説明

車輪用転がり軸受装置

【課題】等速ジョイントとハブ軸の間のトルク伝達可能な連結構成が解除された後においても、ボルト締結力を保持する作用を得ることにより、ハブ軸と等速ジョイントを連結する際のボルト締結の締結緩みの進行速度を緩和する。
【解決手段】座付きボルト80の頭部81と連結軸部位73との間には、座付きボルト80の締結緩みを防止するコイルスプリング90が圧縮して介挿されており、圧縮して介挿されるコイルスプリング90はその圧縮されて機能するバネ機能が等速ジョイント60の継手外輪70とハブホイール20のハブ軸23との連結部位間に配設される係合手段による両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなるまでは機能する構成として介挿されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車輪用転がり軸受装置に関する。詳しくは、ハブホイールのハブ軸と等速ジョイントがトルク伝達可能に連結された車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハブホイールのハブ軸と等速ジョイントがトルク伝達可能に連結された車輪用転がり軸受装置の構成の一つとして特許文献1のような構成のものが知られている。
図10に図示されるように、この特許文献1に示す車輪用転がり軸受装置510の構成は次の通りである。ハブホイール520のハブ軸523の外周面に、内輪531、外輪540及び玉(転動体)551、552を備えた転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受530が組み付けられている。一方、駆動軸561の端部が連結される等速ジョイント560の継手外輪570にはその外輪筒部571の端面572から外輪軸部573が一体に突出されている。また、ハブホイール520のハブ軸523の内孔の内周面には内歯スプライン524が形成され、この内歯スプライン524に噛み合う外歯スプライン574が外輪軸部573の外周面に形成されている。そして、内外歯のスプライン524、574が相互に噛み合わされながらハブホイール520のハブ軸523の内孔に外輪軸部573が嵌挿され、外輪軸部573の先端から突出された雄ねじ部575に締付ナット576が締め付けられることで、ハブホイール520と等速ジョイント560とがトルク伝達可能に結合されている。
【0003】
ここで、上記特許文献1の車輪用転がり軸受装置510における等速ジョイント560の継手外輪570に構成される外輪軸部573は、駆動軸561からの駆動力をハブホイール520へトルク伝達する部位であり加工精度の要求が高く加工コストがかかる。また、この外輪軸部573を形成すると等速ジョイント560全体の重量が重くなるという問題点があった。
【0004】
そこで、上記問題点の解決手段として特許文献2に示すような車輪用転がり軸受装置が知られている。図11に図示されるように、この特許文献2に示す車輪用転がり軸受装置610の構成は次の通りである。先ずハブホイール620のハブ軸623は軸方向を貫通する貫通孔634が形成されている。一方、ハブ軸623と連結される等速ジョイント660の継手外輪670の端面には、従来のハブ軸の内孔に嵌合する外輪軸部に替えて、ハブ軸623の貫通孔634に向かって挿入されて連結する部材としてハット状シールプレート672が組付け固定されている。このハット状シールプレート672はネジ孔が構成されている。ハブ軸623と等速ジョイント660の連結は、ハット状シールプレート672がハブ軸623の貫通孔634の一端側に挿入され、ハブ軸623の貫通孔634の他端側からボルト680を挿入して、このボルト680とハット状シールプレート672を締結することにより達成される。
また、等速ジョイント660とハブ軸623とのトルク伝達の構成は、ハブホイール620と複列の転がり軸受とを分離不可にユニット化する連結部材690が構成されており、等速ジョイント660と接する面に外歯スプライン692が形成されており、等速ジョイント660の継手外輪670に形成した内歯スプライン662と係合することで達成される。このような構成によれば、等速ジョイント660の継手外輪670に構成されていた外輪軸部を省略することができ、加工コストの抑制と等速ジョイント660の軽量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−114004号公報
【特許文献2】特開2003−246203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2の車輪用転がり軸受装置610においてはハット状シールプレート672、連結部材690等の新たな構成品を有し部品点数が増えてしまい部品コストが増加するという懸念がある。また、ハブ軸623と等速ジョイント660の連結するボルト680の締結に対する緩み対策は、既存のワッシャを介挿する対策しか図られておらず、ボルト締結の緩みが発生するおそれがある。
