説明

車両用スライドドアのガイドローラ

【課題】 レールからの脱落をより確実に防止することが可能なベアリングタイプのガイドローラを提供する。
【解決手段】 支持部材10にかしめ固着される支持軸21と、該支持軸21の外周を囲むように複数のベアリング26を介して配置される軸受鋼からなるリング状の外輪28と、該外輪28の外周面を覆う合成樹脂製の被覆部材32と、からガイドローラ20を構成し、リング状の外輪28は、外周面上端に鍔部29が一体形成され、支持軸21は、その上端がリング状の外輪の上端面から突出しているので、仮に被覆部材32が破損したとしても、鍔部29がレールと干渉するので、より確実にガイドローラ20のレールからの脱落を防止することができると共に、支持軸21の支持部材10に対する固着構造にかしめを用いることができ、容易且つ安価に支持軸21を支持部材10に固着することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側に設けられるレールに沿って転動するガイドローラであって、スライドドアに連結される支持部材に回転自在に軸支されるガイドローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のスライドドアは、車体開口部の上縁部に設けたアッパレール、車体開口部に隣接する車体後部側壁の高さ方向中央部に設けたセンタレール及び車体開口部の下縁部に設けたロアレールに、スライドドアの前端上部に設けたアッパガイドローラ、後端の高さ方向中央部に設けたセンタガイドローラ及び前端下部に設けたロアガイドローラをそれぞれ転動可能に係合させて、スライドドアを車体側壁に沿ってスライド可能に支持し、このスライドドアのスライドにより開閉できるようになっている。
【0003】
ところで、スライドドアのガイドローラとして、例えば、特開2003−176661号公報に示されるように、外輪の外周に合成樹脂を被覆したベアリングタイプのローラが使用されている。このようにベアリングタイプのガイドローラが使用される理由として、ガイドローラが部品点数の少ない樹脂ソリッドのローラとして構成されたものを使用した場合に、スライドドアの荷重によって樹脂ソリッドローラが偏摩耗してスムーズな回転が妨げられ、最悪の場合に、樹脂ソリッドローラが破損してスライドドアが車体から脱落するという欠点があるためである。ベアリングタイプのガイドローラであれば、少なくともローラの構造体が金属(軸受鋼)よりなる外輪であるため、ローラ自体が割れ難く、仮に樹脂部が破損してもスライドドアが車体から脱落し難いという利点がある。
【特許文献1】特開2003−176661号公報(図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特開2003−176661号公報に示されるガイドローラは、外輪の外周面及び上端面を樹脂部で被覆しているので、仮に樹脂部が破損した場合には、ローラの構造体が外輪であっても、レールからガイドローラが脱落するのを確実に防止するとは言い難い構造となっている。また、樹脂部は、支持軸の上端面も覆っているので、支持軸を支持部材に固着する際に、かしめなどの比較的容易な固着構造を用いることが困難であり、複雑な固着構造となる恐れがある。さらに、上記特開2003−176661号公報に示されるガイドローラでは、ローラの複数のベアリングと当接する外輪の軌道凹部及び支持軸の軌道凹部の摩耗に対して有効な対応策が施されておらず、また、スライドドアが装着されたままで行なわれるED塗装時における温度によって合成樹脂製の被覆部材にガイドレールと当接していた部分がフラットな面として残存してしまい、使用時にスライドドアのスムーズな移動を妨げるという問題があった。本発明は、上記した事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、レールからの脱落をより確実に防止することが可能なベアリングタイプのガイドローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明が採用した解決手段を図面を参照して説明すると、請求項1に係る発明は、図1及び図3に示すように、車体外板1(車体側)に設けられるセンタレール3(ガイドレール)に沿って転動するガイドローラ20であって、スライドドア9に連結される支持部材10に回転自在に軸支されるガイドローラ20において、前記ガイドローラ20は、前記支持部材10にかしめ固着される支持軸21と、該支持軸21の外周を囲むように複数のベアリング26を介して配置される軸受鋼からなるリング状の外輪28と、該外輪28の外周面を覆う合成樹脂製の被覆部材32と、から構成され、前記支持軸21は、その上端が前記リング状の外輪上端面から突出することを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、請求項1記載のガイドローラ20において、前記リング状の外輪28の外周面下端にも前記鍔部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載のガイドローラ20において、前記支持軸21の前記ベアリング26が当接する軌道凹部23に高周波焼入れ処理が施されることを特徴とする。
