足部体積測定器
【課題】従来の足部体積測定器では、水面波が発生しやすく、その減衰に時間が掛かるため、精度と再現性をより高くし、また測定時間を短縮することができる測定器を提供すること。
【解決手段】上側を開口した容器2の底面側断面形状を足の形状に対応して細長形状に構成すると共に、開口側断面形状は、爪先側3を短縮させて開口断面積を低減させた形状とし、底面側と開口側間には面積の変化に対応させて傾斜壁5を設け、開口断面積が低減した高さにおいて、踵側4の壁に溢水部7を設けた構成の足部体積測定器1とした。
【解決手段】上側を開口した容器2の底面側断面形状を足の形状に対応して細長形状に構成すると共に、開口側断面形状は、爪先側3を短縮させて開口断面積を低減させた形状とし、底面側と開口側間には面積の変化に対応させて傾斜壁5を設け、開口断面積が低減した高さにおいて、踵側4の壁に溢水部7を設けた構成の足部体積測定器1とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば足関節捻挫時等における足部の膨張を、簡易に、且つ定量的に測定することが可能な足部体積測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1には、足関節捻挫に対して高気圧酸素療法(HBO:Hyperbaric
Oxygen Therapy)を実施し、その直前直後の足・足関節の体積を測定した結果、平均25cm3の体積減少(p<0.01)が認められたとの研究結果が記載されている。
【0003】
このような足・足関節(本発明では、便宜的に、これらを含めて水中に浸漬する比較的広い範囲を足部と総称する。)の体積の測定においては、精度及び再現性の高い測定器が必要である。
【0004】
従来の足部体積測定器としては、図6〜図8に示したものがある。この測定器は、足の形状に対応して細長形状とし、上側を開口した直方体形状の容器aに溢水部bを設けた構成であり、容器内に溢水部bまで水cを満たした状態において、足部dを浸して、この際に溢水部bを経て溢れた水eを他の容器fで受ける。そして各足に均等に荷重して起立・静止し、水面が静まった状態において、それまでに他の容器fに溜まった水eの重量を測定し、その重量と比重とから足部dの体積を求めるものである。
【0005】
このような測定器による測定において問題となるのは、足部を浸し、起立・静止の過程の体動によって水面波が発生することであり、この水面波の発生は測定値の変動係数を大きくして精度を低下させ、そして水面波が減衰して水面が静まるまでに時間が掛かると、それだけ測定時間が長くなってしまうという傾向がある。尚、変動係数(CV:Coefficient of Variation)は、次式で示すものである。
変動係数(CV):標準偏差÷平均値×100(%)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】柳下、外「足関節捻挫に対する高気圧酸素療法の有効性」、日本整形外科スポーツ医学会雑誌、日本整形外科スポーツ医学会、2008年、Vol.27、No.4、p.17-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、直方体形状の、上側を開口した容器に溢水部を設けた構成の従来の測定器では、水面波が発生しやすく、その減衰に時間が掛かるということであり、本発明では、このような課題を解決して、精度と再現性をより高くし、また測定時間を短縮することができる測定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上記課題を解決するために、上側を開口した容器の底面側断面形状を足の形状に対応して細長形状に構成すると共に、開口側断面形状は、爪先側を短縮させて開口断面積を低減させた形状とし、底面側と開口側間には面積の変化に対応させて傾斜壁を設け、開口断面積が低減した高さにおいて、踵側の壁に溢水部を設けた足部体積測定器を提案するものである。
【0009】
また本発明では、上記の構成において、傾斜壁の上端は、開口端から距離を設けており、該開口端までは垂直壁を設けた構成とすることを提案する。
【0010】
更に本発明では、上記の構成において、傾斜壁と垂直壁を細長形状の直方体容器の仕切壁として設けることを提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定器では、開口側断面形状は、爪先側を短縮させて開口断面積を低減させた形状としており、開口断面積が低減した高さにおいて、踵側の壁に溢水部を設けた構成としているので、体動に対して水面波が発生し難くくなり、また発生しても迅速に減衰する。
【0012】
こうして水面波による影響を低減することにより、従来と比較して精度と再現性をより高くすると共に、測定時間を短縮することができる。
【0013】
開口断面積は低減しているが、底面側断面形状は足の形状に対応して細長形状に構成しているので、足部を浸し、起立・静止の動作を行うのに支障はない。
【0014】
