説明

車両評価システム

【課題】ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動が発生したときの車両の運転状態を評価する車両評価システムを提供する。
【解決手段】シミュレータ20には、複数のシミュレータ22からなるHILSが使用されており、フレームカー50には実際のECU、アクチュエータ等が搭載されている。シミュレータ20に設定されている人間モデル40は、シミュレータ20が実現する車両モデルとフレームカー50とで構成される仮想車両4の車両挙動に対して、ドライバが恐いと感じるか否か、恐いと感じる場合には恐さの程度を出力するモデルである。オペレーションPC10から設定された試験条件に基づいてシミュレータ20およびフレームカー50が仮想車両4として作動し、そのときの車両挙動に対して人間モデル40が恐いと出力すると、シミュレータ20は、そのときの恐さのレベルと、仮想車両4の運転データとを記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される複数の電子装置の作動を評価する車両評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を開発する場合に、エンジンとともに、車両に搭載する電子装置として、例えば、アクチュエータ等の制御対象の挙動を制御する電子制御装置(Electronic Control Unit:ECU)や、ECUの機能を組み込んだアクチュエータの作動を評価する必要がある。しかし、複数の電子装置を評価するために試作車両に電子装置を搭載して評価する方式では、試作車両が完成するまで電子装置の評価試験を実行できないという問題がある。
【0003】
さらに、試作車両で電子装置の評価試験を実行する場合に、気温、バッテリ残量、フェイル時等の多岐にわたる条件のもとで評価試験を実行するためには、多大な工数を要する点や安全面で困難な評価が多数あるという問題があった。
【0004】
そこで、評価対象である電子装置の制御対象や作動環境をHILS(Hardware In The Loop Simulation)等のシミュレータを用いてシミュレートすることにより、電子装置の作動を評価することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このように、シミュレータを用いて電子装置の評価を行うことにより、試作車両が完成する前の段階で早期に電子装置の評価試験を実行できるとともに、シミュレータ上で評価試験の試験条件を種々に設定できるので、評価試験の工数を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−288245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているシミュレータを用いた従来の車両評価システムでは、評価試験の試験条件に対して電子装置が正常に作動しているか否かを評価することを目的としており、異常な車両挙動が発生したときの車両の運転状態を評価することは考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動が発生したときの車両の運転状態を評価する車両評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、シミュレータを用いた車両評価システムにおいて、評価試験の試験条件に対して電子装置が正常に作動しているか否かを評価するだけでなく、ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動が発生したときの車両の運転状態を評価する必要があることに思い至った。ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動とは、例えば、ドライバの操作に反して発生する予期せぬ車両挙動である。
【0010】
そこで、請求項1から5記載の発明によると、車両に搭載される複数の電子装置を有する実機部に応じて設定された車両モデルに基づいて車両の挙動をシミュレートし実機部とともに車両に応じた仮想車両を構成する車両モデル部、ならびに実機部および車両モデル部で構成される仮想車両の車両挙動に対してドライバが恐いと感じるか否かを出力する人間モデル部をシミュレータは有し、ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動が発生し人間モデル部が恐いと出力すると、記録手段は、そのときの実機部および車両モデル部の運転データを記録部に記録する。
【0011】
