身障者用歩行補助靴
【目的】身障者の歩行は足首を外側に曲げ捻挫しやすいので、安心して歩行でき、しかもそれぞれ障害内容に適した靴を提供したい。また、靴の着脱も容易化したい。
【構成】表底1の外側方向に張出部分2を有する靴類において、表底1を足首程度の幅にてほぼ横断して内在する表底補強板3と、張出部分2のほぼ全域に渡って内在するか、又は上面を覆う張出部分補強板4と、くるぶし辺りを覆うための踝保持部材5とをそれぞれ有し、踝保持部材5が、表底補強板3と張出部分補強板4に対し断面逆T字状に結合させて成り、また、甲被11の羽根留め13を、左右の靴共に両足の内側方向へ向けて閉じるようにし、更に靴の長さ方向に一方の羽根12の爪先近傍から襷掛けのように他方の羽根12の履口に渡って引上用ループ帯14を設けた身障者用歩行補助靴。
【構成】表底1の外側方向に張出部分2を有する靴類において、表底1を足首程度の幅にてほぼ横断して内在する表底補強板3と、張出部分2のほぼ全域に渡って内在するか、又は上面を覆う張出部分補強板4と、くるぶし辺りを覆うための踝保持部材5とをそれぞれ有し、踝保持部材5が、表底補強板3と張出部分補強板4に対し断面逆T字状に結合させて成り、また、甲被11の羽根留め13を、左右の靴共に両足の内側方向へ向けて閉じるようにし、更に靴の長さ方向に一方の羽根12の爪先近傍から襷掛けのように他方の羽根12の履口に渡って引上用ループ帯14を設けた身障者用歩行補助靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、病弱者や肢体不自由な身体障害者が歩行する際に用いて好適な身障者用の歩行補助を専用とする靴の改良である。
【背景技術】
【0002】
従来の一般人使用の靴は、より足にフィットするように、また、足元をより美しく見せるために主として靴の外観に力点を置いていたが、一般の靴よりも強固に足を防護するためのものとしては、靴の甲被の裏等に鋼板等の芯材を配した作業用の防護靴がある。
また、踵の周囲を鋼板等の芯材を配して保護するようにした靴も見受けられる。
【0003】
ところで、半身に障害のある身障者は、その歩行力の回復のために、先ず病院や自宅でリハビリの歩行練習から始まる。
しかし、その際、自分自身の体重を支える足の運びに不安があって、多くの身障者は足首を外側へ曲げたまま体重を掛けてしまい、所謂、捻挫を起こしてしまいがちである。
【0004】
そのために、歩行も慎重となって、身体の妙な所に力が入るから益々慎重さが増してより歩行が困難となる傾向にある。
さりとて、一般人向けの靴や、足に優しいスニーカーのような靴だと、余計に捻挫しやすいし、前出の防護靴のようなものでは重くて使用できない。
【0005】
また、身障者が靴等を履いたり脱いだりする際、その操作が容易であるように、例えばマジックテープ(登録商標名)等を用いて、靴の甲被の甲の部分の一部を開閉し、靴の着脱を容易化するものとした両足の外方へ折り曲げ得る甲被を有する形式の履物がある。
そこで、発明者は先願を調査したところ、本発明に近いものは殆ど見当たらず、僅かに次の3件が近似の物であるに留まった。
【0006】
先ず1件、運動中のつまずき予防と共に、足に掛かる衝撃を和らげることを目的としたものとして、運動靴の表装と内装との間に装着する足うら板の上面には凸を設け、また、その足うら板の下部に補助板(クッション役と思われる)を設け、かつ、足うら板の踵が当る辺りに下部より1/3の高さに足の屈伸運動を容易にするという可動板(理解困難)を有したねんざ予防板を運動靴の表装より脚に固定すべく立設した発明の名称「運動靴のねんざ予防装置」というものがある。(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
次に、この発明の発明者が発明したものであって、その主要部は、くるぶし辺りを覆うように立設するくるぶし保持面と、その下辺からL字状に屈折して靴の中敷裏を横切る程の長さの固定用面とで成る捻挫防止部材を、足首下の外側くるぶし辺りに配設し、また、表胛(甲被)の甲の部分が、両側の表胛側面部と裾テープ又はホクシングテープ近くまで分離開閉させるためのファスナーを設けた発明の名称「足首捻挫防止靴」というものである。(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
更に、この発明の発明者が発明した上記と同じ目的のものであって、その主要とするところは、靴の表底を、その外側方向に大きく張出部分を有した表底とし、加えて張出部分から表底を横断する方向に硬質板を内有した表底と成し、また、表胛(甲被)の甲の部分が、両側の表胛側面部とトウキャップ近くまで分離開閉させるためのファスナーを設けた発明の名称「足首捻挫防止靴」というものである。(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2000−245501号公報([0005]〜[0006]、図1〜図2)
【特許文献2】特開2001−286302号公報([0011]〜[0016]、図2〜図4)
【特許文献3】特開2001−286303号公報([0011]〜[0015]、図1〜図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の特許文献1は、足うら板の踵が当る辺りにねんざ予防板を立設したものであるから多少は足の傾くのを防げようが、逆に足で踏み付ける部分にクッション役の補助板を設けたから、踏ん張りが利かず傾き防止力を妨げてしまうものと思われる。更に、通常の運動靴の表装や内装の材料ではねんざ予防板を支えるには軟弱に過ぎる嫌いがある。
なお、足の屈伸運動を容易にするという可動板の存在理由は理解が困難である。
【0010】
特許文献2は、本発明者による出願であり、製品化の際に主要部である断面L字状に屈折した捻挫防止部材を、その固定用面として、くるぶし側から靴の中敷裏に設けた切込み内に挿入固着させるものであるが、その切込みは固定用面の挿入する長さと同じく、中敷裏を横切る程の長さなので、中敷裏の切込み部分の切断作業が必要であるし、その切断により生ずる半端物が無駄になる欠点があった。
【0011】
また、そんな欠点よりも、切断作業や接着剤による固着作業自体が、製造コストを高めるので、これらの作業を省略できるように、例えば固定用面を、表底の製造時に表底と一体成形するなどして製造工程の大幅な簡略化を図りたいと考えるのである。
ところが、固定用面のある捻挫防止部材は、断面L字状に屈折した大きなものであるために、一体成形用金型の設計上に無理があり簡単には出来ないのである。
【0012】
更に、捻挫防止部材のくるぶし保持面自体も、その形状や長さ等について、使用者の障害実態に合わせて最も好適なものに交換できるようにすべきと考える。
すなわち、靴は同じでもくるぶし保持面は、幾種類か異なるものを用意しておいて、必要な時に交換できるようにする方が、遙かに使用者にとって便利に相違ないのである。
【0013】
なお、甲被の甲の部分にて、両側の表胛側面部とホクシングテープ近くまで分離開閉させるためのファスナーを設けたが、この開閉行為を実際に身障者が行うには、深く屈み込んでファスナーを引き動かすことになって、この行為自体が容易でないことが判明した。
したがって、この方法は他の手段に改めたい。
【0014】
特許文献3も、本発明者による出願であり、その形状の特異性から第三者による先願は全くゼロであった。確かに張出部分の存在効果は大きいが、より効果を高めるためには、特許文献2のくるぶし保持面を付加する方が好ましいものと言える。すなわち、本発明者の特許文献2と特許文献3とを合体させたものとしたいと考えるのである。
【0015】
また、特許文献3の甲被の甲の部分にても、両側の表胛側面部とトウキャップ近くまで分離開閉させるためのファスナーを設けたが、この開閉行為を実際に身障者が行うには、深く屈み込んでファスナーを爪先の方まで引き動かすことになり、この行為は容易でないことが判明したのである。したがって、この方法も他の手段に改めたい。
【0016】
以上詳述したように、この発明の目的としては、特許文献2と特許文献3の有する長所を合併させ、更には両者の合併以上の効果を得るようにすることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明の構成を、以下に各図面に基づき説明するが、これらの図面においては、形を多少異にしていても機能上同一のものは、同一の符号として示した。
また、引き出し線は、同一符号を付すべき全箇所に設けているとは限らなく、幾つかを代表的に選択した。
