説明

車両のロール感を評価する方法

【課題】精度良くかつ定量的に車両のロール感を評価する。
【解決手段】車両1を旋回させて、車両のロール感を評価する。車両1の中立状態から一方側に実舵角α°で旋回させた後、他方側に実舵角−α°で旋回させ、さらに前記中立状態まで旋回する旋回工程と、前記旋回工程中の車両のロール量の時間変化を示すロール波形を求める計測工程と、前記ロール波形からロール感を評価する評価工程とを含む。前記評価工程は、前記ロール波形から、一方側の最大ロール位置R1、他方側の最大ロール位置R2、及び、前記ロール波形を2回微分したときの解が0であるロール変曲点R3を求める。一方側の最大ロール位置R1からロール変曲点R3までの走行時間t1と、ロール変曲点R3から他方側の最大ロール位置R2までの走行時間t2との比t1/t2に基づいてロール感を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精度良くかつ定量的に車両のロール感を評価するロール感評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを含めた車両の操縦安定性の指標の一つとして、旋回時の車両のロール感が挙げられる。従来、車両のロール感を評価する方法として、屋外のテストコースを実車で旋回走行させ、ドライバーによる官能によってロール感を評価する評価方法が知られている。
【0003】
しかしながら、上述の手法では、個々のドライバーの感性によりロール感の評価が行われているため、評価結果が定量的でないという問題があった。関連する技術としては、下記の技術文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−227483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、車両を一方側及び他方側へ旋回させる旋回工程中の車両のロール波形から、一方側へのロール量が最大となる一方側の最大ロール位置、他方側へのロール量が最大となる他方側の最大ロール位置、及び、前記ロール波形を2回微分したときの解が0かつ一方側の最大ロール位置と他方側の最大ロール位置との間に位置するロール変曲点を求め、一方側の最大ロール位置からロール変曲点までの走行時間t1と、ロール変曲点から他方側の最大ロール位置までの走行時間t2との比に基づいてロール感を評価することを基本として、精度良くかつ定量的に車両のロール感を評価するロール感評価方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、車両を旋回させて、車両のロール感を評価するロール感評価方法であって、車両の前輪の実舵角が0°である中立状態から左または右の一方側に実舵角α°(α≠0)で旋回させた後、前記一方側とは逆向きの他方側に実舵角−α°で旋回させ、さらに前記中立状態まで旋回させる旋回工程と、前記旋回工程中の車両のロール量の時間変化を示すロール波形を求める計測工程と、前記ロール波形からロール感を評価する評価工程とを含み、前記評価工程は、前記ロール波形から、前記実舵角α°で旋回させたことによって前記一方側へのロール量が最大となる一方側の最大ロール位置、前記実舵角−α°で旋回させることによって前記他方側へのロール量が最大となる他方側の最大ロール位置、及び、前記ロール波形を2回微分したときの解が0かつ前記一方側の最大ロール位置と前記他方側の最大ロール位置との間に位置するロール変曲点を求め、前記一方側の最大ロール位置から前記ロール変曲点までの走行時間t1と、前記ロール変曲点から前記他方側の最大ロール位置までの走行時間t2との比t1/t2に基づいてロール感を評価することを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記評価工程は、前記比t1/t2が1.8以上であるときに良と評価する請求項1記載のロール感評価方法
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記旋回工程において、前記実舵角の時間変化を示す実舵波形は、正弦波との相関係数が0.95以上であり、前記実舵角α°は、0.05°〜1.55°であり、前記実舵角の角速度が、0.10〜3.10deg/秒である請求項1又は2記載のロール感評価方法
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両のロール感を評価するロール感評価方法では、車両の前輪の実舵角が0°である中立状態から左または右の一方側に実舵角α°(α≠0)で旋回させた後、前記一方側とは逆向きの他方側に実舵角−α°で旋回させ、さらに前記中立状態まで旋回させる旋回工程と、前記旋回工程中の車両のロール量の時間変化を示すロール波形を求める計測工程と、前記ロール波形からロール感を評価する評価工程とを含む。即ち、本発明のロール感評価方法は、車両を走行させることにより求められたロール波形を用いるため、精度良くロール感を評価出来る。
【0010】
