説明

車両用衝突検知装置

【課題】車両バンパ内に配設され、内部にチャンバ空間が形成される圧力検出用のチャンバ部材を備える車両用衝突検知装置において、衝突した部位に依らず、同じ変形体積量(チャンバ空間)を確保することが可能な車両用衝突検知装置を提供する。
【解決手段】車両バンパ1内に配設され且つチャンバ空間7aが内部に形成されるチャンバ部材7と、チャンバ空間7a内の圧力を検出する圧力センサ9と、を備え、圧力センサ9によるチャンバ空間7a内の圧力検出結果に基づいて車両バンパ1への物体の衝突を検知するように構成された車両用衝突検知装置であって、チャンバ部材7は、車両幅方向に沿って左右に延びると共に、チャンバ部材7の左右両端部が車両バンパ1の形状に沿って車両後方に湾曲する湾曲部7bを有するものであり、湾曲部7bのチャンバ高さ距離は、湾曲部7bの湾曲形状に基づいて設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両バンパ内に配設されたチャンバ部材の内部に形成されたチャンバ空間における圧力変化に基づいて、該車両バンパへの物体の衝突を検知する車両用衝突検知装置に関し、特に、チャンバ部材の左右両端部が車両バンパの形状に沿って車両後方に湾曲する湾曲部を有する車両用衝突検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両において事故時の安全性の向上が図られている。車両の安全性に関して、事故時に車両の搭乗者の安全性を確保するだけでなく、車両に歩行者が衝突したときに歩行者が致命的なダメージを受けないことも求められてきている。
【0003】
車両に衝突した歩行者を保護する保護手段としては、ボンネット上に展開するエアバッグなど、車両に衝突してボンネットに倒れ込んできた歩行者が受ける傷害値(歩行者が受ける衝撃)を下げる方法がある。エアバッグで歩行者が受ける衝撃を下げることで、歩行者が致命的なダメージを受けることを抑える。このような保護装置において歩行者など、車両への衝突を検知することが重要となっている。
【0004】
このような車両衝突検知装置として、本願発明の発明者らは先行する技術として車両バンパ内に配設され、内部にチャンバ空間を形成するチャンバ部材と圧力センサとを備えた衝突検知手段及び車両用衝突検知装置を提案している(例えば、特開2007−290682号公報)。
【特許文献1】特開2007−290682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明では、車両と衝突物との衝突を、車両バンパ内に配設されたチャンバ空間の歪みによる圧力変動として捉え、この変化を圧力センサにて検知するものであり、特にチャンバ空間を区画することにより、例えば衝突物との衝突の仕方が同じ場合には、衝突した場所に依らずに同じ変形体積量(チャンバ空間)が確保できるため、衝突場所の相違による衝突検知の変化を抑制でき、衝突の検知精度を高められるという利点を有している。
【0006】
しかしながら、このような構造においては、車両の幅方向に延びて形成される車両バンパの中央部は衝突衝撃に対して潰れ易く、車両バンパの両端部に形成された湾曲部においては潰れにくいという、車両バンパの剛性(アブソーバ変位特性)が考慮されるのみであり、該車両バンパの両端部に形成される湾曲部に関し、湾曲部の有する曲面特性(特に衝突物への衝撃緩衝性)は考慮されていない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、車両バンパ内に配設され、内部にチャンバ空間が形成される圧力検出用のチャンバ部材を備える車両用衝突検知装置において、衝突した部位に依らず、同じ変形体積量(チャンバ空間)を確保することが可能な車両用衝突検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
【0009】
本発明の車両用衝突検知装置は、車両バンパ内に配設され且つチャンバ空間が内部に形成されるチャンバ部材と、前記チャンバ空間内の圧力を検出する圧力センサと、を備え、前記圧力センサによる前記チャンバ空間内の圧力検出結果に基づいて前記車両バンパへの物体の衝突を検知するように構成された車両用衝突検知装置であって、前記チャンバ部材は、車両幅方向に沿って左右に延びると共に、前記チャンバ部材の左右両端部が前記車両バンパの形状に沿って車両後方に湾曲する湾曲部を有するものであり、前記湾曲部のチャンバ高さ距離は、前記湾曲部の湾曲形状に基づいて設定される、ことを特徴とする。
【0010】
