説明

車両部材用メタクリル樹脂組成物

【課題】成形時の流動性が高く、良好な機械的強度および耐熱性を有し、かつ耐薬品性に優れる車両部材用メタクリル樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】次の(I)〜(IV)を満たす車両部材用メタクリル樹脂組成物である。(I)メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとを含みかつメタクリル酸メチルの含有割合が97重量%以上である単量体成分が重合してなる共重合体を含有すること。(II)濃度0.01g/cm3のクロロホルム溶液として測定した25℃における還元粘度が55〜65cm3/gであること。(III)荷重37.3Nで測定した230℃におけるMFRが3g/10分以上であること。(IV)GPCで測定して得られる分子量分布(Mw/Mn)が2.2〜3.8であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両部材用のメタクリル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂組成物は、透明性や耐候性に優れるので、テールランプカバー、ヘッドランプカバー、バイザー、メーターパネル等の車両部材の成形材料として用いられている(例えば、特許文献1参照)。かかる車両部材は、通常、射出成形により作製される。
【0003】
近時、車両部材を軽量化するうえで、薄肉の車両部材が要望されている。ところが、車両部材の成形材料として用いられる従来のメタクリル樹脂組成物には、成形時における流動性が低いという問題がある。そのため、該メタクリル樹脂組成物を射出成形に供しても、射出成形機の金型全体に均一に充填され難く、それゆえ該メタクリル樹脂組成物から薄肉の車両部材を成形することは困難であった。
【0004】
また、車両部材には、良好な機械的強度、耐熱性および耐薬品性が要求されるが、薄肉の車両部材を作製するために流動性の高いメタクリル樹脂組成物を射出成形に供すると、得られる車両部材は、機械的強度や耐熱性が低いという問題や、耐薬品性が低い、例えば、洗車用洗浄剤、ウインドウォッシャー液、ワックスリムーバー等を用いた場合に、これらに含まれる薬品によって車両部材の表面にクレーズが発生するという問題があった。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、メタクリル樹脂組成物に遷移金属塩およびホスファイトを添加する方法(例えば、特許文献2参照)、高分子加工助剤を添加する方法(例えば、特許文献3参照)、分子量および組成の異なる2成分のアクリル樹脂をブレンドする方法(例えば、特許文献4,5参照)、共重合成分としてスチレンを添加する方法(例えば、特許文献6参照)等が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法により得られるメタクリル樹脂組成物では十分な流動性が得られていないのが現状であり、該メタクリル樹脂組成物から薄肉の車両部材を成形することは困難であった。また、その機械的強度、耐熱性および耐薬品性の面で満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−302145号公報
【特許文献2】特開2003−105158号公報
【特許文献3】特開平11−140265号公報
【特許文献4】特開2003−292714号公報
【特許文献5】特開2006−193647号公報
【特許文献6】特開2004−139839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、成形時の流動性が高く、良好な機械的強度および耐熱性を有し、かつ耐薬品性に優れる車両部材用メタクリル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)下記(I)、(II)、(III)および(IV)を満たすことを特徴とする車両部材用メタクリル樹脂組成物。
(I)メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとを含みかつ前記メタクリル酸メチルの含有割合が97重量%以上である単量体成分が、重合してなる共重合体を含有すること。
(II)濃度0.01g/cm3のクロロホルム溶液として測定した25℃における還元粘度が、55〜65cm3/gであること。
(III)荷重37.3Nで測定した230℃におけるメルトフローレート(MFR)が、3g/10分以上であること。
(IV)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とから求めた分子量分布(Mw/Mn)が、2.2〜3.8であること。
(2)前記単量体成分中のアクリル酸エステルの含有割合が0.1重量%以上である前記(1)に記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物。
(3)前記単量体成分は、ラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体をメタクリル酸メチルおよびアクリル酸エステルの合計100重量部を基準として0.02〜0.3重量部の割合で含有する前記(1)または(2)に記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物。
(4)前記単量体成分の重合が塊状重合により行われる前記(1)〜(3)のいずれかに記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物。