面積が変化する底面側と開口側間には傾斜壁を設けているので、足部を浸漬する際に爪先側に泡が発生しても、傾斜壁に沿って上昇して排出されるため、それによって測定誤差を生じることはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の足部体積測定器の第1の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図2は本発明の足部体積測定器の第1の実施の形態を示す縦断面図である。
【図3】図3は本発明の足部体積測定器の第1の実施の形態における使用状態を示す縦断面図である。
【図4】図4は本発明の足部体積測定器の第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図5】図5は本発明の足部体積測定器の第2の実施の形態を示す縦断面図である。
【図6】図6は従来の足部体積測定器の例を示す斜視図である。
【図7】図7は従来の足部体積測定器の例を示す縦断面図である。
【図8】図8は従来の足部体積測定器の使用状態を示す縦断面図である。
【図9】図9は5人についての測定における変動係数を示すものである。
【図10】図10はダミーとして物体(ペットボトル)についての測定における変動係数を、図9の結果と共に示すものである。
【図11】図11は5人についての測定における計測時間を示すものである。
【図12】図12はダミーとして物体(ペットボトル)についての測定における計測時間を、図11の結果と共に示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の足部体積測定器の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
まず第1の実施の形態に対応する図1〜図3において、符号1は本発明の足部体積測定器を概括的に示すもので、符号2は人の足の形状に対応して細長形状に構成し、上側を開口させた直方体形状の容器であり、符号3が爪先側、符号4が踵側に対応している。
【0018】
この実施の形態では、容器2の爪先側3の中間高さよりも少し下側の位置から踵側4に向かって略中間の位置まで仕切壁としての傾斜壁5を設け、そしてその上端から上方に垂直壁6を設けている。そして踵側4の壁にはパイプ状の溢水部7を突出させて設けている。
【0019】
このようにして、上側を開口した容器2の底面側断面形状を足の形状に対応して細長形状に構成すると共に、開口側断面形状は、爪先側を短縮させて開口断面積を低減させた形状とし、底面側と開口側間には面積の変化に対応させて傾斜壁5を設け、踵側4の壁に溢水部7を設けたた足部体積測定器1が構成される。
【0020】
以上の構成において、例えば足関節捻挫時等における足部の膨張を測定するには、図3に示すように、足部体積測定器1の踵側4の溢水部7に対応して受け容器8を設置し、容器2内に溢水部7まで水9を満たした状態において、足部10を浸して、各足に均等に荷重して起立・静止する。そして足部10を浸してから、水面が静まるまでに溢水部7から溢れた水11を受け容器8で受けて重量を測定し、その重量と比重(例えば比重1 g/cm3として)とから足部10の体積を算出することができる。
【0021】
上述したとおり、本発明の足部体積測定器1では、開口断面積を低減させた形状としており、そして開口断面積が低減した高さにおいて、踵側4の壁に溢水部7を設けた構成としているので、足部10を浸した際の体動に対して水面波が発生し難くく、また発生しても迅速に減衰する。尚、溢水部7は開口断面積が低減した高さの踵側4の壁であれば、図示のように幅方向の壁に設ける他、長手方向の壁に設けることもできる。
【0022】
こうして水面波による影響を低減することができ、単なる直方体形状の容器である従来の足部体積測定器と比較して、精度と再現性がより高くなり、また測定時間を短縮することもできる。
【0023】
このように開口断面積は低減しているものの、底面側断面形状は足の形状に対応して細長形状に構成しているので、足部を浸し、起立・静止の動作を行うのに支障はない。
【0024】
そして本発明では、面積が変化する底面側と開口側間には傾斜壁5を設けているので、足部10を浸漬する際に爪先側3に泡が発生したとしても、傾斜壁5に沿って上昇して排出されるため、それによって測定誤差を生じることはない。
【0025】
次に図4、図5は本発明の第2の実施の形態を示すもので、上述した第1の実施の形態では、傾斜壁5と垂直壁6は、直方体形状の容器2の仕切壁として構成されているが、この第2の実施の形態では、傾斜壁5と垂直壁6は、容器12の外壁として構成されているものである。
【0026】
この構成では、容器12を構成するためのアクリル等の材料を低減することができる。
【0027】
その他の構成要素は、第1の実施の形態と同様であり、また動作も同じであるので、この第2の実施の形態については、対応する構成要素に第1の実施の形態と同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0028】
次に、本発明の足部体積測定器と、従来の足部体積測定器の性能を比較する測定を行った結果を説明する。
【0029】
まず、本発明と従来の足部体積測定器の諸元を説明する。
従来の足部体積測定器は、ベースライン社製のVolumetric Edema
