説明

車両用冷凍サイクル装置

【課題】潤滑油の混合された冷媒の漏れをより確実に防止可能とする車両用冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】単独状態の時には車両のエンジンルームに搭載される高温熱源では着火しない弱燃性冷媒を用いる車両用冷凍サイクル装置において、圧縮機110の吐出側で冷媒中に含有される潤滑油を分離して、圧縮機110内に戻す油分離器170と、圧縮機110の吸入側で冷媒の逆流流出を遮断する遮断手段160aと、冷凍サイクルの損傷時に、遮断手段160aを冷媒の逆流流出遮断側に駆動する駆動手段160bとを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルの冷媒として弱燃性冷媒を使用する車両用冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、冷凍サイクルの冷媒として可燃性冷媒を使用するものにおいて、圧縮機の吐出口近傍に冷媒と潤滑油とを分離して、この潤滑油を圧縮機に回収する油分離回収装置が設けられた車両用空調装置が知られている。特許文献1の技術によれば、冷凍サイクルの循環経路における潤滑油を溶解させた可燃性冷媒の量を減らすことができ、漏洩時の安全性を向上できるとしている。
【0003】
また、特許文献2では、可燃性冷媒使用の車両用空調装置において、冷凍サイクルを構成する各種機器の間に例えば逆止弁や開閉弁等を設け、圧縮機が停止した時に、各弁によって冷凍サイクルの循環流路を複数の区画域に区画するものが知られている。特許文献2の技術によれば、圧縮機が停止した時に、車両衝突等によって循環流路に漏洩箇所が生じた場合でも、漏洩箇所を含む区画域のみの冷媒漏れに抑えることができ、冷媒の漏れ量を低減できるとしている。
【特許文献1】特開2006−44424号公報
【特許文献2】特開2005−1409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、圧縮機の外部へ流出する潤滑油の量を低減することができるが、車両衝突等によって冷凍サイクルが損傷した時に圧縮機から直接冷媒が漏れるおそれがある。
【0005】
また、上記特許文献2の技術では、損傷を受けていない各種機器からの冷媒の漏れ量を抑制できるが、損傷箇所からは潤滑油の含まれた冷媒が漏れるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、潤滑油の混合された冷媒の漏れをより確実に防止可能とする車両用冷凍サイクル装置を提供することにある。
【0007】
更に、本発明の目的は、低コストで潤滑油の混合された冷媒漏れを防止可能とする車両用冷凍サイクル装置を提供することにある。
【0008】
加えて、本発明は、予期せぬ事態での潤滑油の混合された冷媒漏れを防止可能とする車両用冷凍サイクル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0010】
請求項1に記載の発明では、冷媒を圧縮吐出して、冷凍サイクル(100)内を循環させる圧縮機(110)と、
圧縮機(110)の作動を制御する制御装置(150)とを備え、
車両に搭載される車両用冷凍サイクル装置において、
冷媒は、単独状態の時には車両のエンジンルームに搭載される高温熱源では着火しない弱燃性冷媒であり、
圧縮機(110)には、
吐出側において、冷媒中に含有される潤滑油を分離して、圧縮機(110)内に戻す油分離器(170)と、
吸入側において、冷媒の逆流流出を遮断する遮断手段(160a)と、
冷凍サイクル(100)の損傷時に、遮断手段(160a)を冷媒の逆流流出遮断側に駆動する駆動手段(160b)とが設けられたことを特徴としている。
【0011】
これにより、圧縮機(110)の吐出側からは油分離器(170)によって潤滑油が分離された冷媒が流出されて、冷凍サイクル(100)内に循環されることになるので、冷凍サイクル(100)に損傷があった場合でも、潤滑油の混合した冷媒が外部に漏れることを防止できる。また、冷凍サイクル(100)に損傷があった場合に、遮断手段(160a)および駆動手段(160b)によって、圧縮機(110)の吸入側からの冷媒の逆流流出が遮断されるので、圧縮機(110)から潤滑油の混合した冷媒が漏れることを防止できる。総じて、潤滑油の混合した冷媒の漏れをより確実に防止可能とする車両用冷凍サイクル装置(10)とすることができる。
【0012】
そして、圧縮機(110)に油分離器(170)、遮断手段(160a)、および駆動手段(160b)を設けるのみで、上記の漏れを防止できるので、低コストでの対応が可能となる。
【0013】
