説明

車両のホイールハブ

【課題】コストの上昇及びホイールとホイールハブの回転中心のずれの発生を抑制しつつ、ホイールの取り外し作業性の向上を図ることが可能なホイールハブの提供。
【解決手段】ホイールハブ1は、ハブ本体10と環状部材11とを備える。ハブ本体10は、車軸に支持されるハブ軸部2と、ハブ軸部2の回転軸の周囲に配置されるインロー部4とを一体的に備える。インロー部4は、ハブ軸部2の回転軸を中心とした円周面に沿った雄ネジ形状の外面4aを有する。環状部材11の内周面11aは、インロー部4の外面4aと螺合する雌ネジ形状を有する。環状部材11をインロー部4に螺合して締結すると、環状部材11が車幅方向内側へ移動してインロー部4に取り付けられる。環状部材11がインロー部4に取り付けられた状態で、環状部材11にホイール5,6の軸孔7,8が車幅方向外側から嵌合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールが装着される車両のホイールハブに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールがホイールハブに装着された状態で、ホイールの軸孔の内周面に近接又は接触するホイールハブの嵌合面(ボア部やインロー部などの外面)に錆が発生すると、タイヤ交換などのホイールの脱着時にホイールの軸孔とハブの嵌合面とが固着し、ホイールの取り外しに過大な力を要する。
【0003】
このような不都合を解消するため、特開平10−81103号公報には、ホイールハブの嵌合面に、耐腐食性に優れた部材からなりかつホイールの軸孔に接する案内環を結合した構造が記載されている。
【0004】
また、特開2003−237301号公報には、ホイールハブの嵌合面に環状の弾性体を固定し、この弾性体にホイールの軸孔の内周面を接触させる構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−81103号公報
【特許文献2】特開2003−237301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特開平10−81103号公報に記載された構造では、耐腐食性に優れた特別な部材を使用するため、コストの上昇を招く。
【0007】
また、特開2003−237301号公報に記載された構造では、弾性体の変形によってホイールとホイールハブの回転中心がずれてしまい、車両振動を招く恐れがある。
【0008】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであって、コストの上昇及びホイールとホイールハブの回転中心のずれの発生を抑制しつつ、ホイールの取り外し作業性の向上を図ることが可能なホイールハブの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のホイールハブは、ハブ本体と環状部材とを備える。ハブ本体は、車軸に支持されるハブ軸部と、ハブ軸部の回転軸の周囲に配置される環状部材締結部とを一体的に備える。環状部材締結部は、ハブ軸部の回転軸を中心とした円周面に沿った雄ネジ形状の外面を有する。環状部材の内周面は、環状部材締結部の外面と螺合する雌ネジ形状を有する。環状部材を環状部材締結部に螺合して締結すると、環状部材が車幅方向内側へ移動して環状部材締結部に取り付けられる。環状部材が環状部材締結部に取り付けられた状態で、環状部材にホイールの軸孔が車幅方向外側から嵌合される。
【0010】
環状部材は、内側リングと、内側リングの外側に重なる外側リングとを有してもよい。この場合、内側リングの内周面は、前記雌ネジ形状を有し、ホイールの軸孔は、外側リングに嵌合される。
【0011】
上記構成では、環状部材の外周面によってホイールがホイールハブに対して確実にセンタリングされて保持されるので、ホイールとホイールハブの回転中心のずれの発生が抑制される。
【0012】
ホイールハブからホイールを取り外す場合、ホイールを車幅方向外側へ引っ張る。このとき、環状部材の外周面に錆が発生し、環状部材とホイールハブとが固着していると、ホイールをホイールハブから容易に抜くことができない。
【0013】
このようなときには、冶具(例えば環状部材と係合する専用冶具)を用いて、環状部材をハブ本体に対して反締結方向へ回転させ、環状部材を車幅方向外側へ移動させる。これにより、ホイールは、環状部材とともに車幅方向外側へ移動し、環状部材が環状部材締結部から外れることによって、ホイールハブから離脱する。ホイールから環状部材を取り外す作業は、ホイールハブからの離脱後に、ハンマー等によってホイールや環状部材を叩く等によって行えばよい。
