を示すブロック図である。振動子ユニット16Aの第1超音波振動子34A及び振動子ユニット16Bの第2超音波振動子34Bは、送受信切替回路66を介して送信回路70及び受信回路68に接続されている。送受信切替回路66の動作により、超音波の送信の向き、又は送信を行う超音波振動子34を切り替えることができる。すなわち、2つの超音波振動子34A,34Bと受信回路68、送信回路70との接続関係を切り換えることにより、生体の一方側から超音波を送波して生体の他方側で生体を透過した超音波を受波する透過法、及び、生体の両側で個別的に超音波を送受波したり後述する超音波反射体に超音波を送受波したりする反射法の両者を実施することができる。
【0024】
送信回路70は、送信時に送信信号を出力する回路である。受信回路68は受信時に取得される受信信号に対して検波、A/D変換等の処理を実行する回路である。制御部72は、装置内の各構成の動作を制御するものであり、それは例えばCPU及び動作プログラムにより構成される。受信回路68から出力された受信信号(受信データ)は、図5に示す構成例において、制御部72を経由して受信データ処理部74へ与えられている。受信データ処理部74は、本実施形態において周波数解析、時間計測(時間演算)、その他のデータ処理を実行する機能を有する。受信データ処理部74が備える各機能については後述する。格納部76は、記憶部であって、そこには必要に応じて受信データが格納される。本実施形態においては、特に、後述する2つの反射面間の距離(所定距離ΔL)のデータがそこに格納されている。所定距離ΔLはレーザー計測等によって事前に厳密に計測され、それが登録されている。骨評価部78は、骨評価値を演算するユニットであり、骨評価値は、例えば、骨中の音速又は減衰を表す値である。それらは骨の性状に応じて変化するものである。そのような骨評価値を演算する場合、例えば、骨の厚さの演算に先立って、音響整合部材の厚みを計測する必要がある。音響整合部材の厚みは音響整合媒体中の超音波の音速と、超音波の伝搬時間とから演算されるところ、そのような音速が後述する方法によって正確に計測されている。制御部72には、入出力インターフェイスとしての操作パネル部80及び表示部82が接続されている。
【0025】
図6は、振動子ユニット16の断面図である。本実施形態の第1振動子ユニット16Aは足の一方側に配置される第1音響整合部材を有し、第2振動子ユニット16Bは足の他方側に配置される第2音響整合部材を有する。第1音響整合部材は、音響整合媒体と、音響整合媒体を収容した第1収容部材としての第1整合材袋18Aと、を有する。第2音響整合部材は、音響整合媒体と、音響整合媒体を収容した第2収容部材としての第2整合材袋18Bと、を有する。また、本実施形態の第1振動子ユニット16Aは、足の一方側に第1音響整合部材(音響整合媒体及び第1整合材袋18A)を介して設けられる第1超音波振動子34Aを有し、第2振動子ユニット16Bは、足の他方側に第2音響整合部材(音響整合媒体及び第2整合材袋18B)を介して設けられる第2超音波振動子34Bを有する。整合材袋18は、対象の生体である足側の表側部材24と反対側の裏側部材26を、環状のリングフレーム28に固定することにより形成される。表側部材24の周縁部がリングフレーム28とリングフレーム28の内側に位置する第1固定リング30に挟持され、これによって表側部材24がリングフレーム28に固定されている。また、裏側部材26の周縁部が第1固定リング30と第2固定リング32に挟持され、これによって裏側部材26が間接的にリングフレーム28に固定されている。裏側部材26は、蛇腹状に屈曲しており、中心部分は、超音波振動子34の外周部分に結合されている。裏側部材26の更に背面側には支持盤36が配置され、それは裏側部材26が背面側に膨出しないように規制し、これを支持するものである。支持盤36は複数の円環板状の支持プレート38a,38b,38c,38dから構成され、最外周の支持プレート38aは、外周縁部分の円筒形状の部分を更に有し、これが、リングフレーム28に固定されている。最内周の支持プレート38dは、超音波振動子34の外周部分に固定されている。裏側部材26は、超音波振動子34の外周部分に設けられたフランジ40と、最内周の支持プレート38dに挟持されて超音波振動子34と、に固定される。支持プレート38a,38b,38c,38dは、相互にスライド可能であり、後述する超音波振動子34の振動子軸線に直交する方向の動きを許容する。
