説明

車両用スチール製ホイール

【課題】 ディスク部8の取付板部9の強度低下を抑え、操縦安定性を確保する。
【解決手段】 スチール製ホイール1を構成する上記取付板部9の片面で、上記ロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分と当接する円環状凹溝16を形成した面と反対側の面である軸方向内側面の内径寄り部分に、耐久性を向上させる為の仕上加工として、耐摩耗性を向上させる為のめっき処理を施す。そして、上記軸方向内側面の内径寄り部分を皮膜25で覆い、この皮膜25を介して上記ロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分と当接させる。この構成により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る車両用スチール製ホイールは、タイヤと組み合わせて自動車用の車輪を構成する為のもので、懸架装置に対する取り付け状態を長期間に亙り良好にして、操縦安定性を確保する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
車両用ホイールは、タイヤと共に車体重量を支え、駆動力或は制動力、コーナリング時の遠心力を伝達或は支承したり、路面からの衝撃等に耐え得る強度及び剛性を有する構造が必要とされる。
車両用ホイールとして一般的に使用されているスチール製ホイール1を、図3〜4に示す。このスチール製ホイール1を構成する、周囲にタイヤを支持する為のリム部2は、鋼板をプレス加工(ロール成形)して大略円筒状としたもので、軸方向(図3、4の左右方向)両端部のフランジ3、3と、その内側に連なるビードシート部4、4と、中央部のドロップ部5とを有する。一方、車体側に設けた、後述する軸受ユニット6の取付フランジ7の取付面に結合固定する為のディスク部8は、車体の重量を支えると共に車体への取り付け状態で外観される円板状の取付板部9と、この取付板部9の外周縁から軸方向内方(軸方向に関して内とは、車両への取り付け状態で車両の軸方向中央寄りとなる側を言い、図1、3、4の右側)に曲げ加工して円筒状に形成した円筒部10とを有する。そして、この円筒部10を上記リム部2のドロップ部5に内嵌し、更にこのドロップ部5の内周面に溶接し結合固定している。上記取付板部9には、車輪を車両に対して回転自在に保持する為の上記軸受ユニット6のハブ11(図4参照)の軸方向外端部(軸方向に関して外とは、車両への取り付け状態で車両の幅方向外寄りとなる側を言い、図1、3、4の左側。)を嵌合するハブ孔12と、上記取付フランジ7に支持したスタッド13を挿通し、更にナット14(図4参照)により緊締、固定する為の、ボルト孔15、15とを設けている。
上記ハブ孔12は上記取付板部9の内周縁を、軸方向外側に90度屈曲させて成る。そして、この取付板部9の外側面内径寄り部分に、上記ハブ孔12の軸方向内端部から径方向外方に広がり、上記取付板部9の径方向中間部まで達する、円環状凹溝16を形成している。
尚、上記各ボルト孔15、15は、上記円環状凹溝16内の複数個所に、軸方向外側に突出する状態で設けられた突出部17、17の頂部に形成されている。
【0003】
スチール製ホイール1の車体への取り付け状態では、図4に示す様に、このスチール製ホイール1及び制動装置であるディスクブレーキを構成するロータ18を、懸架装置を構成するナックル19に対して回転自在に支承する。即ち、このナックル19に形成した円形の支持孔部分に、上記軸受ユニット6を構成する、静止輪である外輪20を、この外輪20の外周面に形成した固定側フランジ21により、複数本のボルト22で結合する事により固定する。上記外輪20の内周面には、それぞれが静止側軌道面である複列の外輪軌道23a、23bを形成している。
又、前記ハブ11の外周面の一部で、上記外輪20の外端開口から突出した部分には、前記取付フランジ7を形成している。上記スチール製ホイール1をこの取付フランジ7に固定するには、前記ハブ孔12に上記ハブ11の外端部を挿入すると共に、この取付フランジ7に支持した前記複数本のスタッド13(乗用車の場合で通常4〜6本)を、上記ロータ18の内径寄り部分に設けた取付孔24と上記取付板部9に設けたボルト孔15とにそれぞれ挿通する。そして、上記各スタッド13に前記各ナット14を螺合し更に緊締する。
【0004】
