説明

車両用ホイール

【課題】ハット部の位置を最適化することにより、ホイールキャップのデザイン性を向上できるとともに、ホイールの軽量化を図ることができる車両用ホイールを提供する。
【解決手段】外側サイドウォール部2aから湾曲部2bを経て縮径となるドロップ部2cを有するリム2と、外周を軸方向に沿って内側に折り返して成るフランジ10aを有するディスク10とを備え、ディスクの表面から外側に向かって突出しディスクと同心の環状をなすハット部12を有し、ディスクの中心からハット部の頂部12bまでの距離dHと、ディスクの中心からフランジ10aの外周までの距離dmaxとの間に、0.65≦dH/dmax≦0.80の関係がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、農耕用車両、産業用車両等の車両用ホイールに関し、詳しくはリムのドロップ部にディスクを嵌合し溶接した車両用ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用ホイールには強度、重量、コスト等に加え、操縦安定性、NVH(騒音、振動)の向上が要求されている。操縦安定性やNVHはホイール剛性に関係するといわれ、例えばホイール剛性が低いと、ステアリング操作に対する操舵輪の応答に遅れが生じて操縦安定性が低下する。又、一般にディスク面のねじり剛性が低いとねじりモードの固有振動数が低くなり、タイヤの気柱共鳴振動数と共振し、NVHに対して不利になるとされる。
ホイール剛性を向上させることで車両用ホイールの軽量化を図る技術として、ディスクのハット部における径方向の内側斜面に、裏側に向けて湾曲部を形成してホイール剛性を高めたホイールが開示されている(特許文献1参照)。また、ディスクのハット部(突起環部)を省略し、ハブ取付部より外側の環状領域からなるディスク意匠部にディンプル型の椀状曲成部を設けることにより、剛性を確保して意匠性を向上させたホイールが開示されている(特許文献2参照)。
一方、スチールホイールとして、ディスクとリムのドロップ部とを溶接接合する2ピース構造のホイールが普及している。この型のホイールは、例えば図8に示すように、スチール製ディスク100の外縁を折返し、軸方向に沿って内側に延設してフランジ100aを形成し、フランジ外面をリム20のドロップ部20c内面に嵌合し、両者の嵌合部50の内側をアーク溶接して製造される(特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−180202公報
【特許文献2】特開2006−082733公報
【特許文献3】特許3460764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の車両用ホイールの場合、ホイール剛性が充分に確保されているとはいえず、ディスクやリムの板厚を厚くすればホイール剛性は向上するものの、ホイールの重量やコストの上昇を招くという問題が生じる。
又、特許文献2に記載の技術は、ハット部を無くしてディンプルなどで剛性を向上させたホイールであるが、特異な見栄えで好き嫌いのあることや意匠の変化が付け難い等の問題がある。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、リムのドロップ部の外側にディスクを嵌合溶接して成る車両用ホイールにおいて、ディスク形状を最適化することにより、ホイール剛性の向上、ホイールの軽量化を図ることができ、さらにホイール意匠面のデザイン性を向上できる車両用ホイールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の車両用ホイールは、外側サイドウォール部から湾曲部を経て縮径となるドロップ部を有するリムと、外縁を軸方向に沿って内側に折り返して成るフランジを有するディスクとを備え、前記ドロップ部の外側内周面と前記フランジの外周面とを嵌合溶接してなり、前記ディスクの表面から外側に向かって突出し該ディスクと同心の環状をなすハット部を有し、前記ディスクの中心から前記ハット部の頂部までの距離dHと、前記ディスクの中心から前記フランジの外周までの距離dmaxとの間に、0.65≦dH/dmax≦0.80の関係があることを特徴とする。
