説明

車両用衝突補強材

【課題】衝突荷重の入力時に断面崩れを起こしにくく、衝突時のエネルギー吸収性能に優れた車両用衝突補強材を提供する。
【解決手段】開放断面型の衝突補強材は、中央板部11の幅方向両端において一対の第1折り畳み補強部20を備えている。各第1折り畳み補強部20は、中央板部11に連続する外側連結端21、第2折り畳み補強部30を介して腹板部の前端部12aに連続する内側連結端22、及び、これら外側及び内側連結端からほぼ等距離に位置する折り返し端23を有し、外側及び内側の両連結端が隣接するように折り返し端23にて折り曲げ形成された二枚重ね構造の金属板部として構成されている。一対の第1折り畳み補強部20は、それぞれに対応する腹板部の前端部12aの外面側に接触するように中央板部11に対して折り曲げられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突時に乗員を保護することを目的として車両に装着される、例えばドアビームやバンパービームに代表されるような車両用衝突補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
ドアビーム等に用いられる車両用衝突補強材には、その本体部が丸パイプ等で形成された閉断面タイプと、鋼板のプレス成形により本体部が横断面コ字状に形成された開放断面タイプとが知られている(例えば特許文献1参照)。部材の軽量化や意匠に合わせた形状設定の柔軟性等の理由から、今日では開放断面タイプが主流となっている。
【0003】
ただし、一般に開放断面タイプの衝突補強材は、衝突荷重の入力時に荷重入力部が座屈して断面崩れ(断面形状の安易な変形)を起こし易く、衝突エネルギーの吸収性能が低下し易いという欠点がある。かかる欠点を補うべく、荷重入力位置に対応させて追加の補強部材を設けるといった対策が提案されている。例えば特許文献2の車両用バンパービームによれば、ビーム本体の内側には、前縦壁(12)と平行な補強部材(8)がその上端及び下端を上壁及び下壁に隅肉溶接することにより設けられている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−19559号公報
【特許文献2】特開平6−328988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2における追加の補強部材(8)は、荷重受承面としての前縦壁(12)から離間して設けられている。また、その補強部材(8)とビーム本体との一体化は前記溶接部に限定されている。それ故、衝突補強材の座屈や断面崩れの防止効果が十分とは言えなかった。特にビーム本体と追加補強部材との間の乖離は、断面崩れの防止にはマイナス要因となる(本発明と対比される後記比較例2で後ほど詳述する)。
【0006】
本発明の目的は、衝突荷重の入力時に断面崩れを起こしにくく、衝突時のエネルギー吸収性能に優れた車両用衝突補強材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、長手方向に延びる中央板部と、その中央板部の幅方向両端部にそれぞれ位置する一対の腹板部とを備えると共に、前記中央板部の内面側に開口する開放断面形状が付与された車両用衝突補強材であって、前記中央板部の幅方向両端部と前記一対の腹板部の前端部とをそれぞれに連結する一対の第1折り畳み補強部を備えており、前記一対の第1折り畳み補強部の各々は、前記中央板部の幅方向端部に連続する外側連結端、前記腹板部の前端部に対して直接又は間接的に連続する内側連結端、及び、これら外側及び内側連結端からほぼ等距離に位置する折り返し端を有すると共に、前記外側及び内側の両連結端が隣接するように前記折り返し端にて折り曲げ形成された二枚重ね構造の金属板部であり、前記一対の第1折り畳み補強部は、それぞれに対応する前記腹板部の前端部の外面側に接触するように前記中央板部に対して折り曲げられている、ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、中央板部の外面(前面)が衝突荷重を直接受け止める荷重受承面となる。中央板部に衝突荷重が加わるとき、一対の腹板部は互いに離間する方向に開こうとする。しかし、本発明の車両用衝突補強材では、それぞれの腹板部の前端部の外面側には第1折り畳み補強部が接触配置されており、しかもその第1折り畳み補強部は、少なくともその外側連結端が中央板部の幅方向端部に連続した二枚重ね構造の金属板部として構成されている。このため、衝突荷重の入力時、それぞれの第1折り畳み補強部には、両腹板部を離間させようとする作用に対抗して両腹板部の開脚(開き)を阻止せんとする反力が生じる。