説明

車両、空調装置、および空調方法

【課題】自動車を暖める空気調和装置では、ユーザが乗車してから車内が暖房されるまでに時間がかかる。
【解決手段】車両は、ユーザが乗車する乗車空間と、圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、乗車空間に対してタンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、を有する。タンクに貯蔵された圧縮空気は、加熱後に乗車空間に放出されることで乗車空間の暖房に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両の乗車空間を暖める車両、空調装置、および空調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両は、一般的に、その乗車空間を冷却するために、ユーザが乗車し、ユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを起動することにより、冷却動作を開始する空気調和装置を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−168476号公報
【特許文献2】特開2010−216739号公報
【特許文献3】特開2008−296901号公報
【特許文献4】特開2007−168466号公報
【特許文献5】特開2008−183996号公報
【特許文献6】特開2005−238911号公報
【特許文献7】特開2007−297965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の空気調和装置では、ユーザが乗車し、ユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを起動することにより冷却サイクルを回し始めるため、実際に乗車空間が冷却され始めるまでに時間遅れが生じる。
特に、車両が炎天下に置かれたような状況では、乗車空間が熱せられており、乗車空間が冷却されるまで、ユーザは、暑い乗車空間に耐えなければならない。
【0005】
特許文献は何れもこのような従来の課題を解決するもので、特許文献1から6は、圧縮した空気を乗車空間に放出する技術を開示する。
特許文献7は、排出ガスの圧力や熱を利用した発電・空気冷却システムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、このように圧縮した空気を乗車空間に放出する前に、温度を変更するなど、考慮されなければならない条件が存在する。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、圧縮空気の適切な放出が可能な空調装置を提供することを目的としている。
【0007】
本発明の第1の観点に係る車両は、ユーザが乗車する乗車空間と、圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、乗車空間に対してタンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、を有する。そして、タンクに貯蔵された圧縮空気は、加熱後に乗車空間に放出されることで乗車空間の暖房に使用される。
【0008】
好適には、タンクに貯蔵した圧縮空気を加熱する加熱器を有してよい。
【0009】
好適には、制御部は、タンクに貯蔵された圧縮空気を、乗車空間の暖房温度以上まで加熱してよい。
【0010】
好適には、制御部は、暖房が不要である場合、タンクに貯蔵された圧縮空気を加熱しないで放出してよい。
【0011】
好適には、タンクは断熱構造を有し、または、タンクを収容する断熱ケースを有してよい。
【0012】
好適には、タンクは、乗車空間に配置されてよい。
【0013】
本発明の第2の観点に係る空調装置は、ユーザが乗車する車両の乗車空間を暖房する空調装置であって、圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、乗車空間に対してタンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、を有する。そして、タンクに貯蔵された圧縮空気は、加熱後に乗車空間に放出されることで乗車空間の暖房に使用される。
【0014】
本発明の第3の観点に係る空調方法は、ユーザが乗車する車両の乗車空間を暖房する圧縮空気をタンクに貯蔵する空調装置の空調方法であって、タンクへの空気を圧縮し、タンクに貯蔵した圧縮空気を加熱し、加熱されたタンクの圧縮空気を乗車空間に放出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、タンクに蓄積した圧縮空気を、加熱後に乗車空間へ放出する。
