説明

車両の窓部構造

【課題】小窓の近傍部にて発生する風切り音を効率的に抑制することができる車両の窓部構造を提供する。
【解決手段】車体側に設けた小窓9と、開閉可能なフロントドアに設けたドアミラー取付部の取付部本体25との間に、前記フロントドアを閉じた状態で車幅方向内側に向けて間隙63が形成される車両の窓部構造である。小窓9の外周には、周縁部材11が設けられ、該周縁部材11に車幅方向に沿って延びるリップ50を設け、このリップ50と該リップ50に対向する取付部本体25との距離を、車幅方向外側端が大きく、車幅方向内側端が小さくなるように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の窓部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フロントピラーの前部とフロントフェンダーの後端部上面との角部近傍に、所謂オペラウィンドウやクォータウインドウと呼ばれる小窓を配設した車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平6−25375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載された窓部構造においては、前記小窓の外周に沿ってモールが配設され、ドアを閉じたときに前記モールとドアのサッシュ(窓枠)との間に間隙が形成される。このため、車両が走行する際に走行風が前記間隙に入り込み、風切り音が発生するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、小窓の近傍部にて発生する風切り音を効率的に抑制することができる車両の窓部構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車体側に小窓を配設し、開閉可能なドアにドアミラー取付部を配設し、これらの小窓とドアミラー取付部との間に、前記ドアを閉じた状態で車幅方向内側に向けて間隙が形成される車両の窓部構造であって、前記間隙内に車幅方向に沿って延びるリップを設け、このリップと該リップに対向配置されたドアミラー取付部との断面幅を、車幅方向外側端が大きく、車幅方向内側端が小さくなるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両の窓部構造では、前記リップと該リップに対向配置されたドアミラー取付部との断面幅を、車幅方向外側端が大きく、車幅方向内側端が小さく形成されている。従って、車両走行に伴って発生する走行風が前記リップとドアミラー取付部との間隙に入り込むと、走行風の流速が徐々に低下すると共に圧力が大きくなる。このため、走行風による風切り音を効率的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態による窓部構造を適用した車両前部の側面図である。
【図2】図1のフロントドアを開いた状態を斜め後方から見た斜視図である。
【図3】図1のA−A線による断面図である。
【図4】図1のB−B線による断面図である。
【図5】図4の要部を拡大した断面図である。
【図6】リップとドアミラー取付部の取付部本体との間隙に走行風が流入する状態を示す断面図である。
【図7】本実施形態によるリップを設けた本発明例とリップを設けない比較例とについて、各周波数に対する騒音レベルを比べたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0010】
図1および図2に示すように、車両1の前部には、後方斜め上方に向けて延びるフロントピラー3が車体の左右両側に一対に配設されており、これら一対のフロントピラー同士3,3の間には、車幅方向に沿ってフロントウィンドウ5が配設されている。
【0011】
また、フロントピラー3の前側の下部には、フロントフェンダー7が配設されており、これらのフロントピラー3とフロントフェンダー7とによって画成される側面視略三角状の部位には、オペラウィンドウと呼ばれる小窓9が車体側に固定されている。具体的には、この小窓9は、外周に沿って配設された周縁部材11を介して車体側に取り付けられている。
【0012】
一方、前記フロントフェンダー7および小窓9の車両後方側には、フロントドア(ドア)13が開閉可能に設けられている。このフロントドア13は、下部に配置されたドア本体15と、該ドア本体15の上部に配置された窓枠17と、前記ドア本体15の前部に設けられたドアミラー取付部19と、前記ドア本体15にドアミラー取付部19を介して取り付けられたドアミラー21とを備え、前記窓枠17内には、ドアガラス23が昇降可能に設けられている。なお、前記ドアミラー取付部19は、ドア本体15に取り付けられた取付部本体25と該取付部本体25から車外側(車幅方向外側)に突出するミラーベース27とから一体形成され、該ミラーベース27にドアミラー21が回動可能に支持されている。
【0013】
図3に示すように、フロントピラー3は、アウターパネル29とインナーパネル31とレインフォースパネル33とから閉断面構造に形成されて、後端部には、車両前後方向に延びるフランジ部35が形成されている。また、小窓9の後端部に対応する部位には、アウターパネル37とインナーパネル39とレインフォースパネル40とから閉断面構造に構成された保持部材41が配設されて、該保持部材41の前端部には、車両前後方向に延びるフランジ部45が形成されている。
【0014】
そして、前記フロントピラー3のフランジ部35と保持部材41のフランジ部45とに跨って前記小窓9が配設されている。具体的には、小窓9には外周に沿って周縁部材11が結合されており、該周縁部材11の裏面には車内側(車幅方向内側)に突出する当接ラバー47が設けられ、該当接ラバー47が接着材によって前記フロントピラー3のフランジ部35と保持部材41のフランジ部45とに接合されている。
【0015】
また、図1に示すように小窓9の周縁部材11のうち点Pから点Qを経て点Rまで至る後部側は、図3に示すように小窓9の裏面に沿って延びて該裏面に接合された保持面49と、該保持面49の外周縁から車内側に向けて延びるリップ50と、前記保持面49に設けられた当接ラバー47とから構成されている。
【0016】
