説明

車両の駆動力制御装置

【課題】車両の諸元の変化を検出することなく、車両の諸元の変化を考慮した駆動力を制御することができる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両のスタビリティファクタを目標値に追従させる制御量と、その車両に要求される要求加速度とに基づいて駆動力を制御する旋回性向上制御を備えた車両の駆動力制御装置において、所定の範囲内で変化させた車両の諸元に基づく車両性能を推測する車両性能推測手段(ステップS1)と、該車両性能推測手段によって推測された車両性能が、予め定められた車両性能を得られるか否かを判断する判断手段(ステップS2)とを備え、前記判断手段により予め定められた車両性能を得られないと判断された場合に、前記旋回性向上制御を実行しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の旋回時の駆動力を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の旋回性能には、スタビリティファクタが大きく影響することが知られている。そのスタビリティファクタは、車両の重量、重心から前輪および後輪までの距離およびホイールベースなどの車両の諸元に基づくパラメータと、車速や加速度あるいは操舵角度などの走行状態に基づくパラメータとにより算出される。これらのパラメータから算出されるスタビリティファクタに基づき駆動力を制御することにより旋回時にオーバーステアになったりアンダーステアになったりすることを抑制することができる。
【0003】
一方、スタビリティファクタは、上述したように車両の諸元に基づくパラメータを含むものであり、車両毎に生じる不可避的な個体差により、設計値を使用して算出されたスタビリティファクタと、実際のスタビリティファクタとが相違してしまう可能性がある。そのため、特許文献1に記載された装置は、工場出荷時に車両を走行させ、その走行特性から算出されたスタビリティファクタと、予めマップなどに格納されているスタビリティファクタ、すなわち設計値を利用して算出されるスタビリティファクタとを比較し、それらスタビリティファクタが所定値以上乖離している場合には、スタビリティファクタを走行特性から算出されたスタビリティファクタに置き換えるように構成されている。
【0004】
また、特許文献2に記載された装置は、車両の重量や重心の変化に影響されずに走行安定性を向上させるために、ステアリングに設けられたアシストモータの制御量を、検出されたスタビリティファクタに基づいて設定するように構成されている。具体的には、検出されたスタビリティファクタから位相補償定数信号とゲイン補償定数信号とを演算し、その位相補償定数信号で設定したローパスフィルタをアシストモータの角速度に乗じて位相補償信号とし、また、ゲイン補償定数信号で設定された比例ゲインを位相補償信号に乗じて安定化補償信号とすることにより、スタビリティファクタに安定性補償値を設定して、アシストモータのトルクを補正するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−131052号公報
【特許文献2】特開2009−262792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているように、工場出荷時に車両を走行させ、その走行特性に応じてスタビリティファクタを置き換えることにより、車両の個体差による走行安定性への影響を抑制することができる。しかしながら、乗員や積載物の重量あるいはそれらに基づく車両の重心の変化、またはタイヤの経時劣化などにより車両の諸元が変化することによって、スタビリティファクタは変化するため、単にスタビリティファクタを置き換えて個体差による走行安定性の影響を抑制したとしても、車両の使用状態に応じた諸元の変化に基づいて走行安定性を十分に抑制することができない可能性があった。また、車両の諸元の変化を検出するためには、それらを検出するためのセンサを更に設ける必要があるので、車両の生産コストが増大してしまう可能性があった。
【0007】
