説明

車両安定システム

【課題】様々な要因による広範囲な周波数を有する車両振動に対して、少ない部材で効果的な抑制効果を発揮することができる車両安定システムを提供する。
【解決手段】バンパリンフォース4を車体に連結すると共に、車体に対するバンパリンフォース4の位置を変位可能にする電磁機構2と、車両5の挙動を検出する挙動検出部と、挙動検出部の検出結果に基づいて電磁機構2を作動させる制御部とを備えたアクティブダンパシステムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に生じる振動を抑制する車両安定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
乗車時の快適性を向上させるために、車両に生じる振動を抑制する技術が種々提案されている。特開平6−26548号公報(特許文献1)には、車体とパワーユニットとの間に設けられてアクチュエータにより加振力を発生させて、パワーユニットの振動が車体に伝達することを防止するマウンティング装置が開示されている。このマウンティング装置は、低中周波振動を低減させる電磁ソレノイドアクチュエータと、高周波振動を低減させる圧電素子アクチュエータとが選択的に作動されて、比較的広範囲の振動を低減させる。この選択は、抑制すべき振動が、所定の周波数を基準として低周波側であるか高周波側であるかによって行われる。抑制すべき振動の周期や位相は、エンジンの点火信号、クランク角センサからのクランク角信号などと関連するパワーユニットの基準信号に基づいて演算される。
【0003】
このようなマウンティング装置やダンパ装置においては、ダンピングマスが用いられる。特開平11−245742号公報(特許文献2)には、弾性体により形成されたバンパーフェイスを車体に取り付け、このバンパーフェイスを車体振動に対して逆位相に振動させることによって車体振動を低減させる技術が開示されている。弾性体により形成されたバンパーフェイスは、その自重がダンピングマスとなり、ダンパプレートやラバーマウントといった別部材なしに、振動低減装置を構成する。また、バンパーフェイスの支持固定位置を変更することによって、振動特性が変更され、エンジン種別に応じた振動低減特性へ調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−26548号公報(第19〜27段落、図3、4等)
【特許文献2】特開平11−245742号公報(第9〜11段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、上述したように比較的広範囲の振動を低減させることが可能なものである。しかし、特許文献1の図4において破線Dで示されているように、液封マウント(実線A)で大きな低減効果が得られるような低周波数領域では、抑制効果が小さい。また、抑制すべき振動の周期や位相はパワーユニットに関連する基準信号に基づいて演算されるため、他の要因も含む車両振動に対して広く対応することは困難である。特許文献2の技術は、車両に元々搭載される部材を利用することで、別の部材の追加を抑制することができる優れたものである。但し、振動抑制効果は、予め設定された支持固定位置に応じたものとなるので幅広い振動抑制効果を得ることは困難である。
【0006】
上記課題に鑑みて、様々な要因による広範囲な周波数を有する車両振動に対して、少ない部材で効果的な抑制効果を発揮することができる車両安定システムの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて創案された本発明に係る車両安定システムの特徴構成は、
車両のバンパリンフォースを車体に連結固定すると共に、前記車体に対する前記バンパリンフォースの位置を変位可能な電磁機構と、
前記車両の挙動を検出する挙動検出部と、
前記挙動検出部の検出結果に基づいて前記電磁機構を作動させる制御部と、を備える点にある。
【0008】
この特徴構成によれば、車両のバンパリンフォースをダンピングマスとして利用することにより、他の部材を追加することなく車両の既存の部品を用いて車両振動を抑制することができる。バンパリンフォースは、通常時には安定状態にある電磁機構によって所定位置に支持固定され、ダンピングマスとして用いられる際には電磁機構によって加振される。バンパリンフォースの加振は、車両の挙動を検出する挙動検出部の検出結果に基づいて制御部により制御される。従って、車両に生じる振動に応じて適切なカウンタ振動が与えられ、車両振動が良好に抑制される。カウンタ振動は、挙動検出部の検出結果に基づいて与えられるため、様々な要因による広範囲な周波数を有する車両振動が効果的に抑制される。