更に、本発明品の靴と、その他方の靴との両者で1足とし、その1足を揃え置いた状態で、説明上の表現を障害足側・健常足側と区別すると共に、その片方の靴についても、その左右方向を、左の靴の左側を外側、右側を内側と称し、右の靴の左側を内側、右側を外側と称して区別した。また、その上下方向の区別も同様とした。
【0018】
ところで、製靴業界では、靴の部分や材料に用いる呼び名には様々な呼称があり、ここでは一般的な呼称で記述するつもりだが一応説明しておく。
いずれも先頭に示したものを採用し、後のものは現場でよく用いられるものである。
表底;本底・アウトソール、甲被:表胛・胛表・アッパー、羽根:ウイング、中底:中物・インソール・テキソンなどである。
【0019】
また、一般的に靴の表底材料は、皮革・合成皮革・合成樹脂・ゴム・布・麻等が用いられるが、本発明にて採用する表底1では、射出成型が可能なポリウレタン系合成樹脂(以下にPU材という)やサーモプラスチックラバー(以下にTPR材という)、或はPVC(塩化ビニール樹脂)等があり、特にPU材を説明主体として用いた。また、甲被として使用する材料は、皮革・合成皮革・合成樹脂・ゴム・ポリウレタン系材・ナイロン系材・綿・麻・材等が用いられるが、本発明にて採用する甲被11羽根12羽根留め13等の材料はポリウレタン系合成皮革(以下にPU材という)を説明主体として用いた。
したがって、これら靴の材料の違いによってこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1及び図2に示すように、表底1の外側方向に張出部分2を有する靴類において、図7並びに図11に見るように、表底1を足首程度の幅にてほぼ横断して内在する表底補強板3と、張出部分2のほぼ全域に渡って内在するか、又は上面を覆う張出部分補強板4とがある。加えて、図5及並びに図9に示したようなくるぶし辺りを覆うための踝保持部材5を有したものとしている。
そして、この踝保持部材5が、表底補強板3と張出部分補強板4に対し断面逆T字状に結合させて成ることを特徴とするのがこの考案の基本的な身障者用歩行補助靴である。
【0021】
なお、表底補強板3・張出部分補強板4・踝保持部材5の3者の結合手段は、先ず、好ましい手段の一つとして図6に示すように、表底補強板3と張出部分補強板4とを、同一平面上として連接したものとする。そして、表底補強板3の靴から露出する辺り、すなわち表底補強板3と張出部分補強板4との境界線辺りの上面に踝保持部連結部材6を有したものとするのである。すなわち、図5に示したような踝保持部材5を、この踝保持部連結部材6を介して一連の表底補強板3と張出部分補強板4上に着脱自在に断面逆T字状に立設させるのである。
【0022】
他の結合手段としては、図9に示すように張出部分補強板4と踝保持部材5とを断面L字状に一体化させたものとする。
そして、図10に示すように表底補強板3の靴から露出する一端辺部には、踝保持部連結部材6を設け、この踝保持部連結部材6の一端辺部に上記の一体化させた断面L字状の屈折辺7を当接させて、両者を適当なる結合手段にて連結させるのである。
なお、この踝保持部連結部材6の表底補強板3への取り付け手段は、上述のもの共々溶接でもビス留めでも構わない。また、この構成においての張出部分補強板4は、強力な接着剤で張出部分2の上面に貼着させるのである。
【0023】
更に、表底補強板3には、図6と図10に示すように多数の透孔8を有したものとし、図7と図11の点線に見るように、表底1を合成樹脂製とした表底1の製造時にインジェクションすなわち射出一体成型した後、これら多数の透孔8を通じて樹脂が一体硬化し、表底補強板3と表底1との固着化の強化を図ったものとなるのである。
【0024】
なお、図6に見るような、張出部分補強板4が表底補強板3と一平面上に連接したものは、同様に一体成型するので、張出部分補強板4にも多数の透孔8を有したものとする。
また、踝保持部材5と踝保持部連結部材6との結合を、適当なる結合手段にて連結させると前述したが、図5及び図9に見るように、踝保持部材5の屈折辺7には適当数のバカ孔9を、踝保持部連結部材6にはバカ孔9と少なくとも同数の雌ネジ10を設けて、両者を図1、図2及び図16に見るようにネジ類15にて着脱自在に結合させる構成とする。
なお、踝保持部連結部材6の具体的形状には、種々なる構成が考えられるので、後出の各実施例を参照されたい。
【0025】
勿論、両者の結合手段には、ワンタッチ式とか様々な慣用手法があるので、どんな結合手段でも構わないが、本発明品は度々交換するものでもなく、また、取付け自体は強固にしたいので、複数本のネジ類15によるネジ止めとしたい。
なおまた、身障者の障害内容によっては、踝保持部材5を脚の脛に添わせるように上方に長く延長させた図16のようなものも必要である。この場合は、長さの異なる踝保持部材5を幾種か揃え置くのが好ましい。
【0026】
健常足側用の靴を、この考案の説明用の靴の種類に合わせて図3に示したが、図1〜図3に見るように、甲被11の羽根12の一部分に重ねて留めるための羽根留め13を、その閉じる際の屈折方向として、左右の靴共にその靴の内側方向へ向けるようにした。
その重ね閉じ留める開閉手段には、両者を互いに圧迫して接合するテープ(商品名「マジックテープ」又は「ベルクロ」)を、羽根留め13の裏面と、それに相対する羽根12の一部分に縫い付けておく。
【0027】
ところで、図3の健常足側の靴は、羽根留め13を羽根12の一部分から引き離すための指差し入れ環体23が、両足の内側である図示上では手前側になり、図1の靴はこの手前に置かれるものであるから、いずれの靴も羽根留め13の閉じる向きは、両足の内側方向へと閉じ、内側から外側方向へと開くことになるのである。
【0028】
加えて、これら両羽根12の部分には、図1及び図2に見るように、靴の長さ方向にて片一方の羽根12の爪先近傍から、その羽根12の輪郭部分に沿うよう斜め襷状に他方の羽根12の履口辺りに渡って引上用ループ帯14を設けたものとしたのである。
【発明の効果】
【0029】
この発明の靴を履いて歩行すると、たとえ、足首を外側に曲げた侭で体重を掛けた場合であっても、表底1の外側方向に張出部分2があり、しかも、表底1には表底補強板3が内在して一体化しているし、同一平面上の張出部分2上には張出部分補強板4が内在又は貼着しているから、幅が広くなった表底1自体は簡単には曲がらない。
【0030】
加えて、張出部分補強板4とは垂直状に踝保持部材5が立設しているから、足首が外側に曲がるのを防止する効果が一層高まった。それ故、靴は外側に傾き難くなるため、自然に足首の角度が修正されて転倒や捻挫を未然に防ぐことになり、歩行不安が解消されて、従来とかく生じていた自覚しない内に身体の妙な所に力が入ることもなくなるから、障害者にとっても歩行に自信が持てるようになる。
【0031】
また、表底補強板3部分と、踝保持部材5とを分離可能にしたことにより、一体射出成型が可能となったことから、製造コストの大幅な低減が図られたし、表底補強板3には多数の透孔8を有したものとしたから、射出成型時の樹脂が透孔8を通じて硬化し、表底補強板3と表底1との固着化の強化が図られた。
【0032】
加えて、表底補強板3部分と、踝保持部材5とを分離可能にしたことにより、身障者の障害内容によって、踝保持部材5を脚に添わせるように長く延長したもの等、異なる形状の踝保持部材5の中から最も適したものを選択して使用できるようになった。
【0033】
また、身障者が靴を履く時及び脱ぐ時の着脱を容易化するために、2つの新規な手段を発明した。先ず1つ目は、靴の長さ方向に羽根12の輪郭に沿うよう一方の羽根12の爪先近傍から襷掛けのように他方の羽根12の履口に渡って引上用ループ帯14を設けたことである。
これは、肢体障害者が靴の着脱時に、先ず障害のある足を、障害のない方の片手で、健常側の膝上まで持上げる動作をするが、その際には相当な力が必要である。
【0034】
例えば一般的に、右に障害のある人は、右の手足とも不自由であることが多い。したがって、靴を脱ぐ際の例でみると、従来は履いた侭の右足の靴を、障害のない左手のみで、右足首辺りを抱えるように持上げて、左足の上とか膝の上迄運ぶのであるから容易ではなかった。
それ故、握りやすい引上用ループ帯14を設けたことで、片手であっても簡単に持上げることができるようになったのである。
【0035】
2つ目は、甲被11の両羽根12部を重ねて留めるための羽根留め13を、その屈折方向として左右の靴共に、その靴の内側方向へ向けて閉じるようにしたことである。