ここで、既存のワッシャにおけるボルト締結の緩み対策は、ボルト680、ハブ軸623の間に介挿されたワッシャによる相互の摩擦力によって図るものである。そのため、ボルト締結の緩みがワッシャの厚みを超えると、上述した摩擦力が発生せずワッシャとしての緩み対策は有効に機能しない。結果、ボルト締結の緩みが進行し最終的には等速ジョイント660が抜け落ちてしまうという問題がある。
また、上記した特許文献2の車輪用転がり軸受装置610における等速ジョイント660とハブ軸623とのトルク伝達の構成においては、等速ジョイント660とハブ軸623の間の内外歯のスプライン662、692の係合する量は少ない構成とされている。すなわち、図10に示されるように従来の特許文献1のようなハブ軸523の内孔の内周面における内歯スプライン524と、等速ジョイント560の継手外輪570に構成される外輪軸部573における外歯スプライン574との係合する長さに比して少ない長さの係合となっている。そのため、等速ジョイント660とハブ軸623の間の内外歯のスプライン662、692が係合が外れるとボルト締結の緩みの進行が著しくなるおそれが大きい。そのため、かかるボルト締結の緩み対策は更なる改善余地がある。
【0007】
ここで、等速ジョイントとハブ軸を連結するボルトの締結について、等速ジョイントとハブ軸の間のトルク伝達可能な連結構成が解除された後においても、ボルト締結力を保持する作用を得ることができれば、ボルト締結緩みの進行速度を緩和することができる。そうすれば、等速ジョイントとハブ軸の間のトルク伝達可能な連結構成が解除された後もボルト締結の緩みが直ちに進行することを抑制することができるため等速ジョイントが抜け落ちてしまう前にハブ軸へトルク伝達しないで空転させる状態とすることができる。
【0008】
而して、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、車輪用転がり軸受装置について、等速ジョイントとハブ軸の間のトルク伝達可能な連結構成が解除された後においても、ボルト締結力を保持する作用を得ることにより、ハブ軸と等速ジョイントを連結する際のボルト締結の締結緩みの進行速度を緩和することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の車輪用転がり軸受装置は次の手段をとる。
先ず、第1の発明に係る車輪用転がり軸受装置は、ハブホイールのハブ軸と等速ジョイントがトルク伝達可能に連結された車輪用転がり軸受装置であって、前記ハブ軸の外周面の一部には複列の転がり軸受の内側軌道面の一方が構成されており、該ハブ軸の外周面には前記複列の転がり軸受の内側軌道面の他方が構成される環状の内輪が配設されており、前記内側軌道面の外周側には、前記内側軌道面に対応して、その内周面に前記複列の転がり軸受の外側軌道面が構成される外輪が配設されており、前記ハブ軸及び内輪に形成される内側軌道面と外輪に形成される外側軌道面との間には転動体が組みつけられて転がり軸受を構成しており、前記ハブホイールのハブ軸と等速ジョイントとの間のトルク伝達可能とする連結手段は、等速ジョイントの継手外輪とハブホイールのハブ軸との連結部位間に両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなる係合手段により連結される構成とされており、前記ハブホイールのハブ軸は、軸方向に貫通孔が形成されており、前記等速ジョイントの継手外輪の端面には、前記ハブ軸の貫通孔に向かって突出形成されると共にネジ孔が形成される連結軸部位が構成されており、前記連結軸部位は、前記ハブ軸の貫通孔の一端側から挿入され、前記ハブ軸の貫通孔の他端側からボルトを締結することにより前記ハブ軸と連結軸部位とを結合し、前記ボルトの頭部と前記連結軸部位との間には、前記ボルトの締結緩みを防止するバネ部材が圧縮して介挿されており、該圧縮して介挿されるバネ部材はその圧縮されて機能するバネ機能が前記等速ジョイントの継手外輪とハブホイールのハブ軸との連結部位間に配設される係合手段による前記両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなるまでは機能する構成として介挿されていることを特徴とする。
【0010】
この第1の発明によれば、ハブホイールのハブ軸と等速ジョイントとの間のトルク伝達可能とする連結手段は、等速ジョイントの継手外輪とハブホイールのハブ軸との連結部位間に両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなる係合手段により連結される構成とされている。そして、ボルトの頭部と連結軸部位との間には、ボルトの締結緩みを防止するバネ部材が圧縮して介挿されている。この圧縮して介挿されるバネ部材は、その圧縮されて機能するバネ機能が等速ジョイントの継手外輪とハブホイールのハブ軸との連結部位間に配設される係合手段による両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなるまでは機能する構成として介挿されている。