この発明は上述した事情を背景としてなされたものであって、車両の諸元の変化を検出することなく、車両の諸元の変化を考慮した駆動力を制御することができる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両のスタビリティファクタを目標値に追従させる制御量と、その車両に要求される要求加速度とに基づいて駆動力を制御する旋回性向上制御を実行する車両の駆動力制御装置において、車両のいずれか一つの諸元を所定の範囲内で変化させ、その所定の範囲内で変化させた諸元の元で前記旋回性向上制御を実行した場合の車両性能を推測する車両性能推測手段と、該車両性能推測手段によって推測された車両性能が、予め定められた車両性能を得られるか否かを判断する判断手段とを備え、前記判断手段により予め定められた車両性能を得られないと判断された場合に、前記旋回性向上制御を実行しないことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記判断手段により予め定められた車両性能を得られないと判断された場合に、前記車両の諸元の設計値を変更することにより、前記予め定められた車両性能を得られるか否かを判断する他の判断手段を更に備え、該他の判断手段により、前記予め定められた車両性能を得られると判断された場合に、前記車両の諸元の設計値を前記予め定められた車両性能を得られる設計値に変更して、該変更された設計値に基づいて前記制御量を算出することを特徴とする車両の駆動力制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、車両のスタビリティファクタを目標値に追従させる制御量と、その車両に要求される要求加速度とに基づいて駆動力を制御する旋回性向上制御を備えているので、旋回時における車両の走行安定性を向上させることができるとともに、加速性能や制動性能などの車両性能を向上させることができる。また、車両の諸元のいずれか一つの諸元を所定の範囲内で変化させ、その所定の範囲内で変化させた諸元の元で旋回性向上制御を実行した場合の車両性能を推測する車両性能推測手段を備えており、その車両性能推測手段により車両性能が予め定めた車両性能を得ることができないと判断された場合には、旋回性向上制御を実行しないので、車両の使用状態に応じて旋回性向上制御を実行することにより予め定めた車両性能より低下してしまうことを、車両の諸元の変化を検出するセンサなどを設けずに判断することができるとともに、その車両性能の低下を未然に防止することができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、車両の諸元を所定の範囲内で変化させて車両性能を推測し、その車両性能が予め定めた車両性能を得ることができない場合に、車両の諸元の設計値を変化させることにより、上記予め定めた車両性能を得ることができるか否かを判断する。そして、車両の諸元の設計値を変化させることにより予め定めた車両性能を得られる場合には、車両の諸元の設計値を変更して車両のスタビリティファクタを目標値に追従させる制御量を算出する。したがって、請求項2の発明によれば、車両性能が予め定めた車両性能を得ることができない場合であっても、車両の諸元の設計値を変更することにより予め定めた車両性能を得ることができる場合には、その車両の諸元の設計値を変更して上記制御量を算出するので、旋回性向上制御を実行することによる車両性能への影響を抑制することができるとともに、旋回性向上制御の実行の機会が減少してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係る駆動力制御装置の制御を説明するためのフローチャートである。
【図2】車両の諸元と車両性能との関係を示すグラフであり、その車両性能の一部がしきい値以下となる場合を示すグラフである。
【図3】車両の諸元と車両性能との関係を示すグラフであり、その車両性能の全てがしきい値以上となる場合を示すグラフである。
【図4】車両の諸元の設計値を変化させた場合における車両の諸元と車両性能との関係を示すグラフであり、その車両性能の一部がしきい値以下となる場合を示すグラフである。
【図5】車両の諸元の設計値を変化させた場合における車両の諸元と車両性能との関係を示すグラフであり、その車両性能の全てがしきい値以上となる場合を示すグラフである。