上述した様に、図4に示した従来構造の場合、上記スチール製ホイール1の車体への取り付けは、上記軸受ユニット6の取付フランジ7の取付面に、上記ロータ18の軸方向内側面の内径寄り部分を重ね合わせた状態で、このロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分に上記取付板部9の片面(図3、4に示す突出部17、17部分を除く円環状凹溝16の軸方向内側面)を当接させた状態で行なっている。従って、図示しないタイヤを支持した上記スチール製ホイール1をがたつきなく車体側に対して取り付ける為には、上記取付板部9の片面を上記ロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分に対して、周方向に亙り均一に当接させる必要がある。ところが、車両用ホイールとして、一般的に安価であるスチール製ホイールに於いては、上記取付板部9の片面もプレス加工のみで仕上げられており、その精度(平面度)は高くない。この為、上記取付板部9の片面を所望形状(ロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分に対して平行となる形状)に規制する事が困難となる。言い換えれば、スチール製ホイール1の車体への取付時に、このスチール製ホイール1の取付板部9の片面が、相手面となる上記ロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分に対して局部的に当接し易くなり、これら両面同士の接触面積が小さくなる。この結果、次の様な問題を生じる可能性がある。
【0005】
即ち、スチール製ホイール1の取付板部9の片面が、相手面となるロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分に対して局部的に当接した状態で、各スタッド13とナット14とを緊締すると、これら各スタッド13とナット14との緊締により生ずる押し付け力に基づいて、当該当接部分に大きな応力が発生する。そして、上記取付板部9の一部が塑性変形し易くなる。又、車両の走行状態に於いては、車体の重量や路面からの衝撃等を支承する上記取付板部9は、その周方向に亙る強度及び剛性の不均一を原因に塑性変形し易い状態となる。
【0006】
又、接触面積が小さくなる事に起因して、当接部に生じる摩擦力が大きくなり、摩耗を引き起こし易くする。そして、車体への取り付け当初に、各スタッド13とナット14との緊締を適正(複数組のスタッド13とナット14との締め付けトルクを均一)に行なっていた場合にも、車両の走行により上記当接部が擦れ合い、摩耗が進行すると、この当接部での接触状態が変化する為、上記スタッド13とナット14との緊締が一部又は複数個所で弛んだ状態となる。これらスタッド13とナット14との弛みは、車両の走行状態に於いて、図示しないタイヤを保持したスチール製ホイール1ががたつかせて、操縦安定性を低下させる原因となる。又、摩耗の進行により、上記取付板部9の片面の一部でその肉厚が薄くなると、強度及び剛性が低下し、塑性変形や疲労破壊を生じる可能性がある。
【0007】
上述の様な問題のうち、車両用ホイールを車体に取り付ける際に用いられるスタッドとナットとの弛みを解消できる車両用ホイールの締結構造が、従来から特許文献1等に記載されて知られている。具体的には、車両用ホイールを車体に対して取り付ける為のナットを、その外周面にテーパ(角度θ1)を持たせたテーパナットとすると共に、取付板部に設けたボルト孔の内周面にテーパ(角度θ2、θ2<θ1)を持たせている。この様な構成を採用する事で、外力に基づいて上記ナットの緊締状態が変化しにくくできる。但し、上記特許文献1に記載された構造は、取付板部の片面と相手面との当接を適正(周方向に亙り均一)にする為の構造ではない為、当接部が摩耗してホイールと相手部材との接触状態が変化すると、上記スタッドとテーパナットとの緊締が一部又は複数個所で弛む可能性がある。
【0008】
【特許文献1】特開平9−99701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、取付板部の片面の耐久性を、特に製造コストを高くする事なく向上させて、取付板部の強度低下を抑え、操縦安定性を確保できる車両用スチール製ホイールを実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車両用スチール製ホイールは、周囲にタイヤを支持する為のリム部と、車体側に設けた取付フランジの取付面に結合固定する為のディスク部とを備える。