これによれば、バネ部材は、圧縮介挿されることにより備えるバネ機能が、等速ジョイントの継手外輪とハブホイールのハブ軸との連結部位間に配設される係合手段による両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなる状態(等速ジョイントとハブ軸の間のトルク伝達可能な連結構成が解除状態)となった後においてもバネ機能を発揮する構成であるためボルト締結力を保持する作用を得ることができる。そのため、ボルト締結緩みの進行速度を緩和することができ、等速ジョイントが抜け落ちてしまう前にハブ軸へトルク伝達しないで空転させる状態とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記各発明の手段をとることにより、車輪用転がり軸受装置は、等速ジョイントとハブ軸の間のトルク伝達可能な連結構成が解除された後においても、ボルト締結力を保持する作用を得ることにより、ハブ軸と等速ジョイントを連結する際のボルト締結の締結緩みの進行速度を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品の組付け状態を軸方向の側方から示した断面図である。
【図2】実施例1に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品をハブ軸の軸中心上に並べた分解断面図である。
【図3】実施例1に係る車輪用転がり軸受装置の構成品であるバネ部材の斜視図である。(a)図は、バネ部材としてコイルスプリングを示した斜視図である。(b)図は、バネ部材として筒状バネ部材を示した斜視図である。
【図4】実施例1に係る車輪用転がり軸受装置の等速ジョイントとハブホイールとの連結部位間の係合が両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなった状態を示した断面図である。
【図5】実施例2に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品の組付け状態を軸方向の側方から示した断面図である。
【図6】実施例3に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品の組付け状態を軸方向の側方から示した断面図である。
【図7】実施例4に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品の組付け状態を軸方向の側方から示した断面図である。
【図8】実施例5に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品の組付け状態を軸方向の側方から示した断面図である。
【図9】実施例6に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品の組付け状態を軸方向の側方から示した断面図である。
【図10】特許文献1に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品の組付け状態を軸方向の側方から示した断面図である。
【図11】特許文献2に係る車輪用転がり軸受装置の各構成品の組付け状態を軸方向の側方から示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0014】
先ず、この発明の実施例1に係る車輪用転がり軸受装置を図1から図4にしたがって説明する。
図1及び図2に図示されるように、この実施例1の車輪用転がり軸受装置10は、概略、ハブホイール20と、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受30と、等速ジョイント60と、座付きボルト80と、コイルスプリング90とを備えて構成されている。
【0015】
ハブホイール20について説明する。
図1及び図2に図示されるように、ハブホイール20は、円筒状をなすハブ軸23と、ハブ軸23の一端部寄り外周面に形成されたフランジ21とを一体に有している。そして、フランジ21には、ブレーキロータ(図示しない)を間に挟んで車輪(図示しない)を取り付けるための複数本のハブボルト22が所定ピッチでかつ圧入によって固定されている。
ハブ軸23の外周には、外輪40、内輪31、転動体としての複数の玉51、52及び保持器55、56を備えた複列のアンギュラ玉軸受30が組み付けられている。
【0016】
この実施例1において、ハブ軸23はフランジ21側に形成された大径軸部25と、大径軸部25よりも適宜に小径でかつ大径軸部25と段差部をもって連続して形成された小径軸部26とを一体に有している。そして、大径軸部25の外周面には外輪40の一方の外側軌道面41に対応する内側軌道面32が形成されている。
さらに、外輪40の他方の外側軌道面42に対応する内側軌道面33が外周面に形成された内輪31がハブ軸23の小径軸部26の外周面に嵌込まれた後、小径軸部26の先端部をかしめて拡開した拡開かしめ部27が形成されることによって、内輪31が段差部と拡開かしめ部27との間に固定されている。
