説明

車軸ケースの構造

【課題】車軸ケースに前後曲げモーメントが作用した際に、カバー溶接部と、カバーの取付面部およびカバー本体部の境界部とにおける応力を低減させ、変形を抑えると共に耐久性を向上させる。
【解決手段】本発明では、板金溶接組立構造の車軸ケースの構造について、カバーの略半球殻形状からなるカバー本体部の外周に沿って環状に設けられたフランジ状の取付面が、左右2個所に取付面の他の個所よりも幅広となる幅広面部を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車軸ケースのカバーの変形を抑えて信頼性を高めた車軸ケースの構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すような板金溶接組立構造の車軸ケース21は上下の側板22、23の両端部をお互いに突合わせて溶接したものの中央開口部24の前方にギヤケースを取り付けるためのリング状の補強材25を溶接し、後方にはギヤの潤滑油等を密閉するための略半球殻形状のカバー30を溶接している。
このような車軸ケース21には主要荷重となる前後力が図示しないトルクロッド等を介して入力されるので、車軸ケース21にその中央部分が前後方向にたわむような曲げモーメントが作用する。
すると、前記中央開口部24及びそれに溶接されているカバー30は、図8に示す図中二点鎖線から実線位置で示すように車軸ケースの軸線Lに沿った左右方向が長軸となり、上下方向が短軸となるような楕円形状に近づくように変形する。
このため、これらの変形時に前記楕円形の長軸方向の左右2箇所に相当するカバー30と上下側板22.23との溶接ルート部、およびカバー30に設けられた略半球殻状のカバー本体部30Aとフランジ状の取付面部30Bとの境界部には大きな引張りの応力が発生し、疲労亀裂や油漏れの原因となる虞れがあった。
また、車軸ケースにとって最大となる上下荷重が入力した場合にはカバーは楕円形ではなく略三角形に近づくように変形するが、カバー上部と左右斜め下の3ヵ所には同様の引張り応力が作用する。
そこで、これらの応力を緩和し、同部の耐久性を向上させるにはカバー30の外周を徐々に小さくしていき、カバー端面を従来の取付面部30Bとカバー本体部30Aとの境界に設けられた湾曲した曲げ部分にカバーの外周端面を配置するものが実用化されている。
ところが、上記形状にすると、上下荷重に次いで車軸ケース21にとって大きな前後入力が作用した場合、カバー取付部となる中央開口部24が左右を長軸とする楕円形状に変形する際にフランジ状の取付面部30Bの左右部分と略半球殻形状のカバー本体部30Aとの境界付近に大きな曲げ応力が発生し、カバー溶接部のビード止端部が前記曲げ応力発生部に位置することから同部の強度が低下する虞れがあった。
また、本出願人は、特許第2685717号によりカバー取付面の溶接部に加えてカバーの裏側と側板との溶接部を追加することにより、溶接ルート部の応力集中を緩和する方法を提案しているが、溶接工数の増加を伴い、また前記のようなカバーの取付面と半球殻形状の境界部の応力緩和には十分でない。
【特許文献1】特許第2685717号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、上記事情に鑑みて創案されたものであって、その主たる課題は、車軸ケースに前後曲げモーメントが作用した際に、カバー溶接部と、カバーの取付面部およびカバー本体部の境界部とにおける応力低減と耐久性を向上させる車軸ケースの構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、請求項1の発明では、
溝形断面を有し長手中央部がそれぞれのウェブ面側に膨らんで中央開口部を形成する上下の側板と、中央開口部の前後の縁部にそれぞれ固着されるリング状の補強板および略半球殻状のカバーとから構成される板金溶接組立構造の車軸ケースの構造において、
前記カバーの略半球殻形状からなるカバー本体部の外周に沿って環状に設けられたフランジ状の取付面が、左右2個所に前記取付面の他の個所よりも幅広となる幅広面部を設けたことを特徴とする。
また、請求項2の発明では、
前記幅広面部が、前記カバー本体部の左右の周側壁を内方へ平面状または湾曲面状に窪ませると共に、前記取付面に対して略垂直に形成してなることを特徴とする。
更に、請求項3の発明では、
前記幅広面部が、前記フランジ状取付面の左右の面を外方へ突出させて形成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明では、車軸ケースに作用する主な荷重である前後曲げモーメントにより、車軸ケースの中央開口部が楕円形状に近づく変形をする際に、カバー溶接部や、カバーのフランジ状の取付面と略半球殻形状のカバー本体部との境界部で、引張りの高応力の発生個所となる前記取付面の左右個所を幅広く拡大することで、前記中央開口部の周囲に溶接され、中央開口部の楕円形状化に追従しやすくなるため、前記変形に伴うカバー溶接部やカバー取付面と半球形状部との境界部に発生する引張りの高応力を緩和することができる。
