説明

車椅子収納構造

【課題】車椅子の収納及び搬出の作業性の向上を図り、車椅子を車体に固定する作業を特に行う必要のない車椅子収納装置を提供する。
【解決手段】車両デッキ2で運転席11後部から斜め後方のコーナー部に向けて斜めに配置したガイドレール21と、ガイドレール21上を往復走行するスライダー22と、スライダー22の移動で車外斜めに引き出し車椅子を載置する車椅子載置アーム23と、を有し、車椅子載置アーム23はスライダー22の移動方向と交わる方向にピン部23Dを備え、スライドレール22はピンを受けるピン受け部23Eを備え、車椅子載置アーム23を室内に引き込んだ状態で、車椅子載置アーム23のピン部23Dが係合する。スライドレール21の上方に車椅子の後輪を上側から保持する車椅子保持機構24を装備し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両室内に車椅子を収納する車椅子収納構造に係り、より詳細には、折り畳んだ車椅子を容易にかつ簡便に収納、搬出できる車椅子収納構造に関する。
【背景技術】
【0002】
折り畳んだ車椅子を車両内に収納するための車椅子収納装置が開発されている。このうち車椅子利用者が自動車を運転できるよう利便性を図った車椅子収納装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
図7は従来の車椅子収納装置60を装備した車両50の室内の様子を模式的に示す平面図であり、図8は図7に示す車両50において車椅子利用者が車椅子70を車両50に収容する様子を模式的に示す図である。図中のFrは車両前方を、Wは車幅方向外向きを示す。従来の車椅子収納装置60は、図7に示すように、運転席51及び助手席52と後部座席53との間のフロアに車幅方向に配置されている。車椅子収納装置60は、車幅方向に沿うようフロア上に配置されるガイドレール61と、このガイドレール61上を移動装置62により移動する車椅子載置アーム63と、を備えている。
【0004】
車椅子の利用者である運転手が車椅子70を取り出す場合、リヤドア54をスライドさせ、先ず、車両50と車椅子70とを固定している車椅子固定用ベルト66を緩め、移動装置62を操作して車椅子載置アーム63を車幅外方向に引き出す。その後、車椅子載置アーム63に跨るように設けられている前輪引掛部64から車椅子70の前輪を外し、車椅子70を車椅子載置アーム63から引き出す。
【0005】
逆に、車椅子利用者が車椅子70を車両50に収納する場合、前述の取り出し手順と逆の手順で車椅子70を車椅子載置アーム63に載せ、車両内に車椅子載置アーム63を戻し、図8に示すように、車椅子利用者が右手で運転席51のヘッドレストを掴み、かがみ込んで、車椅子固定用ベルト66で車椅子70を車両50に固定する。車椅子固定用ベルト66は、一対のベルトの各端が車両に固定され、一方のベルトの他端部にはバックルが装着され、このバックルに他方のベルトの他端部が係合して締め付けられる構造を採用している。
【0006】
【特許文献1】特開2000−108770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7及び図8に示す従来の車椅子収納装置60では、ガイドレール61及び車椅子載置アーム63が車幅方向に沿って配置されているため、次のような課題がある。第1に、車椅子載置アーム63を車外に引き出したり、引き込んだりするために使用できる幅は、センターピラー55と後部座席53のシートクッション先端との間に限られる。第2に、車椅子70は車椅子固定用ベルト66の締め付けで車両50に固定されるので、車椅子利用者がそのベルト調整を行う際には困難が伴う。特に、図8に示すように、車椅子利用者が運転席から降りて車両後方に向いてベルト調整の操作を行うことは労を要する。第3に、通常の用法に従い後部座席53を使用することはできず、運転席51及び助手席52にしか座ることができない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、車椅子の収納及び搬出の作業性の向上を図り、車椅子を車体に固定する作業を特に行う必要のない車椅子収納装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、車両デッキで運転席後部から斜め後方のコーナー部に向けて配置されるガイドレールと、ガイドレール上を往復走行するスライダーと、スライダーの移動で車外斜めに引き出され車椅子を載置する車椅子載置アームとを備えることを特徴とする。この構成により、車椅子収納に使用できる幅が、開口状態でのリヤドア前端と運転席後端との間となるので、より大きなサイズの車椅子を搬入、搬出することができる。ガイドレール上をスライダーが往復走行することで車椅子載置アームが車両斜め前方に向けて移動するので、車椅子利用者は車両後方を向く必要がなく、運転席に座ったままで車椅子の搬入、搬出作業を行うことができる。