このような構成を備えることにより、車両バンパの左右両端部に形成される湾曲部に関し、湾曲部の有する曲面特性を考慮した車両用衝突検知装置が実現できるのである。すなわち、車両バンパへの衝突が発生した場合には、衝突衝撃によって車両バンパ内に配設されたチャンバ部材は変形し、この変形体積量が内部に形成されたチャンバ空間の圧力変動として圧力センサに伝達されて衝突が検知される。従って、車両バンパの両端部に形成される湾曲部の有する曲面形状に基づいて、変形体積量が一定量となるように湾曲部のチャンバ高さ距離を設定すれば、衝突した部位に依らず、同じ変形体積量(チャンバ空間)を確保することが可能となる。
【0011】
本発明の好適な態様として、前記湾曲部のチャンバ高さ距離は、湾曲面の法線方向と車両前後方向とが成す角度に基づいて設定される、としても良い。曲面形状に合せたチャンバ高さ距離を細密に設定できるため、湾曲部のチャンバ変形体積量が精度良く確保でき、車両バンパへの物体の衝突の検知精度を向上させることが可能となる。
【0012】
本発明の好適な態様として、前記湾曲部のチャンバ高さ距離は、前記成す角度が大きいほど大きな値に設定される、としても良い。湾曲部の曲面形状に合せたチャンバ変形体積量の補正精度が高められ、車両バンパへの物体の衝突の検知精度をより一層、向上させることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照にしつつ具体的に説明する。図1には、車両バンパ1内に配設され、内部にチャンバ空間7aを有する車両用衝突検知装置の概略図が示されており、車両上方から視た様子を車両前方を図中上側として、図面が示されている。
【0014】
図1に示された、車両用衝突検知装置は、車両バンパ1への物体の衝突を検知するように構成されており、車両バンパ1内に配設され且つチャンバ空間7aが内部に形成されるチャンバ部材7と、チャンバ空間7a内の圧力を検出する圧力センサ9と、演算手段(図示せず)とを備えている。
【0015】
車両バンパ1は、バンパカバー2、バンパレインフォースメント3、チャンバ部材7、サイドメンバ4を主体として構成されている。尚、本実施形態では、アブソーバと内部にチャンバ空間7aが形成されるチャンバ部材7とを、一体に形成した形態としているが、例えば、チャンバ部材7とブソーバとは個別に配設する形態としても良い。
【0016】
バンパカバー2は、車両前端にて車両幅方向に延び、バンパレインフォースメント3及びチャンバ部材7を覆うように車体に取り付けられる樹脂(例えば、ポリプロピレン)製カバー部材であり、車幅端部では車両形状に合せて車両後方に向う湾曲部を有する。
【0017】
バンパレインフォースメント3は、バンパカバー2内に配設されて車両幅方向に延びる金属製の梁状部材である。
【0018】
サイドメンバ4は、車両側面側に位置して車両前後方向に延びる一対の金属製部材であり、その前端に上述したバンパレインフォースメント3が取り付けられる。
【0019】
チャンバ部材7は、バンパカバー2内でバンパレインフォースメント3の前面に取り付けられ、車両バンパ1における衝撃吸収と圧力伝達との二つの作用を併せ持つ発泡樹脂性の部材である。チャンバ部材7は、内部にチャンバ空間7aが形成されており、チャンバ空間7a内には空気が封入されている。チャンバ空間7a内には差込口を介して圧力センサ9の受圧部が差し込まれている。チャンバ部材7は、バンパカバー2の内周面に一致する形状に形成されており、車幅端部では車両形状に合せて車両後方に向う湾曲部7bを有している。
【0020】
圧力センサ9は、気体圧力を検出可能なセンサ装置であり、チャンバ部材7に組み付けられている。図1からも明らかなように、チャンバ空間7a内に挿入された差込口を介して、チャンバ空間7a内の空気の圧力変化を受圧部に伝達することにより、圧力変化を検出可能に構成されている。
【0021】
演算手段は、圧力センサ9に接続され、圧力センサ9の検出信号からチャンバ空間7aの圧力を算出すると共に、算出された圧力から車両バンパ1への衝突の判定を実行するものであり、このような演算手段は予め車両に搭載された演算手段としても良い。
【0022】
次に、上述した構成を備える車両用衝突検出装置において、車両バンパ1への物体の衝突(衝突物X)について詳細に説明する。
【0023】
図2(a)及び(b)には、衝突物Xと車両バンパ1との衝突を上方から視た説明図が示されており、(a)は、チャンバ部材7の有する法線方向上に進行方向を有する衝突物Xと車両バンパ1との衝突説明図であり、(b)は、チャンバ部材7の有する法線方向と衝突物Xの進行方向とが、所定の角度θを成す衝突説明図である。ここで、図2(a)の衝突は、例えば、図1に示された車両バンパ1の中央付近で発生する衝突であり、図2(b)の衝突は、図1に示された車両バンパ1の車幅端部付近に形成される湾曲部7bで発生する衝突が相当する。尚、図2(a)、(b)においては、衝突物Xの与える影響を説明するために、便宜上、衝突物Xとチャンバ部材7との衝突態様で簡略的に示している。