従って、従来の同部の強度向上策のように、カバーの板厚を増加したり、カバーの裏側から溶接を追加したりする必要がなくなり、車軸ケースの重量やコストを増加することなしにカバー溶接部やその近傍の耐久性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
この発明は、カバーの取付面部の左右に幅広面部を設けることで、車軸ケースに前後曲げモーメントが作用してもその高応力を緩和し、耐久性の向上を実現した。
以下に、この発明の車軸ケースの構造の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0007】
車軸ケース1は、従来と同様に、上下の側板2、3の両端部を相互に突合わせて溶接し、中央開口部4の前方にリング状の補強材5を溶接し、後方にこの発明の略半球殻形状のカバー10を溶接している(図6参照)。
カバー10は、図1に示すように、中央に設けられた略半球殻形状のカバー本体部10Aと、該カバー本体部10Aの外周に沿って設けられたフランジ状の取付面部10Bとからなっている。
【0008】
そして、カバー10の取付面部10Bは、車軸ケース1の軸線Lに沿った左右方向の2個所の径方向の幅を、相対的に他の個所よりも幅広い一対の幅広面部14に形成している。
本実施例では、図1に示すように前記軸線Lを基準としてそれぞれ約30度、合計約60度の範囲(α)を幅広面部14に設定している。
この発明では、幅広面部14の範囲は上記数値に限定されない。
【0009】
幅広面部14としては、例えば、(1)取付面部10Bの外周に対してカバー本体部10Aの略半球殻形状の外周壁を中心方向に窪ませて取付面部10Bの幅を広げる構成、(2)カバー本体部10Aの外周壁に対してフランジ状の取付面部10Bの幅を外方へ広げる構成、(3)カバー本体部10Aの外周壁を中心方向に窪ませると共に取付面部10Bの幅を外方へ広げる構成などがある。
【0010】
図1および図2のカバー10では、カバー本体部10Aの外周壁を中心方向に凹ませて幅広面部14を形成した一例を示す。
図示例では、カバー本体部10Aの湾曲する外周壁を、左右に延びる軸線Lを基準にして左右両側にそれぞれ略60度にわたる範囲で、取付面部10Bに対して断面が略垂直な面H(図示例では平坦面)に成形して凹ませ、取付面部10Bに一対の幅広面部14を形成した。
【0011】
これにより、前述のように車軸ケース1の中央部分が後方に撓むような曲げモーメントが車軸ケース1に作用したとき、車軸ケース1の中央部開口4とカバー10の外周は、図8に示すように、左右方向に伸びて長軸となり、上下方向が縮んで短軸となる略楕円形状に変形しようとするが、対応する取付面部10Bの左右に幅広面部14が形成されているため、図3に示すように、左右方向(dr方向)の変形抵抗が増加して、これら部位の左右方向への突出変形量は減少し、突出範囲は周方向に拡散される。
【0012】
さらに、カバー10の外周が略楕円形状に変形するのに伴い、幅広面部14はカバー10の外周が側板2、3から離れる方向(dx方向)に変形してカバー10の溶接部6を介して側板2、3の中央開口部4周縁のカバー被取付面4’をカバー10側に引き上げようとするが、同部における取付面部10Bは幅広面部14となって拡大しているため、幅広面部14に対する垂直方向のカバー本体部10Aの剛性が低下し、側板2、3をカバー10側に引き寄せる力が減少する。
【0013】
このように、カバー10の取付面部10Bの左右2箇所に、溶接面を拡大する幅広面部14と、該幅広面部14に垂直な面Hをカバー本体部10Aの外周壁面に形成することにより、車軸ケース1の中央部分が後方にたわむような曲げモーメントを作用させたときのカバー10の溶接部6やカバー本体部10Aと取付面部10Bとの境界部における高い引張り応力を緩和することができ、同部の耐久性を向上することができる。
【実施例2】
【0014】
図4に示すカバー10は、カバー本体部10Aの湾曲する外周壁を、左右に延びる軸線Lを基準にして左右両側にそれぞれ略60度にわたる範囲で、取付面部10Bに対して断面が垂直な面H(図2参照)となるようカバー本体部10Aの背面視円形の半径より大きい曲率を有する湾曲面(円筒形状)に凹ませて、取付面部10Bの左右に一対の幅広面部14を形成した。
この場合も、幅広面部14は前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。
【0015】
この発明では、上記垂直な面Hの構成に代えて、カバー本体部10Aの外周壁を、カバー本体部10Aの半円球の半径より大きい曲率を有する湾曲面(球面状)となるように凹ませてよい(図示せず)。
