説明

踏切制御子の制御区間長測定システム、制御区間長測定方法およびプログラム

【課題】他の装置や通常の列車の運行に影響することがなく、また、測定者による測定結果のバラツキがなく、踏切制御子の制御区間長の測定を行うことができる踏切制御子の制御区間長測定システム、制御区間長測定方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】踏切制御子による列車の検出状態を検出する動作検出手段と、動作検出手段によって検出された検出結果に基づいて、踏切制御子が列車を検出している時間を計測する時間計測手段と、列車の走行速度を計測する速度計測手段と、時間計測手段によって計測された時間および速度計測手段によって計測された列車の走行速度に基づいて、制御区間長を算出する制御区間長算出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切制御子の制御区間長測定システム、制御区間長測定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、列車が踏切道を通過する際に踏切遮断機や踏切警報機などの踏切機器を操作する踏切制御装置が用いられている。この踏切制御装置は、例えば、踏切道を間に挟んだ閉そく区間の両端に配置された1組の踏切制御子が列車を検知したときに出力される検知信号に応じて踏切機器の制御を行う。各踏切制御子には、列車を検知する範囲(以下、「列車検知範囲」という)がある。踏切制御装置は、より具体的には、閉そく区間の始点の位置に配置された踏切制御子の列車検知範囲に列車が進入したときに出力される検知信号に応じて踏切警報を開始し、閉そく区間の終点の位置に配置された踏切制御子の列車検知範囲から列車が進出したときに出力される検知信号に応じて踏切警報を終了するという制御を行っている。
【0003】
この列車の進入または進出を検知する踏切制御子は、通常、レールを用いた短小の軌道回路によって構成されており、列車が踏切制御子の列車検知範囲内に存在するときには、列車の車軸によって踏切制御子の軌道回路が短絡されるという現象を利用して、列車検知範囲内への列車の進入または列車検知範囲外への列車の進出を検知し、この列車を検知した状態を示す信号を検知信号として出力している。より具体的には、例えば、列車が踏切制御子の列車検知範囲内に進入して軌道回路が短絡されるとリレーを動作(例えば、リレー接点を落下させてレールが短絡されていることを示す状態に動作)させる。また、列車が踏切制御子の列車検知範囲内から進出して軌道回路の短絡が解除されるとリレーを逆の状態に動作(例えば、リレー接点を上げてレールが短絡されていないことを示す状態に動作)させる。踏切制御子は、上記のようなリレーの動作を示す信号を列車の検知信号として出力している(特許文献1参照)。
【0004】
この踏切制御子の列車検知範囲の幅を示す距離(以下、「制御区間長」という)は、例えば、30[m]という距離に設定されており、継続的な使用によって踏切制御子の性能が落ちてくると、その制御区間長が短くなり、列車を検知しにくくなってくる。そのため、踏切制御子による列車の検知性能の低下に伴う踏切制御装置の誤動作を防止するために、踏切制御子の制御区間長を定期的に測定する必要がある。
【0005】
このため、従来は、測定者が、2本のレール間を短絡することによって軌道回路を短絡する軌道短絡器を用いて、列車の車軸が踏切制御子の軌道回路を短絡させている状態と同じ状態を作り、その軌道短絡器を用いて2本のレール間を短絡する場所を予め定められた距離、例えば、1[m]だけ移動しながら踏切制御子の動作を確認することによって、踏切制御子の制御区間長を測定していた。また、測定者が、実際に運行している列車を目視で確認して踏切制御子の制御区間長を測定することも行われている。
【0006】
また、検査専用の車両である電気検測車を測定対象の路線に走行させて踏切制御子の制御区間長の測定を行う方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−56881号公報
【特許文献2】特開平6−255490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、測定者が、実際に運行している列車を目視で確認することによる踏切制御子の制御区間長の測定方法では、測定者の目測により測定が行われるため、正確に制御区間長を測定することができないという問題があった。
【0009】
また、軌道短絡器を用いて踏切制御子の制御区間長を測定する方法では、2本のレール間の短絡状態が測定者の技量に応じて異なるため、短絡状態を均一にすることができず、測定データの信頼性が低いものとなってしまう。また、軌道短絡器による制御区間長の測定では、実際に踏切制御子を動作させて確認するため、制御区間長の測定に伴って踏切制御子から列車の検出信号が出力される。この検出信号に応じて踏切制御装置が動作し、不要な踏切警報を行ってしまう。また、測定者が列車の線路内に立ち入って測定するため、列車事故を防止するために列車の運行を停止させることや、列車が運行していない夜間に作業するなどの対応が必要となり、測定数が増加するに従って測定作業が繁雑になるという問題があった。
