説明

車両と衝突対象物との接触時点を決定する方法

【課題】加速度信号だけに基づいて接触時点を正確に決定できる方法を提供すること。
【解決手段】車両と衝突対象物との接触時点を決定する方法において、この車両の乗員保護システムの加速度センサによって検出した加速度信号(10)から導出される信号(20)を関数(21)によって近似し、この関数(21)からゼロ点を求めることによって前記接触時点を計算して決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載された、車両と衝突対象物との接触時点を決定する方法を出発点とする。
【背景技術】
【0002】
DE 100 65 518 A1から、プレクラッシュセンサシステムの信号に基づいて車両と衝突対象物との接触時点を決定することがすでに公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】DE 100 65 518 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、加速度信号だけに基づいて接触時点を正確に決定できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、本発明の請求項1により、車両と衝突対象物との接触時点を決定する方法において、この車両の乗員保護システムの加速度センサによって検出した加速度信号から導出される信号を関数によって近似し、この関数からゼロ点を求めることによって上記の接触時点を計算して決定することを特徴とする、車両と衝突対象物との接触時点を決定する方法によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の方法を実施する装置のブロック図である。
【図2】信号および相応する近似値を示す図である。
【図3】本発明の方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
請求項1の特徴部分に記載された特徴的構成を有する、車両と衝突対象物との接触時点を決定する本発明の方法は、加速度信号だけに基づいて接触時点を正確に決定できるという利点を有する。このような正確な決定は、加速度信号から導出される信号を近似することによって達成される。この近似により関数が得られ、つぎのこの関数から、ゼロ点を決定することによって、上記の接触時点を計算することができる。乗員保護システムにおいて加速度センサは、少なくとも中央の制御装置に設けられているため、加速度信号はつねに存在する。このため、接触時点を正確に決定するために付加的なセンサシステムは不要である。信号を近似する関数として、例えば2次関数を使用することができる。2次関数は、精度およびコストの点から殊に有利であることが示されている。しかながらここでは、より高次のべき乗または分数のべき乗を有する部分または例えば超越関数の部分を有する別の関数も考えられる。接触時点を極めて正確に決定することは、例えばエアバッグ、ベルトテンショナおよびロールオーババーなどの乗員保護手段を正確な時点で駆動制御するための前提である。また歩行者保護に対しても、正確な接触時点の決定は重要なパラメタである。つまり本発明の装置によって、車両搭乗者の安全性が高められることになるのである。それにもかかわらず接触時点を決定するためないしは接触時点を予想するために周囲センサシステムを使用する場合には、この予想の妥当性を検査するため、または場合によっては差分を決定するために本発明の装置を使用することができる。この場合にこの差分は別個に、周囲センサシステムが出力した値、例えば衝突速度を補正するために利用することができる。
【0008】
従属請求項に記載した手段および発展形態により、車両と衝突対象物との接触時点を決定する本発明の装置の有利な改良が可能である。
【0009】
殊に有利であるのは装置によって、加速度信号をフィルタリングするか、または1回積分するか、または2回積分して信号を形成することである。このような手段は、周波数の低い関数を得るために必要である。そのままの加速度信号では高い周波数成分を多く含みすぎており、殊に接触時点を決定するという点から見て、関数による近似が極めて困難になってしまうのである。このために強力なフィルタリングか、または同様にフィルタ効果を有する1回または2回の積分が必要である。2回の積分を使用する際には、例えば2次関数による近似を行うことができる。この場合、2次関数の頂点の位置から接触時点を逆算することができる。これによって、簡単に解くことができる線形回帰の問題が得られるのである。フィルタリングには例えば1次またはより高次のローパスフィルタを使用することができる。
【0010】
さらに、接触時点を決定する際に上記の装置により、衝突速度が付加的に考慮されると有利である。これが有利であるのは、衝突速度が高ければ高いほど、車両の比較的固い構造体に早く当たるため、衝突速度を考慮することにより、接触時点の決定が改善されるからである。すなわち実際の接触と、放物線の頂点によって決定される時点との間では、速度に依存する所定の時間が経過するのである。つまり、放物線の頂点によって決まる時点から、速度に依存する時間を減算すれば、改善が達成されるのである。この時間を計算するための付加部分して考えられるのは、f(cv) = a*cv+bなる形の速度に依存する1次関数であり、ここでaおよびbは、特定の車両に対して適用可能なパラメタである。衝突速度は、例えば、第1近似において衝突速度として使用可能な自車速度に依存して決定することができる。または周囲センサシステム、例えばレーダ、ビデオおよび/または超音波センサシステムの信号を使用して、例えば衝突対象物と車両との間の相対速度を考慮することもできる。