そして、上記リム部は、鋼板をプレス加工して大略円筒状としたものである。
又、上記ディスク部は、鋼板をプレス加工して円板状の取付板部の外周縁に円筒部を形成したものであり、この円筒部を上記リム部の軸方向中間部に内嵌した状態で、これら円筒部とリム部とを溶接している。
特に本発明の車両用スチール製ホイールに於いては、上記取付板部の片面で上記取付フランジの取付面若しくはこの取付面に組み付けた他の部材の側面と当接する部分に、この部分の耐久性を向上させる為の仕上加工を施している。
【発明の効果】
【0011】
上述の様に構成する本発明の車両用スチール製ホイールによれば、車体側に設けた取付フランジの取付面若しくはこの取付面に組み付けた他の部材の側面と当接する取付板部の片面の耐久性を向上させ、この取付板部の強度低下を防止できると共に、経年変化によるスタッドとナットとの弛みを防止して、操縦安定性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、仕上加工として、耐摩耗性を向上させる為のめっき処理を施す。耐摩耗性を向上させる為のめっき処理を施す事で、取付板部の片面に摩耗の発生を防止し、この取付板部に強度低下が引き起こす塑性変形や疲労破壊を防止できると共に、経年変化によるスタッドとナットとの弛みを防止して、操縦安定性を確保できる。更に、摩耗粉が浸入する事による各種構成部材の故障等を防止できる。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した様に、仕上加工として、平面度を向上させる為の旋削加工又は平面度及び表面粗さを向上させる為の研削加工を施す。旋削加工を施せば、取付板部の片面の平面度を向上する事で、接触面積を大きく確保して摩耗の発生を低減させると共に、応力集中による強度低下を抑えられる。そして、塑性変形や疲労破壊を防止できると共に、経年変化によるスタッドとナットとの弛みを防止して、操縦安定性を確保できる。又、車体側に設けた取付フランジへの応力集中も抑えられる為、軸受ユニットの軽量化が可能となる。研削加工を施す場合にも、取付板部の片面の平面度及び表面粗さを向上する事で、接触面積を大きく確保して摩耗の発生を低減させ、応力集中による強度低下を抑えられる。そして、塑性変形や疲労破壊を防止できると共に、経年変化によるスタッドとナットとの弛みを防止して、操縦安定性を確保できる。又、車体側に設けた取付フランジへの応力集中も抑えられる為、軸受ユニットの軽量化が可能となる。
【実施例】
【0013】
図1、2は、請求項1、2に対応する、本発明の実施例を示している。尚、本発明の特徴は、ディスク部8の取付板部9の片面で車体への取付時に相手面となるロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分と当接する部分に、この部分の耐久性を向上させる為の仕上加工として、耐摩耗性を向上させる為のめっき処理を施している点にある。その他の部分に就いては、前述の図3、4に示した従来構造と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0014】
本実施例の場合、図2に梨地模様で示した部分、即ち、車体への取付時に、円環状凹溝16を形成した面と反対側の面である軸方向内側面で、突出部17、17に対応して凹んだ部分を除いた部分を、軸受ユニット6の取付フランジ7に重ね合わせたロータ18の軸方向外側面の、内径寄り部分に当接させる。この為、上記円環状凹溝16と反対側の面である軸方向内側面に、耐久性を向上させる為の仕上加工として、耐摩耗性を向上できるめっき処理を施し、皮膜25(図1に斜格子で示す)を形成している。従って、上記スチール製ホイール1を車体へ取り付けた状態では、上記円環状凹溝16を形成した面と反対側の面である、軸方向内側面の内径寄り部分は、上記ロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分に、上記皮膜25を介して接触する。この為、プレス加工のみでは、上記円環状凹溝16の軸方向内側面に所望形状(ロータ18の軸方向外側面の内径寄り部分に対し平行となる形状)を得られない場合にも、この円環状凹溝16の軸方向内側面の摩耗を抑えられる。摩耗を抑えられる事により、当接部の肉厚が極端に小さくなる事を防止し、上記円環状凹溝16を設けた取付板部9の塑性変形や疲労破壊を防止できると共に、経年変化によるスタッドとナットとの弛み及びホイール振動を防止して、操縦安定性を確保した構造を実現できる。