Gauge(容積式浮腫ゲージ)であり、容器aの開口寸法は、15cm×34cmであり、底から溢水部bまでの寸法は、16cmである。
一方、本発明の足部体積測定器1は、上述した第1の実施の形態に対応するもので、容器2の開口寸法と、底から溢水部7までの寸法は同一である。一方、開口部の寸法は、15cm×16cmである。
【0030】
次に測定対象としては、下記表1に示すA〜Eの5人の人と、下記表2に示すダミーの物体としてペットボトル(500ml×2)を用いた。人での測定では、測定中における体動が不可避であるが、物体(ペットボトル)の測定では、人における体動の影響を除外することができる。
【0031】
測定対象のうち、人については、右足と左足の夫々につき5回、計10回ずつ体積と計測時間を測定して記録する。また物体(ペットボトル)については、水を満たし、錘をつけて沈むようにし、これにより5回ずつ体積測定と計測時間の測定を行った。そして測定値について、下式で示される変動係数を算出して、再現性の評価とした。変動係数(CV):標準偏差÷平均値×100(%)
【0032】
表1は測定対象の人に関する情報と、それらについて測定した体積の平均値と、本発明と従来の足部体積測定器における標準偏差を示すものである。また表2は測定対象の物体(ペットボトル)について測定した体積の平均値と、本発明と従来の足部体積測定器における標準偏差を示すものである。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
また図9は記録された測定値に基づいて全ての測定対象の人の変動係数(%)を算出した結果を示すグラフである。尚、図中、「A右」、「A左」という表記は、夫々「測定対象の人Aの右足」、「測定対象の人Aの左足」という意味であり、他の表記についても同様である。また図中に表示されているように、図中左側が従来の足部体積測定器、右側が本発明の足部体積測定器に対応するものである。
【0036】
また図10は記録された測定値に基づいて物体(ペットボトル)の変動係数(CV)を算出した結果を示すグラフであり、このグラフでは、便宜上、図9に示した測定対象の人の算出結果も共に示しており、物体(ペットボトル)の結果については便宜上、図中楕円で囲んでいる。
【0037】
更に図11は全ての測定対象の人の測定時間を示すグラフであり、図12は物体(ペットボトル)の測定時間を、図11に示した人の測定時間と共に示すものである。
【0038】
以上の測定結果から、次のことが分かる。
1.人を測定対象とする測定結果
(a)従来と本発明の足部体積測定器は、共に変動係数が1%以下であるので、いずれも再現性が良好な測定器であることがわかる。
(b)しかし本発明のものの変動係数(0.33±0.16%)は、従来のものの変動係数(0.79±0.33%)と比較して、約2分の1であり、また本発明のものの測定時間(1.2±0.33分)は、従来のものの測定時間(4.1±1.2分)と比較して、約3分の1であり、本発明の足部体積測定器は、従来の足部体積測定器よりも高性能であることが分かる。
2.体動の影響がない物体(ペットボトル)を測定対象とする測定結果
本発明のものの変動係数(0.33%)は、従来のものの変動係数(0.26%)と、同等であり、また本発明のものの測定時間(1.0分)は、従来のものの測定時間(2.3分)と比較して、約2分の1であった。
【0039】
以上のように、本発明の足部体積測定器では、開口断面積を低減させた形状としているため、水面波が発生し難くく、また測定中における疲労等による体動によって新たに水面波が発生しても迅速に減衰することから、変動係数の増大を抑制でき、こうして従来の足部体積測定器と比較して、変動係数が小さく、従って高精度であると共に、測定時間も短縮できるという格別なる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の足部体積測定器は、上述したように足関節捻挫時等における足部の膨張を、簡易に、且つ定量的に測定することが可能な他、周産期における浮腫の定量的評価にも利用することができ、その他、広い分野において精密な測定が可能な足部体積測定器として利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 足部体積測定器
2 容器
3 爪先側
4 踵側
5 傾斜壁
6 垂直壁
7 溢水部
8 他の容器
9 水
10 足部
11 溢れた水
12 容器
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば足関節捻挫時等における足部の膨張を、簡易に、且つ定量的に測定することが可能な足部体積測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1には、足関節捻挫に対して高気圧酸素療法(HBO:Hyperbaric
Oxygen Therapy)を実施し、その直前直後の足・足関節の体積を測定した結果、平均25cm3の体積減少(p<0.01)が認められたとの研究結果が記載されている。
【0003】
