説明

車体組立ライン

【課題】エンジン付き車両とは形式の異なる車両であっても、エンジン付き車両と同じ組立ラインで製造することが可能な車体組立ラインを提供する。
【解決手段】フロアコンベアFCの搬送台車2に車体Wを昇降自在に載置して搬送しながら、複数の工程を備えた複数のゾーンZ1〜Z5で部品を供給して車体組立を行う車体組立ライン10であって、前記車体Wの形式を判別するホストコンピュータHと、ホストコンピュータHにより判別された車体形式に応じて予め設定された前記ゾーンZ1〜Z2の記組み付け工程での組み付け高さに対応した昇降位置に車体Wを昇降させる昇降装置と、車体形式に応じて予め設定された部品を各組み付け工程に供給する部品供給システムとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体組立ラインに関し、特に、エンジン付き車両、ハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両等の異なる形式の車体を同一ラインに搬送して車体組立を行う場合に、最適なライン構成を実現可能な車体組立ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体組立ラインは、伝達通線ゾーン、インテリアゾーン、下廻りゾーン等の複数のゾーンにゾーン分けすることで構成されており、このゾーン分けに対して、異なる車種の車両が混ざりあった所謂混成ラインとなっている。これは車種が異なる場合であっても、組み付け部品が共通しているため、組み付け順や組み付け環境がさほど異なることはなく、ほぼ同様の工程で製造できるからである(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−10340号公報
【特許文献2】特開平6−234407号公報
【特許文献3】特許第4342864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、エンジン付き車両に加えて駆動形態が異なる様々な車両(以下、単に形式が異なる車両(車体)という)、具体的には、ハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両等のような車両が製造され、これら形式が異なる車両も、今までのエンジン付き車両を主体とする車体組立ラインで製造する要請がある。しかしながら、これら形式の異なる車両への部品の組み付けを、エンジン付き車両と同じような組み付け順序や、組み付け環境で行うと、各ゾーン毎の作業工数にバラツキが生じ、極端な場合にはそのゾーンが空きゾーンとなったり、作業者に負担がかかるという課題がある。
エンジン付き車両とは形式の異なる車両を別ラインで個別に組み立てることも考えられるが、共通した工程も数多くあることから効率的ではないという課題がある。
【0005】
そこで、この発明は、エンジン付き車両とは形式の異なる車両であっても、エンジン付き車両と同じ組立ラインで製造することが可能な車体組立ラインを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、フロアコンベア(例えば、実施形態におけるフロアコンベアFC)の車体搬送台車(例えば、実施形態における搬送台車2)に車体(例えば、実施形態における車体W)を昇降自在に載置して搬送しながら、複数の組み付け工程を備えた複数のゾーン(例えば、実施形態における伝達通線ゾーンZ1、インテリアゾーンZ2、下廻りゾーンZ3、エクステリアゾーンZ4、複合検査ゾーンZ5)で部品を供給して車体組立を行う車体組立ライン(例えば、実施形態における車体組立ライン10)であって、前記車体の形式を判別する車体形式判別手段(例えば、実施形態におけるホストコンピュータH)と、前記車体形式判別手段により判別された車体形式に応じて予め設定された前記ゾーンの前記組み付け工程での組み付け高さに対応した昇降位置に前記車体を昇降させる昇降手段(例えば、実施形態における昇降装置3)と、前記車体形式に応じて予め設定された部品を各組み付け工程に供給する部品供給手段(例えば、実施形態における