説明

身分証真偽鑑別方法及びシステム

【課題】印刷面上にフィルムが張られた身分証の真偽鑑別をより正確に行うこと。
【解決手段】前記身分証の印刷面上に張られたフィルムの材質の判定を行う第1の鑑別ステップと、前記身分証の印刷面上に張られたフィルムの厚さの判定を行う第2の鑑別ステップからなり、それら2ステップの判定結果により身分証の真偽を鑑別する。第1の鑑別ステップでは、フィルムによる赤外線吸収の有無を用いてフィルムの材質を判定し、第2の鑑別ステップでは、共焦点光学系とスキャニング装置を利用してフィルムの厚さを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旅券真偽自動判定機等身分証を扱う自動機の、身分証真偽鑑別方法及びそのシステムであり、旅券、運転免許証、身分証等、紙葉、カード上に印刷され、その上にフィルムが張られることによって価値を持たせられた身分証の、真偽鑑別及びそのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術としては、例えば、紫外線(400nmより短波長の光)の照射によりインクの蛍光の有無を鑑別する方法、赤外線(700nmより長波長の光)を照射してインクの赤外光透過性の有無を鑑別する方法がある(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開昭58−86677号公報
【0003】
これは身分証の印刷の大部分には蛍光発光や赤外透過性を伴わない一般のインクが使用され、偽造防止を目的とした特定場所のみに蛍光発光インクや赤外透過インクが使用されているからである。
【0004】
このように、身分証の真偽を鑑別するときは、可視光(400nm〜700nmの光)による印刷パターンの一致確認のほか、偽造防止を目的とした特定場所に紫外線や赤外線を照射し、当該印刷部分に蛍光発光や赤外透過性があることを確認している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した真偽鑑別方法では、偽造防止をねらった特定場所に紫外線や赤外線を照射し、その印刷部分に蛍光発光や赤外透過性があるか否かを確認し、発光色や形状により真偽が判断されている。
【0006】
しかし、蛍光発光する蛍光サインペン等が容易に入手できること、また紫外線光源がブラックライト(可視光をガラス管自身のフィルタ特性でカットした紫外線蛍光燈)等の蛍光燈として市販されている現在では、発光させる色、形状の偽造は可能になってきている。
【0007】
また、赤外線透過性インクについても、容易に入手できること、また赤外線カメラが市販されている現在では、透過性インクのパターンの偽造が可能になってきている。
【0008】
したがって、上述した真偽鑑別方法では偽造防止の補助手段程度の能力しか期待できず、偽造されたものを確実に鑑別できないという問題点があった。
【0009】
また上述した真偽鑑別方法では、真正身分証の変造品、すなわち真正身分証の一部(例えば顔写真等)を差し替えたものについては、顔写真以外の印刷部分が真正身分証と全く同じであるため、見分けることができないという問題点もあった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するために成されたものであり、その目的は身分証の真偽の鑑別をより正確に行うこと、また偽造券のみならず変造券をも見分けることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要は下記のとおりである。
【0012】
印刷面上にフィルムが張られた身分証の真偽鑑別方法において、前記身分証の印刷面上に張られたフィルムの材質の判定を行う第1の鑑別ステップと、前記身分証の印刷面上に張られたフィルムの厚さの判定を行う第2の鑑別ステップからなり、それら2ステップの判定結果により身分証の真偽を鑑別する。
【0013】
印刷面上にフィルムが張られた身分証の真偽鑑別方法において、フィルムによる赤外線吸収の有無を測定し、身分証の真偽を判定する。
【0014】
印刷面上にフィルムが張られた身分証の真偽鑑別方法において、共焦点光学系とスキャニング装置によってフィルムの厚さを測定し、身分証の真偽を判定する。
【0015】
