説明

車両用HID前照灯装置

【課題】HIDランプを後付け式に車両の前照灯とする場合に、低コストで容易に設置できるようにする。
【解決手段】HIDバルブ11、インバータ3、イグナイタ2及び複数の接続用配線を備え、車両に既設の前照灯装置の代わりに後付け式に設けられ、車両側から電力を供給されて点灯する車両用HID前照灯装置1Aにおいて、インバータ3及びイグナイタ2を載せて車両側に取り付けるための1枚の鋼板から形成されたブラケット5Aを備えており、このブラケット5Aは、上面が載置面になる平板状の支持体50と、支持体50端縁側から延設され先端側が所定の固定手段で車両側に固定されて支持体50と車両側の取付け面との間に隙間を形成させる脚体51,52とからなり、インバータ3及びイグナイタ2を載置面上に纏めて取付け面から持ち上げた状態で支持することを特徴とするものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用HID前照灯装置に関し、殊に、車両既設のランプに代えてHIDランプを後付け式に設けるための車両用HID前照灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハロゲンランプの代わりに高輝度放電灯(High Intensity Discharge lamp、以下「HIDランプ」という)を前照灯として搭載した車両が増加している。このHIDランプは、光束が大きく大規模空間の照明に適しているとともにハロゲンランプと比べて消費電力が少なく寿命も長いことから、車両用前照灯として好適である。
【0003】
また、HIDランプはハロゲンランプとは異なり、金属原子高圧蒸気中でアーク放電により発光する方式であることから、これを車両用として用いる場合には、図5に示すようにHIDバルブ11を備えたバーナーASSY10、イグナイタ2、インバータ3、及びこれらの接続のための配線類を備えた車両用HID前照灯装置1Cとして搭載される。
【0004】
そのため、インバータやイグナイタを要しない簡易な構成のハロゲンランプと比べて、その設置においてスペースを余分に要することになり、ランプハウジング付近に設置スペースの余裕が小さい車両においては、搭載作業に手間と時間を要することになる。また、その構成部品や配線の収まりが悪く車両側の部品やボディと干渉するような設置状況になると、振動による当たりや摩耗で装置の故障を招きやすくなるという問題もある。
【0005】
そこで、特開2002−367414号公報に記載されているように、反射板を内装したランプハウジングの開口部を塞ぐメンテナンスキャップ内にインバータ部を設けるとともに、HIDランプのソケットにイクナイタを付設することにより装置全体をコンパクト化して、設置スペースが狭い場合でも比較的容易に搭載可能とした車両用のHID前照灯装置が知られている。
【0006】
しかし、このように前照灯装置の構成部品をコンパクト化する技術は、車両の設計段階から適用する場合は問題ないものの、例えば特開2003―72457号公報に記載されているように、車両に既設のハロゲンランプの代わりにHIDランプを後付け式に設けるケースでは、ランプハウジングごと交換する必要があることに加え、複数の車種に対応する汎用性に欠けることになり、最終的にコスト高となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−367414号公報
【特許文献2】特開2003―72457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、HIDランプを後付け式に車両の前照灯とする場合に、低コストで容易に設置できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、HIDバルブ、インバータ、イグナイタ及び複数の接続用配線を備えて車両に既設の前照灯装置の代わりに後付け式に設けられ、車両側から電力を供給されて点灯する車両用HID前照灯装置において、インバータ及びイグナイタを載せて車両側に取り付けるための1枚の鋼板から形成されたブラケットを備えており、このブラケットは、上面が載置面になる平板状の支持体と、この支持体の端縁側から延設され先端側が所定の固定手段で車両側に固定されて支持体と車両側の取付け面との間に隙間を形成させる少なくとも1以上の脚体とからなり、インバータ及びイグナイタを載置面上に纏めて取付け面から持ち上げた状態で支持する、ことを特徴とするものとした。
【0010】