【0010】
好ましくは、スライドレールの上方に車椅子の後輪を上側から保持する車椅子保持機構を備える。この構成により、車椅子搬入の際、車椅子載置アーム上に車椅子を載せて車椅子載置アームをスライダーの移動により室内に引き込ませることで、車椅子保持機構が車椅子の後輪を保持するため、従来のような車椅子固定用ベルトにより車椅子を車両に固定する必要がない。
【0011】
車椅子載置アームはスライダーの移動方向と交わる方向にピン部を備え、スライドレールはピンと係合するピン受け部を備え、車椅子載置アームが室内に引き込まれた状態で、車椅子載置アームのピン部がピン受け部と係合する。これで、車椅子を載せていない状態においても、車椅子載置アームがスライドレールとピン部及びピン受け部で係合しているため、車両運転時においても車椅子載置アームがスライダーを基点として上下動することがない。
【0012】
車椅子保持機構は、車椅子の後輪上部を上側から挟み込む車輪挟持部を、車両デッキから立設されたフレームに取り付けられてなる。これで、車椅子後輪を車輪挟持部が保持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車椅子収納構造によれば、収納する車椅子の大きさによる制限を緩和し、車椅子の利用者であっても車椅子の収納作業や搬出作業を行え、車椅子利用者の利便性を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1〜図6を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る車椅子収納構造を備えた車両を示す斜視図、図2は図1に示す車室内の模式的平面図、図3は図1に示す車椅子収納構造自体の正面図、図4は図1に示す車椅子収納構造における車椅子保持機構の一部を示す側面図である。
【0015】
本実施形態に係る車椅子収納構造20は、図1に示されているように、車両1の室内において、車両デッキ2で運転席11の後部から斜め後方のコーナー部に向けて斜めに配置されるガイドレール21と、このガイドレール21上を往復走行するスライダー22と、ガイドレール21の上方にこのガイドレール21に沿って配置される車椅子載置アーム23とを備え、スライダー22上のブラケット22aで車椅子載置アーム23の端部が固定されている。ブラケット23aにはカバー22bが被覆されている。スライダー22が電動機構(図示せず)で駆動されることで、スライダー22が斜め後方のコーナー部から運転席11の後部近傍まで移動するため、車椅子載置アーム23がリヤドア14の開口から斜め前方に外方向に部分的に引き出される。
【0016】
この車椅子載置アーム23は、ガイドレール21とほぼ等距離を保つ水平部23aとこの水平部23aに連続するように傾斜した傾斜部23bとを有するアーム本体23Aを備え、アーム本体23Aに対し、アーム本体23Aの傾斜部23bの所定部位には前輪収納部23Bが取り付けられ、アーム本体23Aにおける傾斜部23bの端部には後輪載置部23Cが取り付けられている。このアーム本体23Aにおいて、さらに、前輪収納部23Bと後輪載置部23Cとの間に、アーム本体23Aからスライド方向と交わる方向にアーム移動阻止用ピン部23Dが突出するように設けられている。このアーム移動阻止用ピン部23Dは図示した例ではアーム本体23Aの両側に設けられているが、片側のみに設けるようにしてもよい。
【0017】
前輪収納部23Bには、前輪引掛部23cがアーム本体23Aを跨ぐようにアーム本体23Aの上方に配置されている。具体的には、図示するように、傾斜部23bと直交するようにプレート部23dが固定され、プレート部23dの両サイドから一対の鍔部23eが立設され、この一対の鍔部23eで前輪引掛部23cがアーム本体23Aから所定の高さで支持されている。
【0018】
後輪載置部23Cは、アーム本体23Aにおいてスライダー22への取付位置と逆側に設けられ、車椅子30の後輪を載置する軸部23fに対し、外側に板状の脱輪防止用ストッパー23gが固定され、かつ内側に回転体23hが軸支され、アーム本体23Aのサイド側に固定されて構成されている。回転体23hと脱輪防止用ストッパー23gとの間の軸部23fに車椅子の後輪が載置される。
【0019】
アーム移動阻止用ピン部23Dは、アーム本体23Aで前輪収納部23Bと後輪載置部23Cとの間に、スライドレール21のスライド方向と交わる方向に延設されている。図ではアーム本体23Aに直交させて両サイドに延設しているが、一方のサイドにのみ設けても良い。このアーム移動阻止用ピン部23Dの位置と対応するようにスライダー22がガイドレール21に完全に引き込まれている状態において、アーム移動阻止用ピン部23Dと係合する位置に、ガイドレール21から上方に一対のピン受け部23Eが立設されている。ピン受け部23Eには外方向にピン挿入口が設けられ、ガイドレール21上にアーム本体23Aが引き込まれると、アーム本体23Aに取り付けられたアーム移動阻止用ピン部23Dが、ガイドレール21から立設した一対のピン受け部23Eと係合する。これで、車椅子30を車椅子載置アーム23に載せていない場合であっても、アーム本体23Aが上下移動を阻止し、車両運転時に車椅子載置アーム23が上下にバタつかなくなる。
【0020】
さらに、車椅子収納構造20では、図1に示すように、ガイドレール21と運転席11との間に車椅子保持機構24が設けられている。車椅子保持機構24は、例えば、次のように構成されている。
車両デッキ2に一対の支柱24aが立設され、一対の支柱24a間にガイドレール11に沿って連結部24bがかけ渡され、略U字状のフレーム24Aが車両デッキ2に立設されている。フレーム24には、図示するように運転席側に倒れ防止用の補強支柱24cが斜めに車両デッキ2に立てかけられている。
【0021】
フレーム24Aにおいて、図3及び図4に示すように、一対の支柱24aと連結部24bとの間に取付パネル24Bが取り付けられ、この取付パネル24Bに車輪挟持部24Cが高さ調整可能に取り付けられている。車輪挟持部24Cは、取付パネル24Bに並行に取り付けられる鉛直プレート部24dと、鉛直プレート部24dの上端からガイドレール21の上方に向けて傾斜する傾斜部24eと、傾斜部24eの上端からスライドレール21側に延設される後輪被覆部24fと、後輪被覆部24fから斜め下方に傾斜した離脱防止プレート部24gとが一体に構成されてなり、断面略J字状でガイドレール11に沿ってスライダー22側に下降傾斜するように延設されてなる(図6参照)。鉛直プレート部24dには一対の長孔24hが設けられ、収納する車椅子30の後輪寸法に合わせて車輪挟持部24Cの高さを調整して、長孔24hと取付パネル24Bの貫通穴とに螺子などの止め具24iの軸部を挿通して固定される。
【0022】
次に、本実施形態に係る車椅子収納構造20を備えた車両1への車椅子30の搬入及び搬出の仕方について説明しながら、車椅子収納構造20の作用を説明する。図5は図1に示す車椅子収納構造20の作用を模式的に示す図、図6は車椅子収納構造20における車椅子保持機構24の作用を模式的に示す図である。
【0023】
車椅子利用者は運転席から外側方向を向いて、図5(A)に示すように運転席11に着座したまま、リヤドア14を開け、センターピラー15の室内側に設けられたスライダー駆動機構の電動リモコン25を取り出し、電動リモコン25で駆動機構を操作する。すると、スライダー22がガイドレール21上を走行し、矢印で示すように、車椅子載置アーム23の一部が車外斜めに引き出される。
【0024】
車椅子利用者が、図5(B)に示すように運転席11に着座した状態でセンターピラー15に右手を掛け、図5(C)に示すように左手で車椅子30の前輪軸部を前輪収納部23Bにおける前輪引掛部23cに引っ掛けた後に、車椅子後輪を後輪載置部23Cに載せる。
その後、車椅子利用者が、図5(D)に示すように、運転席に着座し直し電動リモコン25を操作することで、スライダー22がガイドレール21上を逆走行し、矢印で示すように、車椅子30を載せた状態で車椅子載置アーム23が車内に引き戻される。そのとき、図6に示すように、車椅子保持機構24Cにおける車輪挟持部24cに車椅子70の後輪が嵌まり、車椅子挟持部24cで車椅子70の後輪が保持される。
【0025】
以上の説明では、車椅子30を車内に収納する場合を説明したが、車椅子30を車から取り出す場合は逆の手順操作を行えばよい。