乗車空間は、乗車空間へ放出された圧縮空気により暖房される。
その結果、本発明では、車内を直ちに暖房できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る、暖房機能を有する急速空調装置を用いた、自動車の車体の部分透視の側面図である。
【図2】図2は、図1の自動車に搭載される急速空調装置の構成図である。
【図3】図4は、図2のコントローラによる暖房のための制御のフローチャートである。
【図4】図4は、図3の貯蔵工程での詳細な制御のフローチャートである。
【図5】図5は、図3の放出工程での詳細な制御のフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の第2実施形態に係る、暖房機能を有する急速空調装置を用いた、自動車の車体の部分透視の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る、暖房機能を有する急速空調装置10を用いた、自動車1の部分透視の側面図である。
【0018】
図1の自動車1は、車体2を有する。
車体2の中央部には、ユーザが乗り込む乗車空間3を有する。
乗車空間3内には、ユーザが着座する座席4が2列で設けられている。
車体2の乗車空間3の側面には、ユーザが乗車するために開閉するドアパネル5が設けられている。
ドアパネル5の上部には、ウィンドウガラス6が上下移動可能に設けられている。
ユーザは、ドアパネル5を開閉して乗車して座席4に座ることができる。
ユーザは、ドアパネル5の内面に設けられた開閉スイッチを操作してウィンドウガラス6を開閉することができる。
【0019】
乗車空間3は、ドアパネル5およびウィンドウガラス6を閉じた状態で、外から隔離された空間となる。
このような乗車空間3では、たとえば冬の寒い朝などにおいて、室温が大幅に低下する。また、ハンドル、座席4などの内装品の表面温度も、低下し、ユーザにとって乗車空間3を急激に暖房する必要が生じる。
一般的な自動車1では、乗車したユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを始動し、空気調和装置を起動し、エンジン7の熱を乗車空間3に引き入れることにより乗車空間3を暖房する。
しかしながら、このように空気調和装置を用いて乗車空間3を暖房する場合、熱交換器を利用して乗車空間3の空気を直接に暖房するため、ユーザが乗車してから乗車空間3が暖房されるまでに時間がかかる。
そこで、本実施形態では、乗車しようとするユーザが乗車する前に、加熱された圧縮空気を乗車空間へ放出することで乗車空間を暖房する急速空調装置10を用いる。
【0020】
図2は、図1の自動車1に搭載される急速空調装置10の構成図である。
図2の急速空調装置10は、図1の乗車空間3に対して圧縮空気を放出することにより、乗車空間3を暖房または冷却するものである。
急速空調装置10は、コンプレッサ11、吸気ダクト12、吸気弁13、タンク14、排気ダクト15、排気弁16、およびコントローラ17を有する。
急速空調装置10は、タンク14の圧縮空気の圧力を検出する圧力センサ20、タンク14の圧縮空気の温度を検出する温度センサ22を有する。
また、急速空調装置10は、タンク14に近接して配置され、タンク14に収容された圧縮空気を加熱するヒータ機器23を有する。
【0021】
コンプレッサ11は、コントローラ17により起動および停止が制御され、起動中に空気を吸引して圧縮して出力する。コントローラ17は、起動中のコンプレッサ11の能力を制御してよい。
コンプレッサは、たとえば容積型のコンプレッサでよい。容積型のコンプレッサには、たとえばピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクロールポンプ、ロータリポンプ、スライドベーンポンプがある。
車体2の走行中に動作させる場合、車体2での使用実績から、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクロールポンプなどの信頼性が高い。
また、数MPa以上の圧力の圧縮空気を生成する場合には、この中でも、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプが好適である。
また、本実施形態の急速空調装置10は、圧縮した空気を直接に乗車空間3へ放出する。乗車空間3の汚染を抑制するため、コンプレッサ11には、オイルレスタイプのものを使用するのが望ましい。急速空調装置10の圧縮空気をそのまま乗車空間3へ放出するのではなく、圧縮空気の冷気を熱交換器によりたとえば外気などの別の空気に伝えて乗車空間3へ供給してよい。