また、ハブホイール20のフランジ21が形成される側の端部は、車輪が嵌合される嵌合部35が形成されている。また、ハブ軸23の軸中心には軸方向に貫通する貫通孔34が形成されている。また、ハブ軸23の端部のうち嵌合部35が構成される側の貫通孔34の図1で見て左端面には座付きボルト80の頭部81と対向するボルト座面36が構成されている。
【0017】
また、外輪40の両外側軌道面41、42と、ハブ軸23側の両内側軌道面32、33との間には各複数個の玉51、52と、これら各複数個の玉51、52をそれぞれ保持する保持器55、56が組み付けられる。また、外輪40の外周面には、車両の懸架装置(図示しない)に支持された車体側部材(ナックル、又はキャリア)にボルトによって取り付けるための固定フランジ45が一体に形成されている。
なお、本実施例における等速ジョイント60と対向する小径軸部26側が本発明における「ハブ軸の貫通孔の一端側」に相当し、ハブ軸23の貫通孔34のうちボルト座面36が構成されている側が本発明における「ハブ軸の貫通孔の他端側」に相当する。
【0018】
等速ジョイント60について説明する。
図1及び図2に図示されるように、等速ジョイント60は、周知のツェッパー型、バーフィールド型と呼ばれている等速ジョイントが使用されており、駆動軸61の一端に一体状に連結された継手内輪62と、継手外輪70と、これら継手内輪62、継手外輪70の間に配設された複数のボール63と、これら複数のボール63を保持する保持器64を備えて構成されている。等速ジョイント60の継手外輪70は、椀形状の外輪筒部71と、外輪筒部71外周の端面72の中心部から一体に突出された連結軸部位73とを備え、連結軸部位73の先端には孔部が形成されており、内周面に雌ねじ部75が形成されている。
【0019】
次にハブホイール20のハブ軸23と等速ジョイント60との間のトルク伝達可能とする連結構成について説明する。
図1及び図2に図示されるように、連結軸部位73は、ハブ軸23の貫通孔34のうち小径軸部26側から挿入される。一方、ハブ軸23の貫通孔34のうちボルト座面36が構成されている側から後述する座付きボルト80を挿入して、連結軸部位73の雌ねじ部75と締結することによりハブ軸23と連結軸部位73とを結合する。
ハブ軸23の端面(拡開かしめ部27の端面)と、この端面に突き合わされる等速ジョイント60の継手外輪(外輪筒部71)70の端面72との相互には、環状部分が設けられている。そして、環状部分が相互に噛み合うことでハブホイール20と等速ジョイント60とをトルク伝達可能に連結するサイドフェーススプライン28、78がそれぞれ形成されている。これにより、ハブホイール20と等速ジョイント60とがトルク伝達可能に結合される。
また逆に、等速ジョイント60の継手外輪70の端面72とハブホイール20のハブ軸23の端面(拡開かしめ部27の端面)との連結部位間におけるサイドフェーススプライン28、78の相互に噛み合わされる係合状態が、両者の軸方向の相対的離反移動により係合されない状態となると、等速ジョイント60とハブホイール20とはトルク伝達がされなくなる。
【0020】
座付きボルト80について説明する。
この座付きボルト80は、先端部に上記した等速ジョイント60の継手外輪70に構成される連結軸部位73に形成された雌ねじ部75と螺合可能な雄ねじ部83が形成されている。また、連結軸部位73に形成された雌ねじ部75と座付きボルト80に形成された雄ねじ部83の螺合する長さは、サイドフェーススプライン28、78の相互に噛み合わされる係合長さより長く設定されている。なお、座付きボルト80が本発明の「ボルト」に相当する。
【0021】
コイルスプリング90について説明する。
図1及び図2に図示されるように、このコイルスプリング90は、ハブ軸23と等速ジョイント60を連結する際のボルト締結の締結緩みの進行速度を緩和する役目を果たすものである。なお、本発明の「バネ部材」の実施態様の一例として、実施例1においてコイルスプリング90が適用されている。
図3(a)に図示されるように、コイルスプリング90は、金属製の棒状部材が螺旋状に巻かれて円柱状に形成されており、軸方向にかかった圧縮力に応じて変形し、自然長に戻ろうとする力が弾性力として蓄えられる構成となっている。図2に図示されるように、このコイルスプリング90の円柱形状は座付きボルト80の軸径より大きく、かつハブ軸23の貫通孔34の孔径より小さく形成されている。このコイルスプリング90はハブ軸23の貫通孔34内に挿入される座付きボルト80の軸部と頭部81との間に形成された座面部84と、連結軸部位73との間に圧縮して介挿されている。またコイルスプリング90の圧縮される長さは、サイドフェーススプライン28、78の相互に噛み合わされる係合長さより長く設定されている。