(5)射出成形に供される前記(1)〜(4)のいずれかに記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物を射出成形して得られることを特徴とする車両部材。
(7)テールランプカバー、ヘッドランプカバー、バイザーおよびメーターパネルから選ばれる少なくとも1種である前記(6)に記載の車両部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形時の流動性が高く、それゆえ薄肉の車両部材を容易に成形することができ、良好な機械的強度および耐熱性を有し、かつ耐薬品性にも優れる車両部材を作製するのに適したメタクリル樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかる車両部材用メタクリル樹脂組成物(以下、「メタクリル樹脂組成物」と言うことがある。)は、下記(I)〜(IV)を満たすものである。
(I)メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとを含みかつ前記メタクリル酸メチルの含有割合が97重量%以上である単量体成分が、重合してなる共重合体を含有すること。
(II)濃度0.01g/cm3のクロロホルム溶液として測定した25℃における還元粘度が、55〜65cm3/gであること。
(III)荷重37.3Nで測定した230℃におけるメルトフローレート(MFR)が、3g/10分以上であること。
(IV)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とから求めた分子量分布(Mw/Mn)が、2.2〜3.8であること。
【0012】
前記(I)は、本発明のメタクリル樹脂組成物の組成を規定するものである。具体的に説明すると、前記共重合体を構成する単量体成分は、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとを含むものである。
【0013】
前記アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸シクロペンタジエン等が挙げられ、特にアクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましく、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
前記単量体成分中のメタクリル酸メチルの含有割合は97重量%以上、好ましくは97〜99.9重量%、より好ましくは97〜99重量%である。
【0015】
前記単量体成分中のアクリル酸エステルの含有割合は3重量%以下となり、0.1重量%以上であるのが好ましく、1重量%以上であるのがより好ましく、1〜2.98重量%であるのがさらに好ましい。アクリル酸エステルの含有割合があまり少ないと、得られる共重合体の解重合が進行しやすく、射出成形時の熱安定性が低下する傾向にあるので好ましくない。アクリル酸エステルの含有割合が3重量%より多いと、成形加工性は向上するものの、得られる車両部材の耐熱性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0016】
前記単量体成分は、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸エステル以外に、メタクリル酸メチルまたはアクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体を含んでいてもよい。この他の単量体としては、例えばラジカル重合可能な二重結合を1個有する単官能単量体、ラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
前記ラジカル重合可能な二重結合を1個有する単官能単量体としては、例えばメタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロペンタジエン等のメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸またはこれらの酸無水物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の窒素含有モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
前記ラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体としては、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート等のグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリル等の不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多塩基酸のポリアルケニルエステル;トリメチロールプロパントリアクリレート等の多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル;ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
