説明

身体冷却装置

【課題】身体を局所的に、不快感を生じさせることなく、効率的に冷却することが可能な身体冷却装置を提供する。
【解決手段】身体冷却装置1であって、身体に接触する接触部11、12、13、14と、接触部11、12、13、14の位置を決定する位置決定手段(イス部)1aと、接触部11、12、13、14を間欠的に冷却する冷却部(水冷式ペルチェユニット)11bと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体を局所的に冷却することにより褐色脂肪細胞を活性化する身体冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は生活習慣病をはじめとする、数多くの疾患のリスクファクターであり、社会問題の一つである。このため、肥満を予防・改善することは重要な課題である。非薬理的な手段による痩身は、大別すると二つの方法があげられる。入力カロリーの制限(食事制限)と、出力カロリーの増強である。
【0003】
出力カロリーを増強する方法として、(1)身体活動量(運動量)を増やす方法と、(2)基礎代謝量を増やす方法があげられる。基礎代謝量は、人種、性別、年齢、体格、生活状況、体表面積、平均体温、更に、食事や運動などの日常行動によって異なる。基礎代謝量が多いと摂取したエネルギーを身体に溜めずに、スムーズに消費出来る。基礎代謝の中で最も消費量が多いのが筋肉であるため、基礎代謝の高低は筋肉量に比例する。また、加齢によって筋肉が衰え減少するため、年齢と共に基礎代謝は低くなる。このため、(2)の基礎代謝量を増やす方法は容易ではない。
【0004】
(2)の出力カロリーを増強する方法の一つとして、体温維持のための熱産生器官である褐色脂肪細胞を活性化する方法がある。褐色脂肪細胞が活性化すれば、エネルギーの無駄遣いをさせることができ、結果的に基礎代謝量が増加し、痩身に繋がる。
【0005】
非薬理的に、褐色脂肪細胞を活性化させるためには、体温調節メカニズムのうち、体温上昇機能を活性化させることが優先的な手段である。その方法として、身体を冷却する方法や、温度が下がっていると身体に錯覚させる方法が考えられる。皮膚にある感覚点の一つである冷点により、人間は冷覚を感じる。冷点を刺激すると、身体は寒いと感じ、寒いという情報が脳に伝わる。すると、脳(中枢)が体温を上げなければと判断し、交換神経系を介して褐色脂肪細胞を活性化して熱を産生する。このように、身体を冷却する方法により褐色脂肪細胞を活性化することができる。
【0006】
そこで、褐色脂肪細胞を活性化する方法として、褐色脂肪細胞が密集している首等を冷却パットで連続的に冷却することにより、褐色脂肪細胞そのものに直接刺激を与える方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−48310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、そもそも身体を少しでも冷却することは不快感を伴うため、連続的に身体を冷却することは有効な方法ではない。また、連続的に身体を冷却した場合、身体が冷覚に慣れて、冷たいと感じなくなる場合がある。また、褐色脂肪細胞そのものを冷やすことが活性に繋がる機序でなく、脳(中枢)からの体温上昇指示があってはじめて褐色脂肪細胞が活性化することから、脳(中枢)から体温上昇指示を出させるように如何に身体を冷却するかが肝要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る身体冷却装置は、身体に接触する接触部と、接触部の位置を決定する位置決定手段と、接触部を間欠的に冷却する冷却部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、身体を局所的に、不快感を生じさせることなく、効率的に冷却することが可能な身体冷却装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る身体冷却装置の構成を示す概要図である。
【図2】身体冷却装置の頭部接触部の概要図である。
【図3】(a)本発明の実施の形態に係る身体冷却装置を用いて身体を冷却する例を示す説明図である。(b)本発明の他の実施の形態に係る身体冷却装置を用いて身体を冷却する例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る身体冷却装置について添付図面に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0013】
<第1実施形態>
図1は本発明の第1実施形態に係る身体冷却装置1の構成を示す概要図、図2は図1に示す身体冷却装置1の頭部接触部11の構成を示す概要図である。図3(a)は、本発明の第1実施形態に係る身体冷却装置1により、身体を冷却及び/又は加熱する部位を表す説明図である。
【0014】
本発明の第1実施形態に係る身体冷却装置1は、後述する接触部11、12、13、14の位置を決定する位置決定手段としてのイス部1aを備え、イス部1aは、座面2と、座面2の下面に接続された脚部3と、座面2の後端に上方に接続された上部背もたれ部4及び下部背もたれ部5と、背もたれ部4、5を支持する支持部6と、座面2の両側から上方に接続された肘掛け8、8を備える。支持部6には、身体に接触する接触部11、12、13、14を取り付けるための、冷却水流路を有する接触部取付部材7が接続されている。図1において、接触部は、頭部と接触する頭部接触部11と、左首と接触する左首部接触部12と、左腋窩と接触する左腋窩部接触部13と、両鼠頸部と接触する鼠頸部接触部14からなる。右首と接触する右首部接触部と、右腋窩と接触する右腋窩部接触部は、図1では省略されている。各接触部11、12、13、14は、それぞれ接触部取付部材7a、7b、7c、7dによって接触部取付部材7に接続されている。冷却水流路は図示しない冷却水槽に接続されており、冷却水槽に備えられたポンプの駆動力により冷却水を流通する。