部品供給システムB)とを有することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記各ゾーンの各組み付け工程で前記車体に組み付けられる前記部品が車体形式に係わらず共通する共通部品と、その形式の前記車体に特有の専用部品とで構成され、前記共通部品は予め決められたゾーンで組み付け工程順に前記車体に組み付けられる基本パターンで組み付けられ、前記専用部品は前記基本パターンにおける前記共通部品の組み付け工程の間で組み付けられ、前記車体(例えば、実施形態における燃料電池車両の車体W)に前記共通部品(例えば、実施形態におけるフロアカーペット)を基本パターンにしたがって組み付けて、この組み付け工程の間に前記専用部品(例えば、実施形態における燃料電池スタック)を組み付けようとすると、前記専用部品の組み付け工程(例えば、実施形態における燃料電池スタック組み付け工程Z33F)よりも前に組み付けられる前記共通部品が前記専用部品の組付けの妨げとなる場合には、その形式の車体の部品組み付けに限り、前記基本パターンの組み付け工程順とは異なり、前記共通部品を組み付けるゾーン(例えば、実施形態におけるインテリアZ2)よりも後のゾーン(例えば、実施形態における下廻りゾーンZ3)であって前記専用部品の組み付け工程の後に、前記共通部品を組み付ける共通部品組み付け工程を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、エンジン付き車両とは形式の異なる車両であっても、エンジン付き車両と同じ組立ラインで製造することが可能となるため、形式が異なるだけで別ラインで個別に組み立てた場合に比較して最適なライン構成で効率的に生産ができる。つまり、形式が異なる車両であっても、共通の部品が数多く存在するため、生産ラインを別にすると、共通部品を組み立てる重複したラインを持たなければならず効率的ではないからである。
また、形式の異なる車両毎に、昇降手段により車体が昇降がするタイミングが異なるため、車体の形式が一目で認識できるため、車体形式の認識を素早く行うことができ作業が行い易い。
請求項2に記載した発明によれば、例えば、エンジン付き車両とは形式の異なる車両を製造する際に、基本パターンで組み付けられていた共通部品の組み付け工程を、共通部品が組み付けられるゾーンよりも後のゾーンであって、専用部品が組み付けられる工程よりも後の組み付け工程で組み付けることにより、形式の異なる車両の専用部品を組み付ける際に、既に組み付けられたエンジン付き車両と共通する共通部品を取り外す等、組み付け手順、組み付け環境を悪化させるような無駄あるいは無理な作業が必要なくなるため、作業環境を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施形態の車体組立ラインを示す平面図である。
【図2】搬送台車の昇降姿勢を示す図である。
【図3】ハイブリッド車両の搬送台車の昇降パターンを示す図である。
【図4】電気自動車の搬送台車の昇降パターンを示す図である。
【図5】燃料電池車両の搬送台車の昇降パターンを示す図である。
【図6】リヤサスペンションユニットの組み付け工程を示す図である。
【図7】部品供給システムの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す車体組立ライン10は、フロアコンベアFCの搬送台車2(図2参照)に車体Wを昇降自在に載置して搬送することにより車体組立を行う車体組立ラインである。この車体組立ライン10にはエンジン付き車両の他、駆動形態が相違するため車体形式が異なるハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両が同時に搬送される。尚、この実施形態のハイブリッド車両は、エンジンとミッションの間に走行駆動用モータを挟み込んだ形式の車両を例として説明している。
【0011】
先ず、エンジン付き車両の組立工程に沿って説明する。
