説明

車両用操舵装置

【課題】クラッチ解放時にはアーマチュアとロータが接触し、クラッチ締結時にはアーマチュアと外輪が接触することになって、クラッチの解放・締結時に金属同士の接触音が発生してしまい、この接触音が乗員に不快感を伴う違和感となってしまうことが避けられなかった。
【解決手段】クラッチ11の作動を確認するクラッチ診断部103による診断を、車両の運転者が車内に存在しないことを検出した場合に、開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアバイワイヤ(Steer−By−Wire:SBW)システムに備えられる、バックアップクラッチの故障診断を行う車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気的にステアリング操作を行うステアバイワイヤ(SBW)システムが知られている。このステアバイワイヤシステムにおいて、システム正常時には、クラッチが開放されて操舵角に応じ転舵アクチュエータにより操向輪が転舵されるが、例えば、転舵モータ異常等のシステム失陥時や電源遮断時等のシステムダウン時には、クラッチが接続(締結)されてステアリングホイールと操向輪が機械的に接続され、運転者が直接ステアリングホイールを操作することにより操向輪を転舵することを可能にしている。
【0003】
つまり、バックアップ機構としてクラッチを備えているが、このクラッチの故障の有無を診断するため、ステアバイワイヤシステムの起動前にクラッチの故障診断(初期故障診断)を行い、クラッチ故障と診断された場合には、例えば、警告灯を点灯させて、診断結果を運転者に知らせている。
このように、クラッチを介してステアリングホイールと操向輪を機械的に接続するバックアップ機構を有すると共に、このバックアップ機構の作動を確認するバックアップ作動確認手段を設けたものとして、「車両用操舵装置」(特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−182302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、バックアップ機構として備えられたクラッチは、内輪カム外周と外輪内周の間に係合子が楔状に噛み込んで係合することによりクラッチが締結され、内輪カム外周と外輪内周の間の係合子の係合が解除されることによりクラッチが解放される構成を有しており、クラッチ解放時、外輪とロータの間に配置されたアーマチュアがロータ側に引き寄せられ、クラッチ締結時、アーマチュアが外輪に接触するまで移動する。
【0006】
このため、クラッチ解放時にはアーマチュアとロータが接触し、クラッチ締結時にはアーマチュアと外輪が接触することになって、クラッチの解放・締結時に金属同士の接触音が発生してしまい、この接触音が乗員に不快感を伴う違和感となってしまうことが避けられなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る車両用操舵装置は、バックアップクラッチの作動を確認するバックアップクラッチ診断部による診断を、車両の運転者が車内に存在しないことを検出した場合に、開始する。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、車両の運転者が車内に存在しないことを検出した場合に、バックアップクラッチの作動の確認が開始されるので、バックアップクラッチの作動確認時に接触音が発生したとしても、乗員に不快感を伴う違和感を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の一実施の形態に係る車両用操舵装置の構成を模式的に示す説明図である。
【図2】図1のクラッチの構成を説明する分解構成図である。
【図3】図1のクラッチの締結状態を示し、(a)は入力軸方向に沿う面から見た説明図、(b)はローラ位置の入力軸半径方向に沿う面から見た説明図である。
【図4】図1のクラッチの解放状態を示し、(a)は入力軸方向に沿う面から見た説明図、(b)はローラ位置の入力軸半径方向に沿う面から見た説明図である。
【図5】クラッチの故障診断(初期診断)を行う場合の処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】クラッチの故障診断(終了診断)を行う場合の処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図1のクラッチ診断装置によるクラッチ作動時の電流制御をグラフで示し、(a)はクラッチ締結時の説明図、(b)はクラッチ解放時の説明図である。