このように、HIDバルブの点灯に必要なインバータとイグナイタを1枚のブラケットの上に纏めながら車両側の取付け面から持ち上げた状態で支持する構成としたことにより、取付け面が平坦ではない場合や充分な取付け面積がない場合でも、車両側の部品やボディに干渉することなくインバータ及びイグナイタをコンパクトな状態で安定的に取付けやすいものとなり、且つ、ブラケットに予めインバータとイグナイタを纏めて固定しておくことにより、その取付け作業が容易なものとなる。
【0011】
また、この車両用HID前照灯装置において、そのブラケットの脚体は、支持体の端縁側から載置面に対し所定角度傾斜して下向きに延設された傾斜部と、車両側に略密着して固定される固定部からなるものとすれば、固定部を車両側の取付け面に固定するだけで支持体が取付け面から持ち上がった状態に支持されるものとなる。
【0012】
この場合、その脚体の固定部には、固定用のネジを挿通するための少なくとも1以上の貫通孔が設けられており、その貫通孔には所定方向に内径が延長されて楕円形又は角丸長方形とされたものを少なくとも含むものとすれば、車両側のネジ孔位置の変動に対し内径が延長された分だけ対応可能なものとなるため、一層汎用性に優れたものとなる。
【0013】
さらに、上述した車両用HID前照灯装置において、そのブラケットの支持体には、インバータ及びイグナイタを所定の固定手段を用いて所定位置に固定するための複数の貫通孔が設けられたことを特徴としたものとすれば、インバータ及びイグナイタを簡易な手順で正確な位置に安定的に固定できるものとなる。
【発明の効果】
【0014】
インバータ及びイグナイタを1枚のブラケット上に纏めて車両側の取付け面から持ち上げた状態で固定する構成とした本発明によると、HIDランプを後付け式に車両の前照灯とする場合に、低コストで容易に設置できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における実施の形態である車両用HID前照灯装置のブラケットを、車両のウオッシャータンク上に取り付ける場合の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の車両用HID前照灯装置のブラケットの詳細を示す斜視図である。
【図3】図1の実施の形態の応用例としての車両用HID前照灯装置のブラケットを、車両のランプハウジング付近のボディに取り付ける場合の一例を示す斜視図である。
【図4】図3の車両用HID前照灯装置のブラケットの詳細を示す斜視図である。
【図5】従来例の車両用HID前照灯装置の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態の車両用HID前照灯装置1Aの構成部品であるイグナイタ2及びインバータ3を、エンジンルームのウオッシャータンク100の上面側に固定することにより、HIDランプを車両の前照灯として後付け式に設ける場合の一例を示している。
【0018】
この車両用HID前照灯装置1Aの構成部品は、図5に示した車両用HID前照灯装置1Cと基本的に共通している。即ち、図示しないランプハウジングの開口部に固定するための構造を基端側に有したHIDバルブ11及び先端側に図示しないコネクタを有した配線13,14からなるバーナーASSY10、DC/AC変換器と安定器を兼ねたインバータ3、先端側の図示しないコネクタで配線13,14に接続するための配線22,23及びインバータ3に接続するための配線21を有して高圧パルスを発生するイグナイタ2、車両側の電源コネクタ70とインバータ3を接続するための電源ハーネス4を備えたものであり、以上の構成は従来例にも共通した周知のものである。
【0019】
しかし、従来例においては、イグナイタ2及びインバータ3を別個に車両側に固定していたために、取付け作業に煩雑な手順と時間を要していたことに加え、配線を含む各部品の収まりが悪いことから、車両側の部品やボディとの間で干渉を起こして、装置の不具合を招きやすくなるという問題があった。
【0020】
そこで本発明において、車両用HID前照灯装置1Aを構成するイグナイタ2及びインバータ3を、1枚の鋼板から形成したブラケット5A上の1箇所に纏め、車両側の取付け面から所定間隔を有するように持ち上げて支持し、ネジ等の固定手段で固定して車両に取り付ける構成とし、取付け後の収まり状態を良好にしながら各部品に対する干渉の問題を回避可能としたものであり、この点が本発明における最大の特徴部分となっている。
【0021】
