説明

車両用内燃機関のバルブタイミング制御装置

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
この発明は、車両用内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
(従来の技術)
車両用内燃機関の吸、排気バルブの作動タイミング(バルブタイミング)を可変にして、機関の運転状態に応じたバルブオーバラップを得るようにしたものがある。
このような装置では、例えばカムシャフトとカムプーリの間に吸、排気バルブの開弁時期相対位相を可変とする可変機構と、可変機構に油圧アクチュエータと、また油圧アクチュエータへの油圧を制御する電磁弁と、制御回路等を備えている。
そして、機関の低中速回転域における高負荷時には、電磁弁への通電により油圧アクチュエータに所定の油圧を作用させて可変機構を駆動することにより、吸気バルブの閉時期を早め(バルブオーバラップは大)、吸気充填率を高めて機関出力を向上する一方、低中速回転域における低負荷時には、電磁弁への通電を停止して油圧アクチュエータへの油圧を開放することにより可変機構を初期位置に戻し、これによりバルブオーバラップを小さくし残留ガスの増加を防いで円滑な回転を保つようになっている。また回転数が所定値を越える高回転域においても電磁弁への通電を停止して、オーバラップを小さくし、最高回転数域における最大出力を高めるようになっている。(特開昭62-191636号公報等参照)。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、このように機関の回転や負荷によって油圧アクチュエータへの油圧を制御してバルブタイミングを制御するものだと、例えばオートマチック車等において、ブレーキを踏みながらのストール発進状態(坂発進等)から急にアクセルを離した場合に、エンスト等を起こしたりする。
即ち、ストール発進では回転や負荷が高まるため、電磁弁への通電によりバルブオーバラップが大に制御されるが、この状態から急にアクセルを離した場合、バルブオーバラップを小とするように電磁弁への通電を停止しても、油圧アクチュエータが戻るのに遅れがあるため、バルブオーバラップがすぐには小に戻らないのである。したがって、機関回転がアイドル付近に下がるのに対して、瞬間的に混合気の吹抜けを生じ燃焼状態が悪化するため、機関回転が極度に落ち込んだり、エンストを招いたりするという問題がある。
この発明は、このような問題点を解決することを目的としている。
(課題を解決するための手段)
この発明は、第1図に示したように、油圧アクチュエータ1への油圧に応じて吸、排気バルブのバルブオーバラップ量を変えるバルブタイミング可変機構3と、機関回転数がアイドル回転数より高い所定回転数以上のときはバルブオーバラップを大側にするように、弁手段2を介して前記油圧を制御する制御手段4とを備えた車両用内燃機関において、車速を検出する手段5と、車速が所定値以下のときは、バルブオーバラップを大側に制御すべきときでも前記バルブタイミング可変機構がバルブオーバラップを小側に保持するように制御する制限手段6とを設けた。
(作用)
したがって、車速が所定値以下のときは、バルブオーバラップを大側に制御すべきときでもバルブオーバラップを小側に保持するように、制限手段6により弁手段2を介して油圧が制御されバルブタイミング可変機構を動かすので、ストール発進時等に油圧アクチュエータ1の応答遅れによって機関に悪影響が及ぶのが防止される。
(実施例)
第2図は本発明の実施例を示す構成断面図で、11は吸、排気バルブを駆動するカムシャフト、12はタイミングベルト等を介してクランク軸の回転が伝えられるカムプーリ、13はカムシャフト11とカムプーリ12の間に介装されるバルブタイミング可変機構である。
バルブタイミング可変機構13は、カムシャフト11に固定された内側ギヤ14と、カムプーリ12と一体のハウジング15に形成した外側ギヤ16と、これらのギヤ14、16と噛み合うアクチュエータとしての中間ギヤ17とからなり、中間ギヤ17を軸方向に変位させると、外側ギヤ16とで形成したヘリカル歯によりカムシャフト11がカムプーリ12に対して所定角度相対回転する。
中間ギヤ17の片側に形成した油室18には、シリンダヘッド19等のオイルギャラリ20からの圧油がカムシャフト11の軸受部21からカムシャフト11内の油通路22を介して導かれ、カムシャフト11の他端には、油通路22のリリーフ口を開閉する弁手段としての電磁弁23が設置される。
電磁弁23が閉じると、オイルギャラリ20からの圧油が中間ギヤ17に作用し、中間ギヤ17がリターンスプリング24に抗して図右方向に変位し、このときバルブオーバラップが大となる。また、電磁弁23が開くと、中間ギヤ17への圧油が開放され、中間ギヤ17がリターンスプリング24により図示初期位置に戻り、このときバルブオーバラップは小となる。