請求項1における前記遮断手段(160a)および前記駆動手段(160b)は、請求項2に記載の発明のように、逆止弁(160)とすることで、実現性が高く、且つ安価な対応が可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、冷媒は、オレフィン系冷媒であることを特徴としている。
【0015】
オレフィン系冷媒は、それ単独において車両のエンジンルームの高温熱源で着火しないため、本考案によって潤滑油の流出を防止することで安全性を高めることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、圧縮機(110)には、油分離器(170)の冷媒流れの下流側流路(118)を開閉する開閉手段(180)が設けられたことを特徴としている。
【0017】
これにより、開閉手段(180)を閉じることで、圧縮機(110)の吐出側から冷媒自体が流出することを防止できる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、制御装置(150)は、車両の衝突時に開閉手段(180)によって下流側流路(118)を閉じることを特徴としている。
【0019】
これにより、車両の衝突時に圧縮機(110)の吐出側から冷媒自体が流出することを防止できる。
【0020】
請求項6に記載の発明では、制御装置(150)は、車両の衝突時に圧縮機(110)を停止させることを特徴としている。
【0021】
これにより、上記請求項5と同様に、車両の衝突時に圧縮機(110)の吐出側から冷媒自体が流出することを防止できる。
【0022】
請求項7に記載の発明では、圧縮機(110)は、1回転当たりの吐出容量を変更可能な可変容量型圧縮機(110)であり、
制御装置(150)は、車両の衝突時に吐出容量を設定可能な最小吐出容量へ変更することを特徴としている。
【0023】
これにより、車両衝突時に圧縮機(110)から流出し得る冷媒量を最小にすることができる。
【0024】
請求項8に記載の発明では、制御装置(150)は、車両が始動されるたびに、冷凍サイクル(100)の運転要求有無に関らず、圧縮機(110)を予め定めた所定時間だけ作動させることを特徴としている。
【0025】
これにより、仮に冷凍サイクル(100)内に潤滑油が停滞していても、強制的に圧縮機(110)を作動させることで、潤滑油を冷媒と共に圧縮機(110)に吸入させて、更に油分離器(170)で潤滑油を分離することができるので、常に冷凍サイクル(100)内の潤滑油量を低減した状態で冷凍サイクル(100)を作動させることができる。
【0026】
請求項9に記載の発明では、圧縮機(110)は、高圧側の圧力が所定圧力以上で高圧側の冷媒を外部へ流出させるリリーフバルブ(190)を備えており、
リリーフバルブ(190)には、流出する冷媒中の潤滑油を分離すると共に捕捉する油分離捕捉手段(200)が設けられたことを特徴としている。
【0027】
これにより、リリーフバルブ(190)から冷媒が流出する場合でも、油分離捕捉手段(200)によって潤滑油の流出が阻止されるので、潤滑油の混合した冷媒が漏れることを防止できる。
【0028】
請求項10に記載の発明では、冷媒を圧縮吐出して、冷凍サイクル(100)内を循環させる圧縮機(110)を備え、
車両に搭載される車両用冷凍サイクル装置において、
冷媒は、単独状態の時には車両に搭載される高温熱源では着火しない弱燃性冷媒であり、
圧縮機(110)は、高圧側の圧力が所定圧力以上で高圧側の冷媒を外部へ流出させるリリーフバルブ(190)を備えており、
リリーフバルブ(190)には、流出する冷媒中に含有される潤滑油を分離すると共に捕捉する油分離捕捉手段(200)が設けられたことを特徴としている。
【0029】
これにより、リリーフバルブ(190)から冷媒が流出する場合でも、油分離捕捉手段(200)によって潤滑油の流出が阻止されるので、予期せぬ事態で、潤滑油の混合された冷媒が漏れるのを防止することができる。
【0030】
尚、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る第1実施形態における車両用冷凍サイクル装置(以下、冷凍サイクル装置)10について、図1〜図3を用いて説明する。尚、図1は冷凍サイクル装置10の全体構成を示す模式図、図2は圧縮機110を示す模式図、図3は制御装置150が実行する制御フローチャートである。
【0032】