これにより、ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動が発生したときの実機部およびシミュレータの車両モデル部で構成される仮想車両の運転データを記録できる。その結果、記録した運転データに基づいて、仮想車両の運転状態を評価するとともに、異常な車両挙動の発生原因を解析できる。
【0012】
また、ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動は、ドライバの操作に対応しておらずドライバが予期せずに発生することがある。このようなドライバの操作に対応していない予期せぬ車両挙動は、試験車両では実現することが困難であるが、シミュレータを使用した車両評価システムでは、試験条件の設定により容易に実現できる。
【0013】
請求項2の発明によると、人間モデル部にはドライバのタイプが複数設定されており、車両挙動に対して恐いと感じるか否かがドライバのタイプに応じて設定されている。
このように、例えば性別、年齢、運転経験等を考慮してドライバの複数のタイプを設定することにより、種々のタイプのドライバ毎に、恐いと感じる異常な車両挙動が発生したときの仮想車両の運転状態を評価できる。
【0014】
例えば、運転経験が豊富なベテランが恐いと感じない異常な車両挙動に対して初心者は恐いと感じる場合がある。したがって、ベテランが恐いと感じなくても、初心者が恐いと感じる場合には、異常な車両挙動の発生原因を解析し、対策を検討することが望ましい。
【0015】
請求項3の発明によると、ドライバのタイプに応じて、異常な車両挙動を恐いと感じる程度が設定されている。
これにより、恐さの程度に応じて、異常な車両挙動が発生したときの仮想車両の運転状態を評価できる。例えば、恐いと感じる程度が低い場合には、該当する異常な車両挙動の発生を低減するように実機部の電子装置およびシミュレータの作動を調整し、恐いと感じる程度が高い場合には、該当する異常な車両挙動が発生しないように、実機部の電子装置およびシミュレータの作動を調整する。
【0016】
請求項4の発明によると、シミュレータは、評価試験の複数の試験条件毎に車両挙動を自動的に連続してシミュレートする。これにより、多数の試験条件を短時間で容易に実行できる。
【0017】
請求項5の発明によると、車両のタイプに応じて実機部は交換され、オペレーション装置は、実機部の車両タイプを取得し、車両タイプに応じた車両モデルおよび評価試験の試験条件をシミュレータに設定する。
【0018】
これにより、車両タイプの異なる実機部に交換しても、オペレーション装置が自動的に車両タイプに応じた車両モデルおよび評価試験の試験条件をシミュレータに設定するので、実機部の車両タイプに応じた車両モデルおよび評価試験の試験条件をシミュレータに適切に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の車両評価システムを示すブロック図。
【図2】車両タイプ毎のフレームカーの構成を示すブロック図。
【図3】車両挙動のパターンと恐さの程度との関係を示す特性図。
【図4】車両評価処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1に本実施形態の車両評価システム2を示す。
(車両評価システム2)
車両評価システム2は、オペレーションPC(パーソナルコンピュータ)10と、シミュレータ20と、フレームカー50とを備えている。シミュレータ20とフレームカー50とにより仮想車両4が構成されている。
【0021】
オペレーションPC10は、シミュレータ20と電気的に接続しており、シミュレータ20が実行する車両モデルの設定データ、ならびにシミュレータ20およびフレームカー50から構成される仮想車両4に対する評価試験のシナリオ等の設定データを記憶している。
【0022】
シミュレータ20には、ボディ系、パワートレイン系およびシャーシ系等の複数のシミュレータ22からなるHILSが使用されている。シミュレータ20は、フレームカー50に搭載されている電子装置以外の車両モデルを、ソフトウェアの設定によりシミュレートする。シミュレータ22の間はハーネス24により接続されており、ハーネス24を介してシミュレータ22間でデータが送受信される。
【0023】
ボディ系シミュレータは、ドア、パワーウィンドウ、ライト等の挙動をシミュレートし、パワートレイン系シミュレータは、インジェクタ、トランスミッション等の挙動をシミュレートし、シャーシ系シミュレータは、ブレーキ、ハンドル等の挙動をシミュレートする。
【0024】