電磁弁23は、制御回路25により通電されると閉じ、通電が断たれると開く。制御回路25は、CPU、メモリ、I/O等からなるマイクロコンピュータにて構成され、機関の回転数を検出する回転センサ26と、機関の負荷を検出する負荷センサ(エアフローセンサ)27と、機関の冷却水温を検出する水温センサ28と、機関のアイドル状態を検出するアイドルスイッチ29と、変速機のニュートラル位置を検出するニュートラルスイッチ30および車速を検出する車速センサ31等からの検出信号に基づいて電磁弁23への通電を制御する。
次に電磁弁23の制御内容を第3図のフローチャートに基づいて説明する。
まず、アイドルスイッチ29がOFFか否か、ニュートラルスイッチ30がOFFか否か、冷却水温Tが所定範囲にあるか否かを判定し(S1〜S4)、否のときは電磁弁23に通電せず、バルブオーバラップを小にする(S12)。
スイッチ29、30がOFFで冷却水温Tが所定範囲にあるときは、車速Vを読み込み、車速Vが所定値V1(例えば8km/h)以上か否かを判定する(S5、S6)。
車速Vが所定値V1より小さいときは、電磁弁23に通電せず、バルブオーバラップを小にする(S12)。
一方、車速Vが所定値V1以上のときは、機関の回転数と負荷に応じて電磁弁23への通電を行う。即ち、機関の回転数Nと吸入空気量Qを読み込み、Nが所定範囲(所定の中回転域から高回転域)にあるとき(S8)、およびNが低回転域でQ等から算出した燃料噴射量TPが所定値TP1以上の負荷域にあるとき(S9、S10)に、電磁弁23に通電し、バルブオーバラップを大にする(S11)。
このように構成したので、車速が所定値以下のときは、アイドリング時や、低回転低負荷域等と同様、電磁弁23に通電されることはなく、バルブオーバラップは小に保たれる。
このため、残留ガスを低減して円滑な回転が確保されると共に、従来例のようにストール発進状態から急にアクセルを離した場合に、バルブタイミング可変機構13の応答性に起因するバルブオーバラップの大から小への戻りの遅れを回避することができ、したがって運転操作によって機関回転が大きく低下したりエンストを起こすようなことはなく、良好な発進性、運転性が確保される。
他方、機関が中、高回転域および低回転域でも部分負荷域以上にあるときは、電磁弁23に通電され、バルブオーバラップが大に制御される。
したがって、通常走行時に高い吸気充填率が得られ、機関出力の向上が図れる。
(発明の効果)
以上のように本発明によれば、油圧アクチュエータへの油圧に応じて吸、排気バルブのバルブオーバラップ量を変えるバルブタイミング可変機構と、機関回転数がアイドル回転数より高い所定回転数以上のときはバルブオーバラップを大側にするように、弁手段を介して前記油圧を制御する制御手段とを備えた車両用内燃機関において、車速を検出する手段と、車速が所定値以下のときは、バルブオーバラップを大側に制御すべきときでも前記バルブタイミング可変機構がバルブオーバラップを小側に保持するように制御する制限手段とを設けて、バルブオーバラップを大側に制御すべきときでも、車速が所定値以下のときはバルブオーバラップを常に小側に保持するようにしたので、ストール発進時にバルブタイミング可変機構の油圧応答遅れに起因する制御遅れを防止して、良好な発進加速性及び運転性を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の構成図、第2図は本発明の実施例を示す構成断面図、第3図は制御内容を示すフローチャートである。
11……カムシャフト、12……カムプーリ、13……バルブタイミング可変機構、17……中間ギヤ、18……油室、23……電磁弁、25……制御回路、26……回転センサ、27……負荷センサ、31……車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】油圧アクチュエータへの油圧に応じて吸、排気バルブのバルブオーバラップ量を変えるバルブタイミング可変機構と、機関回転数がアイドル回転数より高い所定回転数以上のときはバルブオーバラップを大側にするように、弁手段を介して前記油圧を制御する制御手段とを備えた車両用内燃機関において、車速を検出する手段と、車速が所定値以下のときは、バルブオーバラップを大側に制御すべきときでも前記バルブタイミング可変機構がバルブオーバラップを小側に保持するように制御する制限手段とを設けたことを特徴とする車両用内燃機関のバルブタイミング制御装置。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【特許番号】第2712544号
【登録日】平成9年(1997)10月31日
【発行日】平成10年(1998)2月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−118297
【出願日】平成1年(1989)5月11日
【公開番号】特開平2−298613
【公開日】平成2年(1990)12月11日
【出願人】(999999999)日産自動車株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭61−65036(JP,A)
【文献】特開 昭63−291737(JP,A)
【文献】特開 昭61−196829(JP,A)
【文献】特開 昭61−105228(JP,A)
【文献】実開 平1−122327(JP,U)
【文献】実開 昭63−171636(JP,U)