説明

車両試験装置

【課題】1台の試験装置から、該装置とは別の試験装置の試験結果を得ることができる車両試験装置を提供することを目的とする。
【解決手段】試験車両10を載置して走行試験を行う実機部20と、実機部20を制御する制御部30を備えた車両試験装置1において、制御部30は、試験装置1とは別の仮想の試験装置の実機部をモデル化した仮想実機モデル200を備え、該仮想実機モデル200を用いて計算された目標値が制御部30に入力されて、仮想の試験装置と同等の走行試験がおこなえるように実機部20が制御される構成とした。
本発明によれば、仮想実機モデル200を用いて走行試験を行い、その目標値に基づいて実際の実機部20を制御するようにしたので、物理演算によって仮想の実機部で試験したのと同等の走行試験が行える。すなわち、車両試験装置1から、実際には手元にない(仮想の)試験装置で走行試験を行った結果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両試験装置に係り、特に別の試験装置の走行試験結果を得ることのできる車両試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の燃費や排ガスを試験する装置として、シャシーダイナモ試験装置が知られている。シャシーダイナモ試験装置は一般に、車両の車輪を載置するローラと、そのローラの回転量や負荷トルクを制御するダイナモメータを備えており、ローラを回転させることによって路面走行抵抗に相当する負荷を車両タイヤに加え、路上走行を模擬している(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
このようなシャシーダイナモ試験装置では、近年、実際の路上を正確に再現するために様々な工夫が提案されている。たとえば、ローラの慣性値を下げることによって車速制御の応答性を高めたり、ローラ表面に加工を施して雨や雪道等の様々な路面を再現したりしている。
【0004】
ところで、車両の燃費試験は、国土交通省が認定した試験場のシャシーダイナモ試験装置(以下、認定用試験装置という)で行われる。各メーカーは、試験車両をまず、自社で保有するシャシーダイナモ試験装置(以下、個別試験装置という)で試験を行い、そこで良好な試験結果が得られると、認定試験場に試験車両を持ち込み、認定用試験装置で試験を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−277340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シャシーダイナモ試験装置は、装置ごとに特性が異なるため、メーカー保有の個別試験装置と認定用試験装置では同じ結果が得られにくいという問題があった。特にメーカー保有の個別試験装置は、実際の路面を精度良く再現するために高精度化されており、認定用試験装置とは異なる結果になりやすい。そのため、認定用試験装置を行うまで試験結果が分からないという事態が生じていた。
【0007】
このような問題に対して、上述の特許文献1は、各シャシーダイナモ試験装置の誤差を求めておき、それを比較表示できるようにしている。しかし、特許文献1は、シャシーダイナモ試験装置ごとに異なる試験結果を比較表示するだけなので、認定用試験装置で試験するまで試験結果が分からないという問題は解消されない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、1台の試験装置から、該試験装置とは別の試験装置の試験結果を得ることができる車両試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、前記目的を達成するために、試験車両を載置して走行試験を行う実機部と、前記実機部を制御する制御部と、を備えた車両試験装置において、前記制御部は、前記試験装置とは別の仮想の試験装置の実機部をモデル化した仮想実機モデルを備え、該仮想実機モデルを用いて計算された目標値が前記制御部に入力されて、前記仮想の試験装置と同等の走行試験がおこなえるように前記実機部が制御されることを特徴とする車両試験装置を提供する。
【0010】