また、その反力に基づいて開脚を阻止又は抑制された両腹板部により、中央板部には衝突荷重と逆向きの反力が生じる。これらの反力により当該衝突補強材の断面崩れが効果的に抑制される結果、衝突時のエネルギー吸収性能が高められる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用衝突補強材であって、その車両用衝突補強材は更に、前記一対の第1折り畳み補強部にそれぞれ連続する一対の第2折り畳み補強部を備えており、前記一対の第2折り畳み補強部の各々は、前記第1折り畳み補強部の内側連結端に連続する外側連結端、前記腹板部の前端部に連続する内側連結端、及び、これら外側及び内側連結端からほぼ等距離に位置する折り返し端を有すると共に、前記外側及び内側の両連結端が隣接するように前記折り返し端にて折り曲げ形成された二枚重ね構造の金属板部であり、前記一対の第2折り畳み補強部は、前記中央板部の内面側に接触するように前記第1折り畳み補強部に対して折り曲げられている、ことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、第1折り畳み補強部に連続する第2折り畳み補強部が二枚重ね構造の金属板部として構成されると共に、中央板部の内面側に接触配置される。この第2折り畳み補強部が追加的に存在することにより、腹板部の前端部の外面側に接触配置された第1折り畳み補強部の曲げ剛性が更に高まり、衝突荷重入力時に第1折り畳み補強部に生ずるところの、両腹板部の開脚(開き)を阻止せんとする反力が高められる。また、二枚重ね構造の金属板部としての第2折り畳み補強部が中央板部の内面側に接触配置されることで、中央板部が補強され、衝突荷重に対する中央板部の剛性が更に高められる。特に第1及び第2折り畳み補強部が併設されていることで、衝突荷重の入力に伴い中央板部の湾曲変位が進行したとしても、中央板部と第2折り畳み補強部との接触状況が維持されて両者間に乖離が生じず、その結果、当該衝突補強材の断面崩れが効果的に抑制される。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の車両用衝突補強材において、前記一対の第2折り畳み補強部のそれぞれの折り返し端が相互接触していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、一対の第2折り畳み補強部のそれぞれの折り返し端が相互接触することで、両折り返し端の接触点が荷重伝達の架橋点となり得る。この架橋点を介して一方の側の第1及び第2折り畳み補強部と、他方の側の第1及び第2折り畳み補強部とが、中央板部の幅方向に沿った方向で互いに支え合うことができる。従って、車両用衝突補強材全体の強度や剛性が向上する。
【0013】
なお、一対の第2折り畳み補強部のそれぞれの折り返し端が相互接触すると共に、当該接触点に溶接を施して両折り返し端を連結することは更に好ましい。かかる溶接により一対の第2折り畳み補強部を連結することで、前述の両腹板部の開脚(開き)を阻止せんとする反力を更に高めることができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用衝突補強材であって、その車両用衝突補強材は更に、前記一対の腹板部の後端部にそれぞれ連結された一対のフランジ部を備えており、前記一対の腹板部は、それらの後端部間の間隔(W2)が前記中央板部の幅(W1)よりも狭くなるように前記中央板部に対し非直角に設けられていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、一対の腹板部の後端部間の間隔(W2)が中央板部の幅(W1)よりも広くなるように各腹板部が中央板部に対し非直角に設けられている場合よりも更に、衝突時のエネルギー吸収性能が向上する(後記実施形態2参照)。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用衝突補強材において、前記一対の腹板部の各々は、その前端部と後端部との間に段差部を有しており、この段差部は、当該腹板部の前端部に接触配置された前記第1折り畳み補強部の外面と当該腹板部の後端部の外面とがほぼ面一となるように形成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、熱間プレス加工(加熱された被加工材に対して相対的に低温のプレス型を用いて付形と焼入れとを同時に行うプレス加工)によって、車両用衝突補強材に開放断面形状を付与する場合でも、第1折り畳み補強部の外面と腹板部の後端部の外面とがほぼ面一になっていることにより、これらの部位に対し均等且つ同時にプレス型を接触させることができ、従って、焼入れの効果を衝突補強材の全体に満遍なく及ぼすことができる(後記実施形態3参照)。