【0010】
また、電気検測車を用いて踏切制御子の制御区間長の測定を行う場合においても、電気検測車を運行するため、通常の列車の運行中に測定を行う場合には、列車の運行時間を変更するなどの対応が必要となり、通常の列車の運行に影響を及ぼしてしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の課題認識に基づいてなされたものであり、他の装置や通常の列車の運行に影響することがなく、また、測定者による測定結果のバラツキがなく、踏切制御子の制御区間長の測定を行うことができる踏切制御子の制御区間長測定システム、制御区間長測定方法およびプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の制御区間長測定システムは、踏切制御子が列車を検出する範囲の距離である制御区間長を測定する制御区間長測定システムであって、前記踏切制御子による前記列車の検出状態を検出する動作検出手段と、前記動作検出手段によって検出された検出結果に基づいて、前記踏切制御子が前記列車を検出している時間を計測する時間計測手段と、前記列車の走行速度を計測する速度計測手段と、前記時間計測手段によって計測された前記時間および前記速度計測手段によって計測された前記列車の走行速度に基づいて、前記制御区間長を算出する制御区間長算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の前記速度計測手段は、前記列車の走行速度を複数回計測し、計測された複数回の走行速度に基づいて前記列車の走行速度を決定する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の前記動作検出手段は、前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入った状態および前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出た状態を検出し、前記時間計測手段は、前記動作検出手段によって前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入った状態が検出されたときに時間の計測を開始し、前記動作検出手段によって前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出た状態が検出されたときに時間の計測を終了する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の前記制御区間長算出手段は、前記列車の車両における車軸間の距離に基づいて、または前記列車の車両における車軸間の距離と、前記列車の車両間における車軸間の距離と、前記列車の車両の編成数とに基づいて前記列車の車軸間の合計距離を算出し、前記算出された車軸間の合計距離と、前記時間計測手段によって計測された前記時間と、前記速度計測手段によって計測された前記列車の走行速度とに基づいて、前記制御区間長を算出する、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の制御区間長測定システムは、前記時間計測手段が計測した前記時間を表示する表示手段、をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の前記動作検出手段は、前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入ったとき、および前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出たときに動作するリレーの動作状態に基づいて、前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入った状態および前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出た状態を検出する、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の前記制御区間長算出手段は、前記列車の車両における車軸間の距離に基づいて、または前記列車の車両における車軸間の距離と、前記列車の車両間における車軸間の距離と、前記列車の車両の編成数とに基づいて前記列車の車軸間の合計距離を算出し、前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入ったときに動作するリレーの動作遅延時間と、前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出たときに動作するリレーの動作遅延時間とに基づいた、または前記時間計測手段が計測した前記時間とリレーの動作時間との差に基づいた補正時間を算出し、前記算出された車軸間の合計距離と、前記