説明

車両用冷凍サイクル装置

【課題】蒸発器温度の経時的変移分布を改善して蒸発器のフロストを抑制する車両用冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】車両用冷凍サイクル装置は、冷凍サイクル内の冷媒を吸入して吐出する圧縮機1と、圧縮機1の吸入側に接続され、空調対象空間に送風する空気から吸熱して低圧冷媒を蒸発させる蒸発器6と、蒸発器6からの気液二相冷媒のうち気相冷媒と液相冷媒とを分離し、気相冷媒を圧縮機1に吸入させるアキュムレータ7と、圧縮機1から吐出される冷媒流量を制御する制御電流を供給する制御装置100と、を備えている。圧縮機1はアイドリング時にON−OFF制御により運転され、制御装置100はON−OFF制御においてONするときには制御電流を徐々に立ち上げるように供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はON−OFF制御により圧縮機の冷媒吐出流量を制御する車両用冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用冷凍サイクル装置においては、車両用空調装置が所定の性能を発揮するために蒸発器がフロストしないように、圧縮機の吐出冷媒流量が適切に制御されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の車両用冷凍サイクル装置においては、蒸発器に流入する空気の熱負荷が予め与えられたフロストが発生する熱負荷領域内であるか否かによって、可変容量圧縮機の吐出冷媒流量を制御している。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の圧縮機の制御では、圧縮機をON−OFF作動させて吐出冷媒流量を制御する方法を採用した場合には十分なフロスト防止効果が得られない。
【0005】
そこで、圧縮機のON−OFF制御により吐出冷媒流量を制御した場合に、この制御に伴って変化する蒸発器の表面温度(以下、蒸発器温度とする)について図9を用いて説明する。図9に示すように、圧縮機の制御電流をデューティ値D1となるようにONさせる時とOFFにする時とを繰り返すことにより吐出冷媒流量を増減させている(図9の下方の矩形状波形参照)。
【0006】
まず、圧縮機はOFF(停止状態)されており、この状態で蒸発器温度が上昇して所定の上限値を超えると、制御装置から圧縮機を作動させる信号が送られてONし、圧縮機が作動する。
【0007】
圧縮機がONしてからも蒸発器温度は上昇し続け最高点に上がりきると、冷媒流量の増加とともに下がり始め、上記所定の上限値を下回ると圧縮機が停止する。このようにして圧縮機は所定時間の運転状態から停止状態に移行する。
【0008】
圧縮機が停止状態になった後も冷却能力の応答遅れから蒸発器温度は下がり続け、最低点に下がりきると再び上昇し始める。そして、また蒸発器温度が所定の上限値を超えるようになると、圧縮機は運転状態になり、所定時間の運転状態において蒸発器温度は最高点に達し、停止状態に移行した後、最低点まで下がり、また上昇し始める。蒸発器温度は圧縮機のON−OFF作動に伴って以上の増減を繰り返して変化する。
【特許文献1】特開2005−178560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記図9を用いて説明した圧縮機の制御においては、蒸発器温度が最低点にまで下がりすぎてアンダーシュート量が大きくなりすぎるので、フロスト発生の虞があり、最低点と最高点の温度差が大きくなり(例えば10℃以上)、蒸発器の性能を十分に発揮できない虞がある。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、蒸発器温度の経時的変移分布を改善して蒸発器のフロストを抑制する車両用冷凍サイクル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。すなわち、車両用冷凍サイクル装置に係る第1の発明は、冷凍サイクル内の冷媒を吸入して吐出する圧縮機(1、10)と、圧縮機(1、10)の吸入側に接続され、空調対象空間に送風する空気から吸熱して低圧冷媒を蒸発させる蒸発器(6)と、蒸発器(6)からの気液二相冷媒のうち気相冷媒と液相冷媒とを分離し、気相冷媒を圧縮機(1、10)に吸入させるアキュムレータ(7)と、圧縮機(1、10)から吐出される冷媒流量を制御する制御電流を供給する制御装置(100、110)と、を備え、
