説明

車両リフトの落下防止装置

【課題】上昇時の係合爪とラックとの衝撃を軽減し、衝撃音を小さくすると共に、係合爪とラックの摩耗を低減する車両リフトの落下防止装置を提供する。
【解決手段】リフトを支持部により垂直方向に移動可能に支持する車両リフトの落下防止装置20であって、支持部に隣接して垂直方向に延びるラック21と、ラックに対向して支持部に揺動可能に設けられラックに係合する係合部材22とから成り、係合部材が、揺動軸22aよりラック側に延びる係合爪22bと、係合爪22bの反対側に延びるアーム部22cと、係合爪がラックの歯間に係合するようにアーム部を下方へ付勢する引張りバネ22dと、アーム部の下方への揺動を規制するストッパ22eとを備え、車両リフトの係合部材のアーム部がそのストッパに当接する領域にオイルダンパ22fを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両を垂直方向に昇降させる車両整備用のリフトに係り、特にリフトの落下を防止するようにしたラック及び係合部材から成る落下防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような車両整備用のリフトは、例えば図11に示すように、車両を搭載する搬器2とこの搬器2を支持する支持部3と落下防止装置4とから構成されている。
【0003】
ここで、支持部3は、床面より下方に固定されたベース部3aに対して、上下方向に移動可能に支持された支柱3bから構成されており、この支柱3bは、図示しない駆動機構により上下方向に移動されるようになっている。
【0004】
落下防止装置4は、図12に詳細に示すように、支持部3のベース部3a側に設けられたラック5と、支柱3b側に設けられた係合部材6と、解放用シリンダ7と、から構成されている。
【0005】
ラック5は、支持部3の可動部材である支柱3bの移動方向に沿って、即ち垂直方向に直線状に延びるように、さらに支柱3bの上下動に伴なう係合部材6の移動範囲全体に亘って配置されている。
【0006】
これに対して、係合部材6は、ラック5に対して横向きに延びる揺動軸6aの周りに揺動可能に支持されており、この揺動軸6aよりラック5側にてやや下側で外方へ突出する係合爪6bと、この係合爪6bの反対側に延びるアーム部6cと、このアーム部6cを下方へ付勢する引張りバネ6dと、このアーム部6cの下方への移動を規制するストッパ6eと、から構成されている。
【0007】
係合爪6bは、係合部材6が引張りバネ6dの張力により揺動軸6aの周りに揺動したとき、対向するラック5の歯間に係合する。その際、係合爪6bは、アーム部6cがストッパ6eに当接することにより、ラック5の歯間の底部にまでは到達しないように、例えば5±2mm程度だけラック5の歯間に嵌入するようになっている。
【0008】
引張りバネ6dは、アーム部6cを下方へ付勢することにより、係合爪6bをラック5の歯間に押動して嵌入させる。支持部3の支柱3bが上方へ移動するときには、係合爪6bがラック5の歯の先端によって相対的に下方に押動されて、係合部材6の揺動及び支柱3bの上方への移動を許すように、バネ6dの付勢力が選定されている。
【0009】
ストッパ6eは、ゴムストッパとして構成されており、係合部材6のアーム部6cの下方への移動を規制することにより、支持部3の支柱3bが下方への荷重を受けたとき、ラック5の歯から係合爪6bを介してアーム部6cに作用するモーメントに対抗するようになっている。
【0010】
解放用シリンダ7は、搬器2を下降させる場合に、その可動部7aが、上方へ移動することにより、係合部材6のアーム部6cを上方へ押し上げて、係合爪6bをラック5の歯間から退避させて、支持部3の支柱3bそして搬器2の下降を許すようになっている。
【0011】
このような構成の車両リフト1によれば、支持部3の支柱3bが上昇するときには、図13に示すように、支柱3bの上昇に伴って、係合部材6の係合爪6bがラック5の歯により引張りバネ6dの張力に抗して相対的に下方に押動され、ラック5から退避される。これにより、支持部3の支柱3bそして搬器2が、落下防止装置4によって阻止されることなく、円滑に上昇することになる。
【0012】