この場合も、右足が不自由だとすると、左手のみが利き手となるから、障害用の右靴の羽根留め13の動作は左手で行うことになり、左方から右方の外側へ引くよりも、右方から左方へ引いた方が楽である。左足が不自由ならその逆であり、いずれも靴の内側方向へ向けて引く方が動作上容易であって実際に大変な好評を得た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明実施の最良の形態と言っても、靴の種類によって多少は異なるので、ここではスニーカー風の靴として記述する。
先ず、表底1と張出部分2は、PU材若しくはTPR又はPVC等、インジェクション射出成形可能な素材を採用する。そして、表底1の中に足首程度の幅でほぼ横断して内在一体化する表底補強板3と、張出部分2のほぼ全域に内在一体化する張出部分補強板4とを同一平面体として両者に予め多数の透孔8を穿孔した2mm厚程度の鉄板を採用する。
【0037】
更に、表底補強板3の靴から露出する辺り、すなわち、表底補強板3と張出部分補強板4との境界線辺りの上面に、踝保持部材5を着脱自在に立設させるため複数の雌ネジ10を並設した踝保持部連結部材6を、その一辺を溶接して固着させた図6と、図6を逆方向から見た図12に示したようなものにする。この図は、踝保持部連結部材6自体を、軽量化させる目的のために考えた事例であって、断面コ字状の溝形鋼19に穿孔したバカ孔9に合わせた裏側のところに、雌ネジ10として市販品のナットを溶接したものである。
なお、20は位置固定と抜け防止のための上方へ屈折延長させた屈折辺部である。
【0038】
これ等を一体化するために射出成型して本発明の張出部分2を有した表底1とするのであるが、予め射出成型用金型には、表底1自体も軽くなるように、また材料の節約を図るために、図7及び図11に示したような多数の凹んだ表底の穴21を生ずるようにする等の配慮をすることが好ましい。
【0039】
踝保持部材5も、図5に示したように2mm厚程度の鉄板を採用して、踝保持部連結部材6のバカ孔9に合致している雌ネジ10に対応する複数のバカ孔9と、踝保持部材5の外郭及びくるぶし保護湾曲部17と、それに屈折辺7とをプレス加工で形成するが、好ましは一度のプレス加工で打ち抜き成型できるようなプレス金型を考慮したい。
【0040】
その際に、踝保持部材5のバカ孔9と踝保持部連結部材6の雌ネジ10の並設間隔を狭くしておいて、そのバカ孔9か雌ネジ10の個数、つまりいずれか一方の個数を、他方に対し1個でも多くしておいて、踝保持部連結部材6に対する踝保持部材5の着脱位置が、靴の前後方向に少し調整できるようにするのが望ましい。
なお、踝保持部材5・踝保持部連結部材6・表底補強板3・張出部分補強板4の材質として安価で強靭な鉄板や形鋼を採用したが、高価となるが軽量で強靭なジュラルミン等他の金属材やカーボン材又はガラス繊維入りの強化プラスチック材等を採用でき得ればより好ましいと言える。
【0041】
そして、射出成型して得た表底1の外側に一辺部を露出する踝保持部連結部材6の雌ネジ10列であるバカ孔9列に、プレス加工して得た踝保持部材5のバカ孔9をあてがい、ボルト等のネジ類15で緊締するのである。その際に用いるボルトは、狭い場所だけに六角レンチで捻じ込む式のものが好ましいだろう。
【0042】
図16(この図は張出部分補強板4を張出部分2上に貼着したもの)に示したような長い踝保持部材5は、重くなるので高価となるがカーボン材か、ガラス繊維入りの強化プラスチック材を採用すればよい。鉄板を採用するなら冬期使用の冷たさを考えネオプレン材で覆うようにすればよい。また、当然ながら、長い踝保持部材5の適当な箇所には、脛に回して固定するためのバンド16を設けたものとする。勿論、踝保持部材5の長さは、使用者の障害内容により幾種類かを揃えておくとよい。
【0043】
さて、甲被11とその羽根12の材料は、PU材を採用した所謂PU合皮であり、その下辺部分で所謂PU底である表底1と接着剤で合体させるのである。また、当然ながら、靴として中底・中敷等も必要だが、この発明に関係ないので記述を省略する。
なお、羽根12の片方には羽根留め13を設けるが、指を差し入れる環体のナイロンテープ23を縫い付けたPU材であるU字状の帯体22を、楕円鳩目18を介して羽根12の裏側にカシメ留めしたものとする。
【0044】
また、U字状の帯体22の中央辺りの直線部の裏側と、その直線部に対応するもう一方の羽根12の部分には、市販品の両者を互いに圧迫して接合するテープ(商品名「マジックテープ」又は「ベルクロ」)を縫い付けておく。
【0045】
引上用ループ帯14は、強靭なナイロン系の素材を採用し靴の長さ方向において、一方の羽根12の爪先近傍から斜めに襷掛けのように他方の羽根12の履口に渡って適当なゆとりを有して縫い付けるのであるが、羽根12の一番丈夫な部分、すなわち、図1及び図2に示したように、縁巻と言う幅細で肉厚になっている羽根12の輪郭部分に縫着するのがよい。
【実施例1】
【0046】
実施例1をスニーカー風の靴として説明すると、図1及び図2は、右側の肢体不自由者用の右靴であって、健常用である左靴は図3に示した。ただし、両図共に、ここでは張出部分補強板4は張出部分2に内在していて見えないものとして見て欲しい。
先ず、共通的な実施例である表底1について述べると、図1及び図2ではPU材を採用し、表底1の全長が250mm、甲の部分の幅が98mm、張出部分2のある最も狭いコバ部分の幅が75mmの例で示すと、張出部分2の長さは140mmで、幅を50mmとする円弧状とした。
【0047】
また、図7に見る表底1の全周囲には縁高部分24があり、図8の側面で見るように、踝保持部連結部材6のある辺りの縁高部分24の高さが29mmで、踝保持部連結部材6の上面はそれより点線で示したように低く描いているが、後出する実施例によってはこの高さはこの図のレベルよりも多少は異なる。
【0048】
なお、当然に表底補強板3と張出部分補強板4とは、表底1のPU材の中に埋没させるから、表底補強板3と張出部分補強板4の上面は縁高部分24の高さ29mmより遙かに低いことになる。因みに表底1の穴21のある辺りの高さ(厚さ)は、9mm程度と縁高部分24の高さの半分程度の点線で示した程度である。
【0049】
さて、図6に示した表底補強板3と張出部分補強板4は、2mm厚の鉄板の適当箇所に透孔8を穿孔したものを採用し、表底補強板3の長さを90mm、PU材の中に埋没させる部分の幅は55mmとして、その一辺を図6に見るように上方へ向け2mm程度の高さに屈折辺部20を設けたものとした。
なお、張出部分補強板4は、図7の点線で示したように、ほぼ張出部分2の大きさに近い形にプレス切断したものであるが、その外郭形状は図7に同様である必要はない。
【0050】
この屈折辺部20は、射出成型時の安定性の向上と抜け防止のためであり、上方へ向けた理由は、若し下向きに設けると、靴を履き古して表底1の裏が摩滅してきた時に、この屈折辺部20が真っ先に露出するから、硬い地面に触れて滑りやすくなることを嫌うためである。なお、屈折辺部20は、多数の透孔8の存在で表底補強板3が固着するから是非必要だと言う程ではない。
【0051】
次に共通的な実施例である踝保持部材5は、くるぶしを越える辺りまでの高さとし、幅を踝保持部連結部材6にほぼ合わせた約90mm、くるぶし辺りには外側に湾曲するくるぶし保護湾曲部17を有して、屈折辺7には踝保持部連結部材6の雌ネジ10に合わせるためのバカ孔9を穿孔した2mm厚の鉄板製である。
そして、甲被11の外側から六角レンチで捻じ込むネジ類15であるボルトによって取り付けるものである。
【0052】
なお、踝保持部材5を鉄板製としたが、たとえば踝保持部材5とほぼ同形となるネオプレン材やスポンジ材料を内包した靴下形の袋体部品を、PU材でくるみ上から下方向に被せるなりの対策を講ずるとよい。
そのことにより、冬期に足首や踝部分に触れても、冷たい感触を防げるし、障害者が体勢を崩し、踝保持部材5に足首や、踝部分に思わぬ力が掛かった場合でも痛みを感じないようになり安心感が得られるようになる。
【0053】
図6及び図12に示した踝保持部連結部材6は、断面コ字状の溝形鋼19を採用したもので、幅と高さが約15mm、長さは表底補強板3に同似の約90mmとし、溝形鋼19の靴外に向ける一面には、少なくとも踝保持部材5のバカ孔9に合わせた4個のバカ孔9を穿孔する。そして、靴内に向けた面のそれぞれのバカ孔9には、市販品のナットを雌ネジ10として電気スポット溶接にて並設するのである。
また、この溝形鋼19の下面は、表底補強板3と張出部分補強板4との境界辺りに電気スポット溶接で固着させる。
【0054】
なお、射出成型時にPU材が雌ネジ10内に進入するのを防止するために、図示省略したが例えば1枚のブリキ板のようなカバーを雌ネジ10列の前面に設ける必要がある。