車体組立ライン10は複数の部品組立ゾーンを備えている。具体的には、部品組立ゾーンは、伝達通線ゾーンZ1、インテリアゾーンZ2、下廻りゾーンZ3、エクステリアゾーンZ4、複合検査ゾーンZ5の順で構成されている。エクステリアゾーンZ4と直列に接続された複合検査ゾーンZ5を除いては順次各ゾーンの搬送方向が逆向きになっており、全てのゾーンでフロアコンベアFCによる搬送形態を採用している。尚、各ゾーンの名前はそのゾーンで組み付けられる主たる部品の種類を示しているだけであって、組み付けられる部品全てがそのゾーンの名前に対応している部品というわけではない。
【0012】
伝達通線ゾーンZ1は、自動車の電気配線、車内LAN配線、配管等が集約して組み付けられるゾーンであり、床下集中配管、キャビンワイヤハーネス、アンチロックブレーキシステム及びラジエータ等の部品が組み付けられる。
インテリアゾーンZ2は、自動車の内装部品や床部品等が集約して組み付けられるゾーンであり、ルーフライニング、フロアマット、インストルメントユニット及びペダル等の部品が組み付けられる。
【0013】
下廻りゾーンZ3は、自動車の下廻り部品が集約して組み付けられるゾーンであり、燃料タンク、リヤサスペンションユニット、エンジン、フロントサスペンションアッシー、サイレンサ、ブレーキホースパイプ及びタイヤ等の部品が組み付けられる。
エクステリアゾーンZ4は、自動車の外装部品が集約して組み付けられるゾーンであり、ダンパ、シート、ハンドル、バンパ、ウインドウガラス及びドアユニット等の部品が組み付けられる。
複合検査ゾーンZ5は、上流の各組立ゾーンで組み付けられた各種部品や装備の機能確認が行われるゾーンであり、ブレーキオイル、ウォッシャ液、エンジンオイル及びガソリン等が注入され、補機用バッテリ等が組み付けられ、車両の組立が完了する。ここで、機能確認とは、ライトの点灯、ターミナルの結線等の確認をいう。
【0014】
尚、図1には、下廻りゾーンZ3における、エンジン、サスペンション等組み付け工程Z31及びエキゾースト、スプラッシュガード等組み付け工程Z32と、エクステリアゾーンZ4における、ブレーキオイル注入工程Z40、エンジンルーム内装品、シート、テールゲート部品、ウインドウガラス等組み付け工程Z41、ドア組み付け工程Z42、タイヤ組み付け工程Z43、パワーステアリングオイル、ウォッシャ液、ラジエータ液注入工程Z44及びガソリン注入工程Z45の位置を記載している。
【0015】
図2に示すように、フロアコンベアFCは所謂フリクションコンベア方式を使用している。フロアに配設され板状に形成された搬送台車2と、搬送台車2の搬送方向の両側に適宜配置された駆動モータ21と、この駆動モータ21の回転軸に支持されたフリクションローラ22を備えている。搬送台車2は、車輪23を軸支し、この車輪23が走行レール24に沿って走行する。
したがって、フロアコンベアFCは、フリクションローラ22を搬送台車2の両側に当接させて回転駆動し、正回転させることで搬送方向に搬送し、逆回転させることで搬送台車2にブレーキをかけて停止させる。
【0016】
搬送台車2には、昇降自在な昇降装置3が配置されている。車体Wは、昇降装置3の上端に設けた支持部材31の上に載置された状態で搬送される。昇降装置3は所謂クロスリンク機構を採用しており、車体Wを中段(図2上左)、上段(図2上右)、及び下段(図2下)の何れかの位置に自在に昇降できるようになっている。
各ゾーンZ1〜Z5では、車体Wの高さを昇降装置3によって作業に合わせた最適な高さにして、作業者の負担を軽減する。
【0017】
各ゾーンZ1〜Z4で組み付けられる部品は、車体形式によらずに共通する共通部品と、その車体形式に特有の専用部品とで構成され、基本的に共通部品は予め決められたゾーンで組み付け工程順に車体Wに組み付けられる基本パターンで組み付けられ、専用部品は共通部品の組み付け工程の間で組み付けられる。
車体組立ライン10の各ゾーンZ1〜Z4に沿って説明すると以下のような部品が共通部品に該当する。
伝達通線ゾーンZ1では、照明機器類のハーネス、キャビンワイヤハーネス、アンチロックブレーキシステムであり、インテリアゾーンZ2では、ルーフライニング、フロアマット、インストルメントユニット及びペダルであり、下廻りゾーンZ3では、リヤサスペンションユニット、フロントサスペンションアッシー、サイレンサ、ブレーキホースパイプ及びタイヤであり、エクステリアゾーンZ4では、ダンパ、シート、ハンドル、バンパ、ウインドウガラス及びドアユニットである。
