説明

車両間通信方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、道路上を隊列をなして走行している車両相互間で通信を行うための車両間通信に関わり、特に各車両の走行状況に関する情報(自車両の動態情報を含む)を交換して、車間距離や走行速度などを最適化し、円滑かつスムーズに車両を走行させるための車両間通信システムを用いた車両間通信方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の車両相互間の通信システム、すなわち車両間通信システムにおいては、一般的な通信のように地上局からの同期信号に依存することができないため、複数台の車両によって形成される隊列内で独自に同期系を設定する必要があった。そこで、従来システムの場合は、特に隊列内での通信の同期確立を図るべく、隊列全体にわたって同期通信を行う方式が採用されている。この方式は、例えば、各々の車両に対して、自車両の前方車両に対する受信機と後方車両に対する送信機とをそれぞれ搭載しておく。そして実際の走行時には、隊列の先頭車両に常に隊列内での同期信号の主導権を与えて、これに続く後続車両については、先頭車両の同期信号に基づいて設定される通信スロットを用いて、隊列内での配列順序に従い車両間通信を行うものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の通信システムにおいては、一旦、隊列が形成されて通信のための同期が確立した段階では効率良く機能するものの、隊列内の車両台数が増加すると、隊列全体の同期確立までにかなりの時間を要することになる。しかも、同期確立までの過程段階にあっては、別途、同期形成のためのアルゴリズムの工夫が必要になり、隊列内での近接車両間の安全性についても十分に保証できないという問題があった。また、隊列内での追越し、割り込み等による配列順序の変化や、隊列に対する車両の離合集散にもフレキシブルに対応できないという問題があった。さらに、先頭車両の同期信号に基づいて割り付けられた通信スロットを用いて隊列内に通信リンクを形成するためには、各車両に対して隊列内での配列順序を把握させておかなければならず、これを、ダイナミックに変動する隊列中の車両や隊列形成途中の車両に対して把握させるのはきわめて困難であった。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係る発明は、道路上を隊列をなして走行している車両相互間で、自車両の動態情報を含む信号を他車両に伝送するもので、各々の車両は、自車両の前方車両に対して送受信機能を有する第1の通信部と自車両の後方車両に対して送受信機能を有する第2の通信部とをそれぞれ独立して備え、前記隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権を先行車両側に常に与えつつ、車両相互間で通信を行う車両間通信システムを用いた車両間通信方法であって、自車両の前方車両に対する受信機能を常に受信可能状態とし、該受信機能にて信号の受信がなされたときに、受信信号の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該前方車両に対する送信機能を送信状態にするとともに、自車両の後方車両に対する送信機能を常に送信状態とし、該送信機能の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該後方車両に対する受信機能を受信可能状態にするものである。また、本発明の請求項2に係る発明は、道路上を隊列をなして走行している車両相互間で、自車両の動態情報を含む信号を他車両に伝送するもので、各々の車両は、自車両の前方車両に対して送受信機能を有する第1の通信部と自車両の後方車両に対して送受信機能を有する第2の通信部とをそれぞれ独立して備え、前記隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権を後方車両側に常に与えつつ、車両相互間で通信を行う車両間通信システムを用いた車両間通信方法であって、自車両の後方車両に対する受信機能を常に受信可能状態とし、該受信機能にて信号の受信がなされたときに、受信信号の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該後方車両に対する送信機能を送信状態にするとともに、自車両の前方車両に対する送信機能を常に送信状態とし、該送信機能の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該前方車両に対する受信機能を受信可能状態にするものである。
【0005】