圧縮機(1、10)は車両の一時的停車時にON−OFF制御により運転され、制御装置(100、110)は当該ON−OFF制御においてONするときには制御電流を徐々に立ち上げるように供給することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、車両の一時的停車時に(例えば、アイドリング時やアイドリングストップ時)圧縮機をON−OFF制御する際にON時の制御電流を徐々に立ち上げるように供給することにより、圧縮機の吐出冷媒流量を徐々に増加させて、蒸発器に流入する冷媒流量の急激な増加を抑えるので、車両の一時停車時のON−OFF制御における蒸発器温度の下がりすぎを緩和することができ、当該温度の経時的変移分布を改善することができる。したがって、低燃費を図るとともに蒸発器のフロストを抑制する車両用冷凍サイクル装置を提供できる。
【0013】
また、制御装置(100、110)は、徐々に立ち上げて供給する制御電流の増加率(一定の傾き)を、冷凍サイクル内を流れる冷媒流量、蒸発器(6)へ送風される空気の温度、蒸発器(6)に送風される空気の風量、蒸発器(6)に送風される空気の温度と湿度とから求めた比エンタルピー、のいずれかを用いて決定することができる。
【0014】
これらの各発明によれば、蒸発器に対する熱負荷を検出し、この熱負荷を供給する制御電流の立ち上げレベルの決定に活用することにより、フロストを抑制する条件をより的確におさえた制御を提供できる。
【0015】
また、制御装置(100、110)は、上記制御電流の増加率(一定の傾き)を決定するために用いられる複数の情報のうち、少なくとも二つの情報を用いて一定の傾きをそれぞれ求めるようにし、当該求められた少なくとも二つの一定の傾きを比較して傾きが最も緩やかなものを最終的な制御電流の傾きに決定することが好ましい。この発明によれば、より確実にフロストを防止できる制御を提供できる。
【0016】
また、制御装置(100、110)は、前回の制御電流ONに係る作動によって下がりきった時の蒸発器の最低温度を用いて、今回の制御電流ON時の制御電流の傾きを決定することが好ましい。この発明によれば、実際の蒸発器の温度を用いてフィードバック制御をかけることにより、より迅速で無駄の少ない制御を提供できる。
【0017】
上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1〜図3を用いて説明する。図1は本実施形態の車両用冷凍サイクル装置の概略構成を示したサイクル図である。本実施形態に一例として示す車両用冷凍サイクル装置は、車室内前部の計器盤の裏側(車両前側)に設置されている車両用空調装置に用いられ、サイクル内の蒸発器において車室内へ送風する空気から吸熱して車室内の冷房に寄与する。
【0019】
図1に示すように、車両用冷凍サイクル装置は、室内熱交換器である蒸発器6により車室内の冷房を行う冷凍サイクル装置であり、蒸発器6の他に、サイクル内の冷媒を吸入して圧縮する圧縮機1、室外熱交換器である凝縮器4、減圧手段である膨張弁5およびアキュムレータ7を備え、これらが冷媒配管によって環状に接続された構成となっている。なお、車室内の暖房、除湿については、走行用のエンジン8の冷却水を熱源とする温水式ヒータコアを空気通路内に設け、蒸発器6を通過した空気を加熱するようにしている。
【0020】
さらに、圧縮機1の吐出側の冷媒配管には圧縮機1から吐出される冷媒流量を検出する流量センサ3が設けられている。膨張弁5は、温度式となっており、放熱器4の冷媒流出側の冷媒温度に応じてその弁開度が調節される。具体的には、放熱器出口の温度により決定する圧力よりも冷媒圧力が高いと弁開度が大きい側に変更されて放熱器4における冷媒圧力が低い側に維持され、逆に、放熱器出口の温度により決定する圧力よりも冷媒圧力が低くなると弁開度が小さい側に変更されて放熱器4における冷媒圧力が高い側に維持される。
【0021】
膨張弁5は、冷凍サイクルの運転効率を所定の高い水準に維持するように弁開度を調整する手段を備えるような他の構成に置き換えることができる。本実施形態では、高圧冷媒の温度と圧力とを、ガス圧力として流体的に検知する機械式膨張弁を採用しているが、これに代えて弁開度を調節するモータ等の電磁アクチュエータと、高圧冷媒の状態を検知して電気信号を出力するセンサと、この信号に応じて電磁アクチュエータを制御する制御装置とで構成される電気式膨張弁を採用することができる。
【0022】
アキュムレータ7は、冷房運転時において蒸発器6からの気液二相冷媒のうち気相冷媒と液相冷媒とを分離して気相冷媒を圧縮機1に吸入させるものである。
【0023】