算出された補正時間と、前記時間計測手段によって計測された前記時間と、前記速度計測手段によって計測された前記列車の走行速度とに基づいて、前記制御区間長を算出する、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の制御区間長測定方法は、踏切制御子が列車を検出する範囲の距離である制御区間長を測定する制御区間長測定システムの制御区間長測定方法であって、動作検出手段が、前記踏切制御子による前記列車の検出状態を検出する動作検出手順と、時間計測手段が、前記動作検出手順によって検出された検出結果に基づいて前記踏切制御子が前記列車を検出している時間を計測する時間計測手順と、速度計測手段が、前記列車の走行速度を計測する速度計測手順と、制御区間長算出手段が、前記時間計測手順によって計測された前記時間および前記速度計測手順によって計測された前記列車の走行速度に基づいて、前記制御区間長を算出する制御区間長算出手順と、を含むことを特徴とする。
【0020】
また、本発明のプログラムは、踏切制御子が列車を検出する範囲の距離である制御区間長を測定する制御区間長測定システムのコンピュータに、前記踏切制御子による前記列車の検出状態を検出する動作検出ステップと、前記動作検出ステップによって検出された検出結果に基づいて前記踏切制御子が前記列車を検出している時間を計測する時間計測ステップと、前記列車の走行速度を計測する速度計測ステップと、前記時間計測ステップによって計測された前記時間および前記速度計測ステップによって計測された前記列車の走行速度に基づいて、前記制御区間長を算出する制御区間長算出ステップと、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、他の装置や通常の列車の運行に影響することがなく、また、測定者による測定結果のバラツキがなく、踏切制御子の制御区間長の測定を行うことができる踏切制御子の制御区間長測定システム、制御区間長測定方法およびプログラムを提供することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態による制御区間長測定システムの概略構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の制御区間長測定システムにおいて制御区間長の測定方法を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態の制御区間長測定システムにおいて測定される車両を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態の制御区間長測定システムにおける制御区間長測定の処理手順を示したフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態の制御区間長測定システムにおいて測定された制御区間長の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態による制御区間長測定システムの概略構成を示したブロック図である。図1において、制御区間長測定システムは、リレー動作検出部10、時間計測部20、車両速度計測部30、および制御区間算出部40から構成される。また、時間計測部20には、計測時間表示部21および踏切制御子形式切り替え部22が接続されている。なお、計測時間表示部21および踏切制御子形式切り替え部22は、時間制側部20に備えられた構成とすることもできる。
【0024】
なお、制御区間長を測定する測定対象である踏切制御子には、HC(閉回路)形式の踏切制御子と、HO(開回路)形式の踏切制御子とがある。HC形式の踏切制御子は、リレーの状態を、レールが短絡されていることを示す状態(以下、「ON状態」という)に常時しておき、踏切制御子の列車検出範囲内に列車が存在するときにリレーの状態を、レールが短絡されていないことを示す状態(以下、「OFF状態」という)にする。HO形式の踏切制御子は、リレーの状態をOFF状態に常時しておき、踏切制御子の列車検出範囲内に列車が存在するときにリレーの状態をON状態にする。本実施形態の制御区間長測定システムにおいては、踏切制御子形式切り替え部22が、測定者の設定に応じて測定対象である踏切制御子がHC形式の踏切制御子であるかHO形式の踏切制御子であるかを切り替える。
【0025】
なお、本実施形態の説明においては、測定対象である踏切制御子は、HO形式の踏切制御子であるとして説明する。なお、本実施形態をHC形式の踏切制御子に適用する場合は、リレーのON状態とOFF状態とを逆の状態に置き換えることによって適用可能である。
【0026】
リレー動作検出部10は、制御区間長を測定する測定対象である踏切制御子のリレーの動作状態を検出する。また、リレー動作検出部10は、測定対象の踏切制御子のリレーがON状態であるか、OFF状態であるかを表すリレー動作検出信号を、時間計測部20に出力する。
【0027】