【図8】この電磁コイルの電流制御を実現するための電流制御回路を示し、(a)は回路図、(b)はPWMDuty比に対する電流値変化の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係る車両用操舵装置の構成を模式的に示す説明図である。図1に示すように、車両用操舵装置10は、クラッチ11にクラッチ診断情報aを送ってクラッチ11の故障診断を行うクラッチ診断装置100を備えている。このクラッチ11は、ステアリングホイール(操舵輪)12と、ステアリングホイール12により操舵される操向輪13とを、機械的に接続又は切断することができる。
【0011】
ステアリングホイール12の操舵力は、ステアリングコラム軸(ステアリングシャフト)14からラック&ピニオン機構のラックギヤ(ラック部)15を経て、操向輪13のタイロッド16に伝達される。ステアリングコラム軸14には、ステアリングホイール12に操舵反力を付与する反力アクチュエータ(反力モータ)17a、ステアリングホイール12の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ(操舵側トルク検出手段)17b、ラックギヤ15を介して走行輪13の転舵を行うための転舵トルクを出力する転舵アクチュエータ(転舵モータ)17c、及び転舵側のトルクを検出する転舵トルクセンサ(転舵側トルク検出手段)17dが設けられている。転舵トルクセンサ17dは、転舵アクチュエータ17cとピニオンギヤの間に配置されている。
【0012】
この車両用操舵装置10は、ステアリングホイール12の操作情報に基づく電気信号により作動する転舵アクチュエータ17cによって、操向輪13を転舵駆動するステアバイワイヤ(Steer−By−Wire:SBW)システムを構成しており、SBWシステムにおける、転舵モータ異常等のシステム失陥時や電源遮断等によるシステムダウン時のためのバックアップシステムとして、ステアリングコラム軸14とラックギヤ15の間にクラッチ(バックアップクラッチ)10が搭載されている。
【0013】
図2は、図1のクラッチの構成を説明する分解構成図である。図3は、図1のクラッチの締結状態を示し、(a)は入力軸方向に沿う面から見た説明図、(b)はローラ位置の入力軸半径方向に沿う面から見た説明図である。
図2及び図3に示すように、クラッチ11は、内輪カム18、外輪19及び複数(一例として、8個を図示)のローラ(係合子)20を有しており、内輪カム18の外面(外周面)18aと外輪19の内面(内周面)19aとの間にローラ20が噛み込んで係合することにより締結状態となり、内輪カム18の外面18aと外輪19の内面19aの間に係合していたローラ20の係合が解除されることにより解放状態となる。
【0014】
内輪カム18は、ステアリングホイール12の操作に連動する入力軸21に連結されており、入力軸21の回動時に入力軸21と一体的に回動する。円筒状に形成された外輪19は、内輪カム18を格納するように内輪カム18を覆って配置され、操向輪13(図1参照)に操舵トルクを伝達する出力軸(図示しない)に連結されている。
【0015】
内輪カム18と、内輪カム18を覆う外輪19の間には、入力軸21方向に重ねて摺動保持器22と回転保持器23が、それぞれの脚部22a,23aを交互に位置させて配置されている。両脚部22a,23aは何れも、重なり合う内輪カム18の外面18aと外輪19の内面19aの間に形成される空間を自由に移動することができる。
【0016】
摺動保持器22は、内輪カム18が挿通可能な円環部22bと、円環部22bに入力軸21方向に突設されると共に略等間隔離間する4個の脚部22aを有しており、各脚部22aは、入力軸21を挿通させたアーマチュア24に連結されている。回転保持器23は、内輪カム18が挿通可能な円環部23bと、円環部23bに入力軸21方向に突設されると共に略等間隔離間して4個の脚部23aを有している。
【0017】
摺動保持器22と回転保持器23のそれぞれの脚部22a,23aは、重なり合う内輪カム18の外面と外輪19の内面19aとの間に、隣接する脚部22a,23a間距離が長い空間と短い空間が交互に位置するように配置されている。この4箇所の脚部22a,23a間距離が長い空間のそれぞれには、コイルバネ等のバネ部材25と共にローラ20,20が配置されている。各バネ部材25は、並置された2個一組ずつ、内輪カム18とアーマチュア24との間に位置するバネ保持部材26に位置決め保持されている。
【0018】