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両用衝突補強材によれば、衝突荷重の入力時に断面崩れを起こしにくく、衝突時のエネルギー吸収性能に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を車両用衝突補強材の一種であるドアビームに具体化したいくつかの実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、一般にドアビームは、本体部と、その両端位置において車両のドアパネルに対し溶接されるブラケット部とを備えるが、以下ではブラケット部には言及せず、本体部に的を絞ってその構造、作用及び効果を説明する。
【0020】
[実施形態1]
図1及び図2に示すように、本実施形態のドアビームは、当該ビームの長手方向に延びる比較的長尺な本体部10を備えている。ドアビームの本体部10は、中央板部11、一対の腹板部12(「ウェブ」ともいう)及び一対のフランジ部13を具備し、その横断面形状は、中央板部11の内面側(後面側)に開口する開放断面形状をなしている。
【0021】
中央板部11は、本体部10の長手方向の全体にわたって延びており、中央板部11の外面(前面又は正面)は当該ドアビームにおける主たる衝突面を提供する。一対の腹板部12は、中央板部11の幅方向両端部にそれぞれ位置しており、中央板部11は両腹板部12の前端部12a同士を連結する。但し、中央板部11の幅方向端部11aは、後述する第1折り畳み補強部20及び第2折り畳み補強部30を介して、それに対応する腹板部の前端部12aに連結されている。
【0022】
一対のフランジ部13は、前記中央板部11と略平行な長板状をなすと共に、両腹板部12の後端部12bから外方向(中央板部11の幅方向外側)に向けて延出するように設けられている。これら一対のフランジ部13は、ドアビームの衝撃吸収性能の改善に貢献する。即ち一般に、開放断面構造のドアビームにあっては、衝突時に腹板部前端側(衝突面側、圧縮側)の応力よりも後端側(引張側)の応力の方が大きくなる傾向にあり、曲げの中立軸の位置が腹板部前端側に片寄り易いという事情がある。この点、各腹板部の後端部12bにフランジ部13を追加設定することで、衝突時における圧縮側と引張側との応力差を小さくして前記曲げの中立軸を腹板部12の高さ方向中程に設定でき、ドアビーム全体での曲げ剛性の向上を図ることが可能になる。
【0023】
図2に示すように、本実施形態のドアビームは、中央板部11の幅方向両端部11aと各腹板部12の前端部12aとの間において、これらを連結する第1折り畳み補強部20及び第2折り畳み補強部30を更に具備している。なお、本実施形態では、第1及び第2折り畳み補強部20,30は互いに連続すると共に、中央板部11及び腹板部12の双方に一体化されている。
【0024】
第1折り畳み補強部20は、二枚重ね構造の金属板部であって、中央板部の幅方向端部11aに連続する外側連結端21、腹板部の前端部12aに対し第2折り畳み部30を介して間接的に連続する内側連結端22、及び、これら外側及び内側連結端21,22からほぼ等距離に位置する折り返し端23を有している。この第1折り畳み補強部20における二枚重ね構造は、当初はストレートな単一の金属板部を、外側連結端21と内側連結端22とが外内に隣接するように折り返し端23にて折り曲げることにより形成されている。そして、各々の第1折り畳み補強部20は、それぞれに対応する腹板部の前端部12aの外面側に接触するように前記中央板部11に対して折り曲げられている。このように腹板部の前端部12aに接触配置された第1折り畳み補強部20は、両腹板部12が互いに離間する方向への開脚的変形を防止するための主たる補強手段として機能する。
【0025】
第2折り畳み補強部30は、二枚重ね構造の金属板部であって、第1折り畳み補強部20の内側連結端22に連続する外側連結端31、腹板部の前端部12aに連続する内側連結端32、及び、これら外側及び内側連結端31,32からほぼ等距離に位置する折り返し端33を有している。この第2折り畳み補強部30における二枚重ね構造は、当初はストレートな単一の金属板部を、外側連結端31と内側連結端32とが外内に(図2では上下に)隣接するように折り返し端33にて折り曲げることにより形成されている。そして、二つの第2折り畳み補強部30は、中央板部11の内面側に接触するように、それぞれ対応する第1折り畳み部20に対して折り曲げられている。この第2折り畳み補強部30は、腹板部の前端部12aに接触配置された第1折り畳み補強部20の曲げ剛性を向上させて、第1折り畳み補強部20による腹板部12の開脚的変形防止機能を高めるための従たる補強手段として機能する。また、この第2折り畳み補強部30は、それが接触する中央板部11を補強してその剛性を高めるための中央板部補強手段としても機能する。
