説明

車両用空調装置の排水構造

【課題】既存のドレン構造を利用した簡単な構成としながら、遠心送風機の停止・作動にかかわらず、スクロールケーシングの下部に溜まろうとする水を外部に排除することができると共に、遠心送風機の作動時、飛水や排水逆流の発生を防止できるし、吹き出し温度への影響を抑制できる車両用空調装置の排水構造を提供すること。
【解決手段】インテークダクト2から遠心送風機4に向かって浸入してきた水を空調ケース5の外部に排出する車両用空調装置の排水構造において、インテークダクト2の底壁面2a,2bと遠心送風機4を収容するスクロールケーシング41の下部を連通する第1排水穴10と、スクロールケーシング41の下部とダミーエバポレータ6の上部を連通する第2排水穴11と、第2排水穴11からの水が落下する位置に、ダミーエバポレータ6の外周に沿って形成された排水溝12と、空調ケース5の下部に設けられ、排水溝12を経過した水を空調ケース5の外部に排出するドレン構造5a,9と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インテークダクトと遠心送風機と送風抵抗部材と空調ケースを備え、インテークダクトから遠心送風機に向かって浸入してきた水を空調ケースの外部に排出する車両用空調装置の排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置の排水構造としては、インテークダクトの底壁部に貯留する水を、ブロアとインテークダクトとの差圧により、ブロア内に誘導する誘導通路を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この排水構造では、差圧によりブロア内に誘導された水がブロアによって送風された後、エバポレータに捕獲され、凝縮水としてエバポレータの下方のドレンパイプから排出される。この結果、インテークダクトにドレンパイプを設けることなく、インテークダクト内に雨水が貯留することを防止する車両用空調装置を提供することができる。
【特許文献1】特開2004−98782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の車両用空調装置の排水構造にあっては、ブロアの作動による送風を利用してブロア内に誘導された水を外部に排除するものであるため、ブロア停止時においては、ブロア内に誘導された水を外部に排除できない、という問題があった。
【0004】
また、モータ回転軸を水平に配置するタイプのブロアは、そのスクロールケーシングの巻き角度が300°程度あるため、エンジンルームのスチーム洗浄時、インテークダクトに浸入してきた水滴が水となってダクト底壁面に沿って流れたり、ブロア停止時、インテークダクトの内面に付着した雪や水滴が水となってダクト底壁面に沿って流れたりすると、スクロールケーシングの下部に溜まり、溜まった水が凍結した場合には、ブロアを損傷させることがある、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、既存のドレン構造を利用した簡単な構成としながら、遠心送風機の停止・作動にかかわらず、スクロールケーシングの下部に溜まろうとする水を外部に排除することができると共に、遠心送風機の作動時、飛水や排水逆流の発生を防止できるし、吹き出し温度への影響を抑制できる車両用空調装置の排水構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、インテークダクトと遠心送風機と送風抵抗部材と空調ケースを備え、前記インテークダクトから前記遠心送風機に向かって浸入してきた水を前記空調ケースの外部に排出する車両用空調装置の排水構造において、
前記インテークダクトの底壁面と前記遠心送風機を収容するスクロールケーシングの下部を連通する第1連通部と、
前記スクロールケーシングの下部と前記送風抵抗部材の上部を連通する第2連通部と、
前記第2連通部からの水が落下する位置に、前記送風抵抗部材の外周に沿って形成された排水溝と、
前記空調ケースの下部に設けられ、前記排水溝を経過した水を空調ケースの外部に排出するドレン構造と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明にあっては、遠心送風機の停止時または作動時、インテークダクトの底壁面に沿って流れる水は、ダクト底壁面から第1連結部を介して遠心送風機のスクロールケーシングの下部に導かれ、さらに、スクロールケーシングの下部から第2連結部を介して送風抵抗部材の上部に導かれ、さらに、送風抵抗部材の上部から排水溝に沿って横方向に流れてから下方向に伝わり、空調ケースのドレン構造から外部に排出される。