【0026】
図6に示すように、超音波反射体47は、一対の超音波振動子34が向かい合う超音波ビーム方向に所定距離(ΔL)をおいて設けられる前方反射面47a及び後方反射面47bを有する。各反射面47a,47bは、超音波ビーム方向に垂直な面であり、それらは超音波ビーム方向から見てそれに直交する方向に並んでいる。すなわち、それらは併設されている。2つの反射面47a,47bをこのように隣接させて並べるのではなく、離間した状態で設けるようにしてもよい。両者間に超音波吸収材を設けて、漏れ込んでくる超音波成分の不必要な反射が低減されるように構成してもよい。超音波反射体47は、本実施形態において、単一のブロックによって構成され、それは例えばアルミニウムなどの金属によって構成される。いずれにしても、少なくとも2つの反射面において超音波の反射が強く生じるように、超音波反射体47の材料を選択するのが望ましい。また温度変化によって所定距離(ΔL)がほとんど変化しないような材料を選択するのが望ましい。多重反射の低減等の観点から、各反射面にあるいはその周囲に超音波減衰部材を設けることも可能である。超音波反射体47が単一のブロックとして構成されれば、つまり2つの反射面間において繋ぎ目や部材接合構造などが存在しなければ、2つの反射面の間に位置決め誤差や位置ずれが生じる余地がなくなり、演算される音速の推定精度を極めて高めることが可能である。本実施形態においては、各反射面とも四角形の完全な平面によって構成されているが、それが凹面状あるいはパラボラ形状を有していてもよく、その外形は円形等であってもよい。
【0027】
後述する移動機構によって、この前方反射面47a及び後方反射面47bのそれぞれに超音波ビーム経路が位置するように超音波振動子34を位置決めして、超音波の送受波が行われる。その場合においては、各反射面に対して超音波振動子34の振動面が正対することになる。本実施形態では、超音波ビーム方向に直交する面として各反射面が構成されているので、超音波振動子34をその向きを変えることなく平行移動させるだけで音速測定状況を作り出すことができる。2つの反射面は、骨の計測を行う領域に近い位置に設置するのが望ましく、そのような構成によれば、音速測定のための超音波振動子走査距離を短くできるから、測定時間を短縮化できる。本実施形態においては、被検体側の第2傾斜板の下方に超音波反射体を設けたが、それを第1傾斜板の下方に設けることも可能である。その場合には連結管を手前側の隙間空間に配置するようにしてもよい。
【0028】
図7〜9は、整合材袋の表側部材24の形状を示す斜視図である。表側部材24は円形状の基礎部分41を有し、基礎部分41には、足置き台14上の踵部分に向けて膨出する膨出部42、対をなす振動子ユニット16A,16Bの各々の第1整合材袋18A及び第2整合材袋18Bの内部空間を連通する連通管44、並びに、音響整合媒体中の超音波の音速を測定する際に用いられる超音波反射体を収容した反射体ケース46が設けられている。図9に示すように、超音波反射体47は、反射体ケース46に収容されつつ固定される。
【0029】
本実施形態では、反射体ケース46を基礎部分41の一部として構成したから、反射体ケース41を別体に構成する場合に生じやすいリークや気泡混入等の問題が生じにくいし、部品点数が少なくなるから製造コスト及び組立性の両面で有利である。更に、音響整合媒体が収容されている空間において、足置き台よりも下方において、超音波振動子34の前方にほとんど隙間がないような状況であっても、反射体ケース41を突出形成してその内部に超音波反射体47を配置すれば超音波振動子と各反射面との間の距離を十分に確保することができ、これにより音速測定精度を高められる。
【0030】