【0009】
ここで、前記挙動検出部は、前記車両の前後方向の振動を検出するものであると好適である。
【0010】
車両の上下方向の振動は、サスペンション装置など他の手段によってある程度の軽減がなされているが、車両の前後方向の振動に関しては振動の軽減が充分ではない。挙動検出部が車両の前後方向の振動を検出することによって、手薄であった車両の前後方向の振動が良好に抑制される。また、バンパリンフォースと車体とは車両の前後方向の車軸に沿って連結固定されると構造的に簡単である。さらに、電磁機構として例えばリニアアクチュエータを利用することによって簡単な構造でバンパリンフォースを変位させることができる。従って、簡単な構造で手薄であった車両の前後方向の振動が良好に抑制される。
【0011】
ここで、前記電磁機構が複数備えられ、前記バンパリンフォースが前記車体の複数箇所において当該複数の前記電磁機構によってそれぞれ連結固定されると好適である。
【0012】
バンパリンフォースは、車体に対する位置を変位可能な複数の電磁機構により、複数箇所で車両に連結固定されることになる。従って、通常時においては確実にバンパリンフォースが所定の姿勢で堅固に固定される。また、加振が必要な際には、複数の電磁機構により協調して力を印加することができるので、確実且つ迅速にバンパリンフォースの位置を変位させることができ、カウンタ振動を与えることが可能となる。
【0013】
さらに、前記電磁機構は、個別に作動可能であると好適である。
【0014】
車両振動の方向は、車両の前後方向に対して正確に一致するとは限らず、ずれている場合がある。複数箇所においてバンパリンフォースを車体に支持固定する電磁機構が個別に作動可能であれば、車両の前後方向に対して角度を有する方向のカウンタ振動を発生させることが可能となる。その結果、幅広い車両振動に対して効果的な車両安定システムを提供することが可能となる。
【0015】
また、前記電磁機構は、変位方向に沿って3つの安定点を有すると好適である。
【0016】
電磁機構が3つの安定点を有することにより、電磁機構に通電することなく、車両ごとに異なる位置においてバンパリンフォースを車体に支持固定することが可能となる。従って、構造的に車両ごとにカスタマイズすることなく、容易に車両に応じたバンパリンフォースの支持固定位置をチューニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両安定システムを含む車両システムの一例を模式的に示すブロック図
【図2】車両安定システムの構成例を模式的に示すブロック図
【図3】アクチュエータを介してバンパリンフォースと車体とを連結固定する概念を模式的に示す図
【図4】アクチュエータの構造例を示す断面図
【図5】アクチュエータの動作例を示す説明図
【図6】アクチュエータの可動子と力との関係を示すグラフ
【図7】エンジン回転数の変化とトルクの変化の一例を示すグラフ
【図8】車両振動をスペクトラム解析した結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、車両には、種々のシステムやセンサが、車内ネットワークであるCAN(controller area network)30を介して連携している。ブレーキシステム61は、ドライバーにより操作されるブレーキペダルの操作量をブレーキセンサ44により検出して、不図示のアクチュエータを介して車両に制動力を付加してブレーキ力を増強させるブレーキアシストなどを有した電動ブレーキシステムである。パワーステアリングシステム63は、例えば、ドライバーにより操作されるステアリングホイールの操作量を蛇角センサ47やトルクセンサ48により検出して不図示のアクチュエータによりアシストトルクを付加する電動パワーステアリング(EPS : electric power steering)システムである。
【0019】