また、前記評価工程は、前記ロール波形から、前記実舵角α°で旋回させたことによって前記一方側へのロール量が最大となる一方側の最大ロール位置、前記実舵角−α°で旋回させることによって前記他方側へのロール量が最大となる他方側の最大ロール位置、及び、前記ロール波形を2回微分したときの解が0かつ前記一方側の最大ロール位置と前記他方側の最大ロール位置との間に位置するロール変曲点を求め、前記一方側の最大ロール位置から前記ロール変曲点までの走行時間t1と、前記ロール変曲点から前記他方側の最大ロール位置までの走行時間t2との比t1/t2に基づいてロール感を評価する。このように、本発明のロール感評価方法は、ロール波形を解析して得られる走行時間の比に基づいてロール感を評価するため、定量的な評価が可能となる。また、ロール変曲点は、ロールの加速度が0になる点であって、ロール変曲点を境にロールの加速度の符号が変化する。従って、本発明の評価値となる前記比t1/t2は、車両のロールの収束状況を表す指標となるため、ロール感の評価に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態のロール感評価方法を説明するための車両の斜視図である。
【図2】操舵角センサの斜視図である。
【図3】ロール感が良い車両のロール波形、ロール感が悪い車両のロール波形及び実舵波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の車両のロール感を評価するロール感評価方法は、車両を旋回させてロール感を評価する方法であって、車両を一方側及び他方側へ旋回させる旋回工程と、前記旋回工程中のロール波形を求める計測工程と、前記ロール波形からロール感を評価する評価工程とを含んで構成される。このように、本発明のロール感評価方法は、車両を旋回させて求められたロール波形を用いるため、精度良くロール感を評価出来る。
【0013】
本発明において、ロール感の評価対象となる車両には、例えば、乗用車、トラック・バスなど自動二輪車を除く種々のカテゴリーの車両1が含まれ、これらの車両1には、夫々のカテゴリーの空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)2が装着される。
【0014】
前記旋回工程は、車両の操舵輪である前輪の実舵角が0°である中立状態から左または右の一方側に実舵角α°(α≠0)で車両を旋回させた後、前記一方側とは逆向きの他方側に実舵角−α°で車両を旋回させ、さらに前記中立状態まで旋回させる。即ち、本実施形態の旋回工程では、車両を、一方側への実舵角と他方側への実舵角とを等しい角度でS字旋回させている。なお、前記「実舵角」とは、の右前輪の実舵角であってもよいし、左前輪の実舵角であってもよいが、本明細書においては、左右輪の実舵角の平均値とする。
【0015】
また、本実施形態の旋回工程では、車両のロール感を適正に評価するため、前記実舵角α°は、0.05〜1.55°に設定されるのが望ましい。即ち、実舵角α°が小さくなると、車両のロール量が小さくなり、ロール感を適正に評価できないおそれがる。逆に、実舵角α°が大きくなると、車両の旋回角度が大きくなり、タイヤのグリップ力が悪化して、実舵角を制御できなくなるおそれがある。このため、実舵角α°は、より好ましくは0.6°以上が望ましく、またより好ましくは1.0°以下が望ましい。
【0016】
このような実舵角を測定する方法としては、例えば、車両に装着されているステアリングホイールの操舵角を計測し、この操舵角に、予め求めておいたステアリングの操舵角と車両の実舵角との比率を乗じることが挙げられる。
【0017】
また、操舵角を測定する装置としては、例えば、図2に示されるような、ステアリングホイールhに取り付けるタイプの周知の操舵角センサ4などが好適である。本実施形態の操舵角センサ4は、ステアリングホイールhに固定されるリング状の固定板bと、ステアリングホイールhの操舵角を検出する角度検出器(図示せず)と、該固定板bに接続されたセンサ用のステアリングホイールcとから構成される。
【0018】
また、旋回工程での走行条件として、図3に示されるように、実舵角の時間変化を示す実舵波形が、正弦波との相関係数が0.95以上となる正弦波状となるのが望ましい。即ち、旋回工程において、実舵波形と正弦波との相関性を高めることにより、ロール感を評価するロール波形の基準を統一し得る。この際、実舵角は、好ましくは0.10〜3.10deg/秒の角速度で変化されるのが望ましい。
【0019】
また、旋回工程の走行条件として、車両の速度は、安全性の確保と、実舵角の角速度を上述の範囲に容易に確保する観点より、130〜150km/hの範囲に限定されるのが望ましく、さらに好ましくは、138km/h以上が望ましく、また、さらに好ましくは142km/h以下が望ましい。
【0020】
前記計測工程では、図3に示されるように、上記旋回工程中の車両1のロール量の時間変化を示すロール波形が求められる。本実施形態のロール波形は、縦軸にロール量が、横軸に旋回時間(秒)が示される。なお、ロール量は、本実施形態では車両の前輪位置でのロール角(deg)で表される。
【0021】
ロール量(ロール角)を計測するロール量計測装置としては、例えば、前輪の車軸と路面との間の距離を計測する周知の車高センサ3と、該車高センサ3の信号をロール角に変換するロール角変換装置(図示せず)とからなるものが採用される。車高センサ3の配設位置は、特に限定されるものではないが、例えば、図1に示されるように、前輪に近い位置であって、車両の左右対称かつ路面からの高さが統一された位置に2個設けられるのが望ましい。そして、ロール角変換装置は、予めインプットされた車高センサ間3、3の水平距離を用いて、ロール角を演算しかつ出力しうる。なお、このような車高センサ3として、例えば、半導体式や超音波式などの車高センサ3が好適である。
【0022】