【0022】
コンプレッサ11は、車体2に搭載されるエンジン7の回転駆動力を動力源として利用できる。このため、図1に示すように、コンプレッサ11は、エンジンルームに設けるとよい。この場合、エンジン7の出力軸とコンプレッサ11の入力軸との間に、電磁クラッチ21を設ける。電磁クラッチ21を切ることにより、エンジン7の動作中にコンプレッサ11を停止できる。この他にもたとえば、コンプレッサ11は、車体2に搭載されるバッテリ若しくは太陽光パネルの電源又は家庭用電源、走行中に生じる上下動などの車体2の振動を動力源として利用してよい。
急速空調装置10のコンプレッサ11は、車両に搭載されている空気調和装置のコンプレッサと一体化されてもよい。
【0023】
コンプレッサ11の吸気口18は、乗車空間3に設けられても、自動車1の外(乗車空間3外)に設けられてもよい。
乗車空間3外の外気を吸引する場合、コンプレッサ11は、走行速度に応じて吸引能力を調整しても、停車中に吸引するようにしてもよい。外気の気圧の変動などにより、コンプレッサ11に過度な負荷が作用し難くなる。
乗車空間3内の内気を吸引する場合、乗車空間3の気圧が下がる。このため、たとえば自動車1に搭載された空気調和装置を外気導入モードに設定した状態で、コンプレッサ11が吸引すればよい。内気は、一般的に空気調和装置により温度および湿度が調整される。内気は、外気よりも、タンク14に貯蔵する空気中の湿気を抑制し、当該空気を乗車空間3へ再放出した後の空気調整効果および湿度抑制効果を期待できる。
【0024】
吸気ダクト12は、コンプレッサ11とタンク14とを接続する。
コンプレッサ11により圧縮された空気は、吸気ダクト12を通じてタンク14へ供給される。
【0025】
吸気弁13は、吸気ダクト12に設けられる。吸気弁13は、コントローラ17により開閉制御される。
吸気弁13が開状態である場合、コンプレッサ11により圧縮された空気はタンク14へ供給される。
吸気弁13が閉状態である場合、吸気ダクト12が遮断され、コンプレッサ11からタンク14への圧縮空気の供給が停止する。タンク14側からコンプレッサ11へ圧縮空気が逆流しない。
【0026】
タンク14は、圧縮空気を貯蔵する。タンク14は、たとえばステンレスなどの金属製、強化プラスチック製でよい。これらの素材によるタンク14は、高い圧力の圧縮空気を貯蔵できる。
タンク14は、タンク14の内壁と外壁との間が減圧された所謂真空構造にしてよい。圧縮空気を貯蔵するタンク14およびダクトを、断熱ケース24に収容してよい。これにより、圧縮空気の温度が、吸引した温度または加熱後の温度に安定する。
タンク14の容量および形状に特段の制限はない。車両の空きスペースに設置可能な大きさおよび形状に形成すればよい。タンク14の容量が大きいほど、大量の圧縮空気を蓄積できる。
タンク14は、自動車1または急速空調装置10に固定されても、着脱可能でもよい。タンク14が着脱可能である場合、タンク14を交換できる。予め圧縮空気を封入したタンク14を取り付けることにより、コンプレッサ11を用いることなく、圧縮空気を乗車空間3へ放出することが可能になる。タンク14に圧縮空気とともにアロマオイルや芳香剤を同時封入することにより、車内の消臭効果を期待できる。
タンク14の設置場所には、特に制限はない。自動車1等に要求される安全基準などに基づいて、適切な箇所に設置すればよい。図1では、タンク14は、エンジンルームに設けられている。タンク14は、カーゴスペース、または乗車空間3に設置してよい。乗車空間3に設置する場合、タンク14は、直射日光が当たらない箇所または高温化され難い箇所に設置するとよい。
なお、急速空調装置10は、複数個のタンク14を有してよい。複数個のタンク14は、それらが独立して圧縮空気を蓄積し乗車空間3へ供給するものでも、一方のタンク14から他方のタンク14へ圧縮空気を供給するものでもよい。
【0027】
排気ダクト15は、タンク14と乗車空間3とを接続する。
タンク14から排気された圧縮空気は、排気ダクト15を通じて自動車1の乗車空間3へ供給される。
排気ダクト15の排気口19は、乗車空間3に設けられる。排気口19は、ノズル形状でよい。排気口19をノズル形状とすることで、排気ダクト15内で圧力を保ったまま圧縮空気を乗車空間3へ吐出できる。
排気口19の配置、向き、個数には特段の制限はない。空気調和装置の排気口を利用してよい。