【0018】
その車体形式に特有の専用部品としては、以下のようなものがある。
エンジン付き車両の特有の専用部品としてはエンジン、エンジン補機類及び燃料系、排気系の部品となる。
ハイブリッド車両の場合は、エンジン付き車両の場合の専用部品に加えて、走行駆動用モータはエンジンと一体であり組み立てはエンジン組立工程で行われるため、主として走行駆動用バッテリ、三相線、急速充電接続線(プラグインハイブリッド車両の場合)が専用部品となる。
電気自動車の場合は、PCU(パワーコントロールユニット)、PCUフレーム、走行駆動用モータ、走行駆動用バッテリ、DCケーブル、三相線、急速充電接続線が専用部品となる。
また、燃料電池車両の場合は、燃料電池スタック、PCU、走行駆動用モータ、走行駆動用バッテリ、DCケーブル、三相線が専用部品となる。
【0019】
次に、エンジン付き車両以外の車両の専用部品を組み付ける工程について説明する。
図1に示すように、ハイブリッド車両の専用部品である走行駆動用バッテリは、インテリアゾーンZ2の走行駆動用バッテリ組み付け工程Z21Hで、三相線、急速充電接続線はエクステリアゾーンZ4の三相線、急速充電接続線組み付け工程Z40Hで組み付けられる。
【0020】
また、電気自動車の専用部品であるPCUフレームは、伝達通線ゾーンZ1のPCUフレーム組み付け工程Z11Eで、PCUはインテリアゾーンZ2のPCU組み付け工程Z21Eで、DCケーブルはインテリアゾーンZ2のDCケーブル組み付け工程Z22Eで、走行駆動用モータは下廻りゾーンZ3の走行駆動用モータ組み付け工程Z31Eで、走行駆動用バッテリは下廻りゾーンZ3の走行駆動用バッテリ組み付け工程Z32Eで、三相線、急速充電接続線はエクステリアゾーンZ4の三相線、急速充電接続線組み付け工程Z40Eで組み付けられる。
【0021】
ここで、この電気自動車の組み付け工程においては、共通部品はエンジン付き車両の組み付け工程と同じ工程で組み付けられる。
燃料電池車両の車体Wには、電気自動車と共通の部品は電気自動車と同様のゾーンで組み付けられるが、専用部品においては、燃料電池スタックはユニット(燃料電池廻りの装置)毎に下廻りゾーンZ3の燃料電池スタック組み付け工程Z33Fで組み付けられる。
【0022】
ここで、エンジン付き車両、ハイブリッド車両、電気自動車については、図1に示すように、共通部品は伝達通線ゾーンZ1、インテリアゾーンZ2、下廻りゾーンZ3、エクステリアゾーンZ4、複合検査ゾーンZ5の各ゾーンの組み付け工程で決まった順序で組み付けが行われる基本パターンを採用しているが、搬送される車体Wが燃料電池車両である場合には、インテリアゾーンZ2の中の部品組み付け工程の一部が下廻りゾーンZ3の組み付け工程に配置され、車体Wに組み付けられる共通部品の組み付けのタイミングが基本パターンとは異なるようになっている。
具体的には、ゾーンの配置は、伝達通線ゾーンZ1、インテリアゾーンZ2、下廻りゾーンZ3、エクステリアゾーンZ4、複合検査ゾーンZ5の順で変更はないが、基本パターンではインテリアゾーンZ2で組み付けられるフロアマットが、インテリアゾーンZ2よりも後のゾーンである下廻りゾーンZ3であって、燃料電池車両の専用部品である燃料電池スタック組み付け工程Z33Fの後の組み付け工程で組み付けられている。したがって、燃料電池車両の車体Wが載置された搬送台車2には、下廻りゾーンZ3の燃料電池スタック組み付け工程Z33Fの後の組み付け工程で、後述する部品供給システムBの台車6により共通部品としてのフロアマットが搬送される。
【0023】