図1に示すように、冷凍サイクル装置10は、図示しないエンジンを走行用駆動源とする車両に搭載されて、車室内の冷房(空調)を行うものであり、主に圧縮機110を備える冷凍サイクル100、および制御装置150等から構成されている。ここでは、冷凍サイクル100内を循環する冷媒としては弱燃性冷媒を用いている。ここで、弱燃性冷媒というのは、この冷媒単独状態の場合であれば、車両のエンジンルーム内に搭載される高温熱源(一般的な例としてエンジンのエギゾーストマニホールド等)では着火しない冷媒であり、例えばオレフィン系の冷媒がこれに該当する。尚、冷媒中には、圧縮機110内の各摺動部(軸受け等)の円滑な作動を助けるための潤滑油が所定割合で含有されている。
【0033】
冷凍サイクル100は、圧縮機110、凝縮器120、膨張弁130、蒸発器140が環状に順次接続されて形成されている。上記冷凍サイクル100を構成する各機器110〜140のうち、蒸発器140は図示しない空調ケース内に収容されて、送風ユニットと共に車室内(インストルメントパネル内)に配設され、他の機器(110〜130)は車両のエンジンルーム内に配設されている。
【0034】
圧縮機110は、冷媒を高温高圧に圧縮して凝縮器120側へ吐出する流体機械である(詳細については後述)。凝縮器120は、車両のエンジンルームの前方(例えばグリルの後方)に配置されて、圧縮機110から吐出された冷媒とエンジンルーム内に流入する外気との間で熱交換することで冷媒を冷却する熱交換器である。
【0035】
膨張弁130は、凝縮器120から流出される冷媒を減圧する(低温低圧にする)減圧手段である。この膨張弁130は、蒸発器140から流出される冷媒の温度に応じて膨張弁130の弁開度が調整される感温式の膨張弁としている。
【0036】
蒸発器140は、空調ケース内で流路全体をよぎるように配設されて、膨張弁130で減圧された冷媒と空調ケース内を流通する空調空気との間で熱交換することで空調空気を冷却する熱交換器である。
【0037】
以下、圧縮機110の詳細について図2を用いて説明する。圧縮機110は、エンジンのクランクプーリと圧縮機110のプーリ111とがベルトによって接続されており、圧縮機110はエンジンによって駆動されるようになっている。プーリ111にはエンジンの駆動力を断続する電磁クラッチ(図示省略)が設けられており、後述する制御装置150によって、この断続が制御されるようになっている。即ち、電磁クラッチが接続されると圧縮機110はエンジンの駆動力によって作動され、電磁クラッチが切断されると圧縮機110は停止される。
【0038】
また、圧縮機110は、1回転当たりの吐出容量が調整可能な可変容量型圧縮機としており、ここでは例えば斜板式のものが採用されている。尚、圧縮機110から吐出される冷媒の吐出量は、上記1回転当たりの吐出容量に圧縮機110の回転数を乗じたものとなる。
【0039】
圧縮機110の斜板(図示省略)は、圧縮機回転軸と共に回転するように圧縮機110内の斜板室112に配設されており、斜板にはシリンダ内を摺動するピストンが連結されている。そして、圧縮機110には圧力制御弁113が設けられており、この圧力制御弁113の弁開度が調整されることで、斜板室112内の圧力(吐出圧力と吸入圧力との中間となる中間圧力)が調整され、圧縮機回転軸に対する斜板の傾斜角度が変更される。そして、斜板の傾斜角度の変更に伴ってピストンのストロークが変更されることで、1回転当たりの吐出容量がほぼ0となる最小吐出容量から圧縮機110として吐出し得る最大吐出容量まで連続的に調整されるようになっている。
【0040】
上記圧力制御弁113の弁開度は、後述する制御装置150から出力される制御信号(例えば電流信号)によって調整されるようになっている。即ち、圧縮機110の吐出容量(吐出量)は、制御装置150によって制御される。ここでは、電流信号を増加するほど、圧縮機110の吐出容量が大きくなる側に変化するようになっている。
【0041】
圧縮機110の吸入側には、第1の必須構成として逆止弁160が設けられている。逆止弁160は、吸入口114から吸入室115内に吸入した冷媒が、圧縮機110の停止時に逆流して外部へ流出するのを阻止(遮断)する弁であり、吸入室115内に設けられている。逆止弁160は、圧力応動型の弁であり、吸入口114を開閉する例えば球体状の弁体160a(遮断手段)と、吸入口114を閉塞するように弁体160aに対して付勢力を与える例えばバネのような弾性部材(駆動手段)160bとを有している。
【0042】
通常の圧縮機110の作動時においては、蒸発器140側の冷媒圧力と、吸入室115側の冷媒圧力との差が、弾性部材160bの付勢力に打ち勝ち、弁体160aは吸入口114から離れる側に移動する。よって逆止弁160は、吸入口114を開き、冷媒を流通させることになる。一方、圧縮機110が停止した時は、吸入室115側の冷媒圧力と、蒸発器140側の冷媒圧力との差、および弾性部材160bの付勢力によって、弁体160aは吸入口114に当接する側に移動する。よって逆止弁160は、吸入口114を閉じ、冷媒の圧縮機110からの逆流流出を阻止することになる。