ただし、高温に加熱された圧縮空気には、それを吹き付けた物体の表面温度を上げる効果が期待できる。このため、シート、ハンドル、ダッシュボードなどの高温となる箇所またはユーザが直接接触する箇所に対して、圧縮空気を直接吹き付けることができる位置、向きで、排気口19を設けるとよい。たとえばピラー、ルーフなどに下向きに排気口19を設ければよい。
図1では、複数の排気口19の一部は、ルーフに下向きに設けられ、圧縮空気を座席4に吹き付けるように配置されている。また、複数の排気口19の残部は、座席4内に上向きに設けられ、圧縮空気を座席4から乗車空間3に吹き出すように配置されている。
【0028】
排気弁16は、排気ダクト15に設けられる。排気弁16は、コントローラ17により開閉制御される。
排気弁16が閉状態である場合、排気ダクト15が遮断され、タンク14内の圧縮空気はタンク14内に留まり貯蔵される。コンプレッサ11の動作中に排気弁16を閉じることにより、タンク14内の空気圧が高まる。
排気弁16が開状態である場合、タンク14に貯蔵された圧縮空気は、乗車空間3へ放出される。
【0029】
コントローラ17は、コンプレッサ11、吸気弁13、排気弁16、圧力センサ20などの急速空調装置10の各部に接続される。コントローラ17は、急速空調装置10を制御する。
急速空調装置10は、コンプレッサ11で空気を圧縮し、タンク14に貯蔵した圧縮空気を加熱し、タンク14に貯蔵した圧縮空気を乗車空間3へ放出する。加熱された圧縮空気は、乗車空間3へ放出されて膨張し、乗車空間3内の空気を暖房する。
なお、コントローラ17は、圧縮空気を貯蔵するタンク14を、サーミスタにより冷却してよい。これにより、圧縮空気の放出前温度を下げ、圧縮空気を放出した後の乗車空間3の室温を低い温度にも調整するができる。
コントローラ17は、制御プログラムを記憶するメモリと、制御プログラムを実行する中央処理装置とを有する。コントローラ17は、独立したコントローラ17でよいが、自動車1のエンジン7を制御するECU(Engine Control Unit)の一部として実現されても、空気調和装置のコントローラに実現されてもよい。
【0030】
コントローラ17には、制御の処理または判断に使用する各種の情報を得るために、車両の走行制御信号、各種の検出信号が入力される。
このような信号としては、たとえば、イグニッションキーの状態の検出信号、エンジン7の起動信号若しくは停止信号、速度パルス信号、ブレーキの操作信号、リモートコントロール開閉キーの検出信号、ドアパネル5のロック開錠信号若しくは施錠信号がある。
この他にも、たとえば、外気温センサ、内気温センサ若しくは日照センサの検出信号、空気調和装置の暖房または冷房の設定温度の信号がある。
なお、コントローラ17は、時刻や時間を計測するタイマ、携帯電話機などと通信する無線通信部などを備えてよい。
【0031】
ヒータ機器23は、タンク14の近傍に配置される。タンク14を断熱ケース24に収容する場合、その内部にヒータ機器23を配置してよい。
ヒータ機器23は、バッテリなどの電力で発熱する発熱器であってもよいが、好ましくは、エンジン7の排熱を利用するものがよい。エンジン7の排熱は、本来捨てられるものであり、エネルギーの利用効率向上、エネルギー削減となる。
エンジン7の排熱は、たとえば空気調和装置のヒータ機能と同様に、温まったエンジン7の冷却水またはオイルをダクトで輸送し、タンク14の設置個所に循環させればよい。
また、空気調和装置の、エンジン7の排熱によるヒータ機能を流用してもよい。
【0032】
次に、図2の急速空調装置10の動作を説明する。
図3は、図2の急速空調装置10の暖房プロセスの全体を示すフローチャートである。
【0033】
図3の全体制御において、急速空調装置10のコントローラ17は、まず、空気の圧縮工程を実行する(ステップST1)。
コントローラ17は、たとえばユーザが乗車する際に、空気の圧縮工程を実行する(ステップST1)。
なお、コンプレッサ11がバッテリにより駆動される場合、コントローラ17は、たとえばユーザが降車する時、または降車した後に、空気の圧縮工程を実行してよい。
圧縮工程において、コントローラ17は、吸気弁13を開き、排気弁16を閉じた状態で、コンプレッサ11を動作させて、タンク14へ圧縮した空気を供給する。コントローラ17は、電磁クラッチ21を閉じる。
コントローラ17は、タンク14の圧力を検出する圧力センサ20の検出信号や、メモリに記憶されている急速空調装置10のサイクルを示すフラグに基づいて、タンク14の圧縮空気の有無を判断し、圧縮空気が貯蔵されていない場合にコンプレッサ11を動作させるようにしてよい。
【0034】
圧力センサ20の圧力が所定の基準値以上になると、コントローラ17は、コンプレッサ11を停止し、吸気弁13を閉じる。コントローラ17は、電磁クラッチ21を開く。