このように、燃料電池車両の車体Wに組み付けられる共通部品であるフロアマットの組み付け工程が、基本パターンを採用せずインテリアゾーZ2よりも後のゾーンである下廻りゾーンZ3の燃料電池スタック組み付け工程Z33Fの後に設定されているのは、以下の理由による。即ち、燃料電池車両は燃料電池スタックをフロアトンネル部の内部に車室外側から配置してフロアトンネル部に固定する構造であるため、基本パターンに沿ってインテリアゾーンZ2においてフロアマットの組み付けを行った後に、下廻りゾーンZ3で燃料電池スタックを組み付けるようにすると、既にインテリアゾーンZ2で組み付けたフロアマットが燃料電池スタックの組み付けの妨げとなるため、燃料電池スタックの組み付けに先だって取り外す必要があるからである。
尚、各車両の共通部品であるフロアマットを例にして燃料電池車両の共通部品の組み付け順序を、基本パターンと異なる組み付け順とした場合を説明したが、燃料電池車両の他の専用部品あるいは他の形式の車両の専用部品の組み付けにおいて、共通部品を基本パターンで組み付けようとすると、専用部品の組み付けの際に同様の不具合が生ずる場合にも適用できる。
【0024】
ここで、図3〜図5は、車体組立ライン10において、エンジン付き車両とは形式が異なる車種毎に搬送台車2の作業高さが変化する様子を実線で示している。尚、搬送台車2の支持部材31の高さは3段階に変更できるが、説明を簡単にするために上段と下段の2段階に変化した状況を示す。また、車体組立ライン10は、組立工程の終了を示すAF−OFFの信号をホストコンピュータHが受信するライン終端までの長さを簡略化のために短くして説明し、昇降装置3は図示を省略している。
【0025】
エンジン付き車両だけが搬送される車体組立ラインでは、搬送台車2の支持部材31の昇降動作は同じであるため、一種類だけの昇降パターンとなる。
しかしながら、形式の異なる車両が混在して搬送されると、共通部品についてはエンジン付き車両と同じ昇降高さで組み付けが行われるが、専用部品については支持部材31を異なる高さにしなければならない場合がある。
したがって、形式が異なる車体Wに応じて搬送台車2の昇降装置3による支持部材31の昇降パターンは異なることになる。つまり、形式の異なる車体Wの昇降高さの変化パターンは、共通部品の組み付けのための昇降高さの変化パターンに加えて、専用部品の組み付けのための昇降高さの変化パターンが加算されたものとなる。
これによって、一つの車体組立ライン10でありながら、エンジン車両の他に三種類の形式の異なる車両に対応して、昇降装置3により支持部材31の高さを最適に調整し、形式の異なる車両を同一車体組立ラインで製造できるようにしている。尚、エンジン付き車両の昇降パターンの他に三種類の昇降パターンが必要となるのは、この実施形態のハイブリッド車両はエンジンを搭載する際にモータの搭載も同時に行われるため、エンジン及びエンジン関連部品の組み付けに関してはエンジン付き車両と工程の差はないが、モータ関連部品の組み付けが必要となるためエンジン付き車両とは異なる昇降パターンとなり、結果的にハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両との三種類の昇降パターンが必要になっている。
【0026】
具体的には、例えば、図3に示すように、ハイブリッド車両の組み立てでは、搬送初期に2工程、搬送中期に6工程だけ昇降装置3によって支持部材31が上段となる場合があるが、図4に示すように、電気自動車の車体Wの組み立では、エンジン付き車両よりも上流側の搬送初期に2工程、その後の搬送中期に3工程、搬送終期の2工程で上段となる工程がある。また、図5に示すように、燃料電池車両の車体Wの組み立てでは、ハイブリッド車両よりも上流側の搬送中期に4工程、その後の搬送最終期に3工程で上段となる工程がある。尚、図3〜図5は各昇降パターンが異なるものになることを模式的に示したものであるので、全工程の工程数などは図1と異なっている。
【0027】
ここで、搬送台車2の昇降パターンの変更は、塗装工程の終了を示すPA−OFF信号をホストコンピュータHが受信し、機種データ及び搬送台車2のIDタグから情報を受け取ることにより、投入車両に関する受信データであるAF−ONデータがホストコンピュータHに送信され、ホストコンピュータHが車体Wの形式を判別することにで自動的に行われる。
尚、搬送台車2が支持部材31を上段、下段(あるいは上段、中段、下段)に調整するが、上段、下段の高さは作業者の身長に合わせて微調整することができる。