なお、本実施形態における測定対象である踏切制御子には、踏切制御子のリレーがON状態であるか、OFF状態であるかを示す、例えば、LED(発光ダイオード:Light Emitting Diode)などの表示ランプ(以下、「リレー動作表示ランプ」という)が備わっている。リレー動作検出部10は、リレー動作表示ランプの点灯(例えば、リレーがON状態を示す)および消灯(例えば、リレーがOFF状態を示す)を検出する光センサーによって、踏切制御子のリレーがON状態であるか、OFF状態であるかを検出し、検出したリレーの状態に応じてリレー動作検出信号を出力する。例えば、リレー動作検出信号は、リレーがON状態を示すときに“High”レベルの信号を出力し、リレーがOFF状態を示すときに“Low”レベルの信号を出力する。
【0028】
なお、本発明において、リレー動作検出部10によって行われる踏切制御子のリレーの動作状態の検出方法を本実施形態の構成に限定するものではなく、踏切制御子のリレーがON状態であるか、OFF状態であるかを検出することができる構成であれば、様々な構成に変更することができる。例えば、測定対象の踏切制御子にリレー動作表示ランプが備わっていない場合、リレーに接続されているリレーのON状態とOFF状態とを示す信号線の電流を検出する電流センサーなどを用いて、踏切制御子のリレーがON状態であるか、OFF状態であるかを検出し、検出したリレーの状態に応じてリレー動作検出信号を出力する構成とすることもできる。
【0029】
踏切制御子形式切り替え部22は、測定者の設定に応じて測定対象である踏切制御子がHC形式の踏切制御子であるかHO形式の踏切制御子であるかの設定を切り替える。踏切制御子形式切り替え部22は、例えば、切り替えスイッチなどで構成される。また、踏切制御子形式切り替え部22は、測定対象である踏切制御子がどちらの形式に設定されているかを示す表示部を備えた構成とすることもできる。
なお、本発明においては、踏切制御子形式切り替え部22による踏切制御子の形式の切り替え方法に関しての限定をしない。
【0030】
時間計測部20は、踏切制御子形式切り替え部22の設定に基づいて、リレー動作検出部10から入力されたリレー動作検出信号から、踏切制御子の列車検出範囲内に列車が存在している状態を判定する。また、時間計測部20は、リレー動作検出部10から入力されたリレー動作検出信号に基づいて、踏切制御子の列車検出範囲内に列車が存在している状態を示している時間を計測する。例えば、踏切制御子形式切り替え部22によって、測定対象である踏切制御子がHO形式の踏切制御子であると設定されているときには、リレー動作検出部10から入力されたリレー動作検出信号が“High”レベルである時間を計測する。また、時間計測部20は、計測した時間を表すデータ(以下、「列車検知時間」という)を、制御区間算出部40に出力する。
また、時間計測部20は、列車検知時間を計測時間表示部21に出力して、計測した時間を計測時間表示部21に表示させる。
【0031】
計測時間表示部21は、時間計測部20から入力された列車検知時間を表示する。なお、本発明においては、計測時間表示部21による列車検知時間の表示方法に関しての限定をしない。例えば、計測時間表示部21を、複数の7セグメントLEDで構成し、時間計測部20から入力された列車検知時間に応じた値(時間)を表示させることもできる。また、例えば、LCD(液晶ディスプレイ:Liquid Crystal Display)に、時間計測部20から入力された列車検知時間に応じた値(時間)を表示させることもできる。
【0032】
車両速度計測部30は、測定対象である踏切制御子の列車検出範囲内の列車の速度を計測する。また、車両速度計測部30は、計測した列車の速度を表すデータ(以下、「列車速度」という)を、制御区間算出部40に出力する。
本実施形態における車両速度計測部30には、移動する物体の速度を計測する、例えば、スピードガンなどのスピード計測器が使用される。
【0033】
制御区間算出部40は、予め入力された測定対象である踏切制御子の列車検出範囲内に進入する列車のデータ、時間計測部20から入力された列車検知時間、および車両速度計測部30から入力された列車速度に基づいて、測定対象である踏切制御子の制御区間長を算出する。なお、予め入力される列車のデータおよび制御区間長の算出方法に関しては、後述する。制御区間算出部40は、制御区間長の算出結果を図示しない表示装置や記憶装置などに出力する。
【0034】
次に、本実施形態の制御区間長測定システムにおける測定方法について説明する。図2は、本実施形態の制御区間長測定システムにおいて制御区間長の測定方法を説明する図である。図2では、列車が図の右方向から進入し、踏切制御子の前を通過して図の左方向に進出する時の測定方法を示している。なお、図2は、車両速度計測部30を2つ(車両速度計測部30−1および30−2)備えた場合を示している。
【0035】