【0043】
また、圧縮機110の吐出室116から小径の流出孔116aを介して繋がる高圧室117には、第2の必須構成として油分離器としてのオイルセパレータ170が設けられている。オイルセパレータ170は、冷媒中の潤滑油を分離して、圧縮機110内の各摺動部に戻すものである。ここでは、オイルセパレータ170は、遠心式のセパレータとしており、下側に長く延びる筒状部材を備え、この筒状部材の一方側(図2の上側)の端部が吐出口118に連通するように接続されて形成されている。
【0044】
オイルセパレータ170は、吐出室116から流出孔116aを通過する冷媒を、下側に向けて旋回させながら流し、冷媒中に含まれる比重量の大きい潤滑油を、高圧室117の側壁側に分離させ、下側に溜めるように機能する。潤滑油の分離された冷媒は、吐出口118から流出する。また、高圧室117内に分離された潤滑油は、図示しない通路を通り、圧縮機110の各摺動部に供給されるようになっている。
【0045】
オイルセパレータ170の冷媒流れの下流側には、付加機能部として開閉手段としての電磁弁180が設けられている。電磁弁180は、オイルセパレータ170の下流側流路(吐出口118)を開閉する弁であり、圧縮機110のハウジング110aに一体的に形成されている。電磁弁180は、後述する制御装置150によって、弁体の開閉が制御されるようになっている。
【0046】
また、圧縮機110には、高圧室117から外部に連通するリリーフ開口部119が形成されており、このリリーフ開口部119に付加機能部としてリリーフバルブ190が設けられている。リリーフバルブ190は、高圧側(吐出室116、高圧室117)の冷媒圧力が何らかの要因で、予め定めた所定圧力を超えると、リリーフ開口部119を開いて(外部と連通して)、冷媒を外部に流出させて、圧縮機110の内部圧力を大気側に開放する安全弁である。
【0047】
上記リリーフバルブl90の冷媒流れ下流側には、付加機能部として油分離捕捉手段としてのキャップ200が装着されている。キャップ200は、冷媒を通過させつつも、潤滑油を冷媒から分離して、分離した潤滑油をキャップ200の表面に捕捉する多孔質部材からなるオイルフィルタである。
【0048】
制御手段としての制御装置150は、マイクロコンピュータとその周辺回路から構成されており、エアバッグシステム制御用のエアバッグ制御装置151と連動している。制御装置150は、予め設定されたプログラムに従って、図示しないエンジン回転数センサからのエンジン回転数信号、エアバッグ制御装置151からの車両衝突信号、図示しない操作パネルで乗員が設定するエアコン要求信号および設定温度信号、図示しない外気温センサからの外気温度信号、図示しない内気センサからの内気温度信号、図示しない日射センサからの日射信号、図示しないサーミスタからの蒸発器140における冷却空気温度信号、等に対する演算処理を行うと共に、圧縮機110の作動制御(プーリ111の電磁クラッチの断続)、吐出量制御(圧力制御弁113の弁開度)、電磁弁180の開閉制御を行う。
【0049】
次に、上記構成に基づく作動について図3の制御フローチャートを加えて説明する。
【0050】
制御装置150は、まず、ユーザが車両に搭乗して、イグニッションスイッチをオンし、エンジンを始動させると、ステップS100で、電磁弁180を開くと共に、エアコン要求信号の有無に関らず、予め定めた所定時間(例えば30秒〜1分)だけ圧縮機110を作動させる。つまり、プーリ111の電磁クラッチを接続状態としてエンジンの駆動力で圧縮機110を作動させる。この時、圧縮機110の吐出容量が予め定めた所定容量となるように圧力制御弁113の弁開度を調整する。
【0051】
次に、制御装置150は、車両走行中におけるエアバッグ制御装置151からの車両衝突信号の有無を常に監視し、ステップS110で、衝突信号が無いと判定している間は、ステップS120に移行して、圧縮機110の通常制御を行う。
【0052】
即ち、エアコン要求信号がある場合には、設定温度信号、外気温度信号、内気温度信号、日射信号から冷却すべき空気の目標吹出し温度(TAO)を算出し、蒸発器140における冷却空気温度信号が目標吹出し温度となるように、圧縮機110の作動を制御する。具体的には、プーリ111の電磁クラッチの断続、および圧力制御弁113の弁開度調整による吐出容量(吐出量)の制御を行う。
【0053】
そして、ステップS130で、ユーザによってイグニッションスイッチがオフされて、エンジンが停止されるまでは(エンジン回転数0)、ステップS110に戻り、車両衝突信号が無い間は、ステップS120における圧縮機110の通常制御を継続する。
【0054】