(作用)本発明によれば、当該試験装置とは別の、仮想の試験装置の実機部(以下仮想の実機部という)をモデル化した仮想実機モデルを構築し、係る仮想実機モデルを用いて目標値を計算し、これに基づいて実際の実機部を制御するようにしたので、物理演算によってリアルタイムに、実際の実機部を仮想の実機部と同等に振舞わせることができる。すなわち、当該試験装置で、実際には手元にない(仮想の)試験装置の走行試験を行うことができる。これにより、たとえば認定用試験装置で実際に試験を行わなくても、認定用試験装置で得られる試験結果を知ることができるので、自動車開発を効率よく行うことができる。
【0011】
請求項2の発明は請求項1において、前記実機部は、前記試験車両が載置されるローラと、前記ローラの動作を制御するダイナモメータを備え、前記仮想実機モデルでの目標値計算では、少なくとも前記仮想の実機部のローラの慣性値と仮想のダイナモメータの応答遅れが入力されることを特徴とする。
【0012】
(作用)本発明によれば、装置ごとの特性を左右する要因であるローラの慣性値、ダイナモメータの応答速度をはじめ、機械構造や制御の方式等を、仮想実機モデル内において変更して目標値の計算を行うので、仮想の実機部と同様の挙動を、実際の実機部に行わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上より、請求項1に係る発明によれば、1台の試験装置で、当該試験装置とは別の仮想の試験装置と同等の走行試験を行うことができる。即ち、実際には手元にない(仮想の)試験装置で行った試験結果を得ることができる。これにより、たとえば認定用試験装置で実際に試験を行わなくても、その試験装置で得られる試験結果を知ることができ、自動車開発を効率よく行うことができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、例えばローラ慣性値や時定数を実際の実機部より大きく設定すれば、当該試験装置よりも慣性値が大きく応答性が落ちる特性を有する仮想の試験装置がモデルで再現されるので、仮想の試験装置と同等の走行試験を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態における車両試験装置の概略設備構成図
【図2】制御部の構成を示すブロック図
【図3】車両試験装置の概略構成図
【図4】実機部の構成図
【図5】仮想実機部モデルの構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って、本発明に係る車両試験装置の好ましい実施形態について説明する。図1は、本実施の形態における車両試験装置の概略設備構成図、図2は、制御部の構成を示すブロック図、図3は、車両試験装置の概略構成図である。
【0017】
車両試験装置1は、試験対象である車両10の燃費や排ガスを試験する装置として用いられる電機慣性方式のシャシーダイナモ試験装置であり、主としてローラ22、シャフト24、ダイナモメータ26で構成された実機部20と、実機部20を制御する制御部30と、で設備構成されている。
【0018】
ローラ22には、車両10のタイヤ12が載置され、目標の走行パターンに沿って車両10が目標車速Vで走行する際に、路面から受けうる力と同等の力をローラ22の回転を制御してタイヤ12へ出力することで、路上走行を模擬する。また、ローラ22はカーボン製の低慣性ローラであって、慣性質量が小さく抑えられていることから、低速回転から高速回転までの急激な回転数の変化に高速に応答する。
【0019】
シャフト24は、ローラ22とダイナモメータ26を接続し、トルクと回転動力をそれぞれに伝達する。
【0020】
ダイナモメータ26は、ローラ22に所定の負荷トルクを与え、ローラ22の回転数を制御する装置である。ダイナモメータ26には、制御部30が接続されている。制御部30は、信号処理部32、モデル格納部33、メモリ34、演算処理部35、で設備構成されており、タイヤ・路面モデル40と仮想実機モデル200を構築する。
【0021】
タイヤ・路面モデル40は、車体モデル、タイヤモデル、走行抵抗モデルからなり、車両10を擬似走行させたい路面の再現に必要な情報をモデル格納部33から読み出すとともに、測定したローラ22の回転数、タイヤ12と模擬路面間とのスリップ比、車体モデル、摩擦係数マップ等から、模擬路面がタイヤ12にかけるべき(車両進行方向の)力,Fx目標値を演算する。
【0022】
そして、通常走行試験モードが選択された場合には、このFx目標値が実機部20の制御器28に入力されて、Fx目標値と、測定したローラ22のトルクに半径Rを乗じた値 (Fxフィードバック値)との偏差をなくすように、ダイナモメータ26への印加電流が可変制御される。ダイナモメータ26にはいわゆるダイナモマップが設けられており、ダイナモメータ26は該マップによって前述の印加電流指令値を基に適切な負荷トルクを得てローラ22に出力し、ローラ22の回転数を制御する。