まず、列車が踏切制御子の列車検出範囲(=制御区間長)に進入する前に、本実施形態の制御区間長測定システムによる測定準備を行う。より具体的には、図2(a)に示すようにリレー動作検出部10を、測定対象である踏切制御子のリレー動作表示ランプの点灯および消灯を検出できる位置に配置する。また、車両速度計測部30−1を、列車検知範囲に進入してくる列車の速度を計測できる位置に、車両速度計測部30−2を、列車検知範囲から進出していく列車の速度を計測できる位置に、それぞれ配置する。また、測定対象である踏切制御子の列車検出範囲内に進入する列車のデータを、制御区間算出部40に入力しておく。また、踏切制御子形式切り替え部22によって踏切制御子の形式を、測定対象である踏切制御子の形式にあった形式に切り替えておく。
【0036】
その後、図2(b)に示すように、列車が踏切制御子の列車検出範囲に進入すると、踏切制御子のリレー動作表示ランプが点灯する。このリレー動作表示ランプの点灯を検出したリレー動作検出部10は、列車が踏切制御子の列車検出範囲に進入したことを示すリレー動作検出信号を時間計測部20に出力する。これにより、時間計測部20は、時間の計測を開始する。また、車両速度計測部30−1は、踏切制御子の列車検出範囲内に進入してきた列車の速度を計測する。
【0037】
その後、列車が踏切制御子の前を通過して、図2(c)に示すように、踏切制御子の列車検出範囲から進出すると、踏切制御子のリレー動作表示ランプが消灯する。このリレー動作表示ランプの消灯を検出したリレー動作検出部10は、列車が踏切制御子の列車検出範囲から進出したことを示すリレー動作検出信号を時間計測部20に出力する。これにより、時間計測部20は、時間の計測を終了する。また、車両速度計測部30−2は、踏切制御子の列車検出範囲外に進出していく列車の速度を計測する。
【0038】
その後、列車が踏切制御子の列車検出範囲から進出した後(図2(d))に、制御区間算出部40は、予め入力された列車のデータと、時間計測部20から入力された列車検知時間と、車両速度計測部30−1および30−2とから入力された列車速度とに基づいて、測定対象である踏切制御子の制御区間長を算出する。
【0039】
次に、本実施形態の制御区間長測定システムの制御区間算出部40に予め入力する列車のデータについて説明する。図3は、本実施形態の制御区間長測定システムにおいて、測定対象である踏切制御子の制御区間長の算出に用いられる車両を説明する図である。図3では、2両編成の列車の例を示している。なお、列車の編成数が異なる場合でも以下の説明と同様に考えることができる。
【0040】
上述したように、踏切制御子は軌道回路が列車の車軸によって短絡されることにより列車の検知を行っている。したがって、踏切制御子は、列車の先頭車両の前の車軸が列車検知範囲に進入したときに列車の進入を検知し、列車の最終車両の後ろの車軸が列車検知範囲から進出したときに列車の進出を検知する。そのため、制御区間算出部40による制御区間長の算出には、列車の車軸間の長さを考慮する必要がある。
【0041】
列車の車軸間の長さは、図3に示すように、1両の車両の車軸間の長さと、2両の車両間の車軸間の長さと、列車の編成数とによって算出することができる。すなわち、列車の編成数に1両の車両の車軸間の長さを乗算した車軸間長さと、列車の編成数から1を減算した数に2両の車両間の車軸間の長さを乗算した車軸間長さとの合計の値が、列車全体の車軸間の長さとなる。
【0042】
次に、本実施形態の制御区間長測定システムの制御区間算出部40における制御区間長の算出方法について説明する。制御区間算出部40は、予め入力された列車のデータ、時間計測部20から入力された列車検知時間、および車両速度計測部30から入力された列車速度に基づいて、下式(1)によって測定対象である踏切制御子の制御区間長Xを算出する。
【0043】
【数1】

【0044】
上式(1)において、Vは列車速度[Km/h]、Tは列車検知時間[sec]、nは列車の編成数[両]、Aは1両の車両の車軸間の長さ[m]、Bは2両の車両間の車軸間の長さ[m]を示す。なお、列車速度Vは、踏切制御子の列車検出範囲内に進入してきたときの列車速度と、列車検出範囲外に進出していくときの列車速度とを加算平均した値である。
【0045】
また、リレーの動作には、リレーをOFF状態からON状態にするときの遅延時間(OFF→ON遅延時間)や、リレーをON状態からOFF状態にするときの遅延時間(ON→OFF遅延時間)などがある。したがって、この遅延時間に差がある場合、列車検知時間Tを補正することによってより正確な制御区間長Xを算出することができる。また、時間計測部20が計測した列車検知時間Tと実際にリレーがON状態である時間とに差があるときにも、列車検知時間Tを補正することによってより正確な制御区間長Xを算出することができる。この列車検知時間Tの補正を考慮して制御区間長Xを算出する場合の算出式を、下式(2)に示す。
【0046】
【数2】

【0047】
上式(2)において、dは補正時間[sec]を示す。なお、補正時間dは、上述のようなリレーのOFF→ON遅延時間とON→OFF遅延時間との差の時間や、時間計測部20が計測した列車検知時間Tと実際のリレーの動作時間との差の時間などの時間である。
【0048】