排水作用のうち遠心送風機の作動時においては、空調ケース内に風の流れが生じる。このため、例えば、風の流れの影響を受ける位置に排水ルートが配置されていると、飛水が発生したり、排水の逆流が発生したり、吹き出し温度を変動させたりする。
しかし、本発明の場合、排水溝が送風抵抗部材の外周に沿って形成されているため、排水ルートは、風流れによる影響を受けない隔絶されたルートとなる。したがって、風流れによる吹き出し側への飛水の発生を防止できるし、風流れによる排水の逆流の発生を防止できる。さらに、風流れとは隔絶された位置の排水溝を通過して排水するため、吹き出し温度への影響も抑えられる。
この結果、既存のドレン構造を利用した簡単な構成としながら、遠心送風機の停止・作動にかかわらず、スクロールケーシングの下部に溜まろうとする水を外部に排除することができると共に、遠心送風機の作動時、飛水や排水逆流の発生を防止できるし、吹き出し温度への影響を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の車両用空調装置の排水構造を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の排水構造が適用された車両用空調装置を示すモータ回転軸方向断面図である。図2は実施例1の排水構造が適用された車両用空調装置を示す図1のA−A線によるモータ回転軸直交方向断面図である。図3は実施例1の排水構造における図1の第1,第2連通部を示す拡大断面図である。図4は実施例1の排水構造における第2連通部を示す図3のB−B線による拡大断面図である。
【0010】
実施例1の排水構造が適用された車両用空調装置は、図1に示すように、内外気導入ダクト1と、インテークダクト2と、クリーンフィルタ3と、遠心送風機4と、空調ケース5と、ダミーエバポレータ6(送風抵抗部材)と、を備えている。
すなわち、実施例1の排水構造が適用された車両用空調装置は、暖房のみを行う暖房専用の車両用空調装置であり、冷房と暖房を共に行う冷暖兼用の車両用空調装置の空調ケースを流用し、冷暖兼用の場合にエバポレータを設定する位置に、エバポレータに代えダミーエバポレータ6を設定したバリエーションユニットである。
【0011】
前記内外気導入ダクト1は、図外のインテークドアが設けられ、インテークドアをドアアクチュエータにより開閉制御することで、内気の導入、外気の導入、あるいは、内外気の混合気を導入する。
【0012】
前記インテークダクト2は、前記内外気導入ダクト1に連結され、内気と外気の少なくとも一方を吸い込むダクトであり、その途中位置には、図1に示すように、粉塵や花粉等を取り除くクリーンフィルタ3が配置されている。
このインテークダクト2の底壁面は、内外気導入ダクト1の直下部分であり傾斜角度が急角度である第1傾斜底壁面2aと、遠心送風機4に向かう部分であり傾斜角度が緩角度である第2傾斜底壁面2bと、を有する。
【0013】
前記遠心送風機4は、空気が羽根車の中心から半径方向に通り抜ける送風機であり、羽根車の回転で空気に遠心力を与え送風するため、静圧が高く送風圧力が高いという特徴を持つ。実施例1の遠心送風機4は、多翼送風機(シロッコファン)タイプであり、図1に示すように、スクロールケーシング41とブロアファン42とファンモータ43により構成される。
【0014】
前記スクロールケーシング41は、図1に示すように、吸込側にインテークダクト2を連結すると共に、ブロアファン42の吸い込み位置に環状のベルマウス部41aが形成されている。スクロールケーシング41には、図1に示すように、ファンモータ43を支持するモータ支持部41bが形成されている。また、スクロールケーシング41は、図2に示すように、巻き角度が約300°程度あり、スクロールケーシング41の下部は、大きな巻き角度により水溜まりスペースが構成される。
【0015】
前記ブロアファン42は、図2に示すように、翼を円周上に多数配列したものであり、ファンモータ43のモータシャフト43aに連結される。
【0016】
前記ファンモータ43は、ブロアファン42を回転駆動させる駆動源であり、そのモータ回転軸MLは、図1に示すように、水平に配置される。
【0017】
前記空調ケース5(「本体ケース」ともいう。)は、ダミーエバポレータ6や図外のエアミックスドアやヒータコア等が収容されるケースで、図2に示すように、前記スクロールケーシング41の吐出側に連通する部分に送風路7が形成される。
【0018】
前記ダミーエバポレータ6は、通風穴6aを開口した抵抗合わせ板部6bと、該抵抗合わせ板部6bの全周に形成した枠板部6cを有し、通風穴6aの径設定により冷暖兼用の場合に用いられるエバポレータの持つ通気抵抗と同等の通気抵抗を持たせている。
