説明

車両用ドア

【課題】車両用ドアの剛性を確保しつつ、その重量を効果的に低減できるとともに、熱膨張率が異なる材料で構成されたアウタパネルおよびインナパネルを有する車両用ドアの電着塗装後の焼付工程でドア本体部が変形するのを簡単な構成で効果的に抑制できるようにする。
【解決手段】アウタパネルとインナパネルとを有する車両用ドアであって、上記アウタパネルを構成する材料の熱膨張率がインナパネルを構成する材料よりも大きい素材で形成され、上記アウタパネルの下辺部5およびその両端部から上方に延びる両側辺部6が上記インナパネルの端部を抱持するように折り返されたヘム加工部8が形成されるとともに、該ヘム加工部8におけるアウタパネルとインナパネルとが上記車両用ドアの電着塗装後の焼付温度よりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤で接合された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタパネルとインナパネルとを有する車両用ドアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車を利用する際に生じる環境負荷を低減する方法としては、駆動源であるエンジンの燃費性能を向上したり、電動モータとエンジンとを併用したり、あるいは電気自動車としたりすること等が考えられているが、車体を軽量化すれば、燃費性能を効果的に向上することができ、ひいては環境負荷の低減に対する寄与度も大きくなる。そこで、車体鋼板材料をハイテン化(高張力鋼化)して薄肉化すること、あるいは軽合金材料であるアルミニウム合金の適用や、樹脂材の適用等が検討されている。
【0003】
一方、自動車の車体には高い安全性が求められるため、フレーム等の骨格部材をスチールで形成するとともに、パネル部品をアルミニウム合金や合成樹脂材で形成し、あるいはドア、トランクリッド等のクロージャ部材からなるアウタパネルとインナパネルとの連結構造体をスチール材とアルミニウム合金または樹脂材との組合せで形成することが行われている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、アウタパネルとインナパネルとを備えた車両用ドアにおいて、上記アウタパネルとインナパネルとを熱膨張係数の異なる材料で構成するとともに、上記両パネルの外周側を締結部材により結合し、上記締結部材を、上記両パネルが車体に取り付けられる際の第1締結状態と、上記両パネルの塗装工程の加熱時における熱膨張差を許容する第2締結状態とに切り替えるように構成することにより、アウタパネルとインナパネルとを異種材料にすることでドアの軽量化と剛性の確保とを両立させる場合に、アウタパネルとインナパネルとを同時に塗装して色調を合わせることができ、かつその塗装工程の加熱時に起こる不具合を抑制できるようにした車両用ドアが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−173079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、車両用ドアを構成するアウタパネルとインナパネルとにより構成された車両用ドアは、その端部に位置するアウタパネル部材を車室内側に向けて、つまりインナパネルの端部を覆うようにヘミング加工されるとともに、そのヘミング加工部における両パネル間のシール性を確保するために接着剤を充填すること等が行われている。
【0007】
そして、上記車両用ドアのアウタパネルをアルミニウム合金板材で形成するとともに、インナパネルをスチール板材で形成した場合には、両材の熱膨張率が大きく異なり、かつ上記接着剤が塗装焼付工程で硬化することに起因して、該塗装焼付工程でアウタパネルとインナパネルとが熱膨張差を生じた状態で固着され、焼付工程が終わって車両用ドアが常温に戻るのに応じて変形することが避けられない。
【0008】
上記特許文献1に開示された車両用ドアでは、塗装焼付工程で熱膨張することが許容されるため、焼付工程後における変形を抑制することが可能である。しかし、車両用ドアの製造工程で、上記のようにアウタパネルとインナパネルを第1締結状態と第2締結状態とに切り替えるという繁雑な作業が必要であった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、車両用ドアの剛性を確保しつつ、その重量を効果的に低減できるとともに、熱膨張率が異なる材料で構成されたアウタパネルおよびインナパネルを有する車両用ドアの電着塗装後の焼付工程でドア本体部が変形する不具合を簡単な構成で効果的に抑制できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、アウタパネルとインナパネルとを有する車両用ドアであって、上記アウタパネルを構成する材料の熱膨張率