説明

車載機器制御システム及び車載機器制御システムにおける識別子設定方法

【課題】汎用性が高く且つ誤ったスレーブ装置の取付けの防止を図ることができる車載機器制御システムを提供する。
【解決手段】スレーブ装置200をバス10の信号線13にディジーチェーン接続し、信号線13間に抵抗器201を直列接続するとともにスイッチ手段202を抵抗器201に対して並列接続する。バス10の信号線の一端はマスタ装置100に接続し、他端は抵抗器15で終端する。識別子設定時には各スレーブ装置200においてスイッチ手段202を開放するとともにマスタ装置100は信号線13に直流電圧を印可する。各スレーブ装置200は抵抗器15の一端の電位を検出し、該電位に対応する識別子を自身の識別子として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスター装置とスレーブ装置がバス接続された車載機器制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車載機器制御システムにおいては車内に車載LANが設置され、該車載LANに多数の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)が接続されている。ここでECUは、車載LANに接続されたノードに該当し、制御対象となる車載機器が接続されているノードも含む。車載LANの規格には例えばCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などがある。LIN規格においてはシングルマスタ方式が採用されており、1つのECUがマスタ装置として動作し、他のECUはスレーブ装置として動作する。通常、マスタ装置として動作するECU(以下、単に「マスタ装置」と言う。)は、バスとの通信インタフェイス回路と、マイクロコンピュータやメモリ等からなる制御回路とを備えている。スレーブ装置として動作するECU(以下、単に「スレーブ装置」と言う。)は、バスとの通信インタフェイス回路と、車載機器の制御回路及び該車載機器やセンサとのインタフェイス回路とを備えている。
【0003】
各スレーブ装置には予め識別子が定められており、マスタ装置からスレーブ装置への通信電文のヘッダ部にはスレーブ装置の識別子が含まれる。なお、識別子と各スレーブ装置とは必ずしも1対1の関係である必要はなく、1つのスレーブ装置に対して複数の識別子を割り当てることにより、識別子を一種のコマンドとして用いる場合もある。
【0004】
マスタ装置のメモリには、スレーブ装置に接続された車載機器の制御に必要なパラメータや各スレーブ装置の識別子が記憶されている。マスタ装置の制御回路は、該識別子及びパラメータに基づき車載機器の制御を行う(特許文献1参照)。例えば、エアコンのダンパを開閉するアクチュエータを制御する場合について説明する。該アクチュエータには回転角度を検出するセンサとしてポテンションメータが付設されている。マスタ装置のメモリには、ダンパの開放時及び閉鎖時のポテンションメータの値が記憶されている。マスタ装置はスレーブ装置に対してポテンションメータの値を送信することによりアクチュエータの動作を指示する。スレーブ装置は、ポテンションメータの検出値がマスタ装置から受信した値となるようにアクチュエータをフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−335607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで前述のLINのような規格ではコスト等の観点からシステムが簡便化されており各スレーブ装置の識別子は予め割り当てられたものが固定的に設定されている。同様にマスタ装置においても各スレーブ装置の識別子は固定的に設定されている。このため、同種のスレーブ装置を複数個バス接続する場合や、複数のシステム間で同種のスレーブ装置を用いる場合などには、スレーブ装置のハードウェア的構成は共通であるにもかかわらず識別子が異なるため、それぞれ異なるスレーブ装置として製造・管理する必要があった。