このダミーエバポレータ6は、冷暖兼用の場合に用いられるエバポレータの外形形状とほぼ同一形状の外形形状を持ち、その外周は、図1〜図4に示すように、気密止水シート8により囲まれている。
【0019】
次に、前記インテークダクト2の傾斜底壁面2a,2bに沿って流れる水を外部に排出する実施例1の排水構造について説明する。
【0020】
実施例1の排水構造は、前記インテークダクト2の傾斜底壁面2a,2bと前記遠心送風機4のスクロールケーシング41の下部を連通する第1連通部と、前記スクロールケーシング41の下部と前記ダミーエバポレータ6の上部を連通する第2連通部と、前記第2連通部からの水が落下する位置に、前記ダミーエバポレータ6の外周に沿って形成された排水溝12と、前記空調ケース5の下部に設けられ、前記排水溝12を経過した水を空調ケース5の外部に排出するドレン構造(ドレンパン部5a、ドレンパイプ9)と、を備えて構成されている。
【0021】
前記第1連通部は、前記インテークダクト2の傾斜底壁面2a,2bと前記スクロールケーシング41の下部位置を前記遠心送風機4のモータ回転軸MLの方向に連通する第1排水穴10である。前記第1排水穴10は、図1,2,3に示すように、スクロールケーシング41のベルマウス部41aに開穴される。
【0022】
前記第2連通部は、図1〜図4に示すように、前記スクロールケーシング41の下部位置と前記ダミーエバポレータ6の上部位置を一致させ、両位置を前記遠心送風機4のモータ回転軸MLと直交する方向に連通する第2排水穴11である。前記第2排水穴11は、スクロールケーシング41(または空調ケース5)に開穴される。
【0023】
前記排水溝12は、図1〜図4に示すように、前記ダミーエバポレータ6と一体に枠板部6cの全周に半円弧状断面により形成される。なお、ダミーエバポレータ6は、排水溝12の形状を持つ成形型を用いた樹脂成形により製造される。
前記ダミーエバポレータ6の外周面は、気密止水シート8を介して空調ケース5の内壁面に対して、図1に示すように、両側面と上面の3面が気密止水状態で固定され、下面のみにはドレンパイプ9と連通するドレン隙間13を介装させている。そして、気密止水シート8には、図3に示すように、前記第2排水穴11と一致する位置に、第2排水穴11から落下する水を排水溝12へ受け渡す溝導入穴8aが開穴されている。
【0024】
前記ドレン構造は、ダミーエバポレータ6を収容する空調ケース5のドレンパン部5aと、該ドレンパン部5aに設けられたドレンパイプ9により構成されている。このドレン構造は、冷暖兼用の車両用空調装置の場合、エバポレータの外部フィンに付着した凝縮水を外部に排出するために設けられた既存のドレン構造である。
【0025】
前記第1排水穴10と前記第2排水穴11との間は、図3および図4に示すように、第1排水穴10から第2排水穴11に向かって下り勾配の案内傾斜溝14により接続している。
【0026】
次に、本発明に至る経緯を説明する。
スクロールケーシングの巻き角度が300°程度あり、モータを水平に配置した遠心送風機を用いた車両用空調装置では、エンジンルームのスチーム洗浄時、インテークダクトに浸入してきた水滴が水となってダクト底壁面に沿って流れたり、ブロア停止時、インテークダクトの内面に付着した雪や水滴が水となってダクト底壁面に沿って流れたりすると、図5に示すように、スクロールケーシングの下部に水が溜まっていた。そして、このスクロールケーシングの下部に溜まった水が凍結すると、ファンの破損原因となっていた。
【0027】
そこで、インテークダクトの底壁面に沿って流れる水やスクロールケーシングの下部に溜まった水の排水性を確保するため、従来は、インテークダクトの下部にインテーク専用ドレンホースなどの排水部品を追加していた。
【0028】
しかしながら、従来の排水構造の場合、インテークダクトにインテーク専用ドレンホースを設ける必要があり、空調ユニットとしてみた場合、インテーク専用ドレンホースと空調ケース側ドレンホースとの2つの排水構造を設けることになる。
【0029】
これに対し提案されたのが、特開2004−98782号公報に記載された車両用空調装置である。この提案装置では、インテークダクトの底壁部に貯留する水を、ブロアとインテークダクトとの差圧により、ブロア内に誘導する誘導通路を設けている。このため、ブロア作動時、差圧によりブロア内に誘導された水がブロアによって送風された後、エバポレータに捕獲され、凝縮水としてエバポレータの下方のドレンパイプから排出される。
【0030】