図4に図示されるように、コイルスプリング90が圧縮されて機能するバネ機能は、等速ジョイント60の継手外輪70の端面72とハブホイール20のハブ軸23の端面(拡開かしめ部27の端面)との連結部位間におけるサイドフェーススプライン28、78の相互に噛み合わされる係合状態が、両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなるまでは機能する構成として介挿されている。そのため、サイドフェーススプライン28、78の相互に噛み合わされる係合状態が解除された以降においても、コイルスプリング90の弾性力が座付きボルト80の頭部81と連結軸部位73とを軸方向において引き離す方向に付勢するため、座付きボルト80のボルト締結力を保持する作用を発生させる。
【0022】
この実施例1に係る車輪用転がり軸受装置10は上述したように構成される。
したがって、車両の走行時等において、駆動軸61のトルクが等速ジョイント60の継手内輪52、複数のボール63及び継手外輪70に順次伝達され、駆動軸61と同方向に継手外輪70が回転される。等速ジョイント60に伝達されたトルクは、ハブホイール20のハブ軸23の端面(拡開かしめ部27の端面)と、等速ジョイント60の継手外輪70の端面72との相互の環状部分のサイドフェーススプライン28、78の噛み合いによってハブホイール20に伝達され、車輪が回転駆動される。
【0023】
このように、本実施例1の車輪用転がり軸受装置10によれば、ハブホイール20のハブ軸23と等速ジョイント60との間のトルク伝達可能とする連結手段は、等速ジョイント60の継手外輪70とハブホイール20のハブ軸23との連結部位間に両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなる係合手段(サイドフェーススプライン28、78)により連結される構成とされている。そして、座付きボルト80の頭部と連結軸部位との間には、座付きボルト80の締結緩みを防止するコイルスプリング90が圧縮して介挿されている。この圧縮して介挿されるコイルスプリング90は、その圧縮されて機能するバネ機能が等速ジョイント60の継手外輪70とハブホイール20のハブ軸23との連結部位間に配設される係合手段による両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなるまでは機能する構成として介挿されている。
図4に図示されるように、コイルスプリング90は、圧縮介挿されることにより備えるバネ機能が、等速ジョイント60の継手外輪70とハブホイール20のハブ軸23との連結部位間に配設される係合手段による両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなる状態(等速ジョイント60とハブ軸23の間のトルク伝達可能な連結構成が解除状態)となった後においてもバネ機能を発揮する構成であるため座付きボルト80の締結力を保持する作用を得ることができる。そのため、座付きボルト80の締結緩みの進行速度を緩和することができ、等速ジョイント60が抜け落ちてしまう前にハブ軸23へトルク伝達しないで空転させる状態とすることができる。
【実施例2】
【0024】
次に、この発明の実施例2に係る車輪用転がり軸受装置12を図5にしたがって説明する。なお、上記実施例1と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略することがある。この実施例2では、上記実施例1とはバネ部材の構成が異なっている。すなわち、実施例1に示すようなコイルスプリング90の構成以外のものにも適用できるものである。
【0025】
この実施例2は、図5に図示されるように、ハブ軸23の貫通孔34内に挿入される座付きボルト80の頭部81と連結軸部位73との間に圧縮して介挿されるバネ部材の構成は、筒状バネ部材92の構成のものである。図3(b)に図示されるように、この筒状バネ部材92は、金属製の板状部材によって円筒状に形成されている。
この筒状バネ部材92の円筒状の外周面は軸方向に直行して波形状の弾性変形部位93が形成されており、軸方向上に力が加わるとこの弾性変形部位93が圧縮変形する構成となっている。なお、その他の構成は実施例1と同様である。以上より、本実施例2の車輪用転がり軸受装置12は、実施例1と同一の機能を果たし、同一の作用、効果を得ることができる。
【実施例3】
【0026】
次に、この発明の実施例3に係る車輪用転がり軸受装置210を図6にしたがって説明する。なお、上記実施例1及び実施例2と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略することがある。この実施例3では、上記実施例1とはハブホイール20と等速ジョイント60の連結構成が異なっている。すなわち、実施例1ではハブホイール20と等速ジョイント60に形成されたサイドフェーススプライン28、78が相互に噛み合うことで、ハブホイール20と等速ジョイント60とをトルク伝達可能に連結する構成であった。実施例3はこの点の構成を変更したものである。
【0027】
