説明

車両のピラー補強構造

【目的】 車両のセンタピラーにおいて、側面衝突時センタピラーがその中央部で折れ曲がり大きく車室内へ突出する虞れがある、という従来の課題を解決し、乗員が受ける衝撃を最小限に抑える。
【構成】 センタピラー1の補強用リンフォースメント2を上部リンフォースメント21と中央部リンフォースメント22と下部リンフォースメント23とで構成し、上部と中央部のリンフォースメント21,22は一体的に連結し、中央部リンフォースメント22と下部リンフォースメント23との間に隙間δを形成して、この隙間δにて側面衝突に対するセンタピラー1の強度的最弱部をセンタピラー1の下方位置に設定し、側面衝突時センタピラー1が下方位置に設けた強度的最弱部で折れ曲がり、乗員に衝撃を及ぼす虞れがあるセンタピラーの中央部と上方部は途中で折れ曲がることなくほぼ均一に内側へ変位するようにした。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、車両のピラー特にセンタピラーの補強構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両のセンタピラーは、ピラーインナとピラーアウタとにより閉断面に構成され、その上端は閉断面をなすルーフサイドレールに結合され、下端は閉断面のサイドシルに結合され、センタピラーの内部には上から下まで連続したリンフォースメントが固着され、このリンフォースメントによってセンタピラーの強度アップをはかる構造となっているのが普通である(例えば特開平3−276878号
公報参照)。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
センタピラーは、一般に上方が細くなる形状に構成され、特にサッシュレスドアの車両ではセンタピラーの中央部即ちドアの窓肩部付近の高さのところでセンタピラーの断面が比較的急激に変化する構造となることが多い。そのために上記のようにセンタピラーを上から下まで連続して通るリンフォースメントで全体的に補強している従来構造のものは、側面衝突時に断面が急変する中央部が強度上最弱部となってここで座屈が生じ、該中央部が局部的に室内に突出すると共に、その突出量も大きく、乗員に与える衝撃も大きくなる虞れがある、という課題を有している。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本考案は、センタピラー補強用のリンフォースメントを、センタピラーの下方の所定位置(センタピラーの中央部と下端部のほぼ中間位置乃至はそれよりやや下方の位置)より上方の上側リンフォースメントと上記所定位置より下方の下側リンフォースメントとに分割し、上側リンフォースメントの下端と下側リンフォースメントの上端との間に所定の隙間を形成して、その隙間部分によりセンタピラーに強度的最弱部を構成したことを特徴とするものである。
【0005】
【作用】
上記により、側面衝突時にセンタピラーは、センタピラーの下方の所定位置に積極的に構成した強度的最弱部で内側へ折れ曲がり、乗員に衝撃を与える虞れのあるセンタピラーの中央部分と上方部分とは部分的に折れ曲がることなく全体としてほぼ均一に内側へ変位し、且つその変位量は比較的少なく、乗員に与える衝撃を最小限に抑えることができる。
【0006】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面を参照して説明する。
【0007】
図1は本考案の第1の実施例を示すもので、1はピラーインナ11とピラーアウタ12とからなる閉断面のセンタピラーであり、該センタピラー1の上端は閉断面のルーフサイドレール3に結合固着され、下端は閉断面のサイドシル4に結合固着される。
【0008】
センタピラー1の内部にはリンフォースメント2が固着される。該リンフォースメント2は、上部リンフォースメント21と中央部のリンフォースメント22と下部リンフォースメント23とに分割構成され、上部リンフォースメント21の下端部と中央部のリンフォースメント22の上端部とは重ね合わされてスポット溶接等にて一体的に結合され、該中央部のリンフォースメント22の下端部と下部リンフォースメント23の上端部との間には所定の隙間δ(例えば約5mm程度に設定される)が形成され、リンフォースメント2が中央部のリンフォースメント22と下部リンフォースメント23との間で途切れ、その途切れた部分即ち隙間δの部分でセンタピラー1の強度的最弱部を構成している。
