説明

車両内燃機関のトルク検出装置

【課題】内燃機関の回転部材に作用するトルクを検出する車両内燃機関のトルク検出装置に関し、エンジントルクの検出精度を向上させる。
【解決手段】内燃機関の動力を伝達するための回転部材と、前記回転部材の間に介設され、動力の伝達又は切断を行う動力伝達装置と、前記回転部材の入力側端部近傍および出力側端部近傍の回転角度を演算し、当該回転角度の差を前記回転部材のねじり角として取得するねじり角取得手段と、前記ねじり角に基づいて、前記内燃機関のエンジントルクを算出するトルク算出手段と、所定のタイミングで前記回転角度の演算値に換えて新たな初期値を設定するリセット手段を備える。好ましくは、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記回転部材の推定ねじり角を特定し、前記動力伝達装置における動力の切断が行われた場合に、前記ねじり角が前記推定ねじり角になるように、前記初期値を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両内燃機関のトルク検出装置に係り、特に、内燃機関の動力を伝達する回転部材に作用するトルクを検出する車両内燃機関のトルク検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開平11−59555号公報に開示されるように、回転するシャフト部材を介して車輪への動力伝達を行うシャフト駆動式移動装置について、シャフト部材に作用するトルクを検出するシステムが開示されている。このシステムによれば、シャフト部材等に発生するねじり角を検出し、検出されたねじり角に基づいて動力伝達部材のトルクを算出することとしている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−59555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の技術における軸のねじりを利用したトルク検出手法は、内燃機関を備える車両のエンジントルク検出に適用することができる。エンジントルクは、内燃機関の運転状態だけではなく、外部から車両にかかるトルク成分、すなわち路面からの反力等によっても変化するため、正確に推定することが困難とされている。そこで、内燃機関の動力を伝達するための回転部材、およびこれらの回転部材の回転数を検出する既存の回転数センサを利用して、当該回転部材に発生するねじりを検出しエンジントルクを算出することとすれば、外乱等の影響を別途考慮することなく、正確にエンジントルクを検出することが可能となる。
【0005】
しかしながら、車両の動力伝達経路には、流体継手や摩擦継手など、滑りを生じる動力伝達要素が介在している。このため、既存の回転数センサの検出信号を利用して回転部材のねじり角を検出しようとする場合、これらの滑り要素が間に介在してしまうため、回転部材のねじりを正確に検出することができず、その結果、算出されたエンジントルク値も不正確なものとなってしまう。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、車両内燃機関のエンジントルクの検出精度を向上させることのできる車両内燃機関のトルク検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、車両内燃機関のトルク検出装置であって、
内燃機関の動力を伝達するための回転部材と、
前記回転部材の間に介設され、動力の伝達又は切断を行う動力伝達装置と、
前記回転部材の入力側端部近傍および出力側端部近傍の回転角度を演算し、当該回転角度の差を前記回転部材のねじり角として取得するねじり角取得手段と、
前記ねじり角に基づいて、前記内燃機関のエンジントルクを算出するトルク算出手段と、を備える車両内燃機関のトルク検出装置において、
所定のタイミングで前記回転角度の演算値に換えて新たな初期値を設定するリセット手段を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記回転部材の推定ねじり角を特定する推定ねじり角特定手段を更に備え、
前記リセット手段は、前記動力伝達装置における動力の切断が行われた場合に、前記ねじり角が前記推定ねじり角になるように、前記初期値を設定することを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記回転部材の推定ねじり角を特定する推定ねじり角特定手段を更に備え、
前記リセット手段は、前記内燃機関におけるフューエルカット時に、前記ねじり角が前記推定ねじり角になるように、前記初期値を設定することを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1の発明において、