【図6】この発明で対象とする車両の駆動系統および制御系統を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明は、車両の駆動力を制御するように構成された装置であり、その車両は、内燃機関やモータなどを動力源とした前輪駆動車や後輪駆動車あるいは四輪駆動車などであってよい。エンジンによって後輪を駆動する二輪駆動車の駆動系統および制御系統の一例を図6にブロック図で示してある。エンジン1の出力側に変速機2が連結され、その変速機2から出力された動力をデファレンシャル(終減速機)3を介して左後輪4および右後輪5に分配して伝達するように構成されている。これらの後輪4,5の回転速度(回転数)を検出する車輪速センサ6,7が設けられ、また車体に生じるヨーを検出するヨーレートセンサ8や車輪の操舵角度を検出する操舵センサ9が設けられている。
【0014】
また、車両の全体の総合的な制御を行うマイクロコンピュータを主体とする車両用電子制御装置(車両ECU)10が設けられている。その車両用電子制御装置10は、主として、駆動力を制御するように構成されており、前述した車輪速センサ6,7、ヨーレートセンサ8、操舵センサ9などが出力する検出信号、前後加速度、横加速度、アクセル開度、ブレーキ信号、路面摩擦係数などの各種の検出信号が入力されており、また車体重量やホイールベース、車体の重心から前後輪の軸までの距離(前後軸間距離)、前後輪のコーナリングスティッフネスなどのデータおよびその他の予め設定した定数やマップが車両用電子制御装置10に記憶させられている。そして、車両用電子制御装置10は、これらの検出信号やデータ、マップなどに基づいて演算を行って目標スタビリティファクタや目標駆動力などを求め、必要な制御信号を出力するように構成されている。その制御信号が入力されてエンジン1や変速機2を制御するマイクロコンピュータを主体とするエンジン/変速機用電子制御装置(エンジン/TM ECU)11が設けられている。
【0015】
上述した車両に要求される加速性能や制動性能などの車両性能を維持しつつ、旋回性能を向上させる場合には、車両が旋回走行することによる走行抵抗などを考慮しなければならない。すなわち、アクセルやブレーキの操作に基づいて算出もしくは決定される要求加速度に、車両が旋回走行することによる走行抵抗などを考慮した制御量を加算した加速度となるように駆動力あるいは制動力を出力することにより、運転者が要求する加速性能や制動性能などの車両性能を得ることができる。ここで、車両が旋回走行している状態で加速要求がある場合の駆動力の制御について説明する。式(1)は、運転者が要求する加速性能を得るために使用される演算式であり、式(1)により算出された加速性能となるように駆動力が制御される。
加速性能GxB=アクセル要求加速度Gxbase +制御量ΔGx …(1)
【0016】
なお、式(1)におけるアクセル要求加速度Gxbase はアクセル操作に基づく要求加速度、すなわち、アクセル開度と車速とに基づいて予め用意されたマップから設定される加速度である。また、制御量ΔGx は、旋回走行時に検出された操舵角度、ヨーレート、車速、ステアリングギヤ比により算出される実際のスタビリティファクタを過渡的な目標スタビリティファクタに追従させるための加速度の制御量である。すなわち、車両が旋回走行することによる走行抵抗などを考慮しつつ、車両の旋回性能を維持するための加速度の制御量である。
【0017】
その制御量ΔGx は、以下に示す式(2)により算出することができる。
【数1】

【0018】
なお、式(2)におけるVは上記車輪速センサ6,7により検出された車輪速に基づいて算出される車速(m/s)であり、Gxini はその車速Vの変化率から算出することができる初期車両加速度(m/s)であり、Aは目標ヨーゲイン増幅率(倍)である。また、kh0 はスタビリティファクタの定常項(s/m)であり、kh1 はスタビリティファクタGx の係数(s/m)であり、kh2 はスタビリティファクタGx の係数(s/m)であり、khreal はヨーレートセンサ8により検出されたヨーレート(rad/s)や操舵センサ9により検出された操舵角度(rad)などに基づいて算出される実際のスタビリティファクタ(s/m)であり、それらkh0 、kh1 、kh2 、khreal は、下記の式(3)ないし式(6)により求めることができる。
【数2】

【0019】