そのブラケット5Aは図2の詳細図に示すように、上面が載置面となる略長方形で平板状の部分である支持体50の2つの長辺端縁側から対角方向に脚体51,52が各々延設されてなるものであるが、本実施の形態においては、ウオッシャータンク100上面側に取り付ける関係で、垂直方向の空間に余裕は少ないものの水平方向の空間には比較的余裕があるため、支持体50の載置面から傾斜して下向きに延びた脚体51,52の傾斜部51a,52aの傾斜角度が緩やかに設定してあり、全体的に平面的な形状とされている。
【0022】
そして、脚体51,52の先端側はネジ留め用の貫通孔51c,52cが各々穿設された固定部51b,52bとされ、この固定部51b,52bをウオッシャータンク100上面に既設の固定金具101,102に上から密着して載せた状態とし、ネジ60,60で貫通孔51c,52c挿通・螺着して各々固定することにより、ブラケット5A上の1箇所にイグナイタ2及びインバータ3を纏めながら車両側の取付け面から所定高さで持ち上げた状態で支持するように取り付けられる。
【0023】
一方、バーナーASSY10は、図示しない車両側のランプハウジングの開口部に、HIDバルブ11基端側に設けたルアーロック等の係止構造で比較的容易に固定される。このように、本実施の形態の車両用HID前照灯装置1Aを構成する各部品は、簡易な手順で収まりよく安定的に車両側に取り付けられるようになっている。
【0024】
尚、ウオッシャータンク100上面が上向きに突出し湾曲している場合など、車両側の取付け面が支持体50の下面に近接した状態となって振動により干渉が生じる可能性のある場合には、支持体50の下面にクッションシール等の緩衝材を貼付しておくことにより、干渉による不具合の発生を回避しやすいものとなる。
【0025】
図2のブラケット5Aの詳細図を参照して、上面が載置面となる支持体50には、インバータ3をネジ留め等で固定するための貫通孔53a,53b,53c,53dが穿設されているとともに、イグナイタ2をタイラップ等で固定するための貫通孔54a,54bが穿設されており、簡易な手順でこれらの部品がブラケット5A上の正しい位置にしっかりと固定されるようになっている。
【0026】
また、脚体51,52の固定部51b,52bには、上述したように車両側にネジ留めするための貫通孔51c,52cが穿設されているが、この貫通孔51c,52cは、所定の方向に内径が延長されて角丸長方形とされているとともに、その延長方向が互いに直交するように配置されている。
【0027】
ネジ留め用の貫通孔51c,52cをこのような構成としたことで、異なる車種の場合や同一車種でも寸法のバラツキのある場合など、ウオッシャータンク100上の固定金具101,102の位置が変動したり、車両側の他の部品が干渉する位置関係になったりするケースにおいて、貫通孔51c,52cの内径が延長されている分だけ固定位置をずらすことができるため、比較的容易に対応して固定できるものとなる。
【0028】
図3は、図1に示した車両用HID前照灯装置1Aの応用例としての車両用HID前照灯装置1Bを示すものであり、ランプハウジング付近のボディ200にブラケット5Bを直接固定することにより、後付け式にHIDランプを車両に設ける場合の一例を示すものである。
【0029】
この車両用HID前照灯装置1Bの構成は、前述した車両用HID前照灯装置1Aと殆ど共通しているが、イグナイタ2及びインバータ3を載せて車両側に固定するためのブラケット5Bの形状が異なっている。これは、ブラケットの取付け位置が、前述のウオッシャータンク100上面側のようにボンネットを開けることで総て露出するようなケースと異なり、車両の下方からランプハウジング付近のボディ200に取り付けるものであるため、取付け位置の形状・向き・空間形状が大きく異なることによる。
【0030】
即ち、このケースではボディ200の取付け面が立ち上がっているとともに平坦ではなく、また近くに干渉する部品が多く配設されており、取付け用の空間が極めて限定されている。そのため、イグナイタ2及びインバータ3を載せた状態で支持するブラケット5Bもこれに対応した形状となっており、前述のブラケット5Aと比べて支持体55の載置面が狭くなっているとともに、その脚体56が支持体55の一方の長辺から延設された1つのみとなっている。
【0031】
この脚体56は、図4のブラケット5Bの詳細図に示すように、その傾斜部56aの載置面に対する傾斜角度が直角に近く、固定部56bからの支持体55の持ち上げ量が大きくなっており、且つ、固定部56bの面(=取付け面)に対し載置面の先端側を持ち上げるように支持体55が傾斜している。
【0032】