【0026】
なお、図1(c)及び図2に示すように、本実施形態では、一方の第2折り畳み補強部の折り返し端33と他方の第2折り畳み補強部の折り返し端33とが相互接触しており、二つの第2折り畳み補強部30によって中央板部11の内面(後面)が覆い隠されている。両折り返し端33の相互接触は、左右一対の第1及び第2折り畳み補強部20,30同士の支え合いを可能とし、ドアビーム本体部10の全体強度及び剛性を向上させる。
【0027】
次に、本実施形態のドアビームの製造手順を図3に基づいて説明する。
【0028】
先ず、正面視又は平面視が比較的長尺な長方形状で且つ板厚の均一な金属板材Mを準備する(図3(a)参照)。金属板材Mとしては例えば、ステンレス鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板などが使用可能である。そして、両板端から等距離に位置する二つの曲げ点P1において、各板端部m1を90°上向きに折り曲げて起立させる(図3(b)参照)。
【0029】
次に、金属板材Mの水平な中央部m2をほぼ四等分する等分点に対応する二つの曲げ点P2において、各曲げ点P2よりも外側のL字状部m3を下向きに折り曲げて180°反転させる(図3(c)参照)。そして、前記二つの曲げ点P1が隣り合わせに接触すると共に、前記水平な中央部m2の中心位置から下垂する二つの部位m4が背中合わせに接触する状況を作り出す。最後に、これら二つの下垂する部位m4をそれぞれ対応する前記曲げ点P1において、外方向に90°折り曲げて水平状態とする(図3(d)参照)。
【0030】
こうして、図3(d)に示すようなドアビームの前駆成形体9を得る。この前駆成形体9は、その水平な中央部m2において金属板部が三枚重ねされた構造を有している。この前駆成形体9に対し、例えばプレス加工機を用いたプレス成形を施すことにより、図1及び図2に示すようなドアビームの本体部10が得られる。なお、前駆成形体9における曲げ点P1は、ドアビーム本体部10における第2折り畳み補強部30の折り返し端33に対応し、曲げ点P2は、第1折り畳み補強部20の折り返し端23に対応する。
【0031】
本実施形態のドアビーム本体部10をドア内部に取り付けた状態での側面衝突を想定して、図4に示すような三点曲げ試験に基づく性能評価を行った。具体的には、所定間隔を隔てた二つの支脚6間に評価対象物(ドアビーム本体部10)を架け渡すと共に(図4(a)参照)、両支脚6の中間位置にてドアビーム本体部10に対し略蒲鉾型の押圧具7を用いて上から下に向かう垂直荷重を入力し、本体部10を湾曲変形させた(図4(b)及び(c)参照)。こうして計測されたドアビーム本体部10の性能特性を図11のグラフに実線(実施形態1)で示す。
【0032】
図11のグラフは、評価対象物の垂直荷重に対する反力の大きさ(「荷重」という)と、押圧点における評価対象物の変形ストローク量(「変位」という)との関係を示す。このグラフからわかるように実施形態1によれば、荷重が最大値に達した後も、変位の増大に伴う荷重の落ち込みの程度は比較的小さい。つまり、側面衝突時にドアビームの変形量が増大していった場合でも、衝突エネルギーの吸収性能が急には低下せず、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0033】
本実施形態が上述のように優れた性能特性を有する理由(効果発現のメカニズム)については、図5のように説明することができる。即ち、中央板部11の正面(外面)に荷重Fが入力されると、中央板部11が内向き(図では下向き)に凹もうとするのみならず、その両側の腹板部12が外向きに開こうとする(図5(a)参照)。しかし、各腹板部12の前端部12aの外面側には第1折り畳み補強部20が接触配置されているため、各第1折り畳み補強部20には、腹板部12の外開きに対抗する反力F2(つまり両腹板部12を内閉じさせようとする力F2)が発生する(図5(b)参照)。これらの反力F2は、腹板部12の外開きを阻止又は抑制しようとするものである。なお、荷重入力時、反力F2のおかげで腹板部の前端部12aと第1折り畳み補強部20とは相互密着状態を保持し、両者の間に乖離による隙間が生ずることはないので、反力F2による腹板部12の外開き阻止・抑制効果も十分に発揮される。
【0034】