【0011】
加速度信号の近似は有利には閾値によって達成される。これは、信号を閾値に照らしてチェックし、この閾値により、信号のサンプリング時点が得られることによって行われる。最も簡単な近似では2つの閾値を使用することができる。しかしながら良好な結果は、4つの閾値によって得られる。計算能力および記憶装置が使用できる程度に応じて、一層多くの閾値を使用することも可能である。
【実施例】
【0012】
本発明の目標は、本発明の装置が設けられた車両と、別の車両とすることが可能な別の衝突対象物との間の接触時点を正確に決定することである。しかしながら上記の衝突対象物はまた、街灯柱、壁または通行人または自転車に乗っている人などのような別の対象物とすることも可能である。接触時点は、エアバッグ、ベルトテンショナまたはロールオーババーなどの乗員保護手段の駆動制御に、ないしは歩行者保護手段の駆動制御に重要である。殊に接触時点についての正確な知識は、クラッシュの重度を決定するのに有用であり、またひいては乗員保護手段の拘束力を所期のように駆動制御するのに有用である。このことは殊に多段階のエアバッグおよびベルトテンショナについて当てはまることである。
【0013】
本発明によって提案されるのは、加速度信号から導出された信号および衝突速度だけに基づいて、接触時点をできる限り正確に決定することである。加速度信号は有利にも、ふつう車両トンネル(Fahrzeugtunnel)に配置されている中央の制御装置においてすでに形成される。しかしながら外部の加速度センサまたは運動学的なセンサプラットホームを使用してこの加速度信号を形成することも可能である。加速度信号それ自体は、あまりに多くの高周波成分を有しており、関数による有意義な近似を行うことができないため、この信号を平滑化しなければならない。この平滑化は、相応するフィルタリング、有利にはローパスフィルタリングによって達成され、および/または1回または2回の積分によって達成される。接触時点を計算する際には有利には衝突速度を考慮することができる。衝突速度に対して、自車速度および/または周囲センサシステムからの信号を使用することができる。このような信号は、例えば当該車両と衝突対象物との間の相対速度とすることができる。
【0014】
図1ではブロック図で本発明の装置が説明されている。制御装置12は、少なくとも1つの加速度センサを有しており、この加速度センサから信号10を受け取る。この加速度センサは、ふつう少なくとも車両長手方向に配置されているが、制御装置12に複数の加速度センサを角度をつけて配置構成することも可能である。例えば、2つの加速度センサを45°で配置することも公知であり、これらのセンサによって1平面内で複数の加速度を検出することができる。車両横方向の加速度センサもふつうである。
【0015】
上記の制御装置はプロセッサ13を有しており、接触時点を決定するためのアルゴリズム14がこのプロセッサにおいて動作する。アルゴリズム14の他に、例えば拘束手段に対するトリガ時間を決定するさらに別のアルゴリズムが動作する。これにしたがい制御装置12は、点火回路を介して拘束手段15を駆動制御する。これらの拘束手段に挙げられるのは、例えば、電動モータで操作されるリバーシブルベルトテンショナ(reversible Gurtstraffer)16,火花式ベルトテンショナ17,エアバッグ18およびロールオーババー19である。オプションであるのは、上記のように衝突速度を考慮することである。衝突速度11は、相対速度に基づいて、すなわち周囲センサ信号および/または自車速度を用いて決定することができる。最も簡単な解決手段は、ホイール回転センサを用いて決定されるおよび/またはタコメータ情報から取り出される自車速度を衝突速度として使用することである。中央の加速度センサ10の信号は、プロセッサ13により、場合によってフィルタリングされおよび/または1回ないしは2回積分されて平滑化が行われる。つぎにこの平滑化された信号は、プロセッサ13およびアルゴリズム14において関数によって近似され、例えば2次関数の頂点から接触時点が計算される。オプションで可能であるのは、衝突速度11を考慮して、計算した接触時点の補正を行うことである。
【0016】
図2に説明されているのは信号時間線図における近似の手順である。縦座標には加速度信号の2回目の積分がプロットされており、これに対して横座標には時間がとられている。加速度の2回目の積分は、破線の曲線20によって表されている。ここには4つの閾値SW1,SW2,SW3およびSW4が設定されており、これは時間不変である。すなわちこれらは時間に依存して変化しない。信号20が各閾値SW1,SW2,SW3およびSW4を上回ると、このことは時点T1,T2,T3およびT4によってマークされる。これによって信号20のサンプリング値が得られる。つぎにこれらのサンプリング値によって例えば2次関数が設定される。この2次関数は、時点T1,T2,T3およびT4と、閾値SW1,SW2,SW3およびSW4との間の関係をできる限り良好に表す2次関数である。閾値への時点のマッピングが2次である場合、根号付きの関数により、閾値が時間にマッピングされる。閾値はこの手順が実行される前に決定されているため、以下では根号付きの関数、すなわち時点への閾値のマッピングを考察する。つまりこれは一般的には
【数1】