音速測定時には、超音波の送受波により得られる受信信号(反射波受信信号)を用いて音響整合媒体中の超音波の音速が算出されることになる。すなわち、後述するように、送信開始時点から受信信号中の反射波ピークまでの時間(往復伝搬時間)が計測される。2つの反射面に対応して2つの往復伝搬時間が計測され、それらの時間差で所定距離の2倍を除することにより、誤差要因を効果的に排除した形で音速が演算される。このような超音波反射体を用いた音速測定は、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18B内の音響整合媒体のそれぞれに対して適用されるのが望ましい。すなわち、第1整合材袋18A側及び第2整合材袋18B側のそれぞれに超音波反射体47を設けることが望ましい。かかる構成によれば、両側において音響整合媒体の温度等が異なる場合であってもそれぞれについて音速を個別的に正確に測定することが可能となる。
【0031】
左右の表側部材24に設けられる連通管44は中央部分で連結され、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18Bの内部空間が連通されている。連通管44を通して、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18B内の音響整合媒体が移動するため、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18Bの圧力バランスを容易に保つことができる。なお、この連通管44を使って音響整合媒体中の音速を算出することもできる。例えば、連通管44の位置にビーム経路が位置するように第1及び第2超音波振動子34A,34Bを位置決めし、これらの対向状態で超音波を送受することにより得られる超音波の伝搬時間と、第1及び第2超音波振動子34A,34B間の距離と、から音響整合材の音速を算出する。
【0032】
膨出部42は、球面を一つの直径に直交する第1の平面と、前記の直径に平行で、互いに直交する第2及び第3の平面と、で切った形状を有している。前記の直径は基礎部分41に直交し、基礎部分41が形成する平面が前記第1の平面に相当する。第2、第3の平面は、足置き台14の底面20aと当接面22aが形成する面である。第2、第3の平面による切り口が第1の側面48、第2の側面50となる。また、これら第1から第3の平面により切り出された球面の一部が対象部位である足に当接する生体当接面51となる。したがって、膨出部42の第1の側面48は足置き台の底面20aに沿い、第2の側面50は当接面22aに沿う。そして、第1及び第2の側面48,50から形成される膨出部42の側面は、全体としてL字形の足置き台の足を置く面に沿ってL字形に形成される。また、見方を変えれば、膨出部42は、高さの低いドームを、交差する二つの平面により切り取った部分的なドーム形状と見ることもできる。
【0033】
図10は、超音波振動子34を移動させる移動機構52を示す図である。移動方向は、超音波ビーム方向に直交する水平方向及び垂直方向(鉛直方向)である。すなわち、移動機構52は2つの振動子ユニットを一体的に二次元方向に移動させる。同図において、振動子ユニット16は、支持盤36を省略した状態で示されており、整合材袋18の裏側部材26の蛇腹形状の部分が現れている。第1超音波振動子34A及び第2超音波振動子34Bは、コの字形又はU字形の支持フレーム54の先端に固定されている。支持フレーム54は駆動機構56により、第1超音波振動子34A及び第2超音波振動子34Bの超音波ビーム方向に直交する平面内で移動される。したがって、第1超音波振動子34A及び第2超音波振動子34Bは、この配列方向においては移動せず、互いの距離も変化しないが、この配列方向に直交する方向には、いずれの方向にも移動可能となっている。上記の支持フレーム54は大きな剛性を有し、振動子間の距離は厳密に所定値に維持、固定されている。第1超音波振動子34A及び第2超音波振動子34Bの対向状態が常に維持される。この超音波振動子34の移動を許容するために、整合材袋の裏側部材26は、蛇腹構造を有し、また、支持盤36は、多重の支持プレート38a〜38dを有する構成を備える。それぞれの支持プレート38a〜38dが相互にスライドして、超音波振動子34の移動を許容する。
【0034】