【0024】
図2(a)に示された衝突態様からも明らかなように、図1に示された車両バンパ1の中央付近で発生する衝突では、衝突物Xの進行方向(図中、一点鎖線矢印で指示)と、チャンバ部材7が有するチャンバ法線方向とは略直線状(平行)に重なるため、衝突物Xが有する衝突エネルギーが分散されることなく、チャンバ部材7に衝撃を与え、変形させる。
【0025】
すなわち、衝突部分のチャンバ部材7に潰れが生じ、チャンバ空間7a内の気体圧力が上昇(すなわち、変化)することにより、チャンバ空間7a内の気体圧力の変化を圧力センサ9が検出し、圧力変化に基づく車両バンパ1への衝突を確実に、精度良く、検知することが可能となる。尚、衝突物Xの進行方向とは、車両の進行方向(車両前後方向)と正対をなすものである。
【0026】
衝撃物Xの進行方向は図中、一点鎖線にて示され、チャンバ部材7側へ向うものであり、同時に、チャンバ部材7が有するチャンバ法線方向(図示せず)と略直線状(平行)に重なっている。衝突物Xは水平方向に対してR(mm)の半径を有するものであり、衝突物と車両との相対速度及び衝突物の質量に比例する衝突エネルギーによって、チャンバ部材7に対して変形衝撃を与える。チャンバ部材7は、この衝撃により、衝撃物Xの進行方向に対して変位量:A(mm)の衝突変形を受ける。チャンバ部材7は、この衝突衝撃の吸収を行うと共に、変形によって生じたチャンバ空間7a内の圧力変化を圧力センサ9に伝達する。
【0027】
この際のチャンバ部材7の変形体積量は、図2(a)に示されたように、水平方向に円弧状の形状を成すチャンバ変形面積:S0に比例する体積量で表される。より具体的には、衝突物Xとの衝突が生じた車両バンパ1内に配設されたチャンバ部材7のチャンバ高さ(上端部/下端部間距離):H0(mm)と、該チャンバ変形面積:S0とを掛け合わせて算出される体積量である。
【0028】
一方、図1に示された車両バンパ1の幅方向端部付近に形成される湾曲部7bで発生する衝突においては、図2(b)に示されたように、チャンバ部材7の湾曲部7bの有する湾曲形状により、湾曲面が有する法線方向(チャンバ法線方向、図中一点鎖線上向き矢印)と、衝突物Xの進行方向(図中一点鎖線下向き矢印)との間に錯角(角度θ)が生じることとなる。尚、図2(a)、(b)における衝突物Xの進行方向は、同一方向である。
【0029】
衝突衝撃により、チャンバ部材7は、衝撃物Xの進行方向に対して変位量:A(mm)の変形を行い、衝撃吸収と共に変形によって生じたチャンバ空間7a内の圧力変化を圧力センサ9に伝達することとなる。
【0030】
ここで、チャンバ部材7に形成(水平方向に円弧状の形状を成す)される、チャンバ変形面積:S1は、チャンバ法線方向に投影された変位量(Acosθ)に基づくものであるから、図2(a)で示された水平方向に円弧状の形状を成すチャンバ変形面積:S0と比較して、衝突物Xとチャンバ法線方向とが成す角度θが反映された面積となる。
【0031】
換言すれば、衝突物Xの進行方向と、チャンバ部材7が有するチャンバ法線方向とが略直線状(平行)に重なる場合に比べて、車両バンパ1に与える衝突エネルギーが分散されるために、チャンバ変形面積:S1は、チャンバ変形面積:S0より減少することとなる。
【0032】
従って、衝突物Xとの衝突が、両者(チャンバ法線方向に平行な衝突の場合、及びチャンバ法線方向に所定の角度θを有して衝突する場合)共に、同一のチャンバ高さ(上端部/下端部間距離)に設定されたチャンバ部材7に対して生じた場合には、衝突エネルギーがチャンバ法線方向に分散(角度θ)された分だけ、チャンバ部材7の変形体積量が減少することとなり、結果、圧力センサ9の圧力検出結果に基づいて車両バンパ1への衝突物Xの衝突を検知するように構成された車両用衝突検知装置の衝突検知精度は劣化することとなる。
【0033】
このような検知精度の劣化に対処するために、本発明者は、車両バンパの本質的な機能から、車両バンパ1の幅方向端部付近に形成される湾曲部7bにおいて発生する衝突であっても、車両バンパ1の中央付近で発生する衝突と同等の変形体積量を確保するための補正手段(チャンバ部材7に対する補正)を見出した。
【0034】
以下、図3に示された図面を参照にして、このチャンバ部材7に対する変形体積量の補正手段を説明する。
【0035】