このような足・足関節(本発明では、便宜的に、これらを含めて水中に浸漬する比較的広い範囲を足部と総称する。)の体積の測定においては、精度及び再現性の高い測定器が必要である。
【0004】
従来の足部体積測定器としては、図6〜図8に示したものがある。この測定器は、足の形状に対応して細長形状とし、上側を開口した直方体形状の容器aに溢水部bを設けた構成であり、容器内に溢水部bまで水cを満たした状態において、足部dを浸して、この際に溢水部bを経て溢れた水eを他の容器fで受ける。そして各足に均等に荷重して起立・静止し、水面が静まった状態において、それまでに他の容器fに溜まった水eの重量を測定し、その重量と比重とから足部dの体積を求めるものである。
【0005】
このような測定器による測定において問題となるのは、足部を浸し、起立・静止の過程の体動によって水面波が発生することであり、この水面波の発生は測定値の変動係数を大きくして精度を低下させ、そして水面波が減衰して水面が静まるまでに時間が掛かると、それだけ測定時間が長くなってしまうという傾向がある。尚、変動係数(CV:Coefficient of Variation)は、次式で示すものである。
変動係数(CV):標準偏差÷平均値×100(%)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】柳下、外「足関節捻挫に対する高気圧酸素療法の有効性」、日本整形外科スポーツ医学会雑誌、日本整形外科スポーツ医学会、2008年、Vol.27、No.4、p.17-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、直方体形状の、上側を開口した容器に溢水部を設けた構成の従来の測定器では、水面波が発生しやすく、その減衰に時間が掛かるということであり、本発明では、このような課題を解決して、精度と再現性をより高くし、また測定時間を短縮することができる測定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上記課題を解決するために、上側を開口した容器の底面側断面形状を足の形状に対応して細長形状に構成すると共に、開口側断面形状は、爪先側を短縮させて開口断面積を低減させた形状とし、底面側と開口側間には面積の変化に対応させて傾斜壁を設け、開口断面積が低減した高さにおいて、踵側の壁に溢水部を設けた足部体積測定器を提案するものである。
【0009】
また本発明では、上記の構成において、傾斜壁の上端は、開口端から距離を設けており、該開口端までは垂直壁を設けた構成とすることを提案する。
【0010】
更に本発明では、上記の構成において、傾斜壁と垂直壁を細長形状の直方体容器の仕切壁として設けることを提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定器では、開口側断面形状は、爪先側を短縮させて開口断面積を低減させた形状としており、開口断面積が低減した高さにおいて、踵側の壁に溢水部を設けた構成としているので、体動に対して水面波が発生し難くくなり、また発生しても迅速に減衰する。
【0012】
こうして水面波による影響を低減することにより、従来と比較して精度と再現性をより高くすると共に、測定時間を短縮することができる。
【0013】
開口断面積は低減しているが、底面側断面形状は足の形状に対応して細長形状に構成しているので、足部を浸し、起立・静止の動作を行うのに支障はない。
【0014】
面積が変化する底面側と開口側間には傾斜壁を設けているので、足部を浸漬する際に爪先側に泡が発生しても、傾斜壁に沿って上昇して排出されるため、それによって測定誤差を生じることはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の足部体積測定器の第1の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図2は本発明の足部体積測定器の第1の実施の形態を示す縦断面図である。
【図3】図3は本発明の足部体積測定器の第1の実施の形態における使用状態を示す縦断面図である。
【図4】図4は本発明の足部体積測定器の第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図5】図5は本発明の足部体積測定器の第2の実施の形態を示す縦断面図である。
【図6】図6は従来の足部体積測定器の例を示す斜視図である。
【図7】図7は従来の足部体積測定器の例を示す縦断面図である。
【図8】図8は従来の足部体積測定器の使用状態を示す縦断面図である。
【図9】図9は5人についての測定における変動係数を示すものである。
【図10】図10はダミーとして物体(ペットボトル)についての測定における変動係数を、図9の結果と共に示すものである。
【図11】図11は5人についての測定における計測時間を示すものである。
【図12】図12はダミーとして物体(ペットボトル)についての測定における計測時間を、図11の結果と共に示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の足部体積測定器の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
