説明

車両用アシストグリップ

【課題】部品点数が少なくて済み、組立も容易で、組立後の検査も容易に行うことができる車両用アシストグリップを提供する。
【解決手段】車両の車内に面して取り付けられるグリップ本体10にコートハンガー30が回動可能に取り付けられた車両用アシストグリップ1において、グリップ本体10には、軸方向の一部に係合溝を有するボス部17が一体的に突出形成されており、ボス部17にコートハンガー30の支持部31が回動可能に外嵌し、支持部31に形成されたクリップ挿入孔33に、ボス部17の係合溝に係合する弾性を有するクリップ40が嵌合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車のルーフパネル下縁等に設けられる車両用アシストグリップに関し、特に、コートハンガーを備えた車両用アシストグリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車内には、助手席や後部座席等の側方のルーフパネル下縁に、アシストグリップが設けられている場合があり、その座席に着座した人がアシストグリップを把持して身体を支えることができるようになっている。また、このアシストグリップにコートハンガーを併設したものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のコートハンガー付きアシストグリップは、ルーフパネルに固定されるベースに、シャフトを介してグリップ本体が回動可能に取り付けられ、前記シャフトの一端がグリップ本体を貫通して突出しており、この突出部分にコートハンガーが回動自在に装着され、コートハンガーを貫通したシャフトの先端部分にキャップを固定して構成されている。
このように構成された特許文献1に記載のコートハンガー付きアシストグリップでは、コートハンガーを上側に回転させた位置で停止させる機構を備えていないので、使用しないときもコートハンガーが下方に下がった状態になる。
【0004】
また、特許文献1に記載のコートハンガー付きアシストグリップでは、シャフトにおいてグリップ本体の貫通孔を挿通する部分の外周面にローレット加工を施し、このローレット加工がされた部分をグリップ本体の貫通孔に嵌合するとともに、シャフトの先端部の外周面にローレット加工を施し、この先端部をキャップに嵌合することによって、コートハンガーの抜け止めしている。
このようにローレット部分の嵌合だけでコートハンガーの抜け止めをした場合には、実際の使用時にコートハンガーにシャフト軸方向の力が加わったときに、コートハンガーが抜け落ちる虞がある。また、コートハンガーにおいてシャフトが挿入される孔を有底にし、この孔に、ローレット加工が施されたシャフトの先端部分を嵌合する構造も開示されているが、このようにするとグリップ本体とコートハンガーとが相対回転することができなくなり、使い勝手が悪い。
【0005】
これら課題を解決するために図10に示すようなコートハンガー付きアシストグリップも開発されている。このアシストグリップ100は、ベース101を介してルーフパネル(図示略)に回動可能に取り付けられるグリップ本体102と、このグリップ本体102に対して回動可能に取り付けられたコートハンガー103を備えている。グリップ本体102の端部はシャフト104を介してベース101に支持されており、コートハンガー103も同じシャフト104を介してグリップ本体102の端部に支持されている。
【0006】
ベース101とグリップ本体102とコートハンガー103にはそれぞれシャフト104を挿通させる孔105,106,107が設けられていて、コートハンガー103の一側面に設けられた挿入孔108からシャフト104を挿入し、コートハンガー103の孔107、グリップ本体102の孔106、ベース101の孔105を挿通させ、最後にシャフト104の先端をグリップ本体102の他方の孔109に挿入させている。
【0007】
また、このシャフト104には、グリップ本体102をルーフパネルに接近させるように付勢する第1スプリング110と、コートハンガー103をグリップ本体102の端部に接近させるように付勢する第2スプリング111が装着されている。
【0008】
さらに、グリップ本体102とコートハンガー103の対向面には、コートハンガー103の収納時にコートハンガー103を上側に回転させた位置で互いに係合して停止するように、係合突起112と係合孔113が設けられている。第2スプリング111は、コートハンガー103をグリップ本体102の端部に付勢することで、係合突起112を係合孔113に係合させるものである。
また、シャフト104のグリップ本体102からの抜け防止、および、コートハンガー103の脱落防止のために、シャフト104においてグリップ本体102の端部とベース101との間に位置する部分に小径部114を設け、組立の最後にこの小径部114に抜け止め部材115を嵌め込んでいる。