FEM解析の結果から、0.65≦dH/dmax≦0.80の範囲では、それ以外(例えばdH/ dmax=0.60程度の従来のホイール)の範囲に比べてホイール剛性が向上する。そのため、ディスクを薄肉化して軽量化を図ることができ、又、ハットがディスクの外周側へ位置するので、ホイールキャップのデザイン性が向上する。さらに、ディスクのハットの高さを低くすることによるホイール剛性の低下を補い、ホイール剛性を維持しつつハットの高さを低くすることができ、ホイールキャップの設計自由度も向上する。
【0007】
前記ディスクの中心を通る断面から見たとき、前記ディスクの中心側から立ち上がる部分の変曲点Pの高さがハブ取付け面から20.0mm以下であり、かつ前記ディスクの中心を通る断面から見たとき、前記変曲点Pと前記ハット部の頂部近傍に位置する変曲点Pとを接続する曲線は、前記P及びPとをそれぞれ通り-5.04x10-3/mmで表される曲率(但し、曲率(単位:1/mm)は円の半径の逆数を表す)の第1の円弧と、1.42x10-2/mmで表される曲率の第2の円弧とで挟まれる領域内に存在する滑らかな曲線であることが好ましい。
FEM解析の結果から、このようにすると、前記領域外に存在する曲線の場合に比べてホイール剛性が向上する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リムのドロップ部外側にディスクを嵌合溶接して成る車両用ホイールにおいて、ディスク形状を最適化することにより、ホイール剛性の向上、ホイールの軽量化を図ることができ、さらにホイール及びホイールキャップのデザイン性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明ではスチールホイールを例示するが、本発明はスチールホイールの他、板材の外周を絞り加工等によって折り返してフランジを形成して、ディスクに成形できる材料(例えば、チタン、チタン合金)を対象とすることができる。
又、本発明によるホイールは、公式な耐久強度の規定を満たすものであることが好ましい。但し、公式な耐久強度の規定を有しない産業車両用(農耕用)ホイールや応急使用ホイール(自動車用テンパーホイールを含む)等であっても本発明を適用することができる。
ここで、公式な耐久強度は我国のJIS D 4103「自動車部品―ディスクホイール―性能及び表示」 であるが、将来、規格が変わった場合は、その時点で我国の日本工業規格JIS(及び/又は国際標準化機構ISO)が定めるホイールの公式な耐久強度をいう。
ホイール剛性についてはJISなどの公式な規格は無いが、その重要性から自動車メーカー各社は各自に試験方法及び規格値を規定している。自動車メーカー各社の規格値を相互に換算してみるとほぼ同等の値である。本発明ではJIS D 4103に規定する「回転曲げ耐久試験」の試験機を用いた剛性試験方法を採用した。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用ホイールの一例を示す(ホイールの軸に平行な面で切断した)断面図である。この車両用(スチール)ホイールは、スチール製のリム2とスチール製のディスク10とをリムのドロップ部外側に嵌合し、溶接して成る。
なお、以下の説明で「外側」とは、ホイールを車両に取付けた際、ホイールの軸方向から見て外側となる部分をいい、「内側」とは内側となる部分をいう。但し、トラックのダブルタイヤのように、2個のホイールを軸方向に連結して使用する場合、内側に位置するホイールの「外側」と「内側」は上記の通りであるが、外側に位置するホイールの「外側」と「内側」は上記と逆になる。これは、ダブルタイヤの場合、外側に位置するホイールの表裏を逆にして内側ホイールと連結するためである。例えば、内側ホイールの場合、図1の上側部分が外側となるが、外側ホイールの場合は図1の下側部分が外側となる。
また、リム及びディスクの径方向については、「内周面」又は「外周面」と表記する。
【0011】
1)リム
リム2は略円筒状をなし、その両端に形成された外側フランジ及び内側フランジの間にタイヤを収容するようになっている。外側フランジの内側にはタイヤのビードを受ける外側ビードシートが形成されている。外側ビードシートより内側には最も小径のドロップ部2cが形成され、外側ビードシートとドロップ部(外側)2cはサイドウォール部2aを介して滑らかに接続されている。又、ドロップ部2cとサイドウォール部2aとは断面が半円状の湾曲部2bを介して接続されている。ドロップ部2cより内側にはサイドウォール部を介して内側ビードシートが形成され、内側ビードシートは内側フランジに接続されている。以下の説明では、「ドロップ部」は、ドロップ部の外側部分(外側ビードシートに接続する部分)をいう。