更に、第1折り畳み補強部20と第2折り畳み補強部30とは連続的に一体化されているため、各第1折り畳み補強部20での内向き反力F2に呼応して、それに対応する各第2折り畳み補強部30には中央板部11を外向きに押す反力F3が同時発生する(図5(c)参照)。これらの反力F3は、入力荷重Fに対抗して中央板部11の陥没変形を阻止又は抑制しようとするものである。なお、荷重入力時においても、反力F3のおかげで中央板部11と各第2折り畳み補強部30とは相互密着状態を保持し、両者の間に乖離による隙間が生ずることはないので、反力F3による中央板部11の陥没変形阻止・抑制効果も十分に発揮される。
【0035】
このように本実施形態によれば、中央板部11への荷重入力時に、第1折り畳み補強部20による内向き反力F2および第2折り畳み補強部30による外向き反力F3が発生することで、腹板部12及び中央板部11の安易な変形(つまり断面崩れ)が効果的に抑制される。従って、実施形態1は、変位が増大しても衝突エネルギー吸収性能が比較的安定しているという優れた特性を有する。
【0036】
[実施形態2]
図6に示す実施形態2のドアビーム本体部40は、上記実施形態1のドアビーム本体部10と基本的構成を同じくするものの、次の点で実施形態1と異なる。即ち、一対の腹板部12は、それらの後端部12b間の間隔W2が前記中央板部11の幅W1(即ち腹板部の前端部12a間の間隔W1)よりも狭くなるように前記中央板部11に対し非直角に設けられている。つまり、各腹板部12は、中央板部11に直交する直交線に対して鋭角θだけ内側に傾斜している。これに伴い、一対の第1折り畳み補強部20も、それぞれの折り返し端23が互いに接近する方向に(内向きに)傾斜形成されることで、腹板部前端部12aの外側面への接触配置状況を維持している。
【0037】
実施形態2のドアビーム本体部40を前記三点曲げ試験に基づいて性能評価した結果を図11のグラフに実線(実施形態2)で示す。グラフから分かるように、実施形態2は実施形態1よりも優れた特性を示した。その理由として次の二つが考えられる。第1の理由としては、実施形態2では二つの腹板部12が鋭角θで内向き傾斜していることで、二つの腹板部12が外向き傾斜した実施形態1に比べて、本来的に両腹板部12が外開きしにくいことがあげられる。第2の理由としては、実施形態2では、二つの腹板部12の内向き傾斜に付随して二つの第1折り畳み補強部20も内向き傾斜していることで、荷重入力時の反力F2の向きが、実施形態1での反力F2の向き(図5(b)参照)よりも中央板部11を指向していることがあげられる。つまり図6(b)に示すように、実施形態2では反力F2が若干上向きとなるため、その分だけ、中央板部11を押し戻そうとする第2折り畳み補強部30の反力F3が強化される。以上のような複合的要因により、実施形態2は実施形態1よりも優れた特性を示したものと思われる。
【0038】
[実施形態3]
図7(a)に示す実施形態3のドアビーム本体部50は、上記実施形態1のドアビーム本体部10と基本的構成を同じくするものの、次の点で実施形態1と異なる。即ち、各腹板部12には、その前端部12aと後端部12bとの間に段差部12c(「せぎり」ともいう)が設定されている。この段差部12cは、その前端部側が相対的に内側に窪み、後端部側が相対的に外側に張り出すような段差形状をなしている。そして、段差部12cの前端部側において腹板部の前端部12aに接触配置された第1折り畳み補強部20の外面と、当該腹板部の後端部12bの外面とがほぼ面一となっている。
【0039】
実施形態3のドアビーム本体部50は、図3(d)に示す前駆成形体9に対し熱間プレス加工を施すことにより製造される。即ち、加熱炉等で前駆成形体9をその構成金属にとっての焼入れ可能温度にまで加熱する。加熱後速やかに、前駆成形体9を図7(b)に示すような成形型(55,56)にセットする。この成形型は、被加工物9を載置する天面の両側に前記段差部12cを成形するための凹み55aを有する固定型55(下型)と、その固定型55に対応する可動型56(上型)とから構成されている。図7(c)に示すように、相対的に低温度の成形型で高温状態の前駆成形体9をプレス加工することで、付形と焼入れとが同時に施された、実施形態3のドアビーム本体部50が得られる。
【0040】
実施形態3によれば、熱間プレス加工によって前駆成形体9に開放断面形状を付与する場合に、第1折り畳み補強部20の外面と腹板部後端部12bの外面とがほぼ面一になっていることで、これらの部位に対し均等且つ同時に成形型(55,56)を接触させることができる。従って、焼入れの効果をドアビーム本体部50の全体に満遍なく及ぼすことができる。
【0041】
以下に述べる比較例1及び2のドアビームは、従来技術の範疇に属するものである。
【0042】
[比較例1]