この場合、図示省略したが単なるカバーでなく、市販品のナットの外形に合わせた長めの六角形の筒状カバーを作って、それぞれのナットに被せるようにするのが望ましい。
この筒状カバーを長めとする理由は、捻じ込まれるネジ類15であるボルトはナットよりも長いからである。
【実施例2】
【0055】
実施例2の踝保持部連結部材6を図14に示す。これは実施例1と同じ溝形鋼19を採用したもので、幅と高さが約15mm、長さを表底補強板3に同似の約90mmとした。
そして、その溝形鋼19のコ字状内に嵌着する大きさで、雌ネジ10を螺刻させた短い角材25を4個、指定位置に電気スポット溶接したものである。
当然、この場合も射出成型時にPU材が雌ネジ10内に進入するのを防止するために、図示省略した1枚のブリキ製カバーのようなものを靴内側の面部に設ける必要がある。
【実施例3】
【0056】
次に、実施例3の踝保持部連結部材6を説明する。これは、図13に示す断面L字状の山形鋼26を採用したものであり、その大きさは実施例1及び実施例2の溝形鋼19の場合と同じであるから寸法の記載は省略する。
この実施例3は、踝保持部連結部材6として最も軽量化を狙った事例である。しかしながら、これも露出しているから射出成型時のことを考慮して、点線で見るようなブリキ製等のカバー27を雌ネジ10列の前面に設ける必要がある。
【0057】
ところが、長時間の使用には問題が生じやすいのである。すなわち、山形鋼26の上辺部は、幅は狭くとも踝保持部材5に屈折辺7があるから、踝保持部材5の連結には特に問題はないが、靴として長時間履いていると、たとえブリキのカバー27が施してあったとしても、人体の重みで表底1が凹んで来て、雌ネジ10のナットや、ネジ類15に足裏が当るようになって足裏を痛める恐れがあるのである。その点、溝形鋼19を採用すれば、上方にも平面部があるから、長時間履いて凹んで来ても足裏を痛める心配はない。
【実施例4】
【0058】
更に、実施例4の踝保持部連結部材6を図15にて説明する。これは、単なる鉄の角材28で、幅18mm、厚さ10mm、長さは表底補強板3に同似の90mmとし、靴外に向け4個の貫通させない盲穴とした雌ネジ10を並設する。そして、上面には軽量化のために雌ネジ10を避けた位置に4個の孔29を設けたものである。
この実施例4は、雌ネジ10の長さを15mm程度として貫通させないから、PU材の進入防止のためのカバー等は不要である。当然、ネジ類15として採用するボルトの全長は15mm以内のものを使用する。
【実施例5】
【0059】
実施例5は、図9に見る如く踝保持部材5と張出部分補強板4とを断面L字状に一体化させたものとして、表底補強板3から張出部分補強板4を分離しただけで、その他は実施例1と同じであるから寸法等の記載を省略する。
ただし、張出部分補強板4は張出部分2の上面に強力な接着剤で貼着させたものとなることは前述した通りであり、図9〜図11は実施例5に関するものである。
【実施例6】
【0060】
実施例6は、図16に示したもので、踝保持部材5を脚の脛に沿って長く上方へ延長させたものである。図例は全高を300mmとして、途中2ヶ所に脚に回して取り付けるためのバンド16を備えている。なお、図16では張出部分補強板4を張出部分2に貼着したものとして描いたが、張出部分2に内在させたものなら張出部分補強板4は見えないものとなり、どちらでもよいことは言うまでもなかろう。
【0061】
また、踝保持部材5が、高価なカーボン製ならよいが、鉄板製だと冬期は冷たいので、たとえばネオプレン製のサックを被せるなりの対策を講ずればよいことは前述した。
更に、踝保持部材5の長さが140mmのものを用意するなど身障者の障害程度により選択できるようにしたいものである。
なお、引上用ループ帯14や羽根留め13の実施例は、発明を実施するための最良の形態の項で詳述したので記載を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明の実施例の斜視図である。(実施例1・実施例5)
【図2】図1の平面図である。(実施例1・実施例5)
【図3】健全な足に履く方の靴の斜視図である。
【図4】甲被の羽根部分の図示を省略した羽根留めのみを示す斜視図である。
【図5】この発明の実施例の踝保持部材の斜視図である。(実施例1)
【図6】この発明の実施例の表底補強板と張出部分補強板とを同一平面上として連接するものとし、踝保持部連結部材を備えた斜視図である。(実施例1)
【図7】この発明の表底の実施例であり、図6の表底補強板と張出部分補強板等とを一体成形させた後の平面図である。(実施例1)
【図8】図7の側面図である。(実施例1)
【図9】この発明の他の実施例の張出部分補強板を有した踝保持部材の斜視図である。(実施例5)
【図10】この発明の他の実施例の表底補強板に、踝保持部連結部材を備えた斜視図である。(実施例5)
【図11】この発明の他の実施例の表底であり、図10の表底補強板を一体成形させた後の平面図である。(実施例5)
【図12】図6を逆の裏側方向から見た斜視図である。(実施例1)
【図13】図6と図12の踝保持部連結部材を、他の実施例とした斜視図である。(実施例3)
【図14】図6と図12の踝保持部連結部材を、更に他の実施例とした斜視図である。(実施例2)
【図15】図6と図12の踝保持部連結部材を、鉄角材とした実施例の斜視図である。(実施例4)
【図16】この考案の踝保持部材を長くした実施例の斜視図である。(実施例6)
【符号の説明】
【0063】
1 表底
2 張出部分
3 表底補強板
4 張出部分補強板
5 踝保持部材
6 踝保持部連結部材
7 屈折辺
8 透孔
9 バカ孔
10 雌ネジ
11 甲被
12 羽根
13 羽根留め
14 引上用ループ帯
15 ネジ類
【技術分野】
【0001】
この発明は、病弱者や肢体不自由な身体障害者が歩行する際に用いて好適な身障者用の歩行補助を専用とする靴の改良である。
【背景技術】
【0002】
従来の一般人使用の靴は、より足にフィットするように、また、足元をより美しく見せるために主として靴の外観に力点を置いていたが、一般の靴よりも強固に足を防護するためのものとしては、靴の甲被の裏等に鋼板等の芯材を配した作業用の防護靴がある。
また、踵の周囲を鋼板等の芯材を配して保護するようにした靴も見受けられる。
【0003】
ところで、半身に障害のある身障者は、その歩行力の回復のために、先ず病院や自宅でリハビリの歩行練習から始まる。
しかし、その際、自分自身の体重を支える足の運びに不安があって、多くの身障者は足首を外側へ曲げたまま体重を掛けてしまい、所謂、捻挫を起こしてしまいがちである。
【0004】
そのために、歩行も慎重となって、身体の妙な所に力が入るから益々慎重さが増してより歩行が困難となる傾向にある。
さりとて、一般人向けの靴や、足に優しいスニーカーのような靴だと、余計に捻挫しやすいし、前出の防護靴のようなものでは重くて使用できない。
【0005】
また、身障者が靴等を履いたり脱いだりする際、その操作が容易であるように、例えばマジックテープ(登録商標名)等を用いて、靴の甲被の甲の部分の一部を開閉し、靴の着脱を容易化するものとした両足の外方へ折り曲げ得る甲被を有する形式の履物がある。
そこで、発明者は先願を調査したところ、本発明に近いものは殆ど見当たらず、僅かに次の3件が近似の物であるに留まった。
【0006】
先ず1件、運動中のつまずき予防と共に、足に掛かる衝撃を和らげることを目的としたものとして、運動靴の表装と内装との間に装着する足うら板の上面には凸を設け、また、その足うら板の下部に補助板(クッション役と思われる)を設け、かつ、足うら板の踵が当る辺りに下部より1/3の高さに足の屈伸運動を容易にするという可動板(理解困難)を有したねんざ予防板を運動靴の表装より脚に固定すべく立設した発明の名称「運動靴のねんざ予防装置」というものがある。(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
次に、この発明の発明者が発明したものであって、その主要部は、くるぶし辺りを覆うように立設するくるぶし保持面と、その下辺からL字状に屈折して靴の中敷裏を横切る程の長さの固定用面とで成る捻挫防止部材を、足首下の外側くるぶし辺りに配設し、また、表胛(甲被)の甲の部分が、両側の表胛側面部と裾テープ又はホクシングテープ近くまで分離開閉させるためのファスナーを設けた発明の名称「足首捻挫防止靴」というものである。(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