がインナパネルを構成する材料よりも大きい素材で形成され、上記アウタパネルの下辺部およびその両端部から上方に延びる両側辺部が上記インナパネルの端部を抱持するように折り返されたヘム加工部が形成されるとともに、該ヘム加工部におけるアウタパネルとインナパネルとが上記車両用ドアの電着塗装後の焼付温度よりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤で接合されたものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両用ドアにおいて、上記アウタパネルがアルミニウム合金で形成されるとともに、上記インナパネルが鋼合金で形成されたものである。
【0012】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に記載の車両用ドアにおいて、上記アウタパネルがAl−Mg系合金もしくはAl−Mg−Si系合金で形成されるとともに、上記インナパネルが低炭素鋼で形成されたものである。
【0013】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ドアにおいて、上記ヘム加工部におけるアウタパネルとインナパネルとが常温硬化型の接着剤で接合されたものである。
【0014】
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用ドアにおいて、上記アウタパネルとインナパネルとの間に配設された強度部材と、アウタパネルの裏面とが、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が3〜5の範囲内のマスチックシーラにより接合されたものである。
【0015】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用ドアにおいて、上記アウタパネルとインナパネルとの間に配設された強度部材と、アウタパネルの裏面との間にシート状制振材が貼付されたものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、アウタパネルの下辺部およびその両端部から上方に延びる両側辺部が上記インナパネルの端部を抱持するように折り返されたヘム加工部が形成されるとともに、該ヘム加工部におけるアウタパネルとインナパネルとが上記車両用ドアの電着塗装後の焼付温度よりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤で接合されるよう構成したため、熱膨張率が異なる材料で形成されたアウタパネルおよびインナパネルが車両用ドアの電着塗装後の焼付工程で加熱されることに起因した変形がドア本体部に生じるのを簡単な構成で効果的に抑制できるという利点がある。なお、電着塗装後の焼付温度よりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤を用いる理由は、一般的に電着塗装後の焼付温度は150℃〜180℃の範囲が設定されることが多く、その昇温過程で硬化する温度が100℃前後以下の接着剤とすることで、アウタパネルとインナパネルの大きな熱膨張差が生じる前に接着硬化させることができ、冷却後における変形を抑制することが可能となるためである。
【0017】
請求項2に係る発明では、ドア本体部の外面全体を覆うように設置されたアウタパネルをアルミニウム合金で形成したため、ドア本体部の重量を効果的に低減できるとともに、各種部品の取付孔等が設けられた上記インナパネルを剛性の高い鋼合金で形成したため、複雑な形状を有する該インナパネルを容易かつ適正に成形できるとともに、車両用ドアの剛性を充分に確保できるという利点がある。
【0018】
請求項3に係る発明では、ドア本体部のアウタパネルをAl−Mg系合金もしくはAl−Mg−Si系合金で形成するとともに、上記インナパネルを低炭素鋼で形成したため、ドア本体部の重量を、より効果的に低減しつつ、車両用ドアの剛性を充分に向上できるという利点がある。
【0019】
請求項4に係る発明では、上記ヘム加工部におけるアウタパネルとインナパネルとを常温硬化型の接着剤で接合したため、熱膨張率が異なる材料で形成されたアウタパネルおよびインナパネルが車両用ドアの電着塗装後の焼付工程で加熱されることに起因した変形が生じるのを簡単な構成で、より効果的に抑制できるという利点がある。
【0020】
請求項5に係る発明では、上記アウタパネルとインナパネルとの間に配設された強度部材と、アウタパネルの裏面とを、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が3〜5の範囲内のマスチックシーラにより接合したため、車両用ドアの電着塗装後の焼付工程で加熱され後にドア本体部が冷却される際に、アウタパネルの熱収縮が上記マスチックシーラにより阻害されるのを防止して、上記強度部材の設置部におけるアウタパネルの膨出を効果的に解消できるという利点がある。
