説明

車両用駆動源評価装置およびその制御方法

【課題】駆動源の駆動力を伝達して回転させる2つのダイナモが所望の回転動作となるように制御することができる車両用駆動源評価装置の制御方法を提供すること。
【解決手段】評価対象である車両用駆動源が発生する駆動力を伝達して2つの出力軸に分配するパワートレインおよび差動装置と、その出力軸のそれぞれに配置されて走行抵抗負荷として機能する2つのダイナモM1、M2と、を備えるパワートレインベンチダイナモシステムの制御方法であって、車両用駆動源により出力軸を介して回転動作するダイナモが評価条件になるように当該ダイナモを走行抵抗トルク制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動源評価装置およびその制御方法に関し、詳しくは、それぞれダイナモが設けられている2軸に駆動力を伝達分配して評価するものに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行性能を評価試験する場合には、各種ベンチテストを行うことが知られており、例えば、エンジンと電動モータを駆動源とする車両の走行試験をする場合には、電動モータのみでの走行モードや、エンジンと電動モータを併用しての走行モードや、電動モータを発電機として利用する回生制動モードなどの各種モードでの評価試験が行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、車両の駆動源に対する評価試験としては、試験対象の駆動源の駆動力をパワートレインで伝達して差動装置により2軸(出力軸)に分配し、その2軸のそれぞれに配置されているダイモナを回転動作(駆動力の出力・吸収)させる、所謂、パワートレインベンチダイナモシステムも利用されている。
【0004】
このパワートレインベンチダイナモシステムは、従来、駆動源の駆動要求に対して、一方のダイナモは走行抵抗トルク制御により回転動作させ、他方のダイナモはその一方のダイナモの軸回転に追従するように回転数制御により回転動作させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−33516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来のパワートレインベンチダイナモシステムにあっては、一方のダイナモの回転数に一致するように他方のダイナモのトルク変更をする追従制御のため、これらダイナモ間には回転差が一時的に生じる。このため、安定した定常運転や応答性の遅い運転の場合には、制御性能を十分に確保して評価試験を行うことができるが、応答性の速い運転や過渡運転をして評価試験をする場合には、その回転差が大きくなって、差回転エラーとなってしまったり、その差回転により2軸に均等に負荷が掛からない状態になってそのトルク差により損傷等してしまう可能性がある。
【0007】
なお、上記特許文献1に記載の試験装置では、各種モード運転を可能とするシステムであるためトルクの大きな変動や過渡応答に対して追従性がなく十分な評価試験を行うことはできない。
【0008】
そこで、本発明は、駆動源の駆動力を伝達して回転させる2つのダイナモが所望の回転動作となるように制御することができる車両用駆動源評価装置やその制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する車両用駆動源評価装置の制御方法に係る発明の第1の態様は、評価対象である車両用駆動源が発生する駆動力を伝達して2つの第1、第2出力軸に分配する動力伝達差動装置と、前記第1、第2出力軸のそれぞれに配置されて走行抵抗負荷として機能する2つの第1、第2ダイナモと、を備える車両用駆動源評価装置の制御方法であって、前記車両用駆動源により前記第1、第2出力軸を介して回転動作する前記第1、第2ダイナモが評価条件になるように、当該第1、第2ダイナモを走行抵抗トルク制御することを特徴としている。
【0010】
上記課題を解決する車両用駆動源評価装置の制御方法に係る発明の第2の態様は、上記第1の態様の特定事項に加え、前記第1、第2ダイナモを少ない回転差で機能させるとき、当該第1、第2ダイナモの回転差を検出して、該回転差に基づいて該第1、第2ダイナモの回転駆動をフィードバック制御することを特徴としている。
【0011】
上記課題を解決する車両用駆動源評価装置に係る発明の第1の態様は、評価対象である車両用駆動源が発生する駆動力を伝達して2つの第1、第2出力軸に分配する動力伝達差動装置と、前記第1、第2出力軸のそれぞれに配置されて走行抵抗負荷として機能する2つの第1、第2ダイナモと、を備える車両用駆動源評価装置であって、前記駆動源の入力トルクを検知するトルク検知部と、該トルク検知部が検知する前記入力トルクに基づいて前記第1、第2ダイナモを評価条件になるように走行抵抗トルク制御するトルク制御部と、を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明の一態様によれば、車両用駆動源により第1、第2出力軸を介して回転動作する第1、第2ダイナモが評価条件になるように走行抵抗トルク制御されるので、第1、第2ダイナモをそれぞれ同じタイミングで同様に調整制御することができ、評価試験精度を向上させることができる。したがって、例えば、第1、第2ダイナモを応答性の速い運転や過渡運転でも回転差を少なく回転動作させることができ、差回転エラーや損傷等を発生させることなく、評価試験を精度よく遂行することができる。
【0013】
このとき、第1、第2ダイナモを少ない回転差で回転動作させて評価試験を行う場合には、その回転差を検出してフィードバック制御することにより、速やかに差回転なく第1、第2ダイナモを回転動作させることができる。したがって、評価試験精度を向上させつつ、差回転エラーや損傷等を発生させることなく、より高精度に評価試験を遂行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用駆動源評価装置の概略構成を示す配置図である。
【図2】その概略構成を示すブロック図である。
【図3】その制御方法を説明するフローチャートである。
【図4】その効果を説明する図であり、(a)は本実施形態による評価試験時のダイナモの回転特性を示すグラフ、(b)はその関連技術による評価試験時のダイナモの回転特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1〜図4は本発明の一実施形態に係る車両用駆動源評価装置およびその制御方法を示す図である。
【0016】
図1において、パワートレインベンチダイナモシステム(車両用駆動源評価装置)10は、評価対象の駆動源22(図2に図示)が発生する駆動力を伝達するパワートレイン11と、このパワートレイン11から駆動源22の駆動力を受け取って連結部12aを介して2軸に分配する差動装置12と、この差動装置12の連結部12aに駆動力の分配対象の2軸として連結されて軸心の延長方向を一致させた状態のまま回転駆動される第1、第2出力軸15、16と、この出力軸15、16の端部に回転軸を一体回転されるように連結されている第1、第2ダイナモ(発電機)17、18と、を備えて構築されており、ダイナモ17、18(M1、M2)は、回転軸の回転数を検出するエンコーダ(回転検出部)17r、18rがそれぞれ設置されている。すなわち、パワートレイン11と差動装置12とで動力伝達差動装置が構成されている。なお、パワートレイン11はエンジン等と一体でもよいし、別体に設置されて駆動力を伝達する伝達機構として構築されていてもよい。
【0017】
このパワートレインベンチダイナモシステム10は、図2に示すように、コントローラ21が各部を統括制御して駆動源22の評価試験を行うようになっており、コントローラ21は、各種設定条件や試験状況などを液晶パネルなどの表示部25に表示出力するとともに、その各種設定条件などはキーボードなどの入力部26から入力設定するようになっている。
【0018】
コントローラ21は、予めメモリ内に格納されている制御プログラムに従って入力部26から入力されたパラメータなどの各種設定条件に基づいて車両用駆動源22の評価試験を実行するようになっており、駆動源22を接続して駆動力の出力制御をするとともに、ダイナモ17、18を接続して走行抵抗負荷として機能するように回転制御するようになっている。このコントローラ21は、ダイナモ17、18に対してはパワートレイン11を介して入力される駆動源22の駆動力である入力トルクを検知して走行負荷トルク制御することにより、例えば、同一の回転速度(回転数)の評価条件で回転動作させるようになっており、さらに、ダイナモ17、18毎に設置されているエンコーダ17r、18rから検出情報を受け取って、そのダイナモ17、18の回転動作がより高精度に所望の評価条件になるように調整制御するようになっている。すなわち、コントローラ21がトルク検知部、トルク制御部および回転制御部を構成している。
【0019】
詳細には、コントローラ21は、図3のフローチャートに示すように、上記制御プログラムに従う制御処理手順(方法)を実行して、パワートレイン11に接続されている駆動源22の評価試験を行う。
【0020】
まずは、電源投入して駆動源22の回転駆動を開始させるとともに、パワートレイン11を介して入力される駆動力である入力トルクの検知を開始する(ステップS101)。この入力トルクは、駆動源22などのパワートレイン11側で実測あるいはその駆動源22への電力供給に基づいて算出して検知するようにすればよい。
【0021】
