説明

車両用走行距離積算値記憶システム

【課題】データの改竄を効果的に防止すること。
【解決手段】車両の走行距離を取得する走行距離取得手段と、符号化された走行距離積算値に関する情報が分割記憶される複数の記憶手段と、複数の記憶手段に記憶された情報を復号して基準走行距離を算出する基準走行距離算出手段と、走行距離取得手段により取得された車両の走行距離を基準走行距離算出手段により算出された基準距離に加算して走行距離積算値を算出する走行距離積算値算出手段と、走行距離積算値算出手段により算出された走行距離積算値を符号化すると共に符号化された走行距離積算値に関する情報を分割して複数の記憶手段に分割記憶させる符号化・分割手段と、を備え、基準走行距離記憶手段は、所定のタイミングで複数の記憶手段に記憶された情報のいずれかに誤りが存在するか否かを判定し、誤りが存在すると判定された情報を訂正する車両用走行距離積算値記憶システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行距離積算値を記憶する車両用走行距離積算値記憶システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行距離積算値としては、車輪の速度に応じたパルス信号に基づき算出されたスピードメータ用の車速を積分して単位期間あたりの走行距離を求め、これを前回以前のトリップ分に加算して得られる値(積算値)が、所定の記憶装置に記憶されていた。この記憶装置は、メータ制御用のコンピュータを中心としたメータユニットに内蔵されているのが通常である。従って、故障等でメータユニットを交換した際に、車両の走行距離積算値がゼロになってしまう場合があった。また、故意にメータユニットを取り替える等して車両の走行距離積算値を改竄し、中古車として譲渡する際に条件を有利にするといった不正が可能であった。
【0003】
係る点を考慮した発明であって、車両の走行積算値を、メータ用ECU内部のEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)のみならず、メータユニットの外部に搭載された複数のEEPROMに分散して記憶させる車両用走行距離積算値記憶システムについての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところが、特許文献1に記載のシステムでは、距離が分散記憶されたEEPROM(特に、桁の大きい部分を記憶したもの)を内蔵するECUと、メータユニットをセットで交換することにより、大幅な走行距離積算値の改竄が可能である。例えば、走行距離積算値が123,456[km]であるとすると、最上位の桁“1”を記憶したものとメータユニットをセットで交換することにより、走行距離積算値を23,456[km]に改竄することができてしまう。
【0005】
一方、このような部分的なデータの誤りを発見するための手法として、リード・ソロモン符号化等の手法が知られている。この手法は、K個の伝達情報をN個(N>K)に符号化(冗長化)し、符号化されたN個の情報間の整合を判定することにより、誤った情報を発見可能とするものであり、CDやDVD、QRコードの誤り訂正に応用されている。ここで、余分に生成されたN−K個の情報は、パリティファイル、パリティシンボル等と称されている。
【0006】
これに関連し、車載装置の分野に属する発明ではないが、コンピュータネットワークにおいて使用者認証を行なう認証システムについての発明が開示されている(例えば、特許文献2参照)。このシステムでは、使用者から取得する認証情報と照合するための登録認証情報を分割し、上記のようなパリティファイルを生成して複数の記憶部に記憶させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−3921号公報
【特許文献2】特開2007−241371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に記載の装置は、車両に搭載することを前提としておらず、前述のようなデータの改竄に対抗するような構成とすることができない。また、車両に搭載することについて何ら示唆もなされていない。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、データの改竄を効果的に防止することが可能な車両用走行距離積算値記憶システムを提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、
車両の走行距離を取得する走行距離取得手段と、
符号化された走行距離積算値に関する情報が分割記憶される複数の記憶手段と、
前記複数の記憶手段に記憶された情報を復号して基準走行距離を算出する基準走行距離算出手段と、