エンジン制御システム65は、アクセルセンサ51やスロットルセンサ52などと連携し、燃料噴射量や点火タイミングなどのエンジンの運転制御を行うシステムである。複筒エンジンの場合には、減筒制御なども実施される。エンジン制御システム65からは、減筒信号や回転数信号(TACH)、運転中フラグなどの種々の信号がCAN30に出力される。トランスミッション制御システム67は、シフトポジションセンサ42や車輪速センサ43などの各種センサや、エンジン制御システム65などと連携して、最適なトランスミッションの選択と切り換えなどの制御を行うシステムである。トランスミッション制御システム67からはロックアップ信号やロックアップ解除信号などがCAN30に出力される。
【0020】
その他、カメラ41と連携したモニタシステム(不図示)や駐車支援システム(不図示)、空気圧センサ45やクリアランスソナー49やバンパ圧力センサ50と連携した安全制御システム(不図示)などのシステムも構築される。図1に示す各種センサ41〜52は、単一のシステムと連携するものではなく、適宜複数のシステムと連携する。また、図1では、各種センサ41〜52が直接CAN30に接続される例を示しているが、各種システム61〜67を介して接続されてもよい。例えば、車両の車輪の回転量や単位時間当たりの回転数を検出する車輪速センサ43は、ブレーキシステム61に備えられている場合もある。ブレーキシステム61が、ブレーキのロックを抑制するABS(anti lock braking system)や、コーナリング時の車両の横滑りを抑制する横滑り防止装置(ESC : electronic stability control)である場合、CAN30を介すことなく受け取った車輪速センサ43の検出結果に基づけば、迅速に各種制御が実行される。例えば、左右の車輪の回転差などからブレーキのロックや、車輪の空回り、横滑りの兆候などが判定され、判定結果に応じた制御が迅速に実行される。
【0021】
本発明の車両安定システム10は、アクチュエータ2を介してダンパマスとしてのバンパリンフォースを車両に生じる種々の振動とは逆方向の振幅を有するように振動させるアクティブダンパシステムである。図1に示すように、車両安定システム10は、制御部1と、アクチュエータ(電磁機構)2とを有して構成される。制御部1は、マイクロプロセッサなどの論理回路を中核として構成されるECU(electronic control unit)である。本実施形態では、図2に示すように、CPU11を有して制御部1が構成される場合を例示している。制御部1は、CPU11とプログラム12〜17との協働により機能する。プログラム12〜17については後述する。
【0022】
本実施形態においては、アクチュエータ2は、複数個備えられ、図3に示すように、複数箇所においてバンパリンフォース4を車体にそれぞれ連結固定すると共に、車体に対するバンパリンフォース4の位置を変位させる。具体的には、車両5の前後それぞれのバンパリンフォース4が、上下左右の4箇所でアーム3を介して車体に連結される。つまり、車両前方(フロント)のバンパリンフォース4に対してアクチュエータ21、22、23、24が備えられ、車両後方(リア)のバンパリンフォース4に対してアクチュエータ25、26、27、28が備えられる。
【0023】
従って、通常時においては確実にバンパリンフォース4が所定の姿勢で堅固に固定される。また、加振が必要な際には、複数のアクチュエータ2により協調して力を印加することができるので、確実且つ迅速にバンパリンフォース4の位置を変位させることができ、カウンタ振動を与えることが可能となる。このように、複数のアクチュエータ2を用いて、バンパリンフォース4を複数箇所で支持固定することは好適であるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。アクチュエータ2が、バンパリンフォース4を固定支持する強度を有し、必要に応じて加振可能な出力を有していれば、単一のアクチュエータ2によりバンパリンフォース4が1箇所で支持固定されてもよい。
【0024】
アクチュエータ2は、図4の縦断面図に示すようなリニアアクチュエータである。このアクチュエータ2の備える固定子70は、磁性金属(鉄、磁性ステンレスなど)からなる有蓋円筒状のケース71を有する。このケース71は、蓋の壁面の近傍で段部71aを介して内径が拡大されている。ケース71内には、その中心線XLに沿って、段部71a上に順番に並設された円環状の3つのティース72、73、74が装着されている。これらティース72〜74は、磁性金属にて形成されている。