なお、式(3)ないし式(6)におけるMは車両重量(kg)、Lはホイールベース(m)、Lf およびLr は車両の重心から前輪および後輪までの距離(m)、Kf0 およびKr0 は前輪および後輪の一輪あたりのコーナリングスティフネス(N/rad)、∂Kf /∂W および∂Kr /∂W は前輪および後輪の正規化コーナリングスティフネス(1/rad)、hは重心高さ(m)であり、これらのパラメータは、車両を構成する各要素、すなわち車両の諸元に基づくものである。また、式(3)ないし式(6)におけるVは車速(m/s)、Gxini は初期車両加速度(m/s)、δは操舵角度(rad)、γはヨーレート(rad/s)であり、これらのパラメータは、車両が走行している状態に応じて常時変化するものであり、車両に搭載された各センサ6,7,8,9によって検出することができる。さらに、式(3)ないし式(6)におけるτは前輪の駆動力の分配比、μは路面とタイヤとの摩擦係数、gは重力加速度(m/s)、Aは目標ヨーゲイン増幅率(倍)、nはステアリングギヤ比である。
【0020】
一方、上述した制御量ΔGx は、通常、車両の重量や重心位置あるいはコーナリングスティフネスなどの諸元の設計値を利用して算出されるが、車両に乗車している乗員数や積算量などの車両の使用状態に応じて、あるいはタイヤの経時劣化に応じて諸元が変化してしまい、その結果、車両の諸元が設計値から乖離している場合に、車両性能や旋回性能が低下してしまう可能性がある。そのため、この発明に係る制御装置は、車両の諸元が設計値から乖離することにより車両性能が予め定めた車両性能を得ることができるか否かを判断することによって、運転者のアクセルやブレーキの操作に基づく要求加速度Gxbase に制御量ΔGx を加えた車両性能GxB に基づいて駆動力を制御する旋回性向上制御を実行するか否かを判断するように構成されている。その制御の一例として、この発明における「車両のいずれか一つの諸元」に相当する『車両重量』が変化することによる、この発明における「車両性能」に相当する『加速性能』の変化を推測し、その推測された加速性能に応じて旋回性向上制御を実行するか否かを判断する制御を例に挙げて説明する。図1は、その制御例を説明するためのフローチャートであり、極短時間に繰り返し実行される。
【0021】
まず、車両重量が想定される範囲内で変化した場合の加速性能を推測するために、実際の車両重量Mreal の水準を振り、旋回性向上制御を実行した場合の加速性能GxB を算出する。(ステップS1)。すなわち、車両重量が変化すると想定される最下限と最上限との範囲内の全ての車両重量Mreal における加速性能GxB を式(1)に基づいて算出する。具体的には、式(2)におけるkh0 、kh1 、kh2 における車両重量を変数として、車両重量を除く他の諸元の設計値と各センサ6,7,8,9により検出された値とに基づいて全ての車両重量Mreal における制御量ΔGx を算出する。そして、車両重量を変数として算出された制御量ΔGx に、アクセル開度と車速とに基づいてマップから設定されるアクセル要求加速度Gxbase を加算して加速性能GxB を求める。なお、ステップS1が、この発明における『車両性能推測手段』に相当する。
【0022】
ついで、ステップS1で算出された全ての加速性能GxB が、予め定められた加速性能のしきい値GxA 以上か否かが判断される(ステップS2)。なお、ステップS2におけるしきい値GxA は、運転者が加速不足を感じない程度の加速度であって、実験やシミュレーションなどにより予めマップとして用意されたものであってもよく、アクセル開度に基づいて算出されるものであってもよい。図2および図3は、車両重量Mreal に対する加速性能の変化を示したものであり、図2はステップS1で算出された加速性能GxB のうち、車両重量Mreal が大きい場合に加速性能GxB がしきい値GxA 以下となる状態、すなわちステップS2で否定的に判断される場合を示し、図3はステップS1で算出された全ての加速性能GxB がしきい値GxA 以上である状態、すなわちステップS2で肯定的に判断される場合を示している。なお、図2および図3では、便宜上、車両重量Mreal の増大に伴って加速性能GxB が比例的に減少するように示しているが、ステップS2は、式(1)で算出した車両重量Mreal に応じた加速性能GxB に基づいて判断するものであって、特に図2および図3に示すように加速性能GxB と車両重量Mreal との関係が比例関係となるものに限定されない。また、ステップS2での判断が、この発明における『判断手段』に相当する。