前記リセット手段は、前記内燃機関に接続された変速機がニュートラル状態である場合に、前記初期値をゼロに設定することを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至4の何れか1つの発明において、
前記回転部材は、前記内燃機関に接続された変速機の入力軸と出力軸とを含み、
前記動力伝達装置は、前記入力軸と前記出力軸との間に介設されたクラッチ要素であることを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第1乃至5の何れか1つの発明において、
前記動力伝達装置は、前記内燃機関の回転軸と変速機の入力軸との間に介設されたトルクコンバータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
回転部材におけるねじり角の検出対象となる範囲には動力伝達装置が介在している。このため、当該動力伝達装置において滑りなどが発生し、当該回転部材の相対的位置関係にずれが生じると、検出されるねじり角に誤差が発生してしまう。第1の発明によれば、所定のタイミングで回転角度の演算値を新たな初期値にリセットすることができるので、演算値に積算されたずれの影響を消去することができ、誤ったねじり角が継続して算出される事態を効果的に回避することができる。
【0014】
第2の発明によれば、動力伝達装置における動力の切断が行われた場合に、内燃機関の運転状態から特定された推定ねじり角に対応する回転角度となるように初期値が設定される。このため、本発明によれば、回転部材のねじり角にずれが発生した場合に、演算値に積算されたずれの影響を消去することができ、誤差の重畳したねじり角が継続して算出される辞退を効果的に回避することができる。
【0015】
また、内燃機関のフューエルカット時には、負トルク値を安定して推定することができる。第3の発明によれば、フューエルカットが行われた場合に、推定された負トルクに基づいて推定ねじり角が特定されるので、ねじり各の推定精度を向上させることができる。また、フューエルカットが行われた場合に、回転角度の初期値が当該推定ねじり角に対応する回転角度となるように設定されるので、演算値に積算されたずれの影響を効果的に消去することができる。また、動力伝達装置の動作、すなわち動力の係合および解放動作とは無関係に行われるため、動力伝達装置において発生する定常的な滑りの誤差を定期的に(フューエルカット毎に)消去することができる。
【0016】
また、車両の停止時などの変速機がニュートラル状態である場合においては、回転部材に発生するトルクがゼロとなる。第4の発明によれば、ニュートラルレンジ時に回転角度の初期値をゼロにリセットすることができるので、ねじり角の初期値を正確に設定することができる。
【0017】
第5の発明によれば、回転部材として変速機の入力軸と出力軸とを含み、これらの軸の間に動力伝達部材としてクラッチ要素を備える車両内燃機関において、本発明を実施することができる。
【0018】
第6の発明によれば、動力伝達部材としてトルクコンバータを備える車両内燃機関において、本発明を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1としてのトルク検出装置が適用される車両の概略構成を示す図である。本実施の形態にかかる車両は、内燃機関(エンジン)10とトルクコンバータ付き自動変速機16と、を備えた車両である。エンジン10はピストン12を備えている。ピストン12には、その往復運動によって回転駆動されるクランク軸14が連結されている。クランク軸14の回転トルクは、トルクコンバータ18を介して自動変速機16に伝達され、その後プロペラシャフト30、ディファレンシャルギア32、および駆動軸34を介して車輪36に伝達される。
【0021】
トルクコンバータ18は、流体式動力伝達装置であって、クランク軸14に連結されるポンプ、自動変速機16のインプットシャフト20に連結されるタービン、トルク増幅機能を発現するステータ、および、クランク軸14とインプットシャフト20とを直結状態にするロックアップクラッチなどを備えている。また、トルクコンバータ18には、自動変速機16のインプット回転数NT(タービンに連結されたインプットシャフト20の回転数)を検出する入力軸回転数センサ52が配置されている。
【0022】