これにより、吸気弁13および排気弁16がともに閉じた状態になり、タンク14には、基準値以上の略一定の圧力の圧縮空気が貯蔵される(貯蔵工程、ステップST2)。
タンク14への圧縮空気の貯蔵を停止する所定の基準圧力は、大気圧より高ければよく、たとえば数Mpaである。
なお、空気は圧縮されることにより発熱する。タンク14に収容された圧縮空気は、圧縮完了後にタンク14とともに冷却される。
よって、このタンク14に圧縮空気を供給した後の貯蔵工程において、タンク14内の圧縮空気の温度は、たとえば常温に冷却される。
【0035】
図4は、図3の貯蔵工程でコントローラ17が実行する制御のフローチャートである。
図4の貯蔵工程では、コントローラ17は、まず、圧縮工程が完了したか否かを確認する(ステップST11)。
圧縮工程が完了している場合、コントローラ17は、タンク14に貯蔵されている圧縮空気の目標温度を演算する。コントローラ17は、たとえば空気調和装置の暖房または冷房の設定温度となるように、圧縮空気の目標温度を演算する(ステップST12)。
圧縮空気はその膨張時の吸熱効果により気温を低下させる。このため、目標温度は、設定温度以上とする。目標温度は、たとえば、空気調和装置の設定温度と比べて、膨張での吸熱量の分だけ高い温度とすればよい。
【0036】
圧縮空気についての加熱の目標温度を演算した後、コントローラ17は、加熱の要否を判断する(ステップST13)。
春、夏、秋には、暖房は不要である。これに対して、冬には、暖房が必要である。コントローラ17は、たとえば外気温度、タイマによる日付または季節判定、空気調和装置の不使用期間などに基づいて、暖房の要否を判断する。日付や季節の情報は、無線通信により外部から取得してもよい。
【0037】
加熱が必要であると判断すると、コントローラ17は、タンク14に蓄積した圧縮空気の加熱を開始する(ステップST14)。
コントローラ17は、ヒータ機器23を動作させる。たとえば、温まったエンジン7の冷却水またはオイルの循環を開始する。
その後、コントローラ17は、タンク14の温度センサ22の検出信号により、温度を監視する。コントローラ17は、検出温度が目標温度に到達したか否かを判断する(ステップST15)。コントローラ17は、検出温度が目標温度に到達するまで、ステップST15の判断を繰り返す。
検出温度が目標温度に達すると、コントローラ17は、加熱処理を終了する(ステップST16)。
コントローラ17は、ヒータ機器23を停止させる。たとえば、温まったエンジン7の冷却水またはオイルの循環を停止する。
以上の加熱処理により、タンク14に貯蔵された圧縮空気は、所望の温度に加熱される。
【0038】
これに対して、加熱が不要であると判断すると、コントローラ17は、加熱処理を終了することなく、図4の貯蔵工程を終了する。これにより、タンク14に貯蔵された圧縮空気は、放熱により冷却される(ステップST17)。
なお、たとえばタンク14が断熱構造を有するために、放熱による冷却が遅い場合には、コントローラ17は、圧縮空気を貯蔵するタンク14を、サーミスタにより冷却してよい。
この場合、コントローラ17は、ステップST17の替わりに、ステップST14からST16と同様の処理により圧縮空気の温度を管理し、目標とする冷却温度に制御すればよい。
【0039】
図3に説明を戻す。
圧縮工程および貯蔵工程が終了すると、コントローラ17は、放出工程を実行する(ステップST3)。
【0040】
図5は、図3の放出工程での詳細な制御のフローチャートである。
図5の放出工程において、コントローラ17は、まず、ユーザの乗車の有無を判断する(ステップST21)。
コントローラ17は、たとえばユーザが乗車する時、乗車した後、または乗車する直前に、放出工程を実行する。
乗車する直前であるか否かは、たとえばスマートキーの接近検出、エンジンスタータからの起動信号により判断できる。
乗車すること、または乗車したことは、たとえばドアパネル5の開閉検出、エンジン7の起動などにより判断できる。また、シートベルト装着センサ、着座センサなどの検出信号によっても、判断できる。
【0041】
ユーザが乗車したと判断すると、コントローラ17は、放出の要否を判断する(ステップST22)。
春または秋などの暖房または冷房が不要であるとき、加熱された圧縮空気または冷却された圧縮空気を乗車空間3へ放出する必要がない。
コントローラ17は、たとえば外気温度、タイマによる日付または季節判定、空気調和装置の設定温度または不使用期間などに基づいて、放出の要否を判断する。日付や季節の情報は、無線通信により外部から取得してもよい。
【0042】