しかしながら、上記提案装置にあっては、ブロアの作動による送風を利用してブロア内に誘導された水を外部に排除するものであるため、ブロア停止時において、ブロア内に誘導された水を外部に排除できない。
【0031】
さらに、風の流れの影響を受ける位置に排水ルートを配置すると、空調ケース内に風の流れが生じるブロワ作動時において、吹き出し方向へ飛水が発生したり、排水の逆流が発生したり、吹き出し温度(冷房や暖房)を変動させたりする。このため、風の流れの影響を受ける位置に排水ルートを配置することを避けたいという要求がある。
【0032】
本発明者は、車両用空調装置のレイアウトとして、スクロールケーシングの下部位置がダミーエバポレータやエバポレータの上端位置と符合するレイアウトが多く見受けられる点、空調ケースの内壁面に沿った迂回ルートは風の流れの影響を受けない点に着目した。この着目点に基づき、遠心送風機の停止時あるいは作動時、インテークダクトの底壁面に沿って流れる水を、遠心送風機のスクロールケーシングの下部→ダミーエバポレータの上部→ダミーエバポレータの外周の排水溝→空調ケースのドレンパイプと経過して排水する構成を採用した。この構成により、排水構造を簡素化したいという要求、ブロワ停止時にも排水機能を確保したいという要求、風の流れの影響を受けない位置に排水ルートを配置したいという要求を全て応えることができる。
【0033】
次に、作用を説明する。
以下、実施例1の車両用空調装置の排水構造における遠心送風機の停止/作動時における排水作用を説明する。
【0034】
遠心送風機4の停止時あるいは作動時、インテークダクト2に導入された水は、下記の過程を経過して外部に排出される。
【0035】
・第1過程
例えば、内外気導入ダクト1からインテークダクト2に導入された水は、図1の(a)に示すように、傾斜底壁面2a,2bに沿って、下流側の遠心送風機4のスクロールケーシング41の下部に向かって流れる。
【0036】
・第2過程
スクロールケーシング41の下部に向かって流れる水は、図1の(b)に示すように、傾斜底壁面2a,2bから第1排水穴10を通過し、遠心送風機4のスクロールケーシング41の下部に導かれる。
ここで、第1排水穴10と第2排水穴11との間は、第1排水穴10から第2排水穴11に向かって下り勾配の案内傾斜溝14により接続されている。このため、図3に示すように、第1排水穴10からの水は案内傾斜溝14に集められ、かつ、図2及び図4に示すように、スクロールケーシング41の内面に付着した水滴が凝縮した水も案内傾斜溝14に集められる。すなわち、案内傾斜溝14に集約された水が遠心送風機4のスクロールケーシング41の下部に導かれる。
【0037】
・第3過程
遠心送風機4のスクロールケーシング41の下部に導かれた水は、図1(c)に示すように、スクロールケーシング41の下部から、第2排水穴11及び溝導入穴8aを経過し、ダミーエバポレータ6の上部の排水溝12が設定された位置に導かれる。
【0038】
・第4過程
ダミーエバポレータ6の排水溝12に導かれた水は、図1(d)に示すように、ダミーエバポレータ6の中央上部から、排水溝12に沿って図1の左方向に流れ、その後、図1の下方向に流れる。なお、空調ケース5の車両レイアウトや車両の傾斜状況等により、ダミーエバポレータ6の排水溝12に導かれた水が、図1(d')に示すように、ダミーエバポレータ6の中央上部から、排水溝12に沿って図1の右方向に流れ、その後、図1の下方向に流れることもある。
【0039】
・第5過程
ダミーエバポレータ6の排水溝12に沿ったルートで下方に落下してきた水は、図1(e)に示すように、空調ケース5のドレンパン部5aへ集約される。
【0040】
・第6過程
空調ケース5のドレンパン部5aへ集約された水は、図1(f)に示すように、空調ケース5のドレンパイプ9から外部に排出される。
【0041】
上記のように、実施例1の排水構造は、冷暖兼用の車両用空調装置の場合にエバポレータの凝縮水を排出する既存のドレンパイプ9を利用して外部に排水するため、新たにドレン構造を追加する必要がなく、簡単な構成とすることができる。
【0042】
また、実施例1の排水構造は、排水溝12がダミーエバポレータ6の外周に沿って形成されているため、この排水溝12と空調ケース5の内壁面の間には、閉鎖空間による排水ルートが形成される。このダミーエバポレータ6の外周(=空調ケース5の内壁面)に沿って形成された排水ルートは、閉鎖空間であるため、送風路7を流れる風の流れによる圧力変動や風圧等の影響を受けない風の流れから隔絶されたルートとなる。
【0043】
したがって、実施例1の排水構造は、既存のドレン構造を利用した簡単な構成としながらも、下記の特徴が併せて発揮される。