また、本実施の形態の自動変速機16は遊星歯車式変速機である。自動変速機16では、摩擦要素であるクラッチ要素22や、図示しない種々のブレーキ要素が、所定の状態に係合または解放されることにより変速段が設定される。クランク軸14からインプットシャフト20に伝達された回転トルクは、これら種々の伝達要素を介してアウトプットシャフト24に伝達される。また、アウトプットシャフト24の動力伝達下流側の端部には、自動変速機16のアウトプット回転数SP2(アウトプットシャフト24の回転数)を検出するための出力軸回転数センサ54が配置されている。
【0023】
エンジン10、自動変速機16、およびトルクコンバータ18の総合制御は、ECU(Electronic Control Unit)50により行われる。ECU50の入力部には、入力軸回転数センサ52および出力軸回転数センサ54のほか、図示しない種々のセンサが接続されている。また、ECU50の出力部には、図示しない種々のアクチュエータが接続されている。ECU50は、これらのセンサの出力信号に基づき、エンジン10、自動変速機16、およびトルクコンバータ18の制御を行うとともに、エンジントルクの算出処理を実行する。
【0024】
[実施の形態1の動作]
(基本原理)
次に、図2および図3を参照して、本実施形態において回転トルクを算出するための基本原理について説明する。上述したとおり、エンジン10で生み出された動力は、変速機16内のインプットシャフト20およびアウトプットシャフト24を通じて、ディファレンシャルギア32に伝えられ、これが駆動軸34に伝わって車輪36が回転する。すなわち、インプットシャフト20およびアウトプットシャフト22は、ねじりによって仕事を伝達する機能を果たしている。したがって、これらの回転軸のねじりを精度よく検出することができれば、エンジントルクを精度よく算出することができる。
【0025】
図2は回転軸にねじりが発生した状態を模式的に示す図である。図2における回転軸は、一端を固定され他端にトルクTを受けている状態の長さLの回転軸とする。この図に示すとおり、回転軸にトルクTが作用すると、当該回転軸上の直線ABはねじりの影響により螺旋AB’に変形する。つまり、ねじりを受けている回転軸の端面では、角度θ分のねじり(以下「ねじり角」と称す)が発生する。この場合、回転軸に発生する単位長さあたりのねじり角(以下「比ねじり角」と称す)θ’は以下のように表すことができる。
比ねじり角θ’=θ/L ・・・(1)
したがって、回転軸に発生するトルクTは、以下の式で表すことができる。
T=GIθ’=Φθ’= Φ/L×θ=kθ ・・・(2)
ここで、Gはせん断弾性係数であり材料固有の値である。また、Iは軸の断面2次極モーメントであり、軸の断面の形状により定まる値である。また、Φ(=GI)はねじり剛性であり、単位長さの軸を単位角ねじるために要するトルクを表している。ここでは、ねじり剛性φを軸の長さLで除算した係数をk(以下「 ねじり係数」 と称す)で表すこととする。
【0026】
図3は、回転軸に発生するトルクTのねじり角θに対する関係を示す図である。この図は、上式(2)に示すねじり角θとトルクTの関係を図に表したものである。この図に示すとおり、トルクTはねじり角θの大きさに比例して大きくなる。このように、回転軸のねじり係数kおよびねじり角θを特定することにより、この図に示す関係に従って回転軸に発生するトルクTを精度よく算出することが可能となる。
【0027】
尚、上述したトルク算出手法は、複数の回転軸が結合されている場合においても可能である。例えば、2つの軸が結合され、各回転軸にθ、θのねじり角が発生している場合を考えると、各回転軸に発生するトルクは等しいことから、各ねじり係数をk、kとすると、次式(3)に示す関係が成立する。
T=kθ=kθ ・・・(3)
したがって、複数の回転軸に発生するねじり角の総和を総ねじり角θ(=θ+θ)とすると、トルクTは次式(4)にて表される。
T=k/(k+k)×θ ・・・(4)
このように、複数の種類の回転軸が結合されている場合であっても、これらの軸に発生する総ねじり角を特定することで、これらの軸に発生するトルクを精度よく算出することができる。
【0028】
[実施の形態1の特徴的動作]
上述したとおり、回転軸のねじり係数kおよびねじり角θを特定することができれば、回転軸に発生するトルクTを精度よく算出することができる。そこで、本実施の形態1においては、インプットシャフト20およびアウトプットシャフト22に発生する総ねじり角θに基づいて、エンジン10のエンジントルクを算出することとする。より具体的には、先ず、入力軸回転数センサ52および出力軸回転数センサ54の出力信号に基づいて、インプットシャフト20およびアウトプットシャフト22に発生する総ねじり角θを検出する。そして、上式(4)に当該総ねじり角θおよび各シャフトのねじり係数を代入することにより、エンジントルクTを算出することができる。
【0029】