【0021】
請求項6に係る発明では、上記アウタパネルとインナパネルとの間に配設された強度部材と、アウタパネルの裏面との間にシート状制振材を貼付したため、ドア本体部内に設けられた強度部材の表面とアウタパネルの裏面とを接合するマスチックシーラを省略した場合においても、ドア閉止時や車両の走行時等にアウタパネルが振動するのを抑制でき、またアウタパネルの強度や剛性を確保できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る車両用ドアの第1実施形態を示す外側面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】ドア本体部の構造を示す内側面図である。
【図4】ドア本体部の下辺部を示す斜視図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】車両用ドアの比較例における変形状態を示す説明図である。
【図7】車両用ドアの変形データを示す表である。
【図8】車両用ドアの比較例における変形作用を示す平面断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態における変形状態を示す説明図である。
【図10】車両用ドアの比較例における変形作用を示す説明図である。
【図11】車両用ドアの第2実施形態における変形作用を示す平面断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態における変形状態を示す説明図である。
【図13】本発明の第3実施形態における変形状態を示す説明図である。
【図14】本発明の第4実施形態を示す車両用ドアの内側面図である。
【図15】本発明に係る車両用ドアをバックドアに適用した例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜図3は、本発明に係る車両用ドアの第1実施形態を示している。該第1実施形態における車両用ドアは、車室の側面部に設置されるサイドドアであって、その略下半部を構成するドア本体部1と、その上方に設置された窓枠部2とを備えている。上記ドア本体部1は、車外側に位置するアウタパネル3と、車内側に位置するインナパネル4とを有し、該アウタパネル3がAl−Mg系合金もしくはAl−Mg−Si系合金等からなるアルミニウム合金で構成されるとともに、上記インナパネル4がアウタパネル3を構成する材料よりも熱膨張率が小さい素材、例えば低炭素鋼等からなる鋼合金で構成されている。
【0024】
上記ドア本体部1の下辺部5と、該下辺部5の前後両側端部から上方に延びる側辺部、つまりドア本体部1の前辺部6と後辺部7とには、図4および図5に示すように、アウタパネル3の下端部をインナパネル4側へ約180°の角度をもって車室内側に折り返すことにより、該インナパネル4の端部を抱持するヘム加工部8が形成されている。
【0025】
また、上記ヘム加工部8の設置部、つまりドア本体部1の下辺部5および前後両側辺部6,7におけるアウタパネル3の裏面(車室内側面)とインナパネル4の表面(車室外側面)とは、上記車両用ドアの電着塗装後の焼付温度よりも低い温度で硬化する接着剤、例えば常温硬化型のエポキシ系接着剤9により接合されている。
【0026】
さらに、上記ドア本体部1内には、アウタパネル3とインナパネル4との間に配設されてレインフォースメント10からなるアウタパネル3の振動防止用強度部材が車両の前後方向に延びるように設置されるとともに、その下方においてインパクトバー11からなる側突時の変形防止用強度部材が車両の前後方向に延びるように設置されている。そして、上記レインフォースメント10およびインパクトバー11からなる強度部材の表面と、上記アウタパネル3の裏面とは、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が10〜12範囲内のマスチックシーラ12により接合されるようになっている。
【0027】
上記のようにアウタパネル3とインナパネル4とを有する車両用ドアにおいて、上記ドア本体部1のアウタパネル3を、インナパネル4よりも熱膨張率が大きい素材で形成し、上記アウタパネル3の下辺部5およびその両端部から上方に延びる前後両側辺部6,7を上記インナパネル4の端部の抱持方向に折り返してヘム加工部8を形成するとともに、該ヘム加工部8におけるアウタパネルとインナパネルとを上記車両用ドアの電着塗装後の焼付温度よりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤で接合したため、車両用ドアの剛性を確保しつつ、その重量を効果的に低減できるとともに、車両用ドアの電着塗装後の焼付工程後におけるドア本体部1の変形を簡単な構成で効果的に抑制できるという利点がある。なお、電着塗装後の焼付温度が約180℃である場合、これよりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤として、例えば住友スリーエム(株)製エポキシ系接着剤EW2050(硬化温度、80℃)等も用いることができる。