図11は、足置き台14とこれに置かれた足Fとの関係を示す図である。二次元走査領域Rは、超音波ビーム方向に直交する面上の領域であり、本実施形態において、それは水平方向と垂直方向に広がった矩形領域である。その矩形領域は、第1傾斜板20の下方に相当する三角形領域を含み、また、第2傾斜板22の下方に相当する三角形領域を含む。後者の三角形領域内に2つの反射面47a,47bが含まれている。二次元走査領域の2辺が水平方向及び垂直方向に平行なので、移動走査機構として、一般的な水平搬送機構と垂直搬送機構を設ければよいから、その機構の複雑化を回避することができる。それを前提として、足置き台の下方に必然的に生じてしまう三角形の隙間領域を利用して音速測定を行えるから、二次元走査領域を合理的なサイズに維持できる。このように機構面での利点と走査空間効率上の利点の両者を同時に得ることが可能である。但し、二次元走査領域の形状として別のものを採用することもできる。例えば、谷状の生体保持空間の形状を二次元走査領域とし、それ以外に2つの反射面へ位置決めを行えるようにしてもよい。
【0035】
図11において、蛇行する矢印Yは、超音波振動子34の機械走査の経路を示している。このようなジグザグ走査は測定点の決定のために利用される踵骨の二次元画像を形成する場合において実行される。この矢印Yの軌跡を囲む範囲Rが超音波ビームの走査範囲である。超音波振動子34を、踵骨Cを含む範囲Rにおいて二次元走査すれば、透過超音波のデータに基づいて骨の二次元画像を構成することができる。その二次元画像は例えば測定点の決定において利用される。超音波ビームの二次元走査及び測定点に対する超音波計測に先立って音速測定が実施されるが、もちろんそれらの後に音速測定を行うようにしてもよい。また、図の説明は省略するが、超音波反射体47が第1傾斜板20の下側の空間、すなわち第1傾斜板20の底面20aに対して足Fと反対面側の空間に位置し、且つ前方反射面47a及び後方反射面47bが超音波ビームの走査範囲内に位置してもよい。このような構成により、装置のデッドスペースを有効に活用して、音響整合媒体中の音速を計測することができる。
【0036】
次に、超音波骨評価装置を使用した生体の骨評価方法について説明する。骨評価には、例えば、生体を通過する音速を測定し、その音速に基づいて骨密度を評価する方法がある。これは骨密度が低下すると、生体を通過する音速も低下するため、生体を通過する超音波の音速を定期的に測定し、その低下の程度により、骨密度の評価を行うものである。
【0037】
生体を通過する音速を測定する場合には、生体の厚みと生体を通過する超音波の伝搬時間を算出する必要がある。生体の厚みは、一対の超音波振動子間の距離から超音波振動子から生体表面(望ましくは骨表面)までの距離を減算することにより算出される。そして、この超音波振動子から生体までの距離は、反射法によって得られる超音波振動子と生体との間の超音波の伝搬時間と音響整合媒体中の音速により求められる。
【0038】
また、骨評価の他の例については、生体についての減衰指標を算出し、その値から骨密度を評価する方法もある。例えば、非健常人の生体についての減衰指標の値は健常人の生体についての減衰指標の値に比べて小さくなるため、生体についての減衰指標を定期的に測定し、過去の値と比較して、現在、改善傾向にあるのか、悪化傾向にあるのか等の判断を行うことができる。生体についての減衰指標は、一方の超音波振動子から生体を経由した他方の超音波振動子までの全経路の減衰指標から超音波振動子から生体までの減衰指標を減算することにより算出される。減衰指標は超音波が通過する距離に影響を受けるため、超音波振動子から生体までの距離を求める必要がある。上記でも説明したように、超音波振動子から生体までの距離を求めるには、音響整合媒体中の音速を求める必要がある。このように、生体を通過する音速や減衰指標等の骨評価を行うための値(骨評価値)を求めるためには、音響整合媒体中の音速を求めることが必要である。なお、上記の減衰指標自体は、例えば減衰率の傾きとして演算される。例えば、まず、送信信号の送信スペクトルと受信信号の受信スペクトルとの差分演算によって減衰スペクトル(差分スペクトル)が演算される。次に、減衰スペクトルにおける例えば最小減衰率をとる点として基準点が定められ、その基準点から周波数軸上に沿って所定距離離れた点が特定され、それらの2点間を結ぶ直線の傾き(減衰率の傾き)が減衰指標として演算される。
【0039】
本実施形態では、音響整合媒体中の音速を求め、その音速を利用して生体を通過する音速を測定する例について、以下説明する。