本実施形態で一例として説明する圧縮機1は、冷媒の圧縮容量を可変できる可変容量式であり、ここでは斜板型可変容量圧縮機を用いることとする。斜板型可変容量圧縮機においては、走行用のエンジン8からの駆動力がプーリーを介してシャフトに伝達され、シャフトに固定されたドライブプレートと隙間嵌合されたガイドピンを介して斜板が回転運動される。
【0024】
圧縮機1には、吐出容量を制御できる容量制御機構である容量制御弁2が取り付けられている。容量制御弁2は制御装置100からの容量制御信号によって作動する。容量制御弁2が作動すると、圧縮機1のケース内の制御圧力が変化する。制御圧力が変化すると、斜板の傾斜角度が変化し、斜板にシューを介して接続されたピストンのストロークが変化して圧縮機1の容量が変化することになる。
【0025】
容量制御弁2は、電磁駆動式の弁であり、制御装置100から供給される制御電流(デューティ)によってその開度が制御される開閉弁である。容量制御弁2は車両の一時的停車におけるアイドリング時にはON−OFF作動され、このON−OFF作動は制御装置100から供給される制御電流によって適切に制御される。
【0026】
デューティ信号は、短時間毎にON、OFFを繰り返すパルス状波形の電流の信号である。信号のON、OFFは容量制御弁2の開弁、閉弁に対応する。斜板型可変容量圧縮機の容量は、容量制御弁2を開弁させたときは減少し、閉弁させたときは増加する。このようにパルス信号のデューティ比を変化させることにより、斜板の傾斜角度およびピストンのストロークと圧縮機の容量を無段階に変化させて自由に制御することができる。
【0027】
制御装置100は、マイクロコンピュータを備えており、エアコン環境情報、エアコン運転条件情報および車両環境情報が入力される。エアコン環境情報は車内温度、日射、外気温度などを含む。エアコン運転条件情報はエアコンON・OFF情報、エアコンモード情報、設定温度などを含む。車両環境情報はエンジン回転数、アクセル開度などを含む。
【0028】
制御装置100は、エアコン環境情報、エアコン運転条件情報、および車両環境情報を受信してこれらを演算し、圧縮機1の設定すべき容量を算出する。そして、制御装置100はエアコン制御のアンプでもあり、容量制御電流を容量制御弁2に出力し、圧縮機1の容量を制御する。
【0029】
運転手が空調操作パネル(図示しない)を操作して空調装置の運転・停止、および設定温度などの操作信号などが制御装置100に入力されると、それに応じて圧縮機1および車両用空調装置の各機器の運転が制御装置100によって制御される。
【0030】
次に、上記構成に基づく作動について説明する。まず、車両走行時でエアコンが作動状態である場合には、エンジン8の駆動力を受けて圧縮機1が作動される。このとき、制御装置100によって容量制御弁2の弁開度が制御され、必要冷房能力に見合った冷媒吐出流量に調整される。
【0031】
制御装置100は、このように圧縮機1を作動させるときには、蒸発器フィン温度センサ等で検出された蒸発器の温度に基づいた制御電流を送り、容量可変制御を実行する。このときの容量可変制御においては、冷房時に蒸発器温度として許容し得る上限値と下限値を予め設定しておき、蒸発器温度が下限値を下回る場合は冷媒吐出流量を減少するように容量制御弁2を制御し、蒸発器温度が上限値を超える場合は冷媒吐出流量を増加させるように容量制御弁2を制御する。すなわち、制御装置100は、車両が停止していない走行状態にある間中、所要の冷房能力が発揮されるように圧縮機1の吐出容量を2段階よりも十分に多い多段階となるように、あるいは連続的になるようにフィードバック制御を行う。
【0032】
次に、車両走行時から信号待ち等により車両停止状態になった場合(アイドリング状態)には、図2に示すような圧縮機1のON−OFF制御を実行する。図2はアイドリング時における圧縮機1のON−OFF制御とこれに伴って変移する蒸発器温度(フィン温度)との関係を示したタイムチャートである。このON−OFF制御は、必要冷房能力に見合った冷媒吐出流量にするように圧縮機1を制御するとともに、制御電流のONとOFFとを繰り返す中でのデューティの変化を表す波形に特徴がある。その波形は、通常の矩形波ではなく、直角三角形状の突出した波形が繰り返されるようにして形成されている。
【0033】
エアコンを運転する要求が制御装置100に入力されると、制御装置100は容量制御弁2に対して徐々に立ち上げるようなON時の制御電流を供給する。この徐々に立ち上げる制御電流は、ONと同時に目標容量とするデューティD1(例えば最大出力値の20〜100%)の制御電流を供給するのではなく、0からD1に至るまでに所定の時間を要するように傾き(制御電流の時間に対する増加率、ここでは傾きD1/(t5−t4)。図2の直角三角形の斜辺の傾きに相当する。)を持たせたものである。