そして、支持部3の支柱3bそして搬器2が所定の高さまで上昇すると、図12に示すように、係合部材6のアーム部6cが引張りバネ6dの張力により下方に移動されることにより、係合爪6bがラック5の歯間に嵌入すると共に、アーム部6cがストッパ6eに当接する。さらに、支持部3の支柱3bそして搬器2に加えられた荷重により、係合部材6の係合爪6bがラック5の歯間にて下側に当接すると共に、アーム部6cがストッパ6eに当接することによって、荷重が支持され得る。このとき、係合部材6の係合爪6bは、荷重によりラック5の歯の下側に当接しているので、係合部材6が不用意に解放方向に揺動してしまうようなことはない。
【0013】
さらに、支持部3の支柱3bそして搬器2を下降させる場合には、解放用シリンダ7を動作させて、その可動部7aにより引張りバネ6eの張力に抗してアーム部6cを上方へ押し上げる。これにより、図13に示すように、係合部材6の係合爪6bがラック5の歯間から退避されるので、支持部3の支柱3bそして搬器2が下降し得ることになる。
【0014】
これに対して、特許文献1においては、昇降体の下部に安全爪を設けると共に、昇降体の移動経路に沿ってラック体を設け、この安全爪をラック体に係合させることにより、昇降体の落下を防止するようにした車両用リフトの落下防止安全装置が開示されている。
【0015】
特許文献2においては、昇降体側にアーム,スプリング,係止爪から成る係合部材を設けると共に、昇降体の移動経路に沿ってラック状の落下防止板を設けたリフトの安全装置が開示されている。
【0016】
特許文献3においては、ラチェット機構の係合爪がラチェットに完全噛合する直前に、係合爪に設けた緩衝体をラチェットに衝突させることにより、係合爪の速度を低下させ、衝突音を小さくするようにしたラチェット式荷締め機が開示されている。
【特許文献1】特開2000−119000号公報
【特許文献2】特開2001−316100号公報
【特許文献3】特開2000−043830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述した車両リフト1においては、支持部3の支柱3bそして搬器2を上昇させる場合、係合部材6の係合爪6bがラック5に沿って上昇する際に、この係合爪6bが引張りバネ6dの張力によってラック5の歯間毎に嵌入することになり、その都度係合爪6bの先端が、図14に示すように、ラック5の歯に当たって衝撃音が発生することになる。この衝撃音は、耳障りなやや高音の金属音であることから、例えば閑静な住宅街等では、車両リフト1の使用を控えなければならなかった。
【0018】
これに対して、図15に示すように、係合爪6bの先端にゴム製の静音材6fを貼り付ける方法もあるが、静音材6fが薄いことから、静音効果が低く、また衝撃によって静音材がすぐに剥がれてしまい、耐久性に劣っている。
また、図16に示すように、引張りバネ6dに隣接して、ストッパ6eの代わりに圧縮バネ6gを設けることにより、引張りバネ6dの張力を低く調整することも可能であるが、却って微振動が発生することになり、静音効果が低い。
【0019】
さらに、通常の場合には、図17(A)に示すように、アーム部6cはストッパ6eに当接するが、何らかの原因により搬器2が不用意に下降した場合には、図17(B)に示すように、係合爪6bが矢印B方向に回転しようとするが、係合爪6bとラック5との距離が一定であることから係合爪6bはあまり回転できず、所定角だけ揺動して停止することになる。このため、荷重がアーム部6cからストッパ6eにかかることになり、ストッパ6eが過負荷により押し潰され変形してしまう。
【0020】
また、係合部材6の先端の係合爪6bが比較的高速度でラック5の歯に当接することから、係合爪6b及びラック5の摩耗が速く、これら係合部材6やラック5の交換を比較的頻繁に行なう必要があった。
【0021】
これに対して、特許文献1による車両用リフトの落下安全装置または特許文献2によるリフトの安全装置においては、このような衝撃音に対する対策はとられていない。
【0022】
また、特許文献3によるラチェット式荷締め機においては、係合爪に設けた緩衝体がラチェットに衝突することにより、係合爪のラチェットへの衝突速度が低下し、衝突音が小さくなるものの、緩衝体自体が小さいので静音効果が低く、また車両リフトのように大きな荷重がかかるものには利用することが困難である。
【0023】