この実施例3は、図6に図示されるように、ハブホイール220と等速ジョイント260のトルク伝達可能な連結が、連結リング277によって構成されている。詳しくは、ハブ軸223の端部に延長軸部227が形成されており、外周面には外歯スプライン227aが形成されている。この延長軸部227の外周面にはハブホイール220と、等速ジョイント260とをトルク伝達可能に連結するための連結リング277が取り付けられている。この連結リング277は、金属製の筒状部材で形成されており内周面にはハブ軸223の延長軸部227の外周面に形成された外歯スプライン227aに対応する内歯スプライン277aが形成されている。そして、延長軸部227の先端から連結リング277が嵌挿され、延長軸部227の外歯スプライン227aと連結リング277の内歯スプライン277aとが噛み合わされる構成とされている。
【0028】
等速ジョイント260の継手外輪270の端部には、連結リング277にトルク伝達可能に嵌合される筒状体279が一体に突出形成されており、内周面に内歯スプライン279bが形成されている。連結リング277の外周面には等速ジョイント260の継手外輪270の筒状体279とトルク伝達可能に噛み合う外歯スプライン277bが形成されている。このように、ハブ軸223の延長軸部227と、等速ジョイント260の継手外輪270の筒状体279との間に連結リング277が嵌挿された状態で、ハブホイール220と等速ジョイント260は座付きボルト80によって締結される。これにより、ハブホイール220と等速ジョイント260はトルク伝達可能な連結構成とされている。
【0029】
換言すれば、等速ジョイント260の継手外輪270とハブホイール220のハブ軸223との連結部位間に両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなる係合手段により連結される構成である。すなわち、連結リング277の内周面の内歯スプライン277aと噛み合う延長軸部227の外歯スプライン227aとの係合、又は、連結リング277の外周面の外歯スプライン277bと噛み合う等速ジョイント260の継手外輪270の端部に構成される筒状体279の内歯スプライン279bとの係合、これら何れかの係合が解除される状態である。
【0030】
そして、座付きボルト80の頭部と連結軸部位との間には、座付きボルト80の締結緩みを防止するコイルスプリング90が圧縮して介挿されている。この圧縮して介挿されるコイルスプリング90は、その圧縮されて機能するバネ機能が等速ジョイント260の継手外輪270とハブホイール220のハブ軸223との連結部位間に配設される係合手段による両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなるまでは機能する構成として介挿されている。
また、コイルスプリング90の圧縮される長さは、連結リング277の内外周面に形成される内歯スプライン277a、外歯スプライン277bが相互に噛み合わされる係合長さより長く設定されている。このコイルスプリング90のバネ機能が発揮する構成によって、上記トルク伝達がされなくなる状態となった後においても、座付きボルト80の締結力を保持する作用を得ることができるため、座付きボルト80の締結緩みの進行速度を緩和することができ、等速ジョイント260が抜け落ちてしまう前にハブ軸223へトルク伝達しないで空転させる状態とすることができる。
その他の構成については実施例1と同様である。以上より、本実施例3の車輪用転がり軸受装置210は、実施例1と同一の機能を果たし、同一の作用、効果を得ることができる。
【実施例4】
【0031】
次に、この発明の実施例4に係る車輪用転がり軸受装置212を図7にしたがって説明する。なお、上記実施例1から実施例3の各実施例に示される構成と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略することがある。この実施例4は、上記実施例3で説明した車輪用転がり軸受装置210の構成のうち、バネ部材の構成を筒状バネ部材92に変更したものである。筒状バネ部材92の構成については、上記実施例2の説明を援用し再度の説明は省略する。また、その他の構成は実施例3と同様である。以上より、本実施例4の車輪用転がり軸受装置212は、実施例3と同一の機能を果たし、同一の作用、効果を得ることができる。
【実施例5】
【0032】
次に、この発明の実施例5に係る車輪用転がり軸受装置310を図8にしたがって説明する。なお、上記実施例1から実施例4の各実施例に示される構成と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略することがある。この実施例5は、上記実施例3で説明した車輪用転がり軸受装置210の構成のうち、ハブ軸23の小径軸部26の先端部の構成を変更したものである。
すなわち、この実施例5は、ハブ軸223の外周に外輪40、内輪31、転動体としての複数の玉51、52及び保持器55、56及び連結リング277を組み付けた後、ハブ軸223の小径軸部26の先端部をかしめて拡開した拡開かしめ部327が形成されてユニット化した構成としたものである。その他の構成は実施例3と同様である。以上より、本実施例5の車輪用転がり軸受装置212は、実施例3と同一の機能を果たし、同一の作用、効果を得ることができる。