更に、この発明の発明者が発明した上記と同じ目的のものであって、その主要とするところは、靴の表底を、その外側方向に大きく張出部分を有した表底とし、加えて張出部分から表底を横断する方向に硬質板を内有した表底と成し、また、表胛(甲被)の甲の部分が、両側の表胛側面部とトウキャップ近くまで分離開閉させるためのファスナーを設けた発明の名称「足首捻挫防止靴」というものである。(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2000−245501号公報([0005]〜[0006]、図1〜図2)
【特許文献2】特開2001−286302号公報([0011]〜[0016]、図2〜図4)
【特許文献3】特開2001−286303号公報([0011]〜[0015]、図1〜図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の特許文献1は、足うら板の踵が当る辺りにねんざ予防板を立設したものであるから多少は足の傾くのを防げようが、逆に足で踏み付ける部分にクッション役の補助板を設けたから、踏ん張りが利かず傾き防止力を妨げてしまうものと思われる。更に、通常の運動靴の表装や内装の材料ではねんざ予防板を支えるには軟弱に過ぎる嫌いがある。
なお、足の屈伸運動を容易にするという可動板の存在理由は理解が困難である。
【0010】
特許文献2は、本発明者による出願であり、製品化の際に主要部である断面L字状に屈折した捻挫防止部材を、その固定用面として、くるぶし側から靴の中敷裏に設けた切込み内に挿入固着させるものであるが、その切込みは固定用面の挿入する長さと同じく、中敷裏を横切る程の長さなので、中敷裏の切込み部分の切断作業が必要であるし、その切断により生ずる半端物が無駄になる欠点があった。
【0011】
また、そんな欠点よりも、切断作業や接着剤による固着作業自体が、製造コストを高めるので、これらの作業を省略できるように、例えば固定用面を、表底の製造時に表底と一体成形するなどして製造工程の大幅な簡略化を図りたいと考えるのである。
ところが、固定用面のある捻挫防止部材は、断面L字状に屈折した大きなものであるために、一体成形用金型の設計上に無理があり簡単には出来ないのである。
【0012】
更に、捻挫防止部材のくるぶし保持面自体も、その形状や長さ等について、使用者の障害実態に合わせて最も好適なものに交換できるようにすべきと考える。
すなわち、靴は同じでもくるぶし保持面は、幾種類か異なるものを用意しておいて、必要な時に交換できるようにする方が、遙かに使用者にとって便利に相違ないのである。
【0013】
なお、甲被の甲の部分にて、両側の表胛側面部とホクシングテープ近くまで分離開閉させるためのファスナーを設けたが、この開閉行為を実際に身障者が行うには、深く屈み込んでファスナーを引き動かすことになって、この行為自体が容易でないことが判明した。
したがって、この方法は他の手段に改めたい。
【0014】
特許文献3も、本発明者による出願であり、その形状の特異性から第三者による先願は全くゼロであった。確かに張出部分の存在効果は大きいが、より効果を高めるためには、特許文献2のくるぶし保持面を付加する方が好ましいものと言える。すなわち、本発明者の特許文献2と特許文献3とを合体させたものとしたいと考えるのである。
【0015】
また、特許文献3の甲被の甲の部分にても、両側の表胛側面部とトウキャップ近くまで分離開閉させるためのファスナーを設けたが、この開閉行為を実際に身障者が行うには、深く屈み込んでファスナーを爪先の方まで引き動かすことになり、この行為は容易でないことが判明したのである。したがって、この方法も他の手段に改めたい。
【0016】
以上詳述したように、この発明の目的としては、特許文献2と特許文献3の有する長所を合併させ、更には両者の合併以上の効果を得るようにすることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明の構成を、以下に各図面に基づき説明するが、これらの図面においては、形を多少異にしていても機能上同一のものは、同一の符号として示した。
また、引き出し線は、同一符号を付すべき全箇所に設けているとは限らなく、幾つかを代表的に選択した。
更に、本発明品の靴と、その他方の靴との両者で1足とし、その1足を揃え置いた状態で、説明上の表現を障害足側・健常足側と区別すると共に、その片方の靴についても、その左右方向を、左の靴の左側を外側、右側を内側と称し、右の靴の左側を内側、右側を外側と称して区別した。また、その上下方向の区別も同様とした。
【0018】
ところで、製靴業界では、靴の部分や材料に用いる呼び名には様々な呼称があり、ここでは一般的な呼称で記述するつもりだが一応説明しておく。
いずれも先頭に示したものを採用し、後のものは現場でよく用いられるものである。
表底;本底・アウトソール、甲被:表胛・胛表・アッパー、羽根:ウイング、中底:中物・インソール・テキソンなどである。
【0019】
また、一般的に靴の表底材料は、皮革・合成皮革・合成樹脂・ゴム・布・麻等が用いられるが、本発明にて採用する表底1では、射出成型が可能なポリウレタン系合成樹脂(以下にPU材という)やサーモプラスチックラバー(以下にTPR材という)、或はPVC(塩化ビニール樹脂)等があり、特にPU材を説明主体として用いた。また、甲被として使用する材料は、皮革・合成皮革・合成樹脂・ゴム・ポリウレタン系材・ナイロン系材・綿・麻・材等が用いられるが、本発明にて採用する甲被11羽根12羽根留め13等の材料はポリウレタン系合成皮革(以下にPU材という)を説明主体として用いた。
したがって、これら靴の材料の違いによってこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1及び図2に示すように、表底1の外側方向に張出部分2を有する靴類において、図7並びに図11に見るように、表底1を足首程度の幅にてほぼ横断して内在する表底補強板3と、張出部分2のほぼ全域に渡って内在するか、又は上面を覆う張出部分補強板4とがある。加えて、図5及並びに図9に示したようなくるぶし辺りを覆うための踝保持部材5を有したものとしている。
そして、この踝保持部材5が、表底補強板3と張出部分補強板4に対し断面逆T字状に結合させて成ることを特徴とするのがこの考案の基本的な身障者用歩行補助靴である。
【0021】
なお、表底補強板3・張出部分補強板4・踝保持部材5の3者の結合手段は、先ず、好ましい手段の一つとして図6に示すように、表底補強板3と張出部分補強板4とを、同一平面上として連接したものとする。そして、表底補強板3の靴から露出する辺り、すなわち表底補強板3と張出部分補強板4との境界線辺りの上面に踝保持部連結部材6を有したものとするのである。すなわち、図5に示したような踝保持部材5を、この踝保持部連結部材6を介して一連の表底補強板3と張出部分補強板4上に着脱自在に断面逆T字状に立設させるのである。
【0022】
他の結合手段としては、図9に示すように張出部分補強板4と踝保持部材5とを断面L字状に一体化させたものとする。
そして、図10に示すように表底補強板3の靴から露出する一端辺部には、踝保持部連結部材6を設け、この踝保持部連結部材6の一端辺部に上記の一体化させた断面L字状の屈折辺7を当接させて、両者を適当なる結合手段にて連結させるのである。
なお、この踝保持部連結部材6の表底補強板3への取り付け手段は、上述のもの共々溶接でもビス留めでも構わない。また、この構成においての張出部分補強板4は、強力な接着剤で張出部分2の上面に貼着させるのである。
【0023】
更に、表底補強板3には、図6と図10に示すように多数の透孔8を有したものとし、図7と図11の点線に見るように、表底1を合成樹脂製とした表底1の製造時にインジェクションすなわち射出一体成型した後、これら多数の透孔8を通じて樹脂が一体硬化し、表底補強板3と表底1との固着化の強化を図ったものとなるのである。
【0024】
なお、図6に見るような、張出部分補強板4が表底補強板3と一平面上に連接したものは、同様に一体成型するので、張出部分補強板4にも多数の透孔8を有したものとする。
また、踝保持部材5と踝保持部連結部材6との結合を、適当なる結合手段にて連結させると前述したが、図5及び図9に見るように、踝保持部材5の屈折辺7には適当数のバカ孔9を、踝保持部連結部材6にはバカ孔9と少なくとも同数の雌ネジ10を設けて、両者を図1、図2及び図16に見るようにネジ類15にて着脱自在に結合させる構成とする。
なお、踝保持部連結部材6の具体的形状には、種々なる構成が考えられるので、後出の各実施例を参照されたい。
【0025】
勿論、両者の結合手段には、ワンタッチ式とか様々な慣用手法があるので、どんな結合手段でも構わないが、本発明品は度々交換するものでもなく、また、取付け自体は強固にしたいので、複数本のネジ類15によるネジ止めとしたい。