リム2は、例えば所定形状の圧延形鋼を円筒形に丸めて製造することができ、又は、鋼板を丸めて円筒形にした後、ロール成形等によって所定の断面形状としてもよいが、これらの方法に限られない。
【0012】
2)ディスク
ディスク10は略円盤状をなし、中心にハブ穴10dが開口され、ハブ穴より外周側にハブを取付けるためのボルト孔10eが形成されている。
ディスクの外縁は軸方向に沿って内側へ折返されてフランジ10aを形成し、フランジ10aはフランジ端縁10bに至っている。
ディスク10は、鋼板を種々の形状に打ち抜いたものを絞り加工(プレス加工)して成形することができる。その打ち抜き形状は特に制限されず、一般的には例えば、1)正方形の鋼板を単純に円板状に打ち抜いたもの、2)正方形の鋼板の四隅を円形に打ち抜いたもの、3)2)を更に各辺の中央部でも円弧状に打ち抜いたもの、が挙げられる。このうち、1)はいわゆる水抜き穴が形成されない形状であり、2)、3)は水抜き穴を形成させる形状であり、どの形状のディスクを用いてもよいが、例として2)の場合を説明すると、正方形の鋼板の四隅を円形に打ち抜き、これを絞り加工(プレス加工)してディスク10を成形することができる(特許文献3の図3参照)。この場合、鋼板の円形に打ち抜かれた部分がディスクのフランジ端縁10bとなり、鋼板のそれ以外の部分は凹部11となって水抜き穴を形成する。
【0013】
ディスク10の表面から外側に向かってハット部12が突出している。ハット部12はディスク10と同心の環状をなし、図1に示す断面から見たときに畝状(山状)になっている。ハット部12は、頂部12bと、頂部12bからディスク中心側に向かって裾状になだらかに落ち込むハット部内面12aと、頂部12bからディスク外側に向かって裾状に落ち込むハット部外面12cとを有している。ハット部内面12aは、ボルト孔10e近傍のディスク面から外側(図1の上側)に立ち上がるディスク立上り面15と接続している。又、ハット部外面12cは、フランジ10aと接続している。
【0014】
図1の状態(つまり、ディスクの中心を通る断面から見た時)において、ハット部内面12a(ディスク10の中心側とハット部の頂部12bとの接続部分)は凹状曲線Cから構成されている。曲線Cは、ディスクの中心側から外径側へ向かう部分にある立上り面15を構成する凸状曲線Cと変曲点Pで接続している。又、曲線Cは、頂部12bを構成する凸状曲線Cと変曲点Pで接続している。
なお、変曲点とは、曲線が上に凸の状態と上に凹の状態とで変わる点をいい、この点で引いた接線を境界として、曲線の一方と他方とが異なる側にあるものとする。
ここで、ディスク10の中心から頂部12bまでの距離dHとし、ディスク10の中心からフランジ10aの外周までの距離dmaxとした時、リム径が14インチのホイールの場合、ディスク外径(dmax×2)=316mm、ハット部頂部径(dH×2)=253.5mmであり、ディスク中心から変曲点Pに至る直径約139mm、変曲点Pの高さ(ディスク底面(=ハブ取付け面)から変曲点Pまでの高さ)11.5mm、ハット高さ(ディスク底面からハット部頂部12bまでの距離)h1=43mm、曲線Cの半径7mm、曲線Cの半径100mm(曲率1.00x10−2/mm)である。
尚、曲線Cの半径100mmとは、上記変曲点P、Pを通る半径100mmの円弧を意味する。
【0015】
図2は、図1の車両用スチールホイールの部分正面図である。この図において、ディスク10の外縁には、フランジ10aより縮径の凹部11が形成されている。凹部11は、ディスク外周円を4等分した位置にそれぞれ形成されている。
最奥部10cが前記湾曲部のR中心から外側に位置する場合、ディスク10をリム2のドロップ部2c内周面に嵌合した際に、凹部11とドロップ部2c内周面との間に隙間が形成され、これが水抜き穴14となる。
【0016】
ハット部12はディスクと同心で環状に形成され、ハット部外面12cには、円形の飾り穴10fが周方向に沿って複数個開口している。飾り穴10fは通常、軽量化及び放熱のために形成される。
【0017】