本発明は、以上の点に鑑み、上昇時の係合爪とラックとの衝撃を軽減し、衝撃音を小さくすると共に、係合爪とラックの摩耗を低減するようにした車両リフトの落下防止装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的は、本発明によれば、リフトとこのリフトを垂直方向に移動可能に支持する支持部とを備えた車両リフトにおいて、支持部に隣接して設けられたラックとラックに対向して支持部に揺動可能に設けられラックに係合する係合部材とから成り、この係合部材が、揺動軸よりラック側に延びる係合爪と、この係合爪の反対側に延びるアーム部と、係合爪がラックの歯間に係合するようにアーム部を下方へ付勢する引張りバネと、アーム部の下方への揺動を規制するストッパと、を含む車両リフトの落下防止装置であって、上記係合部材のアーム部が、そのストッパに当接する領域にオイルダンパを備えていることを特徴としている。
【0025】
本発明による車両リフトの落下防止装置は、好ましくは、係合部材のストッパが下段にゴムストッパ部分を有し、上段にプラスチック部分を有する。
【0026】
本発明による車両リフトの落下防止装置は、好ましくは、ストッパのプラスチック部分が、オイルダンプの当接面に切欠部を備えている。
【0027】
本発明による車両リフトの落下防止装置は、好ましくは、係合部材の係合爪がラックの歯間に嵌入したとき、係合部材のアーム部材がストッパのプラスチック上面に当接した状態で、オイルダンパが切欠部内にて余裕代をもってストッパに当接している。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、リフト及び支持部が上昇する際に、係合部材の係合爪が対向するラックの一つの歯間から外れて次の歯間に移行するとき、係合部材のアーム部が、引張りバネの張力に抗してストッパから離反した後、係合爪がラックの歯から外れて、引張りバネの張力によりストッパに向かって接近する。その際、アーム部は、そのオイルダンパを介してストッパに当接するので、ストッパに対する当接がオイルダンパにより緩和され、ストッパへの衝突速度が低減される。
【0029】
従って、係合部材の係合爪がラックの次の歯間に嵌入する際に、歯への当接速度も低減され、衝撃が軽減されるので、係合爪がラックの歯に当たる衝撃音が低減され得る。これにより、耳障りな高音である衝撃音が低減され、静音効果が得られるので、例えば閑静な住宅街等においても車両リフトが使用可能になる。
さらに、上述したように、係合爪のラックの歯に対する衝撃が軽減されることから、係合部材及びラックの摩耗も低減されることになり、これら係合部材及びラックの寿命が長くなるので、交換周期が長くなる。
【0030】
上記係合部材のストッパが、オイルダンパの当接部分にてプラスチックから構成されている場合には、オイルダンパから加えられる荷重が、ゴム製の部分の弾性変形により軽減されることになると共に、係合部材のアーム部分そしてオイルダンパの揺動軸の周りに円運動に対して、オイルダンパの先端がプラスチック部分に当接することにより、容易に横方向に摺動し得るので、円運動によるストッパに対するずれが吸収される。また、過負荷となるような荷重が加えられたとき、ゴム製のストッパが直接にオイルダンパに接触しないので、オイルダンパが過負荷から保護される。さらに、比較的劣化しやすいゴム製部分が小さくて済むので、ゴム製部分の交換コストが低減される。
【0031】
上記ストッパのプラスチック部分が、オイルダンパの当接面に切欠部を備えている場合には、プラスチック部分の体積が切欠部により低減されるので、プラスチック部分の材料コストが低減される。
【0032】
係合部材の係合爪がラックの歯間に嵌入したとき、係合部材のアーム部材がストッパのプラスチック上面に当接した状態で、オイルダンパが切欠部内にて余裕代をもって上記ストッパに当接している場合には、係合部材の係合爪がラックの歯間にて一側の歯に当接するとき、オイルダンパが余裕代を有することにより、緩衝力が効果的に作用することになる。従って、係合爪がラックの歯に当接する瞬間まで、係合爪の引張りバネによる当接速度が十分に抑制され、係合爪のラックの歯に対する衝撃音が低減される。
【0033】
このようにして、本発明によれば、支持部そしてリフトが上昇する場合に、係合部材の係合爪がラックの歯間毎に歯に引張りバネの張力により当接するとき、係合部材のアーム部がオイルダンパを介してストッパに当接することによって、係合爪の揺動速度が抑制され、係合爪のラックの歯に対する当接速度が低減され、係合爪のラックの歯に対する当接力そして衝撃音が軽減される。これにより、耳障りな高音である衝撃音が低減され静音効果が得られるので、例えば閑静な住宅街等においても車両リフトが使用可能になる。さらに、係合爪のラックの歯に対する衝撃が軽減されることから、係合部材及びラックの摩耗も低減され、これら係合部材及びラックの寿命が長くなるので、交換周期が長くなりメンテナンスコストが低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明による車両リフトの落下防止装置の一実施形態を組み込んだ車両リフトの構成を示している。図1において、車両リフト10は、車両を搭載する搬器11と、この搬器11を支持する支持部12と、落下防止装置20と、から構成されている。