前記走行距離取得手段により取得された車両の走行距離を、前記基準走行距離算出手段により算出された基準距離に加算して走行距離積算値を算出する走行距離積算値算出手段と、
該走行距離積算値算出手段により算出された走行距離積算値を符号化すると共に、該符号化された走行距離積算値に関する情報を分割して前記複数の記憶手段に分割記憶させる符号化・分割手段と、
を備える車両用走行距離積算値記憶システムであって、
前記基準走行距離記憶手段は、所定のタイミングで前記複数の記憶手段に記憶された情報のいずれかに誤りが存在するか否かを判定し、誤りが存在すると判定された情報を訂正することを特徴とする、
車両用走行距離積算値記憶システムである。
【0011】
ここで、「所定のタイミング」とは、例えばイグニッションオン又はオフのタイミング、車両システムへの電源投入時、電源オフ時等である。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、データの改竄を効果的に防止することができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、
車両の走行距離を取得する走行距離取得手段と、
前記走行距離取得手段により取得された走行距離の積算値が記憶される主記憶手段と、
符号化された走行距離積算値に関する情報が分割記憶される複数の補助記憶手段と、
前記複数の補助記憶手段に記憶された情報を復号して基準走行距離を算出すると共に、所定のタイミングで前記複数の記憶手段に記憶された情報のいずれかに誤りが存在するか否かを判定し、誤りが存在すると判定された情報を訂正する基準走行距離算出手段と、
前記走行距離取得手段により取得された車両の走行距離を、前記基準走行距離算出手段により算出された基準距離に加算して走行距離積算値を算出する走行距離積算値算出手段と、
該走行距離積算値算出手段により算出された走行距離積算値を符号化すると共に、該符号化された走行距離積算値に関する情報を分割して前記複数の補助記憶手段に分割記憶させる符号化・分割手段と、
を備える車両用走行距離積算値記憶システムであって、
所定のタイミングで、前記主記憶手段に記憶された走行距離の積算値が、前記複数の補助記憶手段に記憶された符号化された走行距離積算値に関する情報を復号して得られる走行距離積算値よりも小さいか否かを判定する判定手段を備え、
該判定手段により、前記主記憶手段に記憶された走行距離の積算値が、前記複数の補助記憶手段に記憶された符号化された走行距離積算値に関する情報を復号して得られる走行距離積算値よりも小さいと判定された場合には、前記複数の補助記憶手段に記憶された符号化された走行距離積算値に関する情報を復号して得られる走行距離積算値で、前記主記憶手段に記憶された走行距離の積算値を置換することを特徴とする、
車両用走行距離積算値記憶システムである。
【0014】
ここで、「所定のタイミング」とは、例えばイグニッションオン又はオフのタイミング、車両システムへの電源投入時、電源オフ時等である。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、データの改竄を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、データの改竄を効果的に防止することが可能な車両用走行距離積算値記憶システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の走行距離積算値を記憶するための構成を示した図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る車両用走行距離積算値記憶システム1のシステム構成を概念的に示した図である。
【図3】車両用走行距離積算値記憶システム1の主要な機能を示す機能ブロック図である。
【図4】第1実施例に係るメーターコンピュータ30が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】車両用走行距離積算値記憶システム2の主要な機能を示す機能ブロック図である。
【図6】第2実施例に係るメーターコンピュータ30が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】第2実施例に係る車両用走行距離積算値記憶システム2によって走行距離積算値が保存される様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施例に係る車両用走行距離積算値記憶システムについて説明する。
【0020】
<基本技術>