内輪カム18と外輪19の間に配置された摺動保持器22と回転保持器23の、それぞれの円環部22b,23bの対向面間には、ボールカム(ボールトルクカム)機構27が介在している。ボールカム機構27は、円環部22bと円環部23bのそれぞれの対向面に設けられた円弧状断面のカム溝27a,27aと、両カム溝27a,27a間に挟み込まれたボール27bとを有している。
ローラ20は、例えば、円柱状に形成されて、内輪カム18の外面18aに接触しつつ移動可能に配置されており、バネ部材25の両側に位置する2個のローラ20,20は、バネ部材25に付勢されて、一方は脚部22aに、他方は脚部23aに、それぞれ押し当てられている。
【0019】
各ローラ20が移動する内輪カム18の外面18aは、各ローラ20が押し当てられている両脚部22a,23a間の略中央と、各脚部22a,23aとを直線状に結ぶ平坦面(平面)により形成されている。この平坦面は、入力軸21半径方向断面において、内輪カム18の外面18aを円弧とした場合、円弧に対する弦に相当する。つまり、ローラ20が配置された脚部22a(或いは脚部23a)側へ向かう空間は、外輪19の内面19a側を上面に、平坦面からなる内輪カム18の外面18a側を下面にして、脚部22a(或いは脚部23a)に向かうに連れて上下面間距離が狭まった、楔形状空間となる。なお、脚部22aと脚部23aは、楔形状空間を自由に移動することができる。
【0020】
また、図2及び図3に示すように、アーマチュア24が回転自在に装着された入力軸21には、アーマチュア24の外側(内輪カム18とは反対側)に隣接して、入力軸21と一体的に回転するロータ28が装着されている。アーマチュア24は、ロータ28側に突設された複数の脚24aを介して、ロータ28に対し、入力軸21方向に規制された離反距離のもと接近離反可能に、且つ、入力軸21を軸心として回動自在に、装着されている。このロータ28には、電磁コイル29が内蔵されており、電磁コイル29の励磁によりコイル吸引力が発生することで、アーマチュア24がロータ28に引き寄せられ密着する。
【0021】
次に、クラッチ11の動作について説明する。
(クラッチ締結時)
図3に示すように、クラッチ11は、クラッチ締結時、電磁コイル29が無励磁状態にあり、各ローラ20は、バネ部材25に付勢されて、脚部22a或いは脚部23aに押し当てられている。各ローラ20を介して、脚部22a或いは脚部23aにバネ部材25の付勢力が作用することにより、脚部22aと脚部23aは、互いに離反するように押し広げられ、摺動保持器22と回転保持器23が互いに逆向きに内輪カム18の回りを移動する。
【0022】
脚部22aと脚部23aが押し広げられるのに伴って、バネ部材25の両側に位置してバネ部材25に付勢されている両ローラ20,20は、外輪19の内面19aと内輪カム18の外面18aとで囲まれ、脚部22a(或いは脚部23a)側が狭まった楔形状空間に入り込むことになる。楔形状空間に入り込んだ両ローラ20,20は、各ローラ20の内輪カム18と外輪19との噛み込み位置まで、即ち、アーマチュア24が外輪19に接触するまで移動する。
【0023】
脚部22aと脚部23aが押し広げられて、摺動保持器22と回転保持器23が互いに逆向きに移動するのに伴い、両円環部22b,23bの対向面間に介在するボールカム機構27において、ボール27bが両カム溝27a,27aから略露出した状態になり、両円環部22b,23b間の距離が拡大する。そのとき、円環部22bと共に脚部22aが、ロータ28から離反するように移動し、それに連れて、アーマチュア24が、ロータ28から離反し外輪19のロータ28対向端面に向かって移動する。
【0024】
そして、互いに逆向きに回動移動する内輪カム18と外輪19との位相差が許容値を超えた時点で、ローラ20が内輪カム18と外輪19の間に楔状に噛み込むことにより、入力軸21に連結する内輪カム18と、出力軸に連結する外輪19が締結状態になる。
(クラッチ解放時)
図4は、図1のクラッチの解放状態を示し、(a)は入力軸方向に沿う面から見た説明図、(b)はローラ位置の入力軸半径方向に沿う面から見た説明図である。
【0025】
図4に示すように、クラッチ11は、クラッチ解放時、電磁コイル29が励磁状態になってコイル吸引力が発生し、外輪19に接触していたアーマチュア24は、ロータ28側に引き寄せられる。アーマチュア24がロータ28側に引き寄せられるのに伴い、アーマチュア24と脚部22aが連結されている摺動保持器22もロータ28側に移動する。摺動保持器22のロータ28側への移動時、摺動保持器22と回転保持器23の間に介在しているボールカム機構27において、ボール27bがカム溝27a内に略埋没した状態になるように、摺動保持器22と回転保持器23が互いに逆向きに移動する。
【0026】
摺動保持器22と回転保持器23の移動に伴って、脚部22aと脚部23aがそれぞれバネ部材25の両側に位置するローラ20,20を付勢力に抗して互いに接近させるように、両脚部22a,23aが接近移動し、バネ部材25を押し縮めて圧縮状態にする。この両脚部22a,23aの接近移動により、両ローラ20,20は、入り込んでいた楔形状空間から押し出され、内輪カム18と外輪19との噛み込み位置から離脱する。
そして、両ローラ20,20が、内輪カム18と外輪19との噛み込み位置から離脱することにより、入力軸21に連結する内輪カム18と、出力軸に連結する外輪19の締結が解除され、解放状態になる。
【0027】
上述したように、クラッチ11は、入力軸21に連結する内輪カム18と出力軸(図示しない)に連結する外輪19の間に、ローラ20が楔状に噛み込み、内輪カム18と外輪19が係合することにより、入力軸21を経て入力した操舵トルクが走行輪13に伝達される締結状態となり、一方、ローラ20の噛み込みが解除され、内輪カム18と外輪19の係合が解除されることにより、操舵トルクが走行輪13に伝達されない解放状態となる。
【0028】
このクラッチ11の解放時、外輪19とロータ28の間に配置されたアーマチュア24がロータ28側に引き寄せられ(図4(a)参照)、一方、クラッチ11の締結時、アーマチュア24が外輪19に接触するまで移動する(図3(a)参照)。
クラッチ診断装置100は、図1に示すように、不在検出部101、乗車意志検出部102、クラッチ診断部(バックアップクラッチ診断部)103、及び強制診断部104を有している。
【0029】
不在検出部101は、当該車両を運転操作する運転者(乗員)が、車内に存在しない(不在)ことを検出するものであり、例えば、リモートコントロールキーから出力される信号を受信して、リモートコントロールキーが車外に位置する、即ち、リモートコントロールキーを保持した運転者が車外に居ることを検出することで、運転者が車内に存在しないことを検出する。リモートコントロールキーを保持した運転者が車外に居ることとは、運転者が、例えば、当該車両を運転しようとして車両に近づいた状態等、当該車両の車外であっても当該車両の近傍に居ることを意味する。
【0030】
また、車内においてリモートコントロールキーから出力される信号を受信しないことによっても、運転者が車内に存在しないことを検出することができる。
このリモートコントロールキーは、例えば、車両に搭載された車載装置との間で無線通信によりID照合を行い、ID照合結果に基づいて車両ドアの施錠・解錠やエンジンの始動などを行う、車両の運行を許可された者(運転者)が所持する携帯器である(一例として、特開2003−127831号公報参照)。
【0031】
不在検出部101による運転者の車内不在は、リモートコントロールキーの出力信号により検出される他、例えば、少なくとも運転席を含む車室内を撮影する車内カメラによって得られた映像情報、或いは運転席に加わる荷重に基づき着座していることを検出する着座センサによって得られた着座情報により、検出することができる。また、これら映像情報や着座情報に加え、運転席ドアの開閉を検出するドア開閉情報、或いは運転席ドアロックの有無を検出するドアロック情報等から、運転者が車両から降りたことを示す降車情報によっても、運転者の車内不在を検出することができる。
【0032】
従って、この不在検出部101は、車内カメラによって得られた映像情報、着座センサによって得られた着座情報、ドア開閉情報、或いはドアロック情報等により、運転者が車両内に存在する状態、即ち、運転者(乗員)が乗車していることを検出する乗車検出部としても機能する。なお、乗車検出部は、不在検出部101とは別に、運転者が車両内に存在する状態、即ち、運転者(乗員)が乗車していることを検出することができる、他の手段により設けても良い。
【0033】
乗車意志検出部102は、例えば、リモートコントロールキーによる運転席ドアの解錠操作信号を検出する等、運転席ドアが解錠操作されることを検出することにより、運転者の乗車意志を検出する。
クラッチ診断部103は、不在検出部101により運転者の車内不在を検出し、且つ、乗車意志検出部102により運転者の乗車意思を確認した場合、クラッチ(バックアップクラッチ)10の故障診断(初期診断)を行い、このとき、クラッチ11を作動するための電磁コイル29の電流制御を行なう。
【0034】
クラッチ11の故障診断を行うクラッチ診断部103は、反力アクチュエータ17a及び転舵アクチュエータ17cの双方を、互いにトルクが相殺する方向に同一トルクで駆動させ、操舵側トルクセンサ17bと転舵側トルクセンサ17dの検出値を比較する初期診断を行う。両検出値の誤差が所定範囲内であれば、操舵側と転舵側のトルク伝達がクラッチ11を介して正常に行われていると判断して通常のステアバイワイヤ制御を実行する。
なお、クラッチ11の初期診断は上記に限定されず、例えばクラッチ11を接続した状態で反力アクチュエータ17aを駆動した際の転舵側トルクセンサ17dの検出値や、クラッチ11を接続した状態で転舵アクチュエータ17cを駆動した際の操舵側トルクセンサ17bの検出値から診断を行なっても良い。すなわち、クラッチ11を介してトルク伝達が成されているか否かを判定する事によって、クラッチ11の診断を行う。
【0035】
また、クラッチ診断部103は、乗車意志検出部102によって運転者の乗車意志が確認されずに、エンジン点火用電源(イグニッション)が操作されたことを検出し、クラッチ診断部103による診断中に、乗員が乗車していることを検出する乗車検出部、例えば、不在検出部101によって乗員の乗車が検出された場合には、診断時の電磁コイル29への通電電流を抑制する。
【0036】
強制診断部104は、車両用操舵装置10の作動がオフされた後、所定時間(例えば、60秒)以上経過した場合には、運転操作を終えた運転者の降車が検出されていない状態であっても、クラッチ診断時の電磁コイル29の電流を抑制した電流制御状態で、バックアップ手段であるクラッチ11の故障診断(終了診断)を強制的に開始する。
次に、運転操作開始時のクラッチ11の故障診断(初期診断)を行う場合について説明する。
【0037】
図5は、クラッチの故障診断(初期診断)を行う場合の処理の流れを示すフローチャートである。図5に示すように、クラッチ11の故障診断(初期診断)を行う場合、先ず、運転者が当該車両に乗車する意志があるものと確認することができるか否かを判断する(ステップS101)。判断の結果、確認することができる(Yes)場合、運転者が乗車前か否かを判断し(ステップS102)、判断の結果、運転者が乗車前である(Yes)場合、後述するクラッチ作動用の電磁コイルの電流制御を行わずにクラッチ11を接続し、クラッチ故障診断(初期診断)を実施する(ステップS103)。
【0038】
一方、ステップS101における判断の結果、乗車する意志があるものと確認することができない(No)場合、及びステップS102における判断の結果、乗車前でない(No)場合、エンジン点火用電源のイグニッションがオンか否か(IG=ON?)を判断する(ステップS104)。判断の結果、イグニッションがオンでない(No)場合、クラッチ11の故障診断(初期診断)処理を終了し、一方、判断の結果、イグニッションがオンである(Yes)場合、クラッチ11作動用の電磁コイル29の電流制御を行ってクラッチ11を接続し、クラッチ11の故障診断(初期診断)を実施する(ステップS105)。
【0039】
そして、クラッチ11の故障診断(初期診断)を実施した(ステップS103、ステップS105)後、クラッチ11の動作が正常か否かを判断し(ステップS106)、判断の結果、動作が正常である(Yes)場合、ステアバイワイヤシステムを起動し(ステップS107)、その後、クラッチ11の故障診断(初期診断)処理を終了する。一方、ステップS106における判断の結果、動作が正常でない(No)場合、そのままクラッチ11の故障診断(初期診断)処理を終了する。
【0040】
次に、運転操作終了時のクラッチ11の故障診断(終了診断)を行う場合について説明する。
図6は、クラッチの故障診断(終了診断)を行う場合の処理の流れを示すフローチャートである。図6に示すように、クラッチ11の故障診断(終了診断)を行う場合、先ず、ステアバイワイヤシステムによる制御が行われている(SBWシステム制御中)ことを確認した(ステップS201)後、車両用操舵装置10全体の作動がオフ(OFF)か否かを判断する(ステップS202)。
【0041】
判断の結果、車両用操舵装置10全体の作動がオフである(Yes)場合、運転者が車両から降りた(降車した)か否かを判断し(ステップS203)、判断の結果、運転者が車両から降りた(Yes)場合、電流制御を行わずにクラッチ終了診断を実施し(ステップS204)、その後、クラッチ11の故障診断(終了診断)処理を終了する。
一方、ステップS202における判断の結果、車両用操舵装置10全体の作動がオフでない(No)場合、そのまま、クラッチ11の故障診断(終了診断)処理を終了する。
【0042】
また、ステップS203における判断の結果、運転者が車両から降りていない(No)場合、一定時間(例えば、60秒)経過したか否かを判断し(ステップS205)、判断の結果、一定時間経過していない(No)場合、ステップS203に戻り、一定時間経過している(Yes)場合、電流制御を行ってクラッチ11の故障診断(終了診断)を実施し(ステップS206)、その後、クラッチ11の故障診断(終了診断)処理を終了する。
【0043】
図7は、図1のクラッチ診断装置によるクラッチ作動時の電流制御をグラフで示し、(a)はクラッチ締結時の説明図、(b)はクラッチ解放時の説明図である。図7に示すように、クラッチ11の作動時、電磁コイル29の電流制御を行なうが、クラッチ11の作動は、電磁コイル29によるアーマチュア24への磁気吸引力と、摺動保持器22と回転保持器23に挟まれたローラ20を押すバネ部材25の付勢力との力関係により成り立っていることから、クラッチ11の解放時と締結時で次のような電流制御を行なう。
【0044】
クラッチ11の締結時には、電磁コイル29のコイル電流を、クラッチ11の解放時からいきなりオフ(OFF)にするのではなく、クラッチ診断開始後、即ち、アーマチュア24が外輪19に接触する直前に、徐々に減少させる((a)参照)ことで、電磁コイル29の磁気吸引力とバネ部材25の付勢力とが釣り合う状態を形成し、アーマチュア24がバネ部材25の付勢力により一気に外輪19に接触するのを防いでいる。
【0045】
つまり、クラッチ11の締結時、電磁コイル29が無励磁となることでバネ部材25の付勢力によりアーマチュア24が外輪19に向かって押し出されるが、このとき、電磁コイル29の電流制御を行なうことにより、アーマチュア24が外輪19に接触する迄の移動加速度を抑制して、クラッチ11が締結作動するときの作動音(接触音)を低減する。一方、電磁コイル29の電流制御を行わない場合は、電磁コイル29のコイル電流を、クラッチ11の解放時からいきなりオフ(OFF)とする為、クラッチ11が締結作動するときの作動音が発生する。
クラッチ11の解放時には、電磁コイル29のコイル電流を、アーマチュア24がロータ28に接触する直前で、バネ部材25の付勢力に合わせ電流値を上げてやる((b)参照)ことにより、電磁コイル29の磁気吸引力とバネ部材25の付勢力とが釣り合う状態を形成し、アーマチュア24が磁気吸引力により一気にロータ28に接触するのを防いでいる。
【0046】
つまり、クラッチ11の解放時、電磁コイル29の励磁によってコイル吸引力が発生しアーマチュア24がロータ28に引き寄せられるが、このとき、電磁コイル29の電流制御を行なうことにより、引き寄せられたアーマチュア24が外輪19或いはロータ28に接触する際の移動加速度を抑制して、クラッチ11が解放作動するときの作動音(接触音)を低減する。一方、電磁コイル29の電流制御を行わない場合は、電磁コイル29のコイル電流を、クラッチ11が解放可能となる程度の電流値まで急激に上昇させる為、アーマチュア24が磁気吸引力により一気にロータ28に接触する作動音が発生する。
【0047】
図8は、この電磁コイルの電流制御を実現するための電流制御回路を示し、(a)は回路図、(b)はPWMDuty比に対する電流値変化の説明図である。図8に示すように、電流制御回路は、電磁コイル29に接続されたトランジスタ105、電磁コイル29とシャント抵抗106を介して接続されたトランジスタ107を有しており、A部は、トランジスタ105により、電磁コイル29への通電時のオン・オフ(ON−OFF)制御を行うのに対し、B部は、トランジスタ107により、PWM(Pulse Width Modulation)Duty比制御を行う。PWMDuty比に対し、電流値は直線的に比例変化する。
【0048】
これにより、高い分解能を有する所望の電流値で電流制御を行うことができるので、狙った吸引力を滑らかに発生させてアーマチュア24の加速度を抑えることができ、アーマチュア24のロータ28及び外輪19への接触時の衝撃力を緩和して、クラッチ11作動時の作動音を低減することができる。
【0049】
このように、例えば、リモートコントロールキーからの信号を検出することで、リモートコントロールキーを保持する乗員(運転者)が車内に居ないことを確認すると共に、乗員の乗車の意思を確認したことにより、バックアップクラッチの故障診断(初期診断)を行なう。そして、リモートコントロールキーの使用の有無、又は乗員の乗車の状況に応じて、バックアップクラッチ作動用の電磁コイル29の電流制御を行なうことにより、アーマチュア24が外輪19或いはロータ28に接触する際の加速度を抑制してやることで、クラッチ作動音の低減を図ることができる。