【0035】
ここで、支持部12は、床面より下方に固定されたベース部13に対して、上下方向に移動可能に支持された支柱14から構成されており、この支柱14は、図示しない駆動機構により上下方向に移動されるようになっている。
【0036】
落下防止装置20は、図2に詳細に示すように、支持部12のベース部13側に設けられたラック21と、支柱14側に設けられた係合部材22と、解放用シリンダ23と、から構成されている。
【0037】
ラック21は、支持部12の可動部材である支柱14の移動方向に沿って、即ち垂直方向に直線状に延びるように、さらに支柱14の上下動に伴なう係合部材22の移動範囲全体に亘って配置されている。
【0038】
これに対して、係合部材22は、ラック21に対して横向きに延びる揺動軸22aの周りに揺動可能に支持されており、この揺動軸22aよりラック21側にてやや下側で外方に突出する係合爪22bと、この係合爪22bの反対側に延びるアーム部22cと、このアーム部22cを下方へ付勢する引張りバネ22dと、このアーム部22cの下方への移動を規制するストッパ22eと、このストッパ22eに当接し得るようにアーム部22cに設けられたオイルダンパ22fと、から構成されている。
【0039】
係合爪22bは、係合部材22が引張りバネ22dの張力により揺動軸22aの周りに揺動したとき、対向するラック21の歯間に係合する。その際、係合爪22bは、アーム部22cがストッパ22eに当接することにより、ラック21の歯間の底部にまでは到達しないように、例えば5±2mm程度だけラック21の歯間に嵌入するようになっている。
【0040】
引張りバネ22dは、アーム部22cを下方へ付勢することにより、係合爪22bをラック21の歯間に押動して嵌入させる。支持部12の支柱14が上方へ移動するときには、係合爪22bがラック21の歯の先端によって相対的に下方に押動されて、係合部材22の揺動及び支柱14の上方への移動を許すように、バネ22dの付勢力が選定されている。
【0041】
ストッパ22eは、この場合、図3に示すように二段構造を備えており、下段に従来と同様のゴムストッパ部分22gと、上段に上面が開放した凹型のプラスチック部分22hとを有している。そして、このストッパ22eは、係合部材22のアーム部22cの下方への移動を規制することにより、支持部12の支柱14が下方への荷重を受けたとき、ラック21の歯から係合爪22bを介してアーム部22cに作用するモーメントに対抗するようになっている。
【0042】
解放用シリンダ23は、搬器11を下降させる場合に、その可動部23aが上方へ移動することにより係合部材22のアーム部22cを上方へ押し上げて、係合爪22bをラック21の歯間から退避させて、係合部材22の係合爪22bのラック21への係合を解放し、支持部12の支柱14そして搬器2の下降を許すようになっている。
【0043】
オイルダンパ22fは、公知の構成であって、上下方向に圧縮されたとき、圧縮力に基づいてゆっくりと短縮され得るように構成されている。オイルダンパ22fは、係合部材22のアーム部22cが下降するとき、ストッパ22eのプラスチック部分22hの上面に開口する切欠部22i内に嵌入し、その底面に当接する。さらに、オイルダンパ22fは、係合部材22のアーム部22cが下降してストッパ22eのプラスチック部分22hの上面に当接したとき、その切欠部22iの底面に対して余裕代をもつようになっている。即ち、アーム部22cがストッパ22eのプラスチック部分22hの上面に当接することで、オイルダンパ22fの圧縮が余裕を残した状態で止まる。
【0044】
ここで、切欠部22iは、図4に示すように、係合爪22bがラック21の歯間から退避した状態から、図2に示すように、係合爪22bがラック21の歯間内に嵌入する際に、オイルダンパ22fが円滑に切欠部22i内に進入し得るように、アーム部22cの長手方向に沿ってプラスチック部分22hを貫通するように形成されている。
【0045】
本発明の実施形態による車両リフト10は以上のように構成されており、支持部12の支柱14が上昇するときには、図4に示すように、支柱14の上昇に伴って係合部材22の係合爪22bがラック21の歯により引張りバネ22dの張力に抗して相対的に下方に押動され、ラック21から退避される。これにより、支持部12の支柱14そして搬器11が、落下防止装置20によって阻止されることなく、円滑に上昇する。