【0028】
ここで、図6は、ハイブリッド車両のリヤサスペンションユニット25を組み付ける工程を示している。搬送台車2には、昇降速度の速いチェーン駆動式の昇降装置3により上段位置にされた支持部材31の上にエンジン付き車両の車体Wが載置されている。車体Wの後部下方には、車体Wに対する位置決め治具26を備えたサスペンション支持装置27が車体Wの下方位置に移動可能に設けられている。サスペンション支持装置27のベース28上にはリフタ29を介して支持テーブル30が昇降可能に支持され、支持テーブル30の上に、予めサブラインで子組されたリヤサスペンションユニット25が支持されている。
【0029】
このサスペンション支持装置27はリヤサスペンションユニット25を下方から車体Wの後部下面に組み付ける際に上方向に力を付与(連続的に昇降運動をさせて)した状態で組み付ける装置である。この付与する力は、タイヤを組み付けて車両が設地した際に作用する車体Wの荷重分の力を、リヤサスペンションユニット25を組み付ける際に予め付与するための装置である。ここで、このサスペンション支持装置27の支持テーブル30の下には、加振装置32が設けられ、リヤサスペンションユニット25のブッシュ33を車体Wに組み付けた際に、振動を与えてブッシュ33の車体Wに対してなじませるようにしている。このように、加振装置32によりブッシュ33をなじませておかないと、複合検査ゾーンZ5において、キャンバ、トー角の調整をした後にブッシュ33の取付部分でズレが生じて、キャンバ、トー角の再調整が必要となるからである。
よって、タイヤ取付後にタイヤに振動を与え、部品のフリクションを除去した後に検査を行う必要がなくなり、ライン長をその分だけ短くできる。
【0030】
図7は部品供給システムBを示している(図1には示さない)。この部品供給システムBは、互い搬送方向が異なる2つのゾーンにまたがって設けられている。以下の説明では、上流側のゾーンとしての伝達通線ゾーンZ1と下流側のゾーンとしてのインテリアゾーンZ2との間に設けられている部分を例にして説明する。尚、これ以外のゾーンでも同様の構成の部品供給システムBが設けられているので説明は省略する。
伝達通線ゾーンZ1,インテリアゾーンZ2は互いに搬入端と搬出端が近接して配置され、各ゾーンZ1,Z2では搬送台車2に車体Wが載置されて矢印方向に搬送される。
【0031】
各ゾーンZ1,Z2の搬入端の一側には搬送台車分離ステーション4が配設されている。各ゾーンZ1,Z2の搬出端の一側には搬送台車連結ステーション5が配設されている。各ゾーンZ1,Z2の搬入端又は搬出端には各ゾーンZ1,Z2において組み立てに必要な部品を各々1台の台車6に配膳する部品配膳ステーション7が配置されている。尚、図1において、図示都合上、部品配膳ステーション7はやや小さめに描かれている。また、図7に示す台車6において×で示すのは部品が収納されている様子を示す。
【0032】
自走式搬送台車8には複数の台車6が縦列連結可能にされている。部品配膳ステーション7では自走式搬送台車8に近い台車6から各ゾーンZ1,Z2上で組み立てられる製品順に部品が載置され、自走式搬送台車8により縦列連結された台車6が各搬送台車分離ステーション4に向けて搬送される。
【0033】
各搬送台車分離ステーション4では、自走式搬送台車8と台車6の連結が解除され、かつ台車6同士の連結も解除され、各ゾーンZ1,Z2上で組み立てられる製品順に台車6が整列される。
ここで、各搬送台車2の一側には台車6の一側に配設された車輪を載置するため係合凹部が形成されている。台車6を各搬送台車2に係合した状態で各部品組み付け工程で車体Wに部品の組み付けを行う。
各ゾーンZ1,Z2において部品の組み付けが完了し空になった台車6は、各ゾーンZ1,Z2の搬出端の一側に配設された搬送台車連結ステーション5に整列される。
【0034】
伝達通線ゾーンZ1の搬入端の一側に配置された搬送台車分離ステーション4で台車6と分離された自走式搬送台車8は、インテリアゾーンZ2の搬出端の一側に配設された搬送台車連結ステーション5に向けて移動し、搬送台車連結ステーション5で整列された空となった台車6を連結して部品配膳ステーション7に復帰する。