図8(a)に示す比較例1は、特別な補強構造を持たない従来の開放断面タイプのドアビームである。比較例1のドアビームに対し上記三点曲げ試験を施した結果を図11のグラフに破線で示す。比較例1では三点曲げ試験の過程で、図8(b)に示すように両腹板部12の前端部12a付近に座屈が生じたのみならず、座屈の発生は比較的荷重が低い段階から観察された。このような局所的な座屈による断面崩れはドアビーム全体への荷重分散を阻害するため、比較例1の衝突エネルギー吸収性能は、実施形態1,2及び3の各場合よりも明らかに劣る。
【0043】
[比較例2]
図9(a)及び(b)に示す比較例2は、比較例1のドアビームに対して補強部材としてのパッチ61を追加したものである。即ち、鋼板を切断加工して中央板部11と同程度に長尺としたパッチ61が中央板部11の内面に溶接62により固着されている。溶接62はアーク溶接又はスポット溶接であって、パッチ61の各長辺に沿い所定間隔を隔てた複数箇所にそれぞれ施されている。パッチ61の各長辺に沿った連続溶接(例えばレーザー溶接)を採用しなかったのは、パッチ61の全長にわたって連続溶接を施すと、熱変形による反りがドアビームに生じるからである。
【0044】
比較例2のドアビームに対し上記三点曲げ試験を施した結果を図11のグラフに一点鎖線で示す。比較例2は、パッチ61が追加されている分、比較例1の場合よりも断面崩れが抑制されており、それゆえ比較例1よりも変位増大に伴う荷重の落ち込みが少ないという良好な特性を示した。しかし、比較例2では三点曲げ試験の過程で、図9(c)及び図10に示すように、溶接箇所62以外での部材間剥離が観察された。即ち、ドアビームの湾曲変位が進むにつれて、対面接触していた中央板部11及びパッチ61のうちのパッチ61が下凸状に湾曲変形する一方、中央板部11が上凸状に湾曲変形し、両者11,61間に隙間Sが発生した。このような部分的な隙間Sの発生も断面崩れを助長する。それゆえ、比較例2の衝突エネルギー吸収性能は、実施形態1,2及び3の各場合よりも明らかに劣る。
【0045】
[まとめ]
図11のグラフに示すように、本発明の実施形態によれば、荷重入力に伴い変位が次第に増大していった場合でも、衝突エネルギーの吸収性能が急に低下することがなく、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0046】
実施形態1〜3では、それぞれの腹板部の前端部12aの外面側には第1折り畳み補強部20が接触配置され、且つ、その第1折り畳み補強部20は、外側連結端21が中央板部11の幅方向端部11aに連続した二枚重ね構造の金属板部として構成されている。このため、衝突荷重の入力時、それぞれの第1折り畳み補強部20には、両腹板部12を離間させようとする作用に対抗して両腹板部の開脚(開き)を阻止せんとする反力F2が生じ、更にはその反力F2に基づいて、中央板部11には衝突荷重と逆向きの反力F3が生じる。これらの反力F2,F3によりドアビーム本体部の断面崩れが効果的に抑制される結果、衝突時のエネルギー吸収性能が高められる。
【0047】
また、第1折り畳み補強部20に連続する第2折り畳み補強部30が二枚重ね構造の金属板部として構成されると共に、中央板部11の内面側に接触配置されているため、腹板部の前端部12aの外面側に接触配置された第1折り畳み補強部20の曲げ剛性が更に高まり、衝突荷重入力時に第1折り畳み補強部20に生ずるところの、両腹板部12の開脚(開き)を阻止せんとする反力F2が高められる。また、二枚重ね構造の金属板部としての第2折り畳み補強部30が中央板部11の内面側に接触配置されることで、中央板部11が補強され、衝突荷重に対する中央板部11の剛性が高められる。特に、第1及び第2折り畳み補強部20,30が併設されていることで、衝突荷重の入力に伴い中央板部11の湾曲変位が進行したとしても、中央板部11と第2折り畳み補強部30との接触状況が常に維持されて両者間に乖離(又は隙間)が生じないので、ドアビームの断面崩れを効果的に抑制することができる。
【0048】
[変更例]
上記実施形態1〜3において、一対の第2折り畳み補強部30の折り返し端33が相互接触した接触点に溶接を施して両折り返し端33を連結してもよい。また、上記実施形態1〜3において、一対の第2折り畳み補強部30のそれぞれの折り返し端33を接触させないように構成してもよい。更に、上記実施形態1〜3において、第2折り畳み補強部30をなくし、第1折り畳み補強部20の内側連結端22に対し腹板部12の前端部12aを直接連結するように構成してもよい。なお、上記実施形態1〜3では、本発明をドアビームに具体化したが、バンパービーム等のその他の車両用衝突補強材に本発明を具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、実施形態1の車両用衝突補強材を示し、(a)は正面図、(b)は下側又は上側の側面図、(c)はA−A線での拡大横断面図。