(dH/dmaxの範囲)
本発明において、上記dH、dmaxは、0.65≦dH/dmax≦0.80の関係を有する。この理由について、図3を参照して説明する。
図3は、図1に示す形状のホイールについてFEM解析を行った場合のホイール剛性を示す。FEM解析は、JIS D 4103に規定する「回転曲げ耐久試験」の試験機を用いた剛性試験をモデル化して行った。ディスクにおけるハット部の位置(dH/dmaxの値)を種々に変化させ、ディスクの剛性を計算した。
ディスクの主応力は、上記JIS D 4103で規定する試験装置(回転曲げ耐久試験機)を用いた剛性試験モデルにおいて以下のように計算する。まず、内側のリムフランジを拘束し、ディスク面に取付けた負荷アームを介してこの取付け面に曲げモーメントを与える。曲げモーメントの値を0から規定値まで増加させたとき、曲げ角度(中心軸と負荷アームの振れ角に相当)θと、モーメントMの関係はほぼ線形となる。この直線の勾配をホイール剛性(ホイール剛性)と呼び、その単位をNm/radで表す。
この図より、dH/dmax=0.7〜0.75でホイール剛性が最も高くなり、この範囲を外れるとホイール剛性が低下することがわかった。
以上のことから、本発明者らは安全許容度を5%と考え、ホイール剛性が最大値から95%以内の範囲にあるdH/dmaxを図3から求め、0.65≦dH/dmax≦0.80をその範囲として規定した。
これより、図3によれば、0.65≦dH/dmax≦0.80の範囲では、従来のホイール(dH/ dmax=0.60程度)に比べて最大で10%以上のホイール剛性の向上が実現できる。
一方、dH/dmaxが上記範囲を外れると、従来のホイールに比べて顕著なホイール剛性の向上が図れない。
【0018】
このように、本発明によればホイール剛性が向上するので、ディスクを薄肉化して軽量化を図ることができる。又、本発明の場合、従来のホイール(dH/ dmax=0.60程度)に比べハットがディスクの外周側へ位置するので、ハット部の内側領域(半径dHで決まる円)も大きくなり、ホイールキャップに立体的なデザインを付加できる部分が広がってデザイン性が向上する。
さらに、通常、ディスクのハットの高さを低くするとホイール剛性が低下するが、本発明によればそのホイール剛性の低下を補うようにdH/dmaxを調整することにより、ホイール剛性を維持しつつハットの高さを低くすることができる。ハットの高さが低くなれば、ホイールキャップの設計自由度も向上する。
【0019】
(ハット高さ)
図4は、図1に示したディスクにおけるハット高さを種々に変化させ、図3と同様の方法でFEM解析を行った場合のホイール剛性を示す。
図4より、図1のハット高さ(43mm)よりハット高さを低くするとホイール剛性が低下した。従って、dH/dmaxを調整してホイール剛性を向上させることにより、ハット高さ低減によるホイール剛性の低下を相殺すれば、ホイール剛性を低下させずにハット高さを低くすることができる。例えばまずハット高さの低減量を決め、図4のグラフの傾き(ハット高さの低減によるホイール剛性の低下割合)からホイール剛性の低下量を求めた後、この低下量を相殺するよう、図3に従って(現行のディスクの剛性に対応するdH/dmaxを基準として)dH/dmaxを調整すればよい。
【0020】
(ハット部の形状)
次に、ハット部の好ましい形状について説明する。本発明において、ディスクの中心を通る断面から見た時、ハット部内面12a(ディスク10の中心側とハット部の頂部12bとの接続部分)が直線又は凹状曲線Cになっていることが好ましい。この理由について図5を参照して説明する。
図5は、図1に示したディスクにおける曲線Cの曲率を種々に変化させ、図3と同様の方法でFEM解析を行った場合のホイール剛性を示す。なお、この図において、R100は、曲線Cの半径が100mmで凹状(図1と同じ形状)であることを示し、R-100は曲線Cの半径が100mmで凸状(図1と反対で上に膨らむ形状)であることを示す。
図5より、曲線CがR100(凹状曲線)又はR1000(ディスクの大きさと比較して実質的に直線に近い曲線)の時にホイール剛性が最大となり、Cが凸状になるとホイール剛性が低下することが判明した。又、Cの曲率が大きくなる(R55)場合もホイール剛性が若干低下した。
【0021】
さらに、図5のグラフの各点を二次曲線で近似したところ、式