【0046】
そして、係合爪22bがラック21の次の歯間に達したとき、あるいは支持部12の支柱14そして搬器11が所定の高さまで上昇したとき、図5に示す係合爪22bがラック21の歯間から退避した状態から、係合爪22bがラック21の歯間内に進入する。
【0047】
このとき、係合部材22のアーム部22cが引張りバネ22dの張力に基づいて下降することになるが、下降途中にて、図6に示すように、アーム22cに取り付けられたオイルダンパ22fが、ストッパ22eのプラスチック部分22hの切欠部22i内に進入し、その底面に当接する。
【0048】
その後は、さらにアーム部22cが下方へ移動する際には、オイルダンパ22fが下方への移動速度を低減させるので、係合部材22の揺動速度そして係合爪22bの移動速度が低減される。なお、オイルダンパ22fは、プラスチックから構成された切欠部22iの摺動容易な底面に当接するので、アーム22cの揺動軸22aの周りの回転運動による横移動があっても、この切欠部22iの底面を容易に摺動し得る。
【0049】
そして、図7に示すように、係合部材22のアーム部22cが、ストッパ22eのプラスチック部分22hの上面に当接することにより、その揺動が停止し、係合部材22の係合爪22bはラック21の歯間に嵌入した状態となる。このとき、オイルダンパ22fは、ストッパ22eのプラスチック部分22hの切欠部22iの底面に対して余裕代をもって当接しているので、係合部材22は、そのアーム部22cがストッパ22のプラスチック部分22hの上面に当接するまで、オイルダンパ22fの緩衝作用によってその揺動速度が低減され続ける。
【0050】
従って、係合爪22bがラック21の歯に当接する際の当接速度がオイルダンパ22fの緩衝作用によって低減されるので、係合爪22bのラック21の歯への当接時に発生する衝撃音が小さくなる。また、係合爪22bのラック21の歯への当接速度が低減されることにより、係合爪22b及びラック21の歯の摩耗が低減され、従って交換周期が長くなりってメンテナンスコストも低減され得る。
【0051】
図8は、本実施形態による車両リフト10における落下防止装置20と、オイルダンパのない落下防止装置との衝撃音のシミュレーションを比較するグラフである。図8のグラフにおいて、可聴周波数の範囲では、特に人が感度の良好な3kHz〜4kHzの周波数帯域にて、オイルダンパを備えた落下防止装置20の衝撃音が、オイルダンパを備えていない落下防止装置と比較して、十分に小さく抑えられていることが分かる。
【0052】
さらに、通常の場合には、図9に示すように、アーム部22cがストッパ22eのプラスチック部分22hの上面に当接することにより、係合部材22の揺動が規制されており、ゴムストッパ部分22gはあまり変形していない。
これに対して、何らかの原因により搬器11が不用意に下降した場合には、図10に示すように係合爪22bが矢印C方向に回転しようとする。これにより、係合部材22は、そのアーム部22cが下降しようとすることになり、アーム部22cがさらにストッパ22eのプラスチック部分22hを下方へ押動する。
【0053】
従って、ストッパ22eの下方のゴムストッパ部分22gが圧縮されるように弾性変形して、過負荷時の荷重を逃がすことになる。このとき、係合部材22のアーム部22cが直接にストッパ22eのプラスチック部分22hの上面に当接することになるので、この過負荷時の荷重は、オイルダンパ22fには加えられず、オイルダンパ22fが過負荷から保護される。
【0054】
この場合、さらにストッパ22eの一部のみがゴムストッパ部分22gとして構成されているので、ストッパ22eの高さが例えば約18mmの場合に、ゴムストッパ部分22gの高さは例えば5mm程度と、ゴムストッパ部分22gの体積が小さくて済み、比較的劣化しやすい弾性材料から成るゴムストッパ部分22gの材料コスト及びメンテナンスコストが低減される。また、ストッパ22eのプラスチック部分22hも切欠部22iを備えていることにより、材料の使用量が少なくて済み、材料コストが低減される。