赤外線により身分証の印刷面上に張られたフィルムの材質の判定を行う第1の真偽鑑別手段と、共焦点光学系を用いて前記身分証の印刷面上に張られたフィルムの厚さを判定する第2の真偽鑑別手段と、これらの各真偽鑑別手段による計測結果を基に真偽鑑別の判定を行う鑑別判定処理手段と、各種身分証のフィルムの材質と厚さに関する情報を蓄えたデータベースと、鑑別中の身分証に関する情報を入力する入力手段と、鑑別結果を表示する表示手段とを備えた、身分証真偽鑑別システムを作成する。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
【0017】
フィルムの材質と厚さの判定を加えることにより、身分証の真偽の鑑別をより正確に行うことが可能となる。
【0018】
また変造された身分証についても、変造には必然的にフィルムの張り替えが伴うので、フィルムの材質と厚さの判定を加えることにより、鑑別することが可能となる。
【0019】
また本発明を用いれば高度な偽造防止効果が得られる。すなわち、偽変造者は偽変造の際に材質と厚さが真正旅券と同じであるフィルムを入手する必要が生じる。すなわち偽変造者にとって偽変造行為がリスクの高いものとなる。
【0020】
さらに真正旅券に、市販されていない材質と厚さのフィルムが用いられていれば、偽変造者は偽変造の際にフィルムの製造までもが必要となり、偽変造行為がさらにリスクの高いものとなる。
【0021】
また、共焦点光学系を用いることで、フィルムを台紙から剥がすことなく、すなわち旅券を破壊することなく、フィルムの厚さを1ミクロン程度の精度で測定することが可能になる。旅券の真偽鑑定を行うには1ミクロン程度の精度でフィルムの厚さを測定する必要がある。したがって共焦点光学系を用いることで、フィルムの厚さによる旅券の非破壊的真偽鑑定が初めて可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の身分証の真偽鑑別を行うシステムの実施形態として、旅券の真偽鑑別を行う旅券真偽自動判定機の構成を示す図である。
【0023】
本実施形態の旅券真偽自動判定機1は図1に示すように、試料を載せる試料台2と、旅券の印刷面上に張られたフィルムの材質を測定するユニット3と旅券の印刷面上に張られたフィルムの厚さを測定するユニット4と、検査対象旅券の国籍を入力する入力部5と、各国の旅券に関するデータが蓄積されたデータベース6と、測定ユニットにより測定されたデータとデータベースから送られてきたデータを基に真偽を鑑別する旅券鑑別部7と、真偽の判定結果を表示する表示部8からなる。なお、本発明と直接関係のない各部の制御部等は図示していない。
【0024】
次に、本実施形態の材質判定ユニット・厚さ測定ユニットについて説明する。図2及び図3は、本実施形態における材質判定ユニット3及び厚さ測定ユニット4を説明するための図である。
【0025】
旅券真偽自動判定機では、旅券の印刷面上に張られたフィルムの材質と厚さの判定が旅券の鑑別に有効である。
【0026】
これは旅券の偽変造にフィルムの張り替えを伴うからであり、このフィルムの材質と厚さを材質判定ユニット3及び厚さ測定ユニット4により検出し、その検出結果から入力された旅券の鑑別を行うことができる。
【0027】
図1に示すように、試料台上に置かれた旅券は、材質判定ユニット3と厚さ測定ユニット4によりデータが採取される構成をとる。
【0028】
偽造品だけでなく変造品をも鑑別するために、材質判定ユニット3と厚さ測定ユニット4は顔写真近傍のフィルムのデータを採取する構成をとる。
【0029】
材質判定ユニット3は、図2に示すように、赤外線光源31から赤外光を照射し、ビームスプリッター32によって旅券に張られたフィルムに対して赤外光を垂直に入射し、旅券からの反射光を検出器33で検出し、旅券に張られたフィルムによる赤外線吸収の有無を鑑別する。
【0030】
また、材質検査に用いる赤外線の波長は、試料に用いられるフィルムの吸収波長に合わせたものを用いる。
【0031】
さらに、フィルムの吸収波長が複数あるときは複数の波長の光源とセンサを設ける。これにより精度を向上させることができる。
【0032】
厚さ測定ユニット4は、図3に示すように共焦点光学系を利用してフィルムの厚さを測定する。レーザー光源41により単色光を照射し、共焦点光学系42を通った後、検出器43に入る。試料台2を上下動させながら検出器に入る信号の強度をモニタすることでフィルムの厚さを測定する。
【0033】