【実施例3】
【0016】
図5に示すカバー10は、カバー本体部10Aの外周壁は、従来と同様に凹まさずにそのままの略半球殻形状とし、前記軸線Lを基準にして左右両側にそれぞれ略60度にわたる範囲でフランジ状の取付面部10Bを外側に突出するように形成して、取付面部10Bに一対の幅広面部14を設けている。
【0017】
この場合も、カバー外周となる取付面部10Bの左右2個所を幅広にして、カバー取付面部10Bに一対の幅広面部14が形成されるので、カバー本体部10Aの外周壁が取付面部10Bに垂直な方向に変形し易くなり、カバー10が楕円形に近づくように変形する際に側板2、3をカバー10側に引き寄せる力が緩和し、カバーの溶接部6やカバー本体部10Aと取付面部10Bの境界部に発生する高応力を低減する効果がある。
【0018】
この構造では、カバーの成形形状は従来構造と同じになり、従来の成形型が流用できるとともに、カバーの内側に内蔵される減速ギヤ等との干渉が問題になることはない。
さらに、製造に際して、カバーの外周を切断する形状が大きくなっても、カバーの全周にわたって大きくなる訳ではないため、切断後のスクラップが減少するだけで、材料増加の必要もない。
【0019】
また、上記実施例では、取付面部10Bの外周は変化させずカバー本体部10Aの外周を凹ませるか、カバー本体部10Aの外周は変化させず取付面部10Bの外周を外方へ広げる構成としたが、両者を組み合わせてカバー本体部10Aの外周を凹ませ且つ取付面部10Bの外周を外方へ広げる構成としてもよい。その場合は、それぞれの変形量が少なくてすむ。
【0020】
また、この発明は、少なくとも左右2個所に幅広面部が形成されていればよく、その他の個所にも幅広面部が形成されていてもよい。
例えば、特願2007−167035のようにカバーの上部1個所または左右斜め下方2箇所にも幅広面部が形成され、あるいは左右斜め下方2箇所の幅広面部と左右の幅広面部とが連続する幅広面部となっているような場合であってもよい。
その他、要するにこの発明の要旨を変更しない範囲で種々設計変更しうること勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1のカバーを示す図であって、(a)および(c)は背面図、(b)は斜視図である。
【図2】実施例1および2のカバー本体の外周壁と幅広面部との部分断面図である。
【図3】カバー外周部の変形を説明する断面図である。
【図4】実施例2のカバーを示す図であって、(a)および(c)は背面図、(b)は斜視図である。
【図5】実施例3のカバーを示す図であって、(a)は背面図、(b)は斜視図である。
【図6】実施例1の板金製の車軸ケースの分解状態を示す斜視図である。
【図7】従来の板金製の車軸ケースの分解状態を示す斜視図である。
【図8】前後曲げモーメントによるカバーの変形を示す背面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 車軸ケース
2、3 上下側板
4 中央開口部
5 補強材
6 溶接部
10 カバー
10A カバー本体部
10B 取付面部
11 上部位置
12、13 左右斜め下方位置
14 幅広面部
16 固着面部
21 車軸ケース
22、23 上下側板
24 中央開口部
25 補強材
30 カバー
30A カバー本体部
30B 取付面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝形断面を有し長手中央部がそれぞれのウェブ面側に膨らんで中央開口部を形成する上下の側板と、中央開口部の前後の縁部にそれぞれ固着されるリング状の補強板および略半球殻状のカバーとから構成される板金溶接組立構造の車軸ケースの構造において、
前記カバーの略半球殻形状からなるカバー本体部の外周に沿って環状に設けられたフランジ状の取付面が、左右2個所に前記取付面の他の個所よりも幅広となる幅広面部を設けたことを特徴とする車軸ケースの構造。
【請求項2】
前記幅広面部が、前記カバー本体部の左右の周側壁を内方へ平面状または湾曲面状に窪ませると共に、前記取付面に対して略垂直に形成してなることを特徴とする請求項1に記載の車軸ケースの構造。
【請求項3】
前記幅広面部が、前記フランジ状取付面の左右の面を外方へ突出させて形成してなることを特徴とする請求項1に記載の車軸ケースの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−143352(P2010−143352A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321676(P2008−321676)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)