【0028】
すなわち、上記第1実施形態では、ドア本体部1の外面全体を覆うように設置されたアウタパネル3をアルミニウム合金で形成したため、ドア本体部1の重量を効果的に低減することができる。また、ドア本体部1の車室内側に配設されるとともに、各種部品の取付孔等が設けられた上記インナパネル4を剛性の高い鋼合金で形成したため、複雑な形状を有する該インナパネル4を容易かつ適正に成形できるとともに、車両用ドアの剛性を充分に確保できるという利点がある。特に、上記のようにドア本体部1のアウタパネル3をAl−Mg系合金もしくはAl−Mg−Si系合金からなるアルミニウム合金で形成するとともに、上記インナパネル4を低炭素鋼で形成した場合には、ドア本体部1の重量を、より効果的に低減しつつ、車両用ドアの剛性を充分に向上できるという利点がある。
【0029】
そして、上記ドア本体部1の下辺部5および前後両側辺部6,7に位置するアウタパネル3とインナパネル4との間に、ドア本体部1に施された電着塗装後の焼付工程で所定温度(例えば160℃〜180℃)に加熱されることにより硬化する熱硬化性接着剤(硬化温度、約150℃)を塗布した状態で、アウタパネル3の下辺部5および前後両側辺部6,7に設けられたヘム加工部8によりインナパネル4の端部を抱持するように構成した場合には、上記ドア本体部1に電着塗装を施した後に、その焼付工程でドア本体部1が高温に加熱されることにより生じる上記アウタパネル3およびインナパネル4の熱膨張差に応じ、ドア本体部1を車外側から見て、その前後両側辺部の下方部分が車外側に大きく突出するように変形するとともに、ドア本体部1の下辺部中央部分が車室内側に大きく凹入するように変形するという事態が生じていた。
【0030】
例えば、上記ドア本体部1のアウタパネル3を、Al−Mg−Si系合金板で0.9mmの板厚を有するものを使用して形成するとともに、ドア本体部1のインナパネル4を、GAメッキ鋼板で0.6mmの板厚を有するものを用いてドア本体部1を形成し、該ドア本体部1の下辺部5および前後両側辺部6,7に位置するアウタパネル3とインナパネル4との間に硬化温度が140℃〜155℃のエポキシ系の熱硬化性接着剤を塗布した状態で、アウタパネル3の下辺部5および前後両側辺部6,7に設けられたヘム加工部8によりインナパネル4の端部をカシメ成形してなる比較例の第1,第2試験品において、その電着塗装後の焼付工程でドア本体部1を180℃に加熱した後、その温度を常温に低下させて変形を測定するシミュレーション実験を行ったところ、図6(a),(b)および図7に示すように、ドア本体部1の前後両側辺部下方部分が大きく車外側に大きく突出してその最大突出量A1,A2が2.1mmおよび1.3mmとなるとともに、ドア本体部1の下辺部中央部分が車内側に大きく凹入してその最大凹入量B1,B2がそれぞれ−1.2mmとなることが確認された。
【0031】
その理由は、上記車両用ドアの電着塗装後の焼付工程でドア本体部1が180℃に加熱されることにより、図8(a)に示すように、アウタパネル3およびインナパネル4間に熱膨張差が生じてアウタパネル3がインナパネル4よりも大きく熱膨張した状態で、上記エポキシ系の熱硬化性接着剤9′が硬化するとともに、上記ドア本体部1の下辺部および前後両側辺部6,7に位置するアウタパネル3とインナパネル4とが上記ヘム加工部8により強固に係止されてその相対変位が規制された状態で、上記ドア本体部1の温度が常温に低下するのに応じ、アウタパネル3およびインナパネル4の間に熱膨張率差が生じてアウタパネル3がインナパネル4よりも大きく熱収縮し、図8(a)の熱膨張量の差に対応して、図8(b)に示すように、ドア本体部1が平面視で湾曲した状態に変形するためであると考えられる。
【0032】
これに対して上記比較例で使用した熱硬化性接着剤9′、つまり電着塗装後の焼付中に140℃〜155℃程度の温度で硬化する接着剤に代えて、上記第1実施形態のようにヘム加工部8が設けられたドア本体部1の下辺部5および前後両側辺部6,7に位置するアウタパネル3とインナパネル4との間に車両用ドアの電着塗装後の焼付温度よりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤9を塗布してアウタパネル3とインナパネル4とを接合するように構成した場合には、該アウタパネル3およびインナパネル4が車両用ドアの電着塗装後の焼付工程で加熱されることに起因した変形が上記ドア本体部1の下辺部5等に生じるのを簡単な構成で効果的に抑制することができる。
【0033】