の形である。
【0017】
この関数は、閾値0に対してその導関数の値が無限大であるという別の副条件にしたがわなければならない。したがって
【数2】

が成り立つ。ここからb=0が得られる。この場合に
【数3】

が成り立つ。
【0018】
閾値SW1〜SW4はアプリケーションフェーズ中、すなわち制御装置における適用の前に定められるため、上記の根号付き表現を前もって計算して、頂点位置の決定を線形回帰問題に帰着することができる。この線形回帰問題は、計算コストが少ないため、適用中に制御装置において計算することができる。
【0019】
パラメタcは、根号付き関数の頂点の位置を表す。図2に示されているようにここから、接触時点から時点T1までに、すなわち閾値SW1を上回るまでに経過した時間に対する第1近似が得られる。つまり、時点T1と加数cとがわかれば、接触時点を逆算することができるのである。さらなる改善は、上記の計算の際に衝突速度を一緒に考慮する場合に得られる。これは、車速による第1近似において近似することができる。すなわち、衝突速度が高ければ高いほど、車両の比較的固い構造体に早く当たり、またT1およびcから計算される接触時点が実際の接触時点に近くなる。それは、大きな加速度信号になるまでに経過する時間が短くなるからである。したがって改善された接触時点の計算は、上記のように計算した接触時点から、衝突速度に線形に依存する時間を引いた場合に得られるのである。
【0020】
計算能力に相応して可能であるのは、一層多くまたは一層少ない閾値および時点を用いて、また比較的簡単な、例えば線形な関数により、または比較的複雑な関数、例えば三乗根を有する項を付加することにより、ないしは比較的簡単ないしは区分的に一定の関数により、または比較的複雑な付加項により、衝突速度を考慮して上記の計算を実行することである。このような手段によって可能になるのは、計算コストを低減するか、ないしは計算精度を高めることができる。図2において回帰曲線は、参照符号21で示されている。
【0021】
図3では本発明の装置によって実行される経過が流れ図で示されている。方法ステップ300では制御装置の加速度センサによって加速度が検出されて加速度信号が形成される。この加速度センサは、マイクロメカニカル式に実施されるが、別の方式で構成することも可能である。この加速度信号は、例えば、制御装置のマイクロコントローラのアナログ入力側に供給されるか、または上記の加速度センサは、それ自体がすでにデジタル信号を出力するデジタル式の加速度センサである。すでにアナログの領域においてフィルタ、例えばローパスフィルタによって平滑化を行うことができる。ここでこのフィルタは電子式にインプリメントすることも可能であり、この場合にこれはマイクロコントローラによってデジタル信号に変換される。この平滑化は方法ステップ301で行われる。この方法ステップにはここで使用される加速度信号の2回積分も属しており、この2回積分によっても平滑化が行われることになる。これによって低周波の関数が得られ、方法ステップ302ではこの関数において、関数による近似が行われる。この近似は、2回積分加速度信号における複数のノードに基づいて、すなわち前方への移動に基づいて実行される。これらのノードは、近似する関数が閾値をとる時間および閾値によって決定される。この近似関数から頂点が計算される。この頂点により、第1近似において接触時点が決定される。これは方法ステップ304において実行される。改善された接触時点の計算は、このように計算した接触時点から、衝突速度に線形に依存する時間を減算した場合に得られる。衝突速度は、方法ステップ303によって供給され、これによってこの衝突速度はつぎに方法ステップ304において接触時点を決定する際に考慮される。上記のようにこの衝突速度の考慮はオプションである。
【符号の説明】
【0022】
10 加速度センサ、 12 制御装置、 13 プロセッサ、 14 アルゴリズム、 16 リバーシブルベルトテンショナ、 17 火花式ベルトテンショナ、 18 エアバッグ、 19 ロールオーババー、 20 加速度信号から導出した信号、 21 (2次)関数、 11 衝突速度、 SW1,SW2,SW3,SW4 閾値、 T1,T2,T3,T4 閾値SW1,SW2,SW3,SW4を上回った時点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両と衝突対象物との接触時点を決定する方法において、
当該車両の乗員保護システムの加速度センサによって検出した加速度信号(10)から導出される信号(20)を関数(21)によって近似し、当該の関数(21)からゼロ点を求めることによって前記接触時点を計算して決定することを特徴とする、
車両と衝突対象物との接触時点を決定する方法。
【請求項2】
前記の信号(20)を形成するため、前記の加速度信号(10)をフィルタリングするか、または1回積分ないしは2回積分する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触時点を決定する際に、衝突速度(11)を付加的に考慮する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記の衝突速度(11)を自車速度に依存して決定する、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記の衝突速度(11)を周囲信号に依存して決定する、
請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記の信号(20)を少なくとも2つのサンプリング値による関数によって近似し、
ただし当該のサンプリング値は、閾値(SW1,SW2,SW3,SW4)と、前記の信号(20)が当該の閾値(SW1,SW2,SW3,SW4)を上回った相応する時点(T1,T2,T3,T4)とによってプロットされる、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
2次関数(21)を使用する、
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記の2次関数(21)の頂点から接触時点を決定する、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
接触時点を決定する際に、衝突速度を線形に考慮する、
請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−20737(P2012−20737A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208904(P2011−208904)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2006−534566(P2006−534566)の分割
【原出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany