説明

車両用冷却構造

【課題】従来、ラジエターを通過した空気を単にエンジンコンパーメント内に放出せず、車両下方に逃げるようにした構造では、ラジエターを通過した空気は車両下部に排出されるので、高速運転時に過冷却になる。また、高速時にフラッパが開いて、エンジンコンパーメント内に空気を流すと、結果的に空気の滞留箇所を作ってしまい、空気抵抗の増加を生じることとなる。
【解決手段】車両前部の空気取入口から車両下部へ流入空気を導くためのダクトと、前記ダクトの出口に略水平に配置されたラジエターと、前記車両の速度に応じて前記ダクトの通風面積を変える通風面積変更手段とを有する車両用冷却構造を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以後「エンジン」という)を冷却するためのラジエターの配置および、ラジエターを通過させる空気の流れを制御するダクトの構造に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、シリンダ内部で燃料を爆発的に燃焼させることで、ピストンを動かし、ピストンの動きをクランク軸の回転に変換することで、駆動力を得る。従って、シリンダ内の燃焼室周辺は高温となるため、冷却構造が設けられる。この冷却構造は、空気の流れだけで行うものと、燃焼室周囲にウォータージャケットを設け、そこに冷却液を循環させるタイプの物がある。冷却水を用いる冷却構造は通常水冷方式と呼ばれている。
【0003】
水冷方式の冷却構造では、冷却水は、燃焼室周囲で熱を奪った後、放熱装置であるラジエターで熱を放出し、温度を下げた後、再び燃焼室周囲を循環する。エンジンは通常車両の前方部に設けられたエンジンコンパーメントと呼ばれる空間に配置される場合が多く、ラジエターはエンジンの前方に縦置きに配置される。これは、車両前方に空気取り入れ口を設け、そこからエンジンコンパーメントに流入する空気でラジエターを冷却するためである。
【0004】
しかし、このような構造では、エンジンコンパーメント中には、ラジエターを通過した熱風が流れることとなるので、ラジエター以外で冷却したいものが効率よく冷却できないという課題があった。ここでラジエター以外で冷却したいものとは、例えば吸気を冷却するための機構がある。吸気の温度が高くなると、酸素の含有量が減り、結果的に燃費を低下させる。
【0005】
また、ラジエターを通過した熱風は、エンジンコンパーメント内からスムースに抜けないので、空気が滞留し、そのため車両の走行時の空気抵抗が増加する。また、車速が増加すると、ラジエターを通過する空気量も多く、低速でも冷却能力を発揮できるように設計されたラジエターにとっては、過冷却になるおそれもある。
【0006】
このような課題を解決する方法として、特許文献1には、ラジエターとエンジンの間に、ラジエターを通過した空気を車両下部に流すためのダクトを設けた構造が開示されている。
【0007】
特許文献1では、ラジエターを抜ける風の抵抗を少なくし、ラジエターの放熱性能を向上させることを図っている。そのため、エンジン下方に設けられるダクトの出口には、ダクト中の空気をより排出しやすくするために、クロスフローファンを設けている。さらに、ダクトには、エンジン側に風圧で開口できるフラッパを設け、冷却の効率化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−298175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、従来のように、ラジエターを通過した空気を単にエンジンコンパーメント内に放出せず、車両下方に逃げるようにしている点で、走行中の空気抵抗を低減する方法であるといえる。しかしながら、基本的にラジエターを通過した空気はどこかに排出されるので、高速運転時に過冷却になるという課題は解決されていない。
【0010】
また、高速時にフラッパが開いて、エンジンコンパーメント内に空気を流すと、結果的に空気の滞留箇所を作ってしまい、空気抵抗の増加を生じることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みて想到された発明である。より具体的には、
車両前部の空気取入口から車両下部へ流入空気を導くためのダクトと、
前記ダクトの出口に略水平に配置されたラジエターと、
前記車両の速度に応じて前記ダクトの通風面積を変える通風面積変更手段とを有する車両用冷却構造である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用冷却構造は、ラジエターがエンジンコンパーメントの下部に略水平に配置され、車両前部の空気取入口から流入した風は、ダクトを通過してラジエターを抜け、車両下部に流れるので、エンジンコンパーメント内で空気の滞留が生じることがなく、空気抵抗を増加させない。
【0013】
また、エンジンコンパーメント内にラジエター通過後の熱風が入らないので、吸気を冷却するための機構等を配置することができ、エンジンコンパーメント内の効率のよい冷却ができる。
【0014】
また、本発明に係るダクトは、通風面積を速度により変更することができる。従って、低速時には通風面積を大きくし、冷却効果を高める。また高速時には通風面積を小さくし、過冷却を防止することができる。
【0015】
また、ラジエターをエンジンコンパーメント下方に略水平に配置するので、エンジンコンパーメントのアンダーカバーとしての役目も果たす。すなわち、騒音や空気抵抗の低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の車両用冷却構造の構成を示す図である。
【図2】本発明の車両用冷却構造の動作を示す図である。