例えば、上記比較例と同様の材料で形成されたドア本体部1の下辺部5および前後両側辺部6,7に位置するアウタパネル3とインナパネル4とを、エポキシ系の常温硬化型の接着剤9により接合してなる上記第1実施形態の第1,第2試験品において、その電着塗装後の焼付工程でドア本体部1を180℃に加熱した後、上記ドア本体部1の温度を常温に低下させて変形を測定するシミュレーション実験を行ったところ、図9(a),(b)および図7に示すように、ドア本体部1における車外側への最大突出量A1,A2が1.6mmおよび1.4mmとなるとともに、ドア本体部1における車内側への最大凹入量B1,B2が−0.7mmおよび−0.5mmとなり、その最大変形量の平均値が上記比較例よりも38.2%低減されることが確認された。
【0034】
また、上記ドア本体部1内のインパクトバー11等からなる強度部材の表面とアウタパネル3の裏面とを、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が10〜12の範囲内の一般的なマスチックシーラ12により接合してなる上記比較例および第1実施形態に代え、下記第2実施形態に示すように、ドア本体部1内のインパクトバー11等からなる強度部材の表面とアウタパネル3の裏面とを、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が3〜5の範囲内に設定された低硬度のマスチックシーラ120により接合するように構成してもよい。
【0035】
上記のように硬度が10〜12の範囲内の一般的なマスチックシーラ12を使用した上記比較例および第1実施形態では、上記車両用ドアの電着塗装後の焼付工程でドア本体部1が180℃に加熱されることにより、図10に示すように、熱膨張率が大きいアルミニウム合金製のアウタパネル3がインナパネル4よりも大きく膨張することにより車外側に突出した状態で、所定の硬度を有する上記マスチックシーラ12が硬化することにより、上記ドア本体部1の冷却後においても、上記インパクトバー11の設置部においてアウタパネル3が膨出したままの状態に保持される傾向がある。
【0036】
一方、上記第2実施形態に示すように、アウタパネル3とインナパネル4との間に配設されたインパクトバー11等からなる強度部材とアウタパネル3の裏面とを、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が3〜5の範囲内の低硬度マスチックシーラ120により接合するように構成した場合には、上記ドア本体部1の冷却後に、図11の実線で示すように、アウタパネル3の熱収縮がマスチックシーラ120により阻害されるのを抑制できるため、上記インパクトバー11の設置部におけるアウタパネル3の膨出を効果的に解消することができる。
【0037】
例えば、上記第1実施形態と同様に構成されたドア本体部1のインパクトバー11等からなる強度部材の表面とアウタパネル3の裏面とを、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が3〜5の範囲内に設定されたサンライズMSI社製の商品名「Z66MD」からなる低硬度のマスチックシーラ120により接合した第2実施形態の第1,第2試験品において、その電着塗装後の焼付工程でドア本体部1を180℃に加熱した後、上記ドア本体部1の温度を常温に低下させて変形を測定するシミュレーション実験を行ったところ、図12(a),(b)および図7に示すようなデータが得られた。このデータから、上記第2実施形態の第1,第2試験品では、ドア本体部1における車外側への最大突出量A1,A2が1.1mmおよび0.9mmとなるとともに、ドア本体部1における車内側への最大凹入量B1,B2が−0.5mmおよび−0.4mmとなり、その最大変形量の平均値が上記比較例よりも57.4%低減されることが確認された。
【0038】
また、上記ドア本体部1のインパクトバー11等からなる強度部材の表面とアウタパネル3の裏面とを接合するマスチックシーラを省略してなる第3実施形態の第1,第2試験品において、その電着塗装後の焼付工程でドア本体部1を180℃に加熱した後、上記ドア本体部1の温度を常温に低下させて変形を測定するシミュレーション実験を行ったところ、図13(a),(b)および図7に示すようなデータが得られた。このデータからドア本体部1における車外側への最大突出量A1,A2が0.6mmおよび0.4mmとなるとともに、ドア本体部1における車内側への最大凹入量が−0.4mmおよび−0.3mmとなり、その最大変形量B1,B2の平均値が上記比較例よりも75.0%低減され、かつ上記インパクトバー11の設置部におけるアウタパネル3の車外側への突出が顕著に低減されることが確認された。
【0039】