なおまた、身障者の障害内容によっては、踝保持部材5を脚の脛に添わせるように上方に長く延長させた図16のようなものも必要である。この場合は、長さの異なる踝保持部材5を幾種か揃え置くのが好ましい。
【0026】
健常足側用の靴を、この考案の説明用の靴の種類に合わせて図3に示したが、図1〜図3に見るように、甲被11の羽根12の一部分に重ねて留めるための羽根留め13を、その閉じる際の屈折方向として、左右の靴共にその靴の内側方向へ向けるようにした。
その重ね閉じ留める開閉手段には、両者を互いに圧迫して接合するテープ(商品名「マジックテープ」又は「ベルクロ」)を、羽根留め13の裏面と、それに相対する羽根12の一部分に縫い付けておく。
【0027】
ところで、図3の健常足側の靴は、羽根留め13を羽根12の一部分から引き離すための指差し入れ環体23が、両足の内側である図示上では手前側になり、図1の靴はこの手前に置かれるものであるから、いずれの靴も羽根留め13の閉じる向きは、両足の内側方向へと閉じ、内側から外側方向へと開くことになるのである。
【0028】
加えて、これら両羽根12の部分には、図1及び図2に見るように、靴の長さ方向にて片一方の羽根12の爪先近傍から、その羽根12の輪郭部分に沿うよう斜め襷状に他方の羽根12の履口辺りに渡って引上用ループ帯14を設けたものとしたのである。
【発明の効果】
【0029】
この発明の靴を履いて歩行すると、たとえ、足首を外側に曲げた侭で体重を掛けた場合であっても、表底1の外側方向に張出部分2があり、しかも、表底1には表底補強板3が内在して一体化しているし、同一平面上の張出部分2上には張出部分補強板4が内在又は貼着しているから、幅が広くなった表底1自体は簡単には曲がらない。
【0030】
加えて、張出部分補強板4とは垂直状に踝保持部材5が立設しているから、足首が外側に曲がるのを防止する効果が一層高まった。それ故、靴は外側に傾き難くなるため、自然に足首の角度が修正されて転倒や捻挫を未然に防ぐことになり、歩行不安が解消されて、従来とかく生じていた自覚しない内に身体の妙な所に力が入ることもなくなるから、障害者にとっても歩行に自信が持てるようになる。
【0031】
また、表底補強板3部分と、踝保持部材5とを分離可能にしたことにより、一体射出成型が可能となったことから、製造コストの大幅な低減が図られたし、表底補強板3には多数の透孔8を有したものとしたから、射出成型時の樹脂が透孔8を通じて硬化し、表底補強板3と表底1との固着化の強化が図られた。
【0032】
加えて、表底補強板3部分と、踝保持部材5とを分離可能にしたことにより、身障者の障害内容によって、踝保持部材5を脚に添わせるように長く延長したもの等、異なる形状の踝保持部材5の中から最も適したものを選択して使用できるようになった。
【0033】
また、身障者が靴を履く時及び脱ぐ時の着脱を容易化するために、2つの新規な手段を発明した。先ず1つ目は、靴の長さ方向に羽根12の輪郭に沿うよう一方の羽根12の爪先近傍から襷掛けのように他方の羽根12の履口に渡って引上用ループ帯14を設けたことである。
これは、肢体障害者が靴の着脱時に、先ず障害のある足を、障害のない方の片手で、健常側の膝上まで持上げる動作をするが、その際には相当な力が必要である。
【0034】
例えば一般的に、右に障害のある人は、右の手足とも不自由であることが多い。したがって、靴を脱ぐ際の例でみると、従来は履いた侭の右足の靴を、障害のない左手のみで、右足首辺りを抱えるように持上げて、左足の上とか膝の上迄運ぶのであるから容易ではなかった。
それ故、握りやすい引上用ループ帯14を設けたことで、片手であっても簡単に持上げることができるようになったのである。
【0035】
2つ目は、甲被11の両羽根12部を重ねて留めるための羽根留め13を、その屈折方向として左右の靴共に、その靴の内側方向へ向けて閉じるようにしたことである。
この場合も、右足が不自由だとすると、左手のみが利き手となるから、障害用の右靴の羽根留め13の動作は左手で行うことになり、左方から右方の外側へ引くよりも、右方から左方へ引いた方が楽である。左足が不自由ならその逆であり、いずれも靴の内側方向へ向けて引く方が動作上容易であって実際に大変な好評を得た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明実施の最良の形態と言っても、靴の種類によって多少は異なるので、ここではスニーカー風の靴として記述する。
先ず、表底1と張出部分2は、PU材若しくはTPR又はPVC等、インジェクション射出成形可能な素材を採用する。そして、表底1の中に足首程度の幅でほぼ横断して内在一体化する表底補強板3と、張出部分2のほぼ全域に内在一体化する張出部分補強板4とを同一平面体として両者に予め多数の透孔8を穿孔した2mm厚程度の鉄板を採用する。
【0037】
更に、表底補強板3の靴から露出する辺り、すなわち、表底補強板3と張出部分補強板4との境界線辺りの上面に、踝保持部材5を着脱自在に立設させるため複数の雌ネジ10を並設した踝保持部連結部材6を、その一辺を溶接して固着させた図6と、図6を逆方向から見た図12に示したようなものにする。この図は、踝保持部連結部材6自体を、軽量化させる目的のために考えた事例であって、断面コ字状の溝形鋼19に穿孔したバカ孔9に合わせた裏側のところに、雌ネジ10として市販品のナットを溶接したものである。
なお、20は位置固定と抜け防止のための上方へ屈折延長させた屈折辺部である。
【0038】
これ等を一体化するために射出成型して本発明の張出部分2を有した表底1とするのであるが、予め射出成型用金型には、表底1自体も軽くなるように、また材料の節約を図るために、図7及び図11に示したような多数の凹んだ表底の穴21を生ずるようにする等の配慮をすることが好ましい。
【0039】
踝保持部材5も、図5に示したように2mm厚程度の鉄板を採用して、踝保持部連結部材6のバカ孔9に合致している雌ネジ10に対応する複数のバカ孔9と、踝保持部材5の外郭及びくるぶし保護湾曲部17と、それに屈折辺7とをプレス加工で形成するが、好ましは一度のプレス加工で打ち抜き成型できるようなプレス金型を考慮したい。
【0040】
その際に、踝保持部材5のバカ孔9と踝保持部連結部材6の雌ネジ10の並設間隔を狭くしておいて、そのバカ孔9か雌ネジ10の個数、つまりいずれか一方の個数を、他方に対し1個でも多くしておいて、踝保持部連結部材6に対する踝保持部材5の着脱位置が、靴の前後方向に少し調整できるようにするのが望ましい。
なお、踝保持部材5・踝保持部連結部材6・表底補強板3・張出部分補強板4の材質として安価で強靭な鉄板や形鋼を採用したが、高価となるが軽量で強靭なジュラルミン等他の金属材やカーボン材又はガラス繊維入りの強化プラスチック材等を採用でき得ればより好ましいと言える。
【0041】
そして、射出成型して得た表底1の外側に一辺部を露出する踝保持部連結部材6の雌ネジ10列であるバカ孔9列に、プレス加工して得た踝保持部材5のバカ孔9をあてがい、ボルト等のネジ類15で緊締するのである。その際に用いるボルトは、狭い場所だけに六角レンチで捻じ込む式のものが好ましいだろう。
【0042】
図16(この図は張出部分補強板4を張出部分2上に貼着したもの)に示したような長い踝保持部材5は、重くなるので高価となるがカーボン材か、ガラス繊維入りの強化プラスチック材を採用すればよい。鉄板を採用するなら冬期使用の冷たさを考えネオプレン材で覆うようにすればよい。また、当然ながら、長い踝保持部材5の適当な箇所には、脛に回して固定するためのバンド16を設けたものとする。勿論、踝保持部材5の長さは、使用者の障害内容により幾種類かを揃えておくとよい。
【0043】
さて、甲被11とその羽根12の材料は、PU材を採用した所謂PU合皮であり、その下辺部分で所謂PU底である表底1と接着剤で合体させるのである。また、当然ながら、靴として中底・中敷等も必要だが、この発明に関係ないので記述を省略する。
なお、羽根12の片方には羽根留め13を設けるが、指を差し入れる環体のナイロンテープ23を縫い付けたPU材であるU字状の帯体22を、楕円鳩目18を介して羽根12の裏側にカシメ留めしたものとする。
【0044】
また、U字状の帯体22の中央辺りの直線部の裏側と、その直線部に対応するもう一方の羽根12の部分には、市販品の両者を互いに圧迫して接合するテープ(商品名「マジックテープ」又は「ベルクロ」)を縫い付けておく。
【0045】