【0050】
この結果、乗員が車内にいる状態でバックアップクラッチの故障診断を行うと、診断時に発生するクラッチ作動音が乗員に不快感を伴う違和感を与えることになるが、乗員が、例えば、運転操作しようとして、車内に乗り込もうとしているが、未だ車内に乗り込まず車外に居ることが確認された状況で、即ち、乗員の乗車前に故障診断を開始することにより、診断時に乗員に違和感を与えることを無くすことができる。また、クラッチ診断時に発生するクラッチ作動音そのものを低減させ留ことができるので、診断時の乗員の違和感を極力解消することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、車両の運転者が車内に存在しないことを検出した場合に、バックアップクラッチの作動の確認が開始されるので、バックアップクラッチの作動確認時に接触音が発生したとしても、乗員に不快感を伴う違和感を与えることがないので、車両用操舵装置に最適である。
【符号の説明】
【0052】
10 車両用操舵装置
11 クラッチ
12 ステアリングホイール
13 操向輪
14 ステアリングコラム軸
15 ラックギヤ
16 タイロッド
17 トルクセンサ
17a 反力アクチュエータ
17b 操舵トルクセンサ
17c 転舵アクチュエータ
17d 転舵トルクセンサ
18 内輪カム
18a 外面
18b ローラ接触面
19 外輪
19a 内面
20 ローラ
21 入力軸
22 摺動保持器
22a,23a 脚部
22b,23b 円環部
23 回転保持器
24 アーマチュア
25 バネ部材
26 バネ保持部材
27 ボールカム機構
27a カム溝
27b ボール
28 ロータ
29 電磁コイル
100 クラッチ診断装置
101 不在検出部
102 乗車意志検出部
103 クラッチ診断部
104 強制診断部
a クラッチ診断情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに接続されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに接続し、前記ステアリングホイールに反力を付与する反力アクチュエータと、
走行輪を操舵するラック部と、
前記ラック部に設けられる転舵アクチュエータと、
前記ステアリングシャフトと前記ラックとを接続するバックアップクラッチと
前記ステアリングシャフトのトルクを検出する操舵側トルク検出手段と、
前記ラック部のトルクを検出する転舵側トルク検出手段と、
前記転舵アクチュエータを駆動させ、前記操舵側トルク検出手段及び前記転舵側トルク検出手段の少なくとも一方の検出値に基づいて、前記バックアップクラッチの作動を確認するバックアップクラッチ診断部と、
車両の運転者が車内に存在しないことを検出する不在検出部とを備え、
前記不在検出部によって前記運転者が車内に存在しないことが検出された場合に、前記バックアップクラッチ診断部による診断を開始する車両用操舵装置。
【請求項2】
更に、前記運転者の乗車意志を検出する乗車意志検出部を備え、
前記前記不在検出部によって前記運転者が車内に存在しないことが検出され、且つ、前記乗車意志検出部によって前記運転者の乗車意志が検出された場合に、前記バックアップクラッチ診断部による診断を開始する請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記乗車意志検出部によって前記運転者の乗車意志が確認されずに、エンジン点火用電源が操作されたことを検出し、前記バックアップクラッチ診断部による診断中に、乗員が乗車していることを検出する乗車検出部によって乗員の乗車が検出された場合には、診断時の電磁コイルへの通電電流を抑制する請求項2に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記不在検出部は、前記運転者が車両から降りたことを示す降車情報により、前記運転者が車内に存在しないことを検出する請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
【請求項5】
車両用操舵装置の作動オフ後、所定時間以上経過した場合には、運転者の降車が検出されていない状態であっても、クラッチ診断時の電磁コイルの電流を抑制した電流制御状態で、前記バックアップクラッチ診断部による診断を強制的に開始する強制診断部を備える請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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