前記単量体成分は、特に前記ラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体をメタクリル酸メチルおよびアクリル酸エステルの合計100重量部を基準として0.02〜0.3重量部の割合で含有するのが好ましく、0.05〜0.15重量部の割合で含有するのがより好ましい。これにより、前記(IV)におけるメタクリル樹脂組成物のGPCで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とから求めた分子量分布(Mw/Mn)を調整することができる。すなわち、前記多官能単量体の割合を少なくすると、分子量分布(Mw/Mn)を小さくすることができ、前記多官能単量体の割合を多くすると、分子量分布(Mw/Mn)を大きくすることができる。
【0020】
前記単量体成分を共重合する際の重合方法としては、例えば懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等の各種の公知の重合法を採用することができ、特に塊状重合法を採用するのが好ましい。塊状重合は、例えば単量体成分と重合開始剤等とを反応容器の中に連続的に供給しながら反応容器内に所定時間滞留させて得られる部分重合体を、連続的に抜き出すことにより行うことができるので、高い生産性で共重合体を得ることができる。
【0021】
前記単量体成分を共重合する際には、重合開始剤を用いる。該重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、例えばアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、1,1―ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンの如き過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。なお、重合開始剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0022】
前記単量体成分を共重合する際には、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。該連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えばn−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート等のメルカプタン類等が好適であり、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
前記単量体成分を共重合する際の重合温度としては、使用するラジカル重合開始剤の種類や量により適宜調整されるが、通常100〜200℃、好ましくは120〜180℃である。重合温度が高すぎると、得られる共重合体のシンジオタクティシティーが低くなる傾向にあり、得られる車両部材の耐熱性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0024】
前記メタクリル樹脂組成物は、前記共重合体とともに、該共重合体の熱分解を抑制するための熱安定化剤を含有するのが好ましい。該熱安定化剤の含有量は、メタクリル樹脂組成物総量に対して1〜2000重量ppmであるのが好ましく、1〜1000重量ppmであるのがより好ましく、1〜100重量ppmであるのがさらに好ましい。前記メタクリル樹脂組成物を射出成形して所望の薄肉の車両部材を成形するときには、成形効率を高めるうえで成形温度を高めに設定することがあり、そのような場合に熱安定化剤を配合するとより効果的である。
【0025】
前記熱安定化剤としては、特に限定されないが、例えばリン系熱安定化剤、有機ジスルフィド化合物等が挙げられ、特に有機ジスルフィド化合物が好ましく、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
前記リン系熱安定化剤としては、例えばトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイトが好ましい。
【0027】
前記有機ジスルフィド化合物としては、例えばジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジ−n−プロピルジスルフィド、ジ−n−ブチルジスルフィド、ジ−sec−ブチルジスルフィド、ジ−tert−ブチルジスルフィド、ジ−tert−アミルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、ジ−tert−オクチルジスルフィド、ジ−n−ドデシルジスルフィド、ジ−tert−ドデシルジスルフィド等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、ジ-tert−アルキルジスルフィドが好ましく、ジ−tert−ドデシルジスルフィドがさらに好ましい。
【0028】
前記メタクリル樹脂組成物は、熱安定化剤の他に、例えば離型剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、酸化防止剤、帯電防止剤等の各種添加剤を必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。
【0029】
なお、前記メタクリル樹脂組成物が上述した熱安定化剤等の各種添加剤を含有する場合、それらは、(a)前記単量体成分を重合して得られた共重合体と添加物とを単軸押出機や二軸押出機に入れて加熱溶融混練により混合する方法、(b)前記単量体成分と添加物とを混合してこれを重合反応に付すことにより重合する方法、(c)前記(a)の重合体からなるペレットもしくはビーズの表面に添加物を付着させておき、成形時に同時に混合する方法、等の方法によってメタクリル樹脂組成物に含有させればよい。