シミュレータ20がシミュレートする車両モデルは、複数のシミュレータ22が協働して構築するプラントモデル30、ECUモデル32、センサモデル34、環境モデル36およびインタフェース(I/F)モデル38からなる車両モデル部により実現される。さらに、シミュレータ20は、人間モデル40を構築している。
【0025】
オペレーションPC10から車両モデルが設定されると、設定された車両モデルに応じて、プラントモデル30、ECUモデル32、センサモデル34、環境モデル36およびI/Fモデル38のそれぞれの設定が決定される。
【0026】
プラントモデル30は、シミュレートする車両モデルのエンジン、トランスミッション、バッテリ等の作動をシミュレートするモデルである。
ECUモデル32およびセンサモデル34は、シミュレータ20がシミュレートする車両モデルには搭載されているがフレームカー50には搭載されていないECUおよびセンサの挙動をシミュレートするモデルである。
【0027】
環境モデル36は、気温、道路状態等の車両環境をシミュレートするモデルである。
I/Fモデル38は、フレームカー50に搭載されたECUおよびアクチュエータ(ACT)と、シミュレータ20内のプラントモデル30、ECUモデル32、センサモデル34および環境モデル36とが、データ、アナログ信号およびデジタル信号を送受信するためのモデルである。
【0028】
シミュレータ20は、オペレーションPC10により設定される車両モデルに基づき、ECUモデル32からの制御信号、ならびに車両の挙動を検出するセンサモデル34からの検出信号を出力するとともに、フレームカー50から制御信号、センサの検出信号を入力し、車両モデルをシミュレートする。
【0029】
また、人間モデル40は、シミュレータ20が実現する車両モデルとフレームカー50とで構成される仮想車両の車両挙動に対して、ドライバが恐いと感じるか否か、恐いと感じる場合には恐さの程度を出力するモデルである。
【0030】
フレームカー50は、端子台52と、ボディ系システム60と、パワートレイン系システム70と、シャーシ系システム80と、ディップスイッチ90と、専用ハーネス92とから構成されている。
【0031】
端子台52は、専用ハーネス92によりフレームカー50内の電子装置と電気的に接続し、汎用ハーネス100によりシミュレータ20と電気的に接続する。端子台52と専用ハーネス92および汎用ハーネス100とは、コネクタ等を用いて脱着可能になっている。フレームカー50内の電子装置の構成が変化しても、端子台52のシミュレータ20側の端子配列は変化しないが、端子台52の電子装置側の配列は変化することがある。
【0032】
各システム60、70、80は、ECU62、72、82と、アクチュエータ64、74、84とから主に構成されている。アクチュエータ64、74、84としては、スロットルバルブ、パワーウィンドウ等が設置される。アクチュエータ64、74、84には、アクチュエータ単体のもの、ECUまたはECUおよびセンサと一体化されたアセンブリとして構成されているものがある。各システム60、70、80と端子台52とは専用ハーネス92で電気的に接続されている。
【0033】
ECU62、72、82と、一部のアクチュエータ64、74、84と一体化されたアセンブリとして構成されているECUとは、CPU、ROM、RAM、入出力インタフェース等を有するマイクロコンピュータにより構成されており、ROM等の記憶装置に記憶している制御プログラムを実行することにより、制御対象であるアクチュエータの挙動制御を実行する。
【0034】
ディップスイッチ90は、フレームカー50が有するECUおよびアクチュエータにより特定されるフレームカー50の車両タイプ毎、および各車両タイプにおけるECUおよびアクチュエータの評価段階毎に異なる値が識別子(ID)として設定されている。
【0035】
(車両モデルの設定)
オペレーションPC10は、シミュレータ20を介してフレームカー50のディップスイッチ90から識別子を取得することにより、フレームカー50の車両タイプと、フレームカー50が有するECUおよびアクチュエータの評価段階を知ることができる。そして、オペレーションPC10は、フレームカー50から取得した識別子によりフレームカー50の車両タイプを判定することにより、シミュレータ20がシミュレートする車両モデルを自動的に設定するとともに、フレームカー50が有するECUおよびアクチュエータに対する評価試験の結果を評価段階毎に管理する。
【0036】
例えば、図2の(A)〜(C)に示すように、ECUおよびアクチュエータの数によりフレームカー50の構成が異なる場合、各フレームカー50のディップスイッチ90には異なる識別子が設定されている。オペレーションPC10は、ディップスイッチ90から取得する識別子に応じて、フレームカー50の車両タイプを判定し、車両タイプに応じた車両モデルをシミュレータ20に設定する。