【0015】
接触部11、12、13、14の一例として、頭部と接触する頭部接触部11を図2に示す。図2に示すように、頭部接触部11は、温度センサ固定用の溝11xを有するアルミ製人体接触プレート11aと、人体接触プレート11aに接続されており、冷却水入出パイプを備えた30W級の水冷式ペルチェユニット11bと、水冷式ペルチェユニット11bに接続された鉄製のブラケット11cを備える。人体接触プレート11aは図示しない温度センサを備えている。水冷式ペルチェユニット11bは、電流を流すことにより人体接触プレート11aを吸熱する冷却部及び/又は加熱する加熱部となる。水冷式ペルチェユニット11bは、図示しない制御部により加熱冷却制御されており、冷却部又は加熱部として交互に作動することが可能である。水冷式ペルチェユニット11bが冷却部として作動する場合には、人体接触プレート11aを体温と体温より低い温度の範囲で温度制御される。体温より低い温度とは、疼痛の限界である概ね10℃である。また、水冷式ペルチェユニット11bが加熱部として作動する場合には、人体接触プレート11aを体温と体温より高い温度の範囲で温度制御される。体温より高い温度とは、疼痛や低温火傷の限界である概ね40℃である。冷却部と加熱部とを一体に設けて加熱冷却制御することにより、間欠的に人体接触プレート11aを所定の温度範囲に冷却及び/又は加熱することが可能となる。
【0016】
本発明の第1実施形態に係る身体冷却装置1は、更に制御部の制御パターンを入力する入力部を備えており、入力部からの入力により、接触部11、12、13、14を所定の温度と制御パターンに設定することができる。このように、接触部11、12、13、14の温度は、上下限温度と間隔のコントロール(PID制御)を行い、温度と、冷却と加熱との間の刺激持続時間を設定する。この際、PID定数及び制御周期等の制御方式は適宜個別設定可能である。
【0017】
本発明の第1実施形態に係る身体冷却装置1は、上記したように前額部、首部、腋窩部及び鼠頸部の少なくとも1つに接触する接触部11、12、13、14を有し、第1実施形態において、接触部11、12、13、14を体温より低い温度に設定する。図3(a)に示すように、本発明の第1実施形態に係る身体冷却装置1では、接触部11、12、13、14を体温より低い温度に設定することにより、身体20の前額部21、首部22、腋窩部23a、23b、及び鼠頸部24a、24bを局所的に冷却する。首部22、腋窩部23a、23b、及び鼠頸部24a、24bは、大血管が皮膚表面近くを走行している部位である。このため、接触部12、13、14により、身体を効率良く冷却することができる。前額部21は脳に近い部位であり、身体の中核温度(深部体温と呼ばれる)を変化させやすいことから、前額部21を冷却することにより、体温が下がっていると身体に知覚させることができる。このように、身体20の前額部21、首部22、腋窩部23a、23b、及び鼠頸部24a、24bを局所的に冷却する方法により、身体は寒いと感じ、寒いという情報が脳に伝わり、褐色脂肪細胞を活性化する。
【0018】
接触部11、12、13、14の温度は、疼痛を感じない程度の温度に設定することが望ましい。疼痛を感じる程の低温に設定すると、身体は冷却することを不快に感じ、長時間冷却することが難しくなる。また、冷刺激は、間欠的に行うことが望ましい。連続的に冷刺激を与えると、身体は冷却することを不快に感じたり、身体が冷覚に慣れてしまい、身体は冷却されているにも拘わらず、冷たいという情報が脳に伝達されない場合がある。これに対し、間欠的に冷刺激を与えると、常に冷たいという情報が脳に伝達されるため、不快感なく、効率的に身体を冷却し、褐色脂肪細胞を活性化することが可能となる。上記したように、冷却する温度と間欠的に冷刺激を与える間隔は、適宜設定可能である。人体接触プレート11aを冷却するだけであっても、冷却と加熱との合わせ制御により、所定の温度制御が可能となる。
【0019】
本発明の第1実施形態に係る身体冷却装置1において、図示していないが、体温より高い温度に設定された第2の接触部を有しても良い。図3(a)に示すように、第2の接触部は、手31a、31b及び/又は足32a、32bに接触するように接触部取付部材7に接続される。各接触部11、12、13、14と同様に、第2の接触部は、図示しない温度センサと、温度センサ固定用の溝を有するアルミ製人体接触プレート11aと、冷却水入出パイプを備えた30W級の水冷式ペルチェユニット11bと、水冷式ペルチェユニット11bに接続された鉄製のブラケット11cを備えた構造とし、体温と体温より高い温度の範囲で温度制御される。
【0020】
手足の末端は、冷点・温点等の皮膚温度受容器が比較的多く集積しているため、実際に体温が変化する前に、環境温度の変化に敏感に反応して体温調節をする。このため、体温より高い温度に設定された第2の接触部によって手31a、31b及び/又は足32a、32bが加温されている場合には、前額部21、首部22、腋窩部23a、23b、及び鼠頸部24a、24bが各接触部11、12、13、14によって身体が冷却されているにも拘わらず、冷却されて寒いと感じにくくなる。このように、手足末端を温めながら、その一方で首部、腋窩部、鼠頸部及び前額部を冷却すると、不快感なく、効率的に身体を冷却し、褐色脂肪細胞を活性化することが可能となる。第2の接触部によって加温する場合には、加温の方法は連続的であってもよく、間欠的であっても良い。また、第2の接触部の温度と、加温の持続時間及び間隔は、適宜設定可能である。