【0030】
一方、前記(II)は、本発明のメタクリル樹脂組成物の還元粘度を規定するものである。すなわち、本発明のメタクリル樹脂組成物は、濃度0.01g/cm3のクロロホルム溶液として測定した25℃における還元粘度が55〜65cm3/gであり、好ましくは58〜62cm3/gである。
【0031】
前記還元粘度があまり低いと、成形加工性は向上するものの、得られる車両部材の耐薬品性および機械的強度が低下する。また、前記還元粘度があまり高いと、成形加工性が低下し、薄肉の車両部材を成形し難くなる。還元粘度を前記範囲とするには、例えば前記単量体成分を重合する際に用いる連鎖移動剤の使用量を調整すればよい。連鎖移動剤の量を増やすと、還元粘度が低下する傾向にある。
【0032】
前記(III)は、本発明のメタクリル樹脂組成物のMFRを規定するものである。すなわち、本発明のメタクリル樹脂組成物は、荷重37.3Nで測定した230℃におけるMFRが3g/10分以上であり、好ましくは3〜9g/10分以上であり、より好ましくは3〜7g/10分以上である。
【0033】
前記MFRがあまり低いと、成形加工性が低下し、薄肉の車両部材を成形し難くなる。MFRは、還元粘度、前記単量体成分の組成や、単量体成分を重合する際の重合温度等に依存する。MFRを前記範囲とするには、例えば所定の重合温度とした際に還元粘度や前記単量体成分の組成を調整すればよい。所定の重合温度において、還元粘度を低く設定するか、単量体成分中のアクリル酸エステルの含有割合を増やすか、単量体成分中の多官能単量体の含有割合を増やすようにすると、MFRが高くなる傾向にある。
【0034】
前記(IV)は、本発明のメタクリル樹脂組成物の分子量分布を規定するものである。すなわち、本発明のメタクリル樹脂組成物は、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とから求めた分子量分布(Mw/Mn)が2.2〜3.8であり、好ましくは2.2〜3.5である。
【0035】
前記分子量分布(Mw/Mn)を2.2以上とすることで、成形加工性を向上させることができ、かつ得られる車両部材の耐薬品性を向上させることができる。前記分子量分布(Mw/Mn)を3.8以下とすることで、得られる車両部材の機械的強度を良好なものとすることができる。分子量分布(Mw/Mn)を前記範囲とするには、例えば前記単量体成分の組成等の重合条件を調整すればよい。なお、前記重量平均分子量(Mw)としては96,000〜115,000、前記数平均分子量(Mn)としては30,000〜50,000程度が適当である。前記重量平均分子量(Mw)があまり小さいと、得られる車両部材の耐薬品性が低下し、また、前記重量平均分子量(Mw)があまり大きいと、成形加工性が低下する。前記数平均分子量(Mn)があまり小さいと、得られる車両部材の機械的強度の低下を招く。
【0036】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、成形時の流動性が高く、かつ耐薬品性に優れるので、車両部材の成形材料として好適に用いることができる。本発明のメタクリル樹脂組成物は、特に1〜2mm程度の厚さを有する薄肉の車両部材を成形するための成形材料として好適に用いることができ、かつ射出成形に供される成形材料として好適に用いることができる。
【0037】
本発明の車両部材は、前記した本発明のメタクリル樹脂組成物を射出成形して得られるものであり、例えばテールランプカバー、ヘッドランプカバー、バイザーおよびメーターパネルから選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。これらの車両部材は、前記メタクリル樹脂組成物を成形材料とし、これを溶融状態で所定厚みの金型に充填(射出)し、次いで冷却後、成形された成形体を金型から剥離することにより得られる。
【0038】
より具体的に説明すると、前記車両部材は、前記メタクリル樹脂組成物を例えばホッパーから投入し、スクリューを回転させながら後退させて、シリンダー内にメタクリル樹脂組成物を計量し、該メタクリル樹脂組成物を溶融させ、溶融したメタクリル樹脂組成物を圧力をかけながら金型内に充填し、該金型が充分に冷却されるまで一定時間保圧した後、型を開いて成形体を取り出すことにより得られる。
【0039】
なお、前記車両部材を作製する際の各種条件、すなわち成形材料の溶融温度、成形材料を金型に射出する際の金型温度、メタクリル樹脂組成物を金型に充填した後保圧する際の圧力等については適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。
【実施例1】
【0041】
<メタクリル樹脂組成物の調製>
まず、メタクリル酸メチルを98%、およびアクリル酸メチルを2%の割合で混合して混合物を得た。この混合物に、さらにエチレングリコールジメタクリレートをメタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの合計100部を基準として0.1部の割合で混合し、単量体成分を得た。
【0042】