【0037】
(車両挙動と恐さとの関係)
オペレーションPC10は、フレームカー50の車両タイプに基づいて、シミュレータ20の車両モデル部がシミュレートする車両モデルを決定するとともに、人間モデル40に設定する、仮想車両4の車両挙動と、車両挙動に対してドライバが恐いと感じるか否か、恐いと感じる場合には恐さの程度との関係を決定する。
【0038】
ドライバが仮想車両4の車両挙動を恐いと感じるか否か、恐いと感じる場合の恐さの程度は、大型車または小型車などの車両タイプによって異なることもある。したがって、車両タイプに応じて、車両挙動に対してドライバが恐いと感じるか否か、恐いと感じる場合には恐さの程度を設定してもよい。
【0039】
人間モデル40に設定される、仮想車両4の車両挙動と、車両挙動に対してドライバが恐いと感じるか否か、恐いと感じる場合には恐さの程度との関係の一例を図3に示す。
図3の入力信号の組み合わせは車両挙動のパターンを表わしている。図3では、アクセルをオフし、ブレーキをオンにし、クルーズスイッチをオフにした状態、つまり本来であればドライバの操作に応じて減速するか、停車する運転状態でスロットル開度が10%、エンジン負荷率が10%〜90%になっている車両挙動が入力信号として人間モデル40に入力される。エンジン負荷率が上昇すると、エンジン回転数も上昇する。
【0040】
図3の出力信号は、ドライバのタイプ毎に、初心者ドライバ、女性ドライバ、一般ドライバ、ベテランドライバ毎に、車両挙動を恐いと感じるか否か、恐いと感じる場合には恐さの程度を表わしている。出力信号の0〜9の数字は、0は恐いと感じないことを表わし、1〜9は、数字が大きくなるほど恐さの程度が大きいことを表わしている。エンジン負荷率が上昇するにしたがい、ベテランドライバであっても恐いと感じるように恐さの程度は設定されている。
【0041】
図3では、スロットル開度は10%に設定されているが、スロットル開度を種々に変化させた車両挙動のパターンと恐さの程度との関係が順次人間モデル40に設定され、車両挙動がシミュレートされる。
【0042】
また、図3に示す、アクセルをオフし、ブレーキをオンにし、クルーズスイッチをオフにした状態でスロットル開度とエンジン負荷率を変化させたときの車両挙動以外にも、以下に例示する種々の車両挙動のパターン(1)〜(5)が人間モデル40に設定される。図3および以下に示す(1)〜(5)の車両挙動のパターンは、ドライバの操作に対応しない予期せぬ車両挙動のパターンである。車両挙動のパターン(1)〜(5)においても、アクセル開度、車速、操舵角等の車両挙動を決定するパラメータの値を変化させて設定する。
(1)アクセルを離しブレーキを踏んでいるのに減速しない
アクセルセル:オフ、ブレーキ:オン、クルーズスイッチ:オフ、ブレーキ圧力:x以上、減速加速度:y以下
(2)ブレーキを離しアクセルを踏んでいるのに加速しない
ブレーキ:オフ、クルーズスイッチ:オフ、TRC(Traction Control):非作動、アクセル開度:x以上、エンジン負荷率:y%以下
(3)ハンドルを操作していないのに進行方向が変わる
VGRS(Variable Gear Ratio Steering):ロック中、VSC(Vehicle Stability Control):非作動、ハンドル操舵トルク:0Nm、ハンドル操舵角:x度、車速:ykm/h以上
(4)ハンドルを操作しているのに進行方向が変化しない
VGRS:ロック中、VSC:非作動、ハンドル操舵トルク:xNm以上、ハンドル操舵角:y度以上、車速:zkm/h以上
(5)アイドリング中にエンジン回転数が上昇する
アクセル:オフ、パーキングブレーキ:オン、ギア位置:ニュートラル、スロットル開度:x度以上、エンジン負荷率:y%以上
(車両挙動の評価処理)
次に、車両評価システム2が実行する仮想車両4の車両挙動の評価処理について説明する。図4は、評価処理を示すフローチャートである。
【0043】
車両評価システム2が起動すると、S400において、オペレーションPC10は、シミュレータ20がフレームカー50のディップスイッチ90から取得した識別子に基づいてフレームカー50の車両タイプを判定し、車両タイプに対応する車両モデルをシミュレータ20にダウンロードする。
【0044】
車両タイプに対応する車両モデルがシミュレータ20にダウンロードされると、本実施形態では、オペレーションPC10は、異常な車両挙動用試験シナリオに定義された多数の試験条件のデータをシミュレータ20にダウンロードし、試験条件に基づくシミュレートをシミュレータ20に指令する。