y=-280630185894x2+25604338000x+440057370
が得られた(yはホイール剛性、xは曲線Cの半径の逆数を表す)。
この式より、一般に要求される要求ホイール剛性値である4.00×108Nmm/rad以上を確保できるための曲線Cの曲率(曲線Cの半径の逆数)を求めたところ以下のようになった。
まず、上記要求ホイール剛性値のばらつき(ホイール剛性値の実測値に対する解析値の誤差、及びディスクの製造によるばらつき)として5%を勘案した場合(つまり、ホイール剛性値として上記要求値より5%大きい値を見積もる場合)、曲線Cの好ましい曲率は、-5.04x10-3〜1.42x10-2/mmとなった。なお、曲率のマイナス符号は、曲線Cが凸状(図1で上に膨らむ形状)であることを示す。
同様に、ばらつきを7%とした場合、曲線Cの好ましい曲率は、-3.42x10-3〜1.25x10-2/mmとなり、ばらつきを9%とした場合、曲線Cの好ましい曲率は、-1.38x10-3〜1.05x10-2/mmとなった。
【0022】
これらのことより、曲線Cを上記曲率の円弧とすることが好ましい。又、曲線でなく、直線又は直線に近い形状としてもよい。ここで直線に近い形状とは、完全な直線の他、上記曲率の値が非常に小さい値である場合も含み、ホイール剛性が低下しない限りよいものとする。
さらに、曲線Cを円弧でなく、3次関数等の高次関数で表される滑らかな曲線としてもよい。但し、この滑らかな曲線は、変曲点Pと変曲点Pとをそれぞれ通り-5.04x10-3/mmで表される曲率の第1の円弧と、1.42x10-2/mmで表される曲率の第2の円弧とで挟まれる領域内に存在する必要がある。上記滑らかな曲線が第1及び第2の円弧で挟まれる領域内に存在すれば、実質的に上記曲率の円弧と同様のホイール剛性を確保できるからである。
【0023】
(変曲点Pの高さ)
本発明においては、ハブ取付け面から変曲点Pまでの高さは、20.0mm以下であることが好ましい。この理由について図6を参照して説明する。
図6は、図1に示したディスクにおけるハブ取付け面から変曲点Pまでの高さを種々に変化させ、図3と同様の方法でFEM解析を行った場合のホイール剛性を示す。
図6より、ハブ取付け面から変曲点Pまでの高さが小さくなるほど、ホイール剛性が低下する傾向にあることが判明した。そして、図6に基づいて、一般に要求される要求ホイール剛性値である4.00×108Nmm/rad以上を確保し、かつホイール剛性値のばらつきとして5%を勘案した場合、ハブ取付け面から変曲点Pまでの高さが20.0mm以下であれば上記要求ホイール剛性値を確保できるため、ハブ取付け面から変曲点Pまでの高さを20.0mm以下に規定した。
【0024】
本発明は、通常、ホイール径12〜22インチの2ピース構造ホイールに適用することができるが、望ましくは、ホイール径13〜20インチ、更に望ましくはホイール径13〜18インチの2ピース構造ホイールに好適に適用することができる。
また、本発明の2ピース構造ホイールにおいて、ボルト穴ピッチ円直径は、JIS D 4220「自動車用ディスクホイールの取付方法及び寸法」の表2、表3に規定されるいずれの場合のものも適用できるが、望ましくは114.3mmピッチ以下のものである。
【0025】
図7は、図1と異なる形状のディスクであり、曲線Cの半径が25mmで凹状(図1と同じ形状)であるディスクの断面形状を示す。なお、この図では、ディスクの中心から右側部分のみを記載しているが、ディスクを中心として左側部分が対称に表されるので左側部分の記載を省略する。
図7(a)はハット頂部120bを有し、この頂部高さが高いので乳首型と称される。図7(b)はディスク面に平行な平坦部130d、ハット頂部130bを有するので平坦型と称される。図7(b)のタイプは、ボルト孔近傍のディスク面から外側(図7の上側)に立ち上がる立上り部130eと平坦部130dが接続し、平坦部130dからハット部内面130aが外側に突出している。
なお、本発明において「平坦部」とは、ボルト孔近傍のディスク面から外側(図6の上側)に立ち上がる立上り部130eより外周側の領域をいい、ディスク中心からボルト孔近傍までのディスク面は除外する。つまり、ボルト孔近傍に平坦部を設けることは差し支えない。
【0026】