次いで、検知した入力トルクに対するダイナモ17、18の走行負荷トルク制御を双方同時に行うとともに(ステップS102)、そのダイナモ17、18の回転数をそれぞれのエンコーダ17r、18rによる検出値に基づいて監視して(ステップS103)、ダイナモ17、18の回転数に差が生じる差回転の程度に応じて回転数を一致させるフィードバック制御をそのダイナモ17、18に対して実施し(ステップS104)、この処理を繰り返す。
【0022】
これにより、パワートレインベンチダイナモシステム10は、駆動源22の回転制御(入力トルクの変化)に高精度に追従するようにダイナモ17、18を回転動作させることができる。
【0023】
例えば、図4(b)に示すように、一方のダイナモ17を走行抵抗トルク制御させつつ、他方のダイナモ18をその一方のダイナモ17の回転数に一致させるように追従制御する場合には、入力トルクのトルク変動Fに対してダイナモ17、18に大きな回転差D1が生じていた。
【0024】
これに対して、このパワートレインベンチダイナモシステム10では、図4(a)に示すように、入力トルクのトルク変動Fに対してダイナモ17、18をそれぞれ走行抵抗トルク制御することにより小さな回転差D2で回転動作させることができるとともに、その回転差D2に対してもフィードバック制御してより小さな回転差で回転動作させて、駆動源22の評価試験を高精度に実施することができる。
【0025】
このように本実施形態においては、駆動源22の入力トルク(回転駆動力)により出力軸15、16を介して回転動作するダイナモ17、18は、例えば、同一回転数で回転動作する評価条件になるように同じタイミングで走行抵抗トルク制御することができ、ダイナモ17、18を精度よく同一回転させて、評価対象の駆動源22の評価試験を高精度に行うことができる。したがって、駆動源22が応答性の速い運転や過渡運転する場合でも、回転差を少なくダイナモ17、18を回転動作させることができる。
【0026】
また、このダイナモ17、18は、その回転差を検出してフィードバック制御しつつ回転動作させているので、速やかに回転差が小さくなるように調整制御することができ、差回転のない駆動源22の評価試験を行うことができる。
【0027】
この結果、パワートレインベンチダイナモシステム10は、差回転エラーや損傷等を発生させることなく、駆動源22の評価試験を精度よく遂行することができる、所謂、ダイナモベンチとして利用することができる。
【0028】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、各請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0030】
10 パワートレインベンチダイナモシステム
11 パワートレイン
12 差動装置
15、16 出力軸
17、18 ダイナモ
17r、18r エンコーダ
21 コントローラ
22 駆動源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象である車両用駆動源が発生する駆動力を伝達して2つの第1、第2出力軸に分配する動力伝達差動装置と、前記第1、第2出力軸のそれぞれに配置されて走行抵抗負荷として機能する2つの第1、第2ダイナモと、を備える車両用駆動源評価装置の制御方法であって、
前記車両用駆動源により前記第1、第2出力軸を介して回転動作する前記第1、第2ダイナモが評価条件になるように、当該第1、第2ダイナモを走行抵抗トルク制御することを特徴とする車両用駆動源評価装置の制御方法。
【請求項2】
前記第1、第2ダイナモを少ない回転差で機能させるとき、当該第1、第2ダイナモの回転差を検出して、該回転差に基づいて該第1、第2ダイナモの回転駆動をフィードバック制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動源評価装置の制御方法。
【請求項3】
評価対象である車両用駆動源が発生する駆動力を伝達して2つの第1、第2出力軸に分配する動力伝達差動装置と、前記第1、第2出力軸のそれぞれに配置されて走行抵抗負荷として機能する2つの第1、第2ダイナモと、を備える車両用駆動源評価装置であって、
前記駆動源の入力トルクを検知するトルク検知部と、該トルク検知部が検知する前記入力トルクに基づいて前記第1、第2ダイナモを評価条件になるように走行抵抗トルク制御するトルク制御部と、を備えることを特徴とする車両用駆動源評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−50327(P2013−50327A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187239(P2011−187239)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)