【0034】
このように制御電流を徐々に立ち上げて供給することにより、圧縮機1からの吐出冷媒流量は制御電流の増加に比例するように増加することになり、低圧冷媒流入量の急増による蒸発器6の冷えすぎ(アンダーシュート、蒸発器温度の経時的変移分布が一時的にフロスト許容レベルを下回ること)を抑制することができる。
【0035】
具体的には、圧縮機1の停止状態において蒸発器温度が上昇して所定の上限値(図2のT2よりも低温)を超えると、制御装置100から圧縮機1を運転させる信号が送られ、容量制御弁2に上述の制御電流が供給されて圧縮機1が作動する。このとき制御電流を徐々に立ち上げて供給しているので、低圧冷媒が徐々に増加するように蒸発器6に流れてくるようになる。そして、制御電流の供給後では応答遅れにより蒸発器温度は上昇し続け最高温度T2に上がりきるものの、冷媒流量の緩やかな増加とともに急激に冷やされることなく最高温度T2から緩やかに低下していく。
【0036】
蒸発器温度が上記所定の上限値を下回ると、制御装置100は制御電流の供給を急激に停止し(ON−OFF作動をOFFし)、圧縮機1も停止して吐出流量がゼロになる。制御電流は、増加時よりも低下時に明らかに急激な変化を示すように制御される。このようにして圧縮機1は所定時間の運転状態から停止状態に移行する。そして、蒸発器温度が最低温度T1まで下がった後、再び上昇し始め所定の上限値を超えるようになると、制御装置100は容量制御弁2に前回と同様の制御電流を供給して圧縮機1が運転状態になる。再び蒸発器温度は前述のように最高温度T2に達し、制御電流の供給が停止されて圧縮機1が停止した後、最低温度T1まで下がり、また上昇し始める。本制御により最高温度T2から最低温度T1の間で増減する蒸発器温度は、例えば5℃以内に納まっており、蒸発器6の冷えすぎによるフロストを抑制することができる。
【0037】
また、この制御電流の立ち上がりの傾きは、実験等により経験則上、予め制御装置100に記憶しておいた傾きをそのまま採用してもよいし、検出された冷媒流量を用いた演算を行って傾きを求めてもよい。冷媒流量を用いて傾きを求める場合には、図3に示すような望ましい(理想的)冷媒流量Grの増加率(時間taに対してG2−G1の流量変化率)を規定した制御マップを予め制御装置100に記憶させておく。
【0038】
そして、制御装置100は、圧縮機1のON−OFF制御において制御電流の立ち上がりの傾きを決定する際に、流量センサ3によって吐出冷媒流量の増加(変化率)を求め、求められた増加率が図3に示す予め記憶した所定の制御マップに対して傾きが大きいか否かを判定する。制御装置100は、傾きが大きいと判定した場合には冷媒流量の増加率を小さくするように所定の増加率の傾きよりも小さい傾きに決定し、その傾きを満たす制御電流を容量制御弁2に供給する。
【0039】
逆に傾きが小さいと判定した場合には、制御装置100は冷媒流量の増加率を大きくするように所定の増加率の傾きよりも大きい傾きに決定し、その傾きを満たす制御電流を容量制御弁2に供給する。つまり、検出された冷媒流量を用いてフィードバックをかけることにより、サイクル内の実際の冷媒流量を理想的な冷媒流量Grの増加率に近づけるように制御電流を決定する。
【0040】
以上のように本実施形態の車両用冷凍サイクル装置は、冷凍サイクル内の冷媒を吸入して吐出する圧縮機1と、圧縮機1の吸入側に接続され、空調対象空間に送風する空気から吸熱して低圧冷媒を蒸発させる蒸発器6と、蒸発器6からの気液二相冷媒のうち気相冷媒と液相冷媒とを分離し、気相冷媒を圧縮機1に吸入させるアキュムレータ7と、圧縮機1から吐出される冷媒流量を制御する制御電流を供給する制御装置100と、を備えている。圧縮機1はアイドリング時にON−OFF制御により運転され、制御装置100はON−OFF制御においてONするときには制御電流を徐々に立ち上げるように供給する。
【0041】
この制御によれば、圧縮機1の吐出冷媒流量を徐々に増加させることにより、蒸発器6に流入する冷媒流量の急激な増加が抑えられて、アイドリング時のON−OFF制御における蒸発器温度の下がりすぎを緩和でき、当該温度の経時的変移分布を改善することができる。
【0042】
また、制御装置100は冷凍サイクル内を流れる冷媒流量を用いて制御電流の立ち上がりの傾き(増加率)を決定することにより、精度の高い蒸発器6に対する熱負荷を制御電流の立ち上げレベルの決定に活用してフロストをより的確に抑制することができる。