【特許文献1】特許第3532610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のコートハンガー付きアシストグリップ100には次のような問題があった。
部品点数が多く、しかも、抜け止め部材115の取り付けスペースが非常に狭いので、抜け止め部材115を取り付けるのが困難で、生産性が悪い。
また、抜け止め部材115をシャフト104の小径部114から外れた位置に嵌め込んでしまうと抜け止め部材115が脱落する虞があるので、抜け止め部材115が適正な位置に取り付けられているか否か検査する必要があるが、前述したように狭い場所であり、抜け止め部材115も小さいので、検査が困難である。
そこで、この発明は、部品点数が少なくて済み、組立も容易で、組立後の検査も容易に行うことができる車両用アシストグリップを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る車両用アシストグリップでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、車両の車内に面して取り付けられるグリップ本体にコートハンガーが回動可能に取り付けられた車両用アシストグリップにおいて、前記グリップ本体には、軸方向の一部に係合溝を有するボス部が一体的に突出形成されており、前記ボス部に前記コートハンガーの支持部が回動可能に外嵌し、前記支持部に形成された孔に、前記ボス部の係合溝に係合する弾性を有する抜け止め部材が嵌合していることを特徴とする。
【0011】
このように構成することにより、グリップ本体にボス部を一体に設け、このボス部にコートハンガーを外嵌させるので、シャフトが不要であり、部品点数を減らすことができる。
ボス部にコートハンガーを外嵌させた後、コートハンガーの孔に抜け止め部材を嵌入することによって、抜け止め部材をボス部の係合溝に係合させることができるので、作業性が向上し、組立が容易で、生産性が向上する。
さらに、コートハンガーの孔に抜け止め部材が嵌合しているか否かによって、抜け止め部材が適正に取り付けられているか否かを判定することができるので、組立後の検査も容易に行うことができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記係合溝におけるボス部の断面が非円形であり、前記抜け止め部材は前記係合溝において前記ボス部の外面に弾性付勢されるアームを備え、前記コートハンガーの収納時に前記アームが前記係合溝の所定部位に当接して節度感を得ることができることを特徴とする。
このように構成することにより、部品点数を増やすことなく、コートハンガーの節度感を得ることができ、コートハンガーの収納位置を特定することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記グリップ本体はシャフトを介して車体に回動可能に取り付けられており、前記シャフトと同軸延長上に前記ボス部が設けられていることを特徴とする。
このように構成することにより、車体に対して可倒することができる車両用アシストグリップの部品点数を減らすことができ、作業性の向上、組立容易性の向上、生産性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、車両用アシストグリップの部品点数を減らすことができるとともに、作業性を向上させ、組立を容易にし、生産性を向上させることができる。さらに、組立後の検査も容易に行うことができる。
請求項2に係る発明によれば、コートハンガーの収納位置を特定することができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、車体に対して可倒することができる車両用アシストグリップの部品点数を減らすことができ、作業性の向上、組立容易性の向上、生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明に係る車両用アシストグリップの実施例を図1から図9の図面を参照して説明する。
【0017】
図1および図2に示すように、車両用アシストグリップ(以下、アシストグリップと略す)1は、自動車の車内において助手席や後部座席等のルーフパネル2の下縁に設置されている。アシストグリップ1は、ルーフパネル2に回動可能に取り付けられた樹脂製のグリップ本体10と、グリップ本体10の一方の端部11aに回動可能に取り付けられた樹脂製のコートハンガー30とを備えている。
【0018】
図1および図2は、グリップ本体10の非使用状態を示しており、このときグリップ本体10はルーフパネル2に沿って位置しており、使用時に乗員がグリップ本体10の把持部12を把持して下方へ回転させて使用する。
また、図1はコートハンガー30の収納状態を示し、使用するときに図2に示すようにコートハンガー30をグリップ本体10に対して下方へ回転する。
【0019】