一方、制御装置150は、ステップS110で、エアバッグ制御装置151からの車両衝突信号があったと判定すると、ステップS140で電磁弁180を強制的に閉じる。また、ステップS150で圧縮機110を強制的に停止させる。即ち、プーリ111の電磁クラッチを切断する。更に、ステップS160で、圧力制御弁113の弁開度調整によって圧縮機110の吐出容量を最小吐出容量側へ切換える。
【0055】
以上のように、本第1実施形態では、潤滑油が含有されるオレフィン系の弱燃性冷媒を用いる冷凍サイクル100の圧縮機110に、必須構成として逆止弁160とオイルセパレータ170とを設けるようにしている。これにより、圧縮機110の吐出側からはオイルセパレータ170によって潤滑油が分離された冷媒が流出されて、冷凍サイクル100内に循環されることになるので、冷凍サイクル100に損傷があった場合でも、潤滑油の混合した冷媒が外部に漏れることを防止できる。また、冷凍サイクル100に損傷があった場合に、逆止弁160によって、圧縮機110の吸入側からの冷媒の逆流流出が阻止されるので、圧縮機110から潤滑油の混合した冷媒が漏れることを防止できる。総じて、潤滑油の混合された冷媒の外部への漏れをより確実に防止可能とする冷凍サイクル装置10とすることができる。
【0056】
そして、圧縮機110に逆止弁160、およびオイルセパレータ170を設けるのみで、上記の漏れを防止できるので、低コストでの対応が可能となる。
【0057】
また、本第1実施形態では、付加機能部として電磁弁180を設けるようにしており、車両衝突時に、電磁弁180の閉弁(ステップS140)、圧縮機110の停止(ステップS150)、圧縮機110の吐出容量の最小化(ステップS160)を実行するようにしている。
【0058】
圧縮機110の吐出容量の最小化により圧縮機110から流出し得る冷媒量を最小にすると共に、電磁弁180の閉弁、および圧縮機110の停止により、車両の衝突時に圧縮機110の吐出側から冷媒自体が流出することを確実に防止できる。
【0059】
更に、本第1実施形態では、付加機能部として更にリリーフバルブ190の冷媒流れ下流側にキャップ200を設けるようにしているので、リリーフバルブ190から冷媒が流出する場合でも、キャップ200によって潤滑油の流出が阻止されるので、例えば凝縮器120での放熱不足による高圧側圧力上昇等の予期せぬ事態があっても、潤滑油の混合された冷媒が外部に漏れるのを防止することができる。
【0060】
更に、本第1実施形態では、ステップS100で車両エンジンが始動された時に、エアコン要求信号の有無に関らず、圧縮機110を作動させるようにしているので、仮に冷凍サイクル100内に潤滑油が停滞していても、強制的に圧縮機110を作動させることで、潤滑油を冷媒と共に圧縮機110に吸入させて、更にオイルセパレータ170で潤滑油を分離することができ、常に冷凍サイクル100内の潤滑油量を低減した状態で冷凍サイクル100を作動させることができる。
【0061】
(その他の実施形態)
上記第1実施形態では、圧縮機110に付加機能部として電磁弁180、リリーフバルブ190、およびキャップ200を備えるものとして説明したが、これらを適宜廃止したものとしても良い。即ち、必須構成として圧縮機110に逆止弁160とオイルセパレータ170とを設けることで、冷凍サイクル100が損傷した時であっても、潤滑油の混合した冷媒が外部に漏れることを防止できる。
【0062】
また、可変容量型圧縮機110としては、ピストンのストロークを可変する斜板式のものとしたが、これに限らず、吸入冷媒バイパス方式や、気筒数可変式等の圧縮機としても良い。また、圧縮機110は、エンジン駆動式のものとしたが、例えば電動モータによって駆動される電動式圧縮機としても良い。この場合は、図3で説明した制御フローのステップS150では、電磁クラッチの切断に代えて、電動モータの停止を実行する内容となる。また、圧縮機110は、固定容量型のものとしても良い。この場合は、図3で説明した制御フローにおいては、ステップS160を省略する。
【0063】
また、オイルセパレータ170は、遠心式のものに代えて、フィルタ式のものとしても良い。
【0064】
また、圧縮機110としては、リリーフバルブ190を備えるものにおいて、このリリーフバルブ190にキャップ200を装着しただけのもの(逆止弁160、オイルセパレータ170、電磁弁180無し)として、高圧側圧力上昇等の予期せぬ事態があった場合に、潤滑油の混合された冷媒がリリーフバルブ190から外部に漏れるのを防止するようにした冷凍サイクル装置としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態における車両用冷凍サイクル装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】第1実施形態における圧縮機を示す模式図である。