【0043】
また、制御装置100は、ON−OFF制御を車両停止時にまたは車両停止時のアイドリング時にのみ、実行するようにすることができる。この制御では、車両走行時などには、圧縮機の容量制御が実行され、停車時にのみON−OFF制御が実行される。
【0044】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態に対して、制御電流の立ち上がりの傾きを上述の冷媒流量を用いて決定する方法を、蒸発器6を通過する前の吸込み空気温度(蒸発器6の熱負荷情報である蒸発器6に送風される空気の温度)を用いて決定する方法に置き換えた変形例について図4を用いて説明する。図4はアイドリング時の圧縮機1の制御において圧縮機ON時に供給する制御電流を決定するためのマップである。
【0045】
制御装置100は、予め図4に示すような所定の制御電流の傾き(増加率)を規定した制御マップを記憶している。そして、制御装置100は、圧縮機1のON−OFF制御において制御電流の立ち上がりの傾きを決定する際に、蒸発器前温度センサ等によって検出された蒸発器通過前の吸込み空気温度を用いて図4の制御マップから制御電流の傾きを決定する。
【0046】
具体的には、制御装置100は、蒸発器通過前の吸込み空気温度が35℃以上の場合は図4の35℃相当の制御電流の傾き(時間taに対してi2の電流変化率、図4の実線)を採用し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。一方、蒸発器通過前の吸込み空気温度が10℃以下の場合には制御装置100は、図4の10℃相当の制御電流の傾き(時間tbに対してi1の電流変化率、図4の二点鎖線)を採用し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。
【0047】
また、制御装置100は、蒸発器通過前の吸込み空気温度が10℃を超え35℃未満である場合には10℃相当の傾き(図4の二点鎖線)と35℃相当の傾き(図4の実線)から補間法により傾きを算出し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。
【0048】
このように本実施形態の制御によれば、蒸発器6を通過する前の吸込み空気温度から蒸発器6に対する熱負荷を正確に検出し、この熱負荷を供給する制御電流の立ち上げレベルの決定に活用することにより、フロストをより的確に抑制する制御を実行できる。
【0049】
(第3実施形態)
第3実施形態では、第2実施形態に対して、制御電流の立ち上がりの傾きを上述の蒸発器通過前の吸込み空気温度を用いて決定する方法を、ブロワによる蒸発器6への送風の風量レベル(蒸発器6の熱負荷情報である蒸発器6に送風される空気風量)を用いて決定する方法に置き換えた変形例について図5を用いて説明する。図5はアイドリング時の圧縮機1の制御において圧縮機ON時に供給する制御電流を決定するためのマップである。
【0050】
制御装置100は予め図5に示すような所定の制御電流の傾き(増加率)を規定した制御マップを記憶している。そして、制御装置100は、圧縮機1のON−OFF制御において制御電流の立ち上がりの傾きを決定する際に、空調装置の設定風量レベルを用いて図5の制御マップから制御電流の傾きを決定する。
【0051】
具体的には、制御装置100は、設定風量レベルがHi(大風量)である場合は図5のHi相当の制御電流の傾き(時間taに対してi4の電流変化率、図5の実線)を採用し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。一方、設定風量レベルがLo(小風量)である場合には、制御装置100は図5のLo相当の制御電流の傾き(時間tbに対してi3の電流変化率、図5の二点鎖線)を採用し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。
【0052】
また、制御装置100は、設定風量レベルがHiとLoの間の風量である場合にはLo相当の傾き(図5の二点鎖線)とHi相当の傾き(図4の実線)との中間の傾きを算出し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。
【0053】
このように本実施形態の制御によれば、ブロワによる蒸発器6への送風の風量レベルから蒸発器6に対する熱負荷を正確に検出し、この熱負荷を供給する制御電流の立ち上げレベルの決定に活用することにより、フロストをより的確に抑制する制御を実行できる。
【0054】