【0040】
図5に示す超音波骨評価装置10での処理は、(1)音響整合媒体中の音速を算出する工程と、(2)生体測定と、(3)生体を通過する音速を算出する工程と、が含まれる。(2)生体測定は、(2−1)生体を介した第1及び第2超音波振動子間の超音波の伝搬時間を計測する工程と、(2−2)超音波振動子と生体との間の超音波の伝搬時間を計測する工程と、からなる。
【0041】
上記(1)音響整合媒体中の音速を算出する工程では、一方の超音波振動子34が超音波反射体47の前方反射面47a及び後方反射面47bと対向するように位置決められ、一方の超音波振動子34から超音波を送波すると共に前方反射面47a及び後方反射面47bから反射した超音波を一方の超音波振動子34で受波する反射法が実施される。これにより、一方の超音波振動子34と前方反射面47aとの間の伝搬時間(以下、第1伝搬時間t1)及び一方の超音波振動子34と後方反射面47bとの間の伝搬時間(以下、第2伝搬時間t2)が計測される。前述した通り、前方反射面47aと後方反射面47bは、超音波振動子34の超音波ビーム方向に所定距離ΔLをおいて設けられている。したがって、音響整合媒体中の音速Vは、第1伝搬時間t1と第2伝搬時間t2との時間差で所定距離ΔLの2倍を除することにより、算出される。
【0042】
上記(2)の生体測定において、第1及び第2超音波振動子34A,34B間の超音波の伝搬時間を計測する場合には、生体を介して第1超音波振動子34Aと第2超音波振動子34Bとが対向するように位置決められ、第1超音波振動子34Aから送波された超音波を第2超音波振動子34Bで受波する透過法が実施される。これにより、第1超音波振動子34Aから生体を経由した第2超音波振動子34Bまでの超音波の全伝搬時間Ttが計測される。また、上記(2)の生体測定において、超音波振動子34と生体との間の超音波の伝搬時間を計測する場合には、第1超音波振動子34Aから超音波を送波すると共に生体から反射した超音波を第1超音波振動子34Aで受波し、また、第2超音波振動子34Bから超音波を送波すると共に生体から反射した超音波を第2超音波振動子34Bで受波する反射法が実施される。これにより、第1超音波振動子34Aと生体との間の超音波の伝搬時間tr及び第2超音波振動子34Bと生体との間の超音波の伝搬時間tlが計測される。反射法の実施に際しては、2つの超音波振動子において同時に送受波が実施されてもよいが、通常、それらの送受波が順次実施される。
【0043】
骨を通過する音速を算出する工程では、算出した音響整合媒体中の音速Vと超音波振動子34と生体との間の超音波伝搬時間(tr,tl)から、第1超音波振動子34Aと生体との間の距離Lr及び第2超音波振動子34Bと生体との間の距離Llとが算出され、第1超音波振動子34Aと第2超音波振動子34Bとの間の距離Ltから算出した距離(Lr,Ll)を減算することにより、生体の厚みが算出される。第1超音波振動子34Aと第2超音波振動子34Bとの間の距離Ltは既知とする。また、第1超音波振動子34Aから生体を経由した第2超音波振動子34Bまでの超音波の全伝搬時間Ttから超音波振動子と生体との間の超音波の伝搬時間(tr,tl)を減算することにより、生体を通過する超音波の伝搬時間が算出される。そして、生体を通過する超音波の伝搬時間及び生体の厚みに基づいて、生体を通過する超音波の音速が算出される。
【0044】
透過法及び反射法により得られる超音波の伝搬時間は、前述したように図11に示す超音波骨評価装置の受信データ処理部74によって計測される。また、これらの超音波の伝搬時間を用いて音響整合媒体の超音波の音速や生体を通過する超音波の音速等は、骨評価部78により算出される。以下に、図11に示す超音波骨評価装置の受信データ処理部及び骨評価部の機能構成について説明する。
【0045】
図12は、受信データ処理部74及び骨評価部78の機能を示すブロック図である。各機能はハードウエア機能として実現されてもよいし、ソフトウエア機能として実現されてもよい。図12において、(A)は透過法による生体測定時に得られる受信信号を示しており、(B)は反射法による生体測定時に得られる受信信号を示しており、(C)は反射法による音響整合媒体中の音速測定時に得られる受信信号を示している。