これにより、スレーブ装置は汎用性に欠けたものとなり、組立て作業時に誤ったスレーブ装置を取り付けてしまう恐れがあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、汎用性が高く且つ誤ったスレーブ装置の取付けの防止を図ることができる車載機器制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願発明は、車両内に設置されるマスタ装置と該マスタ装置に接続された一又は複数のスレーブ装置とを備え、マスタ装置とスレーブ装置との間でシングルマスタ方式の通信を行う車載機器制御システムにおいて、バスの一方の端部にマスタ装置を接続するとともに他方の端部をグランドに接地し、マスタ装置とグランド間のバスにスレーブ装置をディージーチェーン接続し、スレーブ装置は、一対のバス間を電気的に短絡又は開放するスイッチ手段と、スイッチ手段に並行接続されたインピーダンス素子と、インピーダンス手段の少なくとも一端の電位を検出する手段と、通信制御手段とを備え、スレーブ装置の通信制御手段は、識別子設定モード時にはスイッチ手段を開放した状態で前記検出手段によりインピーダンス素子の少なくとも一端の電位を検出し、該検出処理の後にはスイッチ手段を短絡させ、検出した電位に対応する識別子を自身の識別子として設定し、マスタ装置の通信制御手段は、識別子設定モード時にはバスに所定の直流電圧を印加することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、識別子設定モード時にはバスはスレーブ装置の数だけインピーダンス素子が直列接続された状態となる。そして、バスの一端側はマスター装置により所定の直流電圧が印加され且つ他端側は接地されているので、各スレーブ装置におけるインピーダンス素子の所定の一方の端部は、マスタ装置から供給される直流電圧が分圧された電位となる。したがって、各スレーブ装置は、マスタ装置側から数えて何番目にバスに接続されているかを前記電位から認識することができるので、該電位に対応した識別子を設定することが可能になる。このように各スレーブ装置では、バス上の位置を自己認識して識別子が自動的に設定されるので、組み付け前のスレーブ装置を汎用化することができるとともに組み付け作業性も向上する。
【0010】
検出電位から対応する識別子を設定するより具体的な方法の一例としては、スレーブ装置の通信制御手段は、検出電位と識別子との対応関係を記憶した記憶手段を備え、該記憶手段に記憶された対応関係を参照して検出電位から識別子を取得することが挙げられる。なお、検出電位と識別子との対応関係はバスに接続されたスレーブ装置の台数によって異なってくる。そこで、スレーブ装置の記憶手段はバスに接続するスレーブ台数毎に検出電位と識別子との対応関係を記憶し、マスタ装置の通信制御手段は、バスへの所定の直流電圧の印可を終了した後にスレーブ装置に対してバスに接続されたスレーブ装置の台数を通知し、スレーブ装置の通信制御手段は、該記憶手段に記憶された対応関係を参照してマスタ装置から受信したスレーブ装置の台数及び検出電位から識別子を取得すると、確実に識別子をできる。
【0011】
また、検出電位から対応する識別子を設定する他の具体的な例としては、マスタ装置の通信制御手段は、バスへの所定の直流電圧の印可を終了した後にスレーブ装置に対してバスに接続されたスレーブ装置の台数を通知し、スレーブ装置の通信制御手段は、マスタ装置がバスに印加する所定の直流電圧の値とマスタ装置から受信したスレーブ装置の台数とに基づき検出電位から識別子を算出することが挙げられる。
【0012】
なお、マスタ装置からスレーブ装置へのスレーブ装置台数の通知は、全てのスレーブ装置で共通の識別子を用いて行えばよい。また、マスタ装置・スレーブ装置間の通信規格としては例えばLIN(Local Interconnect Network)が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、各スレーブ装置では、バス上の位置を自己認識して識別子が自動的に設定されるので、組み付け前のスレーブ装置を汎用化することができるとともに組み付け作業性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車載機器制御システムの構成図
【図2】マスタ装置の構成図
【図3】スレーブ層装置の構成図
【図4】車内空調システムの構成図
【図5】識別子リストの一例を説明する図
【図6】識別子テーブルの一例を説明する図
【図7】マスタ装置の動作を説明するフローチャート
【図8】スレーブ装置の動作を説明するフローチャート
【図9】スレーブ装置の動作を説明するフローチャート
【図10】車載機器制御システムの初期動作を説明するシーケンスチャート
【図11】他の例にかかるスレーブ装置の識別子算出方法を説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施の形態に係る車載機器制御システムについて図面を参照して説明する。図1は車載機器制御システムの構成図である。なお本実施の形態では、車内空調システムの制御システムを例にとって説明する。
【0016】