次に、本実施形態の制御区間長測定システムの処理手順について説明する。図4は、本実施形態の制御区間長測定システムにおける制御区間長測定の処理手順を示したフローチャートである。
【0049】
本実施形態の制御区間長測定システムは、測定対象である踏切制御子に図2(a)で示したように設置されている。まず、ステップ10において、踏切制御子の列車検出範囲内に進入する列車のデータである車両の車軸間の長さAと車両間の車軸間の長さBとを制御区間算出部40に設定する。その後、リレー動作検出部10によるリレーの動作状態の検出を開始する。
【0050】
その後、ステップS20において、時間計測部20は、リレー動作検出部10によって検出したリレーの動作状態が、ON状態であるか否かを判定する。リレーがON状態でない場合は、ステップS20を繰り返す。リレーがON状態である場合、ステップS30において、時間計測部20が時間の計測を開始する。
【0051】
その後、ステップS40において、車両速度計測部30は、踏切制御子の列車検出範囲内に進入してきた列車の速度を計測する。
【0052】
その後、ステップS50において、時間計測部20は、リレー動作検出部10によって検出したリレーの動作状態が、OFF状態であるか否かを判定する。リレーがOFF状態でない場合は、ステップS50を繰り返す。リレーがOFF状態である場合、ステップS60において、時間計測部20は時間の計測を終了する。
【0053】
その後、ステップS70において、車両速度計測部30は、踏切制御子の列車検出範囲外に進出していく列車の速度を計測する。
【0054】
その後、ステップS80において、制御区間算出部40は、予め設定された列車のデータと、時間計測部20から入力された列車検知時間Tと、車両速度計測部30とから入力された列車速度Vとに基づいて、測定対象である踏切制御子の制御区間長Xを上式(1)によって算出する。なお、ステップS80において制御区間長Xを算出する際に列車検知時間Tの補正が必要である場合は、制御区間長Xを上式(2)によって算出する。
【0055】
このように、踏切制御子の軌道回路によって動作するリレーの動作状態に基づいて、踏切制御子の制御区間長を算出する。
【0056】
なお、本実施形態においては、制御区間算出部40によって測定現場で制御区間長Xを算出する構成で説明したが、測定現場で制御区間長Xを算出する必要がない場合では、例えば、制御区間算出部40の機能としてパーソナルコンピュータ(PC)を使用することもできる。この場合、時間計測部20が計測した列車検知時間T、および車両速度計測部30が計測した列車速度Vを記録しておき、後に、列車のデータと、記録した列車検知時間Tと、列車速度VとをPCに入力して、PCに備えたプログラムによって制御区間長Xを算出する。
【0057】
ここで、本実施形態の制御区間算出部40による制御区間長Xの算出結果の一例を図5に示す。図5は、時間計測部20が計測した列車検知時間T、車両速度計測部30が計測した列車速度V(進入時の列車速度および進出時の列車速度)、列車のデータ(列車の編成数、車両の車軸間の長さAおよび車両間の車軸間の長さB)、算出した制御区間長X、および従来の電気検測車が測定した制御区間長Xの参考値をまとめた表である。また、図5に示した制御区間長Xの算出値は、補正時間dを0.5[sec]として、上式(2)によって算出した値である。なお、列車速度Vにおいて、進入時の列車速度と進出時の列車速度とが同様の値である一例(図5の上段)は、駅中間の直線区間の例であり、進入時の列車速度と進出時の列車速度とが異なる値である一例(図5の下段)は、駅構内の区間の例である。駅構内の区間では、列車が駅に停車するため、列車速度が大きく変化している。
【0058】
図5からわかるように、本実施形態の制御区間長測定システムによって測定し、算出した踏切制御子の制御区間長Xは、従来の電気検測車が測定した制御区間長Xの範囲内であることがわかる。また、通常、踏切制御子の制御区間長は30[m]に設定され、その誤差は5[m]である。本実施形態の制御区間長測定システムによる測定結果から算出した測定対象の踏切制御子の制御区間長Xは、設定された範囲内であることがわかる。また、実際の測定対象の踏切制御子の制御区間長Xが30[m]であったとすると、本実施形態の制御区間長測定システムによって測定した制御区間長Xの方が、従来の電気検測車が測定した制御区間長Xよりも精度良く測定できているといえる。
【0059】
上記に述べたとおり、本発明を実施するための形態によれば、踏切制御子の軌道回路によって動作するリレーの動作状態に基づいて、踏切制御子の制御区間長を算出することができる。これにより、従来の制御区間長の測定において、測定時に対応が必要であった列車の運行停止や運行時間の変更などによる通常の列車の運行への影響や、夜間作業をする必要がなく、実際に運行している列車によって制御区間長を測定することができる。また、軌道短絡器を用いることによって発生する他の踏切制御装置への影響や、測定者による測定結果のバラツキを回避した状態で制御区間長を測定することができる。
【0060】