【0045】
異常な車両挙動用試験シナリオ以外にも、オペレーションPC10は、電源システム用試験シナリオ、ネットワーク用試験シナリオ等の種々の試験シナリオに基づく試験条件のデータをシミュレータ20にダウンロードし、試験条件に基づくシミュレートをシミュレータ20に指令する。
【0046】
車両挙動用試験シナリオの試験条件は、例えば、前述したような、種々の異常な車両挙動のパターンと、車両挙動に対してドライバが感じる恐さを定義しており、1個の試験条件が試験シナリオの1個のシーケンスに相当する。例えば、図3において、各パターンが1個のシーケンスを表わしている。
【0047】
また、車両挙動用試験シナリオ用の試験条件には、図3に示す条件以外に、仮想車両4の運転状態および走行環境を表わすものがあり、例えば、各種センサの値、自車両および他車両の速度、自車両の位置、自車両と他車両との距離、気温、路面状態等を表わしている。
【0048】
試験条件の設定に加え、オペレーションPC10は、仮想車両4における制御性能を評価するために、仮想車両4の作動を制御するための制御パラメータの値を、フレームカー50に搭載されたECUの書き換え可能な記憶装置、ならびにシミュレータ20に設定されたECUモデル32に設定する。
【0049】
仮想車両4の作動を制御するための制御パラメータとは、制御パラメータの値が変化することにより仮想車両4に対する制御タイミング、制御量などが変化するパラメータである。
【0050】
オペレーションPC10からシミュレートの実行をシミュレータ20が指令されると、設定された試験条件および制御パラメータの値に基づいてシミュレータ20およびフレームカー50が仮想車両4として作動することにより、評価試験の各シーケンスが自動的に順次実行される。
【0051】
すべてのシーケンスが終了していない場合(S402:No)、シミュレータ20は、人間モデル40および車両モデルに次の試験条件を入力し(S404、S406)、車両挙動および人間モデルの作動を演算する(S408、S410)。
【0052】
実行したシーケンスの車両挙動に対して、本実施形態では人間モデル40が1以上のレベルの恐さを出力すると(S412:Yes)、シミュレータ20は、そのときの恐さのレベルと、仮想車両4の運転データとを仮に記憶し(S414)、S402に処理を移行する。仮想車両4の運転データとして、エンジン回転数、車速、アクセル開度、ブレーキ圧、クルーズスイッチのオンオフ、オートクルーズのセット車速等が記憶される。運転データを仮に記憶するときの恐さのレベルは、1〜9のうちの1以上に限るのではなく、適宜設定してもよい。
【0053】
シミュレータ20が仮に記憶する運転データには、異常な車両挙動が発生したときに実機部50のECUが記憶するように設定されているデータ、シミュレータ20がサンプリングしている実機部50のセンサ信号および制御信号、シミュレータ20内のセンサ信号および制御信号などが含まれる。
【0054】
すべてのシーケンスが終了すると(S402:Yes)、オペレーションPC10は、シミュレータ20が仮に記憶している恐さのレベルと運転データとを読出し、ハードディスク等の記録部に記録する。
【0055】
オペレーションPC10が記録した恐さのレベルと運転データとに基づき、設計者は、フレームカー50に搭載されたECU、アクチュエータの作動を評価し、異常な車両挙動の発生原因を解析する。
【0056】
以上説明した実施形態では、ドライバの操作に対応せず、実車では発生させることが困難な異常な車両挙動を、シミュレータ20に試験条件を設定することにより容易に発生させることができる。これにより、ドライバの操作に対応しない予期せぬ異常な車両挙動が発生したときの運転データを取得し、フレームカー50に搭載されたECUおよびアクチュエータの作動を評価するとともに、異常な車両挙動の発生原因を解析できる。
【0057】
また、シミュレータ20に人間モデル40を組み込み、恐いと感じる異常な車両挙動が発生したときの運転データを取得することにより、ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動の発生原因を解析できる。
【0058】
また、人間モデル40で性別、運転経験等の異なるドライバのタイプを設定し、ドライバのタイプに応じて異常な車両挙動に対する恐さの程度を設定したので、ドライバのタイプ毎に、恐いと感じる異常な車両挙動の発生原因を解析できる。
【0059】