・遠心送風機4の停止・作動にかかわらず、スクロールケーシング41の下部に溜まろうとする水を外部に排除することができる。
・風流れによる吹き出し側への飛水の発生を防止できる。
・風流れによる排水の逆流の発生を防止できる。
・吹き出し温度(暖房)への影響が抑えられる。
【0044】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用空調装置の排水構造にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0045】
(1) インテークダクト2と遠心送風機4と送風抵抗部材と空調ケース5を備え、前記インテークダクト2から前記遠心送風機4に向かって浸入してきた水を前記空調ケース5の外部に排出する車両用空調装置の排水構造において、前記インテークダクト2の底壁面2a,2bと前記遠心送風機4を収容するスクロールケーシング41の下部を連通する第1連通部と、前記スクロールケーシング41の下部と前記送風抵抗部材の上部を連通する第2連通部と、前記第2連通部からの水が落下する位置に、前記送風抵抗部材の外周に沿って形成された排水溝12と、前記空調ケース5の下部に設けられ、前記排水溝12を経過した水を空調ケース5の外部に排出するドレン構造と、を備えたため、既存のドレン構造を利用した簡単な構成としながら、遠心送風機4の停止・作動にかかわらず、スクロールケーシング41の下部に溜まろうとする水を外部に排除することができると共に、遠心送風機4の作動時、飛水や排水逆流の発生を防止できるし、吹き出し温度への影響を抑制できる。
【0046】
(2) 前記第1連通部は、前記インテークダクト2の傾斜底壁面2a,2bと前記スクロールケーシング41の下部位置を前記遠心送風機4のモータ回転軸方向に連通する第1排水穴10であり、前記第2連通部は、前記スクロールケーシング41の下部位置と前記ダミーエバポレータ6の上部位置を一致させ、両位置を前記遠心送風機4のモータ回転軸MLと直交する方向に連通する第2排水穴11であり、前記第1排水穴10と前記第2排水穴11との間は、第1排水穴10から第2排水穴11に向かって下り勾配の案内傾斜溝14により接続したため、部品点数を増すことのない簡単な構成の連通部としながら、ダミーエバポレータ6の上部位置の第2排水穴11へ向かう水の滞留を防止し、排水溝12へ導く水の集約効率を高めることができる。
【0047】
(3) 前記送風抵抗部材は、通風穴6aを開口した抵抗合わせ板部6bと、該抵抗合わせ板部6bの全周に形成した枠板部6cを有し、エバポレータの持つ通気抵抗と同等の通気抵抗を持たせたダミーエバポレータ6であり、前記排水溝12は、前記ダミーエバポレータ6と一体に枠板部6cの全周に形成したため、冷暖兼用タイプの空調ケース5を流用し、ダミーエバポレータ6を設定した暖房専用の車両用空調装置において、遠心送風機4のスクロールケーシング41の下部に溜まろうとする水を外部に排除する機能を持たせることができる。
【実施例2】
【0048】
実施例2は、エバポレータを搭載した冷暖兼用の車両用空調装置に本発明の排水構造を適用した例である。
【0049】
まず、構成を説明する。
図6は実施例2の排水構造が適用された車両用空調装置の要部を示す一部拡大断面図である。
【0050】
実施例2の排水構造が適用された車両用空調装置は、図6に示すように、遠心送風機4と、スクロールケーシング41と、ブロアファン42と、気密止水シート8’と、第1排水穴10(第1連通部)と、第2排水穴11(第2連通部)と、排水溝12と、案内傾斜溝14と、エバポレータ60(送風抵抗部材)と、風上側上部ヘッダタンク61と、風下側上部ヘッダタンク62と、を備えている。
すなわち、実施例2の排水構造が適用された車両用空調装置は、冷房と暖房を共に行う冷暖兼用の車両用空調装置であり、冷房用の熱交換器であるエバポレータ60を設定している。
【0051】
前記エバポレータ60は、内部を流れる冷媒と外側を通過する空気とを熱交換させ、冷媒を蒸発気化させて空気を冷却するもので、外周面に気密止水シート8’を巻き付け、該気密止水シート8’を介して図外の空調ケース5の内壁面に設定される。このエバポレータ60は、風上側上部ヘッダタンク61及び風下側上部ヘッダタンク62以外に、図外の風上側下部ヘッダタンク、風下側下部ヘッダタンク、風上側熱交換チューブ、風下側熱交換チューブ、外部フィンを有して構成されている。
【0052】
前記排水溝12は、図6に示すように、前記気密止水シート8’を互いに間隔を介して一対配置することで、一対の気密止水シート8’,8’の対向面とエバポレータ60の外周面により形成される。