また、本実施形態において、車両速度計測部30を2つ備え、測定対象である踏切制御子の列車検出範囲内に列車が進入してきたときの列車速度と、列車検出範囲外に列車が進出していくときの列車速度との2回の列車速度を計測して、制御区間長Xを算出する例で説明したが、本発明においては、車両速度計測部30の構成に関しての限定をしない。例えば、車両速度計測部30を1つ備え、測定対象である踏切制御子の列車検出範囲内に列車が進入してきたときと、列車検出範囲外に列車が進出していくときとで車両速度計測部30の方向を変えて、列車速度を2回計測することもできる。なお、本発明においては、車両速度計測部30の方向を変える方法に関しても限定しない。
【0061】
また、本実施形態において、車両速度計測部30が計測する列車速度は、測定対象である踏切制御子の列車検出範囲内に列車が進入してきたときの列車速度と、列車検出範囲外に列車が進出していくときの列車速度との2回の列車速度を計測し、この2回の列車速度の計測結果を加算平均した値を用いて制御区間長Xを算出する例で説明したが、本発明においては、車両速度計測部30による列車速度の計測回数に関しての限定をしない。また、本実施形態においては、時間計測部20が時間の計測を開始した後と、時間の計測を終了した後とに車両速度計測部30が列車の速度を計測する例で説明したが、本発明においては、車両速度計測部30による列車速度の計測タイミングに関しての限定をしない。例えば、測定対象である踏切制御子の列車検出範囲内に列車が進入する前と、進入した後、および列車検出範囲外に列車が進出する前と、進出した後など、列車速度の計測を4回行い、この4回の列車速度の計測結果を加算平均した値を用いて制御区間長Xを算出することもできる。なお、本発明においては、計測した列車速度から制御区間長Xの算出に用いる列車速度Vを算出する方法に関しても限定しない。例えば、車両速度計測部30と列車との距離に応じて、計測した列車速度の値に重み付けをして算出した列車速度Vを制御区間長Xの算出に用いることもできる。
【0062】
また、本実施形態において、測定対象である踏切制御子にリレー動作表示ランプを備え、リレー動作検出部10は、光センサーを用いてリレー動作表示ランプの点灯および消灯によって踏切制御子のリレーがON状態とOFF状態とを検出する例を説明したが、測定対象である踏切制御子がリレー動作表示ランプを備える場合においても、上述した電流センサーなどによって踏切制御子のリレーがON状態とOFF状態とを検出することもできる。例えば、レールと列車の車軸の接触状態によって踏切制御子の軌道回路における短絡状態が不安定であり、列車が踏切制御子の列車検知範囲内に存在するときでもリレー動作表示ランプが点灯と消灯とを繰り返すような場合は、電流センサーなどによってリレーの制御信号の電流レベルを計測し、この計測したリレーの制御信号の電流レベルに基づいて踏切制御子のリレーがON状態とOFF状態とを検出することもできる。
なお、本発明において、踏切制御子のリレーがON状態とOFF状態とを検出するセンサーの構成は、本実施形態で示した光センサーや電流センサーに限定されるものではなく、踏切制御子のリレーがON状態であるか、OFF状態であるかを検出することができるものであれば、様々な構成に変更することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲においての種々の変更も含まれる。
【符号の説明】
【0064】
10・・・リレー動作検出部、
20・・・時間計測部、
21・・・計測時間表示部、
22・・・切り替え部、
30・・・車両速度計測部、
40・・・制御区間算出部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切制御子が列車を検出する範囲の距離である制御区間長を測定する制御区間長測定システムであって、
前記踏切制御子による前記列車の検出状態を検出する動作検出手段と、
前記動作検出手段によって検出された検出結果に基づいて、前記踏切制御子が前記列車を検出している時間を計測する時間計測手段と、
前記列車の走行速度を計測する速度計測手段と、
前記時間計測手段によって計測された前記時間および前記速度計測手段によって計測された前記列車の走行速度に基づいて、前記制御区間長を算出する制御区間長算出手段と、
を備えることを特徴とする制御区間長測定システム。
【請求項2】
前記速度計測手段は、
前記列車の走行速度を複数回計測し、計測された複数回の走行速度に基づいて前記列車の走行速度を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御区間長測定システム。
【請求項3】
前記動作検出手段は、
前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入った状態および前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出た状態を検出し、
前記時間計測手段は、