グリップ本体10はその両端部11a、11bにおいてルーフパネル2に回動可能に支持されている。図3は、アシストグリップ1においてコートハンガー30が設けられている側の端部を裏面側(すなわち、ルーフパネル2側)から見た図であり、図4はその部分断面図である。
【0020】
グリップ本体10の一方の端部11aの裏面側にはベース取り付け用の凹部13が形成されており、この凹部13にシャフト15を介してグリップ本体10に回動可能に支持されたベース14が収納されている。ベース14はルーフパネル2に適宜の固定具(例えばネジ等)によって固定される。また、シャフト15にはスプリング16が外嵌されており、このスプリング16によってグリップ本体10はルーフパネル2に接近する方向へ付勢されている。図示を省略するが、グリップ本体10の他方の端部11bも同様に構成されている。
【0021】
ただし、グリップ本体10の一方の端部11aには、コートハンガー30を支持するためのボス部17が設けられている点が、他方の端部11bと異なる。
ボス部17は円筒状をなし、一方の端部11aの側面から他方の端部11bへ接近する方向へ向かって一体的に突出形成されている。ボス部17の軸中心はシャフト15の軸中心延長上に配置されていて、ボス部17の中央にはシャフト15が挿通可能な挿通孔18が貫通形成されている。シャフト15はこの挿通孔18とその延長上の凹部13の内壁に設けられた孔19に嵌合して固定されている。なお、シャフト15の挿通孔18側の端部外周面にはローレット加工が施されており、ローレット加工部を挿通孔18に嵌合することで抜け止めされる。
【0022】
図7に示すように、ボス部17の軸方向の所定部位には環状の係合溝20が形成されている。図8に示すように、係合溝20の底部における断面は非円形をなし、係合溝20の底部は、周方向180度離間した位置に互いに平行をなす1対の平面部21,21が設けられ、それ以外の部分は円弧面からなる円弧部22に形成されている。
【0023】
コートハンガー30は、支持部31と、この支持部31から略J字状に一体的に突出形成されたハンガー部32とを備えている。
支持部31にはその一側面に開口する孔32が設けられており、この孔32にグリップ本体10のボス部17が回動可能に挿入されている。また、図3、図5および図6に示すように、支持部31にはクリップ挿入孔33が設けられている。クリップ挿入孔33は、孔32に挿入されたボス部17の係合溝20と対向するように配置されており、支持部31の外面に開口し、有底で、略矩形に形成されている。
【0024】
クリップ挿入孔33には、樹脂製のクリップ40が嵌合している。図9に示すように、クリップ40は、互いに平行に配置された1対のアーム41,41の基部同士がブリッジ部42によって連結されて構成されており、この構成によりアーム41,41は互いに弾性的に接近離反可能となっている。また、各アーム41の先端部にはそれぞれ他方のアーム41側へ突出する突部43が形成されている。
【0025】
このクリップ40は、アーム41の先端をクリップ挿入孔33の底部側に、ブリッジ部42をクリップ挿入孔33の開口側にしてクリップ挿入孔33に挿入されており、ブリッジ部42がクリップ挿入孔33に嵌合し、アーム41,41はボス部17の係合溝20に挿入されて係合溝20の底部を弾性的に挟み込んでいる。また、両アーム41,41の突部43が係合溝20おける底部外面に係止して、クリップ40がボス部17から離反するのを阻止している。
【0026】
また、両アーム41,41が弾性付勢されて係合溝20の平面部21,21に接触しているときは、クリップ40とボス部17の相対回転が抑制され、節度感が得られる。この状態のときにコートハンガー30が図1、図3、図4に示す収納状態となるように、ボス部17の平面部21,21、およびコートハンガー30のクリップ挿入孔33が予め位置決めされている。
【0027】
また、クリップ40のアーム41,41がボス部17の係合溝20に挿入された状態において、コートハンガー30をグリップ本体10に対して回転すると、クリップ40のアーム41,41が弾性的に拡開することにより、アーム41,41は係合溝20の平面部21から円弧部22に乗り移ることができる。
【0028】
なお、クリップ40のアーム41,41をボス部17の係合溝20以外の部位に嵌め込もうとしても、クリップ挿入孔33内ではクリップ40のアーム41,41がそれを許容するほど開くことができないので、係合溝20以外の部位に嵌め込ことができない。そのようにアーム41,41の拡開の範囲が制限されるように、クリップ挿入孔33の大きさ、形状が予め設定されている。
【0029】
このように構成されたアシストグリップ1においては、コートハンガー30の収納時にはクリップ40のアーム41がボス部17の平面部21に弾性付勢されているので、節度感(クリック感)を持たせることができ、図1、図3〜図5に示すように、コートハンガー30のハンガー部32が上方へ向く収納姿勢で停止させることができる。その結果、車両の走行時等に振動が加わっても、ハンガー部32を収納姿勢に維持することができ、下方に回転することがない。