【図3】本発明の車両用冷却構造の他の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、下記の実施形態を変形してもよい。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の車両用冷却構造の構成を示す図である。図1は車両の前方部のエンジンコンパーメントの側面からの断面図である。タイヤおよび車軸は記載を省略している。本発明の車両用冷却構造1では、エンジン2およびトランスミッションは車両3の前方に設けられたエンジンコンパーメント4中に配置されるのが好適である。しかし、エンジン2を車両3後方に配置する構成を排除するものではない。運転者(図示せず)はエンジン2の後方に着座することとなる。
【0019】
車両3の前方部には、空気取入口5が設けられる。空気取入口5からは、ダクト20がエンジンコンパーメント4下方に向って延設される。そして、エンジンコンパーメント4の下方には略水平に配置されたラジエター10が設けられている。ここで略水平とは、車両3の側面視において、ラジエター10の縁10aと水平面7(2点鎖線で示した)のなす角度が45度以下の角度で配置されていることを言う。エンジン2自体は、ラジエター10の上方であっても斜め上方であってもよい。
【0020】
ラジエター10は、エンジンコンパーメント4の下方に略水平に配置されるので、エンジンコンパーメント4のアンダーカバーの役目も負うことができる。つまり、エンジン2の騒音や走行中の車両3下部の空気の流れをスムースにして、走行中の抵抗を減少させる事ができる。すなわち、この部分のアンダーカバーを省略することができ、材料費用の削減に寄与することができる。
【0021】
ラジエター10には、通風用のファン11が備えられる。車両3が停車している際にも、ラジエター10に風を送るためである。ファン11は、クランク軸の回転を伝達させてもよいし、ファン11を回転させるモータを設け、バッテリによってファンを回転させてもよい。
【0022】
ダクト20は、ダクト上板21と、ダクト下板22と、一対のダクト側板23によって形成された筒状の部材である。なお、図では、ダクト側板23は、紙面向って奥のものが見えている。エンジン2前方の空気取入口5の直後の部分をダクト入口26、エンジンコンパーメント4下方でラジエター10通風面10bに連結する部分をダクト出口27、ダクト入口26とダクト出口27の間の部分をダクト中部28と呼ぶ。
【0023】
ダクト上板21と、ダクト下板22と、一対のダクト側板23で囲まれた部分の内、最も狭い部分の面積を通風面積29と呼ぶ。本発明の車両用冷却構造1に係るダクト20では、この通風面積29を車速によって変化させる通風面積変更手段を有する。図1では通風面積29を両端矢印で示したが、この両端矢印を高さとして、紙面表から裏方向に向うダクト入口26の幅の積によって通風面積29が求められる。
【0024】
通風面積変更手段は、車速が速いと通風面積29を小さくし、車速が遅いと通風面積29を大きくするように変化させるのであれば、特に限定されるものではない。本実施の形態では、ダクト上板21とダクト下板22の距離が変化することで、通風面積29を変化させる例について説明する。
【0025】
本実施の形態では、ダクト上板21は、一対のダクト側板23の間でダクト下板22に向って接近することができる。ダクト出口27には、ラジエター10の通風面10bに枠状に固定された連結部材20jが接続されている。連結部材20jとダクト上板21の接合部21aは、車両側面視した時に揺動可能に枢支されている。例えば、連結部材20jとダクト上板21を蝶番で連結するような構造で実現することができる。
【0026】
一方、ダクト入口26では、ダクト上板21と揺動可能に連結された支持板25が設けられる。支持板25は、ダクト上板21の全幅に渡って設けられる部材である。支持板25は、バネ32等で重力上方に向って付勢されている。ダクト側板23には、ダクト上板21とダクト下板22の距離が最高になる点と最低になる点にストッパ(図示せず)が設けられている。このストッパは、ダクト上板21がダクト下板22から所定以上離れないように、また、所定以上接近しないように規制できればよい。例えば、互いのダクト側板23の相当する位置に、突起などを設けておくことで実現することができる。
【0027】
さらに、ダクト中部28では、ダクト上板21とダクト下板22を除々に接近させ、再び除々に離間させるような絞り部34を設ける。ダクト20内は車両3前方の空気取入口5から流入した空気が高速で流れるので、絞り部34の前後でダクト上板21とダクト下板22の距離を緩やかに変化させるのがよい。絞り部34の前後で乱流が生じると、空気抵抗になるからである。絞り部34において、ダクト上板21とダクト下板22とダクト側板23によって形成される断面積が通風面積29である。
【0028】
以上のような構成の車両用冷却構造1について、その動作を説明する。まず図1を参照して、車両が停車している若しくは車速が低速の際は、ダクト上板21は、ダクト下板22から最も離れて位置している。したがって、通風面積29は最大となっている。ラジエター10のファン11の回転によって、車両3前方の空気取入口5から吸入された空気はダクト20を通過して、ラジエター10の通風面10bを通過し、熱風となって車両3の下方に排出される。
【0029】
ここで、ダクト中部28に設けられた絞り部34を風が通過することで、ベンチュリ効果による下向きの力がダクト上板21に作用する。しかし、ダクト上板21は、バネ32によって上方向に付勢されているので、ほとんど動かない。すなわち、通風面積29は変化しない。
【0030】