【0025】
ティース72は、段部71aに隣接して配置されて第1端磁極を形成する。ティース74は、開口端側に配置されて第2端磁極を形成する。ティース73は、ティース72及びティース74に隣接配置されて中央磁極を形成する。ティース72は、その内周部からティース73側に突出するボス状の突片72aを有する。ティース74は、その内周部からティース73側に突出するボス状の突片74aを有する。ティース73は、その内周部からティース72及び74側にそれぞれ突出するボス状の一対の突片73a、73bを有する。段部71aとティース72との間には、円盤状の板バネ91の外周縁部が挟持される。また、ティース74の開口側の端面には、円盤状の板バネ92の外周縁部が接合されている。
【0026】
隣り合うティース72、73間には、これらティース72、73間に形成される環状の凹部に嵌合するように、樹脂材からなる環状のボビン75が装着される。このボビン75には、図4に示す一方の巻き線方向でコイル76が巻装されている。同様に、隣り合うティース73、74間には、これらティース73、74間に形成される環状の凹部に嵌合するように、樹脂材からなる環状のボビン77が装着される。このボビン77には、コイル76に対して反転した他方側への巻き線方向でコイル78が巻装されている。中心軸線XLに沿って並設された両コイル76、78は、直列接続されており、通電時には互いに相反する方向の磁界を形成する。
【0027】
アクチュエータ2の備える可動部磁気回路部材としての可動子80は、中心軸線XLの方向で2枚の板バネ91、92に挟み込まれている。この可動子80は、板バネ91側及び板バネ92側に配置された磁性金属からなる一対のヨーク81、82を有する。また、可動子80は、中心軸線XLの方向でこれら両ヨーク81、82にて挟み込まれた永久磁石83を有する。なお、ヨーク81、82は、互いに同等の内径を有する挿通孔81a、82aを有するとともに、ティース72〜74の内径よりも小さい互いに同等の外径を有して円環状に成形されている。ヨーク81には、その内周部から板バネ91側に突出する円筒状の座部81bが形成される。ヨーク81は、この座部81bにおいて板バネ91の対向面と当接する。同様に、ヨーク82には、その内周部から板バネ92側に突出する円筒状の座部82bが形成される。ヨーク82は、この座部82bにおいて板バネ92の対向面と当接する。
【0028】
永久磁石83は、例えば中心軸線XLの方向で着磁されたフェライト磁石により構成される。勿論、ネオジウム磁石等であってもよい。永久磁石83は、挿通孔81a、82aの内径と同等の内径を有する挿通孔83aを有するとともに、ヨーク81、82の外径よりも若干小さい外径を有して円環状に成形されている。なお、永久磁石83の中心軸線XLに沿った長さLMは、中央磁極を形成するティース73の中心軸線XLに沿った長さLT以下に設定されている。また、永久磁石83の先端に対し径方向外側に若干突出するヨーク81、82の円環状の突出部は、可動子80の磁極をそれぞれ形成する。
【0029】
アクチュエータの備える非磁性シャフト96は、挿通孔81a〜83aの内径と同等の外径を有する軸部96aを備えている。非磁性シャフト96は、可動子80を挟み込んだ2枚の板バネ91、92を中心軸線XLに沿って貫通して可動子80ともども2枚の板バネ91、92を締結する。即ち、この非磁性シャフト96は、板バネ91を貫通する軸部96aの一方の先端から径方向外側に延出する頭部96bを有するとともに、板バネ92を貫通する軸部96aの他方の先端部に形成されたねじ部96cを有する。そして、頭部96bは、中心軸線XLの方向で板バネ91を介して座部81bに対向配置されており、その中央部には締結用の六角孔又は四角孔が形成されている。また、ねじ部96cの基端部には、中心軸線XLの方向で板バネ92を介して座部82bに対向配置されるワッシャ97が挿入され、ねじ部96cには、ロックナット98が締め付けられる。以上により、非磁性シャフト96は、頭部96b及びロックナット98にて、可動子80ともども2枚の板バネ91、92を締結する。尚、2枚の板バネ91、92を介して固定子70に浮動支持された可動子80は、中心軸線XLに沿って往復移動可能である。そして、2枚の板バネ91、92は、その付勢力によって可動子80を可動範囲の中央位置に復帰させるとともに固定子70との空隙Cを確保する。