まず第1の実施の形態に対応する図1〜図3において、符号1は本発明の足部体積測定器を概括的に示すもので、符号2は人の足の形状に対応して細長形状に構成し、上側を開口させた直方体形状の容器であり、符号3が爪先側、符号4が踵側に対応している。
【0018】
この実施の形態では、容器2の爪先側3の中間高さよりも少し下側の位置から踵側4に向かって略中間の位置まで仕切壁としての傾斜壁5を設け、そしてその上端から上方に垂直壁6を設けている。そして踵側4の壁にはパイプ状の溢水部7を突出させて設けている。
【0019】
このようにして、上側を開口した容器2の底面側断面形状を足の形状に対応して細長形状に構成すると共に、開口側断面形状は、爪先側を短縮させて開口断面積を低減させた形状とし、底面側と開口側間には面積の変化に対応させて傾斜壁5を設け、踵側4の壁に溢水部7を設けたた足部体積測定器1が構成される。
【0020】
以上の構成において、例えば足関節捻挫時等における足部の膨張を測定するには、図3に示すように、足部体積測定器1の踵側4の溢水部7に対応して受け容器8を設置し、容器2内に溢水部7まで水9を満たした状態において、足部10を浸して、各足に均等に荷重して起立・静止する。そして足部10を浸してから、水面が静まるまでに溢水部7から溢れた水11を受け容器8で受けて重量を測定し、その重量と比重(例えば比重1 g/cm3として)とから足部10の体積を算出することができる。
【0021】
上述したとおり、本発明の足部体積測定器1では、開口断面積を低減させた形状としており、そして開口断面積が低減した高さにおいて、踵側4の壁に溢水部7を設けた構成としているので、足部10を浸した際の体動に対して水面波が発生し難くく、また発生しても迅速に減衰する。尚、溢水部7は開口断面積が低減した高さの踵側4の壁であれば、図示のように幅方向の壁に設ける他、長手方向の壁に設けることもできる。
【0022】
こうして水面波による影響を低減することができ、単なる直方体形状の容器である従来の足部体積測定器と比較して、精度と再現性がより高くなり、また測定時間を短縮することもできる。
【0023】
このように開口断面積は低減しているものの、底面側断面形状は足の形状に対応して細長形状に構成しているので、足部を浸し、起立・静止の動作を行うのに支障はない。
【0024】
そして本発明では、面積が変化する底面側と開口側間には傾斜壁5を設けているので、足部10を浸漬する際に爪先側3に泡が発生したとしても、傾斜壁5に沿って上昇して排出されるため、それによって測定誤差を生じることはない。
【0025】
次に図4、図5は本発明の第2の実施の形態を示すもので、上述した第1の実施の形態では、傾斜壁5と垂直壁6は、直方体形状の容器2の仕切壁として構成されているが、この第2の実施の形態では、傾斜壁5と垂直壁6は、容器12の外壁として構成されているものである。
【0026】
この構成では、容器12を構成するためのアクリル等の材料を低減することができる。
【0027】
その他の構成要素は、第1の実施の形態と同様であり、また動作も同じであるので、この第2の実施の形態については、対応する構成要素に第1の実施の形態と同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0028】
次に、本発明の足部体積測定器と、従来の足部体積測定器の性能を比較する測定を行った結果を説明する。
【0029】
まず、本発明と従来の足部体積測定器の諸元を説明する。
従来の足部体積測定器は、ベースライン社製のVolumetric Edema
Gauge(容積式浮腫ゲージ)であり、容器aの開口寸法は、15cm×34cmであり、底から溢水部bまでの寸法は、16cmである。
一方、本発明の足部体積測定器1は、上述した第1の実施の形態に対応するもので、容器2の開口寸法と、底から溢水部7までの寸法は同一である。一方、開口部の寸法は、15cm×16cmである。
【0030】
次に測定対象としては、下記表1に示すA〜Eの5人の人と、下記表2に示すダミーの物体としてペットボトル(500ml×2)を用いた。人での測定では、測定中における体動が不可避であるが、物体(ペットボトル)の測定では、人における体動の影響を除外することができる。
【0031】
測定対象のうち、人については、右足と左足の夫々につき5回、計10回ずつ体積と計測時間を測定して記録する。また物体(ペットボトル)については、水を満たし、錘をつけて沈むようにし、これにより5回ずつ体積測定と計測時間の測定を行った。そして測定値について、下式で示される変動係数を算出して、再現性の評価とした。変動係数(CV):標準偏差÷平均値×100(%)
【0032】
表1は測定対象の人に関する情報と、それらについて測定した体積の平均値と、本発明と従来の足部体積測定器における標準偏差を示すものである。また表2は測定対象の物体(ペットボトル)について測定した体積の平均値と、本発明と従来の足部体積測定器における標準偏差を示すものである。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