図2(a)、(b)に示された図面からも明らかなように、衝突物Xの進行方向と、チャンバ部材7の有するチャンバ法線方向とが異なる場合(所定の角度θを有する場合)には、平行な場合と比較して、衝突衝撃によるチャンバ部材7へのチャンバ変形面積:S1は、衝突エネルギーが分散(角度θ)された分だけ減少する。
【0036】
一方、チャンバ部材7に対するチャンバ変形体積量は、該チャンバ変形面積に、衝突が生じた部位の、チャンバ高さ(上端部/下端部間距離)を掛け合せて算出される体積量で表すことができる。従って、衝突物Xの進行方向とチャンバ法線方向とが重なる(平行)場合と同等のチャンバ変形体積量を確保するためには、チャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向とが成す角度分の影響(チャンバ変形面積の減少分)を、該チャンバ高さに対して補正してやれば良い。
【0037】
すなわち、平行の場合(チャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向とのなす角度が“0°”の場合)、チャンバ変形体積量:V0は、(1)に示す数式で表現できる。
V0=S0×H0 ・・・(1)
V0:角度0°でのチャンバ変形体積量
S0:角度0°でのチャンバ変形面積
H0:チャンバ高さ(上端部/下端部間距離)
【0038】
同様に、チャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向とが所定の角度θを成す場合には、チャンバ変形体積量を“V1”とし、(2)に示す数式で表現できる。
V1=S1×H1 ・・・(2)
V1:角度θ°でのチャンバ変形体積量
S1:角度θ°でのチャンバ変形面積
H1:チャンバ高さ(上端部/下端部間距離)
【0039】
以上、(1)、(2)に示された関係式より、チャンバ変形体積量が等しい(V0=V1)とすれば、(3)に示す関係式が得られる。
V0=V1 より、
H1=(S0/S1)×H0 ・・・(3)
【0040】
従って、図3に示されるように、チャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向とが所定の角度θを成す場合の、チャンバ変形面積:S1を算出すれば、湾曲面を有する湾曲部7bに対するチャンバ高さ補正が実現できる。
【0041】
図3に示されるように、衝突物Xの有する半径をR(mm)、チャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向との成す角度をθ(°)、衝突物Xとの衝突衝撃によるチャンバ部材7への変位量をA(mm)とすれば、図から明らかなように、角度θにおけるチャンバ変形面積S1は、扇形(OXY)の面積Sから三角形(ΔOXY)の面積S´を差し引いた量で算出できるから、(4)及び(5)に示す数式で表現できる。
S1=S−S´ ・・・(4)
=(πR×(2θ1)/360)−((Rsin(2θ1))/2)・・・(5)
S1:角度θでのチャンバ変形面積
S :扇形(OXY)の面積
S´:三角形(ΔOXY)の面積
R :衝突物Xの半径
【0042】
(5)式は、更に線分Bを用いて(6)に示す数式に変形できる。
(5)=πR×(cos−1(B/R)/180)
−Rsin(2×cos−1(B/R))/2 ・・・(6)
B:チャンバ法線方向の線分(三角形S´の高さ)
【0043】
(6)式は更に(7)に示す関係式を用いて(8)の数式に変形できる。
B=R−Acosθ ・・・(7)
(6)=πR×(cos−1((R−Acosθ)/R)/180)
−Rsin(2×cos−1((R−Acosθ)/R))/2 ・・・(8)
A:チャンバ部材7の変位量
【0044】
以上のように、車両バンパ1の幅方向端部付近に形成される湾曲部7bで発生する衝突、すなわち、衝突物Xの進行方向と、チャンバ部材7の有するチャンバ法線方向とが所定の角度θを持って衝突した場合におけるチャンバ変形面積:S1は、(8)に示された関係式を用いて表すことができる。そして、このチャンバ変形面積:S1により、(3)に示された関係式に従い、衝突部位でのチャンバ部材7に対するチャンバ高さ(上端部/下端部間距離)の補正を行えば、湾曲部7bの湾曲面に基づくチャンバ変形体積量の補正が実現できる。結果、衝突した部位に寄らない、曲面形状に基づく、衝突物Xと車両バンパ1との衝突検知が可能となる。
【0045】
本発明者は、更に、上述した補正関係式((3)及び(8))の確度を確かめるべく、衝突物Xとチャンバ部材7との衝突実験の計算シミュレーション(以下、単に衝突実験と称する)を実行し、図4〜図7に示される結果を得る事ができた。
【0046】