【0030】
図5(a)及び(c)に示すように、可動子80が可動範囲のいずれかの端位置にあるとき、ヨーク81(82)の角部は、固定子70の端磁極を形成するティース72(74)の突片72a(74a)に対向配置される。このような配置関係にあることで可動子80に対し中央位置から離れる方向の力が発生する。仮に可動子80の移動を機械的に規制するストッパが存在すれば、コイル76、78の非通電時には、このストッパに規制されて可動子80は、その可動範囲の端位置に保持される。
【0031】
一方、図5(b)に示すように、可動子80が可動範囲の中央位置にあるとき、ヨーク81は、突片72a、73a間の中央位置にその外周面の中央位置が径方向で対向するように配置される。また、ヨーク82は、突片73b、74a間の中央位置にその外周面の中央位置が径方向で対向するように配置される。更に永久磁石83は、ティース73の内周面の中央位置にその外周面の中央位置が径方向で対向するように配置される。このような配置関係にあることで、コイル76、78の非通電時には、永久磁石83による磁束は、一対のヨーク81、82と、固定子70の中央磁極を形成するティース73との間で閉ループとなる磁気回路を構成する。従って、この状態では、可動子80をその可動範囲の中央位置に保持する力が働くことになる。
【0032】
図6は、可動子80の可動範囲の中央位置を原点とするその中心軸線XL上の位置(上下の位置として図示)と可動子80に働く中心軸線XLの方向の力(上下方向の力として図示)との関係を示すグラフである。同図から明らかなように、磁気回路上、可動子80は、その可動範囲の中央位置(原点)で安定する。また、位置H1と位置H2で挟まれた領域では、可動子80には原点に復帰しようとする力が発生する。さらに、位置H1より上側、位置H2より下側では、可動子80には原点から離れる方向に力が働く。例えば、位置H1より上側の位置Hs1と、位置H2より下側の位置Hs2に機械的な規制(ストッパ)を配置すれば、位置Hs1と位置Hs2で挟まれた領域を可動範囲として設定可能である。即ち、原点及び2つの機械的な規制点(位置Hs1,Hs2)を併せて3安定のアクチュエータが構成される。
【0033】
両コイル76、78は、通電方向が正逆切り替えられて通電されるようになっている。通電時には、可動子80は、通電方向に応じて形成される互いに相反する方向の磁界により永久磁石83が加振されることで、その可動範囲の中央位置を原点(振動中心)として中心軸線XLに沿って往復移動する。
【0034】
このような3安定のアクチュエータ2を用いることにより、車両5のバンパリンフォース4は、車体から延伸されるアーム3を介して車体の複数箇所においてそれぞれ連結固定される。また、バンパリンフォース4は、3安定のアクチュエータ2により、車体に対する位置が変位される。アクチュエータ2が3つの安定点を有することにより、車両ごとに異なる位置においてバンパリンフォース4を車体に支持固定することが可能となる。従って、構造的に車両ごとにカスタマイズすることなく、容易に車両に応じたバンパリンフォース4の支持固定位置をチューニングすることができる。
【0035】
以下、図2に示すCPU11と防振プログラム13との協働により構成される防振システムとして、車両振動を抑制する1つの好適な事例について説明する。図7のグラフは、エンジン回転数の変化とトルクの変化を示している。例えば、図7の時刻22.00秒から時刻23.70秒においては3速から2速へのシフトチェンジが実施され、時刻30.70秒から時刻33.10秒においては2速から1速へのシフトチェンジが実施されている。また、図8の線図は、車両振動をスペクトラム解析した結果を示している。図8は、加速度の自乗を周波数で除した値((m/s2)2/Hz)をデシベル(dB)で表したスペクトラム解析結果を等圧線状に示している。ここでは、便宜上モノクロにより示しているが、線の混んでいる箇所は、振動している状態を示している。例えば、図8におけるAの箇所は、4〜5Hz程度の低周波数の車両振動が発生している状態を示している。このAの箇所は、時刻21.30秒〜時刻23.07秒の近傍であり、図8は、この時刻近傍において4〜5Hz程度の低周波数の車両振動が発生していることを示している。上述したようにこの時刻近傍では、3速から2速へのシフトチェンジが実施されている。