また図9は記録された測定値に基づいて全ての測定対象の人の変動係数(%)を算出した結果を示すグラフである。尚、図中、「A右」、「A左」という表記は、夫々「測定対象の人Aの右足」、「測定対象の人Aの左足」という意味であり、他の表記についても同様である。また図中に表示されているように、図中左側が従来の足部体積測定器、右側が本発明の足部体積測定器に対応するものである。
【0036】
また図10は記録された測定値に基づいて物体(ペットボトル)の変動係数(CV)を算出した結果を示すグラフであり、このグラフでは、便宜上、図9に示した測定対象の人の算出結果も共に示しており、物体(ペットボトル)の結果については便宜上、図中楕円で囲んでいる。
【0037】
更に図11は全ての測定対象の人の測定時間を示すグラフであり、図12は物体(ペットボトル)の測定時間を、図11に示した人の測定時間と共に示すものである。
【0038】
以上の測定結果から、次のことが分かる。
1.人を測定対象とする測定結果
(a)従来と本発明の足部体積測定器は、共に変動係数が1%以下であるので、いずれも再現性が良好な測定器であることがわかる。
(b)しかし本発明のものの変動係数(0.33±0.16%)は、従来のものの変動係数(0.79±0.33%)と比較して、約2分の1であり、また本発明のものの測定時間(1.2±0.33分)は、従来のものの測定時間(4.1±1.2分)と比較して、約3分の1であり、本発明の足部体積測定器は、従来の足部体積測定器よりも高性能であることが分かる。
2.体動の影響がない物体(ペットボトル)を測定対象とする測定結果
本発明のものの変動係数(0.33%)は、従来のものの変動係数(0.26%)と、同等であり、また本発明のものの測定時間(1.0分)は、従来のものの測定時間(2.3分)と比較して、約2分の1であった。
【0039】
以上のように、本発明の足部体積測定器では、開口断面積を低減させた形状としているため、水面波が発生し難くく、また測定中における疲労等による体動によって新たに水面波が発生しても迅速に減衰することから、変動係数の増大を抑制でき、こうして従来の足部体積測定器と比較して、変動係数が小さく、従って高精度であると共に、測定時間も短縮できるという格別なる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の足部体積測定器は、上述したように足関節捻挫時等における足部の膨張を、簡易に、且つ定量的に測定することが可能な他、周産期における浮腫の定量的評価にも利用することができ、その他、広い分野において精密な測定が可能な足部体積測定器として利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 足部体積測定器
2 容器
3 爪先側
4 踵側
5 傾斜壁
6 垂直壁
7 溢水部
8 他の容器
9 水
10 足部
11 溢れた水
12 容器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側を開口した容器の底面側断面形状を足の形状に対応して細長形状に構成すると共に、開口側断面形状は、爪先側を短縮させて開口断面積を低減させた形状とし、底面側と開口側間には面積の変化に対応させて傾斜壁を設け、開口断面積が低減した高さにおいて、踵側の壁に溢水部を設けたことを特徴とする足部体積測定器。
【請求項2】
傾斜壁の上端は、開口端から距離を設けており、該開口端までは垂直壁を設けたことを特徴とする請求項1に記載の足部体積測定器。
【請求項3】
傾斜壁と垂直壁を細長形状の直方体容器の仕切壁として設けたことを特徴とする請求項2に記載の足部体積測定器。
【請求項1】
上側を開口した容器の底面側断面形状を足の形状に対応して細長形状に構成すると共に、開口側断面形状は、爪先側を短縮させて開口断面積を低減させた形状とし、底面側と開口側間には面積の変化に対応させて傾斜壁を設け、開口断面積が低減した高さにおいて、踵側の壁に溢水部を設けたことを特徴とする足部体積測定器。
【請求項2】
傾斜壁の上端は、開口端から距離を設けており、該開口端までは垂直壁を設けたことを特徴とする請求項1に記載の足部体積測定器。
【請求項3】
傾斜壁と垂直壁を細長形状の直方体容器の仕切壁として設けたことを特徴とする請求項2に記載の足部体積測定器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−61083(P2012−61083A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206614(P2010−206614)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(510248626)株式会社オルトメディコ (1)
【出願人】(508144369)株式会社ナノサイエンス (7)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(510248626)株式会社オルトメディコ (1)
【出願人】(508144369)株式会社ナノサイエンス (7)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]