(第4実施形態)
第4実施形態では、第2実施形態に対して、制御電流の立ち上がりの傾きを上述のブロワによる蒸発器6への送風の風量レベルを用いて決定する方法を、蒸発器6の熱負荷情報である蒸発器6に送風される空気のもつ比エンタルピー(KJ/Kg)を用いて前記一定の傾きを決定する方法に置き換えた変形例について図6を用いて説明する。図6はアイドリング時の圧縮機1の制御において圧縮機ON時に供給する制御電流を決定するためのマップである。
【0055】
制御装置100は予め図6に示すような所定の制御電流の傾き(増加率)を規定した制御マップを記憶している。そして、制御装置100は、圧縮機1のON−OFF制御において制御電流の立ち上がりの傾きを決定する際に、温度センサおよび湿度センサ等により蒸発器に送風される空気の温度および湿度を検出し、検出した温度および湿度から算出した比エンタルピーを用いて図6の制御マップから制御電流の傾きを決定する。
【0056】
具体的には、制御装置100は、算出した比エンタルピーがh1以上である場合は図6のh1相当の制御電流の傾き(時間taに対してi6の電流変化率、図6の実線)を採用し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。一方、算出した比エンタルピーがh2以下である場合には、制御装置100は図6のh2相当の制御電流の傾き(時間tbに対してi5の電流変化率、図6の二点鎖線)を採用し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。
【0057】
また、制御装置100は、算出した比エンタルピーがh1とh2の間の値である場合にはh2相当の傾き(図6の二点鎖線)とh1相当の傾き(図5の実線)から補間法により傾きを算出し、時間に対してこの傾きをもって電流が増加するような制御電流を容量制御弁2に供給する。
【0058】
このように本実施形態の制御によれば、蒸発器6に送風される空気のもつ比エンタルピー(KJ/Kg)から蒸発器6に対する熱負荷を正確に検出し、この熱負荷を供給する制御電流の立ち上げレベルの決定に活用することにより、フロストをより的確に抑制する制御を実行できる。
【0059】
(第5実施形態)
第5実施形態では、第1実施形態から第4実施形態に記載した制御電流の立ち上がりの傾きを決定する方法について、前回にONされた制御電流によって下がりきった時の蒸発器の最低温度を用いて今回の制御電流ON時の制御電流の傾きを決定する方法(いわゆるフィードバック制御)を適用したものを図7を用いて説明する。図7はアイドリング時の圧縮機1の制御において、ON−OFF制御とこれに伴って変移する蒸発器温度との関係を示したタイムチャートである。
【0060】
アイドリング時に圧縮機1が停止している状態において、制御装置100から圧縮機1を運転させる信号が送られると、容量制御弁2に上述の制御電流が供給されて圧縮機1が作動する。この1回目の制御電流は立ち上がりの傾きがD1/(t1−t0)であり、この制御電流によって蒸発器温度はT3からT0まで低下する。ここで制御装置100には蒸発器温度がフロスト防止のため温度T1以上となるように設定されているので、T1−T0が蒸発器温度のアンダーシュート量である。
【0061】
そこで、制御装置100は、2回目の制御電流の供給時には、1回目(前回)にONされた制御電流によって下がりきった時の蒸発器6の最低温度T0を用いてアンダーシュート量(T1−T0)を算出する。さらに制御装置100は、算出したアンダーシュート量に基づいて2回目の制御電流の立ち上がりの傾きを決定する。この傾きは算出されたアンダーシュート量に逆比例するような値に決定する。ここでは2回目の制御電流は、1回目でフロスト防止の下限値を下回った温度であるため、1回目の傾きよりもより緩やかな傾きD1/(t3−t2)に決定される。
【0062】
このように本実施形態の制御によれば、実際の蒸発器6の温度を用いて次回の制御電流の初期増加率を決定するので、より迅速にフロスト防止が行われ、かつ過不足なく無駄の少ない制御を実施できる。
【0063】
(第6実施形態)
第6実施形態は、第1実施形態の車両用冷凍サイクル装置に対して、圧縮機として電動コンプレッサを用いた場合の実施形態を図8を用いて説明する。図8において図1と同一符号のものは同一の構成部品であり、同様の作用効果および作動を奏する。図8は本実施形態の車両用冷凍サイクル装置の概略構成を示したサイクル図である。なお、本実施形態の圧縮機10は、第2実施形態〜第5実施形態にも適用することができる。
【0064】