【0030】
また、コートハンガー30をグリップ本体10に対して下方回転させる使用時おいても、収納状態からコートハンガー30を下方に回転させると、図6に示すように、クリップ40のアーム41がボス部17の円弧部22に弾性付勢されるようになるので、コートハンガー30を下方に向けた使用状態の姿勢に保持することができる。その結果、コートハンガー30から手を離しても使用状態の姿勢が保持されるので、ハンガー部32にハンガーを掛け易くなる。
【0031】
グリップ本体10にコートハンガー30を組み付ける場合には、グリップ本体10にベース14とスプリング16をシャフト15によって取り付けた後、ボス部17にコートハンガー30を外嵌し、コートハンガー30のクリップ挿入孔33にクリップ40を嵌入することによって、クリップ40のアーム41をボス部17の係合溝20に係合させることができるので、作業性が向上し、組立が容易で、生産性が向上する。
【0032】
さらに、コートハンガー30のクリップ挿入孔33にクリップ40が嵌合しているか否かによって、クリップ40が適正に取り付けられているか否かを判定することができるので、組立後の検査も容易に行うことができる。
また、コートハンガー30を回動可能に支持するボス部17が、グリップ本体10と一体に形成されているので、部品点数を減らすことができる。
【0033】
さらに、コートハンガー30の節度感は、ボス部17の係合溝20における平面部21と、クリップ40のアーム41の弾性によって得ることができるので、節度感を得るためだけの部品が不要であり、部品点数を減らすことができる。
【0034】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、ボス部17の係合溝20における断面を多角形状にして、節度感を得るようにしてもよい。
クリップ40のアーム41は必ずしも1対でなくてもよく、アーム41がボス部17の係合溝20の底部に弾性付勢していれば1つでも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明に係るアシストグリップ1においてコートハンガーを収納状態としたときの斜視図である。
【図2】前記コートハンガーを使用状態にしたときのアシストグリップの斜視図である。
【図3】アシストグリップの端部を裏面側から見た図である。
【図4】アシストグリップの端部を裏面側から見た部分断面図である。
【図5】コートハンガーの収納状態を示す断面図である。
【図6】コートハンガーの使用状態を示す断面図である。
【図7】グリップ本体の端部における部分断面図である。
【図8】図7のA−A断面図である。
【図9】クリップの平面図である。
【図10】従来のアシストグリップを示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 車両用アシストグリップ
2 ルーフパネル(車体)
10 グリップ本体
15 シャフト
17 ボス部
20 係合溝
30 コートハンガー
31 支持部
33 クリップ挿入孔(孔)
40 クリップ(抜け止め部材)
41 アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車内に面して取り付けられるグリップ本体にコートハンガーが回動可能に取り付けられた車両用アシストグリップにおいて、
前記グリップ本体には、軸方向の一部に係合溝を有するボス部が一体的に突出形成されており、前記ボス部に前記コートハンガーの支持部が回動可能に外嵌し、前記支持部に形成された孔に、前記ボス部の係合溝に係合する弾性を有する抜け止め部材が嵌合していることを特徴とする車両用アシストグリップ。
【請求項2】
前記係合溝におけるボス部の断面が非円形であり、前記抜け止め部材は前記係合溝において前記ボス部の外面に弾性付勢されるアームを備え、前記コートハンガーの収納時に前記アームが前記係合溝の所定部位に当接して節度感を得ることができることを特徴とする請求項1に記載の車両用アシストグリップ。
【請求項3】
前記グリップ本体はシャフトを介して車体に回動可能に取り付けられており、前記シャフトと同軸延長上に前記ボス部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用アシストグリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−162339(P2008−162339A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352168(P2006−352168)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(591270257)クミ化成株式会社 (12)
【Fターム(参考)】