【0046】
受信データ処理部74は、3つの時間計測部102,104,106を有している。時間計測部102は、透過法による生体測定時に得られる受信信号108に基づいて、第1超音波振動子34Aから生体を経由した第2超音波振動子34Bまでの超音波の全伝搬時間Ttを計測する。時間計測部104は、反射法による生体測定時に得られる第1受信信号110(例えば生体の左側での送受波により得られる受信信号)及び第2受信信号112(例えば生体の右側での送受波により得られる受信信号)に基づいて、第1超音波振動子34Aと生体との間の超音波の伝搬時間tr及び第2超音波振動子34Bと生体との間の超音波の伝搬時間tlを計測する。時間計測部106は、反射法による音響整合媒体中の音速測定時に得られる第1反射波受信信号114(例えば、前方反射面に対向する位置での送受波により得られる受信信号)及び第2反射波受信信号116(例えば、後方反射面に対向する位置での送受波により得られる受信信号)に基づいて、一方の超音波振動子34と前方反射面47aとの間の超音波の第1伝搬時間t1及び一方の超音波振動子34と後方反射面47bとの間の超音波の第2伝搬時間t2を計測する。
【0047】
骨評価部78は、音響整合媒体音速演算部120、生体音速演算部122、厚さ演算部126,128、を有している。音響整合媒体音速演算部120は、前方反射面47aから後方反射面47bまでの所定距離ΔL、一方の超音波振動子34と前方反射面47aとの間の超音波の第1伝搬時間t1及び一方の超音波振動子34と後方反射面47bとの間の超音波の第2伝搬時間t2、から音響整合媒体中の音速Vを演算する。本実施形態のように、前方反射面から後方反射面までの所定距離を音響整合媒体中の音速を求める際の距離とすれば、超音波骨評価装置の製造段階における各部品の加工誤差や組み立て誤差等によって、超音波振動子と反射面との間の距離にバラツキが生じても、前方反射面から後方反射面までの距離は一定であるため、音響整合媒体中の音速を正確に測定することができる。
【0048】
厚さ演算部126は、音響整合媒体中の音速Vと、超音波振動子及び生体の間の超音波伝搬時間(tr,tl)と、から第1超音波振動子34Aと生体との間の距離Lr及び第2超音波振動子34Bと生体との間の距離Llとを算出する。厚さ演算部128は、第1超音波振動子34Aと第2超音波振動子34Bとの間の距離Ltと、超音波振動子34と生体との間の距離(Lr,Ll)と、から生体の厚みLaを算出する。生体音速演算部122は、超音波の全伝搬時間Ttと、超音波振動子34及び生体の間の超音波伝搬時間(tr,tl)と、から生体を通過する超音波の伝搬時間を求め、その伝搬時間と生体の厚みLaとに基づいて、生体を通過する超音波の音速Vaを算出する。
【0049】
図13は、超音波骨評価装置10による測定の流れの説明図である。まず、足置き台14上に被検者の足をセットする(ステップS100)。一方で、操作者は操作パネル部80より測定条件の入力を行い、足がセットされたことを確認した後、測定開始の指示を行う(ステップS102)。制御部72は、操作者の指示に従い、送受信切替回路66を制御して第1超音波振動子34Aで超音波を送信し、第1超音波振動子34Aで超音波を受信するように設定する(ステップS104)。また、制御部72は、移動機構52に指示し、超音波反射体47の前方反射面47aの位置に第1超音波振動子34Aを移動させ、超音波の送受を行う(ステップS106)。前方反射面47aからの反射波の第1反射波受信信号を格納部76に格納する(ステップS108)。また、制御部72は、移動機構52に指示し、超音波反射体47の後方反射面47bの位置に第1超音波振動子34Aを移動させ、超音波の送受を行う(ステップS110)。後方反射面47bからの反射波の第2反射波受信信号を格納部76に格納する(ステップS112)。
【0050】
図13と共に図12を参照しながら更に説明すると、時間計測部106は、第1反射波受信信号及び第2反射波受信信号に基づいて、一方の超音波振動子と前方反射面との間の超音波の第1伝搬時間t1及び一方の超音波振動子と後方反射面との間の超音波の第2伝搬時間t2を計測する(ステップS114)。音響整合媒体音速演算部122は、第1伝搬時間t1と第2伝搬時間との時間差で前方反射面から後方反射面までの所定距離ΔLを除することにより、音響整合媒体中の音速Vを算出する(ステップS116)。この音響整合媒体中の音速を用いて、上述したように生体を通過する音速等が算出され、その値に基づいて骨の評価が行われる。