ここで、一対の気密止水シート8’,8’を、互いに間隔を介して対向させるにあたっては、2本の気密止水シート8’,8’を巻き付けるようにしても良いし、1本の気密止水シート8’を全体に巻き付け、中央部をスリット状に取り除くようにしても良い。なお、他の構成については、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0053】
次に、作用を説明すると、実施例2の排水構造は、排水溝12がエバポレータ60の外周に設定された一対の気密止水シート8’,8’に沿って形成されているため、この排水溝12と空調ケース5の内壁面の間には、閉鎖空間による排水ルートが形成される。このエバポレータ60の外周(=空調ケース5の内壁面)に沿って形成された排水ルートは、閉鎖空間であるため、送風路7を流れる風の流れによる圧力変動や風圧等の影響を受けない風の流れから隔絶されたルートとなる。
【0054】
したがって、実施例2の排水構造は、実施例1の排水構造と同様に、既存のドレン構造を利用した簡単な構成としながらも、下記の特徴が併せて発揮される。
・遠心送風機4の停止・作動にかかわらず、スクロールケーシング41の下部に溜まろうとする水を外部に排除することができる。
・風流れによる吹き出し側への飛水の発生を防止できる。
・風流れによる排水の逆流の発生を防止できる。
・吹き出し温度(冷房、暖房)への影響が抑えられる。
【0055】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用空調装置の排水構造にあっては、実施例1の(1),(2)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0056】
(4) 前記送風抵抗部材は、外周面に気密止水シート8’を巻き付け、該気密止水シート8’を介して空調ケース5に設定されるエバポレータ60であり、前記排水溝12は、前記気密止水シート8’を互いに間隔を介して一対配置することで、一対の気密止水シート8’,8’の対向面とエバポレータ60の外周面により形成したため、エバポレータ60を設定した冷暖兼用の車両用空調装置において、遠心送風機4のスクロールケーシング41の下部に溜まろうとする水を外部に排除する機能を持たせることができる。加えて、振動吸収等のためにエバポレータ60の外周面に巻き付けられる気密止水シート8’を利用し、容易に排水溝12を形成することができる。
【0057】
以上、本発明の車両用空調装置の排水構造を実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0058】
実施例1,2では、第1連通部を第1排水穴10とし、第2連通部を第2排水穴11とする例を示したが、第1連通部や第2連通部としては、ドレンパイプや排水溝などを用いても良い。要するに、第1連通部は、インテークダクトの底壁面と遠心送風機のスクロールケーシングの下部を連通するものであれば、実施例1,2には限られることはない。また、第2連通部は、スクロールケーシングの下部とエバポレータの上部を連通するものであれば、実施例1,2には限られることはない。
【0059】
実施例1では、ダミーエバポレータ6として、1つの通風穴6aを開口した例を示したが、複数の小さな通風穴を開口し、通風穴の数によって通気抵抗を調整するような例としても良い。
【0060】
実施例1では、ダミーエバポレータ6の外周に気密止水シート8を巻き付けた例を示したが、気密止水シート8を巻き付けることなく、ダミーエバポレータ6を直接、空調ケースの内壁面に設定するようにしても良い。また、実施例1のように、ダミーエバポレータ6の外周に気密止水シート8を巻き付けた場合、実施例2に示すように、気密止水シート8により排水溝12を形成するようにしても良い。
【0061】
実施例1では、スクロールケーシング41の下部位置とダミーエバポレータ6の上部位置を一致させ、ダミーエバポレータ6を縦方向配置とする例を示し、スクロールケーシング41の下部位置とエバポレータ60の上部位置を一致させ、エバポレータ60を縦方向配置とする例を示した。しかし、スクロールケーシングの下部位置とダミーエバポレータあるいはエバポレータの上部位置がずれていて、両位置を可撓性パイプにより連通させる例や、ダミーエバポレータあるいはエバポレータを斜め方向の傾斜配置とする例としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0062】