【作用】本発明の請求項1に係る車両間通信方法においては、隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権を先行車両側に常に与えつつ、車両相互間で通信を行う車両間通信システムを用いた場合に、自車両の前方車両に対する受信機能を常に受信可能状態とし、該受信機能にて信号の受信がなされたときに、受信信号の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該前方車両に対する送信機能を送信状態にするとともに、自車両の後方車両に対する送信機能を常に送信状態とし、該送信機能の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該後方車両に対する受信機能を受信可能状態にすることにより、自車両と前方車両の間で、それぞれの動態情報を含む信号が互いに伝達されるとともに、自車両と後方車両の間で、それぞれの動態情報を含む信号が互いに伝達される。また、本発明の請求項2に係る車両間通信方法においては、隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権を後方車両側に常に与えつつ、車両相互間で通信を行う車両間通信システムを用いた場合に、自車両の後方車両に対する受信機能を常に受信可能状態とし、該受信機能にて信号の受信がなされたときに、受信信号の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該後方車両に対する送信機能を送信状態にするとともに、自車両の前方車両に対する送信機能を常に送信状態とし、該送信機能の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該前方車両に対する受信機能を受信可能状態にすることにより、自車両と後方車両の間で、それぞれの動態情報を含む信号が互いに伝達されるとともに、自車両と前方車両の間で、それぞれの動態情報を含む信号が互いに伝達される。
【0006】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明に係わる車両間通信システムの実施例を示すブロック図であり、これは一台の車両についてのみ、そのシステム構成を例示したものである。図1に示すシステム構成においては、自車両の前方車両に対して送受信機能を有する第1の通信部1と、自車両の後方車両に対して送受信機能を有する第2の通信部2と、自車両の走行駆動源となる各種のアクチュエータ3と、運転者に自車両の動態情報を認識させるためのMMI(マン・マシン・インターフェイス)4と、自車両の動態情報を計測する各種の計測センサ5と、これら全体を制御する制御部6とを具備している。また、第1の通信部1は自車両の前方車両に対して送受信を行うための送信機1a及び受信機1bを、そして第2の通信部2は自車両の後方車両に対して送受信を行うための送信機2a及び受信機2bを、それぞれ独立して備えている。
【0007】制御部6は、例えばCPU(中央演算処理装置)等からなるものであって、第1の通信部1及び第2の通信部2を介して送受信される情報データの作成や取り込み、さらには車両間通信のための同期信号の作成や検出等を行う。さらに、制御部6は、自車両の前方又は後方の近接車両から受信した動態情報に基づいて、例えば自車両をコントロールするためにアクチュエータ3に制御信号を与えたり、MMI4に警告信号を与えて運転者に注意を促したりする動作や、自車両の動態情報を計測センサ5を介して取り込み、これを他車両への送信情報に加える動作等を行う。
【0008】このように本実施例の車両間通信システムでは、各々の車両に対し、自車両の前方車両に対して送受信機能(1a,1b)を有する第1の通信部1と、自車両の後方車両に対して送受信機能(2a,2b)を有する第2の通信部2とを、それぞれ独立したかたちで搭載するようにしている。
【0009】さらに本実施例の車両間通信システムにおいては、隊列を形成している複数台の車両の中にあって、任意の隊列位置で相前後する二台の車両が独立して通信できるように、隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権を、上記二台の車両のうちのいずれか一方、つまり先行車両と後方車両のうちのいずれか一方、例えば先行車両側に常に与えつつ、車両相互間の通信を行うようにしており、以下にその具体的な車両間通信方法について述べる。
【0010】図2は本発明に係わる車両間通信方法を説明するタイムチャートである。ここで、図2は隊列内の任意の位置で相前後する車両間での情報伝達方式を模式的に示したもので、図中に表示した車両No.のうち、「No.n」は自車両を示し、「No.n−1」は自車両nからみた前方車両、「No.n+1」は自車両nからみた後方車両をそれぞれ示している。また、各車両No.の右横に表示した「前方側(1)」は第1の通信部1を示し、「後方側(2)」は第2の通信部2を示している。