しかしながら、本実施の形態の自動変速機16においては、インプットシャフト20とアウトプットシャフト22との間にクラッチ要素22が介在している。このため、自動変速機16における変速時に当該クラッチ要素22の解放動作が行われると、インプットシャフト20とアウトプットシャフト22との相対的な回転位置関係にずれが発生するため、検出される総ねじり角に誤差が発生してしまう。
【0030】
そこで、本実施の形態1においては、クラッチ要素22の解放動作により、インプットシャフト20とアウトプットシャフト22との接続が切断された場合には、上記回転数センサ52、54の回転信号NT、SP2から演算される回転角度をリセットすることとする。具体的には、積算された回転角度の演算値をクリアし新たな初期値が設定される。初期値は、推定された現状のねじり角に対応する回転角度となるように設定される。これにより、クラッチ要素22の解放動作が行われた後においても、回転信号から検出されたねじり角に基づいて、継続してエンジントルクを算出することができる。
【0031】
尚、ねじり角の推定値は、エンジン10の運転状態に基づいて推定される。図4は、エンジン10の吸入空気量Ga、および機関回転数NEをパラメータとして、エンジントルクTを推定するためのマップを示す。エンジントルクTは、この図に従って推定される。そして、推定されたエンジントルクTを上式(4)に代入することで、ねじり角の推定値が算出される。
【0032】
[実施の形態1における具体的処理]
次に、図5を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図5は、ECU50が、エンジン10のエンジントルクを算出するための処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【0033】
図5に示すルーチンでは、先ず、インプットシャフト20の動力伝達上流部の回転信号、およびアウトプットシャフト24の動力伝達下流部の回転信号が検知される(ステップ100)。ここでは、具体的には、入力軸回転数センサ52の回転信号NT、および出力軸回転数センサ54の回転信号SP2が検出される。次に、インプットシャフト20およびアウトプットシャフト24に発生する総ねじり角が演算される(ステップ102)。ここでは、具体的には、上記ステップ100において検出されたパルス信号NTおよびSP2を積分することで、当該シャフトのセンサ配置部の回転角度が演算される。そして、演算された回転角度の差から、これらのシャフトに発生している総ねじり角が演算される。
【0034】
次に、インプットシャフト20とアウトプットシャフト24と間にずれが発生したか否かが判定される(ステップ104)。ここでは、具体的には、クラッチ要素22による動力の切断が行われたか否かが判定される。その結果、クラッチ要素22が切断されたと判断された場合には、上記ステップ102において算出されたねじり角を使用することができないと判断され、次のステップに移行し、エンジン10の運転状態からねじり角が推定される(ステップ106)。ECU50は、上述したエンジントルク特性(図4に示す特性)を記憶している。ここでは、具体的には、かかる特性に基づいて、現在のエンジン10の運転状態に対応するエンジントルクTが推定値として算出される。そして、推定されたエンジントルクTを上式(4)に代入することにより、現状のインプットシャフト20およびアウトプットシャフト24に発生しているねじり角が推定される。
【0035】
次に、現状の回転信号NT、SP2から演算される各回転角度がリセットされる(ステップ108)。ここでは、具体的には、上記ステップ102において、回転信号NT、SP2に基づく回転角度の演算値が一端クリアされ、各回転角度の初期値が上記ステップ106において推定されたねじり角に対応する回転角度になるように再設定される。
【0036】
次に、エンジントルクTが算出される(ステップ110)。ここでは、具体的には、上記ステップ108において再設定されたねじり角が、上式(4)に代入されることによりエンジントルクTが算出され、本ルーチンは終了される。
【0037】
一方、上記ステップ104において、インプットシャフト20とアウトプットシャフト24と間にずれが発生していないと判定された場合には、上記ステップ104において検出されたねじり角を使用することができると判断され、上記ステップ112に移行し、上記ステップ104において算出されたねじり角に基づいて、エンジントルクTが算出される。
【0038】