【0009】
該センタピラー1の強度的最弱部は、センタピラー1の中央部と下端部との中間位置付近乃至はそれよりやや下方の位置,具体的には地上より約300mm程度の高さ位置(通常の乗用車のフロントバンパの地上高程度)に形成される。
【0010】
上部リンフォースメント21は図1(C)に示すようにピラーアウタ12の上方部分とほぼ同形の断面形状を有し、ピラーアウタ12の上部内側にほぼ沿って配設され、その両側面部をピラーアウタ12の両側面にスポット溶接して固着され、センタピラー1の上方部分を補強するものであり、中央部のリンフォースメント22は図1(D)に示すようにピラーアウタ12の中央部分とほぼ同形の頂面部と両側面部とをもったほぼコ字状断面をなし、該ピラーアウタ12の中央部内側にほぼ沿って配設され、その両側面部をピラーアウタ12の両側面にスポット溶接して固着されると共に、その上端部分を上記上部リンフォースメント21の下端部分に重ね合わせてスポット溶接して固着され、上部ドアヒンジ取付部,ドアストライカ取付部等を補強するものである。下部リンフォースメント23は図1(F)に示すようにピラーアウタ12の下方部分とほぼ同形の頂面部と両側面部と両側フランジとをもったほぼハット型断面形状をなし、該ピラーアウタ12の下方部分内側にほぼ沿って配設され、その両側フランジをピラーインナ11とピラーアウタ12の接合フランジ間に挟んでスポット溶接することによって固着され、下部ドアヒンジ取付部,前席用シートベルトのアンカ又はリトラクタの取付部等を補強するものである。
【0011】
尚図示実施例では、中央部のリンフォースメント22の頂面部と下部リンフォースメント23の頂面部とを、側面衝突時の荷重入力方向にほぼ直交する面をなす平板体よりなる連結材24で連結した例を示しており、該平板体よりなる連結材24は車幅方向の荷重に対しての補強効果は極めて小であるので、中央部リンフォースメント22と下部リンフォースメント23との隙間δ部分がセンタピラー1の強度的最弱部となるものであるが、本考案では上記連結材24による連結は必ずしも必要ではなく、省略してもよい。
【0012】
次に側面衝突時につき説明する。
【0013】
従来のように上から下まで一体若しくは一体的に連続するリンフォースメントでセンタピラーが補強されていると、側面衝突に対する強度的最弱部はセンタピラーの断面が急変する中央部分となり、側面衝突時に図3(B)の破線にて示すようにセンタピラーはその中央部分で折れ曲がり、局部的な室内方向への突出が生じ且つその突出量も大きくなり、乗員に与える衝撃も大きくなる。
【0014】
それに比べ上記のように、中央部のリンフォースメント22と下部リンフォースメント23との不連続部にてセンタピラー1の下方位置に強度的最弱部を積極的に構成した本考案の構成では、側面衝突によってセンタピラーに内向きの衝突荷重が作用すると、センタピラー1はその下方位置に設けた強度的最弱部で内側への折れ曲がりが発生し、図3(A)の破線にて示すように、乗員に衝撃を及ぼす中央部分から上方部分にかけてはほとんどその断面形状を変えることなく内側へほぼ均一に変位し、且つその変位量も比較的小さく、乗員に与える衝撃を最小限に抑えることができるものである。この場合図1に示しているように中央部のリンフォースメント22と下部リンフォースメント23とを平板材よりなる連結材24で連結した構成としておくと、折れ曲がり易さを維持した上でより高速での側面衝突に際しセンタピラー1の該折れ曲がり部での完全破断を防止することができる。
【0015】
尚、上記のように上部リンフォースメント21と中央部のリンフォースメント22とを分割してそれを重ね合わせ結合する構造とすると、各リンフォースメント21,22が小型となって板取りの面で有利であり、又図1(A),(B)に示すように両リンフォースメント21,22の重ね合わせ結合部位置をセンタピラー1の断面が急変する部位に合わせることによって、その断面急変部の強度を向上させることができる、というメリットをもたらし得るが、上部リンフォースメント21と中央部リンフォースメント22とを一体に構成した構造としても、リンフォースメント2の不連続部がセンタピラー中央部の断面急変部より強度が低く強度的最弱部となっていれば、機能上さしつかえない。