図1は、従来の走行距離積算値を記憶するための構成を示した図である。スキッドコントロールコンピュータ10には、各車輪に取り付けられた車輪速センサからの車輪速パルス信号が入力されている。スキッドコントロールコンピュータ10は、これらを平均する(但し、スリップ等による異常値は除く)等の処理を行って、車速信号(矩形波パルス信号)を生成する。そして、スキッドコントロールコンピュータは、車速信号をコンビネーションメータ20内のメーターコンピュータ30に出力する。
【0021】
メーターコンピュータ30は、例えばCPUを中心としてROMやRAMその他の記憶装置がバスを介して接続されたコンピュータユニットであり、波形整形回路32、カウント・積算部34、LCD駆動用ドライバー36等を有する。また、メーターコンピュータ30には、イグニッションスイッチからのイグニッション信号等が入力されている。カウント・積算部34は、波形整形回路32から入力される車速信号を積算することにより走行距離を算出し、これを不揮発性メモリーIC38に記憶された走行距離積算値に加算して上書き保存することによって、走行距離積算値を更新する。
【0022】
メーターコンピュータ30は、電源回路40からの電源供給によって作動する。LCD駆動用ドライバー36は、カウント・積算部34によって更新された走行距離積算値を、オド/トリップ切り替え・トリップメーターリセットスイッチ52の状態に応じて、オド/トリップメーター表示用LCD50に表示させる。
【0023】
<第1実施例>
図2は、本発明の第1実施例に係る車両用走行距離積算値記憶システム1のシステム構成を概念的に示した図である。図示するように、車両用走行距離積算値記憶システム1は、上記<基本技術>に記載した構成を基本構成として備えるが、車両用走行距離積算値記憶システム1におけるカウント・積算部34に相当する機能ブロックは、単に走行距離積算値をメーターコンピュータ30の内蔵記憶手段に記憶させるのではなく、ボデーECU(Electronic Control Unit)、照合ECU、A/C(エアコン)ECU、ドアECU、シートECU等、記憶装置を内蔵した他の車載制御装置とCAN(Controller Area Network)等の通信プロトコルに従った通信を行ない、その通信内容に応じて誤り訂正符号・復号処理や、データ結合・分割処理を行って走行距離積算値を導出する。
【0024】
図3は、車両用走行距離積算値記憶システム1の主要な機能を示す機能ブロック図である。本図に示す機能ブロックは、メーターコンピュータ30のCPUが、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0025】
走行距離積算値算出部34Aは、後述する復号・訂正・基準距離算出部34Eが算出した基準走行距離に、車速信号を積算する(より現実的には、パルス信号をカウントする)ことにより算出される走行距離を加算して走行距離積算値を算出する。
【0026】
走行距離積算値符号化部34Bは、走行距離積算値算出部34Aにより算出された走行距離積算値を、例えばリード・ソロモン符号(Reed Solomon Coding)等の態様で符号化(冗長化)する。リード・ソロモン符号の基本理論等については後述する。
【0027】
データ分割部34Cは、走行距離積算値符号化部34Bにより符号化された走行距離積算値を分割して、複数のデータ記憶手段70A、70B、…に記憶させる。複数のデータ記憶手段70A、70B、…は、前述のように、例えば他の車載制御装置が内蔵するEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の記憶装置である。
【0028】
データ結合部34Dは、複数のデータ記憶手段70A、70B、…に記憶された、符号化且つ分割された走行距離積算値を読み込み、これらを結合させる。
【0029】
復号・訂正・基準距離算出部34Eは、データ結合部34Dが結合させたデータを復号し、複数のデータ記憶手段70A、70B、…のいずれかに記憶されたデータに誤り(改竄)があるか否かを判定する。そして、複数のデータ記憶手段70A、70B、…のいずれかに記憶されたデータに誤り(改竄)が存在する場合には、これを訂正した上で、復号した走行距離積算値を基準走行距離として算出し、走行距離積算値算出部34Aに出力する。
【0030】
ここで、リード・ソロモン符号の生成及び誤り訂正について簡単に説明する。リード・ソロモン符号とは、線形巡回ブロック符号の一種であり、データの誤りを検出・訂正することができる。
【0031】
走行距離積算値を符号化するに当たって、走行距離積算値を示すデータは、例えば8ビット毎に区切られ、複数の情報シンボルとして取り扱われる。走行距離積算値を示すデータの情報シンボル数をK、これにパリティデータを加えた総シンボル数をNとすると、2t>N>Kが成立する。“t”は、訂正可能な最大シンボル数である。総シンボル数をNは、ユーザー又は設計者によって与えられる値であり、ROM等に予め格納されているものとする。