【0014】
また、環状部材が内側リングと外側リングとを有している場合には、内側リングをハブ本体に対して反締結方向へ回転させ、内側リングを車幅方向外側へ移動させる。このとき、内側リングと外側リングとが錆によって固着して一体的に回転する場合には、上述の場合と同様に、内側リングが環状部材締結部から外れることによって、ホイールがホイールハブから離脱する。一方、内側リングと外側リングとが相対回転可能な状態であり、内側リングのみが車幅方向外側へ移動する場合には、内側リングを環状部材締結部から外した後、外側リングとホイールとをホイールハブから取り外せばよい。
【0015】
また、内側環状部材及び外側環状部材は、特別な素材によって形成する必要がないので、コストの上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コストの上昇及びホイールとホイールハブの回転中心のずれの発生を抑制しつつ、ホイールの取り外し作業性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態のホイールハブを車幅方向外側から視た正面図である。
【図2】図1のホイールハブの要部拡大斜視図である。
【図3】図1の内側環状部材及び外側環状部材を示す斜視図である。
【図4】ホイールが装着されたホイールハブを示す図1のIV−IV矢視断面図である。
【図5】第2実施形態の環状部材を示す斜視図である。
【図6】ホイールが装着された第2実施形態のホイールハブを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施形態に係るリヤ側のホイールハブについて、図1〜図4を参照して説明する。
【0019】
ホイールハブ1は、ハブ本体10と環状部材11とを備える。ハブ本体10は、筒状のハブ軸部2と、ハブ軸部2から外周方向へ延びる円板状のフランジ部3と、複数のインロー部(環状部材締結部)4とを一体的に備える。
【0020】
ハブ軸部2は、リヤ側の車軸(図示省略)に回転自在に支持される。フランジ部3の車幅方向の外面にはアルミニウム製のホイール(内側タイヤのホイール5と外側タイヤのホイール6)が、内面には制動ドラム(図示省略)がそれぞれ重ねられ、これらは複数のボルト及びナット(図示省略)によって締結される。これにより、ホイール5,6と制動ドラムとがフランジ部3を介して結合される。ホイール5,6の周縁には、タイヤ(図示省略)を支持するリム(図示省略)が結合されている。
【0021】
複数のインロー部4は、ハブ軸部2の外周縁よりも外周側で、フランジ部3の外周縁よりも内周側で、且つフランジ部3より車幅方向外側(図4中左側)の領域において、ハブ軸部2(ホイールハブ1)の回転軸の周囲に所定の間隔をおいて飛び石状に配置されている。また、インロー部4の外面4aは、ハブ軸部2の回転軸を中心とした円周面に沿って断続的に配置されている。
【0022】
環状部材11の内周面11aは、インロー部4の外面4aが配置される上記円周面とほぼ同径に設定されている。環状部材11の内周面11aは、雌ネジ状に形成され、各インロー部4の外面4aは、環状部材11の内周面11aと螺合する雄ネジ状に形成されている。環状部材11の内周面11aにインロー部4の外面4aが螺合するように環状部材11を回転させることにより、環状部材11がインロー部4に締結固定される。
【0023】
環状部材11の締結方向前方の端縁には、径方向外側へ突出する板状のリブ12が一体形成され、ホイールハブ11のフランジ部3には、リブ12が収容される凹部13が形成されている。環状部材11をインロー部4に締結すると、環状部材11は車幅方向内側へ移動し、リブ12が凹部13に収容されてフランジ部3と当接する。リブ12とフランジ部3との当接によって、環状部材11の移動が規制され、環状部材11がインロー部4の所定位置に取り付けられる。この取付状態で、環状部材11には、ホイール5,6の軸孔7,8が車幅方向外側から嵌合され、環状部材11の外周面(嵌合面)11bとホイール5,6の軸孔7,8の内周面7a、8aとが対向する。
【0024】