この車載機器制御システムは、図1に示すように、複数のECUが車載LANにバス10に接続している。本実施の形態では車載LANの規格としてLINを採用する。したがって、1つのECUのみマスタとして動作し、他のECUはスレーブとして動作する。本実施の形態では、マスタ装置100と、複数のスレーブ装置200とが車載LANのバス10に接続している。スレーブ装置200には、後述するように、例えばダンパを開閉するためのアクチュエータが接続されている。マスタ装置100は、各スレーブ装置200に接続されたアクチュエータの動作を制御する。
【0017】
本実施の形態では上述のように車載LANの規格としてLINを採用しているため、バス10は、電源線11,グランド線12,信号線13からなる。本発明の特徴的な点は、図1に示すように、各スレーブ装置200と信号線13との物理的な接続形態をバス接続ではなくディージーチェーン接続している点にある。なお、後述するようにスレーブ装置200の内部においては信号線13との接続は状況によってバス接続とディージーチェーン接続が切り替えられる。また、図1に示すように、各スレーブ装置200と電源線11及びグランド線12との物理的な接続形態はバス接続としているがディージーチェーン接続としてもよい。バス10の一方の端部はマスタ装置100に接続している。バス10の他方の端部は、電源線11及びグランド線12は開放されている。一方、信号線13はインピーダンス素子である抵抗器15を介して接地されている。換言すれば、バス10の信号線13は終端抵抗によりターミネートされている。
【0018】
マスタ装置100は、図2に示すように、車載LANのバス10の信号線13との接続用のトランシーバ101と、各スレーブ装置200に接続されたアクチュエータを制御するための制御回路110とを備えている。制御回路110は、主演算装置111と、不揮発性の記憶手段であるROM112と、揮発性の記憶手段であるRAM115とを備えている。ROM112には制御プログラム113と各スレーブ装置200の識別子のリスト114とが記憶されている。制御回路110は、ROM112に記憶されている制御プログラム113を実行することにより動作する。識別子リスト114の詳細について後述する。また、マスタ装置100は、バス10の電源線11・グランド線12間に直流電源120を印加している。なお、図2では説明の簡単のためマスタ装置100に電源を内蔵した例を図示したが、車両から供給される電源をバス10に供給する形態であってもよい。
【0019】
スレーブ装置200は、図3に示すように、バス10の信号線13に直列に接続したインピーダンス素子である抵抗器201と、該抵抗器201に並列接続したリレースイッチ202とを備えている。ここで抵抗器201の抵抗値は、計算・設計の容易という観点から、前記信号線13の終端用の抵抗器15と同じ値とした。また、スレーブ装置200は、抵抗器201の一端側に接続された通信用のトランシーバ203と、マスタ装置100との通信を制御する通信制御部204と、アクチュエータ制御回路207と、前述のアクチュエータ208と、アクチュエータ208の回転角度を検出するポテンションメータ209と、抵抗器201の一端側の電位をグランドを基準として検出する電圧検出手段210とを備えている。前記リレースイッチ202は、通信制御部204により制御可能となっている。
【0020】
通信制御部204は、後述する識別子設定モードで参照される識別子テーブル205と、自己の識別子を記憶する自己識別子記憶部206とを備えている。識別子テーブル205の詳細については後述する。自己識別子記憶部206は、組み付け前には自己の識別子は記憶されておらず、識別子設定モードにおける処理により登録される。該識別子設定モードではマスタ装置100からの通信電文を受信する必要がある。このため、通信制御部204は、自己識別子記憶部206に記憶された識別子宛のマスタ装置100から通信電文を処理するだけでなく、組み付け前の全てのスレーブ装置200に共通の特定の識別子宛の通信電文も処理する。前者の通信電文はアクチュエータ208の制御に関するものであり、後者は識別子の自己識別子記憶部206への登録処理に関するものである。換言すれば、通信制御部204は、自己の識別子を割り当てられていない場合であっても、全てのスレーブ装置200に共通の特定の識別子を用いた通信処理を行う。
【0021】
アクチュエータ制御回路207は、ポテンションメータ209の抵抗値(検出値)がマスタ装置100からの動作指示に含まれる目標値となるようにアクチュエータ208を駆動制御する。
【0022】