【0032】
走行距離積算値符号化部34Bは、生成された情報シンボルをVk-1,…,V1,V0とすると、情報多項式V(x)、生成多項式G(x)、符号多項式W(x)を次式(1)〜(3)に従って生成する。式(2)におけるbは適当な整数であり、ROM等に予め格納されているものとする。また、αは、α0=00000001、α1=00000010、α2=00000100、α254=10001110等と定義されるビット列である。
【0033】
V(x)=Vk-1・xk-1+…+V1・x1+V0・x0 …(1)
【0034】
【数1】

W(x)=x2t・V(x)+R(x) …(3)
但し、 R(x)=[x2t・V(x)]mod G(x)である。
【0035】
こうして生成されたW(x)に対応するビット列が、走行距離積算値符号化部34Bの生成する符号化された走行距離積算値に相当する。データ分割部34Cは、このビット列を、前述の区切りの基準となった8ビット毎に分割して複数のデータ記憶手段70A、70B、…に記憶させる。
【0036】
一方、データ結合部34Dは、複数のデータ記憶手段70A、70B、…に記憶されたデータを結合し、ビット列を生成する。
【0037】
復号・訂正・基準距離算出部34Eによるリード・ソロモン符号の誤り訂正は、例えばピーターソン法により行われる。
【0038】
データ結合部34Dにより復元されたビット列をY(x)とすると、Y(x)=W(x)+E(x)で表される。E(x)は、データの誤りを示している。
【0039】
復号・訂正・基準距離算出部34Eは、まず、次式(4)で表される2t個のシンドロームSiを算出する。いずれかのSiが値ゼロでなければ、Y(x)には誤りが含まれる。
【0040】
【数2】

【0041】
誤りが存在する場合、誤りを含むシンボル数を算出する。この場合、シンドロームSiから行列式を生成する。たとえば仮定した誤りの数がk個の場合は次式(5)が成立する。このような式を異なるkについて繰り返し実行することにより、誤りを含むシンボル数が算出される。
【0042】
【数3】

【0043】
誤りの数を算出すると、誤りを含むシンボルを特定する。ここでは、誤りを含むシンボル数がkであるものとして説明する。次式(6)において、xにα0〜αN-2を順次代入すると、必ずk箇所でσ(x)=0となる場所が存在する。このとき、その根の逆元が誤りのある位置である。
【0044】
【数4】

【0045】
誤りを含むシンボルを特定すると、復号・訂正・基準距離算出部34Eは、これを訂正して復号を行なう。Y(x)=W(x)+E(x)の関係から、シンドロームSiについて次式(7)が成立する。
【0046】
【数5】

【0047】
上式(7)に基づき連立一次方程式を用いて誤りの値を算出する。例えば、誤りの位置検出の結果、m1,…,mkの次数に誤りがあったとすると、次式(8)を解くことによりe1,…,ekを求め、W(x)=Y(x)+xm11+xm22+…xmkKの関係式より、誤りを訂正することができる。
【0048】
【数6】

【0049】
以下、本実施例に係るメーターコンピュータ30が走行距離積算値の算出を行なう際の動作について説明する。図4は、メーターコンピュータ30が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、例えばイグニッションスイッチからイグニッションオン信号が入力されたタイミングで開始される。
【0050】
まず、メーターコンピュータ30は、各ECUから符号化され且つ分割された走行距離積算値に関するデータを取得する(S100)。
【0051】
次に、取得したデータを結合して(S102)、上記のようなリード・ソロモン符号の原理に従ってデータの誤り訂正を実施する(S104)。そして、復号処理を行って走行距離積算値をオド/トリップメーター表示用LCD50(ODOメータ)に表示させる(S106)。
【0052】
上記走行開始時の訂正処理を行なうと、スキッドコントロールコンピュータ10から所定数(例えば10個〜100個程度)のパルスを受信するまで待機する(S108)。
【0053】
スキッドコントロールコンピュータ10から所定数のパルスを受信すると、パルス数に所定距離を乗じて走行距離を算出し、これを走行距離積算値に加算して新たな走行距離積算値とする(S110)。そして、新たに算出した走行距離積算値をオド/トリップメーター表示用LCD50(ODOメータ)に表示させる(S112)。
【0054】
続いて、算出した走行距離積算値を符号化し(S114)、これを分割して(S116)、分割したデータを各ECUに送信する(S118)。各ECUでは、これをEEPROM等の記憶手段に保存する(S118#)。