図8に示すように、圧縮機10は固定容量式のハイブリッド車両用の電動コンプレッサであり、モータ11と一体的に構成されている。そして、本実施形態で対象となる車両は、信号待ちなどで一時停車した時にエンジン8が停止するアイドリングストップ車両である。この車両では、車両用冷凍サイクルが作動している場合、車両走行中はエンジン8を駆動源としてプーリーやベルトを介して圧縮機10が作動し、停車時にエンジン8が停止すると、バッテリ(図示しない)からの電源によって作動するモータ11を駆動源として圧縮機10が作動する。
【0065】
モータ11は、制御装置110がON−OFF作動の制御電流を制御することで、その回転数が制御される構造であり、モータ11の回転数に応じて圧縮機10の吐出冷媒容量が変化するようになっている。モータ11は制御装置110から供給される制御電流(デューティ)によってその回転数が制御される。
【0066】
車両の一時的停車時において、エンジン回転数信号、アイドルストップ判定信号によりエンジン8が停止状態であると判定され、さらに制御装置110にエアコン運転の要求信号があると、制御装置110は停止状態であるモータ11に制御電流を供給して圧縮機10を作動する。そして、このときのON−OFF制御は、第1実施形態と同様に制御装置110から供給される制御電流によって適切に制御され、第1実施形態と同様の作用効果を奏するものである。
【0067】
このように本実施形態は、冷凍サイクル内の冷媒を吸入して吐出する電動コンプレッサ(圧縮機10)と、電動コンプレッサの吸入側に接続され、空調対象空間に送風する空気から吸熱して低圧冷媒を蒸発させる蒸発器6と、蒸発器6からの気液二相冷媒のうち気相冷媒と液相冷媒とを分離し、気相冷媒を圧縮機1に吸入させるアキュムレータ7と、電動コンプレッサから吐出される冷媒流量を制御する制御電流を供給する制御装置100と、を備えている。電動コンプレッサはアイドリングストップ時にON−OFF制御により運転され、制御装置100はON−OFF制御においてONするときには制御電流を徐々に立ち上げるように供給する。
【0068】
この制御によれば、圧縮機10の吐出冷媒流量を徐々に増加させることにより、蒸発器6に流入する冷媒流量の急激な増加が抑えられるので、アイドリングストップ時のON−OFF制御における蒸発器温度の下がりすぎを緩和でき、当該温度の経時的変移分布を改善することができる。
【0069】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0070】
例えば、圧縮機ON時に供給する上記制御電流を決定する制御マップとして第1実施形態〜第4実施形態に4つの制御マップを示したが、これらマップの中から少なくとも2つの制御マップを用いて当該制御電流の波形を決定してもよい。この場合には、採用する2つ以上の制御マップのそれぞれについて当該制御電流の波形を演算し、これらを比較し、制御電流の立ち上がり(傾き)が最も緩やかな波形を最終的な制御電流として決定することとする。
【0071】
つまり、制御装置100、110は、上記制御電流の増加率(一定の傾き)を決定するために用いられる第1実施形態〜第4実施形態に記載の複数の情報のうち、少なくとも二つの情報を用いて一定の傾きをそれぞれ求めるようにし、当該求められた少なくとも二つの一定の傾きを比較してその傾きが最も緩やかなものを最終的な制御電流の傾き(制御電流の増加率)に決定する。これにより、安全よりの制御が実行され、確実なフロスト防止を実施できる。
【0072】
また、圧縮機ON時に供給する上記制御電流の波形は、その立ち上りの波形が1次直線に限定されるものではなく、徐々に上昇する形状であればよく、例えば2次曲線状であってもよい。
【0073】
また、上記第6実施形態は、その対象車両はアイドリングストップ車両であるが、これに代えて、主に低速走行時および停車時にエンジンが停止するハイブリッド車両に適用してもよく、同様の作用、効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】第1実施形態の車両用冷凍サイクル装置の概略構成を示したサイクル図である。
【図2】第1実施形態の車両用冷凍サイクル装置において、アイドリング時における圧縮機の制御とこれに伴って変移する蒸発器温度との関係を示したタイムチャートである。
【図3】第1実施形態に係るアイドリング時の圧縮機の制御において、圧縮機ON時に供給する制御電流を決定するためのマップである。
【図4】第2実施形態に係るアイドリング時の圧縮機の制御において、圧縮機ON時に供給する制御電流を決定するためのマップである。