引上用ループ帯14は、強靭なナイロン系の素材を採用し靴の長さ方向において、一方の羽根12の爪先近傍から斜めに襷掛けのように他方の羽根12の履口に渡って適当なゆとりを有して縫い付けるのであるが、羽根12の一番丈夫な部分、すなわち、図1及び図2に示したように、縁巻と言う幅細で肉厚になっている羽根12の輪郭部分に縫着するのがよい。
【実施例1】
【0046】
実施例1をスニーカー風の靴として説明すると、図1及び図2は、右側の肢体不自由者用の右靴であって、健常用である左靴は図3に示した。ただし、両図共に、ここでは張出部分補強板4は張出部分2に内在していて見えないものとして見て欲しい。
先ず、共通的な実施例である表底1について述べると、図1及び図2ではPU材を採用し、表底1の全長が250mm、甲の部分の幅が98mm、張出部分2のある最も狭いコバ部分の幅が75mmの例で示すと、張出部分2の長さは140mmで、幅を50mmとする円弧状とした。
【0047】
また、図7に見る表底1の全周囲には縁高部分24があり、図8の側面で見るように、踝保持部連結部材6のある辺りの縁高部分24の高さが29mmで、踝保持部連結部材6の上面はそれより点線で示したように低く描いているが、後出する実施例によってはこの高さはこの図のレベルよりも多少は異なる。
【0048】
なお、当然に表底補強板3と張出部分補強板4とは、表底1のPU材の中に埋没させるから、表底補強板3と張出部分補強板4の上面は縁高部分24の高さ29mmより遙かに低いことになる。因みに表底1の穴21のある辺りの高さ(厚さ)は、9mm程度と縁高部分24の高さの半分程度の点線で示した程度である。
【0049】
さて、図6に示した表底補強板3と張出部分補強板4は、2mm厚の鉄板の適当箇所に透孔8を穿孔したものを採用し、表底補強板3の長さを90mm、PU材の中に埋没させる部分の幅は55mmとして、その一辺を図6に見るように上方へ向け2mm程度の高さに屈折辺部20を設けたものとした。
なお、張出部分補強板4は、図7の点線で示したように、ほぼ張出部分2の大きさに近い形にプレス切断したものであるが、その外郭形状は図7に同様である必要はない。
【0050】
この屈折辺部20は、射出成型時の安定性の向上と抜け防止のためであり、上方へ向けた理由は、若し下向きに設けると、靴を履き古して表底1の裏が摩滅してきた時に、この屈折辺部20が真っ先に露出するから、硬い地面に触れて滑りやすくなることを嫌うためである。なお、屈折辺部20は、多数の透孔8の存在で表底補強板3が固着するから是非必要だと言う程ではない。
【0051】
次に共通的な実施例である踝保持部材5は、くるぶしを越える辺りまでの高さとし、幅を踝保持部連結部材6にほぼ合わせた約90mm、くるぶし辺りには外側に湾曲するくるぶし保護湾曲部17を有して、屈折辺7には踝保持部連結部材6の雌ネジ10に合わせるためのバカ孔9を穿孔した2mm厚の鉄板製である。
そして、甲被11の外側から六角レンチで捻じ込むネジ類15であるボルトによって取り付けるものである。
【0052】
なお、踝保持部材5を鉄板製としたが、たとえば踝保持部材5とほぼ同形となるネオプレン材やスポンジ材料を内包した靴下形の袋体部品を、PU材でくるみ上から下方向に被せるなりの対策を講ずるとよい。
そのことにより、冬期に足首や踝部分に触れても、冷たい感触を防げるし、障害者が体勢を崩し、踝保持部材5に足首や、踝部分に思わぬ力が掛かった場合でも痛みを感じないようになり安心感が得られるようになる。
【0053】
図6及び図12に示した踝保持部連結部材6は、断面コ字状の溝形鋼19を採用したもので、幅と高さが約15mm、長さは表底補強板3に同似の約90mmとし、溝形鋼19の靴外に向ける一面には、少なくとも踝保持部材5のバカ孔9に合わせた4個のバカ孔9を穿孔する。そして、靴内に向けた面のそれぞれのバカ孔9には、市販品のナットを雌ネジ10として電気スポット溶接にて並設するのである。
また、この溝形鋼19の下面は、表底補強板3と張出部分補強板4との境界辺りに電気スポット溶接で固着させる。
【0054】
なお、射出成型時にPU材が雌ネジ10内に進入するのを防止するために、図示省略したが例えば1枚のブリキ板のようなカバーを雌ネジ10列の前面に設ける必要がある。
この場合、図示省略したが単なるカバーでなく、市販品のナットの外形に合わせた長めの六角形の筒状カバーを作って、それぞれのナットに被せるようにするのが望ましい。
この筒状カバーを長めとする理由は、捻じ込まれるネジ類15であるボルトはナットよりも長いからである。
【実施例2】
【0055】
実施例2の踝保持部連結部材6を図14に示す。これは実施例1と同じ溝形鋼19を採用したもので、幅と高さが約15mm、長さを表底補強板3に同似の約90mmとした。
そして、その溝形鋼19のコ字状内に嵌着する大きさで、雌ネジ10を螺刻させた短い角材25を4個、指定位置に電気スポット溶接したものである。
当然、この場合も射出成型時にPU材が雌ネジ10内に進入するのを防止するために、図示省略した1枚のブリキ製カバーのようなものを靴内側の面部に設ける必要がある。
【実施例3】
【0056】
次に、実施例3の踝保持部連結部材6を説明する。これは、図13に示す断面L字状の山形鋼26を採用したものであり、その大きさは実施例1及び実施例2の溝形鋼19の場合と同じであるから寸法の記載は省略する。
この実施例3は、踝保持部連結部材6として最も軽量化を狙った事例である。しかしながら、これも露出しているから射出成型時のことを考慮して、点線で見るようなブリキ製等のカバー27を雌ネジ10列の前面に設ける必要がある。
【0057】
ところが、長時間の使用には問題が生じやすいのである。すなわち、山形鋼26の上辺部は、幅は狭くとも踝保持部材5に屈折辺7があるから、踝保持部材5の連結には特に問題はないが、靴として長時間履いていると、たとえブリキのカバー27が施してあったとしても、人体の重みで表底1が凹んで来て、雌ネジ10のナットや、ネジ類15に足裏が当るようになって足裏を痛める恐れがあるのである。その点、溝形鋼19を採用すれば、上方にも平面部があるから、長時間履いて凹んで来ても足裏を痛める心配はない。
【実施例4】
【0058】
更に、実施例4の踝保持部連結部材6を図15にて説明する。これは、単なる鉄の角材28で、幅18mm、厚さ10mm、長さは表底補強板3に同似の90mmとし、靴外に向け4個の貫通させない盲穴とした雌ネジ10を並設する。そして、上面には軽量化のために雌ネジ10を避けた位置に4個の孔29を設けたものである。
この実施例4は、雌ネジ10の長さを15mm程度として貫通させないから、PU材の進入防止のためのカバー等は不要である。当然、ネジ類15として採用するボルトの全長は15mm以内のものを使用する。
【実施例5】
【0059】
実施例5は、図9に見る如く踝保持部材5と張出部分補強板4とを断面L字状に一体化させたものとして、表底補強板3から張出部分補強板4を分離しただけで、その他は実施例1と同じであるから寸法等の記載を省略する。
ただし、張出部分補強板4は張出部分2の上面に強力な接着剤で貼着させたものとなることは前述した通りであり、図9〜図11は実施例5に関するものである。
【実施例6】
【0060】
実施例6は、図16に示したもので、踝保持部材5を脚の脛に沿って長く上方へ延長させたものである。図例は全高を300mmとして、途中2ヶ所に脚に回して取り付けるためのバンド16を備えている。なお、図16では張出部分補強板4を張出部分2に貼着したものとして描いたが、張出部分2に内在させたものなら張出部分補強板4は見えないものとなり、どちらでもよいことは言うまでもなかろう。
【0061】
また、踝保持部材5が、高価なカーボン製ならよいが、鉄板製だと冬期は冷たいので、たとえばネオプレン製のサックを被せるなりの対策を講ずればよいことは前述した。
更に、踝保持部材5の長さが140mmのものを用意するなど身障者の障害程度により選択できるようにしたいものである。
なお、引上用ループ帯14や羽根留め13の実施例は、発明を実施するための最良の形態の項で詳述したので記載を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明の実施例の斜視図である。(実施例1・実施例5)
【図2】図1の平面図である。(実施例1・実施例5)
【図3】健全な足に履く方の靴の斜視図である。
【図4】甲被の羽根部分の図示を省略した羽根留めのみを示す斜視図である。
【図5】この発明の実施例の踝保持部材の斜視図である。(実施例1)
【図6】この発明の実施例の表底補強板と張出部分補強板とを同一平面上として連接するものとし、踝保持部連結部材を備えた斜視図である。(実施例1)