【0011】先ず、自車両nは前方車両n−1に対する受信機能、つまり第1の通信部1の受信機1bを常に受信可能状態(オン状態)として走行している。これに対して前方車両n−1は、自車に搭載された第2の通信部2の送信機2aから、図中ハッチングで示す同期信号R1とともに自車両の動態情報D(n−1)を含む信号を常に送信している。したがって自車両nは、前方車両n−1から送信された同期信号R1と動態情報D(n−1)を含む信号とを受信機1bにて受信し、その受信信号の同期信号R1に基づいて設定される通信スロットT1において、受信信号に対する応答信号(ACK)と自車の動態情報D(n)を含む信号とを前方車両n−1に向けて返信する。一方、前方車両n−1側では、自身で送信した同期信号R1に基づいて設定される通信スロットT1に、自車両nから送信された応答信号(ACK)と動態情報D(n)を含む信号とを収める。これにより、自車両nとそれよりも先行する前方車両n−1との間で、それぞれの動態情報を含む信号が互いに伝達されることになる。
【0012】また前方車両n−1との交信とは別個に、自車両nは後方車両n+1に対する送信機能、つまり第2の通信部2の送信機2aを常に送信状態として走行している。すなわち、自車両nの送信部2aからは、上記同期信号R1とは独立した固有の同期信号R2と自車の動態情報D(n)を含む信号とが後方車両n−1に向けて常に送信されている。この信号が後方車両n+1によって受信されると、その同期信号R2に基づいて設定される通信スロットT2において、後方車両n+1からは、受信信号に対する応答信号(ACK)とともに自車の動態情報D(n+1)を含む信号が返信される。これに対して自車両n側では、自身で送信した同期信号R2に基づいて設定される通信スロットT2において、後方車両n+1に対する受信機能、つまり第2の通信部2の受信機2bを受信可能状態(オン状態)とし、後方車両n+1から送信された応答信号(ACK)と動態情報D(n+1)を含む信号とを上記通信スロットT2に収める。これにより、自車両nとこれに続く後方車両n+1との間で、それぞれの動態情報を含む信号が互いに伝達されることになる。以上のような同期系のルールにより、同期信号の伝達が次第に隊列全体に拡張されていき、ついには隊列内の全てで統一的な同期状態が自動的に確立されることになる。
【0013】ここで本実施例においては、前方車両n−1から送信された信号を受信する以前に、自車両nが複数台の車両動態情報を既に蓄積している場合は、その複数車両の動態情報に自車の動態情報を付加して前方車両n−1に返信するようになっている。また、後方車両n+1から応答信号が返信される以前に、自車両nが複数台の車両情報を既に蓄積している場合にも、その複数車両の動態情報に自車の動態情報を付加して後方車両n+1に送信するようになっている。つまり、各車両の動態情報は隣接する車両を逐次的に中継して隊列全体に伝達されるようになっている。このため、任意車両の動態情報が隊列内の全車両に共有されるまでには、上述した中継回数分の伝達遅延が生じることになる。しかしながら車両の動態情報は、隊列走行中の車両の安全性からみれば、近接車両に対してその緊急度が最も高く、遠方車両に対しては比較的緊急度が低いため、適切な通信ビットレートに設定する限り、実用上の障害は生じない。
【0014】また、本実施例の場合には、前方車両に対する交信と後方車両に対する交信とを、それぞれ非同期で独立に行うようになっているため、車両間通信の通信媒体として、例えば波長の長い電波を採用すると、周波数帯域の重複によって信号が互いに干渉(混信)してしまう虞れがある。その混信対策としては、例えばアマチュア無線のように複数の周波数帯域を利用することも考えられる。また、空きの周波数があるか否かの検索機能を別途、追加する対策も考えられる。さらに、より簡易な混信防止手段としては、双方向の通信を完全に分離すべく、指向性をもった光(赤外線等)を車両間通信の通信媒体として採用することも考えられる。
【0015】なお、図2のタイムチャートでは、第1の通信部1及び第2の通信部2が、それぞれ信号の送受信を非同時に行う、いわゆる半二重通信方式を用いた場合を例示したが、本発明のシステム構成では、個々の通信部1,2が送信機能と受信機能とを独立に備えているため、信号の送受信を同時に行う、いわゆる全二重通信方式を採用することも可能である。この全二重通信方式を採用すれば、他車両との交信周期が大幅に短縮されるため、隊列内での情報伝達速度を一層向上させることができる。