【図5】第3実施形態に係るアイドリング時の圧縮機の制御において、圧縮機ON時に供給する制御電流を決定するためのマップである。
【図6】第4実施形態に係るアイドリング時の圧縮機の制御において、圧縮機ON時に供給する制御電流を決定するためのマップである。
【図7】第5実施形態に係るアイドリング時の圧縮機の制御において、ON−OFF制御とこれに伴って変移する蒸発器温度との関係を示したタイムチャートである。
【図8】第6実施形態の車両用冷凍サイクル装置の概略構成を示したサイクル図である。
【図9】従来の車両用冷凍サイクル装置において、圧縮機のON−OFF作動とこれに伴って変移する蒸発器の表面温度との関係を示したタイムチャートである。
【符号の説明】
【0075】
1、10…圧縮機
6…蒸発器
2…容量制御弁
7…アキュムレータ
100、110…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクル内の冷媒を吸入して吐出する圧縮機(1、10)と、
前記圧縮機(1、10)の吸入側に接続され、空調対象空間に送風する空気から吸熱して低圧冷媒を蒸発させる蒸発器(6)と、
前記蒸発器(6)からの気液二相冷媒のうち気相冷媒と液相冷媒とを分離し、気相冷媒を前記圧縮機(1、10)に吸入させるアキュムレータ(7)と、
前記圧縮機(1、10)から吐出される冷媒流量を制御する制御電流を供給する制御装置(100、110)と、を備え、
前記圧縮機(1、10)は車両の一時的停車時にON−OFF制御により運転され、
前記制御装置(100、110)は前記ON−OFF制御においてONするときの制御電流を徐々に立ち上げるように増加させて供給することを特徴とする車両用冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記制御装置(100、110)は、電流増加率をあらわす一定の傾きをもたせるように前記制御電流を徐々に立ち上げて供給し、前記冷凍サイクル内を流れる冷媒流量を用いて前記制御電流の傾きを決定することを特徴とする請求項1に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記制御装置(100、110)は、電流増加率をあらわす一定の傾きをもたせるように前記制御電流を徐々に立ち上げて供給し、前記蒸発器(6)へ送風される空気の温度を用いて前記制御電流の傾きを決定することを特徴とする請求項1に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記制御装置(100、110)は、電流増加率をあらわす一定の傾きをもたせるように前記制御電流を徐々に立ち上げて供給し、前記蒸発器(6)に送風される空気の風量を用いて前記制御電流の傾きを決定することを特徴とする請求項1に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記制御装置(100、110)は、電流増加率をあらわす一定の傾きをもたせるように前記制御電流を徐々に立ち上げて供給し、前記蒸発器(6)に送風される空気の温度と湿度とから求めた比エンタルピーを用いて前記一定の傾きを決定することを特徴とする請求項1に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項6】
制御装置(100、110)は、請求項2から請求項5に記載された前記制御電流の傾きを決定するために用いられる前記情報のうち、少なくとも二つの前記情報を用いて前記一定の傾きをそれぞれ求めるようにし、前記求められた少なくとも二つの一定の傾きを比較して、傾きが最も緩やかなものを最終的な制御電流の傾きに決定することを特徴とする車両用冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記制御装置(100、110)は、前回の制御電流ONに係る作動によって下がりきった時の蒸発器の最低温度を用いて、今回の制御電流ON時の前記制御電流の傾きを決定することを特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載の車両用冷凍サイクル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−61937(P2009−61937A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231977(P2007−231977)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】