【0021】
このように、本発明の第1実施形態に係る身体冷却装置によれば、身体を局所的に、不快感なく、効率的に冷却し、褐色脂肪細胞を活性化させて出力カロリーを増強することが可能となる。
【0022】
<第2実施形態>
次に、図3(b)を参照して本発明の第2実施形態に係る身体冷却装置について説明する。第2実施形態では、第1実施形態に係る身体冷却装置1を用いているため、第1実施形態と同じ要素については説明を省略する。
【0023】
本発明の第2実施形態に係る身体冷却装置では、体温より低い温度に設定された接触部は、頭部、手及び足の少なくとも1つに接触するように設定する。図3(b)に示すように、本発明の第2実施形態に係る身体冷却装置では、接触部を体温より低い温度に設定することにより、身体40の頭部41、手42a、42b及び足43a、43bを局所的に冷却する。頭部41、手42a、42b及び足43a、43bは冷点・温点等の皮膚温度受容器が比較的多く集積しているため、実際に体温が変化する前に、環境温度変化に敏感に反応して体温調節をする。このため、体温より低い温度に設定された接触部によって頭部41、手42a、42b及び足43a、43bを局所的に冷却すると、体温が下がっていると身体に錯覚させることができる。このように、身体40の頭部41、手42a、42b及び足43a、43bを局所的に冷却する方法により、それほど身体を冷却していないにも拘わらず身体は冷却されて寒いと錯覚し、褐色脂肪細胞が活性化する。
【0024】
冷却する方法は、温度受容器は温度変化に反応するので、間欠的に冷却することが望ましい。また、第1実施形態及び第2実施形態に係る身体冷却装置1は同一の装置を用いることができ、体温調節メカニズムに則った冷却部位を選択することにより、接触部を適宜移動して使用することができる。また、本実施の形態では、接触部を冷却及び/又は加熱する手段として、どちらにも使用可能でコンパクトなペルチェ素子を用いたが、ペルチェ素子以外にも使用可能であり、例えばコンプレッサ、ヒートポンプ、ヒートパイプ、微細噴霧、媒体循環を用いた方法であっても良い。また、ペルチェであっても排熱方法が必ずしも水冷式でなくても良く、ファンなどの空冷式、シートシンクなどの熱移動方式であっても良い。また、本発明の実施の形態において、位置決定手段をイスとしたが、ベッド、衣服、運動機器やその他の部材に接触部を設けることで、身体を局所的に、不快感なく、効率的に冷却し、褐色脂肪細胞を活性化させて出力カロリーを増強することができる。
【0025】
以上、本実施の形態について説明したが、上記実施の形態の開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0026】
1…身体冷却装置
1a…イス部
2…座面
3…脚部
4…上部背もたれ部
5…下部背もたれ部
6…支持部
7…接触部取付部材
11…頭部接触部
11a…人体接触プレート
11b…水冷式ペルチェユニット
12…左首部接触部
13…左腋窩部接触部
14…鼠頸部接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体に接触する接触部と、
前記接触部の位置を決定する位置決定手段と、
前記接触部を間欠的に冷却する冷却部と、を備えることを特徴とする身体冷却装置。
【請求項2】
前記接触部は、前額部、首部、腋窩部及び鼠頸部の少なくとも1つに接触する第1の接触部を有することを特徴とする請求項1に記載の身体冷却装置。
【請求項3】
前記接触部は、頭部、手及び足の少なくとも1つに接触することを特徴とする請求項1に記載の身体冷却装置。
【請求項4】
前記接触部は、更に手及び足の少なくとも1つに接触する第2の接触部を有し、第2の接触部を加熱する加熱部を備えることを特徴とする請求項2に記載の身体冷却装置。
【請求項5】
前記位置決定手段が、イス、ベッド、衣服及び運動機器を含む群から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の身体冷却装置。
【請求項6】
前記接触部の温度を制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の身体冷却装置。
【請求項7】
前記接触部は、温度センサを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の身体冷却装置。
【請求項8】
前記冷却部と前記加熱部が交互に作動することを特徴とする請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の身体冷却装置。
【請求項9】
前記第1の接触部は、体温と体温より低い温度の範囲で温度が変化し、
前記第2の接触部は、体温と体温より高い温度の範囲で温度が変化することを特徴とする請求項4乃至請求項8のいずれか一項に記載の身体冷却装置。
【請求項10】
前記制御部の制御パターンを入力する入力部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の身体冷却装置。
【請求項11】
前記冷却部はペルチェ素子を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の身体冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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