【0055】
そして、S108〜S118の処理を例えばイグニッションスイッチからイグニッションオフ信号が入力されるまでの間、繰り返し実行する(S120)。
【0056】
以上説明した本実施例の車両用走行距離積算値記憶システム1によれば、リード・ソロモン符号等の冗長化手法を用いてデータの誤りを訂正するため、データの改竄を防止することができる。また、イグニッションオン等のタイミングで強制的に誤り訂正を行なうため、走行距離積算値に関するデータの改竄を、より効果的に防止することができる。
【0057】
<第2実施例>
以下、本発明の第2実施例に係る車両用走行距離積算値記憶システム2について説明する。基本的なハードウエア構成については第1実施例と共通するため、図2を参照することとして説明を省略する。
【0058】
図5は、車両用走行距離積算値記憶システム2の主要な機能を示す機能ブロック図である。本図に示す機能ブロックは、メーターコンピュータ30のCPUが、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。本実施例に係るメーターコンピュータ30は、走行距離積算値比較部34Fを更に備える。
【0059】
第2実施例に係る走行距離積算値算出部34Aは、後述する復号・訂正・基準距離算出部34Eが算出した基準走行距離、及び不揮発性メモリーIC38に記憶された走行距離積算値の双方に、車速信号を積算する(より現実的には、パルス信号をカウントする)ことにより算出される走行距離を加算して走行距離積算値を2つ算出する。
【0060】
走行距離積算値符号化部34B、データ分割部34C、データ結合部34D、復号・訂正・基準距離算出部34Eについては、第1実施例と同様の機能を有するため、説明を省略する。
【0061】
走行距離積算値比較部34Fは、復号・訂正・基準距離算出部34Eが算出した基準走行距離に車速信号を積算することにより算出される走行距離を加算して算出される第1の走行距離積算値と、不揮発性メモリーIC38に記憶された走行距離積算値に車速信号を積算することにより算出される走行距離を加算して算出される第2の走行距離積算値とのいずれが大きいかを判定し、第1の走行距離積算値が第2の走行距離積算値よも大きい場合には、不揮発性メモリーIC38に記憶された走行距離積算値を第1の走行距離積算値で置換する。
【0062】
これによって、不揮発性メモリーIC38の内容が改竄された場合であっても、複数のECUによって保持されたデータに基づいて修正がなされるため、走行距離積算値に関するデータの改竄を効果的に防止することができる。
【0063】
なお、第2実施例の場合、法規上、長期間のデータ保存が要求されるのは不揮発性メモリーIC38のみであるため、第1実施例に比して安価にシステムを構築することができる。
【0064】
図6は、第2実施例に係るメーターコンピュータ30が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。なお、S100〜S106、及びS108〜S120の処理については第1実施例と同様であるため、説明を省略する。
【0065】
データの誤り訂正を実施、復号処理を行って走行距離積算値をオド/トリップメーター表示用LCD50(ODOメータ)に表示させると、上記第1の走行積算値が第2の走行積算値よりも大きいか否かを判定する(S107A)。第1の走行積算値が第2の走行積算値よりも大きい場合には、不揮発性メモリーIC38に記憶された走行距離積算値を第1の走行距離積算値で置換する(S107B)。
【0066】
そして、S108以降の処理を実行する。
【0067】
図7は、第2実施例に係る車両用走行距離積算値記憶システム2によって走行距離積算値が保存される様子を模式的に示す図である。本図では、走行距離積算値データが4バイトであり、1バイト毎の区切りでリード・ソロモン符号化が行われるものとしている。そして、リード・ソロモン符号化によって8バイトのパリティデータが追加された12バイトのデータが、分割された複数のECU(本図では、ボデーECU、エアコンECU、エアバッグECU)に保存される。
【0068】
こうすれば、破線内のECUにおいて。合計8バイト分のデータが残存していれば、データの欠損が4バイト以内に収まるため、元の走行距離積算値データが完全に復元される。
【0069】
なお、4バイト毎に3つのECUに分散記憶させた場合、メーターコンピュータ30及び2つ以上のECUを交換しなければ走行距離積算値の改竄は不可能であり、2バイト毎に6つのECUに分散記憶させた場合、メーターコンピュータ30及び3つ以上のECUを交換しなければ走行距離積算値の改竄は不可能であり、1バイト毎に12のECUに分散記憶させた場合、メーターコンピュータ30及び5つ以上のECUを交換しなければ走行距離積算値の改竄は不可能である。