以上説明したとおり、本実施の形態1によれば、インプットシャフト20とアウトプットシャフト24との間に介在するクラッチ要素22が切断された場合に、これらのシャフト端部の回転角度の積算値がクリアされ、初期値がエンジン10の運転状態に基づいて推定されたねじり角となるように再設定される。これにより、クラッチ要素22の解放動作が行われた後においても、その後に検出されたねじり角に基づいて、継続してエンジントルクを算出することができる。
【0039】
ところで、上述した実施の形態1においては、自動変速機16の内部に配置されたインプットシャフト20およびアウトプットシャフト24に発生するねじり角に基づいて、エンジントルクTを算出することとしているが、トルク算出の対象となるシャフトはこれに限られない。すなわち、ねじり角を精度よく検出することができるシャフトであれば、他のシャフトを用いることとしてもよい。
【0040】
また、上述した実施の形態1においては、自動変速機16の内部に配置されている入力軸回転数センサ52および出力軸回転数センサ54の検出信号を利用して、インプットシャフト20およびアウトプットシャフト24に発生するねじり角を算出することとしているが、使用される回転数センサはこれに限られない。すなわち、シャフトのねじり角を算出するために使用することができるのであれば、クランク角センサの検出信号を使用してもよいし、また、車輪に設けられた回転数センサを使用することとしてもよい。
【0041】
また、上述した実施の形態1においては、インプットシャフト20とアウトプットシャフト24との間にクラッチ要素22が介在している場合において、本発明を実行することとしているが、これらのシャフトの間に介在する動力伝達装置は、これに限られない。すなわち、回転数センサとしてクランク角センサを使用する場合には、トルクコンバータ18がシャフトの間に介在することとなる。かかる場合においては、トルクコンバータ18のロックアップが解除された場合に、回転数センサ信号に基づいて算出される回転角を再設定することとすればよい。
【0042】
また、上述した実施の形態1においては、車両の変速動作などによりクラッチ要素22が解放された場合に、インプットシャフト20とアウトプットシャフト24との間の相対的位置関係にずれが発生したと判断し、当該シャフトの回転角の初期値を再設定することとしているが、当該回転角の初期値の再設定のタイミングはこれに限られない。すなわち、クラッチ要素22が意図的に解放された場合でなくても、クラッチ要素22には多少の滑りが発生するため、定期的に当該回転角の再設定を行ってかかる誤差を消去することとしてもよい。
【0043】
例えば、当該回転角の再設定を行うタイミングとしては、エンジン10のフューエルカット時が好適である。すなわち、フューエルカット時に発生する負トルクは比較的安定して推定することができるため、当該回転角の再設定により、ねじり角の算出誤差を効果的に抑制することができる。また、車両の停止時などにおいて、自動変速機16がニュートラル状態である場合も好適である。すなわち、ニュートラル状態はシャフトに発生するトルクがゼロであるため、当該回転角の再設定により、シャフト両端の回転角の初期値を共にゼロに設定することができ、ねじり角に重畳する種々の誤差成分を一掃した正確な初期値を設定することができる。
【0044】
また、上述した実施の形態1においては、自動変速機16を備える車両について、本発明を実施することとしているが、使用される変速機はこれに限られない。すなわち、マニュアル式の変速機においても、クラッチ要素が介在するシャフト部材を利用して、本発明を実施することができる。
【0045】
尚、上述した実施の形態1においては、インプットシャフト20およびアウトプットシャフト24が前記第1の発明における「回転部材」に、クラッチ要素22あるいはトルクコンバータ18が前記第1の発明における「動力伝達装置」に、相当している。また、ECU50が、上記ステップ102の処理を実行することにより、前記第1の発明における「ねじり角取得手段」が、上記ステップ110の処理を実行することにより、前記第1の発明における「トルク算出手段」が、上記ステップ108の処理を実行することにより、前記第1の発明における「リセット手段」が、それぞれ実現されている。
【0046】
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が、上記ステップ106の処理を実行することにより、前記第2の発明における「推定ねじり角特定手段」が、上記ステップ108の処理を実行することにより、前記第2の発明における「リセット手段」が、それぞれ実現されている。
【0047】
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が、上記ステップ106の処理を実行することにより、前記第3の発明における「推定ねじり角特定手段」が、上記ステップ108の処理を実行することにより、前記第3の発明における「リセット手段」が、それぞれ実現されている。