【0023】
仮想実機モデル200は、上述した実機部20とは別の、仮想の実機部のローラ、シャフト、ダイナモメータ、その制御器が、それぞれ仮想ローラ222のモデル、仮想シャフト224のモデル、仮想ダイナモメータ226のモデル、仮想実機部の制御器228、として構築されている。即ち、実際には手元にない仮想の試験装置が物理モデルで再現されている。
【0024】
車両試験装置1では、仮想実機走行試験モードが選択された場合には、実機部20ではなく、仮想実機モデル200の仮想ローラ222、仮想シャフト224、仮想ダイナモメータ226によって走行試験を行い、仮想実機モデル200で計算された目標値に基づいて、実際の実機部20を制御する。
【0025】
以下、詳細に説明する。図4は、実機部の構成図、図5は、仮想実機部モデルの構成図である。図4、図5において、Jは慣性値、Kは軸ねじりバネ定数、Cは軸ダンパ係数、Rは回転半径、Nは回転数、Tはトルク、Iは電流を示す。また、前記記号に付随する記号Rはローラ、Sはシャフト、Dはダイナモメータを示しており、例えばNはダイナモメータの回転数を示す。
【0026】
仮想実機走行試験モードが選択されると、車両試験装置1では、ローラ22の回転数Nを測定し、タイヤ・路面モデル40からタイヤ12にかけるべき力,Fx目標値を演算する。そして、係るFx目標値は、仮想実機モデル200の制御器228に入力される。
【0027】
制御器228では、係るFx目標値と,仮想実機モデル200での物理演算を経て入力されたFxフィードバック値とに差が検出された場合にその偏差をなくすフィードバック制御を、フィードフォワード制御を併用して行い、適切な印加電流Iを仮想ダイナモメータ226へ出力する。
【0028】
仮想ダイナモメータ226では、制御器228からの印加電流Iと仮想ダイナモメータ226の回転数Nをダイナモマップに入力し、該マップから適切な駆動トルクTを読み出して出力し、係るTと仮想シャフト224からの負荷トルクTとを減算してその差を積分し、仮想ダイナモメータ226の慣性値Jで除算して回転数Nを得、仮想シャフト224へ出力する。
【0029】
仮想シャフト224では、仮想ダイナモメータ226の回転数Nと仮想ローラ222の回転数Nを減算してその差を求め、仮想シャフト224で生じる振動を再現したバネモデルによって負荷トルクTを演算し、仮想ダイナモメータ226と仮想ローラ222へ出力する。
【0030】
仮想ローラ222では、仮想シャフト224からの負荷トルクTと仮想ローラ222のトルクTとを減算してその差を積分し、仮想ローラ222の慣性値Jで除算して得たローラ回転数Nを仮想シャフト224へ出力し、仮想ローラ222の半径Rを乗算して得たローラ速度Vをタイヤ・路面モデル40へ出力し、タイヤ・模擬路面間に生じる振動を再現したバネモデルによって、仮想ローラ222がタイヤ12に与えるべき力Fx2、即ち、仮に仮想の実機部で走行試験を行った場合に仮想の実機部がタイヤ12に出力するであろう力となる第2の目標値、Fx2を算出し、これを実機部20の制御器28へ出力する。
【0031】
実機部20の制御器28では、係る仮想実機モデル200からの第2の目標値Fx2と、実際のローラ22が現在タイヤ12に与えている力Fxの差がなくなるように、ダイナモメータ26への印加電流を可変制御する。それによるローラ22の回転数の変化を受けて、タイヤ・路面モデル40から出力されるFx目標値が変化し、再び仮想実機モデル200に入力されて、第2の目標値Fx2値が実際のローラ22から得られるように実機部20が制御される。かかる流れが目標走行パターン終了まで繰り返されると、走行試験終了となる。
【0032】
ここで、本実施例では、仮想ローラ222の慣性値Jに、実際のローラ22の慣性値よりも大きい値を入力し、実際のローラ22よりも回転が重くなるように設定されている。さらに、本実施例では、ローラ回転数Nが実際の実機部20よりも大きな時定数τの応答遅れを持つとし、これを微分してローラ222の慣性値Jで除算し、慣性トルクTを得、係るローラの慣性トルクTとダイナモマップから読み出した負荷トルクTとを加算することによってトータルのトルクTを求め、それに基づいてFxを算出し、このFxを上述の仮想実機モデル200の制御器228にフィードバックさせている。
【0033】