図4には、本発明者が実施した衝突実験の簡易モデル図が示されている。車両バンパ1内に配設されるチャンバ部材7を模した実験体は、中央部に平坦部を備え、左右の端部では一定量の傾斜角度を備えたチャンバ部材である。ここで、左右端部の傾斜角度は、チャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向とがなす角度θを、それぞれ、θ=20°、40°となるように調整し、チャンバ部材の高さは一定高さ(H=50mm)に設定して衝突実験を実施した。尚、チャンバ部材中央部での衝突物Xとの衝突は、図中、Aで示し、左右端部での衝突はBで示している。
【0047】
図5には、当該条件下の衝突実験により得られたチャンバ部材の変位量(横軸:インパクタ変位量(mm))と衝突物Xからの衝突衝撃(縦軸:圧力(kPa))との相関関係を示すグラフが示されており、(a)はチャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向との成す角度(法線角度)θ=20°の場合であり、(b)はθ=40°の場合のグラフである。
【0048】
図5(a)、(b)に示されたグラフから明らかなように、チャンバ部材の高さが一定値の場合には、チャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向との成す角度θに従い、衝突衝撃が減少している。そして、法線角度θの大小に伴い、この減少傾向が顕著となることが確認された。
【0049】
図5(c)には、図5(a)、(b)で測定された法線角度θの衝突衝撃に与える影響を、チャンバ部材の変位量毎に纏めた表が示されており、法線角度θ=0°で計測された圧力値に対する比率が示されている。図5(c)に示された表からも明らかなように、法線角度θに伴い、変位量A(mm)に因らず、略一定量の減少特性を持つ(法線角度20°では、8±1%の範囲内、40°では30.5±1.5%の範囲内)ことが確認された。
【0050】
次に、本発明者は、数式(3)及び(8)に示す関係式を用いてチャンバ部材の高さ補正を行い、再度衝突物Xとの衝突実験を実施した。図6には、衝突実験の簡易モデル図が示されており、補正が加えられたチャンバ部材の高さはそれぞれ、H1=54.36mm(法線角度θ=20°)、H1=71.88mm(法線角度θ=40°)となるように調整した。尚、チャンバ部材中央部での衝突物Xとの衝突は、図中、Aで示し、左右端部での衝突はBで示している。
【0051】
図7には、当該条件下の衝突実験により得られたチャンバ部材の変位量(横軸:インパクタ変位量(mm))と衝突物Xからの衝突衝撃(縦軸:圧力(kPa))との相関関係を示すグラフが示されており、(a)はチャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向との成す角度(法線角度)θ=20°の場合であり、(b)はθ=40°の場合のグラフである。
【0052】
図5(a)、(b)に示されたグラフから明らかなように、チャンバ部材への高さ補正を行った結果は良好であり、チャンバ法線方向と衝突物Xの進行方向とが平行(法線角度θ=0°)な場合で計測されたチャンバ変位量/衝突衝撃の計測値に極めて近似することが確認された。
【0053】
図7(c)には、図7(a)、(b)で測定された法線角度θの衝突衝撃に与える影響を、チャンバ部材の変位量毎に纏めた表が示されており、法線角度θ=0°で計測された圧力値に対する比率が示されており、極めて良好な近似(法線角度20°時には1%程度、法線角度40°時には±2%程度の範囲内に収められている)を示している。
【0054】
図8には、上述した、変形体積量を補正するための関係式((3)及び(8))に基づいたグラフが示されている。縦軸は、関係式(8)に基づく変形面積比率(%)であり、横軸は、チャンバ法線角度(°)である。図中に示された曲線から、40°近傍を境として変形面積に対する補正率が著しく上昇することが読み取れる。
【0055】
以上説明したことから明らかなように、本実施形態の車両用衝突検知装置によれば、車両バンパ1内に配設され且つチャンバ空間7aが内部に形成されるチャンバ部材7と、チャンバ空間7a内の圧力を検出する圧力センサ9とを備え、圧力センサ9によるチャンバ空間7a内の圧力検出結果に基づいて車両バンパ1への物体の衝突を検知するように構成されているため、車両バンパ1への衝突が発生した場合には、衝突衝撃により車両バンパ1内に配設されたチャンバ部材7は変形し、この変形体積量が内部に形成されたチャンバ空間7aの圧力変動として圧力センサ9に伝達されて衝突物体との衝突を検知できる。
【0056】