【0036】
発明者らによる実験やシミュレーション、解析によれば、このようなシフトチェンジや、オートマチックトランスミッションのロックアップ解除時、複筒エンジンの減筒時などにおいて、概ね10Hz程度以下の低周波数の車両振動が発生することが判った。人間は、このような低周波数の振動に対する感度が比較的高いため、このような車両振動が乗車中の乗員に対して不快感を生じさせる可能性がある。図8を参照すれば、時刻21.30秒〜時刻23.07秒以外の時刻、例えば、25.21秒〜27.26秒の辺り、30.00秒〜32.40秒の辺りにも同様の低周波数振動が生じている。一方、図7を参照すれば、これらの時刻におけるエンジン回転数やトルクは同一の領域ではない。つまり、低周波数の車両振動は、エンジン回転数やトルクに依存するものではない。このため、従来のように、パワーユニットに関連する基準信号に基づいて抑制すべき振動の周期や位相を演算することは困難である。
【0037】
そこで、本実施形態においては、車両の挙動を検出する挙動検出部の検出結果に基づいて制御部1がアクチュエータ2を作動させ、ダンピングマスとしてのバンパリンフォース4の位置を変位させて振動を抑制する。具体的には、挙動検出部により、車両の前後方向の振動を検出し、検出された振動を打ち消す方向の振動を発生するように、制御部1がアクチュエータ2を駆動する。本実施形態においては、加速度センサ46が挙動検出部として機能する。車両安定システム10の制御部1は、CAN30を介して加速度センサ46から車両に生じた振動の検出結果を受け取り、その振動を抑制する方向のカウンタ振動の周波数、位相などを演算する。そして、制御部1は、演算したカウンタ振動を発生させるべく、アクチュエータ2を作動させる。尚、本実施形態においてはCAN30を介して加速度センサ46と制御部1とが接続される形態を例示したが、制御部1に加速度センサ46が接続される形態であってもよい。
【0038】
加速度センサ46は、3次元の全ての方向の加速度を検出可能な3軸加速度センサであっても良いし、一定の方向に指向性を有するセンサであってもよい。例えば、本実施形態においては、リニアアクチュエータ2によって車両の前後方向の車軸に沿って車体に対してバンパリンフォース4が支持固定される。従って、アクチュエータ2の動作方向は車両の前後方向であり、カウンタ振動も車両の前後方向に沿ったものとなる。従って、検出される車両振動も、車両の前後方向を中心とするものとすることができ、加速度センサ46も車両の前後方向の加速度の検出感度が高いものとすることができる。
【0039】
車両の上下方向の振動は、サスペンション装置など他の手段によってある程度の軽減が図られている。しかし、車両の前後方向の振動に関しては振動の軽減が充分ではない。加速度センサ46により車両の前後方向の振動が検出され、制御部1及びアクチュエータ2によってカウンタ振動が与えられることによって、手薄であった車両の前後方向の振動が良好に抑制される。
【0040】
尚、挙動検出部は、加速度センサ46に限定されるものではなく、当然に他のセンサを適用してもよい。また、エンジン制御システム65から得られる点火タイミングや減筒の信号、回転数信号(TACH)、運転中フラグなどを加速度センサ46の検出結果に加味して、CPU11において振動を演算してもよい。この場合には、CPU11、プログラム、加速度センサ46、その他のシステムやセンサの協働により、挙動検出部が構成される。
【0041】
このように、車両安定システム10は、車両のバンパリンフォース4をダンピングマスとして利用することにより、他の部材を追加することなく車両の既存の部品を用いて車両振動を抑制することができる。また、バンパリンフォース4は、車体に対する位置を変位可能なアクチュエータ2により、車体に連結固定される。従って、バンパリンフォース4は、通常時には安定状態にあるアクチュエータ2によって所定位置に支持固定される。また、ダンピングマスとして用いられる際にはバンパリンフォース4は、アクチュエータ2によって加振される。バンパリンフォース4の加振は、車両の挙動を検出する挙動検出部の検出結果に基づいて制御部1により制御される。従って、車両に生じる振動に応じて適切なカウンタ振動が与えられ、車両振動が良好に抑制される。カウンタ振動は、挙動検出部の検出結果に基づいて与えられるため、様々な要因による広範囲な周波数を有する車両振動が効果的に抑制される。上記例のように、複数(本例では4つ)のアクチュエータ2により複数箇所で連結固定されると支持はより強固となり、加振の際の迅速性や確実性も向上する。