【0055】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。例えば、上述した実施形態においては、ストッパ22eは、その上段のプラスチック部分22hに切欠部22iを備えているが、この切欠部22iは省略されてもよい。この場合、オイルダンパ22fは、ストッパ22eのプラスチック部分22hの上面に当接することになる。また上述した実施形態においては、ストッパ22eは、二段構成になっているが、従来と同様に全体がゴム製であってもよいことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による落下防止装置の一実施形態を組み込んだ車両リフトの構成を示す概略図である。
【図2】図1の車両リフトにおける落下防止装置の構成を示す部分拡大図である。
【図3】図2の落下防止装置におけるストッパを示す拡大斜視図である。
【図4】図2の落下防止装置の係合部材の揺動時の状態を示す概略図である。
【図5】図2の落下防止装置の上昇時に係合爪が外れる瞬間を示し、(A)は概略側面図、(B)は概略背面図である。
【図6】図2の落下防止装置の上昇時に係合爪がラックの歯間に進入する途中を示すもので、(A)は概略側面図、(B)は概略背面図である。
【図7】図2の落下防止装置の上昇時に係合爪がラックの歯に当接する瞬間を示し、(A)は概略側面図、(B)は概略背面図である。
【図8】図2の落下防止装置とオイルダンパのない落下防止装置との衝撃音の比較を示すグラフである。
【図9】図2の落下防止装置の通常時の係合部材を示し、(A)は概略側面図、(B)は概略背面図である。
【図10】図2の落下防止装置の過負荷時の係合部材を示し、(A)は概略側面図、(B)は概略背面図である。
【図11】従来の落下防止装置を備えた車両リフトの一例の構成を示す概略断面図である。
【図12】図11の車両リフトにおける落下防止装置の構成を示す部分拡大図である。
【図13】図12の落下防止装置の上昇時に係合爪が外れる瞬間を示す概略図である。
【図14】図12の落下防止装置の上昇時に係合爪がラックの歯に当接する瞬間を示す概略図である。
【図15】図12の落下防止装置における係合部材の変形例を示す側面図である。
【図16】図12の落下防止装置の他の変形例を示す概略図である。
【図17】図12の落下防止装置において、(A)は通常時、(B)は過負荷時の状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0057】
10 車両リフト
11 搬器
12 支持部
13 ベース部
14 支柱
20 落下防止装置
21 ラック
22 係合部材
22a 揺動軸
22b 係合爪
22c アーム部
22d 引張りバネ
22e ストッパ
22f オイルダンパ
22g ゴムストッパ部分
22h プラスチック部分
22i 切欠部
23 解放用シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リフトと、このリフトを垂直方向に移動可能に支持する支持部と、を備えた車両リフトにおいて、上記支持部に隣接して設けられたラックと、このラックに対向して上記支持部に揺動可能に設けられラックに係合する係合部材と、から成り、上記係合部材が、揺動軸よりラック側に延びる係合爪と、この係合爪の反対側に延びるアーム部と、上記係合爪がラックの歯間に係合するように、アーム部を下方に付勢する引張りバネと、上記アーム部の下方への揺動を規制するストッパと、を含んでいる、車両リフトの落下防止装置であって、
上記係合部材のアーム部が、そのストッパに当接する領域に、オイルダンパを備えていることを特徴とする、車両リフトの落下防止装置。
【請求項2】
前記係合部材のストッパが、下段にゴムストッパ部分を有し、上段にプラスチック部分を有することを特徴とする、請求項1に記載の車両リフトの落下防止装置。
【請求項3】
前記ストッパのプラスチック部分が、オイルダンパの当接面に切欠部を備えていることを特徴とする、請求個1又は2に記載の車両リフトの落下防止装置。
【請求項4】
前記係合部材の係合爪がラックの歯間に嵌入したとき、上記係合部材のアーム部材がストッパのプラスチック上面に当接した状態で、前記オイルダンパが、前記切欠部内にて余裕代をもって前記ストッパに当接していることを特徴とする、請求項3に記載の車両リフトの落下防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−297182(P2007−297182A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127081(P2006−127081)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)