説明

軌条式人員運搬車における座席の姿勢制御装置

【課題】 軌条式人員運搬車において、軌条の勾配に基づく座席の傾斜姿勢を水平に矯正するのを簡単な構造で達成する。
【解決手段】 前後方向に向けて設置された座席を有して地上に架設された軌条を走行する軌条式人員運搬車において、座席を車台に立設した座席フレームに水平軸で前後回動可能に支持するとともに、座席からアームを垂下し、車台にアームを前後回動させる駆動体を設け、車台に取り付けた車台の前後傾斜を検出する傾斜センサの出力で駆動体を駆動して座席を水平にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上に架設された軌条を走行する軌条式人員搭載車における座席の姿勢制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベースキャンプから離れた原野や山林に設置されるパイプラインや橋梁といった大型工事では、各種の資材や人員を運搬するのに軌条式運搬車を用いている。軌条式運搬車には、軌条を支柱で地上に架設する地上架設式のものが多く、これによると、地面を厳重に整地する必要がないし、周囲の樹木等の伐採も狭い幅でよいから、敷設コストが安くつくのが利点である。一般に、軌条式運搬車の軌条は単軌条が多いが、大重量や長尺の荷物を運搬する場合にはメインレールとサブレールとからなる複軌条を用いている。
【0003】
このうち、人員を運搬する運搬車では座席を必要とするが、一度に多くの人員を運搬するために複数の座席を設けているものがあり、このようなものでは、一般的に、座席を前後(進行)方向に向けて縦列で設置している。一方で、この種の軌条は敷設地形に応じて起伏が多く、しかも、その勾配が大きいのが特徴である。したがって、座席の姿勢が固定されたままでは、起伏に際して身体も傾くから、搭乗者が不安を覚えるし、場合によっては危険でもある。このため、座席の姿勢を軌条の傾きにかかわらず、水平に保つようにしているものがある。
【0004】
下記特許文献1にその例が示されているが、この先行例のものは座席の姿勢変更を手動で操作するようになっていることから、操作が煩雑で搭乗者に負担を強いる。このため、下記特許文献2では、運搬車に軌条(車体)の傾きを検出する傾斜センサを取り付け、この傾斜センサの出力で座席を自動的に水平にするものが提案されている。しかし、この先行例のものは、座席が搭乗者が不安を覚える横向きに設置したものであり、しかも、水平に矯正するための構造が複雑になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−142298号公報
【特許文献2】特開2001−278036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、車体の傾斜に応じて座席の姿勢を自動的に水平にするとともに、この構成を簡単で確実なものにして低コストで具現できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、前後方向に向けて設置された座席を有して地上に架設された軌条を走行する軌条式人員運搬車において、座席を車台に立設した座席フレームに水平軸で前後回動可能に支持するとともに、座席からアームを垂下し、車台にアームを前後回動させる駆動体を設け、車台に取り付けた車台の前後傾斜を検出する傾斜センサの出力で駆動体を駆動して座席を水平にすることを特徴とする軌条式人員運搬車における座席の姿勢制御装置を提供したものである。
【0008】
そして、これにおいて、請求項2に記載した、座席が縦列に複数設けられたものであり、アームが各座席に設けられて各アームが駆動体で前後回動させられる構成、駆動体とアームとの具体的構成として、請求項3に記載した、アームの下端にウォームホイルを形成し、駆動体をウォームホイルに噛み合うウォームとした構成、請求項4に記載した、軌条が単軌条又は複軌条である構成を提供する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、座席を前後傾斜できるようにして座席にアームを取り付けるとともに、軌条の傾斜を検出する傾斜センサを取り付けるだけで、一つの駆動体(及び駆動原)により、座席の姿勢を自動的に水平にできる。請求項2の構成によると、座席が複数であっても、同じ構成で足りるし、請求項3の手段によると、座席を回動するための構造が簡単にできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】運搬車の側面図である。
【図2】運搬車の座席部分の一部側面図である。
【図3】運搬車の座席部分の一部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は軌条運搬車の側面図であるが、この運搬車は地上に支柱1によって架設された軌条2を案内として走行するものであり、牽引車3と人員を載せる台車4とからなる。なお、本例では、牽引車3を二両とし、荷物を積む別の台車4もそれぞれ連結器21で牽引しているが、一台だけの牽引車3の場合もあるし、人員搭載用の台車4だけのこともある。この場合の軌条2は、山林、原野、砂漠といった無人地帯を長い範囲に亘って架設され、途中に急な勾配(前後傾斜)やカーブがあるのが特徴である。
【0012】