また、図3に示されるように、前記評価工程では、計測工程で求められたロール波形から、実舵角α°で旋回させたことによって一方側へのロール量が最大となる一方側の最大ロール位置R1、実舵角−α°で旋回させることによって他方側へのロール量が最大となる他方側の最大ロール位置R2、及び、ロール波形を2回微分したときの解が0かつ一方側の最大ロール位置R1と他方側の最大ロール位置R2との間に位置するロール変曲点R3が求められる。なお、前記最大ロール位置R1、R2は、ロール波形から直接的に得られる位置が採用される。また、ロール変曲点R3は、ロール波形を例えば、正弦関数で近似した近似関数から求められる。
【0023】
そして、一方側の最大ロール位置R1からロール変曲点R3までの走行時間t1と、前記ロール変曲点R3から他方側の最大ロール位置R2までの走行時間t2との比t1/t2が求められ、これに基づいてロール感が評価される。即ち、ロール変曲点R3は、ロールの加速度が0になる点であって、ロール変曲点R3を境にロールの加速度の符号が変化する。従って、本発明の走行時間の比t1/t2は、車両のロールの収束状況を表す指標となる。即ち、前記比t1/t2が小さくなると、ロールの収束が遅く感じられるため、ロール感が不良と判断される。逆に、前記比t1/t2が大きくなると、ロールの収束が早く感じられ、ロール感が良と判断される。従って、この比t1/t2を求めることでロール感の評価を定量的に行ない得る。
【0024】
発明者らは、タイヤの仕様を種々異ならせて、ロール感の評価テストを行った。その結果、前記比t1/t2が1.80以上であるときにロール感が良であることが知見された。なお、旋回工程での車両の走行条件を上述の範囲に規定した場合、前記比t1/t2が過度に大きくなることはなく、概ね3.0以下で収束することも知見した。なお、発明者らは、上述の評価テストから、前記比t1/t2が1.0以下であるときにロール感が不良であることを知見した。
【0025】
なお、図3には、ロール感の良いタイヤAとロール感の悪いタイヤBのロール波形が示される。タイヤAの走行時間の比t1’/t2’は、2.5、また、タイヤBの走行時間比t1/t2は、1.2である。
【0026】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0027】
本発明の効果を確認するために、横剛性が異なるサイズ175/65R15の12種類の各試供タイヤを、リムサイズ15×5JJのリムにリム組し、内圧200kPaで、排気量1300ccの前輪駆動車(トヨタ自動車株式会社 VITZ)の全輪に夫々装着して、車両のロール感が評価された(実施例1〜12)。評価方法は、ロール感に関する官能評価経験が10年以上のベテランドライバー10人によるロール感の官能評価がなされた。評価内容は、各人が、良又は不良を判断した。また、このとき旋回中のロール波形が求められ、該ロール波形から走行時間の比t1/t2が算出された。なお、車両の走行条件は以下の通りである。
前輪の操舵角:0.6〜1.0deg
操舵波形と正弦関数との相関係数:0.96〜0.98
走行速度:138〜142km/h
実舵角の角速度:1.1〜1.9deg/秒
テストの結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
テストの結果、走行速度の比t1/t2が1.8以上のとき、全てのドライバーがロール感を良と判定したことが確認できる。また、走行速度の比t1/t2が1.0以下のとき、全てのドライバーがロール感を不良と判定したことが確認できる。なお、車両やタイヤサイズを変更させて同様のテストを行ったが、上記と同じ効果が確認された。
【符号の説明】
【0030】
1 車両
R1 一方側の最大ロール位置
R2 他方側の最大ロール位置
R3 ロール変曲点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を旋回させて、車両のロール感を評価するロール感評価方法であって、
車両の前輪の実舵角が0°である中立状態から左または右の一方側に実舵角α°(α≠0)で旋回させた後、前記一方側とは逆向きの他方側に実舵角−α°で旋回させ、さらに前記中立状態まで旋回させる旋回工程と、
前記旋回工程中の車両のロール量の時間変化を示すロール波形を求める計測工程と、
前記ロール波形からロール感を評価する評価工程とを含み、
前記評価工程は、前記ロール波形から、前記実舵角α°で旋回させたことによって前記一方側へのロール量が最大となる一方側の最大ロール位置、
前記実舵角−α°で旋回させることによって前記他方側へのロール量が最大となる他方側の最大ロール位置、及び、
前記ロール波形を2回微分したときの解が0かつ前記一方側の最大ロール位置と前記他方側の最大ロール位置との間に位置するロール変曲点を求め、
前記一方側の最大ロール位置から前記ロール変曲点までの走行時間t1と、前記ロール変曲点から前記他方側の最大ロール位置までの走行時間t2との比t1/t2に基づいてロール感を評価することを特徴とするロール感評価方法。
【請求項2】
前記評価工程は、前記比t1/t2が1.8以上であるときに良と評価する請求項1記載のロール感評価方法
【請求項3】
前記旋回工程において、前記実舵角の時間変化を示す実舵波形は、正弦波との相関係数が0.95以上であり、
前記実舵角α°は、0.05°〜1.55°であり、
前記実舵角の角速度が、0.10〜3.10deg/秒である請求項1又は2記載のロール感評価方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44608(P2013−44608A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181813(P2011−181813)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)