【図2】図2は、図1(c)の一方側半部を更に拡大した断面図。
【図3】図3(a)〜(d)は、一連の折り畳み工程を示す図。
【図4】図4(a)〜(c)は、三点曲げ試験の概要を示す図。
【図5】図5(a)〜(c)は、衝突補強材における反力の発生を説明する図。
【図6】図6は、実施形態2の車両用衝突補強材を示し、(a)は横断面図、(b)は反力の発生を説明する図。
【図7】図7は、実施形態3の車両用衝突補強材を示し、(a)は横断面図、(b)及び(c)はプレス加工工程を示す図。
【図8】図8は比較例1を示し、(a)は横断面図、(b)は三点曲げ試験時の横断面図。
【図9】図9は比較例2を示し、(a)は横断面図、(b)は背面図、(c)は三点曲げ試験時の横断面図。
【図10】図10は、比較例2の三点曲げ試験時の側面図及び一部拡大縦断面図。
【図11】図11は衝突荷重の吸収特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0050】
11…中央板部、11a…幅方向端部、12…腹板部、12a…腹板部の前端部、12b…腹板部の後端部、12c…段差部、13…フランジ部、20…第1折り畳み補強部、21…外側連結端、22…内側連結端、23…折り返し端、30…第2折り畳み補強部、31…外側連結端、32…内側連結端、33…折り返し端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる中央板部と、その中央板部の幅方向両端部にそれぞれ位置する一対の腹板部とを備えると共に、前記中央板部の内面側に開口する開放断面形状が付与された車両用衝突補強材であって、
前記中央板部の幅方向両端部と前記一対の腹板部の前端部とをそれぞれに連結する一対の第1折り畳み補強部を備えており、
前記一対の第1折り畳み補強部の各々は、前記中央板部の幅方向端部に連続する外側連結端、前記腹板部の前端部に対して直接又は間接的に連続する内側連結端、及び、これら外側及び内側連結端からほぼ等距離に位置する折り返し端を有すると共に、前記外側及び内側の両連結端が隣接するように前記折り返し端にて折り曲げ形成された二枚重ね構造の金属板部であり、
前記一対の第1折り畳み補強部は、それぞれに対応する前記腹板部の前端部の外面側に接触するように前記中央板部に対して折り曲げられている、ことを特徴とする車両用衝突補強材。
【請求項2】
前記車両用衝突補強材は更に、前記一対の第1折り畳み補強部にそれぞれ連続する一対の第2折り畳み補強部を備えており、
前記一対の第2折り畳み補強部の各々は、前記第1折り畳み補強部の内側連結端に連続する外側連結端、前記腹板部の前端部に連続する内側連結端、及び、これら外側及び内側連結端からほぼ等距離に位置する折り返し端を有すると共に、前記外側及び内側の両連結端が隣接するように前記折り返し端にて折り曲げ形成された二枚重ね構造の金属板部であり、
前記一対の第2折り畳み補強部は、前記中央板部の内面側に接触するように前記第1折り畳み補強部に対して折り曲げられている、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突補強材。
【請求項3】
前記一対の第2折り畳み補強部のそれぞれの折り返し端が相互接触していることを特徴とする請求項2に記載の車両用衝突補強材。
【請求項4】
前記車両用衝突補強材は更に、前記一対の腹板部の後端部にそれぞれ連結された一対のフランジ部を備えており、
前記一対の腹板部は、それらの後端部間の間隔(W2)が前記中央板部の幅(W1)よりも狭くなるように前記中央板部に対し非直角に設けられている、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用衝突補強材。
【請求項5】
前記一対の腹板部の各々は、その前端部と後端部との間に段差部を有しており、
この段差部は、当該腹板部の前端部に接触配置された前記第1折り畳み補強部の外面と当該腹板部の後端部の外面とがほぼ面一となるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用衝突補強材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−196488(P2009−196488A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39966(P2008−39966)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)