【0051】
次に、他の実施形態について説明する。図14(a),(b)は、超音波反射体47と超音波振動子34との位置関係を示す図である。図15は、図14に示す位置で超音波を送受波した時に得られる反射波形の図である。本実施形態では、前方反射面47aと後方反射面47bとの間に隙間を形成し、前方反射面47aと後方反射面47bを離してもよいが、超音波振動子34を超音波反射体47の前方反射面47a及び後方反射面47bの両方に跨った位置で位置決めし易い等の点から、超音波振動子34から見て隣り合うように並設されていることが望ましい。音響整合媒体中の音速を測定する際には、図14(a),(b)に示すように、超音波振動子34の中心軸eを前方反射面47a及び後方反射面47bの境界dと一致する位置で超音波振動子34を位置決め、超音波の送受波を行う。但し、超音波振動子34の中心軸eを前方反射面47a及び後方反射面47bの境界dと一致する位置で超音波振動子34を位置決めする必要は必ずしもなく、超音波反射体47の前方反射面47a及び後方反射面47bの両方に跨った位置で、超音波振動子34が位置決めされればよい。
【0052】
このような位置関係で超音波の送受を行うと、例えば、図15に示すような反射波形が得られる。超音波振動子34と前方反射面47aとの間の距離及び超音波振動子34と後方反射面47bとの間の距離が既知であれば、どの時間帯で振幅するのが前方反射面からの反射波Aであるのか、また、どの時間帯で振幅するのが後方反射面からの反射波Bであるのかを推定することができる。すなわち、時間計測部106は、超音波振動子34が超音波反射体47の前方反射面47a及び後方反射面47bの両方に跨った位置で超音波の送受を行うことにより得られる反射波受信信号から、超音波振動子34と前方反射面47aとの距離から推測される受信時間に基づいて、第1反射波受信信号(前方反射面で反射した超音波の受信信号)を選択し、また、超音波振動子34と後方反射面47bとの距離から推測される受信時間に基づいて第2反射波受信信号(例えば、後方反射面で反射した超音波の受信信号)を選択する。そして、前述した通り、時間計測部106は、それらの受信信号に基づいて、超音波振動子34と前方反射面47aとの間の超音波の第1伝搬時間t1及び超音波振動子34と後方反射面47bとの間の超音波の第2伝搬時間t2を計測する。上記のような構成により、超音波振動子34と前方反射面47aとの間の超音波の第1伝搬時間t1及び超音波振動子34と後方反射面47bとの間の超音波の第2伝搬時間t2を一度の超音波の送受波によって取得できるため、音響整合媒体中の音速の測定時間を短縮することができる。
【0053】
図15に示す反射波形のうち、前方反射面47aからの反射波Aと後方反射面47bからの反射波Bとの間にある反射波Aeや後方反射面からの反射波の後にある反射波Aeは、前方反射面からの多重反射である。これは、前方反射面47aで反射した超音波が超音波振動子34と前方反射面47aとの間で再反射した時の反射波である。超音波振動子34と前方反射面47aとの間の距離及び超音波振動子34と後方反射面47bとの間の距離が整数倍の関係にあると、前方反射面47aからの多重反射が、後方反射面47bからの反射波と重なるため、第2反射波受信信号を識別できない場合がある。そこで、超音波振動子34と前方反射面47aとの間の距離及び超音波振動子34と後方反射面47bとの間の距離は、非整数倍の関係を満たすことが好ましい。これにより、前方反射面47aからの多重反射波と後方反射面47bからの反射波との重なりを避けることができる。
【0054】