そして、図4および図5に示すように、前記ドアミラー取付部19を構成する取付部本体25は図1の点Qから点Rまで至る部位において、車外側に配置されたアウター部材51と、車内側に配置されたインナー部材53と、これらのアウター部材51およびインナー部材53の間に配置した中間部材55と、を備えている。また、周縁部材11に一体形成されたリップ50は、車外側の端部に配置された付け根部57から折曲部59まで略直線状に延び、該折曲部59から周縁部材11の外周側(下側)に屈曲して略直線状に先端部の突起部61まで延びている。そして、リップ50の厚さは、付け根部57から折曲部59を介して突起部61に向かうにつれて、即ち、車幅方向内側に向かうほど小さくなるように形成されている。なお、前記先端部に配置された突起部61は、断面略円弧状に形成され、取付部本体25のインナー部材53側に向けて凸状に突出している。
【0017】
これによって、リップ50と取付部本体25との間には、フロントドア13が閉じた状態で、所定の間隙63が画成される。具体的には、リップ50の付け根部57と取付部本体25のアウター部材51とによって間隙63の入口部65が画成され、リップ50の折曲部59の近傍と中間部材55とによって間隙63の中間部67が画成され、リップ50の突起部61とインナー部材53とによって出口部69が画成される。そして、間隙63の断面幅は、前記入口部65が最も大きく、中間部67に向かうにつれて徐々に小さくなり、出口部69が最も小さく形成されている。即ち、リップ50と該リップ50に対向する取付部本体25との距離は、車幅方向外側端が最も大きく、車幅方向内側端が最も小さくなるように形成されている。
【0018】
ここで、ベルヌーイの定理について簡単に説明する。
【0019】
一般に、流体が流れるときには、基準面からの高さによる位置エネルギーと速度による運動エネルギーと圧力エネルギーとの総量が一定に維持される。本実施形態における走行風の場合は、前記位置エネルギーの変化は無視できるため、走行風の運動エネルギー(動圧)および圧力エネルギー(静圧)の総量が一定となる。従って、走行風の流線に沿った流速をv、密度をρ、圧力をpとすると、(1/2)・ρ・v+p=(一定)となる。
【0020】
本実施形態では、図6に示すように、車両走行によって発生する走行風Wが前記間隙63に流入するときは、まず、入口部65から間隙63内に入り込み、中間部67まで流れる。この中間部67においてリップ50の外周側に若干流れが変わったのち、出口部69まで流れる。しかし、出口部69は、間隙63の断面幅が最も小さく形成された、所謂、よどみ点になっているため、走行風Wの流れがほぼ止まって、運動エネルギー(動圧)がほぼゼロとなる。従って、間隙63の出口部69では、流体である走行風Wのエネルギーがほぼ全て圧力エネルギー(静圧)になるため、突起部61が遮音壁の作用をして走行風Wによる風切り音を大幅に低減することができる。
【0021】
また、図7に示すように、前述したリップ50を設けた本発明例と、リップ50を設けない比較例とを比べると、周波数が1000Hzを超えた範囲では、本発明例の方が騒音レベルが低下することが判明した。さらに、車両走行中における会話明瞭指数(AI値)について、本発明例と比較例とを比べると、本発明例の方が比較例よりも3程度向上することが判明した。
【0022】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0023】
(1)本実施形態に係る車両の窓部構造では、前記リップ50と該リップ50に対向配置されたドアミラー取付部19の取付部本体25との距離を、車幅方向外側端が大きく、車幅方向内側端が小さく形成されている。従って、車両走行に伴って発生する走行風Wが前記リップ50と取付部本体25との間隙63に入り込むと、前述したベルヌーイの定理より、走行風Wの流速が徐々に低下して間隙63の出口部69において最小になると共に圧力が最大になる。このため、走行風Wによる風切り音を効率的に低減させることができる。
【0024】
(2)前記リップ50における車幅方向内側端に、前記ドアミラー取付部19における取付部本体25に向けて突出する突起部61を設けている。このため、間隙63における出口部69の断面幅を簡易な構造で最小にできると共に、リップ50の剛性を向上させることができる。なお、リップ50が保持部材41の車幅方向外側に配置されているため、車両外側から間隙63を見た場合に、保持部材41が隠れるので、外観上の見映えが向上する。
【0025】
(3)前記リップ50の厚さを、車幅方向内側に向かうほど小さく形成しているため、リップ50の全体としての重量を軽減することができる。
【0026】
(4)前記小窓9の外周に沿って周縁部材11を設け、該周縁部材11を介して前記小窓9を車体側に取り付けると共に、前記周縁部材11に前記リップ50を一体形成している。このため、リップ50の保持剛性が向上すると共に、リップ50を別途に取り付ける作業工数を削減することができる。
【符号の説明】
【0027】
9…小窓
11…周縁部材
13…フロントドア(ドア)
19…ドアミラー取付部
50…リップ
61…突起部
63…間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に設けた小窓と、開閉可能なドアに設けたドアミラー取付部との間に、前記ドアを閉じた状態で車幅方向内側に向けて間隙が形成される車両の窓部構造であって、
前記間隙内に車幅方向に沿って延びるリップを設け、このリップと該リップに対向するドアミラー取付部との距離を、車幅方向外側端が大きく、車幅方向内側端が小さくなるように構成したことを特徴とする車両の窓部構造。
【請求項2】
前記リップにおける車幅方向内側端に、前記ドアミラー取付部に向けて突出する突起部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両の窓部構造。
【請求項3】
前記リップの厚さを、車幅方向内側に向かうほど小さく形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の窓部構造。
【請求項4】
前記小窓の外周に沿って周縁部材を設け、該周縁部材を介して前記小窓を車体側に取り付けると共に、前記周縁部材に前記リップを設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の窓部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−255713(P2011−255713A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129659(P2010−129659)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)