次に、スレーブ装置200により制御される車載機器の構成の一例について図4を参照して説明する。本実施の形態では、図4に示すように、空調装置本体300は、外気取入口301と内気取入口302とが形成されており、外気取入口301と内気取入口302の合流部には外気と内気の流入割合を調節するための取入口ダンパ303が回動自在に付設されている。該ダンパ303の下流にはファン304が配置されている。該ファン304により外気取入口301又は内気取入口302から外気又は内気が吸引される。ファン304の下流には蒸発器305が設けられている。該蒸発器305は冷凍サイクルを構成する装置であり図示しない圧縮機等に接続されている。さらに、蒸発器305の下流にはヒータ306が設けられており、該ヒータ306の蒸発器305側にはヒータへの空気の流入量を調節するヒータ用ダンパ307が回動自在に設けられている。さらに、空調装置本体300には、デフ吹出口308,ベント吹出口309,フット吹出口310が形成されている。各吹出口308,309,310には、デフ吹出口ダンパ311,ベント吹出口ダンパ312,フット吹出口ダンパ313がそれぞれ回動自在に設けられている。
【0023】
スレーブ装置200は、それぞれ1つのダンパの駆動制御を行う。すなわち各ダンパに対して1つのスレーブ装置200が対応して設けられている。上記各ダンパ303,307,311,312,313は、それぞれ図示しないリンク機構を介してスレーブ装置200のアクチュエータ208に接続している。
【0024】
次に、図5を参照して前記マスタ装置100に記憶されている識別子リスト114について説明する。なお、図5における識別子リスト114の「説明」の欄は各識別子の意味を解説するものであり、実際にROM112に記憶される識別子リスト114は「識別子」の欄のみである。
【0025】
図5に示すように、各スレーブ装置200にはそれぞれ動作要求送信用の識別子とステータス要求送信用の識別子が割り当てられている。ステータス要求送信用の識別子は、動作要求送信用の識別子の次の値となっている。また、識別子リスト114は、スレーブ装置200の種類用途により所定の順序に予め定められて記憶されている。図5の例では、取入口ダンパ制御用のスレーブ装置、デフ吹出口ダンパ制御用のスレーブ装置、ベント吹出口ダンパ制御用のスレーブ装置…、となっている。また、識別子リスト114は、各スレーブ装置200で共通の特定の識別子が割り当てられている。図5の例では、識別子の登録要求送信用の識別子(0x3A)とステータス要求送信用の識別子(0x3B)である。前述したように、該識別子宛の通信電文は全てのスレーブ装置200で受信可能である。すなわち、各スレーブ装置200で共通の特定の識別子は、自身の識別子が未付与のスレーブ装置200とマスタ装置100との通信に用いられる。
【0026】
次に、図6を参照して前記スレーブ装置200に記憶されている識別子テーブル205について説明する。該識別子テーブル205は、電圧検出手段210で検出された電圧と識別子との対応関係を記述したリストである。この電圧と識別子との対応関係はバス10に接続されたスレーブ装置200の台数に依存する。後述するように電圧検出手段210による電圧検出は、バス10に全てのスレーブ装置200が接続され且つ各スレーブ装置200のリレースイッチ202がオフのときに実施される。このときマスタ装置100とグランドとの間の信号線13は、各スレーブ装置200の抵抗器201と終端用の抵抗器15が直列接続された状態となる。したがって電圧検出手段210により検出された電圧は、マスタ装置100が信号線13に印加した直流電圧を、スレーブ装置200の抵抗器201及び終端用の抵抗器15で分圧された値となる。この値は、スレーブ装置200のマスタ装置100から見た順番により異なるとともに、スレーブ装置200の台数によっても異なる。このため識別子テーブル205は、図6に示すように、スレーブ装置200の台数毎に電圧と識別子の対応関係を記述したものとなる。なお、図6の例では、マスタ装置100において信号線13に印加される電圧の変動を考慮して電圧には±5%の幅を持たせた。
【0027】
なお、前述のように各スレーブ装置200は動作要求用とステータス要求用の2つの識別子を用いるが、両者の識別子は隣接した値をとる。そこで、図6の例では各電圧に対応する識別子をそれぞれ1つのみ記述し、もう1つの識別子の記述は省略した。
【0028】
次に、本実施の形態に係る車載機器制御システムの組み付け処理について説明する。当該処理は、マスタ装置100及び全てのスレーブ装置200並びに終端用の抵抗器15をバス10に接続した状態で、マスタ装置100に電源が投入されることにより開始される。
【0029】