次に図2を参照して、車両が高速で走行している場合は、車両3前方の空気取入口5から流入した空気は絞り部34で加速され、ベンチュリ効果による強い下向きの力がダクト上板21に作用する。するとダクト上板21はバネ32による上方向の付勢に逆らって、ダクト下板22に向って接近する。接近したダクト上板21を点線で示した。すると、通風面積29は小さくなる。通風面積29が小さくなることで、風量が制限され、ラジエター10中の冷却水が過冷却になることがない。
【0031】
また、ダクト上板21がダクト下板22に向って接近するのに伴って、ダクト上板21をダクト入口26で支持している支持板25も下に下がり、車両3前方の空気取入口5の面積を小さくする。従って、エンジンコンパーメント4中で滞留するような空気が生じる事が無く、走行時の抵抗を高くすることがない。
【0032】
また、ダクト上板21はストッパによって所定の距離以上にはダクト下板22に接近することはないので、通風面積29が小さくなりすぎて高速走行時に逆に冷却不足になることもない。以上のように、本実施の形態で通風面積変更手段は、連結部材20jと揺動可能に枢支されたダクト上板21とダクト上板21を上端で支える支持板25と支持板25を上方向に付勢するバネ32と、ダクト上板21とダクト下板22の間で通風面積29を絞った絞り部34によって構成される。
【0033】
なお、本実施の形態では、ダクト上板21だけが可動するように説明を行ったが、ダクト下板22が可動するようにしてもよい。また、ダクト上板21とダクト下板22は固定され、一対のダクト側板23の一方若しくは両方が接近したり離隔したりするようにしてもよい。
【0034】
(実施の形態2)
図3には、本実施の形態の車両用冷却構造8を示す。本実施の形態では、実施の形態1とほぼ同じ構造のダクト20とラジエター10を有する。但し本実施の形態では、支持板25を上に付勢する手段としてバネ32ではなく、アクチュエータ36が用いられている。アクチュエータ36は、ECU(Engine Contorol Unit)等の制御装置38によって軸を伸縮させることができる。軸の先端には、支持板25が連結されている。
【0035】
また、本実施の形態では、ダクト中部28での絞り部34はなくてもよい。ダクト20の通風面積29はアクチュエータ36によって強制的に移動させられるので、ベンチュリ効果を利用する必要がないからである。もちろん、図3に示すように、絞り部34を備えていてもよい。
【0036】
制御装置38は、支持板25を移動させるアクチュエータ36と、速度センサ40およびラジエター10のファン11とが接続されている。アクチュエータ36には駆動電圧が印加されており、制御装置38の指示信号Caによってスイッチが接続・切断することでアクチュエータ36は支持板25を上下に移動させる。
【0037】
次に本実施の形態の車両用冷却構造8の動作について説明する。本実施の形態の車両用冷却構造8も実施の形態1の場合と同様に速度によってダクト上板21とダクト下板22の距離が接近したり離間したりする。すなわち、停車若しくは車速が遅い場合は、ダクト上板21は移動しない。そして、ラジエター10のファン11を回転するように、制御装置38はファン11に指示信号Cfを送る。
【0038】
制御装置38は速度センサ40からの信号Ssによって現在の車速を検知し、速度に応じた通風面積29になるようにダクト上板21とダクト下板22の距離を設定する。また、制御装置38は、冷却水温度センサ42からの信号Stによって冷却水温度をモニタし、冷却水温度が所定の温度以下になった場合は、ファン11の駆動を停止するように制御してもよい。
【0039】
以上のように本実施の形態では、ダクト20の通風面積29を変更するのに、制御装置38を用いたので、速度や冷却水温度に応じてファン11の回転数や通風面積29をより細かく制御することが容易になる。なお、本実施の形態において、通風面積変更手段は、ダクト上板21と支持板25とアクチュエータ36と制御装置38によって構成されている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の車両用冷却構造は、エンジンを車両前方に搭載した車両に好適に利用することができるだけでなく、エンジンを後方に搭載した車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1、8 車両用冷却構造
2 エンジン
3 車両
4 エンジンコンパーメント
5 空気取入口
7 水平面
10 ラジエター
10a 縁
10b ラジエター通風面
11 ファン
20 ダクト
20j 連結部材
21 ダクト上板
21a (ダクト上板と連結部材との)接合部
22 ダクト下板
23 ダクト側板
25 支持板
26 ダクト入口
27 ダクト出口
28 ダクト中部
29 通風面積
32 バネ
34 絞り部
36 アクチュエータ
38 制御装置
40 速度センサ
42 冷却水温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部の空気取入口から車両下部へ流入空気を導くためのダクトと、
前記ダクトの出口に略水平に配置されたラジエターと、
前記車両の速度に応じて前記ダクトの通風面積を変える通風面積変更手段とを有する車両用冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−92122(P2013−92122A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235182(P2011−235182)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)