【0016】
図2は本考案の第2の実施例を示すもので、この例ではリンフォースメント2の不連続部にて積極的に構成されるセンタピラー1の強度的最弱部において、ピラーアウタ12(又はピラーインナ11)の頂面部に隙間δに沿うビード部5を形成し、該ビード部5により側面衝突時センタピラー1が強度的最弱部で更に確実に折れ曲がるようにしたものであり、図2においてその他の構成は図1と同じであり、図1と同一の符号は同一の部分を表しており、側面衝突時のセンタピラー1の変形態様も図3(A)に示すようになり、図1と同じ効果をもたらすものである。
【0017】
【考案の効果】
以上のように本考案によれば、センタピラーの内部に設けられるリンフォースメントの下方部位置に部分的に該リンフォースメントがない強度的不連続部を形成し、該部を側面衝突に対するセンタピラーの強度的最弱部としたことにより、側面衝突時センタピラーはその下方部位置の強度的最弱部で内側に折れ曲がり、乗員に衝撃を及ぼす虞れのあるセンタピラーの中央部分及び上方部分は局部的な内方突出がなく全体的にほぼ均一に内側へ変位し、且つその変位量も少なく、乗員に与える衝撃を最小限に抑制することができるもので、構造簡単且つコスト低廉なることと相俟って実用上多大の効果をもたらし得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の第1の実施例を示すもので、(A)は車両におけるセンタピラー部の正面図、(B)はセンタピラー部の縦断面図、(C)は(A)のC−C断面図、(D)は(A)のD−D断面図、(E)は(A)のE−E断面図、(F)は(A)のF−F断面図である。
【図2】本考案の第2の実施例を示すもので、(A)はセンタピラー部の要部正面図、(B)は(A)のB−B断面図である。
【図3】側面衝突時のセンタピラーの変形態様を線図的に表した説明図であり、(A)は本考案構成の場合、(B)は従来構成の場合をそれぞれ示している。
【符号の説明】
1 センタピラー
2 リンフォースメント
3 ルーフサイドレール
4 サイドシル
5 ビード部
11 ピラーインナ
12 ピラーアウタ
21 上部リンフォースメント
22 中央部のリンフォースメント
23 下部リンフォースメント
24 連結材

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 ピラーインナとピラーアウタとで閉断面に構成され上端部をルーフサイドレールに固着し下端部をサイドシルに固着した車両のセンタピラーにおいて、該センタピラーの内部に設けられる補強用のリンフォースメントを、該センタピラー下方の所定位置より上側のリンフォースメントと下側のリンフォースメントとに分割し、上側のリンフォースメントの下端と下側のリンフォースメントの上端との間に所定の隙間を形成して、該隙間によりセンタピラーの下方部位置に側面衝突に対する強度的最弱部を構成したことを特徴とする車両のピラー補強構造。
【請求項2】 請求項1に記載の車両のピラー補強構造において、上側のリンフォースメント下端部と下側のリンフォースメント上端部との間を側面衝突時の荷重入力方向にほぼ直交する面をなす平板体よりなる連結材で連結したことを特徴とする車両のピラー補強構造。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の車両のピラー補強構造において、ピラーアウタ又はピラーインナに、上側のリンフォースメントの下端と下側のリンフォースメントの上端との間の隙間にほぼ沿うビード部を形成したことを特徴とする車両のピラー補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】実開平6−72787
【公開日】平成6年(1994)10月11日
【考案の名称】車両のピラー補強構造
【国際特許分類】
【出願番号】実願平5−20244
【出願日】平成5年(1993)3月26日
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)