【0070】
以上説明した本実施例の車両用走行距離積算値記憶システム1によれば、リード・ソロモン符号等の冗長化手法を用いてデータの誤りを訂正するため、データの改竄を防止することができる。また、イグニッションオン等のタイミングで強制的に誤り訂正を行なうため、走行距離積算値に関するデータの改竄を、より効果的に防止することができる。
【0071】
以上、発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0072】
例えば、誤り訂正処理を行なうタイミングは、イグニッションオンのタイミングに限らず、イグニッションオフのタイミング、車両システムへの電源投入時、電源オフ時等に誤り訂正処理を行なってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1、2 車両用走行距離積算値記憶システム
10 スキッドコントロールコンピュータ
20 コンビネーションメータ
30 メーターコンピュータ
32 波形整形回路
34 カウント・積算部
34A 走行距離積算値算出部
34B 走行距離積算値符号化部
34C データ分割部
34D データ結合部
34E 復号・訂正・基準距離算出部
34F 走行距離積算値比較部
36 LCD駆動用ドライバー
38 不揮発性メモリーIC
40 電源回路
50 オド/トリップメーター表示用LCD
52 オド/トリップ切り替え・トリップメーターリセットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行距離を取得する走行距離取得手段と、
符号化された走行距離積算値に関する情報が分割記憶される複数の記憶手段と、
前記複数の記憶手段に記憶された情報を復号して基準走行距離を算出する基準走行距離算出手段と、
前記走行距離取得手段により取得された車両の走行距離を、前記基準走行距離算出手段により算出された基準距離に加算して走行距離積算値を算出する走行距離積算値算出手段と、
該走行距離積算値算出手段により算出された走行距離積算値を符号化すると共に、該符号化された走行距離積算値に関する情報を分割して前記複数の記憶手段に分割記憶させる符号化・分割手段と、
を備える車両用走行距離積算値記憶システムであって、
前記基準走行距離記憶手段は、所定のタイミングで前記複数の記憶手段に記憶された情報のいずれかに誤りが存在するか否かを判定し、誤りが存在すると判定された情報を訂正することを特徴とする、
車両用走行距離積算値記憶システム。
【請求項2】
車両の走行距離を取得する走行距離取得手段と、
前記走行距離取得手段により取得された走行距離の積算値が記憶される主記憶手段と、
符号化された走行距離積算値に関する情報が分割記憶される複数の補助記憶手段と、
前記複数の補助記憶手段に記憶された情報を復号して基準走行距離を算出すると共に、所定のタイミングで前記複数の記憶手段に記憶された情報のいずれかに誤りが存在するか否かを判定し、誤りが存在すると判定された情報を訂正する基準走行距離算出手段と、
前記走行距離取得手段により取得された車両の走行距離を、前記基準走行距離算出手段により算出された基準距離に加算して走行距離積算値を算出する走行距離積算値算出手段と、
該走行距離積算値算出手段により算出された走行距離積算値を符号化すると共に、該符号化された走行距離積算値に関する情報を分割して前記複数の補助記憶手段に分割記憶させる符号化・分割手段と、
を備える車両用走行距離積算値記憶システムであって、
所定のタイミングで、前記主記憶手段に記憶された走行距離の積算値が、前記複数の補助記憶手段に記憶された符号化された走行距離積算値に関する情報を復号して得られる走行距離積算値よりも小さいか否かを判定する判定手段を備え、
該判定手段により、前記主記憶手段に記憶された走行距離の積算値が、前記複数の補助記憶手段に記憶された符号化された走行距離積算値に関する情報を復号して得られる走行距離積算値よりも小さいと判定された場合には、前記複数の補助記憶手段に記憶された符号化された走行距離積算値に関する情報を復号して得られる走行距離積算値で、前記主記憶手段に記憶された走行距離の積算値を置換することを特徴とする、
車両用走行距離積算値記憶システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80892(P2011−80892A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234136(P2009−234136)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】