【0023】
ステップS2で肯定的に判断された場合には、実際の車両重量Mreal に応じて加速性能GxB がしきい値GxA 以下となることがない、すなわち運転者が加速不足を感じることがないので、車両重量の設計値Mspec0 を利用して旋回性向上制御を実施する(ステップS6)。具体的には、車両重量の設計値Mspec0 を利用して式(1)で算出されるアクセル要求加速度Gxbase および制御量ΔGx に基づいて加速性能GxB を算出し、その加速性能GxB となる駆動力、すなわちその算出された加速性能GxB に車両重量Mspec0 を積算した駆動力を出力してこの制御を一旦終了する。なお、ステップS7では、車両重量の設計値を初期値に戻すとされているが、これは後述するように車両重量の設計値を変化させる場合に、その車両重量の設計値をリセットするものである。
【0024】
また、ステップS2で否定的に判断された場合、すなわちステップS1で算出された加速性能GxB のうち、いずれかの車両重量Mreal における加速性能GxB がしきい値GxA 以下となり運転者が加速不足を感じる可能性がある場合には、車両重量の設計値および実施の車両重量Mreal の水準を振り、旋回性向上制御を実行した場合の加速性能GxB を算出する(ステップS3)。具体的には、車両重量の設計値を上記ステップS1における実際の車両重量の水準を振った範囲内と同様に、車両重量Mreal が変化すると推定される最下限と最上限との範囲内で変化させるとともに、実際の車両重量Mreal の水準をステップS1と同様に振る。言い換えると、車両重量Mreal が変化すると推定される最下限と最上限との範囲内のそれぞれの車両重量に設計値を変化させ、その変化させた車両重量の設計値毎に実際の車両重量Mreal を、その車両重量が変化すると推定される最下限と最上限との範囲内で変化させる。これは、車両重量の設計値を変化させることにより、ヨーレートセンサ8や操舵センサ9により検出された信号に基づいて算出されるあるいはその信号に基づいてマップなどにより設定されるヨーレートや操舵角度などが変化することにより、式(2)におけるkhreal の値が変化し、そのkhreal の変化に基づいて制御量ΔGx が変化するためである。したがって、車両重量の設計値を変化させることにより、図4あるいは図5に示すように車両重量Mreal の変化に対する加速性能GxB の変化率もしくは絶対値が変化してステップS2で否定的に判断された場合であっても、ステップS3で肯定的に判断される場合がある。なお、図4や図5に示すように車両重量Mreal が大きくもしくは小さくなるにつれて加速性能GxB が低下する場合には、ステップS3では、車両重量Mreal の上限値もしくは下限値に基づく加速性能GxB がしきい値GxA 以上となる車両重量の設計値Mspec1 を算出し、実際の車両重量Mreal の水準を振らなくてもよい。
【0025】
そして、ステップS3で算出された加速性能GxB のうち、実際の車両重量Mreal の水準を振った加速性能GxB の全てがしきい値GxA 以上となる車両重量の設計値Mspec1 が存在するか否かを判断する(ステップS4)。図4は、車両重量の設計値を変化させたとしても、実際の車両重量Mreal の水準を振って算出される加速性能GxB のいずれかがしきい値GxA 以下となる状態、すなわちステップS4で否定的に判断される状態を示し、図5は、車両重量の設計値を変化させることにより、実際の車両重量Mreal の水準を振って算出される加速性能GxB がしきい値GxA 以上となる状態、すなわちステップS4で肯定的に判断される状態を示している。なお、ステップS4での判断が、この発明における『他の判断手段』に相当する。
【0026】
ステップS4で否定的に判断された場合は、旋回走行状態に基づく制御量ΔGx をアクセル要求加速度Gxbase に加算する旋回性向上制御を実行してしまうと、運転者が加速不足を感じてしまう可能性があるので、特に制御することなく、言い換えるとアクセル要求加速度Gxbase に旋回走行状態に基づく制御量ΔGx を加算する旋回性向上制御を実行せずに、そのままこの制御を一旦終了する。それとは反対に、ステップS4で肯定的に判断された場合は、車両重量の初期の設計値Mspec0 を、実際の車両重量Mreal の水準を振って算出された加速性能GxB の全てがしきい値GxA 以上となる車両重量の設計値Mspec1 に変更する(ステップS5)。なお、実際の車両重量Mreal の水準を振って算出された加速性能GxB の全てがしきい値GxA 以上となる車両重量の設計値Mspec1 が複数ある場合には、車両重量の初期の設計値Mspec0 からの変化量が少ない車両重量の設計値Mspec1 に変更することが好ましい。