【0048】
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が、上記ステップ108の処理を実行することにより、前記第4の発明における「リセット手段」が実現されている。
【0049】
また、上述した実施の形態1においては、インプットシャフト20が前記第5の発明における「入力軸」に、アウトプットシャフト24が前記第5の発明における「出力軸」に、クラッチ要素22あるいはトルクコンバータ18が前記第1の発明における「動力伝達装置」に、それぞれ相当している。
【0050】
また、上述した実施の形態1においては、インプットシャフト20が前記第6の発明における「入力軸」に相当している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】回転軸のトルクを算出するための基本原理を説明するための図である。
【図3】回転軸に発生するねじり角とトルクとの関係を示す図である。
【図4】吸入空気量と機関回転数をパラメータとして、トルクを推定するためのマップである。
【図5】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
10 内燃機関(エンジン)
12 ピストン
14 クランク軸
16 自動変速機
18 トルクコンバータ
20 インプットシャフト
22 クラッチ要素
24 アウトプットシャフト
30 プロペラシャフト
32 ディファレンシャルギア
34 駆動軸
36 駆動輪
50 ECU(Electronic Control Unit)
52 入力軸回転数センサ
54 出力軸回転数センサ
T エンジントルク
θ ねじり角
Φ ねじり剛性
k ねじり係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の動力を伝達するための回転部材と、
前記回転部材の間に介設され、動力の伝達又は切断を行う動力伝達装置と、
前記回転部材の入力側端部近傍および出力側端部近傍の回転角度を演算し、当該回転角度の差を前記回転部材のねじり角として取得するねじり角取得手段と、
前記ねじり角に基づいて、前記内燃機関のエンジントルクを算出するトルク算出手段と、を備える車両内燃機関のトルク検出装置において、
所定のタイミングで前記回転角度の演算値に換えて新たな初期値を設定するリセット手段を備えることを特徴とする車両内燃機関のトルク検出装置。
【請求項2】
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記回転部材の推定ねじり角を特定する推定ねじり角特定手段を更に備え、
前記リセット手段は、前記動力伝達装置における動力の切断が行われた場合に、前記ねじり角が前記推定ねじり角になるように、前記初期値を設定することを特徴とする請求項1記載の車両内燃機関のトルク検出装置。
【請求項3】
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記回転部材の推定ねじり角を特定する推定ねじり角特定手段を更に備え、
前記リセット手段は、前記内燃機関におけるフューエルカット時に、前記ねじり角が前記推定ねじり角になるように、前記初期値を設定することを特徴とする請求項1記載の車両内燃機関のトルク検出装置。
【請求項4】
前記リセット手段は、前記内燃機関に接続された変速機がニュートラル状態である場合に、前記初期値をゼロに設定することを特徴とする請求項1記載の車両内燃機関のトルク検出装置。
【請求項5】
前記回転部材は、前記内燃機関に接続された変速機の入力軸と出力軸とを含み、
前記動力伝達装置は、前記入力軸と前記出力軸との間に介設されたクラッチ要素であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両内燃機関のトルク検出装置。
【請求項6】
前記動力伝達装置は、前記内燃機関の回転軸と変速機の入力軸との間に介設されたトルクコンバータであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両内燃機関のトルク検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−215984(P2008−215984A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52533(P2007−52533)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)