まずマスタ装置100の動作について図7を参照して説明する。図7はマスタ装置の動作を説明するフローチャートである。マスタ装置100の制御回路110は、車載機器制御システムの最初の起動時(電源投入時)には、識別子設定モードとして動作する。具体的にはマスタ装置100の制御回路110は、まず所定時間信号線13をハイレベルに維持することにより直流電圧を印加する(ステップSM1)。なお、本実施の形態ではLIN規格を採用しているので該電圧値は電源電圧(バッテリ電圧)の電圧値となる。マスタ装置100の制御回路110は、各スレーブ装置200で共通であり且つ識別子の動作要求送信用の識別子(図5の例では0x3A)に対して、バス10に接続されているスレーブ装置200の台数を送出する(ステップSM2)。なお、スレーブ装置200の台数は図5に示す識別子リスト114を参照することにより取得可能である。このスレーブ装置200の台数通知により各スレーブ装置200では識別子の設定処理が完了する。次に、マスタ装置100の制御回路110は、識別子リスト114を参照して各スレーブ装置200に対して個別の識別子を用いてステータス要求を送信し、各スレーブ装置200から応答があることを確認する(ステップSM3〜6)。そして、マスタ装置100の制御回路110は、全てのスレーブ装置200からの応答を確認すると、通常モードに移行してスレーブ装置200の制御処理を開始する(ステップSM7,SM8)。一方、1つでもスレーブ装置200からの応答がなかった場合には、前記ステップSM2に処理を戻して再試行する。なお、前記ステップSM8の制御処理は従来周知の処理であり、スレーブ装置200に割り当てられた動作要求送信用の識別子及びステータス要求送信用の識別子を用いてスレーブ装置200と通信を行う。
【0030】
次にスレーブ装置の動作について図8及び図9を参照して説明する。図8は識別子設定モードにおけるスレーブ装置の動作を説明するフローチャート、図9は通常モードにおけるスレーブ装置の動作を説明するフローチャートである。
【0031】
スレーブ装置200の通信制御部204は、バス10を介してマスタ装置100から直流電源が供給されると動作を開始する。まず通信制御部204は、図8に示すように、自己識別子記憶部206に自身の識別子が既に登録されているかを判定し(ステップSS1)、既登録の場合には通常モードの待機状態に移行する。一方、未登録の場合には識別子設定モードとして動作する。該識別子設定モードでは、まず通信制御部204はリレースイッチ202をオフに制御する(ステップSS2)。これによりバス10の信号線は複数の抵抗器201及び抵抗器15が直列接続された状態となる。次に、グランドを基準とした信号線13の電位を電圧検出手段210により取得し、該電圧値を所定の記憶手段に記憶しておく(ステップSS3)。次に、通信制御部204は所定時間経過後にリレースイッチ202をオンに制御する(ステップSS4,SS5)。これにより抵抗器201は短絡されるのでバス10の信号線はLIN規格の通信が可能となる。なおリレースイッチ202をオンにするまでの所定時間は、少なくともマスタ装置100による信号線13への直流電圧印加時間より大きく設定しておく。
【0032】
次に、通信制御部204は、マスタ装置100から各スレーブ装置200で共通であり且つ識別子の動作要求送信用の識別子宛(図5の例では0x3A)の通信電文を受信する(ステップSS6)。該通信電文にはバス10に接続したスレーブ装置200の台数が含まれる。次に、通信制御部204は、マスタ装置100から受信したスレーブ装置200の台数、前記ステップSS3で検出・記憶した電圧値に基づき、識別子テーブル205から識別子を取得し、該識別子を自己識別子記憶部206に記憶する(ステップSS7)。なお、本実施の形態では、各スレーブ装置200は自身の識別子を2つ用いるが識別子テーブル205から取得した識別子は1つである。一方、2つの識別子はそれぞれ連続した値となっているので、通信制御部204は識別子テーブル205から取得した識別子と、該識別子に連続する値を他方の識別子として自己識別子記憶部206に記憶する。以上の処理によりスレーブ装置200には自己の識別子が設定されたので識別子設定モードから通常モードの待機状態に移行する。
【0033】