牽引車3は軌条2を上下から保持する四つの車輪を有する車輪ユニット5で支持されて軌条2上を転倒することなく走行する。車輪ユニット5と軌条2との関係は公知であるから、ここでは詳細は省略するが、要するに、軌条2にはラックが貼設されているものである。牽引車3には内燃機関型のエンジン6とミッション7が装備されており、ミッション7の出力軸は車輪ユニット5の一つの車輪を構成する駆動輪に連結されている。駆動輪にはピニオンが設けられており、ピニオンをラックに噛み合わせて走行するものである。
【0013】
したがって、急坂でも走行できるのがこの運搬車の特徴である。なお、軌条2の勾配が急になると、エンジン6の姿勢が傾き、その作動に障害が出ることもあるので、エンジン6の姿勢を水平に保つ本出願人所有に係る特許第3932013号の水平保持装置を組み込むこともある。本例では、後方の牽引車3の後方には操縦者が座る座席を有する操縦車両8が連結されており、操縦車両8には発電機9が搭載されている。なお、発電機9を搭載する理由については後述する。この他、操縦車両8を省略することもあり、この場合は、牽引車3又は台車4に発電機9を搭載する。
【0014】
台車4は四つの車輪で軌条2を上下から保持する車輪ユニット10で支持される車台11を有している。なお、操縦車両9も車輪ユニット11で軌条2に支持されている。この他、二つの牽引車3、操縦車両8及び台車4は前後回動と左右回動が可能な牽引装置12で連結されている。
【0015】
台車4の一つ(或いはそれ以上)には人員を乗せる座席12が設けられている。車台11の上には座席フレーム13が立てられており、座席12は座席フレーム13に水平に設けられた水平軸14を中心に前後に回動できるようになっている。本例の場合、座席12は前後(進行方向)に向けられて縦列で複数配されており、多くの人員が搭載できるようになっている。この他、図示は省略するが、座席12は横列(左右方向のことであり、車台4の幅方向)に複数設けられてもよく、その場合は、それぞれが一体であるのが好ましい。また、座席12は一人だけが座る一つだけのこともある。
【0016】
そして、座席12の下面からはアーム15が垂下しており、本例では、このアーム15の下端にウォームホイル16が形成されている。一方、アーム15の下方の車台11上には、ウォームホイル16に噛み合うウォーム17が形成された駆動体18が前後に延設されている。この駆動体18は、車台11上に取り付けられた減速機付きモータ19で駆動され、その電源は上記した発電機9からとる。なお、ウォーム17は関係するウォームホイル16の部分だけ形成すればよく、また、ウォーム17には下方への反力と前後への推力が生ずるので、適宜軸受20で受けておく。
【0017】
以上により、駆動体18を減速機付きモータ19で回転させると、ウォーム17はウォームホイル16を回転させてアーム15、すなわち、座席12を前後に傾動することになる。本例のように、座席12の前後傾動をウォームホイル16とウォーム17によれば、座席12からの反力を遮断できて好ましい。なお、図示は省略するが、アーム15と駆動体18をネジ・ナット機構で構成し、駆動体18を前後に押引するものであってもよい。さらに、アーム15を索で連結し、この索を前後に設けたウインチのようなもので前後に押引してもよい。
【0018】
このような座席12の姿勢制御は傾斜センサ(図示省略)による傾斜角の検出で自動的に行われる。傾斜センサについては、振り子式、液面式といった種々のものが市販されており、いずれも傾斜の方向及び傾斜角に応じた電気的信号を発するのが特徴である。そこで、この傾斜センサを車台11に取り付けておき、その出力によって減速機付きモータ19を起動させる。すなわち、上り傾斜のときには、座席12を前方に傾け、下り傾斜のときには後方に傾けることで、座席12を水平に矯正できる。
【符号の説明】
【0019】
1 支柱
2 軌条
3 牽引車
4 台車
5 車輪ユニット
6 エンジン
7 ミッション
8 操縦車両
9 発電機
10 車輪ユニット
11 車台
12 座席
13 座席フレーム
14 水平軸
15 アーム
16 ウォームホイル
17 ウォーム
18 駆動体
19 減速機付きモータ
20 軸受
21 連結器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に向けて設置された座席を有して地上に架設された軌条を走行する軌条式人員運搬車において、座席を車台に立設した座席フレームに水平軸で前後回動可能に支持するとともに、座席からアームを垂下し、車台にアームを前後回動させる駆動体を設け、車台に取り付けた車台の前後傾斜を検出する傾斜センサの出力で駆動体を駆動して座席を水平にすることを特徴とする軌条式人員運搬車における座席の姿勢制御装置。
【請求項2】
座席が縦列に複数設けられたものであり、アームが各座席に設けられて各アームが駆動体で前後回動させられる請求項1の軌条式人員運搬車における座席の姿勢制御装置。
【請求項3】
アームの下端にウォームホイルを形成し、駆動体をウォームホイルに噛み合うウォームとした請求項1又は2の軌条式人員運搬車における座席の姿勢制御装置。
【請求項4】
軌条が単軌条又は複軌条である請求項1〜3いずれかの軌条式人員運搬車における座席の姿勢制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−20529(P2011−20529A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166242(P2009−166242)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000134981)株式会社ニッカリ (43)