上述のローラ慣性値Jや時定数τを、本実施例の実際の実機部20より大きく設定すると、制御器228への目標値入力から車速制御までに実際の実機部20より応答遅れを生じさせることができる。仮想ローラ222の物理演算時に仮想の実機部のローラの慣性値Jを入力し、ローラ回転数Nから慣性トルクTを導く際に時定数τの遅れを考慮することで、実際の車両試験装置1よりも慣性値が大きく,応答性が落ちる特性を有する仮想の試験装置の実機部と同様の挙動を、実際の実機部20に行わせることができる。
【0034】
本実施例によれば、仮想の実機部をモデル化した仮想実機モデル200を用いた走行試験で計算された目標値,第2の目標値Fx2が、実際のローラ22から出力されるように実機部20を制御するので、車両試験装置1の実機部20とは別の、異なる試験装置の実機部で行う走行試験と同等の走行試験を、実際の実機部20でリアルタイムに行うことができる。すなわち、実際には手元にない(仮想の)試験装置で走行試験を行った結果を、車両試験装置1から得ることができる。
【0035】
そして、目標値Fx2を得る際に、仮想実機モデル200において、装置ごとの特性を左右する大きな要因である、ローラの慣性値、ダイナモメータの応答速度を、実際よりも大きくなるように設定変更して計算を行うので、当該試験装置よりも慣性値が大きく応答性が落ちる特性を有する仮想の試験装置の実機部と同等の走行試験を高精度で行うことができる。
【0036】
さらに、仮想実機モデル200において、機械構造及び制御の方式等のモデルも仮想の実機部に対応させた設定とすれば、よりいっそう高精度に同等の走行試験が行える。
【0037】
即ち、ローラの慣性値Jとダイナモメータの応答遅れτ等の設定を変更するだけで、車両試験装置1のローラ22よりも慣性が重いローラを有し、車両試験装置1よりも慣性値が大きく応答性が落ちる特性を有する試験装置であれば、車両試験装置1でそれらの走行試験を全て再現できる。
【0038】
これにより、たとえば、認定用試験装置で実際に試験を行わなくても、認定用試験装置で得られる試験結果と同等の試験結果を得ることができ、ユーザはこれを知ることで、従来よりも自動車開発を大幅に効率よく行うことができる。
【0039】
なお、車両試験装置1は、実機部20による通常の走行試験も当然に行うことができる。この際、ローラ22が低慣性であることから、目標走行パターンに応じた回転数の変化に高速に応答し、実際の路面走行が高精度に再現された試験結果が得られる。
【0040】
即ち、本車両試験装置1は、実際の実機部20による高精度な走行試験と、仮想実機モデル200による別の試験装置での走行試験とを、1台の試験装置で行うことができる。よって、例えば仮想実機モデル200を認定用試験装置に合わせて設定すれば、実機部20による自動車改良のための高精度な計測と、仮想実機モデル200による車両の燃費試験に備えた計測とを行うことができ、1台を2用途で用いることができるので、この点からも、自動車開発を効率よく行うことができる。
【符号の説明】
【0041】
1 車両試験装置
10 試験車両
12 車両のタイヤ
20 実機部
22 ローラ
26 ダイナモメータ
30 制御部
200 仮想実機モデル
222 仮想ローラ
226 仮想ダイナモメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験車両を載置して走行試験を行う実機部と、前記実機部を制御する制御部と、を備えた車両試験装置において、
前記制御部は、前記試験装置とは別の仮想の試験装置の実機部をモデル化した仮想実機モデルを備え、該仮想実機モデルを用いて計算された目標値が前記制御部に入力されて、前記仮想の試験装置と同等の走行試験がおこなえるように前記実機部が制御されることを特徴とする車両試験装置。
【請求項2】
前記実機部は、前記試験車両が載置されるローラと、前記ローラの動作を制御するダイナモメータを備え、前記仮想実機モデルでの目標値計算では、少なくとも前記仮想の実機部のローラの慣性値と仮想のダイナモメータの応答遅れが入力されることを特徴とする請求項1に記載の車両試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19669(P2013−19669A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150525(P2011−150525)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)