さらに、試料台を上下動させずに、共焦点光学系で厚さを測定する方法として、2つ以上のレンズを直列に並べる方法、レンズの色収差を利用する方法、焦点距離の異なるレンズを複数用意してそれらを切り替えて使用する方法等があるが、それらの方法を使用してもよい。
【0034】
1ミクロン程度の精度でフィルムの厚さを測定するために、次のような工夫が必要である。
【0035】
試料の歪みにより測定精度が低下するので、試料の反りを抑えるために適度な重さの錘を試料の上におく。
【0036】
また、厚さ測定位置をスキャニング装置44により走査し、複数箇所において厚さを測定する。計算処理機45によって複数の測定結果の平均値を求めることで、測定の精度を向上させる。
【0037】
次に、本実施形態の旅券真偽自動判定機1の処理について説明する。図4は、本実施形態の旅券真偽自動判定機1の処理を説明するためのフローチャートである。
【0038】
本実施形態の旅券真偽自動判定機は、試料台2の上に鑑別対象の旅券が置かれる。
【0039】
旅券真偽鑑別処理部では、赤外線を利用したフィルムの材質判定、共焦点光学系を用いたフィルムの厚さ測定が行われ、判定結果が鑑別データ処理部に送られる。
【0040】
一方、入力された国籍データに基づく材質と厚さの情報が鑑別データ処理部に送られる。
【0041】
そして、上述の鑑別処理の結果をデータベースのデータと比較し総合判定を行う。
【0042】
総合判定の結果は、判定結果表示に送られ、機器使用者に判定結果を知らせる。
【0043】
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態にかかる旅券の真偽鑑別を行う旅券真偽自動判定機の構成を示す図である。
【図2】本実施形態における旅券真偽自動判定機の材質判定ユニット3を説明するための図である。
【図3】本実施形態の旅券真偽自動判定機の厚さ測定ユニット4を説明するための図である。
【図4】本実施形態の旅券真偽自動判定機1の処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1…旅券真偽自動判定機、2…試料台、3…材質判定ユニット、31…赤外線源、32…ビームスプリッター、33…赤外線検出器、4…厚さ測定ユニット、41…レーザー光源、42…共焦点光学系、43…CCD、44…スキャニング装置、45…計算処理機、5…国籍入力部、6…データベース、7…旅券鑑別部、8…判定結果表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷面上にフィルムが張られた身分証の真偽鑑別方法において、前記身分証の印刷面上に張られたフィルムの材質の判定を行う第1の鑑別ステップと、前記身分証の印刷面上に張られたフィルムの厚さの判定を行う第2の鑑別ステップからなり、それら2ステップの判定結果により身分証の真偽を鑑別することを特徴とする身分証鑑別方法。
【請求項2】
印刷面上にフィルムが張られた身分証の真偽鑑別方法において、フィルムによる赤外線吸収の有無によってフィルムの材質を判定することを特徴とする身分証真偽鑑別方法。
【請求項3】
印刷面上にフィルムが張られた身分証の真偽鑑別方法において、共焦点光学系とスキャニング装置によってフィルムの厚さを判定することを特徴とする身分証真偽鑑別方法。
【請求項4】
赤外線により身分証の印刷面上に張られたフィルムの材質の判定を行う第1の真偽鑑別手段と、共焦点光学系を用いて前記身分証の印刷面上に張られたフィルムの厚さを判定する第2の真偽鑑別手段と、前記各真偽鑑別手段による計測結果を基に真偽鑑別の判定を行う鑑別判定処理手段と、各種身分証のフィルムの材質と厚さに関する情報を蓄えたデータベースと、鑑別中の身分証に関する情報を入力する入力手段と、鑑別結果を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする身分証真偽鑑別システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−62212(P2006−62212A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247717(P2004−247717)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)
【Fターム(参考)】