スレーブ装置200の通信制御部204は、図9に示すように、待機状態においてマスタ装置100から自身の識別子宛の通信電文を受信すると、当該通信電文が自己識別子記憶部206に記憶された自身の識別子宛の場合、それぞれの処理を行う。具体的には、通信制御部204は、動作要求送信用の識別子宛の通信電文の場合には、該動作要求をアクチュエータ制御回路207に送りアクチュエータ208を駆動制御する(ステップSS11)。アクチュエータ制御回路207は、ポテンションメータ209の検出値がマスタ装置100から受信した目標値となるようにアクチュエータ208をフィードバック制御する。他方、通信制御部204は、ステータス要求送信用の識別子宛の通信電文の場合には、アクチュエータ制御回路207がアクチュエータ208の駆動制御中の場合には「駆動中」である旨をマスタ装置100に応答し、アクチュエータ208が停止中の場合には「停止中」である旨をマスタ装置100に応答する(ステップSS21,S22,S23)。
【0034】
次に、本実施の形態に係る車載機器制御システム全体の初期動作について図10を参照して説明する。図10は車載機器制御システムの初期動作を説明するシーケンスチャートである。ここでは初めて車載機器制御システムを起動する場合について説明する。また、初期状態では、マスタ装置100及びスレーブ装置200が車載LANのバス10に接続されているものとする。
【0035】
マスタ装置100の制御回路110は、まず信号線13をオンにすることにより該信号線13に直流電圧を所定時間印可する。図10においてはこの期間を符号SA1の斜線により表すものとする。マスタ装置100の起動によりスレーブ装置200には電源線11及びグランド線12を介して電源が供給され、動作を開始する。スレーブ装置200の通信制御部204は、リレースイッチ202をオフにした状態で抵抗器201の一端側とグランドとの電圧を測定し、該電圧値を所定の記憶手段に記憶する(ステップSA2)。マスタ装置100の制御回路110は所定時間経過後に信号線13への電圧印可を停止し、一方スレーブ装置200の通信制御部204は所定時間経過後リレースイッチ202をオンにして抵抗器201を短絡させる。これによりバス10は通信可能な状態となる。
【0036】
次に、マスタ装置100の制御回路110は、各スレーブ装置200で共通であり且つ動作要求送信用の識別子宛にスレーブ装置200の台数を通知する(ステップSA3)。この通知はバス10に接続された全てのスレーブ装置200で受信される。各スレーブ装置200の通信制御部204は、前記通知を受信すると、スレーブ装置200の台数・前記ステップSA2で検出した電圧値に基づき識別子テーブル205から識別子を取得し、自信の識別子を自己識別子記憶部206に記憶する(ステップSA4)。次いで、マスタ装置100の制御回路110は、各スレーブ装置200に対してステータス要求を送信する(ステップSA5)。該ステータス要求の送信は識別子リスト114に格納されている各スレーブ装置200を個々に識別する識別子を用いる。各スレーブ装置200はマスタ装置100からのステータス要求に対して応答する(ステップSA6)。マスタ装置100の制御回路110は、全てのスレーブ装置200からの応答を確認すると通常モードに移行する。
【0037】
以上の処理により車載LANのバス10にマスタ装置100及びスレーブ装置200を接続してシステムを起動させると自動的に各スレーブ装置200に識別子が設定される。なお、各スレーブ装置200に設定される識別子は抵抗器201により検出される電圧により定められ、該電圧値はスレーブ装置200がマスタ装置100から数えて何番目に接続されているかによる。一方、マスタ装置100では識別子リスト114によりスレーブ装置200に対応する識別子が予め定められている。したがって、各スレーブ装置200は識別子リスト114及び識別子テーブル205により規定される位置(マスタ装置100からの順番)でバス10に接続する必要がある。もっとも、スレーブ装置200の物理的な位置は通常は例えば空調装置本体300など組み付け先の形状により一義的に定まれるので組み付け作業性には余り影響はしない。
【0038】
このように本実施の形態に係る車載機器制御システムによれば、各スレーブ装置200の識別子は組み付け作業時に自動的に付与されるので、組み付け前のスレーブ装置200を汎用化することができる。
【0039】
以上本発明の一実施の形態について詳述したが本発明はこれに限定されるものではない。例えば上記実施の形態では、電圧検出手段210で検出した信号線13とグランド間の電圧に基づき識別子テーブル205から識別子を取得している。しかし信号線13に印可される直流電圧は変動することがある。例えば車載機器制御システムでは電源がバッテリにより供給されるため、接続されたバッテリによっては電源電圧が所定の基準電圧より低い場合がある。一方、識別子テーブル205に記憶されている電圧値は、信号線13に印可される直流電圧が所定の基準電圧であることを前提としている。このため、バス10に接続されたスレーブ装置200の台数が多い場合には、信号線13に印可される直流電圧が大幅に低下すると適切な識別子の取得ができないことが考えられる。そこで、電圧検出手段210において電源線11とグランド間の電圧を検出し、信号線13の検出電圧に補正をかけると好適である。具体的には、信号線13の検出電圧値に(所定の基準電圧値/電源線11の電圧値)を乗じて補正し、該補正値に基づき識別子テーブル205を参照すればよい。