加熱された圧縮空気または冷却された圧縮空気の放出が必要とであると判断すると、コントローラ17は、放出を実行する(ステップST23)。
コントローラ17は、吸気弁13を閉じたまま、排気弁16を開く。
これにより、タンク14に蓄積されていた圧縮空気は、排気ノズルを通じて乗車空間3へ排気される。
これにより、加熱された圧縮空気が乗車空間3へ放出される。加熱された圧縮空気により、乗車空間3が即座に暖められる。圧縮空気は、乗車空間3内で膨張し、膨張に伴う吸熱反応により乗車空間3の室温を低下させる。しかし、本実施形態では、それを見込んで圧縮空気の加熱温度を高くしている。よって、膨張による冷却があるにもかかわらず、乗車空間3を快適な温度にできる。
または、冷却された圧縮空気が乗車空間3へ放出される。冷却された圧縮空気により、乗車空間3が即座に冷却される。
なお、この放出工程において、乗車空間3の圧力上昇を抑制するために、コントローラ17は、ウィンドウガラス6を開ける制御を併せて実行してよい。あるいは、コントローラ17は、空気調和装置を外気導入モードに併せて制御してよい。コントローラ17は、このように乗車空間3に通気口が設けられた状態で圧縮空気の放出を開始すればよい。コントローラ17は、ウィンドウガラス6やドアパネル5が開けられたことを検出して、圧縮空気の放出を開始してよい。
【0043】
加熱された圧縮空気または冷却された圧縮空気の放出が不要とであると判断すると、コントローラ17は、ステップST23の放出を実行することなく、図5の放出処理を終了する。
【0044】
以上のように、コントローラ17は、加熱された圧縮空気を乗車空間3に放出するために、圧縮工程、貯蔵工程および放出工程を1回の空調サイクルとして実行する。
急速空調装置10は、乗車空間3を暖めることができる。
コントローラ17が空調サイクルを繰り返し実行することにより、乗車空間3を複数回にわたって暖房できる。
【0045】
また、本実施形態では、タンク14に貯蔵した圧縮空気を、乗車空間3の暖房温度以上まで加熱する。よって、圧縮空気が乗車空間3において膨張して吸熱作用を起こしても、乗車空間3を暖めることができる。
また、本実施形態では、タンク14が断熱構造を有し、または、タンク14を断熱ケース24に収容する。よって、貯蔵工程と放出工程との間に期間が開いても、加熱により暖められた圧縮空気を乗車空間3へ放出できる。
また、本実施形態では、暖房が不要である場合、タンク14に貯蔵した圧縮空気を冷房にも利用できる。
冷房に使用する場合、図3の暖房プロセスの貯蔵工程において、加熱をしないようにすればよい。また、圧縮空気を冷却する場合には、たとえば空気調和装置の冷却系を利用すればよい。
これにより、本実施形態の急速空調装置は、暖房だけでなく冷房にも利用できる。
【0046】
また、本実施形態では、貯蔵工程において、圧縮空気を暖房している。
この他にもたとえば、圧縮工程において、圧縮空気を暖房してよい。
また、圧縮工程および貯蔵工程において、圧縮空気を暖房してよい。
【0047】
[第2実施形態]
第1実施形態は、圧縮空気を用いて乗車空間3を暖房する急速空調装置10の、基本的な構成および動作の例である。
図6は、本発明の第2実施形態に係る、暖房機能を有する急速空調装置10を用いた、自動車1の車体2の部分透視の側面図である。
図6に示すように、本実施形態において、タンク14は、乗車空間3のダッシュボードに設けられている。
ダッシュボートには、空気調和装置の排気ダクトなどか配置される。
空気調和装置を、ヒータ機器23として利用できる。
よって、タンク14の圧縮空気は、空気調和装置により暖められたり、冷却されたりする。
第2実施形態に係る急速空調装置10の上記以外の構成および動作は、第1実施形態のものと同様である。
【0048】
以上のように、タンク14を乗車空間3のダッシュボードに設置することにより、空気調和装置により、タンク14の圧縮空気を暖めたり、冷やしたりできる。
空気調和装置は、暑い夏の時期には冷房動作し、寒い冬の時期には暖房動作する。
【0049】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0050】
上記実施形態は、急速空調装置10は、自動車1に搭載されている。
この他にもたとえば、急速空調装置10は、バス、電車などのその他の車両に搭載されてよい。
急速空調装置10は、車両から分離された単独の装置として形成されてよい。
コンプレッサ11の駆動源に電動モータを使用することで、急速空調装置10は、エンジン7の駆動力を動力源とすることなく圧縮工程を実施できる。電動コンプレッサを用いる急速空調装置10は、車両のバッテリ、太陽光発電パネル、家庭用電源の電力により動作できる。