次いで、得られた単量体成分の重合を塊状重合により行った。具体的には、前記単量体成分と、重合開始剤として1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.03部と、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.30部と、熱安定化剤として単量体成分総量の20重量ppm程度に相当する量のジ−tert−ドデシルジスルフィドとを、それぞれ連続的に攪拌機を備えた重合反応器内へ供給し、175℃にて平均滞留時間30分間で重合反応を行い、連続的に反応混合物(部分共重合体)を重合反応器から排出させた。なお、重合開始剤および連鎖移動剤の割合は、いずれもメタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの合計100部を基準とする値である。
【0043】
重合反応器から排出された反応混合物を脱揮押出機に連続的に供給し、未反応の単量体成分を気化させて回収し、ペレット状のメタクリル樹脂組成物を得た。
【0044】
<評価>
得られたメタクリル樹脂組成物について、還元粘度、MFR、GPC、成形加工性、耐薬品性、耐熱性および機械的強度を評価・測定した。各評価方法および測定方法を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
【0045】
(還元粘度の測定方法)
ISO 1628−6に準拠して、得られたペレット状のメタクリル樹脂組成物0.5gをクロロホルムに溶解させて50cm3の溶液とし、25℃でキュノフェンスケ粘度計を用いて測定した。
【0046】
(MFRの測定方法)
JIS K7210に準拠して、230℃、荷重37.3Nで測定した。
【0047】
(GPCの測定方法)
得られたペレット状のメタクリル樹脂組成物40mgを、テトラヒドロフラン(THF)溶媒20mLに溶解させ、測定試料を作製した。測定装置には、東ソー(株)製のGPC装置に、いずれも東ソー(株)製のカラムである「TSKgel SuperHM−H」2本と、「SuperH2500」1本とを直列に並べて設置し、検出器にRI検出器を採用したものを用いた。
【0048】
この測定装置を用いて、測定試料の注入量を20μlとし、流量を0.6mL/分として、溶出時間と強度とを測定した。そして、昭和電工(株)製の単分散の7種の重量平均分子量が既知のメタクリル樹脂を標準試料とした検量線を基準とし、測定試料の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とを求め、これらの値から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0049】
(成形加工性の評価方法)
射出成形機(FANUC(株)製の「150D型」)を用いてメタクリル樹脂組成物を厚さの異なる2種類の円形スパイラル金型内にそれぞれ金型の中央部から射出し、各金型内におけるメタクリル樹脂組成物の到達距離(mm)を測定した(スパイラル流動長)。なお、到達距離は、射出成形品に金型から転写された目盛りを読み取ることで判断した。到達距離が長いほど、成形加工性に優れていると言える。射出条件および用いた円形金型は、以下の通りである。
成形温度:260℃
金型温度:60℃
射出速度:80mm/秒
射出圧力:75MPa
円形スパイラル金型(A):厚さ2mm、幅10mmの円形スパイラル金型を用いた。
円形スパイラル金型(B):厚さ1mm、幅10mmの円形スパイラル金型を用いた。
【0050】
(耐薬品性の評価方法)
まず、射出成形機((株)名機製作所製の「140T型」)を用いてメタクリル樹脂組成物を射出成形し、長さ250mm×巾25.4mm×厚さ3mmの平板を得た。なお、射出条件は、以下の通りである。
成形温度:250℃
金型温度:60℃
【0051】
次いで、得られた平板を80℃の真空乾燥機で5時間乾燥した後、デシケータ中に入れ、試験片を得た。
【0052】
得られた試験片を用いて、耐薬品性試験を行った。該試験は、23℃/40%RHの恒温恒湿室内で行った。試験方法には、カンチレバー法を採用し、下記(a)〜(d)の手順で行った。
(a)試験片の一端部を固定台に挟んで支え、固定位置から146mmの位置(支点)で、下から試験片を支え、試験片を水平に保つ。
(b)試験片の他端部に荷重をかけて、試験片に所定の表面応力を発生させる。
(c)試験片の上面に、エタノール(和光純薬工業(株)製の「試薬1級エタノール」)を塗布する。なお、エタノールが揮発してなくならないように、定期的にエタノールを塗布する。
(d)エタノールの塗布を開始してから試験片にクレーズが発生するまでの時間(秒)を計測する。
この方法を用いて、表面応力10MPaでのクレーズ発生時間を測定し、耐薬品性を評価した。クレーズ発生時間が長いほど、耐薬品性に優れていると言える。
【0053】
なお、所定の表面応力に対する荷重は、下記式(i)より算出した。
【数1】

【0054】
(耐熱性の評価方法)
JIS K7206(B50法)に準拠して、ヒートデストーションテスター((株)安田精機製作所製の「148−6連型」)を用いて、ビカット軟化温度を測定した。ビカット軟化温度が高いほど、耐熱性に優れていると言える。
【0055】
(機械的強度の評価方法)
JIS K7162に準拠して、射出成形により1A試験片を作製し、5mm/分の速度で試験を行って引張破壊応力(MPa)を求めた。引張破壊応力が高いほど、機械的強度に優れていると言える。
【0056】
[比較例1]
まず、メタクリル酸メチルの割合を98%に代えて97%にし、アクリル酸メチルの割合を2%に代えて3%にし、エチレングリコールジメタクリレートを添加しなかった以外は、前記実施例1と同様にして、単量体成分を調製した。
【0057】
次いで、重合開始剤として用いる1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンの割合を0.03部に代えて0.02部にし、連鎖移動剤として用いるn−オクチルメルカプタンの割合を0.30部に代えて0.20部にした以外は、前記実施例1と同様にして、単量体成分を塊状重合しペレット状のメタクリル樹脂組成物を得た。