なお、上記のようにドア本体部1のインパクトバー11等からなる強度部材の表面とアウタパネル3の裏面とを接合するマスチックシーラを省略した場合には、アウタパネル3の裏面の所定部位にシート状制振材を貼付することにより、車両の走行時等にアウタパネル3が振動する抑制し得るように構成することが望ましい。詳細には、図14に示す第4実施形態のように、ドア本体部1内に配設されたレインフォースメント10およびインパクトバー11の設置部を含むアウタパネル3の上方部背面および下方部背面に、ブチル系ゴム製のシート状制振材13等を貼付することが好ましい。この場合には、上記インパクトバー11の設置部におけるアウタパネル3の膨出を防止しつつ、車両の走行時等にアウタパネル3が振動するのを効果的に抑制できるという利点がある。
【0040】
なお、上記実施形態では、車室の側面部に設置されるサイドドアからなる車両用ドアについて本発明を適用した例ついて説明したが、車体の後部に設置されるバックドアについても本発明を適用可能である。例えば、図15に示すように、バックドア本体部1aの下辺部5aおよびその両端部から上方に延びる左右両側辺部6a,7aに位置するアウタパネルを車体の内方側へ折り返されることにより上記インナパネルの端部を抱持するヘム加工部8aを形成するとともに、該ヘム加工部8aにおけるアウタパネルとインナパネルとを車両用ドアの電着塗装後の焼付温度よりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤で接合した構造としてもよい。
【0041】
また、上記バックドア本体部1aのアウタパネル3aとインナパネルとの間に配設された強度部材と、アウタパネル3aの裏面とを、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が3〜5の範囲内の低硬度のマスチックシーラにより接合し、あるいは上記アウタパネル3aの裏面の所定部位にシート状制振材を貼付した構造としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 ドア本体
3 アウタパネル
4 インナパネル
5 下辺部
6 前辺部
7 後辺部
8 ヘム加工部
9 常温硬化型の接着剤
12,120 マスチックシーラ
13 シート状制振材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタパネルとインナパネルとを有する車両用ドアであって、上記アウタパネルを構成する材料の熱膨張率がインナパネルを構成する材料よりも大きい素材で形成され、上記アウタパネルの下辺部およびその両端部から上方に延びる両側辺部が上記インナパネルの端部を抱持するように折り返されたヘム加工部が形成されるとともに、該ヘム加工部におけるアウタパネルとインナパネルとが上記車両用ドアの電着塗装後の焼付温度よりも50℃以上低い温度で硬化する接着剤で接合されたことを特徴とする車両用ドア。
【請求項2】
上記アウタパネルがアルミニウム合金で形成されるとともに、上記インナパネルが鋼合金で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両用ドア。
【請求項3】
上記アウタパネルがAl−Mg系合金もしくはAl−Mg−Si系合金で形成されるとともに、上記インナパネルが低炭素鋼で形成されたことを特徴とする請求項2に記載の車両用ドア。
【請求項4】
上記ヘム加工部におけるアウタパネルとインナパネルとが常温硬化型の接着剤で接合されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ドア。
【請求項5】
上記アウタパネルとインナパネルとの間に配設された強度部材と、アウタパネルの裏面とが、JIS規格のK6253で規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬度が3〜5の範囲内のマスチックシーラにより接合されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用ドア。
【請求項6】
上記アウタパネルとインナパネルとの間に配設された強度部材と、アウタパネルの裏面との間にシート状制振材が貼付されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用ドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−140058(P2012−140058A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292823(P2010−292823)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000135999)株式会社ヒロテック (62)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)