持ち運び可能な急速空調装置10とすることで、複数の車両の冷暖房に使用できる。非常用の急速空調装置10としても利用できる。
【0051】
上記実施形態では、急速空調装置10は、タンク14の他に、コンプレッサ11を有する。
この他にもたとえば、急速空調装置10は、タンク14を交換可能として、コンプレッサ11を持たないものとしてもよい。
この場合、急速空調装置10は、圧縮工程を実施しない。また、急速空調装置10は、タンク14の残圧を確認したり、または新たなタンク14が装着されたかを確認したりして、貯蔵工程および放出工程を実施すればよい。
【0052】
上記実施形態では、自動車1などの車両の乗車空間3は、急速空調装置10により暖房または冷却される。
自動車1などの車両は、一般的に、コンプレッサ、コンデンサ、レシーバ、エキスパンションバルブ、エバボレータで冷媒を循環し、ブロアファンにより乗車空間3の空気をエバボレータへ吹き付けて冷却する空気調和装置を有する。また、この空気調和装置は、エンジン7の排熱を利用して暖房する。
この他にもたとえば、自動車1などの車両の乗車空間3は、急速空調装置10および空気調和装置により暖房または冷却されてよい。
たとえば急速空調装置10で初期暖房または冷却した後に、空気調和装置で所望の温度に暖房または冷却すればよい。
これにより、乗車空間3は、空気調和装置だけで乗車空間3を暖房または冷却する場合に比べて、確実に短時間で暖房または冷却される。
なお、このような急速空調装置10と空気調和装置とによる協働の冷暖房動作は、これらのコントローラが別々である場合には、たとえば急速空調装置10から空気調和装置へ起動信号を送信することにより実現できる。
コントローラが共通化されている場合には、急速空調装置10の制御プログラムから空気調和装置の制御プログラムに対して、フラグなどによるプログラム間通信により通信させることにより実現できる。
【符号の説明】
【0053】
1…自動車(車両)
3…乗車空間
4…エンジン
10…急速空調装置
11…コンプレッサ
14…タンク
17…コントローラ(制御部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが乗車する乗車空間と、
圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、
前記乗車空間に対して前記タンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、
を有し、
前記タンクに貯蔵された圧縮空気は、
加熱後に前記乗車空間に放出されることで前記乗車空間の暖房に使用される
車両。
【請求項2】
前記タンクに貯蔵した圧縮空気を加熱する加熱器を有する
請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記制御部は、
前記タンクに貯蔵された圧縮空気を、前記乗車空間の暖房温度以上まで加熱する
請求項1または2記載の車両。
【請求項4】
前記制御部は、
暖房が不要である場合、前記タンクに貯蔵された圧縮空気を加熱しないで放出する
請求項3記載の車両。
【請求項5】
前記タンクは断熱構造を有し、または、前記タンクを収容する断熱ケースを有する
請求項1から4のいずれか一項記載の車両。
【請求項6】
前記タンクは、前記乗車空間に配置される
請求項1から4のいずれか一項記載の車両。
【請求項7】
ユーザが乗車する車両の乗車空間を暖房する空調装置であって、
圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、
前記乗車空間に対して前記タンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、
を有し、
前記タンクに貯蔵された圧縮空気は、
加熱後に前記乗車空間に放出されることで前記乗車空間の暖房に使用される
空調装置。
【請求項8】
ユーザが乗車する車両の乗車空間を暖房する圧縮空気をタンクに貯蔵する空調装置の空調方法であって、
前記タンクへの空気を圧縮し、
前記タンクに貯蔵した圧縮空気を加熱し、
加熱された前記タンクの圧縮空気を前記乗車空間に放出する
空調方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−75580(P2013−75580A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215667(P2011−215667)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】