【0040】
また上記実施の形態では、スレーブ装置200に電圧値と識別子との対応関係を記述した識別子テーブル205を予め記憶しておき、該識別子テーブル205を参照することにより識別子を設定していた。このような方法では電圧値に対応する識別子を任意に設定できるので設定の自由度が高いものとなる。一方、電圧値と識別子との対応関係が所定のルールで定められている場合には、該ルールにしたがって測定電圧値から識別子を算出することも可能である。例えば「マスタ装置100に近い順に識別子を0から二つずつ割り当てる」というルールが挙げられる。この場合の識別子の算出処理について図11のフローチャートを参照して説明する。
【0041】
スレーブ装置200の通信制御部204は、バス10に接続されたスレーブ装置200で検出される理論的な電圧値をマスタ装置100から近い順に算出する。具体的に通信制御部204は、マスタ装置100からの位置を変数Nで表すとし、該変数Nを0からスレーブ台数−1まで1ずつ増加させながらループさせる(ステップSS31〜SS34)。そして通信制御部204は、スレーブ装置200で検出される理論的な電圧値の中心値を「マスタ装置100が信号線13に印可する基準電圧*(スレーブ台数−N)/(スレーブ台数+1)」により算出する(ステップSS32)。なお、「+1」は信号線13を終端する抵抗器15があるためである。通信制御部204は、電圧検出手段210で検出した電圧値が前記中心電圧値を中心とした所定範囲内(例えば±5%)にある場合には(ステップSS33)、動作要求用の識別子を変数N*2の値、ステータス要求用の識別子を変数N*2+1の値として設定・記憶する(ステップSS36)。なお、上記処理により識別子を算出できない場合には所定のエラー処理を行う(ステップSS35)。なお、前記ステップSS33では電圧検出手段210で検出した電圧値をそのまま用いたが、前述のように電源線11の検出電圧値により補正をかけると好適である。このように方法によりスレーブ装置200では識別子テーブル205保持する必要がなくなる。
【0042】
また、上記実施の形態では、マスタ装置100が信号線13に直流電圧を印可する方法としてハイレベルを出力するようトランシーバ101を制御することにより行っていたが、別途スイッチ手段を設けて直流電源120から直接信号線13に直流電圧を印可するようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施の形態では、スレーブ装置200において抵抗器201を短絡させるスイッチ手段としてリレースイッチを用いたが、他の手段を用いてもよい。例えば、バイポーラトランジスタ・電界効果トランジスタ・ダイオードなどの半導体素子を用いてもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、スレーブ装置200に割り当てる識別子を識別子リスト114としてマスタ装置100のROM112に記憶していたが、該識別子は制御プログラム113に埋め込む形態で記憶するようにしてもよい。
【0045】
また、上記実施の形態では、各スレーブ装置200に割り当てる識別子はそれぞれ2つとしたが、スレーブ装置200の種類によっては1つ或いは3つ以上であってもよい。
【0046】
また、上記の実施の形態では回動運動を行うアクチュエータ205の駆動制御について例示したが他の機器であっても本発明を実施できる。
【0047】
また、上記実施の形態では車内空調システムにおける適用例について説明したが、例えばパワーウィンドウやミラーの制御システムなど他のシステムにおいても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0048】