また、このブラケット5Bには、前述のブラケット5Aと同様に支持体55にインバータ3をネジ留め等で固定するための貫通孔57a,57b,57c,57dが穿設されているとともに、インバータ2をタイラップ等で固定するための貫通孔58a,58bが穿設されており、固定部56にはボディ側にネジ留めするための貫通孔56c,56dが穿設されており、一方の貫通孔56dの形状が角丸長方形とされている。
【0033】
そして、支持体55の載置面上にイグナイタ2及びインバータ3を固定した状態として、固定部56bの貫通孔56c,56dにネジ60,60を挿通しボディ200の取付け面に設けた図示しないネジ孔に螺着してブラケット5Bを固定することにより、その載置面がブラケット5Aの場合と比べて大きな持ち上げ幅で片持ち式に傾斜しながら他の部品やボディとの接触を避ける角度となる。そのため、イグナイタ3及びインバータ3を載せた支持体55は、極めて限定された取付け空間であっても、車両側の他の部品やボディに干渉しない状態でしっかりと支持される。
【0034】
加えて、このような取付け位置の場合には、車両のフロントバンパー下方から手を入れて前照灯装置の各部品を取り付けるのが通常であるところ、このように、ブラケット5Bにイグナイタ2及びインバータ3を予め纏めて固定した状態としておくことにより、その取付け作業の手間及び時間が大幅に軽減されるものとなる。
【0035】
したがって、上述したように車両取付け位置の形状・空間の状態に応じて、図2のブラケット5Aや図4のブラケット5Bのように形状の異なるものを適用したり、左右の前照灯ごとに異なる形状のブラケットを組み合わせたりすることにより、様々な車種に比較的容易に対応できるものとなる。また、本発明は、その構成部品として従来の車両用HID前照灯装置に1枚の鋼板からなるブラケットを追加しただけのものであるため、比較的低コストで上述した効果を発揮することを可能としている。
【0036】
以上、述べたように、車両に既設のランプから後付け式にHIDランプに交換する場合に、本発明によりコストの高騰を伴うことなく簡易な手順で容易に設置できるようになった。
【符号の説明】
【0037】
1A,1B 車両用HID前照灯装置、2 イグナイタ、3 インバータ、4 電源用ハーネス、5A,5B ブラケット、10 バーナーASSY、11 HIDバルブ、13,14,21,22,23 配線、50,55 支持体、51,52,56 脚体、51a,52a,56a 傾斜部、51b,52b,56b 固定部、51c,52c,53a,53b,53c,53d,54a,54b,56c,56d,57a,57b,57c,57d,58a,58b 貫通孔、60 ネジ、100 ウオッシャータンク、200 ボディ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIDバルブ、インバータ、イグナイタ及び複数の接続用配線を備え、車両に既設の前照灯装置の代わりに後付け式に設けられ、前記車両側から電力を供給されて点灯する車両用HID前照灯装置において、
前記インバータ及び前記イグナイタを載せて前記車両側に取り付けるための1枚の鋼板から形成されたブラケットを備えており、該ブラケットは、上面が載置面になる平板状の支持体と、該支持体の端縁側から延設され先端側が所定の固定手段で前記車両側に固定されて前記支持体と前記車両側の取付け面との間に隙間を形成させる少なくとも1以上の脚体とからなり、前記インバータ及び前記イグナイタを前記載置面上に纏めて前記取付け面から持ち上げた状態で支持する、ことを特徴とした車両用HID前照灯装置。
【請求項2】
前記ブラケットの脚体は、前記支持体の端縁側から前記載置面に対し所定角度傾斜して下向きに延設された傾斜部と、前記車両側に略密着して固定される固定部からなる、ことを特徴とする請求項1に記載した車両用HID前照灯装置。
【請求項3】
前記脚体の固定部には、固定用のネジを挿通するための少なくとも1以上の貫通孔が設けられており、該貫通孔には所定方向に内径が延長されて楕円形又は角丸長方形とされたものが少なくとも含まれている、ことを特徴とする請求項2に記載した車両用HID前照灯装置。
【請求項4】
前記ブラケットの支持体には、前記インバータ及び前記イグナイタを所定の固定手段を用いて所定位置に固定するための複数の貫通孔が設けられている、ことを特徴とする請求項1,2または3に記載した車両用HID前照灯装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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