【0042】
尚、車両振動の方向は、車両の前後方向に対して厳密に一致するとは限らず、ずれている場合がある。複数箇所においてバンパリンフォース4を車体に支持固定するアクチュエータ2を個別に作動させることによって、車両の前後方向に対して角度を有する方向のカウンタ振動を発生させることが可能となる。検出された加速度の方向に応じて、制御部1が、アクチュエータ2を個別に作動させると好適である。その結果、幅広い車両振動に対して効果的な車両安定システムを提供することが可能となる。
【0043】
以上、本実施形態においては、オートマチックトランスミッションのロックアップ解除時や、エンジンの減筒時における車両の前後運動の最適化を図る防振システムを例として説明した。しかし、本発明は、その他の車両安定制御にも適用することが可能である。例えば、加速度センサ46やバンパ圧力センサ50などとの協働により、衝突時のエネルギーコントロールを実施する衝突緩衝システムに適用することが可能である。また、加速度センサ46や蛇角センサ47などとの協働により、車両旋回時の重心移動を最適化する旋回安定システムに適用することも可能である。また、加速度センサ46やブレーキセンサ44などとの協働により、制動時の荷重移動量を最適化する制動安定システムに適用することが可能である。また、その他の機能を有する車両安定システムにも広く適用することが可能である。尚、これら協働する各種センサは、本発明の挙動検出部に相当する。
【0044】
また、これらの複数のシステムは、適宜切り換え可能な状態で車両に搭載されていてもよい。図2は、そのようなシステムを例示している。上述したように、車両安定システム10の制御部1は、CPU11とプログラム12〜17との協働により機能する。メインプログラム12が、サブプログラム13〜17を選択し実行させることによって、上記防振システムや、衝突緩衝システム、旋回安定システム、制動安定システム、その他のシステムが実現される。図2においては、1つの形態として、防振システムに対応する防振プログラム13、衝突緩衝システムに対応する衝突緩衝プログラム14、旋回安定システムに対応する旋回プログラム15、制動安定システムに対応する制動安定プログラム16、その他のシステムに対応するサブプログラム17を例示している。
【0045】
以上説明したように、本発明によって、様々な要因による広範囲な周波数を有する車両振動に対して、少ない部材で効果的な抑制効果を発揮することができる車両安定システムが実現できる。
【符号の説明】
【0046】
1:制御部
2:アクチュエータ(電磁機構)
4:バンパリンフォース
5:車両
46:加速度センサ(挙動検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のバンパリンフォースを車体に連結固定すると共に、前記車体に対する前記バンパリンフォースの位置を変位可能な電磁機構と、
前記車両の挙動を検出する挙動検出部と、
前記挙動検出部の検出結果に基づいて前記電磁機構を作動させる制御部と、を備える車両安定システム。
【請求項2】
前記挙動検出部は、前記車両の前後方向の振動を検出するものである請求項1に記載の車両安定システム。
【請求項3】
前記電磁機構は、複数備えられ、前記バンパリンフォースは、前記車体の複数箇所において当該複数の前記電磁機構によってそれぞれ連結固定される請求項1又は2に記載の車両安定システム。
【請求項4】
前記電磁機構は、個別に作動可能である請求項3に記載の車両安定システム。
【請求項5】
前記電磁機構は、変位方向に沿って3つの安定点を有する請求項1〜4の何れか一項に記載の車両安定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−16466(P2011−16466A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163045(P2009−163045)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)