また、インテリアゾーンZ2の搬入端の一側に配置された搬送台車分離ステーション4で台車6と分離された自走式搬送台車8は、伝達通線ゾーンZ1の搬出端の一側に配設された搬送台車連結ステーション5に向けて移動し、搬送台車連結ステーション5で整列された空となった台車6を連結して部品配膳ステーション7に復帰する。
【0035】
各部品配膳ステーション7内と、各部品配膳ステーション7から各ゾーンZ1,Z2の搬入端の一側に配設された搬送台車分離ステーション4との間、各搬送台車分離ステーション4と各ゾーンZ1,Z2の搬出端の一側に配設された搬送台車連結ステーション5との間、各搬送台車連結ステーション5から各部品配膳ステーション7間には、磁気テープ等からなる軌道Kが敷設されている。自走式搬送台車8は磁気テープにしたがって軌道K上を移動する。
【0036】
各ゾーンZ1,Z2の搬入端の一側に配設された搬送台車分離ステーション4には図示しない第1停止マーカーが敷設され、自走式搬送台車8は第1停止マーカーで停止した後、台車6との係合を解除する。
また、各ゾーンZ1,Z2の搬出端の一側に配設された搬送台車連結ステーション5には第2停止マーカーが敷設され、自走式搬送台車8は第2停止マーカーで停止した後、空の台車6と係合する。
部品配膳ステーション7には図示しない第3停止マーカーが敷設され、自走式搬送台車8は第3停止マーカーで停止した後、台車6との係合を解除する。
【0037】
部品配膳ステーション7では、作業者は空の台車6同士の連結を解除し、所定の位置に空の台車6を整列させる。
次いで、部品配膳ステーション7では、作業者が順位データに基づいて部品棚17から該当する部品を取り出し、台車6に積載し、順位通りに連結する。
順位通りに連結された先頭の台車6と自走式搬送台車8を係合させて、自走式搬送台車8を無線で起動させ、各ゾーンZ1,Z2の搬入端の一側に配設された搬送台車分離ステーション4に向けて軌道上を移動する。
【0038】
ここで、台車6には上下方向に複数段の載置部が形成され、この載置部に複数の部品パレット18が互いに載置されている。各部品の積載位置は定番地化され、該当する部品パレット18に載置される。
【0039】
部品棚17の1列の部品棚7aには同種の部品(例えばドアミラー)であり、かつ異機種のものが混在して順位通りに配列され、作業者は部品棚7aから順番に取り出し部品パレット18の定番地に積載する。
これにより、同種の部品について、機種毎の部品棚7aを配置する必要はないため、省スペース化を図ることが可能となり、作業者の歩行数も削減できる。また、同種の部品について、複数の部品棚7aが存在しないため、人為的な部品の誤抽出を防止できる。
【0040】
上記実施形態によれば、エンジン付き車両とは形式の異なる、例えばハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両であっても、エンジン付き車両と同じ組立ラインで製造することが可能となるため、車両の形式が異なるだけで別ラインで個別に組み立てた場合に比較して最適なライン構成で効率的に生産ができる。
つまり、ハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両であっても、エンジン付き車両と共通の部品が数多く存在するため、生産ラインを別にすると、共通部品を組み立てる重複したラインを持たなければならず効率的ではないからである。
【0041】
また、エンジン付き車両、ハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両毎に、昇降装置3により車体Wが昇降するパターン(あるいはタイミング)が異なるため、車体Wの形式が一目で認識でき、作業者が車体形式の認識を素早く行うことができ作業が行い易い。