【0026】
本実施の形態では、車椅子収納構造20は車両デッキ2上で運転席11後部から後方斜めのコーナー部に斜めに配置されることから、リヤドア14を開口した際、センターピラー15とデッキサイドトリム16との間に形成される開口は従来のセンターピラーとリアクッションとの間に形成される開口より幅が広いため(図2参照)、収納する車椅子の大きさによる制限を緩和することできる。また、従来では後部座席を通常の用法で使用することができないが、図2に示すように通常の用法で使用可能な後部座席13を確保することができる。さらに車椅子載置アーム23に車椅子30が搭載されていない場合であっても、車椅子載置アーム24におけるスライダー22と逆側は、ピン部23Dがピン受け部23Eに係合しているので、車両1が運転走行する際、車椅子載置アーム23の一端部がバタつかず、車両1を安定走行することを妨げない。
【0027】
本発明の実施形態では、車椅子保持機構24は運転席とガイドレール21との間に設けているが、車両デッキ2でガイドレール21の後側に設けても良い。各部材の形状などは本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る車椅子収納構造を備えた車両を示す斜視図である。
【図2】図1に示す車室内の模式的平面図である。
【図3】図1に示す車椅子収納構造自体の正面図である。
【図4】図1に示す車椅子収納構造における車椅子保持機構の一部を示す側面図である。
【図5】図1に示す車椅子収納構造の作用を模式的に示す図である。
【図6】車椅子収納構造における車椅子保持機構の作用を模式的に示す図である。
【図7】従来の車椅子収納装置を装備した車両の室内の様子を模式的に示す平面図である。
【図8】図7に示す車両において車椅子利用者が車椅子を車両に収容する様子を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1:車両
2:車両デッキ
11:運転席
12:助手席
13:後部座席
14:リヤドア
15:センターピラー
16:デッキサイドトリム
20:車椅子収納構造
21:ガイドレール
22:スライダー
22a:ブラケット
22b:カバー
23:車椅子載置アーム
23A:アーム本体
23B:前輪収納部
23C:後輪載置部
23D:アーム移動阻止用ピン部
23E:ピン受け部
23a:水平部
23b:傾斜部
23c:前輪引掛部
23d:プレート部
23e:鍔部
23f:軸部
23g:脱輪防止用ストッパー
23h:回転体
24:車椅子保持機構
24A:フレーム
24B:取付パネル
24C:車輪挟持部
24a:支柱
24b:連結部
24c:補強支柱
24d:鉛直プレート部
24e:傾斜部
24f:後輪被覆部
24g:離脱防止プレート部
24h:長孔
24i:止め具
25:電動リモコン
30:車椅子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両デッキで運転席後部から斜め後方のコーナー部に向けて配置されるガイドレールと、上記ガイドレール上を往復走行するスライダーと、上記スライダーの移動で車外斜めに引き出され車椅子を載置する車椅子載置アームと、を備えることを特徴とする、車椅子収納構造。
【請求項2】
さらに、前記スライドレールの上方に車椅子の後輪を上側から保持する車椅子保持機構を備えることを特徴とする、請求項1に記載の車椅子収納構造。
【請求項3】
前記車椅子載置アームは前記スライダーの移動方向と交わる方向にピン部を備え、
前記スライドレールは上記ピン部と係合するピン受け部を備え、
前記車椅子載置アームが室内に引き込まれた状態で、前記車椅子載置アームのピン部が上記ピン受け部と係合することを特徴とする、請求項1に記載の車椅子収納構造。
【請求項4】
前記車椅子保持機構は、車椅子の後輪上部を上側から挟み込む車輪挟持部を、車両デッキから立設されたフレームに取り付けられてなることを特徴とする、請求項2に記載の車椅子収納構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−18689(P2009−18689A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182697(P2007−182697)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)