【0016】また、上記実施例においては、隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権を「常に先行車両側」に与えるようにしたが、同期信号の主導権については「常に後方車両側」に与えるようにしてもよい。その場合は、自車両の後方車両の対する受信機能、つまり第2の通信部2の受信機2bを常に受信可能状態(オン状態)とし、その受信機2bにて信号の受信がなされたときに、受信信号の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて後方車両に対する送信機能、つまり第2の通信部2の送信機2aを送信状態とする。また、自車両の前方車両に対する送信機能、つまり第1の通信部1の送信機1aを常に送信状態とし、その送信機1aの同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて前方車両に対する受信機能、つまり第1の通信部1の受信機1bを受信可能状態(オン状態)とする。これにより、上記実施例と同様の車両間通信が可能となる。
【0017】
【発明の効果】以上、説明したように本発明によれば、各々の車両が、自車両の前方車両に対する送受信機能と自車両の後方車両に対する送受信機能とをそれぞれ独立して備え、しかも隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権が先行車両側又は後方車両側に常に与えられるため、隊列内で相前後する車両間では、主導権所有車両側の同期信号を基に設定される通信スロットを用いて、それぞれ独立した同期系で先行車両や後方車両との情報通信が可能となり、隊列形成過程における配列順序の変動や車両の離合集散に対してもフレキシブルに対応することができる。さらに、相前後する車両間で独自の同期系をもって交信するため、従来システムのように各々の車両に隊列内での配列順序を把握させなくとも、隊列内で通信リンクを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる車両間通信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係わる車両間通信方法を説明するタイムチャートである。
【符号の説明】
1 第1の通信部
1a 送信機
1b 受信機
2 第2の通信部
2a 送信機
2b 受信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】 道路上を隊列をなして走行している車両相互間で、自車両の動態情報を含む信号を他車両に伝送するもので、各々の車両は、自車両の前方車両に対して送受信機能を有する第1の通信部と自車両の後方車両に対して送受信機能を有する第2の通信部とをそれぞれ独立して備え、前記隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権を先行車両側に常に与えつつ、車両相互間で通信を行う車両間通信システムを用いた車両間通信方法であって、自車両の前方車両に対する受信機能を常に受信可能状態とし、該受信機能にて信号の受信がなされたときに、受信信号の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該前方車両に対する送信機能を送信状態にするとともに、自車両の後方車両に対する送信機能を常に送信状態とし、該送信機能の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該後方車両に対する受信機能を受信可能状態にすることを特徴とする車両間通信方法。
【請求項2】 道路上を隊列をなして走行している車両相互間で、自車両の動態情報を含む信号を他車両に伝送するもので、各々の車両は、自車両の前方車両に対して送受信機能を有する第1の通信部と自車両の後方車両に対して送受信機能を有する第2の通信部とをそれぞれ独立して備え、前記隊列内の相前後する車両間での同期信号の主導権を後方車両側に常に与えつつ、車両相互間で通信を行う車両間通信システムを用いた車両間通信方法であって、自車両の後方車両に対する受信機能を常に受信可能状態とし、該受信機能にて信号の受信がなされたときに、受信信号の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該後方車両に対する送信機能を送信状態にするとともに、自車両の前方車両に対する送信機能を常に送信状態とし、該送信機能の同期信号に基づいて設定される通信スロットにおいて該前方車両に対する受信機能を受信可能状態にすることを特徴とする車両間通信方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3421150号(P3421150)
【登録日】平成15年4月18日(2003.4.18)
【発行日】平成15年6月30日(2003.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−296358
【出願日】平成6年11月30日(1994.11.30)
【公開番号】特開平8−163018
【公開日】平成8年6月21日(1996.6.21)
【審査請求日】平成12年7月25日(2000.7.25)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【参考文献】
【文献】特開 平4−164282(JP,A)