また、ドライバのタイプに応じて、異常な車両挙動を恐いと感じる場合に恐さの程度が設定されているので、恐さの程度基づいて、異常な車両挙動が発生したときの仮想車両4の運転状態を評価できる。例えば、恐いと感じる程度が低い場合には、該当する異常な車両挙動の発生を低減するように、フレームカー50のECUおよびシミュレータ20の作動を調整し、恐いと感じる程度が高い場合には、該当する異常な車両挙動が発生しないように、フレームカー50のECUおよびシミュレータ20の作動を調整する。
【0060】
また、オペレーションPC10が評価試験の試験条件をシミュレータ20に設定し、シミュレータ20が試験条件に応じて自動的に評価試験を実行するので、膨大な組み合わせの評価試験を容易に実行できる。
【0061】
上記実施形態では、車両評価システム2が本発明の車両評価システムに相当し、仮想車両4が本発明の仮想車両に相当し、オペレーションPC10が本発明のオペレーション装置に相当し、シミュレータ20が本発明のシミュレータに相当し、フレームカー50が本発明の実機部に相当し、フレームカー50において、各システム60、70、80のECU62、72、82およびアクチュエータ64、74、84が本発明の電子装置に相当し、プラントモデル30、ECUモデル32、センサモデル34、環境モデル36およびI/Fモデル38が本発明の車両モデル部に相当し、人間モデル40が本発明の人間モデル部に相当する。
【0062】
また、オペレーションPC10は、本発明の記録手段として機能する。また、図4のS416の処理は本発明の記録手段が実行する機能に相当する。
[他の実施形態]
上記実施形態では、人間モデル40においてドライバのタイプを複数設定したが、ドライバのタイプを共通の一つのタイプで代表させてもよい。また、異常な車両挙動に対する恐さを設定する場合、恐さの程度を設定せず、恐いか否かのいずれかで設定してもよい。
【0063】
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
2:車両評価システム、4:仮想車両、10:オペレーションPC(オペレーション装置、記録手段)、20:シミュレータ、30:プラントモデル(車両モデル部)、32:ECUモデル(車両モデル部)、34:センサモデル(車両モデル部)、36:環境モデル(車両モデル部)、38:I/Fモデル(車両モデル部):40:人間モデル(人間モデル部)、50:フレームカー(実機部)、62、72、82:ECU(電子装置)、64、74、84:アクチュエータ(電子装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される複数の電子装置の作動を評価する車両評価システムにおいて、
車両に搭載される複数の電子装置を有する実機部と、
前記実機部に応じて設定された車両モデルに基づいて前記車両の挙動をシミュレートし前記実機部とともに前記車両に応じた仮想車両を構成する車両モデル部、ならびに前記実記部および前記車両モデル部で構成される前記仮想車両の車両挙動に対してドライバが恐いと感じるか否かを出力する人間モデル部を有するシミュレータと、
ドライバが恐いと感じる異常な車両挙動が発生し前記人間モデル部が恐いと出力すると、そのときの前記実機部および前記車両モデル部の運転データを記録部に記録する記録手段と、
を備えることを特徴とする車両評価システム。
【請求項2】
前記人間モデル部にはドライバのタイプが複数設定されており、前記車両挙動に対して恐いと感じるか否かが前記ドライバのタイプに応じて設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両評価システム。
【請求項3】
前記ドライバのタイプに応じて、異常な車両挙動を恐いと感じる程度が設定されていることを特徴とする請求項2に記載の車両評価システム。
【請求項4】
前記シミュレータは、評価試験の複数の試験条件毎に前記車両挙動を自動的に連続してシミュレートすることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両評価システム。
【請求項5】
前記車両のタイプに応じて前記実機部は交換され、
前記実機部の前記車両タイプを取得し、前記車両タイプに応じた前記車両モデルおよび評価試験の試験条件を前記シミュレータに設定するオペレーション装置を備える、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−44649(P2013−44649A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182734(P2011−182734)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)