【図3】第1実施形態における制御装置が実行する制御フローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
10 車両用冷凍サイクル装置
100 冷凍サイクル
110 圧縮機
118 吐出口
150 制御装置
160 逆止弁
160a 弁体(遮断手段)
160b 弾性部材(駆動手段)
170 オイルセパレータ(油分離器)
180 電磁弁(開閉手段)
190 リリーフバルブ
200 キャップ(油分離捕捉手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮吐出して、冷凍サイクル(100)内を循環させる圧縮機(110)と、
前記圧縮機(110)の作動を制御する制御装置(150)とを備え、
車両に搭載される車両用冷凍サイクル装置において、
前記冷媒は、単独状態の時には前記車両のエンジンルームに搭載される高温熱源では着火しない弱燃性冷媒であり、
前記圧縮機(110)には、
吐出側において、前記冷媒中に含有される潤滑油を分離して、前記圧縮機(110)内に戻す油分離器(170)と、
吸入側において、前記冷媒の逆流流出を遮断する遮断手段(160a)と、
前記冷凍サイクル(100)の損傷時に、前記遮断手段(160a)を前記冷媒の逆流流出遮断側に駆動する駆動手段(160b)とが設けられたことを特徴とする車両用冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記遮断手段(160a)および前記駆動手段(160b)は、圧力応動型の逆止弁(160)であることを特徴とする請求項1に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記冷媒は、オレフィン系冷媒であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記圧縮機(110)には、前記油分離器(170)の前記冷媒流れの下流側流路(118)を開閉する開閉手段(180)が設けられたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記制御装置(150)は、前記車両の衝突時に前記開閉手段(180)によって前記下流側流路(118)を閉じることを特徴とする請求項4に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記制御装置(150)は、前記車両の衝突時に前記圧縮機(110)を停止させることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記圧縮機(110)は、1回転当たりの吐出容量を変更可能な可変容量型圧縮機(110)であり、
前記制御装置(150)は、前記車両の衝突時に前記吐出容量を設定可能な最小吐出容量へ変更することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項8】
前記制御装置(150)は、前記車両が始動されるたびに、前記冷凍サイクル(100)の運転要求有無に関らず、前記圧縮機(110)を予め定めた所定時間だけ作動させることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項9】
前記圧縮機(110)は、高圧側の圧力が所定圧力以上で前記高圧側の冷媒を外部へ流出させるリリーフバルブ(190)を備えており、
前記リリーフバルブ(190)には、流出する前記冷媒中の前記潤滑油を分離すると共に捕捉する油分離捕捉手段(200)が設けられたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1つに記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項10】
冷媒を圧縮吐出して、冷凍サイクル(100)内を循環させる圧縮機(110)を備え、
車両に搭載される車両用冷凍サイクル装置において、
前記冷媒は、単独状態の時には前記車両に搭載される高温熱源では着火しない弱燃性冷媒であり、
前記圧縮機(110)は、高圧側の圧力が所定圧力以上で前記高圧側の冷媒を外部へ流出させるリリーフバルブ(190)を備えており、
前記リリーフバルブ(190)には、流出する前記冷媒中に含有される潤滑油を分離すると共に捕捉する油分離捕捉手段(200)が設けられたことを特徴とする車両用冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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