10…バス、11…電源線、12…グランド線、13…信号線、100…マスタ装置、110…制御回路、112…ROM、113…制御プログラム、114…識別子リスト、200…スレーブ装置、201…抵抗器、202…リレースイッチ、204…通信制御部、205…識別子テーブル、206…自己識別子記憶部、207…アクチュエータ制御回路、208…アクチュエータ、209…ポテンションメータ、210…電圧検出手段、300…空調装置本体、301…外気取入口、302…内気取入口、303…取入口ダンパ、304…ファン、305…蒸発器、306…ヒータ、307…ヒータ用ダンパ、308…デフ吹出口、309…ベント吹出口、310…フット吹出口、311…デフ吹出口ダンパ、312…ベント吹出口ダンパ、313…フット吹出口ダンパ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内に設置されるマスタ装置と該マスタ装置に接続された一又は複数のスレーブ装置とを備え、マスタ装置とスレーブ装置との間でシングルマスタ方式の通信を行う車載機器制御システムにおいて、
バスの一方の端部にマスタ装置を接続するとともに他方の端部をグランドに接地し、マスタ装置とグランド間のバスにスレーブ装置をディージーチェーン接続し、
スレーブ装置は、一対のバス間を電気的に短絡又は開放するスイッチ手段と、スイッチ手段に並行接続されたインピーダンス素子と、インピーダンス手段の少なくとも一端の電位を検出する手段と、通信制御手段とを備え、
スレーブ装置の通信制御手段は、識別子設定モード時にはスイッチ手段を開放した状態で前記検出手段によりインピーダンス素子の少なくとも一端の電位を検出し、該検出処理の後にはスイッチ手段を短絡させ、検出した電位に対応する識別子を自身の識別子として設定し、
マスタ装置の通信制御手段は、識別子設定モード時にはバスに所定の直流電圧を印加する
ことを特徴とする車載機器制御システム。
【請求項2】
スレーブ装置の通信制御手段は、検出電位と識別子との対応関係を記憶した記憶手段を備え、該記憶手段に記憶された対応関係を参照して検出電位から識別子を取得する
ことを特徴とする請求項1記載の車載機器制御システム。
【請求項3】
スレーブ装置の記憶手段はバスに接続するスレーブ台数毎に検出電位と識別子との対応関係を記憶し、
マスタ装置の通信制御手段は、バスへの所定の直流電圧の印可を終了した後にスレーブ装置に対してバスに接続されたスレーブ装置の台数を通知し、
スレーブ装置の通信制御手段は、該記憶手段に記憶された対応関係を参照してマスタ装置から受信したスレーブ装置の台数及び検出電位から識別子を取得する
ことを特徴とする請求項2記載の車載機器制御システム。
【請求項4】
マスタ装置の通信制御手段は、バスへの所定の直流電圧の印可を終了した後にスレーブ装置に対してバスに接続されたスレーブ装置の台数を通知し、
スレーブ装置の通信制御手段は、マスタ装置がバスに印加する所定の直流電圧の値とマスタ装置から受信したスレーブ装置の台数とに基づき検出電位から識別子を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の車載機器制御システム。
【請求項5】
マスタ装置からスレーブ装置へのスレーブ装置台数の通知は、全てのスレーブ装置で共通の識別子を用いて行われる
ことを特徴とする請求項3又は4記載の車載機器制御システム。
【請求項6】
マスタ装置・スレーブ装置間の通信規格としてLIN(Local Interconnect Network)を用いた
ことを特徴とする請求項1乃至5何れか1項記載の車載機器制御システム。
【請求項7】
車両内に設置されるマスタ装置と該マスタ装置に接続された一又は複数のスレーブ装置とを備え、マスタ装置とスレーブ装置との間でシングルマスタ方式の通信を行う車載機器制御システムにおけるスレーブ装置の識別子を設定する方法であって、
バスの一方の端部にマスタ装置を接続するとともに他方の端部をグランドに接地し、マスタ装置とグランド間のバスにスレーブ装置をディージーチェーン接続し、
スレーブ装置は、一対のバス間を電気的に短絡又は開放するスイッチ手段と、スイッチ手段に並行接続されたインピーダンス素子と、インピーダンス手段の少なくとも一端の電位を検出する手段と、通信制御手段とを備え、
スレーブ装置の識別子の設定時には、マスタ装置の通信制御手段は、識別子設定モード時にはバスに所定の直流電圧を印加し、スレーブ装置の通信制御手段は、スイッチ手段を開放した状態で前記検出手段によりインピーダンス素子の少なくとも一端の電位を検出し、該検出処理の後にはスイッチ手段を短絡させ、検出した電位に対応する識別子を自身の識別子として設定する
ことを特徴とする車載機器制御システムにおける識別子設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−195133(P2010−195133A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40587(P2009−40587)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】