【0027】
ついで、変更された車両重量の設計値Mspec1 に基づいて制御量ΔGx を算出し、その算出された制御量ΔGx とアクセル要求加速度Gxbase とを加算して算出された加速性能GxB となる駆動力、すなわち、その算出された加速性能GxB に車両重量Mspec1 を積算して算出される駆動力を出力する(ステップS6)。そして、変更した車両重量の設計値Mspec1 を初期の設計値Mspec0 に戻して(ステップS7)、この制御を一旦終了する。
【0028】
上述したように車両重量Mreal を振って加速性能GxB がしきい値GxA 以下となる場合があるか否かを判断することにより、車両重量Mreal の変化を検出するためのセンサを設けることなく、旋回性向上制御を実行した場合に加速不足となる可能性があるか否かを判断することができる。また、加速性能GxB がしきい値GxA 以下となる場合には、旋回性向上制御を実行しないので、旋回性向上制御を実行することによる加速性能GxB の低下を未然に防止することができる。さらに、車両重量Mreal に応じて加速性能GxB がしきい値GxA 以下となる場合であっても、車両重量の設計値を変更することにより加速性能GxB がしきい値GxA 以上となる場合には、その変更された車両重量の設計値Mspec1 に基づいて制御量ΔGx を算出して旋回性向上制御を実行するので、旋回性向上制御を実行することによる車両性能GxB への影響を抑制することができるとともに、旋回性向上制御を実行する機会が減少してしまうことを抑制することができる。
【0029】
なお、上述した制御例では、車両の諸元として車両重量を例に挙げたが、特にこれに限定されず、例えば車両の重心位置やホイールベースあるいはタイヤ特性に基づくコーナーリングスティフネスなどであってもよい。また、車両性能として加速性能に限らず制動性能であってもよい。
【符号の説明】
【0030】
1…エンジン、 2…変速機、 3…デファレンシャル(終減速機)、 4…左後輪、 5…右後輪、 6,7…車輪速センサ、 8…ヨーレートセンサ、 9…操舵センサ、 10…車両用電子制御装置(車両ECU)、 11…エンジン/変速機用電子制御装置(エンジン/TM ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のスタビリティファクタを目標値に追従させる制御量と、その車両に要求される要求加速度とに基づいて駆動力を制御する旋回性向上制御を実行する車両の駆動力制御装置において、
車両のいずれか一つの諸元を所定の範囲内で変化させ、その所定の範囲内で変化させた諸元の元で前記旋回性向上制御を実行した場合の車両性能を推測する車両性能推測手段と、
該車両性能推測手段によって推測された車両性能が、予め定められた車両性能を得られるか否かを判断する判断手段と
を備え、
前記判断手段により予め定められた車両性能を得られないと判断された場合に、前記旋回性向上制御を実行しないことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記判断手段により予め定められた車両性能を得られないと判断された場合に、前記車両の諸元の設計値を変更することにより、前記予め定められた車両性能を得られるか否かを判断する他の判断手段を更に備え、
該他の判断手段により、前記予め定められた車両性能を得られると判断された場合に、前記車両の諸元の設計値を前記予め定められた車両性能を得られる設計値に変更して、該変更された設計値に基づいて前記制御量を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86733(P2013−86733A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231237(P2011−231237)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】