【0008】
さらに、請求項4に係る発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガイドローラ20において、前記被覆部材32が軟化温度の高い46ナイロンを主成分として特殊繊維を混合した繊維強化型合成樹脂よりなることを特徴とする。なお、被覆部材32に混合される特殊繊維としては、アラミド繊維やカーボン繊維が挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明においては、外輪28の外周面上端に鍔部29が形成されているので、仮に被覆部材32が破損したとしても、鍔部29がレールと干渉するので、従来に比し、より確実にガイドローラ20のレールからの脱落を防止することができる。又、支持軸21の上端が外輪28の上端面から突出しているので、支持軸21の支持部材10に対する固着構造にかしめを用いることができ、従来に比し、容易且つ安価に支持軸21を支持部材10に固着することができる。
【0010】
請求項2に係る発明においては、外輪28の外周面下端にも鍔部29を形成して被覆部材32を鍔部29で挟持しているので、外輪28からの被覆部材32の脱落を防止することができる。
【0011】
請求項3に係る発明においては、支持軸21の軌道凹部23に高周波焼入れ処理を施したので、かしめによる固着構造を確保しつつガイドローラ20とベアリング26との摩耗を抑制することができる。
【0012】
請求項4に係る発明においては、被覆部材32を軟化温度の高い46ナイロンを主成分として特殊繊維を混合した繊維強化型合成樹脂としたので、強度を高めることができると共にED塗装時における温度によって合成樹脂製の被覆部材23のレールと当接していた部分がフラットな面となることはないので、ガイドローラのレールに対するスムーズな転動を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る車両用スライドドアのガイドローラの一実施形態について図1乃至図3を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るガイドローラ20が適用されるセンタレール部分の断面図であり、図2は、ガイドローラ20が適用されるセンタガイドローラ機構10の概略を示す正面図(A)、平面図(B)、右側面図(C)であり、図3は、ガイドローラ20の内部構造を示す一部破断正面図である。
【0014】
車両のスライドドアは、前述したように、車体開口部の上縁部に設けたアッパレール、車体開口部に隣接する車体後部側壁の高さ方向中央部に設けたセンタレール及び車体開口部の下縁部に設けたロアレールに、スライドドアの前端上部に設けたアッパガイドローラ、後端の高さ方向中央部に設けたセンタガイドローラ及び前端下部に設けたロアガイドローラをそれぞれ転動可能に係合させて、スライドドアを車体側壁に沿ってスライド可能に支持し、このスライドドアのスライドにより開閉できるようになっている。図示の実施形態は、本発明に係るガイドローラを上記のセンタガイドローラ機構10に適用したものを示している。
【0015】
図1に示すように、センタレール3は、車体外板1の後部側壁に断面ほぼコ字状で開口が側方に開放する凹部2内に取り付けられている。そして、センタレール3は、上方にガイドローラ20が収納されるガイドローラ室4と支持ローラ15が収納される支持ローラ室5とが上下に連通するように形成されている。ガイドローラ室4と支持ローラ室5とを仕切る一方の側壁からは仕切り突片6が内側に向かって突設されている。この仕切り突片6は、センタレール3からガイドローラ20が脱落しないようにして、結果的にスライドドア9が脱落しないようにするためのものである。なお、凹部2は、着脱自在なセンタレールカバー7によって覆われるが、そのセンタレールカバー7の下端内側には、センタレール3と当接して間隔を保持する間隔保持部材8が固着されている。
【0016】