そして、チャンバ部材7は車両幅方向に沿って左右に延びると共に、チャンバ部材7の左右両端部が車両バンパ1の形状に沿って車両後方に湾曲する湾曲部7bを有するものであり、湾曲部7bのチャンバ高さ距離は、湾曲部7bの湾曲形状に基づいて設定されるため、衝突した部位に依らず、同じ変形体積量(チャンバ空間)を確保することが可能となる。
【0057】
そして、湾曲部7bのチャンバ高さ距離は、湾曲面の法線方向と車両前後方向とが成す角度に基づいて設定されるため、曲面形状に合せたチャンバ高さ距離を細密に設定できる。結果、湾曲部7bのチャンバ変形体積量は精度良く確保されることとなり、車両バンパ1への物体の衝突の検知精度を向上させることができる。
【0058】
また、湾曲部7bのチャンバ高さ距離は、湾曲面の法線方向と車両前後方向とが成す角度が大きいほど大きな値に設定されるため、湾曲部の曲面形状に合せたチャンバ変形体積量の補正精度が高められる。結果、車両バンパ1への物体の衝突の検知精度をより一層、向上させることが期待できる。
【0059】
尚、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能であることは云うまでもない。例えば、所定の誤差を認容できるのであれば、湾曲部7bのチャンバ高さは、(8)に示される関係式をさらに近似させた、階段状に高さを設定するものでも良い。高さの異なるチャンバ部材7を複数組み合わせることにより、簡便に変形体積量の補正手段が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】車両バンパ1内に配設され、内部にチャンバ空間7aを有する車両用衝突検知装置の概略図であり、車両上方から視た様子を車両前方を図中上側として示す図である。
【図2】衝突物Xと車両バンパ1との衝突を上方から視た説明図であり、(a)は、チャンバ部材7の有する法線方向上に進行方向を有する衝突物Xと車両バンパ1との衝突説明図であり、(b)は、チャンバ部材7の有する法線方向と衝突物Xの進行方向とが、所定の角度θを成す衝突説明図である。
【図3】チャンバ部材7に対する変形体積量の補正手段の説明図である。
【図4】本発明者が実施した衝突実験の簡易モデル図である。
【図5】衝突実験により得られたチャンバ部材の変位量(横軸:インパクタ変位量(mm))と衝突物Xからの衝突衝撃(縦軸:圧力(kPa))との相関関係を示すグラフでる。
【図6】補正が加えられたチャンバ部材による衝突実験の簡易モデル図である。
【図7】補正が加えられたチャンバ部材による衝突実験により得られたチャンバ部材の変位量(横軸:インパクタ変位量(mm))と衝突物Xからの衝突衝撃(縦軸:圧力(kPa))との相関関係を示すグラフである。
【図8】変形体積量を補正するための関係式に基づいたチャンバ高さを示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1.車両バンパ、 2.バンパカバー、 3.バンパレインフォースメント、
4.サイドメンバ、 7.チャンバ部材、 7a.チャンバ空間、
9.圧力センサ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両バンパ内に配設され且つチャンバ空間が内部に形成されるチャンバ部材と、前記チャンバ空間内の圧力を検出する圧力センサと、を備え、前記圧力センサによる前記チャンバ空間内の圧力検出結果に基づいて前記車両バンパへの物体の衝突を検知するように構成された車両用衝突検知装置であって、
前記チャンバ部材は、車両幅方向に沿って左右に延びると共に、前記チャンバ部材の左右両端部が前記車両バンパの形状に沿って車両後方に湾曲する湾曲部を有するものであり、
前記湾曲部のチャンバ高さ距離は、前記湾曲部の湾曲形状に基づいて設定される、
ことを特徴とする車両用衝突検知装置。
【請求項2】
前記湾曲部のチャンバ高さ距離は、湾曲面の法線方向と車両前後方向とが成す角度に基づいて設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項3】
前記湾曲部のチャンバ高さ距離は、前記成す角度が大きいほど大きな値に設定される、
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用衝突検知装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−76525(P2010−76525A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245185(P2008−245185)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)