ここで、上記図7(a)、(b)のタイプのディスク、及び図1のタイプのディスクにおいてdH/dmaxの値が本発明の規定範囲外であるもの(発明品比較型のディスク)について、ディスク外径(14インチ)とハット高さ(43mm)を同一とし、図3と同様の方法でFEM解析を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から明らかなように、本発明例(図1のタイプ)のホイール剛性は4.41x108Nmm/rad、乳首型(図7(a))のホイール剛性は1.01x108Nmm/rad、平坦型(図7(b))のホイール剛性は1.37x108Nmm/rad、発明品比較型のホイール剛性は3.52 x108Nmm/radとなり、いずれも本発明のホイールに比べてホイール剛性が低下した。これらのことより、ホイール剛性を向上させるためには、ハット頂部の位置としてdH/dmaxがを0.65以上とし、さらに曲線Cの曲率を1.42x10−2/mm以下とするとともに、ハブ取付け面からの変曲点Pの高さを20.0mm以下とすることが好ましいことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用スチールホイールの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用スチールホイールを示す正面図である。
【図3】図1に示す形状のホイールについてFEM解析を行った場合のホイール剛性を示す図である。
【図4】ハット高さを種々に変化させてFEM解析を行った場合のホイール剛性を示す図である。
【図5】曲線Cの曲率を種々に変化させ、FEM解析を行った場合のホイール剛性を示す図である。
【図6】変曲点Pの高さを種々に変化させ、FEM解析を行った場合のホイール剛性を示す図である。
【図7】図1と異なるディスクの断面形状を示す図である。
【図8】従来の車両用スチールホイールにホイールキャップを被せた場合の態様を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
2 リム
2a 外側サイドウォール
2b 湾曲部
2c (外側)ドロップ部
5 嵌合部の外側部分
10 ディスク
10a (ディスクの)フランジ
12 ハット部
12a ハット部内面
12b ハット部の頂部
12c ハット部外面
dH ディスクの中心からハット部の頂部までの距離
dmax ディスクの中心からフランジの外周までの距離
凹状曲線
頂部曲線
立上り面を構成する曲線
ディスクの中心側から立ち上がる部分の変曲点
ハット部の頂部近傍に位置する変曲点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側サイドウォール部から湾曲部を経て縮径となるドロップ部を有するリムと、外縁を軸方向に沿って内側に折り返して成るフランジを有するディスクとを備え、前記ドロップ部の外側内周面と前記フランジの外周面とを嵌合溶接してなる車両用ホイールであって、
前記ディスクの表面から外側に向かって突出し該ディスクと同心の環状をなすハット部を有し、前記ディスクの中心から前記ハット部の頂部までの距離dHと、前記ディスクの中心から前記フランジの外周までの距離dmaxとの間に、0.65≦dH/dmax≦0.80の関係があることを特徴とする車両用ホイール。
【請求項2】
前記ディスクの中心を通る断面から見たとき、前記ディスクの中心側から立ち上がる部分の変曲点Pの高さがハブ取付け面から20.0mm以下であり、
かつ前記ディスクの中心を通る断面から見たとき、前記変曲点Pと前記ハット部の頂部近傍に位置する変曲点Pとを接続する曲線は、前記P及びPとをそれぞれ通り-5.04x10-3/mmで表される曲率(但し、曲率(単位:1/mm)は円の半径の逆数を表す)の第1の円弧と、1.42x10-2/mmで表される曲率の第2の円弧とで挟まれる領域内に存在する滑らかな曲線であることを特徴とする請求項1記載の車両用ホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−114723(P2008−114723A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299869(P2006−299869)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)