【図7】この発明の表底の実施例であり、図6の表底補強板と張出部分補強板等とを一体成形させた後の平面図である。(実施例1)
【図8】図7の側面図である。(実施例1)
【図9】この発明の他の実施例の張出部分補強板を有した踝保持部材の斜視図である。(実施例5)
【図10】この発明の他の実施例の表底補強板に、踝保持部連結部材を備えた斜視図である。(実施例5)
【図11】この発明の他の実施例の表底であり、図10の表底補強板を一体成形させた後の平面図である。(実施例5)
【図12】図6を逆の裏側方向から見た斜視図である。(実施例1)
【図13】図6と図12の踝保持部連結部材を、他の実施例とした斜視図である。(実施例3)
【図14】図6と図12の踝保持部連結部材を、更に他の実施例とした斜視図である。(実施例2)
【図15】図6と図12の踝保持部連結部材を、鉄角材とした実施例の斜視図である。(実施例4)
【図16】この考案の踝保持部材を長くした実施例の斜視図である。(実施例6)
【符号の説明】
【0063】
1 表底
2 張出部分
3 表底補強板
4 張出部分補強板
5 踝保持部材
6 踝保持部連結部材
7 屈折辺
8 透孔
9 バカ孔
10 雌ネジ
11 甲被
12 羽根
13 羽根留め
14 引上用ループ帯
15 ネジ類
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表底(1)の外側方向に張出部分(2)を有する靴類において、該表底(1)を足首程度の幅にてほぼ横断して内在する表底補強板(3)と、張出部分(2)のほぼ全域に渡って内在するか又は上面を覆うかする張出部分補強板(4)と、くるぶし辺りを覆うための踝保持部材(5)とをそれぞれ有して、該踝保持部材(5)が、上記表底補強板(3)と張出部分補強板(4)に対して、断面逆T字状に結合立設させて成ることを特徴とする身障者用歩行補助靴。
【請求項2】
表底補強板(3)と張出部分補強板(4)とを、ほぼ同一平面上として連接するものとし、上記表底補強板(3)の靴から露出する辺り、すなわち上記表底補強板(3)と上記張出部分補強板(4)との境界線辺りの上面に、踝保持部材(5)を着脱自在に立設させるための踝保持部連結部材(6)を有して、該踝保持部連結部材(6)に上記踝保持部材(5)を着脱自在に結合させた請求項1記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項3】
張出部分補強板(4)と踝保持部材(5)とを、該踝保持部材(5)を垂直状として断面L字状に一体化させると共に、表底補強板(3)の靴から露出する辺りの一端辺部に、上記の一体化した断面L字状体を着脱自在に結合させるための踝保持部連結部材(6)を設け、該踝保持部連結部材(6)と上記断面L字状体をその屈折辺(7)にて、着脱自在に結合させた請求項1記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項4】
踝保持部材(5)を、脚の脛に添わせるように上方に長く延長させた請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項5】
表底補強板(3)と、張出部分(2)に内在させる張出部分補強板(4)とには、多数の透孔(8)を有したものとし、表底(1)を合成樹脂製とした場合の製造時に上記表底補強板(3)と上記表底(1)とを、並びに上記張出部分補強板(4)と張出部分(2)とを、それぞれ一体として成型して、それぞれ互いの固着強化を図った請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項6】
踝保持部材(5)の屈折辺(7)近傍に並列した複数のバカ孔(9)を、踝保持部連結部材(6)には上記バカ孔(9)に対応する複数の雌ネジ(10)を並設して、両者をネジ類(15)にて着脱自在に結合するよう構成した請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項7】
甲被(11)の羽根(12)部に設けた開閉する羽根留め(13)の閉じる時の屈折方向を、左右の両靴共に、靴を履いた両足の内側方向へ向けて折り合わせるようにした請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項8】
甲被(11)の片方の羽根(12)の爪先近傍から当該羽根(12)の輪郭部分に沿うよう襷状に他方の羽根(12)の履口辺りに渡って引上用ループ帯(14)を設けた請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項1】
表底(1)の外側方向に張出部分(2)を有する靴類において、該表底(1)を足首程度の幅にてほぼ横断して内在する表底補強板(3)と、張出部分(2)のほぼ全域に渡って内在するか又は上面を覆うかする張出部分補強板(4)と、くるぶし辺りを覆うための踝保持部材(5)とをそれぞれ有して、該踝保持部材(5)が、上記表底補強板(3)と張出部分補強板(4)に対して、断面逆T字状に結合立設させて成ることを特徴とする身障者用歩行補助靴。
【請求項2】
表底補強板(3)と張出部分補強板(4)とを、ほぼ同一平面上として連接するものとし、上記表底補強板(3)の靴から露出する辺り、すなわち上記表底補強板(3)と上記張出部分補強板(4)との境界線辺りの上面に、踝保持部材(5)を着脱自在に立設させるための踝保持部連結部材(6)を有して、該踝保持部連結部材(6)に上記踝保持部材(5)を着脱自在に結合させた請求項1記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項3】
張出部分補強板(4)と踝保持部材(5)とを、該踝保持部材(5)を垂直状として断面L字状に一体化させると共に、表底補強板(3)の靴から露出する辺りの一端辺部に、上記の一体化した断面L字状体を着脱自在に結合させるための踝保持部連結部材(6)を設け、該踝保持部連結部材(6)と上記断面L字状体をその屈折辺(7)にて、着脱自在に結合させた請求項1記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項4】
踝保持部材(5)を、脚の脛に添わせるように上方に長く延長させた請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項5】
表底補強板(3)と、張出部分(2)に内在させる張出部分補強板(4)とには、多数の透孔(8)を有したものとし、表底(1)を合成樹脂製とした場合の製造時に上記表底補強板(3)と上記表底(1)とを、並びに上記張出部分補強板(4)と張出部分(2)とを、それぞれ一体として成型して、それぞれ互いの固着強化を図った請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項6】
踝保持部材(5)の屈折辺(7)近傍に並列した複数のバカ孔(9)を、踝保持部連結部材(6)には上記バカ孔(9)に対応する複数の雌ネジ(10)を並設して、両者をネジ類(15)にて着脱自在に結合するよう構成した請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項7】
甲被(11)の羽根(12)部に設けた開閉する羽根留め(13)の閉じる時の屈折方向を、左右の両靴共に、靴を履いた両足の内側方向へ向けて折り合わせるようにした請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【請求項8】
甲被(11)の片方の羽根(12)の爪先近傍から当該羽根(12)の輪郭部分に沿うよう襷状に他方の羽根(12)の履口辺りに渡って引上用ループ帯(14)を設けた請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の身障者用歩行補助靴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−104828(P2008−104828A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316272(P2006−316272)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(306034262)株式会社シューターズ (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(306034262)株式会社シューターズ (1)
【Fターム(参考)】
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