ホイールハブ1に対してホイール5,6を同心に支持するために、環状部材11の外周面11bとホイール5,6の内周面7a,8aとの隙間は、微小距離(例えば0.2〜0.6mm程度)に設定され、環状部材11の外周面11bとホイール5,6の内周面7a,8aとは近接又は接触する。なお、図4には両者が接触した状態が図示されている。
【0025】
本実施形態では、環状部材11の外周面11bによってホイール5,6がホイールハブ1に対して確実にセンタリングされて保持されるので、ホイール5,6とホイールハブ1の回転中心のずれの発生が抑制される。
【0026】
ホイールハブ1からホイール5,6を取り外す場合、ホイール5,6を車幅方向外側へ引っ張る。このとき、環状部材11の外周面11bに錆が発生し、環状部材11とホイールハブ1とが固着していると、ホイール5,6をホイールハブ1から容易に抜くことができない。
【0027】
このようなときには、冶具(例えば環状部材と係合する専用冶具)を用いて、環状部材11をハブ本体10に対して反締結方向へ回転させ、環状部材11を車幅方向外側へ移動させる。これにより、ホイール5,6は、環状部材11とともに車幅方向外側へ移動し、環状部材11がインロー部4から外れることによって、ホイールハブ1から離脱する。ホイール5,6から環状部材11を取り外す作業は、ホイールハブ1からの離脱後に、ハンマー等によってホイール5,6や環状部材11を叩く等によって行えばよい。なお、本実施形態では、環状部材11にリブ13が設けられているので、リブ13によってホイール5,6が車幅方向外側へ押圧されるので、錆による固着力の大きさによらず、ホイール5,6は環状部材11とともにインロー部4から外れる。
【0028】
従って、ホイール5,6が錆によってホイールハブ1に強固に固着している場合であっても、ホイール5,6をホイールハブ1から取り外すことができる。
【0029】
また、環状部材11を特殊な材料によって形成する必要がないので、コストの上昇を抑えることができる。
【0030】
次に、本発明の第2実施形態を図5及び図6を参照して説明する。なお、本実施形態は、環状部材を内側リング14と外側リング15とによって構成したものであり、第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
外側リング15は、拡径及び縮径を許容する切り欠き16を有し、僅かに拡径された状態で内側リング14の外側に重ねられる。
【0032】
内側リング14の内周面14aは、インロー部4の外面4aが配置される上記円周面とほぼ同径に設定されている。内側リング14の内周面14aは、雌ネジ状に形成され、各インロー部4の外面4aは、内側リング14の内周面14aと螺合する雄ネジ状に形成されている。内側リング14の内周面14aにインロー部4の外面4aが螺合するように内側リング14を回転させることにより、内側リング14がインロー部4に締結固定される。
【0033】
外側リング15の内径(内周面15aの径)は、内側リング14の外周面14bの外側に重なるように設定されている。内側リング14の外周面14bと外側リング15の内周面14aとは、内側リング14がインロー部4に締結固定された状態で車幅方向内側に向かって内径側へ傾斜するテーパ状に形成されて相互に面接触する。内側リング14の車幅方向外側の端縁には、外径側へ突出する突条17が形成されている。内側リング14に外側リング15を重ねた状態で、内側リング14をインロー部4に締結すると、両者の締結に伴って内側リング14の突条17が外側リング15の車幅方向外側の端部18を押圧し、両リング14,15が一体的に車幅方向内側へ移動する。締結が進むと、外側リング15の車幅方向内側の端部19がフランジ部3に当接して両リング14,15の移動が規制される。これにより、両リング14,15がインロー部4の所定位置に取り付けられる。この取付状態で、外側リング15には、ホイール5,6の軸孔7,8が車幅方向外側から嵌合され、外側リング15の外周面(嵌合面)15bとホイール5,6の軸孔7,8の内周面7a、8aとが対向する。
【0034】
本実施形態では、ホイール5,6をホイールハブ1に装着する場合、内側リング14を上記所定位置まで締め付けずに、上記所定位置よりも車幅方向外側に設定し、外側リング15を上記所定位置に設定する。この状態で、内側リング14は外側リング15に対して車幅方向外側にオフセットしているので、内側リング14の外周面14bと外側リング15の内周面14aのテーパ形状によって、外側リング15が上記取付状態よりも縮径した状態となる。従って、ホイール5,6の軸孔7,8に外側リング15を容易に挿入することができる。