【0015】
尚、耐摩耗性を向上させる為のめっき処理としては、電気めっきの一種である硬質クロムめっき、スズ‐コバルトめっき等を用いる事もできるし、例えば、溶融めっき等であっても利用できる。又、皮膜25を構成する金属の種類を適切に選択する事により、耐摩耗性の向上と共に、防食性、耐熱性、潤滑性等の向上を図る事も可能である。
【0016】
又、請求項3に対応する旋削加工及び研削加工を施す場合にも、本実施例の耐摩耗性を向上させる為のめっき処理と同一箇所、即ち、図2に梨地模様で示す上記円環状凹溝16を形成した面と反対側の面である、軸方向内側面に施す事ができる。
尚、平面度を向上させる為の旋削加工を施す場合、スチール製ホイールの原材料となる鋼板に、旋削加工後も必要な厚さを確保すべく、この鋼板の厚さ及びその旋削量を規制する。
又、平面度及び表面粗さを向上させる為の研削加工を施す場合、研削加工中に、熱が発生し易く、この熱が上記円環状凹溝16の軸方向内側面の平面度を低下させる恐れがある為、冷却効果と潤滑効果とを有し、砥粒の切削能力を高めると共に表面粗さの向上を図れる、クーラントを使用する事が好ましい。
【0017】
又、仕上加工として旋削加工又は研削加工を施した後に、耐摩耗性を向上できるめっき処理を施す事も可能である。予め取付板部の片面の平面度を向上させる事で、接触面積を大きく確保できる様にし、局部的な当接が生じる事を防止した上で、平面度の向上した上記取付板部の片面にめっき処理を施し、皮膜で覆う。この皮膜を介して相手面と当接する様にする事で、摩耗の発生をより有効に防止できる。この様に構成する事で、前述した様に取付板部の塑性変形や疲労破壊をより有効に防止できると共に、経年変化によるスタッドとナットとの弛みを防止して、操縦安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例を示す断面図
【図2】本発明の実施例を説明する為に、取付板部を軸方向内側から見た状態で示す模式図
【図3】従来構造のスチール製ホイールを示す断面図
【図4】従来構造のスチール製ホイールを軸受ユニットに取り付けた状態で示す断面図
【符号の説明】
【0019】
1 スチール製ホイール
2 リム部
3 フランジ
4 ビードシート部
5 ドロップ部
6 軸受ユニット
7 取付フランジ
8 ディスク部
9 取付板部
10 円筒部
11 ハブ
12 ハブ孔
13 スタッド
14 ナット
15 ボルト孔
16 円環状凹溝
17 突出部
18 ロータ
19 ナックル
20 外輪
21 固定側フランジ
22 ボルト
23a、23b 外輪軌道
24 取付孔
25 皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲にタイヤを支持する為のリム部と、車体側に設けた取付フランジの取付面に結合固定する為のディスク部とを備え、このうちのリム部は、鋼板をプレス加工して大略円筒状としたものであり、同じくディスク部は、鋼板をプレス加工して円板状の取付板部の外周縁に円筒部を形成したものであり、この円筒部を上記リム部の軸方向中間部に内嵌した状態で、これら円筒部とリム部とを溶接して成る車両用スチール製ホイールに於いて、上記取付板部の片面で上記取付フランジの取付面若しくはこの取付面に組み付けた他の部材の側面と当接する部分に、この部分の耐久性を向上させる為の仕上加工を施している事を特徴とする車両用スチール製ホイール。
【請求項2】
仕上加工が耐摩耗性を向上させる為のめっき処理である、請求項1に記載した車両用スチール製ホイール。
【請求項3】
仕上加工が平面度を向上させる為の旋削加工又は平面度及び表面粗さを向上させる為の研削加工である、請求項1に記載した車両用スチール製ホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−27293(P2006−27293A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204178(P2004−204178)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)