そして、例えば、燃料電池車両を製造する際に、基本パターンではインテリアゾーンZ2で組み付けていた共通部品であるフロアマットの組み付け工程を、インテリアゾーンZ2よりも後のゾーンである下廻りゾーンZ3であって、燃料電池スタック組み付け工程Z33Fの後に設定したため、燃料電池車両の専用部品である燃料電池スタックをユニット毎組み付ける際に、既に組み付けられたフロアマットを取り外さなくてもよくなり、その分だけ、組み付け手順、組み付け環境を悪化させるような無駄あるいは無理な作業が必要なくなるため、作業環境を向上することができる。
【0042】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、全てのゾーンZ1〜Z5においてフロアコンベアFCによる搬送形態を採用したが、これに限定されるものではない。昇降装置3はクロスリンク機構を例に説明したが、それ以外のチャックチェーン機構、噛み合いチェーン機構あるいはカムレール機構を採用することができる。また、車体Wの投入検知をAF−ONのタイミングで行っていたが、PA−OFFのタイミングで検知してもよい。そして、搬送台車2の昇降についてはラインサイドに設けたIDタグをその都度検出して昇降させてもよい。更に、ライン長を短くするため、下廻りゾーンZ3だけ車体Wを横に向けて搬送した例で説明したが、下廻りゾーンZ3の車体Wの向きを他のゾーンと同じように縦向きにしてもよい。
また、車体組立ラインに配置されるゾーンは、伝達通線ゾーンZ1、インテリアゾーンZ2、下廻りゾーンZ3、エクステリアゾーンZ4、複合検査ゾーンZ5と配置されたものを例にしたが、下廻りゾーンZ5、伝達通線ゾーンZ1、複合検査ゾーンZ5、インテリアゾーンZ2、エクステリアゾーンZ4、再び複合検査ゾーンZ5というゾーン配置の車両にも適用できるなど、ゾーンの配置は、実施形態で説明したものに限られない。
【符号の説明】
【0043】
FC フロアコンベア
2 搬送台車(車体搬送台車)
W 車体
Z1 伝達通線ゾーン
Z2 インテリアゾーン
Z3 下廻りゾーン
Z4 エクステリアゾーン
Z5 伝達通線ゾーン
10 車体組立ライン
H ホストコンピュータ(車体形式判別手段)
3 昇降装置(昇降手段)
B 部品供給システム(部品供給手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアコンベアの車体搬送台車に車体を昇降自在に載置して搬送しながら、複数の組み付け工程を備えた複数のゾーンで部品を供給して車体組立を行う車体組立ラインであって、
前記車体の形式を判別する車体形式判別手段と、
前記車体形式判別手段により判別された車体形式に応じて予め設定された前記ゾーンの前記組み付け工程での組み付け高さに対応した昇降位置に前記車体を昇降させる昇降手段と、
前記車体形式に応じて予め設定された部品を各組み付け工程に供給する部品供給手段とを有することを特徴とする車体組立ライン。
【請求項2】
前記各ゾーンの各組み付け工程で前記車体に組み付けられる前記部品が車体形式に係わらず共通する共通部品と、その形式の前記車体に特有の専用部品とで構成され、前記共通部品は予め決められたゾーンで組み付け工程順に前記車体に組み付けられる基本パターンで組み付けられ、前記専用部品は前記基本パターンにおける前記共通部品の組み付け工程の間で組み付けられ、前記車体に前記共通部品を基本パターンにしたがって組み付けて、この組み付け工程の間に前記専用部品を組み付けようとすると、前記専用部品の組み付け工程よりも前に組み付けられる前記共通部品が前記専用部品の組付けの妨げとなる場合には、その形式の車体の部品組み付けに限り、前記基本パターンの組み付け工程順とは異なり、前記共通部品を組み付けるゾーンよりも後のゾーンであって前記専用部品の組み付け工程の後に、前記共通部品を組み付ける共通部品組み付け工程を配置したことを特徴とする請求項1記載の車体組立ライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−1122(P2013−1122A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130448(P2011−130448)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】