上記のように構成されるセンタレール3には、センタガイドローラ機構10の支持ローラ15とガイドローラ20とが転動可能に係合されてセンタガイドローラ機構10の支持部材11を介してスライドドア9と連結されている。ここで、センタガイドローラ機構10について図1及び図2を参照して説明する。
【0017】
センタガイドローラ機構10は、クランク状に形成された支持部材11と、該支持部材11の一端上部に形成される支持ローラ取付片12及びガイドローラ取付片13に回転自在に取り付けられる支持ローラ15及びガイドローラ20と、から構成されている。より詳細には、支持部材11の一端辺(上端側)は、垂直方向に起立しており、その起立した中央部分が支持ローラ取付片12となっており、起立した左右両側がさらに水平方向に突設されてガイドローラ取付片13となっている。支持ローラ取付片12には、支持ローラ15を回転自在に軸支する支持軸14がかしめ固着されている。また、ガイドローラ取付片13には、ガイドローラ20を回転自在に軸支する支持軸21がかしめ固着されている。一方、支持部材11の他端辺は、下方に向かって垂下されてスライドドア9と連結するための取付片となっている。
【0018】
上記のように構成されるセンタガイドローラ機構10は、支持ローラ15がセンタレール3の支持ローラ室5に収納されてスライドドア9のスライド移動に伴って支持ローラ室5の底面と当接しながら転動し、ガイドローラ20がセンタレール3のガイドローラ室4に収納されてスライドドア9のスライド移動に伴ってガイドローラ室4の左右の側面と当接しながら転動するようになっている。なお、支持ローラ15は、その外周に合成樹脂又はゴム製の被覆部材が被覆されたベアリングタイプのローラで構成されるが、本発明の要旨を構成するガイドローラ20と同じ構造であっても良い。
【0019】
次に、ガイドローラ20の詳細な構成について主として図3を参照して説明する。ガイドローラ20は、前記支持部材10のガイドローラ取付片13にかしめ固着される支持軸21と、該支持軸21の外周を囲むように複数のベアリング26を介して配置されるリング状の外輪28と、該外輪28の外周面を覆う合成樹脂製の被覆部材32と、から構成されている。
【0020】
支持軸21は、中炭素鋼(例えば、S35C)の円柱部材によって形成され、そのほぼ中程にかしめ固着した際にガイドローラ取付片13に当接する挟持突起22が形成されると共に、その上下端面にかしめ用の押圧部材が当接されるかしめ用凹部24,25が形成されている。また、支持軸21の上方部分には、ベアリング26が当接する円弧状の軌道凹部23が形成されている。そして、この軌道凹部23部分には、高周波焼入れ処理が施されている。このように、支持軸21を中炭素鋼で構成することにより、支持軸21を前記ガイドローラ取付片13にかしめ固着し易くしていると共に、摩耗が予測される軌道凹部23に対しては、高周波焼入れすることにより、ベアリング26との摩擦摩耗に対して耐久性を有するように構成されている。なお、高周波焼入れ処理することにより、軌道凹部23の硬度は、Hv700以上となっている。更に、支持軸21の全体がリン酸マンガンによる防錆処理が施されている。
【0021】
また、上記した支持軸21と外輪28との間には、複数のベアリング26がリテーナ27によって等間隔に配置されるようになっている。ベアリング26の間にはグリス油が塗布されている。また、支持軸21の外周を囲むように配置されるリング状の外輪28は、外周面上端に鍔部29が一体形成されると共にその内周面に前記ベアリング26が当接する円弧状の軌道凹部30が形成され、さらにその外周面の上下2箇所に被覆部材32と係合する脱落防止凹部31が形成されている。そして、外輪28は、軸受鋼(例えば、SUJ−2)によって構成されていると共にその全体に真空焼入れ処理が施されている。このように、外輪28の全体を真空焼入れ処理することにより、軌道凹部30の硬度がHRc58〜65となっているため、ベアリング26との摩擦摩耗に対して耐久性を有するように構成されている。
【0022】
合成樹脂製の被覆部材32は、66ナイロンよりも軟化温度の高い46ナイロンを主成分としてアラミド繊維やカーボン繊維等の特殊繊維を10wt%以下(望ましくは2〜6wt%)混合した繊維強化型合成樹脂によって構成されている。そして、この被覆部材32は、インサート成型によって外輪28の外周面を被覆するように設けられるが、被覆部材32を被覆したときには、被覆部材32の上端が外輪28の鍔部29に掛けとめられ且つ被覆部材32が脱落防止凹部31に係合するので、外輪28から合成樹脂製の被覆部材32が脱落することがなく、さらに、合成樹脂製の被覆部材32を軟化温度の高い46ナイロンを主成分として特殊繊維を混合した繊維強化型合成樹脂としたので、強度を高めることができると共にED塗装時における温度によって合成樹脂製の被覆部材32のガイドレールと当接していた部分がフラットな面となることはない。このため、スライドドア9のスムーズな移動を維持することができる。また、外輪28の下端にも鍔部29を形成して被覆部材32を鍔部29で挟持する形態としても、当然のことながら、外輪28から合成樹脂製の被覆部材32の脱落を防止することができる。