実施例1,2では、巻き角度が300°程度あるスクロールケーシングを有する遠心送風機を備えた車両用空調装置への適用例を示したが、巻き角度が300°以下のスクロールケーシングを有する遠心送風機を備えた車両用空調装置であってもスクロールケーシングの下部に水が溜まる構造を持つ車両用空調装置であれば適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1の排水構造が適用された車両用空調装置を示すモータ回転軸方向断面図である。
【図2】実施例1の排水構造が適用された車両用空調装置を示す図1のA−A線によるモータ回転軸直交方向断面図である。
【図3】実施例1の排水構造における図1の第1,第2連通部を示す拡大断面図である。
【図4】実施例1の排水構造における第2連通部を示す図3のB−B線による拡大断面図である。
【図5】従来の巻き角度が300°程度のスクロールケーシングを有する遠心送風機を備えた車両用空調装置においてスクロールケーシングの下部に水が溜まっている様子を示す図である。
【図6】実施例2の排水構造が適用された車両用空調装置の要部を示す一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 内外気導入ダクト
2 インテークダクト
2a 第1傾斜底壁面
2b 第2傾斜底壁面
3 クリーンフィルタ
4 遠心送風機
41 スクロールケーシング
42 ブロアファン
43 ファンモータ
5 空調ケース
5a ドレンパン部(ドレン構造)
6 ダミーエバポレータ(送風抵抗部材)
7 送風路
8,8’ 気密止水シート
9 ドレンパイプ(ドレン構造)
10 第1排水穴(第1連通部)
11 第2排水穴(第2連通部)
12 排水溝
13 ドレン隙間
14 案内傾斜溝
60 エバポレータ(送風抵抗部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インテークダクトと遠心送風機と送風抵抗部材と空調ケースを備え、前記インテークダクトから前記遠心送風機に向かって浸入してきた水を前記空調ケースの外部に排出する車両用空調装置の排水構造において、
前記インテークダクトの底壁面と前記遠心送風機を収容するスクロールケーシングの下部を連通する第1連通部と、
前記スクロールケーシングの下部と前記送風抵抗部材の上部を連通する第2連通部と、
前記第2連通部からの水が落下する位置に、前記送風抵抗部材の外周に沿って形成された排水溝と、
前記空調ケースの下部に設けられ、前記排水溝を経過した水を空調ケースの外部に排出するドレン構造と、
を備えたことを特徴とする車両用空調装置の排水構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用空調装置の排水構造において、
前記第1連通部は、前記インテークダクトの傾斜底壁面と前記スクロールケーシングの下部位置を前記遠心送風機のモータ回転軸方向に連通する第1排水穴であり、
前記第2連通部は、前記スクロールケーシングの下部位置と前記エバポレータの上部位置を一致させ、両位置を前記遠心送風機のモータ回転軸と直交する方向に連通する第2排水穴であり、
前記第1排水穴と前記第2排水穴との間は、第1排水穴から第2排水穴に向かって下り勾配の案内傾斜溝により接続したことを特徴とする車両用空調装置の排水構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された車両用空調装置の排水構造において、
前記送風抵抗部材は、通風穴を開口した抵抗合わせ板部と、該抵抗合わせ板部の全周に形成した枠板部を有し、エバポレータの持つ通気抵抗と同等の通気抵抗を持たせたダミーエバポレータであり、
前記排水溝は、前記ダミーエバポレータと一体に枠板部の全周に形成したことを特徴とする車両用空調装置の排水構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載された車両用空調装置の排水構造において、
前記送風抵抗部材は、外周面に気密止水シートを巻き付け、該気密止水シートを介して空調ケースに設定されるエバポレータであり、
前記排水溝は、前記気密止水シートを互いに間隔を介して一対配置することで、一対の気密止水シートの対向面とエバポレータの外周面により形成したことを特徴とする車両用空調装置の排水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−302779(P2008−302779A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150761(P2007−150761)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】