前記動作検出手段によって前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入った状態が検出されたときに時間の計測を開始し、前記動作検出手段によって前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出た状態が検出されたときに時間の計測を終了する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御区間長測定システム。
【請求項4】
前記制御区間長算出手段は、
前記列車の車両における車軸間の距離に基づいて、または前記列車の車両における車軸間の距離と、前記列車の車両間における車軸間の距離と、前記列車の車両の編成数とに基づいて前記列車の車軸間の合計距離を算出し、
前記算出された車軸間の合計距離と、前記時間計測手段によって計測された前記時間と、前記速度計測手段によって計測された前記列車の走行速度とに基づいて、前記制御区間長を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御区間長測定システム。
【請求項5】
前記時間計測手段が計測した前記時間を表示する表示手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の制御区間長測定システム。
【請求項6】
前記動作検出手段は、
前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入ったとき、および前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出たときに動作するリレーの動作状態に基づいて、前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入った状態および前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出た状態を検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御区間長測定システム。
【請求項7】
前記制御区間長算出手段は、
前記列車の車両における車軸間の距離に基づいて、または前記列車の車両における車軸間の距離と、前記列車の車両間における車軸間の距離と、前記列車の車両の編成数とに基づいて前記列車の車軸間の合計距離を算出し、
前記列車が前記踏切制御子の前記列車検出範囲内に入ったときに動作するリレーの動作遅延時間と、前記踏切制御子の前記列車検出範囲外に出たときに動作するリレーの動作遅延時間とに基づいた、または前記時間計測手段が計測した前記時間とリレーの動作時間との差に基づいた補正時間を算出し、
前記算出された車軸間の合計距離と、前記算出された補正時間と、前記時間計測手段によって計測された前記時間と、前記速度計測手段によって計測された前記列車の走行速度とに基づいて、前記制御区間長を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御区間長測定システム。
【請求項8】
踏切制御子が列車を検出する範囲の距離である制御区間長を測定する制御区間長測定システムの制御区間長測定方法であって、
動作検出手段が、前記踏切制御子による前記列車の検出状態を検出する動作検出手順と、
時間計測手段が、前記動作検出手順によって検出された検出結果に基づいて前記踏切制御子が前記列車を検出している時間を計測する時間計測手順と、
速度計測手段が、前記列車の走行速度を計測する速度計測手順と、
制御区間長算出手段が、前記時間計測手順によって計測された前記時間および前記速度計測手順によって計測された前記列車の走行速度に基づいて、前記制御区間長を算出する制御区間長算出手順と、
を含むことを特徴とする制御区間長測定方法。
【請求項9】
踏切制御子が列車を検出する範囲の距離である制御区間長を測定する制御区間長測定システムのコンピュータに、
前記踏切制御子による前記列車の検出状態を検出する動作検出ステップと、
前記動作検出ステップによって検出された検出結果に基づいて前記踏切制御子が前記列車を検出している時間を計測する時間計測ステップと、
前記列車の走行速度を計測する速度計測ステップと、
前記時間計測ステップによって計測された前記時間および前記速度計測ステップによって計測された前記列車の走行速度に基づいて、前記制御区間長を算出する制御区間長算出ステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−73645(P2011−73645A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229742(P2009−229742)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(399039719)東日本電気エンジニアリング株式会社 (30)
【出願人】(000221904)東邦電機工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】