【実施例6】
【0033】
次に、この発明の実施例6に係る車輪用転がり軸受装置312を図9にしたがって説明する。なお、上記実施例1から実施例5の各実施例に示される構成と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略することがある。この実施例6は、上記実施例5で説明した車輪用転がり軸受装置310の構成のうち、バネ部材の構成を筒状バネ部材92に変更したものである。筒状バネ部材92の構成については、上記実施例2の説明を援用し再度の説明は省略する。また、その他の構成は実施例5と同様である。以上より、本実施例6の車輪用転がり軸受装置312は、実施例5と同一の機能を果たし、同一の作用、効果を得ることができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態を実施例1から実施例6について説明したが、本発明の車輪用転がり軸受装置は、本実施の形態に限定されず、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。
例えば、前記実施例1から6においては、複列の転がり軸受として、複列のアンギュラ玉軸受30が採用された場合を例示したが、複列の円すいころ軸受けを用いてもこの発明を実施可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 車輪用転がり軸受装置
12 車輪用転がり軸受装置
20 ハブホイール
21 フランジ
22 ハブボルト
23 ハブ軸
25 大径軸部
26 小径軸部
27 拡開かしめ部
28 サイドフェーススプライン
30 アンギュラ玉軸受
31 内輪
32 内側軌道面
33 内側軌道面
34 貫通孔
35 嵌合部
36 ボルト座面
40 外輪
41 外側軌道面
42 外側軌道面
45 固定フランジ
51 玉
52 玉
55 保持器
56 保持器
60 等速ジョイント
61 駆動軸
62 継手内輪
63 ボール
64 保持器
70 継手外輪
71 外輪筒部
72 端面
73 連結軸部位
75 雌ねじ部
78 サイドフェーススプライン
80 座付きボルト
81 頭部
82 軸部
83 雄ねじ部
84 座面部
85 凹部
90 コイルスプリング
92 筒状バネ部材
93 弾性変形部位
210 車輪用転がり軸受装置
212 車輪用転がり軸受装置
220 ハブホイール
223 ハブ軸
227 延長軸部
227a 外歯スプライン
260 等速ジョイント
270 継手外輪
277 連結リング
277a 内歯スプライン
277b 外歯スプライン
279 筒状体
279b 内歯スプライン
310 車輪用転がり軸受装置
312 車輪用転がり軸受装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブホイールのハブ軸と等速ジョイントがトルク伝達可能に連結された車輪用転がり軸受装置であって、
前記ハブ軸の外周面の一部には複列の転がり軸受の内側軌道面の一方が構成されており、該ハブ軸の外周面には前記複列の転がり軸受の内側軌道面の他方が構成される環状の内輪が配設されており、前記内側軌道面の外周側には、前記内側軌道面に対応して、その内周面に前記複列の転がり軸受の外側軌道面が構成される外輪が配設されており、前記ハブ軸及び内輪に形成される内側軌道面と外輪に形成される外側軌道面との間には転動体が組みつけられて転がり軸受を構成しており、
前記ハブホイールのハブ軸と等速ジョイントとの間のトルク伝達可能とする連結手段は、等速ジョイントの継手外輪とハブホイールのハブ軸との連結部位間に両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなる係合手段により連結される構成とされており、
前記ハブホイールのハブ軸は、軸方向に貫通孔が形成されており、
前記等速ジョイントの継手外輪の端面には、前記ハブ軸の貫通孔に向かって突出形成されると共にネジ孔が形成される連結軸部位が構成されており、
前記連結軸部位は、前記ハブ軸の貫通孔の一端側から挿入され、前記ハブ軸の貫通孔の他端側からボルトを締結することにより前記ハブ軸と連結軸部位とを結合し、
前記ボルトの頭部と前記連結軸部位との間には、前記ボルトの締結緩みを防止するバネ部材が圧縮して介挿されており、該圧縮して介挿されるバネ部材はその圧縮されて機能するバネ機能が前記等速ジョイントの継手外輪とハブホイールのハブ軸との連結部位間に配設される係合手段による前記両者の軸方向の相対的離反移動によりトルク伝達がされなくなるまでは機能する構成として介挿されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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