【0058】
得られたメタクリル樹脂組成物について、還元粘度、MFR、GPC、成形加工性、耐薬品性、耐熱性および機械的強度を前記実施例1と同様にして評価・測定した。その結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
まず、前記実施例1と同様にして、単量体成分を調製した。次いで、重合開始剤として用いる1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンの割合を0.03部に代えて0.02部にし、連鎖移動剤として用いるn−オクチルメルカプタンの割合を0.30部に代えて0.40部にした以外は、前記実施例1と同様にして、単量体成分を塊状重合しペレット状のメタクリル樹脂組成物を得た。
【0060】
得られたメタクリル樹脂組成物について、還元粘度、MFR、GPC、成形加工性、耐薬品性、耐熱性および機械的強度を前記実施例1と同様にして評価・測定した。その結果を表1に示す。
【0061】
[比較例3]
まず、メタクリル酸メチルの割合を98%に代えて95%にし、アクリル酸メチルの割合を2%に代えて5%にし、エチレングリコールジメタクリレートを添加しなかった以外は、前記実施例1と同様にして、単量体成分を調製した。
【0062】
次いで、重合開始剤として用いる1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンの割合を0.03部に代えて0.02部にし、連鎖移動剤として用いるn−オクチルメルカプタンの割合を0.30部に代えて0.20部にした以外は、前記実施例1と同様にして、単量体成分を塊状重合しペレット状のメタクリル樹脂組成物を得た。
【0063】
得られたメタクリル樹脂組成物について、還元粘度、MFR、GPC、成形加工性、耐薬品性、耐熱性および機械的強度を前記実施例1と同様にして評価・測定した。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から明らかなように、実施例1は、成型加工性および耐薬品性において、いずれも良好な結果を示しているのがわかる。これに対し、還元粘度が特定の値よりも高く、MFRおよび分子量分布(Mw/Mn)がいずれも特定の値よりも低い比較例1は、成型加工性および耐薬品性に劣る結果を示した。また、還元粘度が特定の値よりも低い比較例2は、成形加工性には優れるものの、耐薬品性が著しく劣り、かつ機械的強度にも劣る結果を示した。メタクリル酸メチルの含有割合が特定の値よりも少なく、分子量分布(Mw/Mn)が特定の値よりも低い比較例3は、成形加工性には優れるものの、耐薬品性および耐熱性に劣る結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)、(II)、(III)および(IV)を満たすことを特徴とする車両部材用メタクリル樹脂組成物。
(I)メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとを含みかつ前記メタクリル酸メチルの含有割合が97重量%以上である単量体成分が、重合してなる共重合体を含有すること。
(II)濃度0.01g/cm3のクロロホルム溶液として測定した25℃における還元粘度が、55〜65cm3/gであること。
(III)荷重37.3Nで測定した230℃におけるメルトフローレート(MFR)が、3g/10分以上であること。
(IV)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とから求めた分子量分布(Mw/Mn)が、2.2〜3.8であること。
【請求項2】
前記単量体成分中のアクリル酸エステルの含有割合が0.1重量%以上である請求項1に記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物。
【請求項3】
前記単量体成分は、ラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体をメタクリル酸メチルおよびアクリル酸エステルの合計100重量部を基準として0.02〜0.3重量部の割合で含有する請求項1または2に記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物。
【請求項4】
前記単量体成分の重合が塊状重合により行われる請求項1〜3のいずれかに記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物。
【請求項5】
射出成形に供される請求項1〜4のいずれかに記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の車両部材用メタクリル樹脂組成物を射出成形して得られることを特徴とする車両部材。
【請求項7】
テールランプカバー、ヘッドランプカバー、バイザーおよびメーターパネルから選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の車両部材。

【公開番号】特開2012−111860(P2012−111860A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262278(P2010−262278)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】