【0035】
軸孔7,8を外側リング15に挿入し、ホイール5,6を外側リング15の最奥位置(フランジ部3と接する位置)まで移動させた後、内側リング14を締結方向に回転させる。これにより、内側リング14が車幅方向内側へ移動し、上記テーパ形状によって外側リング15が拡径され、内側リング14が上記所定位置に達したときに、ホイール5,6の軸孔7,8が外側リング15に嵌合した状態となる。
【0036】
錆によってホイールハブに固着したホイールを取り外す場合、内側リング14をハブ本体10に対して反締結方向へ回転させ、内側リング14を車幅方向外側へ移動させる。このとき、内側リング14と外側リング15とが錆によって固着して一体的に回転する場合には、第1実施形態と同様に、内側リング14がインロー部4から外れることによって、ホイール5,6がホイールハブ1から離脱する。一方、内側リング14と外側リング15とが相対回転可能な状態であり、内側リング14のみが車幅方向外側へ移動する場合には、内側リング14をインロー部4から外した後、外側リング15とホイール5,6とをホイールハブ1から取り外せばよい。また、内側リング14のみが移動した場合、内側リング14の外周面14bと外側リング15の内周面14aのテーパ形状によって外側リング15が縮径可能となるため、内側リング14をインロー部4から完全に離脱させる前であっても、外側リング15をホイール5,6とともにホイールハブ1から取り外す際に必要な力が低減され、ホイール5,6をホイールハブ1から外し易くなる。
【0037】
なお、上記実施形態では、リヤ側のホイールハブ1について説明したが、本発明はフロント側のホイールハブにも適用可能である。また、アルミニウム製のホイール5,6について説明したが、その材質は限定されるのもではなく、例えばアルミニウム製に比べて薄肉である鉄製のホイール5,6(図4中に二点鎖線で示す)であってもよい。また、環状部材締結部として、複数のインロー部9に代えて円筒状のボア部を設けてもよい。
【0038】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、様々な車両のホイールハブに適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1:ホイールハブ
2:ハブ軸部
3:フランジ部
4:インロー部(環状部材締結部)
4a:インロー部の外面
5,6:ホイール
7,8:軸孔
7a,8a:軸孔の内周面
10:ハブ本体
11:環状部材
11a:環状部材の内周面
11b:環状部材の外周面
12:リブ
13:凹部
14:内側リング
14a:内側リングの内周面
14b:内側リングの外周面
15:外側リング
15a:外側リングの内周面
15b:外側リングの外周面
16:切り欠き
17:突条
18、19:外側リングの端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸に支持されるハブ軸部と該ハブ軸部の回転軸の周囲に配置される環状部材締結部とを一体的に備えたハブ本体と、環状部材と、を備え、
前記環状部材締結部は、前記ハブ軸部の回転軸を中心とした円周面に沿った雄ネジ形状の外面を有し、
前記環状部材の内周面は、前記環状部材締結部の外面と螺合する雌ネジ形状を有し、
前記環状部材を前記環状部材締結部に螺合して締結すると、該環状部材が車幅方向内側へ移動して該環状部材締結部に取り付けられ、
前記環状部材が前記環状部材締結部に取り付けられた状態で、該環状部材にホイールの軸孔が車幅方向外側から嵌合される
ことを特徴とする車両のホイールハブ。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のホイールハブであって、
前記環状部材は、内側リングと、この内側リングの外側に重なる外側リングとを有し、 前記内側リングの内周面は、前記雌ネジ形状を有し、
前記ホイールの軸孔は、前記外側リングに嵌合される
ことを特徴とする車両のホイールハブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−11840(P2012−11840A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148479(P2010−148479)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)