これらの実施形態の超音波骨評価装置は、音響整合媒体が直接生体に接触しない乾式走査型の超音波骨評価装置を例として説明したが、槽内に音響整合媒体を満たし、その槽内に生体を入れる湿式型の超音波骨評価装置であってもよい。また、これらの実施形態の超音波骨評価装置は、骨密度の評価だけでなく、他の疾病の診断を行う装置にも適用可能である。特に、関節リウマチの骨病変を観測する装置に適用可能である。また、透過超音波による画像診断(特に、骨の診断)を行う装置にも適用可能である。更には、超音波非破壊検査を行う装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 超音波骨評価装置、12 本体、14 足置き台、16,16A,16B 振動子ユニット、18,18A,18B 整合材袋、20 第1傾斜板、20a 底面、22 第2傾斜板、22a 当接面、24 表側部材、26 裏側部材、28 リングフレーム、30 第1固定リング、32 第2固定リング、34,34A,34B 超音波振動子、36 支持盤、38a,38b,38c,38d 支持プレート、40 フランジ、41 基礎部分、42 膨出部、44 連通管、46 反射体ケース、47 超音波反射体、47a 前方反射面、47b 後方反射面、48 第1の側面、50 第2の側面、51 生体当接面、52 移動機構、54 支持フレーム、56 駆動機構、66 送受信切替回路、68 受信回路、70 送信回路、72 制御部、74 受信データ処理部、76 格納部、78 骨評価部、80 操作パネル部、82 表示部、102,104,106 時間計測部、120 音響整合媒体音速演算部、122 生体音速演算部、126,128 厚さ演算部、C 踵骨、F 足、R 二次元走査領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨を含む生体に対して音響整合媒体を介して超音波の送受波を行う少なくとも1つの超音波振動子を有する送受波部と、
超音波ビーム方向に所定距離をおいて設けられた前方反射面及び後方反射面を有する超音波反射体と、
前記超音波振動子から前記音響整合媒体を介して前記前方反射面及び前記後方反射面へ超音波を送波すると共に前記前方反射面及び前記後方反射面からの反射波を前記音響整合媒体を介して前記超音波振動子で受波することにより得られる第1反射波信号及び第2反射波信号に基づいて、前記超音波振動子と前記前方反射面との間の超音波の第1伝搬時間、及び、前記超音波振動子と前記後方反射面との間の超音波の第2伝搬時間を計測する時間計測部と、
前記第1伝搬時間と前記第2伝搬時間の時間差及び前記所定距離に基づいて前記音響整合媒体中の超音波の音速を演算する音速演算器を含み、当該音速を利用して前記骨の評価値を演算する骨評価部と、
を含むことを特徴とする超音波骨評価装置。
【請求項2】
上方に開いた谷状の生体保持空間を画定する第1傾斜板及び第2傾斜板を有する生体載置台と、
前記超音波ビーム方向に直交する面に沿って前記送受波部を二次元移動させる移動機構と、
を含み、
前記超音波反射体の一部又は全部が前記第1傾斜板又は前記第2傾斜板の下側の隙間空間に位置し、且つ、前記前方反射面及び前記後方反射面が前記直交する面上において前記送受波部の二次元移動範囲内に位置する、ことを特徴とする請求項1記載の超音波骨評価装置。
【請求項3】
前記前方反射面及び前記後方反射面は、前記超音波振動子側から見て隣り合うように併設され、
前記超音波反射体を利用した音速測定時において、前記超音波振動子が前記前方反射面及び前記後方反射面の両方に跨った位置で超音波の送受波を行い、
前記時間計測部は、同一の超音波の送受波によって取得される前記第1反射波信号及び前記第2反射波信号を識別する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の超音波骨評価装置。
【請求項4】
前記超音波反射体を利用した音速測定時において、前記超音波振動子から前記前方反射面までの第1の距離と前記超音波振動子から前記後方反射面までの第2の距離とが非整数倍の関係を満たす、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波骨評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−120722(P2012−120722A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274252(P2010−274252)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】