【0023】
さらに、外輪28の外周面上端に形成された鍔部29は、被覆部材28によって覆われておらず、ガイドローラ室4の左右の側面と当接可能となっている。このため、仮に被覆部材32が破損したとしても、真空焼入れ処理により摩耗し難くなっている鍔部29が左右の側面と干渉することで、より確実にガイドローラ20がガイドローラ室4から脱落することを防止し、如いては、センタガイドローラ機構10がセンタレール3から脱落してスライドドアが車体から脱落することを防止している。
【0024】
図3に示されるガイドローラ20の組み立て状態において、支持軸21の上端は、外輪28の上端面より上方(図3示上方)に突出している。この場合、ガイドローラ20をガイドローラ取付片13に取り付ける際に、外輪28を支持軸21に配置した状態で、支持軸21を治具などで保持することができる。これにより、支持軸21をガイドローラ取付片13にかしめ固着することができ、比較的容易な固着構造を用いてガイドローラ20をガイドローラ取付片13に取り付けることができる。
【0025】
以上説明した支持軸21とベアリング26と外輪28と被覆部材32とからなるガイドローラ20においては、支持軸21を外輪28に組み込んだ状態でその上面及び下面がシールリング33で密封されて内部に異物が混入しないようになっている。
【0026】
なお、上記に説明してきた実施形態においては、ガイドローラ20をセンタガイドローラ機構10に組み込んだ場合について説明してきたが、アッパガイドローラ機構又はロアガイドローラ機構に組み込まれるガイドローラに対しても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るガイドローラが適用されるセンタレール部分の断面図である。
【図2】ガイドローラが適用されるセンタガイドローラ機構の概略を示す正面図(A)、平面図(B)、右側面図(C)である。
【図3】ガイドローラの内部構造を示す一部破断正面図である。
【符号の説明】
【0028】
3 センタレール(ガイドレール)
9 スライドドア
10 センタガイドローラ機構
11 支持部材
12 支持ローラ取付片
13 ガイドローラ取付片
15 支持ローラ
20 ガイドローラ
21 支持軸
23 軌道凹部
24 かしめ用凹部
25 かしめ用凹部
26 ベアリング
28 外輪
29 鍔部
30 軌道凹部
32 被覆部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に設けられるレールに沿って転動するガイドローラであって、スライドドアに連結される支持部材に回転自在に軸支されるガイドローラにおいて、
前記ガイドローラは、前記支持部材にかしめ固着される支持軸と、該支持軸の外周を囲むように複数のベアリングを介して配置される軸受鋼からなるリング状の外輪と、該外輪の外周面を覆う合成樹脂製の被覆部材と、から構成され、
前記リング状の外輪は、少なくとも外周面上端に鍔部が一体に形成され、
前記支持軸は、その上端が前記リング状の外輪の上端面から突出することを特徴とする車両用スライドドアのガイドローラ。
【請求項2】
前記リング状の外輪の外周面下端にも前記鍔部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用スライドドアのガイドローラ。
【請求項3】
前記支持軸の前記ベアリングが当接する軌道凹部に高周波焼入れ処理が施されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用スライドドアのガイドローラ。
【請求項4】
前記被覆部材が軟化温度の高い46ナイロンを主成分として特殊繊維を混合した繊維強化型合成樹脂よりなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用スライドドアのガイドローラ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−28882(P2006−28882A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209101(P2004−209101)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】